第十一話 主人公、新たな力で無双する、そして、復讐する

 「ペトウッド共和国最高議会議長決定対抗戦」の翌日の深夜。

 僕たちはエルザに起こされ、「世界樹」ユグドラシルが枯れかけているという世界の危機を聞かされた。

 僕たちはエルザとともに、ユグドラシルの下へと向かった。

 そこで、「大魔導士」姫城たち一行がダンジョン攻略のために除草剤を使ってユグドラシルを枯らそうという凶行に及んでいる現場に直面した。

 さらに、姫城たちは人間であることを捨て、ヴァンパイアロードになって人間を襲っていた。

 この緊急事態を解決するため、僕は玉藻との合体を決意したのだった。

 僕は両手を合わせて、胸元で合掌した。

 僕は玉藻に教えられた通りに呪文を唱える。

 「契約に捧げし贄は我が命、我が命食らいし式を我が半身と為して、眼前の敵を討ち滅ぼす悪鬼羅刹を顕現せよ、玉藻降臨!」

 呪文を唱え終えると同時に、僕と玉藻の体が光り輝き、青白い大きな光に一緒に包まれた。

 突然目の前で起こった眩しい光を目に受けて、姫城たちは困惑した。

 「な、何だし!?一体何が起こったんだし!?」

 僕たち二人の体を包む光が、暗い森の中を明るく照らし続ける。

 やがて光がおさまると、玉藻との合体を終えた僕が姿を現した。

 黒色をベースとした金色のストライプの入った着物を纏い、両手には金色のストライプが加わった黒いグローブ、両足には金色のストライプが加わった黒いブーツを身に着けている。腰には金色の帯を巻いている。

 髪と瞳の色も金色に変わっている。

 右手には玉藻と同じ、黒い鉄扇を持っている。

 「霊装毒狐ノ型!」

 僕の変化した姿に、その場にいた全員が驚いた。

 僕の変化した姿を見て、酒吞と鵺は喜んだ。

 「ついに合体にまで成功しやがったか。玉藻の奴に先を越されたのは少し悔しいが、これで俺たちも丈と合体できるようになったわけだ。これからが楽しみだぜ。」

 「丈君がついに合体を習得した。合体ができるようになれば、私たちの能力も使えるようになる。丈君の成長が見れて、私も嬉しい。私も早く丈君と合体したい。」

 エルザもグレイを抱きかかえながら、僕の変化した姿を見て驚いていた。

 「ジョー殿の姿が変わった!?あのような力まで持っているのか!?一体、ジョー殿の力は何なのだ?我も訳が分からなくなってきたぞ!?」

 姫城たち一行も、僕の変化した姿を見て驚き、恐怖で震えていた。

 「な、何なん、それ!?パワーアップできるとか、そんなの卑怯じゃん!チートだし、そんなの!宮古野ばっかズリいじゃん!女神さまの奴、依怙贔屓してんじゃんよ!ウチらはモンスターにまでなって強くなったのに、宮古野にばっかチート能力あげるとか、ふざけんなだし!」

 姫城たち一行は、口々に女神への不満を言い始めた。

 僕はそんな彼女たちを見て呆れ、ため息をつきながら彼女たちに向けて言った。

 「はぁー。あのな、お前ら、僕は別に女神からチート能力なんてもらっちゃいないぞ。ジョブもスキルも何一つもらっちゃあいない。僕のこの力は生まれつきだ。日本にいた頃から持っていた力だ。そして、冒険者として経験を積んで成長させたものだ。女神からもらったチート能力?そんな都合の良いものなんてこれっぽちももらっちゃいないんだよ。お前たちが弱いのも、モンスターになるまで落ちぶれたのも全部お前たち自身の責任だ。勘違いするな、クズ女ども。」

 「はぁー!?生まれつき持ってた!?そんなはずねえし!ウチらを馬鹿だと思ってそんな見え透いた嘘なんかついても騙されねえから!そんなチート能力、どっからどう見ても女神からもらったチート能力に決まってんじゃん!馬鹿にするのもいい加減にしろだし!」

 「馬鹿にしているのは認めるが、女神からもらったチート能力なんかじゃないぞ、本当に。日本にいた頃、僕にちょっかいを出して全員不幸な目に遭ったことを忘れたか?僕の力で攻撃されたから不幸な目に遭ったんだよ、お前らは。まぁ、今更こんな話をしたって意味はないし、お前らに信じてもらう必要もない。どうせこれから全員、僕が殺すんだから、説明なんてこれ以上必要ないだろ?」

 僕はニヤリと笑いながら、姫城たち一行に向かって言った。

 僕からの殺害予告を聞いて、姫城たち一行は全員体を震わせて、恐怖している。

 僕は右手に持っていた黒い鉄扇を顔の前まで持っていてサッと開くと、姫城たちに鉄扇をまっすぐに向けた。

 「毒分身幻術!」

 僕が右手に持つ鉄扇が金色に光り輝くと、次の瞬間、僕と姫城たちの間に、100体の僕の分身が現れた。

 目の前に現れた僕の分身を見て、姫城たちは驚愕した。

 「なっ!?宮古野がたくさん出た!?何なんよ、コレは?」

 驚く姫城たちを嘲笑うかのように、本体の僕の動きに合わせて、分身たちは笑って声を発した。

 「姫城、これは分身だ。さてさて、馬鹿なお前らに本当の僕がどれか分かるかな?早く当てないと、その間に殺すぞ。」

 僕と分身たちは笑いながら、姫城たちを挑発した。

 恐怖と怒りで我慢が出来なかったのか、「槍術士」関之尾 桜、「槍術士」五十町 薫、「槌術士」中町 蘭、「槌術士」蓑原 明の四人が、僕の分身めがけて、武器を手に構えながら突撃した。

 「分身なら怖くはないし!食らえ、超貫通!」

 「キモメンの分身がうぜえんだよ!回転槍!」

 「さっさと消えろ!超速連打!」

 「ウチらを舐めんな!爆熱砕!」

 関之尾が繰り出す鋭い槍の刺突、五十町が繰り出す穂先がドリルのように高速回転する槍の刺突、中町が繰り出すメイスでの高速の連打、蓑原が繰り出すハンマー部分が熱したように赤く輝いているウォーハンマーでの豪快な殴打が、僕の分身をそれぞれ攻撃した。

 四人の攻撃を受け、分身は紫色の煙となって消えていく。

 四人は本物の僕を見つけるため、必死になって分身たちへ攻撃していく。

 そんな四人を嘲笑うように、僕は四人に話しかける。

 「アハハハ、残念。全員、不正解だ。必死になって攻撃しているところすまないが、いくら分身を攻撃しても無駄だ。お前らが攻撃するたびに減った分の分身を作っているから、お前らがどんなに攻撃しても僕の分身は減らない。それに、僕の分身によく考えもせず、迂闊に攻撃するなんて本当に馬鹿だな。僕の作った分身が、ただの目くらましなわけないだろ?」

 僕がそう言った瞬間、僕の分身が消滅して生まれた紫色の煙が、四人の全身を包んでいた。

 紫色の煙に全身を包まれ、四人は急に悲鳴を上げて苦しみだした。

 「キャアアアー!?か、体が溶ける!?い、痛い、痛いよぉー!」

 「ぐ、ぐるじい、さ、再生しない!?どうして!?」

 「か、顔が溶けるぅー!?見えない、何も見えないよぉー!」

 「う、腕が溶けたぁー!?た、助けて、誰か助けてー!?」

 紫色の煙を頭から全身に浴びたせいで、関之尾たち四人の体は再生もできず、どんどんと溶けていく。

 僕は悲鳴を上げる四人に向かって笑いながら言った。

 「アハハハ、本当に馬鹿だな、お前ら。僕の分身は消えると同時に、毒の煙に変わるんだよ。それも、全身を溶かす猛毒の煙だ。いくらヴァンパイアロードの再生能力があっても、頭からその毒を浴びれば、毒が脳や血管、細胞に行きわたって、再生もできずに全身を毒に溶かされて死ぬことになる。後1分もしない内に全員、地獄行きだ。じゃあな、クズども。」

 関之尾たち四人は悲鳴を上げながら、全身を毒に溶かされ、死体も残さず死んでいった。

 仲間四人が僕に無惨に殺されたのを見て、姫城たち五人は足をガクガクと震わせ、恐怖している。

 そして、ついには僕に向かって命乞いを始めた。

 「宮古野、ウチらが悪かったから!マジで謝るから!マジでゴメンって!ウチらはただ命令されてアンタを処刑したんだし!あの時は仕方なかったんよ!マジで許してちょ!」

 「宮古野、見捨てたのは謝るから、許してよ!ウチらも本気で処刑するとか思ってなかったんよ!本当にゴメン!だから、許して!」

 「宮古野、ゴメン!ウチは何も悪いことしてないから!この木を枯らしたのは、麗華と綾だから!ウチは何にもしてねえから!だから、助けてよ、お願い!」

 「ウチもそうだから!ユグドラシル枯らそうとしたのは麗華と綾だから!ウチも全然関係ないから!悪いのは全部この二人だから!だから、見逃してよ!」

 「ウチだってそうだし!麗華と綾が全部悪いんだし!お願いだから、マジ殺さないでよ、ね!?」

 「魔術師」若葉 千夏と「魔術士」平江 陽子、「回復術士」梅北 舞が、姫城と「魔術師」中原 綾に、自分たちの働いた悪事を押し付け、二人を裏切ろうとした。

 若葉、平江、梅北の三人の裏切りに、姫城と中原が怒り、内輪揉めを始めた。

 「ハアっ!?ふざけんなだし!夏っつんも、陽ちんも、舞まいも、笑って宮古野の処刑を見てたじゃん!ウチらと一緒に強盗もしたし、ヴァンパイアロードになって人を襲ったじゃん!ウチらだけに責任押し付けるとかヒドすぎでしょ!マジ最悪!」

 「千夏も陽子も舞もウチらと同じくらい悪いことしておいて自分たちだけ助かろうとか、マジ最低ー!それが友達に対する態度なわけ!ふっざけんな!」

 「うっせえわ!ウチはもうお前らとは関係ねえから!赤の他人だから!友達じゃねえから、クソビッチども!」

 「麗華と綾のせいでこんなことになったんだし!二人の巻き添え食うとかマジ御免だから!ウチは普通に自首するから!もうお前らとは縁切るから!話しかけんな、カス女!」

 「木を枯らしたのは麗華と綾だから!ウチは全然関係ねえから!責任取って殺されるのはお前らだから!勝手に処刑されろや、イカレ女ども!」

 姫城たち五人の醜態を見て、酒吞、鵺、エルザも呆れている。

 「本当に正真正銘の外道だな、コイツら。散々悪事を働いといて、みっともなく命乞いをするだけじゃなく、罪を擦り付け合うとはな。ゴブリン以下のクソ野郎だぜ。今すぐこの手でぶっ殺してやりたくなってきたぜ。」

 「丈君を処刑しようとしただけでなく、テロ行為まで平然と行う、正に救いようのない極悪人。反省の色も全く見えない。コイツらに生かしておく価値は微塵もない。早急に始末すべき。」

 「これほどまでおぞましく醜い心を持った連中が、一度は女神に選ばれた勇者であるとはとても信じられん。「世界樹」を枯らすという大罪を犯していながら、何の反省も見せず、そればかりか、仲間割れを起こして罪を擦り付け合うなど、あまりにひどすぎる。我はこれほど邪悪な人間を今まで見たことはない。コヤツらだけは絶対に許せん。即刻成敗してくれる。」

 酒吞、鵺、エルザは姫城たちへの怒りを口にするのだった。

 内輪揉めをしている姫城たちに向かって僕は言った。

 「醜い内輪揉めは止めろ。見ているだけで吐き気がしてくる。どんなに命乞いしようと今更遅い。お前らの犯した悪行の数々、決して許すわけにはいかない。全員、問答無用で殺す。まとめて地獄に送ってやる。覚悟しろ!」

 僕は鉄扇を顔の正面へと持ってくると、鉄扇を頭上へと掲げた。

 「毒花繚乱!」

 右手の鉄扇が金色に大きく光り輝き、その直後、僕の頭上に巨大な渦を巻くように大量の桜吹雪が現れた。

 僕は鉄扇を持っていた右手をまっすぐに下ろし、鉄扇を姫城たちに向けた。

 鉄扇が姫城たちの方を向いた瞬間、巨大な渦を描く大量の桜吹雪が猛スピードで姫城たちへと向かって行った。

 大量の桜吹雪が自分たちに向かってくるのを見て、姫城たちは慌てて反撃を始めた。

 「くそが!無限詠唱!」

 「睡眠誘導!」

 「猛毒生成!」

 「岩石弾連射!」

 「電磁力結界!」

 「大魔導士」姫城が放つ魔法の巨大な火の玉が、「魔術士」若葉が放つ相手を眠らせる魔法の光線が、「魔術士」中原が放つ魔法の大量の毒液が、「魔術師」平江が放つ魔法の岩石でできた何十個もの弾丸が、僕の放った大量の桜吹雪を迎撃しようとぶつかった。

 しかし、姫城たち四人の魔法攻撃は、僕の放った大量の桜吹雪の勢いを止めることができず、一瞬で搔き消されてしまった。

 「回復術士」梅北が張った電気のバリヤーもとい結界が、姫城たち五人を覆って、大量の桜吹雪から彼女らの身を守ろうとするが、数十トンもの質量がある大量の桜吹雪の質量差には抗えず、大量の桜吹雪によって結界は一瞬で破壊され、大量の桜吹雪が津波のようになって、姫城たち五人を飲み込んだ。

 「「「「「キャアアアーーー!」」」」」

 大量の桜吹雪に飲み込まれた姫城たち五人の悲鳴が聞こえる。

 必死にもがいて桜吹雪の中から体を起こした姫城たち五人だが、彼女たちの肉体は溶け始め、皮膚や眼球、髪の毛、手足が溶けて崩れていく。

 「か、髪が抜けるー!?体がドンドン溶けてく!?くそっ、再生しない!くそっ!」

 「あ、足が溶けたー!?い、痛いよー!た、助けて、助けてー!」

 「手が、ウチの手がない!?ああっ、う、腕が、腕が落ちたー!?」

 「目が、目が見えない!怖いよー、誰か助けてー!?」

 「は、鼻が溶けた!ぐ、ぐるじい、だ、だじゅげてぇー!?」

 大量の桜吹雪を頭から全身にかぶり、今も桜吹雪の中にいる姫城たち五人の体はどんどんと溶けていく。

 体が溶けていく姫城たち五人を見ながら、僕は姫城たちに向かって言った。

 「お前らが浴びた大量の桜吹雪だが、花びら一枚一枚に、あらゆる生物の肉体を溶かす猛毒がたっぷり染み込んでいる。毒の花びらが全身に引っ付いたお前らの体は、後30秒もせずにドロドロに溶かされることになる。桜の花でお前らの地獄行きを彩ってやったんだ、感謝しろよ。それじゃあ、バイバイ、クソビッチ共。」

 僕の処刑宣告を受け、姫城たちは悪あがきを見せる。

 「た、助けて、宮古野!ウチらみんな、アンタの彼女になるから!だから、助けて!」

 だが、僕はそんな姫城たちの悪あがきをバッサリと切り捨てる。

 「お前らみたいなクソビッチのモンスターが僕の彼女だって!?冗談じゃない。あいにく僕の周りにはお前らより美人で美しい心を持つ女性が大勢いる。お前らのような人の皮を被った化け物の相手は御免だね。さっさと地獄に落ちろ、クソビッチモンスター!」

 「そ、そんなぁー!?」

 悲痛な叫び声を上げながら、姫城たち五人は毒で肉体を完全に溶かされ、死体も残さず消滅した。

 姫城たちの武器や装備、所持品の一部だけが後には残った。

 「大魔導士」姫城たち一行への復讐を終えた僕の気分はすこぶる良かった。

 しかし、問題はまだ片付いていない。

 僕は鉄扇を顔の前に持っていった。

 「癒毒制毒!」

 僕の持つ鉄扇が金色に光り輝いた。

 僕の頭上に、長さ10m、太さが直径10㎝の巨大な金色の鋭い針が現れた。

 僕は、大きな穴が開いたユグドラシルの根に向かって、鉄扇の先を向けた。

 鉄扇の動きに合わせて、頭上の巨大な金色の針が、ユグドラシルの根に開いた大きな穴へと向かって飛んで行き、刺さった。

 巨大な金色の針がユグドラシルの根に刺さったのを見て、エルザがひどく驚いた様子で僕に訊ねてきた。

 「ジョー殿、一体何をしている!あのような巨大な針をユグドラシルに打ち込むなど、正気か?貴殿まで気がふれてしまったのか?」

 僕は慌てるエルザに、笑いながら答えた。

 「大丈夫だよ、エルザ。僕は気がふれたわけじゃあない。今、ユグドラシルに刺した針の先には、姫城たちがユグドラシルに注入した毒を打ち消す毒が塗ってあるんだ。毒を以て毒を制す、というヤツさ。僕が打ち込んだ毒消しがユグドラシル全体に行きわたれば、次期にユグドラシルは回復するはずだ。ユグドラシルが完全に枯れる心配はこれで無くなったと思うよ。後は植物の専門家に改めてユグドラシルを見せてケアを欠かさず行えば、そのうち、また青々とした葉を生やした元のユグドラシルに戻るはずさ。とりあえず、これで問題は解決したわけだ。だから、もう安心してくれ、エルザ。」

 ユグドラシルの回復を知り、エルザは喜んだ。

 「ありがとう、ジョー殿。やはり貴殿を呼んで正解だった。ジョー殿がいなければ、ユグドラシルは枯れ、世界は滅んでいたかもしれん。ユグドラシルを治療するとは、さすがは「黒の勇者」だ。ジョー殿は正しく真の勇者だ。世界を救った勇者だ。本当に感謝する。」

 「僕一人の力じゃない。僕に合体して力を貸してくれた玉藻のおかげでもある。それに、エルザが一早くユグドラシルの異変に気付いてくれたから、ギリギリ治療が間に合ったんだ。ユグドラシルを助けられたのは、ここにいる全員の協力あってこそだ。みんな、ありがとう。」

 ユグドラシルの危機を解決することができ、僕たちは笑い合った。

 「おっと、忘れてた。グレイたちも治療しないと。癒毒制毒!」

 僕は鉄扇の先から、5㎝ほどの長さの細い金色の針を10本生み出し、倒れているグレイたちに向かって飛ばした。

 グレイたちの体に、僕が飛ばした針が刺さった。

 エルザが僕に訊ねてきた。

 「ジョー殿、グレイたちに刺した針は一体?」

 「造血剤の効果と魔力回復の効果がある毒をグレイたちの体に注入しておいた。姫城たちに受けた傷もこれで治るはずだ。本当なら、コイツらも姫城たちに加担した悪党だが、姫城たちに騙されて、利用されていただけみたいだしな。それに、今回姫城たちが引き起こした事件の重要参考人だ。とりあえず応急手当をしておいた。安静にしていれば、そのうち回復するはずだ。」

 「すまぬ、ジョー殿。グレイたちには必ずキツい処罰を下すつもりだ。恩情ありがたく頂戴する。」

 グレイたちへの応急手当ても終わった。

 だが、僕にはまだ、やらなければならないことがある。

 僕はエルザに真実を話すことに決めた。

 「エルザ、大事な話がある。僕はこれから「木の迷宮」の中に入り、そして、聖杖を破壊する。今回のユグドラシルが姫城たち勇者に襲われた事件の原因は、「木の迷宮」と聖杖にある。「木の迷宮」と聖杖がある限り、ふたたびまた勇者たちによってユグドラシルが襲われることになる。エルザ、君には黙っていたが、僕は世界中を周り、ダンジョンと聖武器を破壊する旅をしている。聖武器は人類が魔族と戦うために必要な武器と言われているが、実際は人間に害をもたらす存在なんだ。聖武器のせいで竜王と呼ばれるドラゴンたちが強制的に聖武器をダンジョンで守らされ、ダンジョンに幽閉される被害を受けている。聖武器が存在することで、人類と魔族との争いが助長され、終わりのない戦いを生んでいる。聖武器は光の女神リリアが掲げる魔族を殲滅するという目的のためだけに存在し、聖武器が存在するために多くの者たちが犠牲になっているんだ。僕は女神によって騙され、「光の迷宮」に幽閉されていたホーリードラゴンからその事実を聞かされ、竜王たちからダンジョンより仲間を解放してほしいと頼まれ、こうして旅をしている。僕を処刑した勇者たちへの復讐心もあるが、僕は例え全人類を敵に回しても、聖武器を全て破壊するつもりだ。聖武器を破壊することが、人類のためになると僕は信じている。どうしても僕を止めると言うなら、そうすればいい。だけど、君を倒してでも、僕は聖杖を破壊する。僕の意志は決して変わらない。それじゃあ、僕は「木の迷宮」へと行くよ。今まで本当にありがとう、エルザ。」

 僕はそう言うと、エルザに背を向け、「木の迷宮」の入り口に向かって歩き始めた。

 僕の後ろに、鵺、酒吞が続いていく。

 エルザが大声で後ろから僕に声をかけてきた。

 「待ってくれ、ジョー殿!我は、我はジョー殿の言葉を信じる!ジョー殿は悪逆非道な勇者たちからユグドラシルと世界を救ってくれた!ひとりぼっちだった我とともに対抗戦を戦ってくれた!たくさんのハズレ依頼をこなしてこの国の治安を守ってくれた!我は誰が何と言おうとジョー殿の味方だ!聖杖を破壊したければ、破壊してもらっても構わん!新議長となる我の権限で揉み消してやる!だから、だからこれでサヨナラではないのだ!聖杖を破壊したらすぐに戻ってくるのだ!我はずっとここで帰りを待っているからな!絶対だぞ!いいな!?」

 エルザの言葉を聞いて、僕は嬉しかった。

 エルザはやっぱり僕の親友だ。

 僕は後ろを振り返り、エルザに答えた。

 「ありがとう、エルザ!聖杖を破壊したらすぐに戻ってくるから!それまでグレイたちの看病をよろしく!じゃあ、行ってくるよ!」

 僕はふたたび前を向き、仲間たちとともに「木の迷宮」へと向かうのだった。

 僕は今日、「大魔導士」姫城 麗華外8名、合わせて9人の勇者たちに復讐した。

 これで、合計14人の勇者を殺したことになる。

 残りの勇者は26人。

 それに、インゴット国王たちもいる。

 光の女神リリアも忘れてはいけない。

 まだまだ復讐すべき相手は大勢いる。

 だがしかし、僕の復讐は決して終わらない。

 待っていろ、異世界の悪党ども。

 必ず全員、僕がこの手で地獄に落としてやる。

 首を洗って待っているがいい。

 


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