第十二話 主人公、「木の迷宮」を攻略する、そして、聖杖を破壊する

 「大魔導士」姫城たち一行を倒し、ユグドラシルの治療を行った僕たち「アウトサイダーズは、ダンジョン攻略のため、ユグドラシルの中にある「木の迷宮」へと入ろうとしていた。

 ユグドラシルの根元には大きな穴が開いていて、「木の迷宮」の入り口となっている。

 入り口の奥には階段が見え、上へと上がる構造になっているようだ。

 僕、鵺、酒吞の三人は、「木の迷宮」の入り口へと着くと、ダンジョン攻略について話し始めた。

 「みんな、これより「木の迷宮」のダンジョン攻略を始める。「木の迷宮」はユグドラシルの中にあるため、迂闊にダンジョンを破壊して進むことは厳禁だ。ユグドラシルは今、治療中でまだ大分弱っている。ユグドラシルがこれ以上傷つけば、ユグドラシルは本当に枯れてしまい、地上の生物は酸欠で滅びることになる。だから、ユグドラシルの一部である「木の迷宮」を傷つけることは絶対にしないように気を付けてくれ。ユグドラシルを傷つけずにダンジョンを攻略するため、認識阻害の幻術を使って、ダンジョンの中を進むことにする。こうすれば、モンスターとの戦闘を避け、ダンジョンを傷つけることなく進むことができる。隊列は先頭が僕、間が鵺、最後尾が酒吞の順だ。聖杖のある最深部まで着いたら、聖杖を守るドラゴンとの交渉は僕が行う。交渉が上手くいけば、その場ですぐに聖杖を破壊する。もし、ドラゴンとの戦闘になった場合、僕一人で対応できない時は援護を二人に頼む。二人から他に何か意見はある?」

 「特にはない。大丈夫。」

 「俺も特にはねえ。」

 「よし、それじゃあ、攻略開始だ!認識阻害幻術!」

 僕は鉄扇を顔の前でサッと開くと、鉄扇を頭上に掲げた。

 鉄扇が金色に光り輝くと、鉄扇の先から薄い透明な膜が発生し、僕たちの全身を包み込んだ。

 それから、僕たちは「木の迷宮」の入り口へと進み、階段を上って、ダンジョンの中を進むのだった。

 「木の迷宮」の構造は、階段を上がることに各階層に森林が広がり、その中にモンスターたちがいたり、罠が仕掛けてあったりする様子だった。

 ただ今現在、「木の迷宮」があるユグドラシル自体が回復途中のせいなのか、普段は大量にいるはずのモンスターたちはほんの数匹ほどしかいなかった。

 侵入者対策の罠もほとんど機能していない様子だった。

 認識阻害の幻術も使っているため、モンスターとの戦闘は全くなかった。

 ちなみに、各階層にいたモンスターたちの構成だが、第一階層がポイズン・バタフライ、第二階層がドリアード、第三階層がマンイーター、第四階層がアルラウネ、第五階層がトレント、第六階層がヤクルス、第七階層がズラトロクであった。

 いずれも植物や森に関連するモンスターばかりであった。

 第一階層から第七階層まで進んだ僕たちは、階段を上り、ついに最後の階層である第八階層まで辿り着いた。

 全長700mもある木を登るのはというのは結構な重労働であった。

 僕の足はパンパンであった。

 第八階層に到着すると、そこはユグドラシルの木の頂上であった。

 巨大な木の枝と葉っぱに囲まれた直径300mほどの円形の広い空間が広がっている。

 天井はなく、夜空が広がっている。

 空間の中央には、緑色の台座と、台座の上に置かれている、先に緑色の魔石をはめ込んだ緑色の杖が見える。

 あの緑色の杖こそ、正しく聖杖である。

 そして、聖杖を守るように、聖杖のすぐ後ろには、巨大な緑色のドラゴンが目を瞑って座っていた。

 全長50mほどで、緑色の鱗に全身を覆われ、二枚の大きな翼に、太く大きな四本の足、長い尾に、ドラゴンの頭部を持ち、頭からはトナカイのようなニ本の大きな角を生やしている。口の周りには、長く白い髭を生やしている。

 僕は緑色のドラゴンへと近づき、認識阻害の幻術を解いて、声をかけた。

 「こんばんは。夜分にすみません。僕の名前は宮古野 丈。冒険者です。ホーリードラゴンとファイアードラゴンのお二方より、あなたをこのダンジョンから解放するよう依頼を受けてやってまいりました。どうか、僕たちの話に耳を貸していただけませんか?」

 緑色のドラゴンが目を瞑るのを止め、目を開けて、緑色の瞳で僕たちを凝視すると、僕たちに向けてしゃべり始めた。

 『ほぅ、ホーリードラゴンとファイアードラゴンと言ったか?その二匹のことを知っているということは、只者ではないようだな。あの二匹は元気にやっておったか?』

 「はい、両者ともお元気です。今はダンジョンを出られて、自由に過ごしておられます。僕はダンジョンを攻略して、聖杖を破壊し、あなたをこのダンジョンから解放してほしいと頼まれました。もし、お疑いのようでしたら、こちらを見ていただけませんか?僕の言葉に嘘偽りがないという証です。」

 僕はアイテムポーチから、「光竜の石」と「火竜の石」を取り出すと、掲げて見せた。

 二つの石を見て、緑色のドラゴンは驚いた。

 『何と、「光竜の石」と「火竜の石」ではないか?なるほど、あの頑固者の若造とお調子者の小僧の二匹が石を渡したということは、お主たちは我ら竜王にとって信頼足りえる人物というわけだ。納得がいった。お主たちを信じるとしよう。我の名はウッドドラゴン。木竜とも呼ばれておる。竜王の中でも最年長で、最古の竜である。よろしく頼む。ところで一つ訊ねるが、何故、ユグドラシルが枯れかけているのだ?3,000年もの間、このユグドラシルの中にいるが、このようなことは初めてだ?一体、何が原因なのだ?知っていたら、我に教えてくれぬか?』

 「はい、ユグドラシルが枯れかけた原因ですが、原因は勇者たちがユグドラシルに毒を注入したことです。ダンジョンを攻略するため、ユグドラシルに毒を注いで、ユグドラシルごとダンジョンを崩壊させようとしたそうです。ですがご安心ください。僕たちの手でユグドラシルに注入された毒を打ち消す毒消しを改めて打ち込みました。ユグドラシルは現在、快方に向かっています。しばらく時間をいただければ完全に回復するはずです。それから、ユグドラシルを枯らそうとした勇者たちは僕たちの手で撃退しました。これで、ふたたび勇者たちにユグドラシルを襲われる心配はありません。どうか、ご安心ください。」

 『何と、勇者ともあろう者が「世界樹」たるユグドラシルを枯らそうとするとは、信じがたい話だ。しかも、ダンジョン攻略のためにユグドラシルを枯らそうなど、もはや常軌を逸している。リリアめ、魔族殲滅などという己の狂った計画のために、ついに悪人を勇者に選ぶ蛮行にまで及ぶようになったか。あの御方さえ健在ならば、すぐにでもリリアの暴挙を止めてくださるのだが。ともかく、ユグドラシルの治療を感謝する。ユグドラシルが枯れれば、この世界に生きる全ての生物が絶滅するところであった。本当に感謝する、若き冒険者よ。』

 「いえ、大したことはしていません。僕たちは当たり前のことをしただけですから。それで、話を戻しますが、あなたをこのダンジョンから解放するため、そこにある聖杖を破壊してもよろしいでしょうか?」

 『ああっ、もちろん構わん。徹底的に破壊してくれて構わん。ただし、一つだけお願いがあるのだが、良いか?』

 「お願いですか?何でしょうか?」

 『何、少しお主と腕試しをしたいのだ。なんせ3,000年もこの狭いダンジョンに縛り付けられ、体がなまってしまってしょうがない。我のような年寄りには随分と酷な話だ。偶に勇者が来ることもあったが、本当にここまで辿り着けた者はごくわずかであった。リハビリもかねて、少し力を使いたくなったのだ?迷惑をかけてすまんが、我の相手を頼めるだろうか?』

 「ええっ、もちろん構いませんよ。SSランクのモンスター、それも最古の竜であるあなたと戦えるなんて光栄です。是非、お相手させていただきます。」

 『ありがとう。では、一戦交えるとしよう。本気でかかってきてくれ。行くぞ!』

 ウッドドラゴンは立ち上がると、全身が緑色の光を放ち、光り始めた。

 『グリーンウッドダンス!』

 次の瞬間、ウッドドラゴンの足元から巨大な木の根が大量に生え、木の根がニュルニュルと触手のように動いて、僕目がけて伸びてきた。

 僕は足に霊能力を集中させ、瞬時に飛び上がった。

 木の根は僕を追いかけ、鋭く尖った木の根で僕を突き殺そうとしてくる。

 僕は鉄扇を顔の前に持ってきてサッと開くと、ウッドドラゴンが生やした大量の木の根に向かって、鉄扇の先を向けた。

 鉄扇が金色に光り輝くと同時に、長さ10㎝ほどの金色の針が千本、僕の周りの空中に浮かんで現れた。

 「毒針千本!」

 僕が生み出した千本の金色の針が、一斉に木の根へと飛んで行き、突き刺さった。

 ウッドドラゴンが生やした大量の木の根は、針が刺さると瞬時に腐り、ポロポロと崩れ落ちるのだった。

 僕の攻撃で木の根が全滅したのを見て、ウッドドラゴンは戦うのを止めた。

 『久しぶりとは言え、我の全力のグリーンウッドダンスをこうもたやすく打ち破るとは、見事だ。ただの冒険者とは信じがたい実力だ。だが、ありがとう。おかげで良いリハビリになった。我はもう満足した。約束だ。聖杖を破壊するがいい。』

 「ありがとうございます。では、遠慮なく破壊させていただきます。」

 僕は聖杖へと近づくと、右手に霊能力を込め、右手に霊能力を纏った。

 それから、右手に持つ鉄扇に霊能力を纏わせた。

 僕は聖杖目がけて鉄扇を振り下ろした。

 「霊扇打!」

 僕の振り下ろした鉄扇が聖杖に直撃すると、パリーンという音を立てて、聖杖は粉々に砕け散った。

 聖杖が破壊された瞬間、辺りが少し薄暗くなった。

 それから、周りに生えていた木の枝が一回り大きくなり、伸びたのだった。

 聖杖が破壊されたのを見て、ウッドドラゴンは喜んだ。

 『ありがとう。これで我はこのダンジョンから出て行くことができる。これはお主たちへの礼だ。受け取るがいい。』

 ウッドドラゴンはそう言うと、ウッドドラゴンの額から緑色に光り輝く石が現れ、フワフワと空中を浮かんで、僕の目の前にやってきた。

 『それは我からの感謝の証だ。その石は「木竜の石」と言って、念じればいつでも我を召喚することができる。もし、何か困ったことがあれば、その石を使っていつでも我を呼ぶがいい。いつでもお主たちに力を貸そう。さぁ、受け取るがいい。』

 「ありがとうございます。では、頂戴します。」

 僕は「木竜の石」を受け取ると、腰のアイテムポーチへとしまった。

 『冒険者たちよ。我からもお主たちに頼もう。我と同じ他の竜王たちをダンジョンから解放してほしい。お主たちならきっと全てのダンジョンを攻略できるだろう。最後に若き冒険者よ、今一度名前を聞いても良いか?』

 「宮古野 丈。ジョーと呼んでください。」

 『ジョーだな。しかとその名前、おぼえたぞ。勇者でもなき者がダンジョンを攻略し、我らを解放する日が来るとは思ってもいなかった。もしかしたら、あの御方がいまだ健在で、あの御方がお主たちをここまでお導きくださったのかもしれん。ジョー、そして、その仲間たちよ、本当に感謝する。では、我はこれにて失礼する。さらばだ。』

 ウッドドラゴンは最後にそう言い残すと、大きな翼を広げ、夜明け前の空へと飛んで行った。

 聖杖を無事、破壊した僕たちはダンジョンから出ることにした。

 ダンジョンの中を、階段を下りながら進んでいくと、聖杖が破壊されたことでダンジョンは機能を停止し、各階層にいたモンスターたちは姿を消していた。

 各階層に設置してあった罠も、生えていた森林も、すべて消えていた。

 聖杖が破壊された時、周りに生えていたユグドラシルの木の枝が成長していた。

 きっと、ダンジョンがユグドラシルに負荷をかけていた可能性がある。

 「世界樹」であるユグドラシルにダンジョンを作って負荷をかけるようなことをするなど、やはり光の女神リリアは碌でもない奴だ。

 女神を名乗ってはいるが、姫城たち同様、キチガイの悪党だ。

 必ずいつかこの手で復讐し、成敗してやる。

 ダンジョン攻略を終え、僕たちは「木の迷宮」の外へと出た。

 外はちょうど朝日が昇り始めた頃だった。

 僕は玉藻との合体を解くことにした。

 両手を合わせ、胸の前で合掌した。

 「玉藻、解放!」

 呪文を唱えると同時に、僕の体が青白く光り輝き、僕は元の姿へと戻った。

 僕の左隣には、玉藻が姿を現した。

 「お疲れ様。そして、ありがとう、玉藻。君のおかげで姫城たちを倒し、ユグドラシルを治療できた。聖杖も無事に破壊できた。力を貸してくれて、本当にありがとう。」

 「こちらこそ、初めての合体、大変お疲れ様でした。丈様との合体に成功でき、この玉藻、大変嬉しい思いです。丈様とわたくしは合体を通じてより強固な契約を結びました。私との合体に成功したことにより、丈様は私の持つ能力を使えるようになりました。丈様がさらなる強さを得るお力添えができたかと思います。私から得た能力の扱いに困るようでしたらいつでもご相談ください。能力の習得にご協力させていただきますので。」

 「ありがとう、玉藻。その時はよろしく頼むよ。」

 僕と玉藻は二人で笑い合った。

 「いいなぁ、玉藻は。丈と合体できてさ。次、合体するのは俺だからな。いいな?」

 「次に丈君と合体するのはこの私。酒吞は最後。私の能力の方を先に覚えた方がいいに決まっている。私の能力のバリエーションは豊富。酒吞の能力は力技ばかり。私が先で決まったも同然。」

 「何だとコラァー!俺の能力が力技ばかりだと言いやがったな!俺の力はなぁ、シンプルで最強なんだよ。シンプル・イズ・ザ・ベストなんだよ!お前みたいなみみっちい能力とは力のレベルが違うんだよ!」

 酒吞と鵺が、どっちが先に僕と合体するかで口喧嘩を始めた。

 「二人とも喧嘩はそこまで。二人がすごいのはよく分かっているから。どっちが先でも後でも、僕は二人と合体できるなら、それだけで嬉しいよ。酒吞も鵺も、僕の最高の仲間なんだからさ。そのうち、すぐに合体する時がくるから、楽しみに待っててくれよ。」

 「そ、そうか。丈がそこまで言うなら、待つとするか。よし、期待して待ってるぜ。」

 「丈君がそんなに言うなら私も待つ。お楽しみは一番最後にとっておいた方が一番美味しい。」

 酒吞と鵺は喧嘩を止め、僕との合体を楽しみに待つことを決めたのだった。

 「木の迷宮」を出て、エルザたちの下へ向かうと、エルザたちの他に、エルザの父であるマックス議長や、グレイの父ブラックマン議員、それから大勢の騎士たちがいた。

 エルザが僕に声をかけてきた。

 「おおっ、ジョー殿。無事だったか。その様子だと、上手くいったようだな。」

 「ただいま、エルザ。問題なく終わったよ。それより、マックス議長たちが着ているけど、今はどういう状況?」

 「ああっ、父上たちが、グレイが逃がした仲間たちから事情を聞き、ちょうど今、こちらに到着したところだ。我から父上たちに、勇者たちがユグドラシルに毒を流し込んだことや、勇者たちがヴァンパイアロードになってグレイたちや我々に襲いかかったこと、ジョー殿の活躍で勇者たちを倒したこと、ジョー殿がユグドラシルを治療してくれたことなど、おおむね事情は説明したところだ。」

 「ありがとう、エルザ。それと、グレイたちの看病、お疲れ様。」

 僕とエルザが話をしていると、マックス議長が僕に声をかけてきた。

 「ジョー殿、事情は全てエルザから聞いた。このたびはユグドラシルを救っていただき、誠に感謝する。もし、貴殿がこの国にいなければ、勇者たちによってユグドラシルは枯らされ、世界は滅亡するところだった。本当にありがとう。我が国を、そして、世界を代表して、貴殿に感謝申し述べる。正に貴殿こそ、世界を救う真の勇者だ。本当にありがとう、「黒の勇者」殿。」

 マックス議長が僕の両手をとりながら、御礼を言ってきた。

 「僕も僕の仲間たちも自分にできることを精一杯やっただけです。この世界に生きる者として当然のことをしたまでです。マックス議長、勇者たちがユグドラシルに注いだ毒は、僕の毒消しで何とか打ち消すことができそうです。ですが、ユグドラシルが深刻なダメージを受けたのも事実です。ユグドラシルは快方には向かっていますが、まだまだ油断はできません。念のため、植物の専門家を呼んで、ユグドラシルのケアをお願いします。」

 「分かった。この後、すぐに樹木の専門家を集めて、ユグドラシルのケアに当たらせよう。」

 「そうしてください。それから、残念なお知らせが一つありまして、「木の迷宮」へと入り、ダンジョン内部を確認したところ、第八階層の最深部で聖杖が粉々に砕けて破壊されているのを発見しました。おそらく、ユグドラシルの異変を受け、聖杖を守っていたモンスターが影響を受け、凶暴化し、ダンジョン内部で暴れ回った可能性があります。僕たちが駆け付けた頃には、聖杖はモンスターによって粉々に踏みつぶされてしまった後でした。大事な聖杖をお守りすることができず、大変申し訳ありませんでした。」

 僕はマックス議長に深々と頭を下げた。

 「頭を上げてくだされ、ジョー殿。ジョー殿には何一つ責任はありませんぞ。全ての責任はダンジョン攻略のためとはいえ、「世界樹」であるユグドラシルに毒を流し込むなどという凶行に及んだ勇者たちの責任である。もし勇者たちの手に聖杖が渡っていたら、きっとさらなる悪事に使われていたことだろう。それに、聖杖が失われたとあれば、二度と勇者たちにユグドラシルが襲われる心配もない。ある意味、聖杖が失くなって良かったのかもしれん。だが、元をただせば、勇者たちにずさんな教育を施し、勇者たちを平然とテロ行為を行う犯罪者へと導いたインゴット王国にも責任がある。今回の勇者たちの暴挙については準備が整い次第、包み隠さず、全世界に声明を出して明らかにするつもりだ。インゴット王国に対しても厳重に抗議させてもらうつもりだ。全く、勇者が犯罪者となって世界を破滅に導くなど、前代未聞の不祥事だ。絶対に許せん。」

 マックス議長は、勇者たちとインゴット王国への怒りを露わにした。

 僕とマックス議長が話をしていると、ブラックマン議員が声をかけてきた。

 「ジョー殿とお呼びしていいかな?私の名は、ブラックマン・ビズ・ウルフ。この国の最高議会の議員を務めている。現狼獣人派閥の筆頭でもあり、そして、グレイの父親だ。このたびはユグドラシルを救っていただいたこと、感謝する。それに、我が不肖の娘の命まで救っていただき、本当にありがとう。まさか私に勘当されたショックで、娘がユグドラシルを枯らそうなどという凶行に加担するまで追い詰められるとは考えもしなかった。ジョー殿がたまたまこの国にいたから大事に至らなかったものの、娘の、グレイの仕出かしたことは決して許されることではない。グレイたちには体調が戻り次第、改めて厳しい処分を下すつもりだ。娘の監督責任を怠った父親である私にも責任がある。私はいずれ今回の一件の責任をとって議員を辞職するつもりだ。そして、改めて娘と向き合おうと思う。ジョー殿、マックス議長、本当にご迷惑をおかけして申し訳なかった。」

 ブラックマン議員はそう言うと、深々と僕らに頭を下げるのだった。

 「頭を上げてください、ブラックマン議員。確かにグレイたちの仕出かしたことは決して許されることではありませんが、グレイたちは勇者たちに騙され利用されただけです。情状酌量の余地は多少あると思います。寛大な裁きを、とは言いませんが、ちゃんとした罰を与えて本人たちがしっかりと反省すれば、それでいいと思います。それに、あなたが議員を辞めたら、たくさんの人たちが困るはずです。議員としてのあなたは立派だと思いますが、今度は議員に割いていた時間の半分を、グレイの父親としての時間に使ってあげるのはどうでしょうか?グレイはきっとあなたと家族としてもっと話をしたい、一緒に過ごしたいと思っているはずです。議員半分、父親半分ってのがちょうど良いんじゃないでしょうか?」

 「議員半分、父親半分か。自信はないが、やってみよう。確かに、最近の私は仕事にかまけて、あの子とあまり話ができていなかった。これからはグレイの良き父親にもなれるよう頑張るとしよう。アドバイス、ありがとう、ジョー殿。」

 「ガハハハ!そうだぞ、ブラックマン議員。儂も最近まで娘のエルザと碌に会話もできなかったが、ジョー殿と娘との出会いがきっかけで、またお互いに少しづつ話をするようになったのだ。父親として未熟なのは儂も同じだ。共に娘を持つ父親同士、これからは子育てをもっと頑張ろうではないか。」

 「ありがとう、マックス議長。お互い、頑張ろうではないか。」

 僕、マックス議長、ブラックマン議員は笑い合った。

 怪我をしているグレイたちを馬車へと乗せ終えると、僕たちはマックス議長たちの用意した馬車に便乗させてもらい、首都へと戻った。

 首都へと戻ると、僕たちはエルザと別れ、それからギルドに戻り、ギルドの宿泊所の自分の部屋へと入り、そのまま着替えもせずにベッドに全員寝転んだ。

 ペドウッド共和国を震撼させ、世界を滅亡の危機に陥れようとした事件は、こうして幕を閉じた。

 「大魔導士」姫城たち一行を倒し、「木の迷宮」を攻略して、聖杖を破壊した。

 僕はまた一つ、異世界への復讐計画を完遂したのだった。

 ざまぁみやがれ、勇者たち。インゴット国王たち。光の女神リリア。

 僕は復讐が成功したことを喜び、静かに笑うのだった。

 だがしかし、僕の異世界への復讐はまだまだ終わらない。

 僕を虐げる異世界の悪人どもはまだ大勢いる。

勇者たち、インゴット王国の王族たち、光の女神リリア、僕と敵対する異世界の者たち。

 僕は必ずお前たち全員に復讐する。

 決して一人たりとも逃がしはしない

 必ず全員地獄に突き落としてやる。

 僕の異世界への復讐の旅は続いていくのであった。


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