第五話 主人公、対抗戦で無双する

 僕たちがペトウッド共和国に着いてから三週間余りの月日が経った。

 ようやく、今日「ペトウッド共和国議会議長決定対抗戦」当日を迎えたのだった。

 僕たちは早朝ギルドに集まると、対抗戦の会場へと徒歩で向かった。

 首都の中央にあるペトウッドコロシアムが、対抗戦の会場となる。

 ペトウッドコロシアムは直径200mほどの大きさの楕円状で、高さ50mほどの、ローマのコロッセオに似た姿をした競技場である。

 石造りではなく、木造建築であることも大きな特徴である。

 観客席は四階に分かれていて、一階部分は貴族たちや大商人たちが座るVIP席になっている。二階から四階は、一般市民や観光客が座る観戦席になっている。

 僕たち五人はペトウッドコロシアムへ着くと、大会出場の手続きを受付で済ませ、控室へと案内された。

 それから、午前9時ごろ、開会式が行われた。

 競技フィールド内には、僕たちを含む6組の各獣人たちの派閥の代表チームと、大会運営委員たちがいた。

 大会委員長は、エルザの父親で、現ペトウッド共和国最高議会議長も務めている、マックス・ケイ・ライオン氏であった。

 司会から促され、マックス大会委員長が開会の挨拶をした。

 「出場選手の皆さん、並びに観客の皆さん、おはようございます。「ペトウッド共和国議会議長決定対抗戦」大会委員長を務めます、マックス・ケイ・ライオンです。このたび、10年ぶりにまた、議長決定対抗戦を開催することとなりました。今大会は、記念すべき第300回目の大会であるとともに、各派閥の若手の実力者たちが集まり、次の議長の座の獲得に向けて戦う大変見どころのある大会となっております。この国の将来をけん引していくことになる各派閥の次期リーダーたちや若者たちの戦いぶりが見れることを思うと、儂も胸が熱くなる思いです。儂、マックス・ケイ・ライオンは今大会を持ちまして、20年間務めさせていただきました、ペトウッド共和国最高議会議長の職を退き、引退することを決断いたしました。そして、今大会で優勝した派閥の代表チームの若手に、次の議長を引き継いでいただきたいと思っております。代表チームの選手の皆さんには死力を尽くして今大会を戦ってもらい、この国の未来を担うという強い覚悟と、それに見合う実力を示していただき、次期議長の座という栄光を掴み取ってもらいたいと思っております。代表チームの皆さん、優勝目指して、頑張ってください。最高の戦いが見られることを期待しております。これにて挨拶を終わります。」

 マックス大会委員長の挨拶が終わると、司会から大会のルールやスケジュール等が説明され、開会式は滞りなく進行した。

 観客席には10万人近い観客が押し寄せ、対抗戦の試合が始まるのを待ち望んでいる様子だった。

 午前10時、ついに対抗戦が始まった。

 第一試合は、僕たち獅子獣人派代表チームVS鷲獣人派代表チームであった。

 僕たちのこの試合が対抗戦全体における最初の試合でもあった。

 実況席からは、司会兼実況役の人が、解説を行っている。

 「第一試合は、獅子獣人派代表チームVS鷲獣人派代表チームです。「天空の貴公子」ことユリウス氏率いる鷲獣人派代表チームは今大会優勝の最有力候補と注目されております。ですが、エルザ氏率いる獅子獣人派代表チームも負けておりません。何と今、世界中で話題沸騰中のS級冒険者、「黒の勇者」がチームメンバーとして参加しております。両チームとも、実力者揃いで、第一試合から白熱した展開が予想されます。さぁ、一体勝つのはどちらか、注目の一戦です。」

 僕たちは合図を受け、競技フィールド内へと入場した。

 反対側の出入り口から、鷲獣人派代表チームが入場してきた。

 鷲獣人派代表チームが入場するなり、観客席の女性たちから歓声が上がった。

 「キャアー、ユリウス様ー!」

 「ユリウス様ー、こっちを見てー」

 相手チームのリーダーは、ユリウス・アポロ・ホーク。

 身長190cmで、色白の肌に、長い金髪の、背中に茶色い鷲の翼、尻に鷲の尾を生やした細マッチョなイケメンであった。年齢は20代前半に見える。

 白いキトンに、茶色い革の胸当てを着ている。それから、矢筒と弓矢を携帯している。

 仲間の他の四人も同じ格好をしている。

 「獣弓術士」の、鷲獣人の若い男性五人組でチームを組んでいる。

 ユリウスは観客席の女性たちに手を振って応えている。

 競技フィールドの中央まで進むと、両チームが互いに向き合った。

 ユリウスがエルザに向かって言った。

 「これはこれはエルザ嬢、本日も実にお美しい。ですが、僕はあなたのような美しいレディーに怪我などさせたくはありません。どうか、試合を棄権されてください。それが僕からできる美しいあなたへの最大限の配慮なのです。」

 ユリウスの言葉に、エルザはムッとした表情を浮かべた。

 「残念だが、我は試合を棄権するつもりはない。女だからと言って、手加減は一切無用だ。全力で来い。」

 「その通りだ、エルザ。こんな顔だけのナルシスト野郎の言うことなんて聞く必要はない。どうせ瞬殺されるだけの雑魚だ。さっさと倒して、次の試合に進むぞ。」

 僕とエルザの言葉に、ユリウスは機嫌を悪くした。

 「この僕をナルシストだの雑魚だの、随分と舐めた口を利くじゃあないか。なら、僕を本気で怒らせたことを君たちにたっぷりと後悔させてあげようじゃないか。」

 試合開始のゴングが鳴った途端、鷲獣人たちは一斉に空へと飛んだ。

 僕とエルザの二人は前に出て、玉藻、酒吞、鵺の三人が後ろに下がった。

 鷲獣人たちは空から弓矢で攻撃しようと構える。

 僕は左の胸ポケットから如意棒を取り出した。

 如意棒を左手に持つと、如意棒に霊能力を流し込み、長さ180cmの黒いロングボウへと変形させた。

 「じゃあ、お先に行くよ、エルザ。霊飛行!」

 僕は「霊飛行」を使って、足裏から霊能力のエネルギーをジェット噴射のように噴き出し、一直線に空へと飛びあがった。

 僕は一気に鷲獣人たちの横を通り抜け、鷲獣人たちよりさらに50mほど高い空中まで飛び上がり、制止した。

 鷲獣人たちも観客たちも僕が空を飛んでいることに驚いている。

 僕はロングボウを構えると、霊能力のエネルギーを使って、霊能力の矢を生み出した。

 ロングボウに霊能力の矢をつがえると、そのまま矢を次々に生み出し、鷲獣人たちに向けて連射した。

 「霊弓必射!」

 ユリウス以外の4人の鷲獣人たちは、僕が発射した矢を避けることもできず、全員矢で射られ、競技フィールドの地面へと墜落した。

 「グエっ!?」

 「グガっ!?」

 「ゲエっ!?」

 「ガハっ!?」

 仲間の鷲獣人たちが僕の発射した矢に射られ、瞬殺された事実に、ユリウスはひどく動揺している。

 「そ、そんな!?人間が空を飛ぶなんて!?馬鹿な、あり得ない!?おい、お前たち、さっさと起きろ!この僕に恥をかかせるつもりか、馬鹿ども!」

 僕は動揺して仲間たちに悪態をつくユリウスに頭上から声をかけた。

 「おい、ナルシスト野郎、よそ見をしている場合か?お前、自分が空を飛べるからって調子に乗り過ぎだぞ。そんなんだから、瞬殺されるんだぞ。エルザ、止めは任せた!」

 「任された、ジョー殿!」

 エルザが剣を構えると、足裏が大きく光輝いた。

 エルザの背後に、巨大な鷲の顔のようなマークが浮かび上がった。

 「行くぞ、鷲獣剣!」

 エルザの足裏から、光り輝く魔力のエネルギーがジェット噴射のように噴き出した。

 そして、エルザは空中にいるユリウスめがけて、勢いよく飛び上がった。

 猛スピードで飛行し、まっすぐ自分に向かってくるエルザを見て、ユリウスは慌てて弓を構えた。

 「くそっ、美鷲麗射!」

 ユリウスが放った矢が巨大な魔力で形作られた鷲となってエルザを攻撃する。

 だが、エルザはユリウスの放った矢を剣で横に一閃して弾き飛ばした。

 そのまま、ユリウスに接近し、剣を縦に振りぬいた。

 「ハアアッー!」

 エルザの剣が、ユリウスの胴体を縦に斬り裂いた。

 「グワーっ!」

 エルザに斬られ、ユリウスは地面へと墜落した。

 試合開始5分で、鷲獣人たちは僕たち獅子獣人派代表チームに全員ノックアウトされた。

 僕とエルザは空中から競技フィールドへと着地すると、地面で倒れている鷲獣人たちへと近づいた。

 鷲獣人たちは全員、白目を剥いて気絶し、さらに背中の翼が完全に折れ、全身も傷だらけであった。

 鷲獣人たちは全員、戦闘不能かつ再起不能になった。

 足元で転がっている鷲獣人たちを見下ろしながら、僕とエルザはハイタッチして健闘をたたえた。

 「やったね、エルザ。優勝候補の鷲獣人たちをこの通りノックアウトだ。周りの観客たちなんて度肝を抜かれているぞ。実に幸先のいいスタートを切れたね。」

 「ああっ、その通りだ。我々が空を飛べるとは予想外だっただろう。正に番狂わせだ。我々の大勝利だ。」

 僕とエルザが笑い合う中、試合終了のゴングが鳴った。

 「試合終了!第一試合の勝者は、獅子獣人派代表チームです!まさかの大番狂わせです。優勝最有力候補と呼ばれていた鷲獣人派代表チームが敗北しました。しかも、スタメン選手が全員、再起不能で、対抗戦をリタイアとなりました。これは第一試合目から波乱の展開となりました。」

 実況役の解説に、会場内の観客席は皆、どよめいている。

 「お、おい、見たか?鷲獣人たちが瞬殺されたぞ?しかも、お得意の空で戦って負けやがった。」

 「ああっ、翼もないのに空を飛んでいたぞ、あの「黒の勇者」様ってのは?空まで飛べるなんて、強すぎというか、反則だろ、ありゃ。」

 「「黒の勇者」だけじゃない。エルザ様も空を飛んでいたぞ。「黒の勇者」に鍛えてもらってパワーアップしたって聞いていたけど、パワーアップしたなんてレベルじゃあねえぞ。ヤバすぎるだろ、アレは。」

 「ユリウス様が負けるなんて超ショック~。でも、あんな簡単に負けちゃうとかマジ幻滅~。アタシ、ユリウス様のファンは今日で止めようっと。」

 観客たちは口々に試合の感想を述べるのであった。

 二階から第一試合の様子を見ていた他の獣人の代表チームたちに緊張が走った。

 狼獣人派代表チームのチームリーダーのグレイ・ビズ・ウルフと、彼女の仲間たちも、獅子獣人派代表チームの驚異的な強さに圧倒されていた。

 「な、何だよ、あれは!?翼もねえのに空を飛べるとかありかよ!?たった二人で鷲獣人どもを瞬殺するって、そんなのありかよ!?くそっ、エルザの奴、本当にとんでもなくパワーアップしていやがる。あの出来損ないがあんなに強くなるなんて。くそっ!」

 「り、リーダー、やっぱり優勝なんて無理っすよ。エルザの奴には「黒の勇者」がついているんですよ。リーダーだって見てたでしょ。強さのレベルが圧倒的というかもはや次元が違うっすよ。鷲獣人どもなんて敗北どころか全員再起不能にされたじゃないっすか。ここは怪我させられない内に棄権した方がいいんじゃ・・・」

 「馬鹿言うんじゃねえ!アイツらにビビッて棄権なんてしたら、それこそ笑いものにされるだろうが!?どんな手を使ってもアイツらには勝つんだ。出来損ないのエルザに、このアタシが負けるなんてあっちゃならねえんだよ。例え「黒の勇者」がついていようが関係ねえ、絶対に勝つぞ、いいな?」

 グレイは部下たちを𠮟りつけ、獅子獣人派代表チームへの闘志を燃やすのだった。

 第二試合、第三試合が終わり、僕たちが出場する第四試合がやってきた。

 第四試合は、僕たち獅子獣人派代表チームVS猿獣人派代表チームであった。

 僕たちにとっては二試合目の試合である。

 実況席からは、司会兼実況役の人が、解説を行っている。

 「第四試合は、獅子獣人派代表チームVS猿獣人派代表チームです。ガッツ氏率いる猿獣人派代表チームは怪力を活かしたパワフルな戦闘スタイルが持ち味です。第二試合では僅差で狼獣人派代表チームに判定負けいたしましたが、今大会最もパワーに優れたチームであります。対するは、第一試合から鷲獣人派代表チームを再起不能に追い込む活躍を見せた獅子獣人派代表チームです。鷲獣人派代表チームと空中戦で勝利する大番狂わせを起こした彼らですが、圧倒的なパワーを誇る猿獣人派代表チームに如何にして戦うのか、注目の一戦です。」

 僕たちは合図を受け、競技フィールド内へと入場した。

 反対側の出入り口から、猿獣人派代表チームが入場してきた。

 鷲獣人派代表チームが入場するなり、観客席の男性たちから歓声が上がった。

 「行けー、ガッツ!獅子獣人どもをぶっ潰せぇー!」

 「ガッツー、もう油断なんてすんじゃねえぞー!絶対勝てよー!」

 相手チームのリーダーは、ガッツ・ロック・モンキー。

 身長2mの、ライトブラウンの髪を坊主頭にしている、猿の尾と耳を持つ、日焼けした肌の、筋骨隆々の巨漢であった。年齢は20代後半に見える。

 上半身に「ローリーカ・セグメンタータ」という、古代ローマ兵が身に着けていた銀色に輝く頑丈そうな鎧を身に着けている。手には、長さ2メートルのウォーハンマーを所持している。

 他の四人の仲間たちも同じ格好をしている。

 「獣槌術士」の、猿獣人の若い男性五人組でチームを組んでいる。

 ガッツは観客たちに手を振って応えている。

 競技フィールドの中央まで進むと、両チームが互いに向き合った。

 ガッツがエルザに向かって言った。

 「ガッハッハッハ。さっきは油断して狼獣人どもに一人やられたが、今度はそうはいかないぜ。エルザ、俺様は女だからと言って手加減はしないぜ。その綺麗な顔をボコボコにされたくなかったら、とっとと棄権しな。俺様たちの怪力の凄さはよく分かってんだろ、ああん?」

 ガッツの言葉に、エルザは顔を顰めながら答えた。

 「我は棄権などしない。必ず貴様たちに勝つ。」

 「ああ、その通りだ、エルザ。こんな見せかけの筋肉を自慢することしか取り柄のない脳筋馬鹿はとっととぶちのめすぞ。秒で始末するぞ。」

 僕とエルザの言葉に、ガッツたちは激怒した。

 「誰が脳筋馬鹿だとコラァー!?テメエらだけはマジで許さねえ。絶対にぶっ殺す!」

 試合開始のゴングが鳴った。

 試合開始とともに、ガッツ以外の四人の猿獣人たちがウォーハンマーを手に、僕目がけて突っ込んできた。

 僕は霊能力を解放し、霊能力を全身に纏った。

 「霊拳!」

 青白い霊能力のエネルギーが僕の全身を一瞬で包み込んだ。

 僕は腕を組みながら、襲い来る猿獣人たちを迎え撃った。

 猿獣人たちが僕目がけて一斉にウォーハンマーを振り下ろした。

 「死ねえ!」

 「食らえー!」

 「潰れろや、オラァー!」

 「死に晒せ、コラァー!」

 猿獣人たちが振り下ろすウォーハンマーが、ガーンという音を立てて、僕の体に直撃した。

 だがしかし、猿獣人たちが振り下ろしたウォーハンマーは、僕の体に直撃した途端、逆に先のハンマー部分が粉々に砕け散ってしまった。

 「「「「なっ!?」」」」

 柄だけになってしまったウォーハンマーを手に持ちながら、猿獣人たちは全員、驚愕した。

 「もう終わりか?怪力だとか言う割には全然大したことないな。なら、今度はこっちの番だ。歯食いしばれよ?」

 僕は左の胸ポケットから如意棒を取り出した。

 如意棒を右手に持つと、如意棒に霊能力を流し込み、如意棒を長さ2mほどの黒いハルバードへと変形させた。

 僕はハルバードを両手に持つと、ハルバードに霊能力を纏わせ、そのまま猿獣人たち目がけてハルバードを振り回した。

 「霊斧!」

 僕の振り回すハルバードの直撃を受け、猿獣人たちは鎧を砕かれ、体を叩き斬られ、そして、競技場の壁まで吹っ飛ばされていった。

 「グヘっ!?」

 「ガハっ!?」

 「ゴハっ!?」

 「ブベっ!?」

 猿獣人たち四人は吹っ飛ばされ、全員競技場の壁にめり込み、白目を剥いて気絶している。

 仲間の猿獣人たちが全員倒されたのを見て、ガッツは慌てている。

 「お、お前ら何やっていやがる!?さっさと戻れ!お前らそれでも力自慢の猿獣人か、ゴラァー!?」

 「おい、そこの脳筋馬鹿、自分の立場が分かってんのか?お前たちのご自慢の怪力なんて僕たちには全く通用しないんだよ。それにお前、自分が絶賛大ピンチだって分かってないみたいだな。エルザ、この脳筋馬鹿に止めを頼む。」

 「了解だ、ジョー殿。」

 エルザが両腕で剣を構えながら、両腕に魔力を集中させる。

 エルザの両腕が大きく光り輝いた。

 そして、エルザの背後に、巨大な猿の顔のようなマークが浮かび上がった。

 「行くぞ、猿獣剣!」

 エルザの変化に気が付き、ガッツがウォーハンマーを手に持ちながら、エルザに向かって突撃した。

 「オラァー、剛猿重砕!」

 ガッツの手にするウォーハンマーの先が光り、ガッツのウォーハンマーがエルザに向かってまっすぐに振り下ろされた。

 しかし、ガッツが振り下ろしたウォーハンマーはエルザの剣に受け止められ、先から粉々に砕け散った。

 「何ぃー!?」

 手にしていたウォーハンマーが粉々に砕け散ったことにガッツは驚いた。

 エルザはその隙を見逃さず、剣で縦にガッツの鎧を叩き斬った。

 「ハアアッー!」

 エルザによって身に着けていた鎧を剣で叩き斬られ、鎧は粉々に砕け散り、体を縦に斬り裂かれ、血を流しながら、ガッツは地面に倒れた。

 「ガハっ!?」

 ガッツは白目を剥き、胸から血を流しながら気絶している。

 猿獣人たちは全員、白目を剥いて気絶し、胸から血を流している。

 ガッツ以外の猿獣人たちはいまも全員、競技場の壁にめり込んだままである。

 猿獣人たちは全員、戦闘不能かつ再起不能になった。

 猿獣人たちを全員倒したことを確認すると、僕とエルザはハイタッチして健闘をたたえた。

 「お疲れ、エルザ。これで二勝目だ。怪力自慢の猿獣人たちをパワーで圧倒してやったんだ。観客はまた度肝を抜かれただろうね。この調子で頑張ろう。」

 「ありがとう、ジョー殿。これもジョー殿のおかげだ。ジョー殿の指導が無ければ、猿獣人どもには勝てなかった。引き続き、よろしく頼む。」

 二勝目を挙げ、僕とエルザは喜び合った。

 試合終了のゴングが鳴った。

 「試合終了!第四試合の勝者は、獅子獣人派代表チームです!またしても波乱の展開となりました。今大会最もパワーに優れていると言われていた猿獣人派代表チームが、パワー負けをして敗北をいたしました。しかも、スタメン選手が全員、再起不能で、対抗戦をリタイアとなりました。第一試合目の鷲獣人派代表チームに続き、対抗戦をリタイアするチームが出てしまいました。強い、強すぎるぞ、獅子獣人派代表チーム!」

 実況役の解説に、会場内の観客席は皆、どよめいている。

 「お、おい、また獅子獣人派代表チームが勝ったぞ。しかも、猿獣人たちにパワー比べで圧勝したぞ。マジで信じられねえ。」

 「四人がかりで襲われたのに傷ひとつつかない上に、ハンマーを逆に粉々にぶっ壊すとか、化け物かよ、あの「黒の勇者」ってのは?あんな化け物相手に他のチームは勝てんのかよ、本当?」

 「エルザ様だってすげえぞ。怪力自慢のガッツのハンマーを剣で受け止めて、ハンマーを砕いてカウンターから一撃で倒しちまったぞ。俺はエルザ様のことを改めて見直したぜ、おい。」

 「ガッツの野郎、また調子に乗って油断しやがって。おまけに挑発に乗って、パワー負けして負けるなんて、情けない野郎だぜ、まったく。あの脳筋馬鹿が猿獣人派の次期筆頭って、ちょっと心配になってきたぞ。」

 観客たちは口々に試合の感想を述べるのであった。

 二階から第四試合の様子を見ていた他の獣人の代表チームたちにさらなる緊張が走った。

 狼獣人派代表チームのチームリーダーのグレイ・ビズ・ウルフと、彼女の仲間たちも、獅子獣人派代表チームの圧倒的な強さに圧倒されていた。

 「くそっ。またエルザたちが勝ちやがった。アタシらだって手こずった猿獣人どもの怪力に真っ正面から力比べで挑んで勝つなんて。おまけに、また対戦相手を再起不能にしやがった。一体、どんだけ強いんだ、アイツら?」

 「リーダー、アタシらが隙を見つけて何とか一人倒してギリギリ判定勝ちした猿獣人どもを瞬殺するなんて、どう考えたってエルザたちの強さは半端じゃないっすよ。「黒の勇者」なんて全身にハンマーを食らっても平気だなんて、それも逆に粉々に粉砕するなんて、ありゃもう絶対に人間じゃありませんよ。あんな化け物に勝てる策があるんですか、本当?」

 「ごちゃごちゃとうるせえ!お前らは黙ってろ!アイツらにだって弱点はきっとあるはずだ。そこを見つけて徹底的に突くんじゃんよ。分かったな?」

 グレイは歯ぎしりをしながら、獅子獣人派代表チームへの対抗策を必死に考えるのであった。

 鷲獣人派代表チームのリタイアもあって、第五試合、第六試合は予定より早く終わった。

 第七試合がやってきた。

 第七試合は、僕たち獅子獣人派代表チームVS狐獣人派代表チームであった。

 僕たちにとっては三試合目の試合である。

 実況席からは、司会兼実況役の人が、解説を行っている。

 「第七試合は、獅子獣人派代表チームVS狐獣人派代表チームです。ライブラ氏率いる狐獣人派代表チームは様々な魔法を行使した戦闘スタイルが持ち味です。第六試合では接戦の末、僅差で蜥蜴獣人派代表チームに判定負けいたしましたが、今大会最も魔力と魔法に優れ、頭脳戦も得意とするチームであります。対するは、第一試合から鷲獣人派代表チーム、猿獣人派代表チームを再起不能に追い込むという怒涛の快進撃を見せる獅子獣人派代表チームです。猿獣人派代表チームと力比べで圧勝するというとんでもない奇跡を起こした彼らですが、魔法の専門家集団である狐獣人派代表チームに如何にして戦うのか、これまた注目の一戦です。」

 僕たちは合図を受け、競技フィールド内へと入場した。

 反対側の出入り口から、狐獣人派代表チームが入場してきた。

 狐獣人派代表チームが入場するなり、観客席の観客たちから歓声が上がった。

 「行けー、ライブラ!若き天才魔術士の力を見せてくれー!」

 「至高の魔法ってヤツで獅子獣人たちなんかやっつけろー!」

 相手チームのリーダーは、ライブラ・マギ・フォックス。

 身長175センチで、狐色のロングヘアーに、色白の肌、細い糸目の持ち主である。狐の耳と尾を生やしている、少し暗い雰囲気のある、華奢な体格の男性である。年齢は10代後半に見える。

 魔法使いが着るような黒いローブを着ている。

 手には、魔石を先にはめ込んだ木製の長い杖を持っている。

 他の仲間たち四人も同じ格好をしている。

 「獣魔術士」の、若い狐獣人の男性五人組のチームであった。

 ライブラは観客たちに手を振って応えている。

 競技フィールドの中央まで進むと、両チームが互いに向き合った。

 ライブラがエルザに向かって言った。

 「お久しぶりですね、エルザさん。あなたたちの試合は拝見させていただきました。実に興味深い技の数々です。ですが、私たちの魔法には遠く及びません。何より、天才魔術士と呼ばれるこの私が編み出した至高の魔法の前では、あなた方の努力など無意味ですよ。怪我をされる前に棄権されることを提案いたします。」

 ライブラの言葉にエルザは顔を顰め、こう言った。

 「例え相手が誰であろうと、我は対抗戦を棄権などしない。立ちはだかるなら、倒すまでだ。」

 「その通りだ、エルザ。自分のことを天才だとか言う奴は大抵、うぬぼれが強い世間知らずの阿保だ。至高の魔法なんて偉そうに言っているが、どうせカスみたいな威力の魔法だ。速攻で終わらせるぞ。」

 ライブラは僕とエルザの言葉を聞いて、顔を真っ赤にして怒った。

 「貴様ら、この私のことをうぬぼれが強い世間知らずの阿保だとか抜かしたなぁ!私の至高の魔法をカスみたいな威力の魔法だとも言ったな!貴様ら全員、この私の魔法で灰にしてやる!」

 試合開始のゴングが鳴った。

 試合開始とともに、狐獣人たち全員が僕に向けて杖を構えた。

 僕はすぐに霊能力を解放し、霊能力を全身に纏った。

 狐獣人たちが杖を僕に向けながら、魔法を詠唱した。

 「狐火炎熱唱!」

 「雷狐詠唱!」

 「狐岩弾唱!」

 「風狐斬波唱!」

 「水狐水刃唱!」

 狐獣人たちの放つ、巨大な火の玉や雷、岩の弾丸、風の刃、高圧水流のカッターなどの魔法攻撃が、僕の体に直撃した。

 狐獣人たちの魔法攻撃が僕の体に直撃し、衝撃で土煙が起こった。

 だが、煙が晴れると同時に、煙の中から無傷の僕が姿を現した。

 魔法の直撃を受けても平然と立っている僕を見て、狐獣人たちは全員、驚いた。

 「「「「「な、何ぃーーー!?」」」」」

 僕は驚く狐獣人たちに向かって言った。

 「天才だの、至高の魔法だの言う割には、全然大したことがないなぁ。こんなカスみたいな威力の魔法で至高の魔法とか、冗談も良いところだぞ。まぁ、試合開始早々、全員で僕を狙って攻撃してきたあたりは評価してもいいが、魔法攻撃自体は威力重視で直線的、何のひねりもない。この程度の魔法で対抗戦で優勝しようだなんて、笑っちゃうよ、本当。それじゃあ、お返しに今度は僕から君たちに魔法をプレゼントすることにしよう。」

 僕は左の胸ポケットから如意棒を取り出した。

 如意棒を右手に持つと、如意棒に霊能力を流し込み、黒いサーベルへと変形させた。

 そして、右手に霊能力のエネルギーを集中させ、圧縮し、死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーを生み出した。

 僕は、サーベルに黒い霊能力のエネルギーを纏わせた。

 「さぁ、お返しだ。霊呪剣斬!」

 僕は、ライブラ以外の四人の狐獣人たちに向かって、サーベルを振り回した。

 僕の振り回すサーベルの刃から黒い霊能力の斬撃が放たれ、狐獣人たちを攻撃した。

 狐獣人たちは、僕が放った黒い霊能力の斬撃が体に直撃し、悲鳴を上げながら倒れた。

 「「「「ギャアアアーーー!?」」」」

 狐獣人たちは白目を剥き、口から泡を吹いて全員気絶した。

 体をピクピクと痙攣させ、地面に倒れている。

 仲間たちが倒されたのを見て、ライブラはひどく動揺している。

 「お、お前たち、何をしているのです!?さっさと起きなさい!それでも天才であるこの私の部下ですか!?ええい、起きろ、起きるのです!」

 「無駄だ。ソイツらは、二、三日はそのまま目を覚まさない。僕の魔法で肉体も精神もボロボロにされたからな。これが本当の魔法ってヤツだ、自称天才魔術士さん。さて、茶番はここまでだ。エルザ、この自称天才の阿保にキツ~い止めを頼む。」

 「フフっ、分かったぞ、ジョー殿」

 エルザが剣を構えると、エルザの剣全体が徐々に光り始め、大きく光り輝いた。

 エルザの背後に、巨大な狐の顔のようなマークが浮かび上がった。

 それから、剣と、剣を持つ両手を覆うように冷たい冷気が包み込んだ。

 「凍てつけ!狐獣人剣!」

 氷の魔法を纏った剣を、エルザがライブラに向けて横に振りぬいた。

 エルザの剣から氷の魔法を纏った斬撃がライブラに向かって放たれた。

 ライブラも慌ててエルザの斬撃を迎え撃とうと魔法を放つ。

 「くそ、狐火炎熱唱!」

 ライブラが巨大な火の玉の魔法を放った。

 だがしかし、エルザの氷の魔法を纏った斬撃は、ライブラの放った巨大な火の玉を斬り裂き、打ち消すと、そのまままっすぐに威力を落とすことなくライブラの体へと直撃した。

 「グワァーーー!?」

 エルザの氷の魔法を纏った斬撃を体に受け、ライブラは叫び声を上げると同時に、氷像のように全身が凍り付いて動かなくなった。

 僕とエルザは狐獣人たちを撃破したことを確認し、ハイタッチをして喜んだ。

 「やったな、エルザ。これで三勝目だ。魔法を得意とする狐獣人たちを見事、魔法で破ったわけだ。本職の魔術士に魔法で勝つ剣士なんて、観客たちから見たら前代未聞だろうね。とにかく、これで僕たちの優勝はより近づいたわけだ。この調子で次の試合も頑張ろう。」

 「ああっ、ジョー殿。我らのトレーニングの成果は着実に出ている。これなら本当に優勝が出来そうだ。今の我らなら例えどんな相手が来ようと敵ではない、そんな自信が湧いてくるぞ。」

 僕とエルザは、三つ目の勝利を喜び合った。

 試合終了のゴングが鳴った。

 「試合終了!第七試合の勝者は、獅子獣人派代表チームです!またしても波乱の展開となりました。今大会最も魔法に優れていると言われていた狐獣人派代表チームが、得意の魔法で勝負を挑んで敗北いたしました。しかも、またもスタメン選手が全員、再起不能で、対抗戦をリタイアとなりました。鷲獣人派代表チーム、猿獣人派代表チームに続き、対抗戦をリタイアするチームがまたまた出てしまいました。もはや何でもありなのか、規格外の強さです、獅子獣人派代表チーム!」

 実況役の解説に、会場内の観客席は皆、またまたどよめいている。

 「おい、また獅子獣人派代表チームが勝ったぞ。しかも、狐獣人お得意の魔法で圧勝と来たぜ。強すぎじゃねえか、あのチーム?」

 「狐獣人たちの全力の魔法を一斉に食らっても怪我ひとつしないとか、「黒の勇者」ってのは本当にとんでもないぜ。それに何だよ、あの黒い魔法はよ?食らっただけで狐獣人たち全員、口から泡吹いて気絶したぜ。魔法なんてレベルの代物じゃあねえぞ、ありゃ。思い出すだけで寒気がするぜ。」

 「エルザ様の魔法もすごかったぜ。あのライブラの魔法を打ち消して、ライブラの奴を一瞬で氷漬けにしちまったじゃねえか。エルザ様は剣士のはずなのに魔法まで使えるとかすごすぎだろう。もしかしたら、エルザ様って本当はものすごく強いんじゃねえか?「黒の勇者」の指導だけじゃないだろ、あの強さはよ?」

 「ライブラの奴、自分のことを若き天才魔術士だとか、至高の魔法を編み出したとか言ってた割に全然大したことねえじゃねえか。本職の魔術士が剣士に魔法で負けるとかマジでないわぁー。フォックス家がこの国一番の魔術士ってのももう終わりだろうな。」

 観客たちは口々に試合の感想を述べるのであった。

 二階から第七試合の様子を見ていた残りの他の獣人の代表チームたちは、獅子獣人派代表チームの快進撃にもはや声が出なかった。

 狼獣人派代表チームのチームリーダーのグレイ・ビズ・ウルフと、彼女の仲間たちも、獅子獣人派代表チームの規格外の強さを見て頭を抱えていた。

 「ああっ、くそっ、どうすりゃいいじゃんよ?エルザたちが魔法まで使えるなんて想定外じゃんよ。しかも、あんな強力な魔法まで使えるなんて。まるで対抗策が思いつかねえ。「黒の勇者」に限っては全く隙が見えねえ。おまけに、エルザと「黒の勇者」の二人だけで相手チームを再起不能にしていやがる。他の三人は全く動いていねえ。他の三人の強さは全く未知数だ。下手したら、前衛の二人以上かもしれねえ。くそっ、どうすりゃいいんだ!?」

 「リーダー、もう諦めましょう。「黒の勇者」がエルザに味方した時点でアタシらの敗北は決まってたんすよ。物理攻撃も魔法攻撃も全く歯が立たない、空は飛べるし、怪力だし、魔法は使えるし、あんな化け物相手に戦おうなんて無茶ですよ。もし、決勝でエルザたちと当たったとしても、勝ち目はほとんどないですよ。他の獣人どもみたいに全員病院送りにされますって。ここはやっぱり棄権しましょう。その方が絶対良いっすよ。」

 「ふざけんじゃねえ。何度も言わせんな。棄権はしない。まだ、まだ何かきっと対抗策があるに違いねえじゃん。アタシはここで勝負を降りたりはしねえ。絶対にどんな手を使ってもアイツらに勝つじゃんよ。」

 グレイは部下の忠告を聞き入れず、あくまで対抗戦の出場継続を決めた。

 狐獣人派代表チームのリタイアもあり、第八試合と第九試合は予定より早く終わった。

 第十試合がやってきた。

 第十試合は、僕たち獅子獣人派代表チームVS蜥蜴獣人派代表チームであった。

 僕たちにとっては四試合目の試合である。

 実況席からは、司会兼実況役の人が、解説を行っている。

 「第十試合は、獅子獣人派代表チームVS蜥蜴獣人派代表チームです。アマネス氏率いる蜥蜴獣人派代表チームは驚異的な回復能力と、強力な回復術や弱体化術、強固な結界などを行使した回復と防御を得意とする戦闘スタイルが持ち味です。第八試合では、僅差で狼獣人派代表チームに判定負けいたしましたが、今大会最も回復と防御に優れた実力派チームであります。対するは、これまでに鷲獣人派代表チーム、猿獣人派代表チーム、狐獣人派代表チームの三チームを完膚なきまでに叩きのめし、再起不能に追い込むという予想に反する大活躍を見せる獅子獣人派代表チームです。魔法が得意な狐獣人派代表チームと魔法で勝負し、またも圧勝するという規格外の勝利を我々に見せた彼らですが、不死身とも思える回復力と強固な防御力を誇る蜥蜴獣人派代表チームを相手にどうやって戦うのか、大注目の一戦です。」

 僕たちは合図を受け、競技フィールド内へと入場した。

 反対側の出入り口から、蜥蜴獣人派代表チームが入場してきた。

 蜥蜴獣人派代表チームが入場するなり、観客席の男性たちから凄まじい歓声が上がった。

 観客席の女性たちは、蜥蜴獣人派代表チームに熱烈なラブコールを送る男性たちに若干引いているように見える。

 「おおっ、アマネスちゃ~ん、愛してる~!」

 「アマネスちゃ~ん、今日も最高に可愛いよ~!」

 「アマネスちゃ~ん、俺たちがついてるから大丈夫だよ~!」

 男性たちのラブコールに、アマネスは投げキッスをして、応える。

 「み~んな~、ありがとう!アマネスたちの応援、よろしく~!」

 相手チームのリーダーは、アマネス・リリー・リザード。

 身長180cmの、色白の肌に、黄緑色のセミロングヘアーの髪型をしている。頬には一枚ずつ、緑色の蜥蜴の鱗が付いていて、尻から長い蜥蜴の尾を生やしている。Fカップくらいはある巨乳の、グラマラスな体形をしている。年齢は20代後半に見える。

 古代ローマの剣闘士風のダークブラウンの革鎧に、背中に赤いマントを身に着けている。

 手には、全長70cmのグラディウスという短剣と、直径60cmの丸盾を持っている。

 他の仲間たち四人も同じ格好をしている。

 「獣回復術士」の、若い蜥蜴獣人の女性五人組のチームであった。

 競技フィールドの中央まで進むと、両チームが互いに向き合った。

 アマネスがエルザに向かって言った。

 「オッホッホッホ。お久しぶり~、エルザちゃん。まさかあなたが対抗戦に勝ち残るなんて、わたくし、思ってもいませんでしたわ。でも、残念。観客の皆さんはこの私の勝利を望んでいるようでして。不死身と美しさを併せ持つ私たちに勝つなど、絶対に不可能ですわ。諦めて、棄権したらいかが?」

 アマネスの言葉にエルザは顔を顰めながら答えた。

 「例えみんなが勝利を望んでいなくても、我らは絶対に勝つ。今の我らに不可能はない。」

 「ああっ、その通りだ、エルザ。そんな高飛車ババアどもの言うことなんて聞く必要は無い。不死身だろうが何だろうが、その化粧の濃い顔をぐちゃぐちゃにぶっ潰してやればいい。正直、エルザたちの方が100倍美人だ。とっとと勝負を終わらせよう。」

 僕とエルザの言葉に、アマネスとその仲間たちは大変怒った。

 「誰が高飛車ババアですって!?化粧が濃いですって!?アンタたち全員、いえ、「黒の勇者」だけは絶対に許しませんわ!」

 試合開始のゴングが鳴った。

 試合開始とともに、蜥蜴獣人たち全員が僕たちに向けて盾を構えた。

 「蜥蜴反転結界!」

 「蜥蜴反射結界!」

 「蜥蜴強化結界!」

 「再生蜥蜴結界!」

 「麻痺蜥蜴結界!」

 アマネスの盾から展開した結界が、僕たちやアマネスたちのいる競技フィールド全体を包み込んだ。

 また、アマネス以外の四人の蜥蜴獣人たちの盾から展開した結界が、蜥蜴獣人たち全員を守るように包み込んだ。

 「オーホッホッホ。策に嵌まりましたわね。私の展開した結界の中では、私たち自身の能力は2倍に上がるのです。そして、あなたたち獅子獣人の能力は半減するのです。さらに、私たちの周りには、敵の攻撃を反射する結界、自分たちの攻撃の威力を倍増する結界、傷や状態異常から瞬時に回復させる結界、触れただけで敵を麻痺させる結界がめぐらされているのです。おまけに、私たちには手足を斬られようともすぐに再生できる元々の回復力まであるのです。この鉄壁の回復と防御を破ることは不可能です。先ほどは狼獣人たちに隙を突かれましたが、今回はスタメンフルメンバーで挑ませていただきます。どうです、あなたたちに私たちのこの完璧な防御を打ち破ることができまして?」

 アマネスは自信満々に僕たちに言ってみせた。

 「へぇー、敵の能力を半減させる結界ねぇ。要はデバフ攻撃か。おまけに、自分たちを守る結界を何重にも張り巡らせたわけか。だけど、残念でした。僕たちにこの程度の結界なんて、全くもって無意味なんだなぁ、これが。それじゃあ、サクッとご自慢の結界を破壊させてもらうとするか。」

 僕は左の胸ポケットから如意棒を取り出した。

 如意棒を右手に持つと、如意棒に霊能力を流し込み、黒いハルバードへと変形させた。

 それから、霊能力を全開で解放し、霊能力を全身に身に纏った。

 そして、霊能力のエネルギーを一気に圧縮し、死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーへと変化させ、全身とハルバードに纏わせた。

 アマネス以外の四人の蜥蜴獣人たちに向かって、思いっきりハルバードを振り回して叩きつけた。

 「霊呪斧!」

 蜥蜴獣人たちは僕の振り回すハルバードで盾と結界を同時に粉々に破壊され、体を斬られ、悲鳴を上げながら次々と倒れていく。

 「「「「キャアアアー!」」」」

 ハルバードで斬られた傷口から死の呪いに体を汚染され、蜥蜴獣人たちは体から血を流し、口からは泡を吐き、両目は白目を剥き、全身をピクピクと痙攣させ、気絶している。

 仲間たちがあっさりと僕に倒されたのを見て、アマネスは恐怖で顔面蒼白となっている。

 「そ、そんな!?私の弱体化の結界が効いていないですって!?他の結界も全部破壊されるなんて!?こ、こんなことあり得ません!?一体、何なのよ、これは!?」

 「お前たちの張りぼてみたいな結界で僕たちをどうにかできると思っていたなら、とんだ見込み違いだな。策に嵌まったのはお前たちの方だ。結界も弱体化も回復も全部始めから対策済みだ。残念だったな、性悪オバさん。さてと、それじゃあ、エルザ、その性悪オバさんに止めを頼むよ、それもかなりきつ~いヤツをね。」

 「任された、ジョー殿。」

 エルザは剣を構えると、集中した。

 エルザの全身が光り輝き、エルザの全身から魔力のエネルギーが放出され、魔力のエネルギーがエルザの全身を包み込んだ。

 エルザの全身を流れる魔力のエネルギーを圧縮させ、死の呪いの魔法の効果を持つ黒い魔力のエネルギーへと変換させ、黒い魔力のエネルギーを、剣と全身に纏った。

 そして、エルザの背後に、巨大な蜥蜴の顔のようなマークが浮かび上がった。

 「行くぞ、アマネス!蜥蜴獣人剣!」

 エルザは剣を構えた状態で、アマネスに向かって突撃した。

 アマネスは慌てて盾を構えて防御する。

 エルザの剣が縦方向に振りぬかれた。

 「ハアアッー!」

 エルザの攻撃を受け、アマネスの盾と結界が粉々に破壊された。

 「くっ!?」

 無防備になったアマネスに、エルザが一気に距離を詰め、すれ違いざまに横に剣を一閃した。

 「エイヤー!」

 エルザの剣が、アマネスの胴体を直撃し、斬り裂いた。

 「キャアアアー!」

 アマネスは、エルザによって斬られ、血を流し、地面に倒れた。

 斬られた傷口から死の呪いの魔法が肉体を汚染し、そのショックでアマネスは傷ついた肉体が再生できず、口から泡を吐き、両目は白目を剝き、体をピクピクと痙攣させて気絶している。

 観客席の男たちからチヤホヤされていた美しい顔は、見るも無残な表情へと姿を変えていた。

 蜥蜴獣人たちを全員倒したことを確認した僕とエルザは、ハイタッチして喜んだ。

 「お疲れ、エルザ。これで四勝目だ。狼獣人以外の代表チームは全滅した。後は狼獣人たちとの決勝戦で勝利するのみだ。優勝はもう目前だ。さぁ、この調子で優勝の栄冠を掴み取ろう!」

 「もちろんだとも、ジョー殿!我らに敵はいない!立ち塞がる敵はすべて倒す!そして、共に優勝の栄冠を掴み取ろうぞ!」

 僕たちは四つ目の勝利を手にし、優勝目前まで迫ったことを喜び合った。

 試合終了のゴングが鳴った。

 「試合終了!第十試合の勝者は、獅子獣人派代表チームです!またしても大波乱の展開となりました。今大会最も回復力と防御に優れていると言われていた蜥蜴獣人派代表チームが、自慢の盾と結界を破られ、さらに得意の回復もできずに敗北を喫してしまいました。そして、またもスタメン選手が全員、再起不能で、対抗戦をリタイアとなりました。鷲獣人派代表チーム、猿獣人派代表チーム、狐獣人派代表チームに続き、対抗戦をリタイアするチームがまたもや出てしまいました。敵の防御も回復もお構いなし、情け容赦なく敵を屠る圧倒的な実力、恐るべし獅子獣人派代表チーム!」

 実況役の解説に、会場内の観客席は皆、本日四度目の獅子獣人派代表チームの快進撃にどよめいている。

 「おいおい、強すぎだろ、獅子獣人派代表チーム。アイツらと戦ったチームは即、全滅で再起不能になってやがる。もう、アイツらの優勝で良いんじゃないのか?狼獣人たちじゃ絶対に勝てねえよ。マジで次元が違うわ。」

 「蜥蜴獣人が一発攻撃を食らっただけで回復できなくなるなんて、ヤバすぎるだろ。「黒の勇者」だけは絶対に怒らせないほうがいいぜ。あんな惨い攻撃なんて絶対に食らいたくないぜ。」

 「アマネスちゃんたちが負けたー!俺たちのアイドルにあんな残酷なことをするなんて「黒の勇者」許すべし。だけど、逆らったら、即あの世行き確定だわー。残念だけど、諦めるしかねえわ。」

 「エルザ様の強さもとんでもないぜ。「獣王」のジョブとスキルを継いでないと言うけれど、ありゃ下手したら「獣王」以上かもしれねえぞ?もしかしたら、時代の変化が来たのかもしれねえな?」

 観客たちは口々に試合の感想を述べるのであった。

 二階から第十試合の様子を見ていた狼獣人派代表チーム全員が、獅子獣人派代表チームの圧倒的な強さに戦慄した。

 狼獣人派代表チームのチームリーダーのグレイ・ビズ・ウルフと、彼女の仲間たちも、獅子獣人派代表チームのもはや規格外とも呼べる強さを目の当たりにして、言葉を失っていた。

 「リーダー、次の決勝であのエルザたちと戦うんすよね?どうすんすか?蜥蜴獣人たちの防御も回復も全部無効化するなんて、あんなの規格外どころか無敵じゃないっすか?隙なんてどこにも見当たらないじゃないっすか?もう、優勝は諦めましょう。このままじゃウチら全員、本当に怪我だけじゃすみませんって。マジで殺されますよ。」

 「うるせえ!アタシらには獣人最速のスピードがある。アタシらの足の速さに追いつけた奴は誰一人いねえ。それにアタシらにはこの前大金払って買ったバジリスクの猛毒がある。全員、槍の先にバジリスクの毒液を塗り込んでおけ。ほんのちょっと掠っただげでお陀仏ってわけだ。エルザも「黒の勇者」もバジリスクの毒を食らえばひとたまりもねえはずだ。この際、毒だろうと何だろうと、どんな汚い手を使っても勝つぞ、いいな?」

 グレイたちは、本来はモンスター討伐用のアイテムである、バジリスクの牙から抽出した猛毒を使うという姑息な手段まで使うことを決めた。

 バジリスクの毒は所持していてもすぐに罪に問われることはないが、人間相手に用いることは本来、ご法度とされている。

 あくまで、モンスター討伐用のアイテムであり、バジリスクの毒を故意に人間相手に使うことは、明確な殺人行為である。

 対抗戦のルールでは、どんな攻撃も武器も使っていいとはされているが、違法薬物や、殺人目的の劇薬を持ち込み使用することはルール上禁止されている。

 だが、グレイの頭の中には、対抗戦での優勝と、自分が出来損ないと呼んで馬鹿にしていたエルザへ負けたくないという思いで頭がいっぱいだった。

 グレイのプライドの高さが、彼女の頭から正常な判断能力を奪っていた。

 ついに、議長決定対抗戦がクライマックスを迎えようとしている。

 果たして、議長決定対抗戦を優勝するのは、獅子獣人派代表チームか、それとも、狼獣人派代表チームか。

 主人公たちに決戦の時が迫る。


























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