第十二話 【処刑サイド:光の女神リリア】光の女神リリア、適性試験を不合格となる、そして、女神の資格と能力を失い、地獄に落とされる

 「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈と、主人公率いる冒険者パーティー「アウトサイダーズ」が、サーファイ連邦国にてバカンスを楽しみつつ、強化トレーニングに取り組み始めてから約3週間あまりの月日が経過した頃のこと。

 「光の女神」リリアが、神王ビギン外神界上層部によって、女神の適性試験受験を命じられ、女神の資格と能力の剥奪の有無がかかった適性試験を受験してからもうすぐで一ヶ月が過ぎようとしていた頃のこと。

 様々な世界の神々が住まう、雲の上の楽園のような場所、神界。

 早朝、午前8時55分。

 その神界の一角にある白いギリシャ神話風の神殿の建物に、光の女神リリアがいた。

 いつもは綺麗に整っているプラチナブロンドのロングストレートヘアーの髪は、若干ボサついていて、寝癖が見受けられる。

 いつも着ている白いドレスも、普段と違いどこかヨレヨレとしている感じである。

 目元には若干、クマが出来ている。

 リリアは神殿の一室で、急いで朝食を食べながら、仕切りに部屋の壁にかけてある壁時計に目を向け、気にするそぶりを見せる。

 「・・・モガモガ、後、5分!ブレンダが来る前に、早く支度を整えないと!最近、何だか朝が辛いのは、頭が重いのはどうしてでしょうか?やっぱりストレスでしょうか?とにかく、遅刻するわけには行きません!」

 リリアは朝食を急いで食べ終えると、自身の神殿内の、「剣の女神」ブレンダとの仕事の打ち合わせ場所でもある、会議室へと走って向かう。

 午前、8時59分。

 走って会議室へと滑り込んで入ったリリアは、打ち合わせの予定時刻の約一分前に、ギリギリ間に合った。

 会議室の中には、既に、更迭中で自宅謹慎中のリリアに代わって、アダマスの担当女神兼リリアのお目付け役の「剣の女神」ことブレンダが、椅子に着席して待っていた。

 「おはようございます、ブレンダ!」

 「おはようございます、「光の女神」リリア様。早速、今日の仕事の打ち合わせを行いたいのですが、失礼とは存じますが、その、服装がかなり乱れておいでですし、少し直されてきてはどうですか?口元にも、若干、食べかすが付いておられますし。万が一、私以外の来客があった時、その姿を人前に晒すのはあまり、リリア様にとってもよろしくはないかと?」

 「た、大変失礼しました!お気遣いは結構です!今日は特にあなた以外に来客の予定もありません!すぐに仕事の打ち合わせを終わらせれば、何時でもすぐに直せます!それよりも急いで打ち合わせを始めましょう、ブレンダ?」

 「は、はぁ~。リリア様がそう仰るのであれば、私は一向に構いませんが。では、早速、本日の仕事の打ち合わせを行いましょう。なるべく早く終わらせるとしましょう。どうぞお席に着いてください。まずは、最近のアダマスの状況報告についてです。各国の最新の社会情勢、ニュースなどについてお手元に資料と報告書をご用意しました。そちらもご参照ください。最初に・・・」

 ブレンダは用意した報告書と資料を読み上げながら、リリアに最新のアダマスに関する情報、ニュースなどを説明し、報告する。

 リリアは若干、眠気と頭痛に襲われながらも、必死に精神力で持ち堪え、ブレンダからの報告を聞き、質疑応答に答えていく。

 約1時間後、ブレンダとの仕事の打ち合わせ、会議が終了した。

 ブレンダは自身が淹れて水筒に入れて持ってきたホットコーヒーを、同じく持参したコーヒーカップに入れると、ホットコーヒーの入ったカップをリリアに手渡した。

 「お疲れ様でした、リリア様。大分お疲れのご様子ですが、どこか具合でも悪いのですか?先週から以前に比べて、お顔の色が悪いように見えます。適性試験のことが、異世界に派遣した人間たちのことが気になるのは分かりますが。毎日行っている仕事の打ち合わせや会議、報告会ですが、時間をズラされますか?体調がお悪いようでしたら、少しお休みされて専門医にご相談されてはいかがです?ご無理をされるのはよろしくないかと?」

 ブレンダからもらったホットコーヒーを軽く啜ると、リリアは返事をした。

 「ふぅ~。お気遣いありがとうございます、ブレンダ。私なら大丈夫です。元々、朝が弱いのもありますが、ちょっと疲れているだけです。ただ、目覚ましはセットして時間通りに起きているし、最近は謹慎中とは言え、打ち合わせなどの仕事量も多くはないはずなのに、何故か、疲れやすいと言いますか、体が重い感じがしまして。軽く研究や趣味のガーデニングをしていても、どうにも女神の力が今一使えないし、頭がボゥーっとすることもあって。やはり、あなたの言う通り、一度医療専門の他の神に診てもらった方が良いのでしょうか?私も一応、生物学や医学にもそれなりに詳しい方なのですが。ただの疲労かもしれないので、ちょっと休息を取れば、問題ないでしょう。」

 「そうですか。でしたら、今日から三日ほどお仕事を休まれて、静養されてはいかがでしょう、リリア様?私もアダマスの管理に慣れてきましたし、特に大きな仕事があるわけではありませんし。神王様には私からリリア様の体調のことなどは伝えておきますから、ご心配には及びません。万が一、アダマスで緊急事態が発生した場合、あなたのお力も借りるべき事態が発生した時は、できる限りご協力をお願いします。ゆっくりと体と心を休めて、仕事のことも試験のことも忘れて、体調を整えてください。」

 「あ、ありがとうございます、ブレンダ。では、三日ばかりお休みをいただきます。後、このコーヒー、とても美味しいですね。」

 「そう言っていただけると嬉しいです。そのコーヒーは私が豆から挽いて、私が今朝淹れたばかりのコーヒーなんです。そのコーヒーに使われているコーヒー豆は、チキュウのマンデリンと呼ばれる、強い苦みにやや弱い酸味、独特な香りと後味が特徴的な豆なんです。よりマンデリンの良さを引き立てるため、苦みが出やすいイタリアンローストと呼ばれる方法で豆を挽いています。以前、「黒の勇者」、ジョー・ミヤコノ・ラトナにアイスコーヒーでお出ししたら、とても美味しいと、彼も喜んで飲んでくれました。ジョー・ミヤコノ・ラトナも私と同じ、ブラックコーヒー派らしくて、特にマンデリンを使ったコーヒーが好みのようです。昨日も一緒に、サーファイ連邦国でエロ写真の密売グループを摘発する仕事をした後、そのコーヒーを彼と一緒に飲みました。仕事後に同僚と飲むコーヒーは、特に彼と一緒に二人だけで飲むコーヒーは、格別美味しく感じます。良かったら、リリア様、豆をいくつかお分けしましょうか?「黒の勇者」といずれ和解する時が来た時、きっかけに使えるかもしれません。」

 「「黒の勇者」がコーヒーが好きだとは、知りませんでした。マンデリン、ですか?少々、苦く感じますが、悪くはありませんね。私にもそのマンデリンを、分けていただけますか、ブレンダ?んっ!?ブレンダ、あなたは「黒の勇者」と、その、二人っきりで一緒に仕事をして、二人っきりでいつもコーヒーを飲むような、そんな仲なのですか?「黒の勇者」とそんなに頻繁に会っているなど、今、初めて知りましたが?」

 「そう言えば、お話ししていませんでしたね。神王様から「黒の勇者」への接近禁止命令をあなたは受けているので、あなたにはあまりお話しするべきではないのですが、私は「黒の勇者」とよく会って、仕事の相談をしたり、仕事を手伝ってもらったり、彼のトレーニングの相手を務めたりもしています。私は「黒の勇者」、ジョー・ミヤコノ・ラトナの担当女神を務めています。私の女神の加護を与え、共にアダマスの正義と秩序を守る同胞として、彼の育成、管理、保護をするのは当然です。ジョー・ミヤコノ・ラトナ、彼は確実に、さらに強くなっています。動きは粗削りですが、かなりトリッキーな戦い方をしてきますね。総合力、能力の多さやバランス、用意周到さ、戦闘時におけるとっさの判断力、そして、何より、決して勝負を諦めない精神力の強さ、そういったところが彼の強さの所以でしょう。彼と手合わせをしましたが、私の剣を生身で受け止め、ゼロ距離から容赦ない捨て身のカウンターを撃たれた時は、一瞬、私も焦りました。間違いなく、ジョー・ミヤコノ・ラトナ、彼は私たち神々に匹敵する戦闘能力の持ち主です。そして、今なお、急速なスピードで成長、進化し続けています。担当女神として、女神の加護を与えた者として、彼の成長が本当に楽しみです。」

 「そ、そこまで「黒の勇者」は強くなっているのですか?ブレンダ、あなたを模擬戦とは言え、あなたの自慢の剣を、生身で受け止めたのですか?それでいて尚も成長を続けていると?「黒の勇者」が私たち神々に匹敵するレベルに既に到達しているかもしれないと?な、何故、私はそれほどの潜在能力を宿していたあの少年のことを見誤ったんでしょう?「黒の勇者」が特殊体質である情報は、チキュウの神々からもらった勇者の候補者リストの資料には一切、載っていませんでした。チキュウの高位の神々が私同様、彼のことを見誤った可能性がある?そんなことがあり得るのでしょうか?まさか、今回の不調の原因とも関係が?ああっ、また頭痛が!?」

 「無理はしないでください、リリア様。過ぎたことを思い詰めても仕方がありません。「黒の勇者」、ジョー・ミヤコノ・ラトナは極めて稀な特殊体質、特殊な能力の持ち主だと、神王様より私も伺っております。彼の出生や身元についてある程度情報をいただきましたが、私も全ては把握していません。より詳細な情報開示を求めましたが、チキュウ関連の機密情報に該当するため、開示できないと、上層部より断られてしまいました。迂闊に彼の出生や身元について探るのは控えておいた方が良いと、アドバイスさせていただきます、リリア様。下手に詮索をすれば、私もあなたも神界上層部から目を付けられる可能性があります。気を付けてください。」

 「分かりました、ブレンダ。神界上層部が厳重に情報統制を敷くほどの秘密が「黒の勇者」には隠されている、アンタッチャブルな機密に触れることになる、ということですね。私はこれ以上、神王様や神界上層部の方々の不興を買うわけにはいきません。「黒の勇者」について深く詮索しないよう、注意します。ご忠告をありがとうございます、ブレンダ。」

 「いえ、当然のことですから。今日は早く自室でゆっくりお休みになってください。自室までご一緒しましょう。私につかまってください。」

 「ありがとうございます、ブレンダ。ゆっくり休息をとって、早めに体調を回復させますので。神王様にもよろしくお伝えください。」

 ブレンダに体を支えられ、リリアは神殿の自室まで歩いて移動し、ブレンダと別れると、自室のベットで静かに横になって、深い眠りに就くのであった。

 そんなことがあってからさらに五日後のこと。

 リリアが三日間の休養をもらい、ある程度、体調を回復させ、午後からブレンダと軽い仕事の打ち合わせ、報告会が予定されていたその日のこと。

 午前11時。

 神殿の庭でのんびりと趣味のガーデニングを楽しんでいたリリアの下に、突如、ブレンダが現れた。

 予定よりも明らかに早くやって来たブレンダの来訪に驚き、一体何事かと困惑するリリアであった。

 「リリア様、突然の来訪をお許しください。」

 「ぶ、ブレンダ!今日の会議は午後2時からの予定のはずでは?ちゃんと時間は確認してメモを取っています!まさか、アダマスで緊急事態が発生したのですか?元「槌聖」たち一行が何かとんでもない大事件を引き起こしたのでは?それとも、「黒の勇者」の身に何かあったのですか?」

 「落ち着いてください、リリア様。アダマスにおいて特に緊急性を要する事件等は起こっていません。神王ビギン様並びに、神界上層部より、「光の女神」リリア様、あなたが現在受けている女神適性試験の進捗状況などについて、神王様たちより直接あなたにお話ししたいことがあるため、神王様の神殿までお越しいただきたい、との言伝を授かってまいりました。リリア様の体調が悪いようでしたら、後日でも構わない、とも伺っております。リリア様の体調が優れないようなので、私が傍について必要なら介助するようにとも、言われております。大事な適性試験の内容に関わることなので、直接リリア様に会ってお話しされたいと、神王様たちは申されております。まだ体調が優れないようでしたら、指定された後日に会いたい、そうリリア様が仰っていたと私が代わりに神王様にお伝えします。いかがなさいますか、リリア様?」

 「適性試験の進捗状況に関するお話ということならば、すぐに伺います、ブレンダ!私の体調でしたら問題ありません!おかげさまで今日は好調です!支度をしますので、少々お待ちください!5分で終わらせますので!神殿の玄関でお待ちいただけますか?」

 「かしこまりました、リリア様。では、玄関でお待ちしております。病み上がりなのですから、そんなに急がれなくても大丈夫です。では、5分後に玄関で。」

 ブレンダが庭を出て、玄関の方へと歩いて向かう姿を見ながら、リリアは内心、不安に駆られた。

 「至急の要件ではないそうですが、やはり適性試験の進捗状況に関することだと言われると、少し不安を感じます。まだ試験開始から一ヶ月あまりしか経っていません。私が選んで異世界に派遣した人間たちが何か問題を起こした、あるいは、予想以上に早く何らかの成果を出した、ということでしょうか?とにかく、神王様に会って、直接お話を聞かなければ!?」

 リリアは不安をおぼえながらも、急いで出かける身支度を整えると、玄関前にいるブレンダと合流し、ブレンダに連れられ、神界の中央にある神王ビギンのいる神殿へと歩いて向かった。

 ブレンダに案内され、共に神王ビギンのいる超巨大な神殿へとやって来たリリアは、神王ビギンのいる謁見の間まで案内された。

 謁見の間に入ると、数人のリリアたちより高位の神々に、護衛を務める最高位の天使たちがズラっと、並んで立っていた。

 そして、謁見の間にある巨大な玉座の上に、70代前半くらいの、一人の老人が座って待っていた。

 身長5m超えの巨体に、白いくせ毛の、ゴワゴワとした長髪に、サンタクロースのように長く白い髭を口元に生やしている。

 瞳の色は、澄んだ緑色をしている。

 キトンのような白いローブを身に纏い、表情は一見穏やかで、やや無機質にも見えるが、目には力があり、全体的に荘厳な雰囲気を漂わせている。

 古代ギリシャの賢者を連想させる、その老人の名はビギン。

 「始まりの神」、「神の中の神」、とも呼ばれ、また、神王様とも呼ばれる、神界の神々の頂点に君臨する、神界の統治者にして大賢者である。

 全ての神々、天使、悪魔が、神王であるビギンの前にひれ伏すほどの絶対的な存在、真に全知全能の神たる存在なのである。

 ビギンの座る玉座の前でリリアたちは皆、かしづいた。

 「面を上げよ。」

 「神王ビギン様、ご命令通り、「剣の女神」ブレンダ、「光の女神」リリアをお連れいたしました。」

 「うむ。いつもながらご苦労である、ブレンダ。ブレンダ、少し後方でお前はしばらくそのまま待機せよ。「光の女神」リリアよ、ブレンダより体調不良と聞いていたが、体調はもう良いのか?」

 「はい、神王様。しばらく休養を取らせていただいたおかげで、この通り体調はほぼ戻りました。お気遣いいただき、誠にありがとうございます。ところで、私の適性試験の進捗状況に関して、神王様たちより直々に私にお話ししたいことがある、と聞いて参上いたしました。是非、試験の進捗状況に関してお話を聞かせていただけますでしょうか?」

 「よろしい。では、話をする前に、試験官の三人をこの場に呼ぶとしよう。セクト、ベスティア、ティーズの三名をここへ呼ぶように。」

 神王ビギンの命令を受け、近くにいた天使たちがセクトたち三人の女神を呼びに行った。

 まもなく、天使たちに案内され、セクト、ベスティア、ティーズの三人が、リリアたちの前に現れた。

 玉座に座るビギンに向かって跪くセクト、ベスティア、ティーズに向かって、ビギンが言った。

 「面を上げよ、三人とも。」

 「はっ。「虫の女神」セクト、ただいま参上いたしました。」

 「同じく、「獣の女神」ベスティア、参上しました。」

 「右に同じく、「遊戯の女神」ティーズ、参上しました~。ニッシッシ。」

 「「虫の女神」セクト、「獣の女神」ベスティア、「遊戯の女神」ティーズ、よく来てくれた。早速だが、「光の女神」リリアの適性試験の進捗状況などに関して、試験官であるお前たちより、ここにいるリリア、謁見の間にいる者たち全員に報告をしてもらいたい。報告書を既にもらって、採点官を務める私と高官六名は状況を把握しているが、お前たちの口から直接、改めて報告を聞かせてもらいたい。尚、神王であるこの私の前で嘘偽りを話すことはできない。正確に、詳しく、事実のみを答えよ。分かったな、三人とも?」

 「はっ、かしこまりました。」

 「分かりました、神王様。」

 「ニッシッシ~。かしこまりました~。」

 「では、最初に、異世界モース担当、「虫の女神」セクトよ、先日モースへと派遣したアダマスの人間たちの、モースでの動向、活躍、試験の進捗状況について報告を頼む。」

 「かしこまりました、神王様。先日、私が管理する異世界モースへ、「光の女神」リリアより推薦のあったアダマス出身の人間30名を派遣いたしました。モースが長年抱える食料問題の解決のため、農業関連の技術者、専門家を30名、アダマスより派遣いただき、約一ヶ月あまりに渡り、彼らの試験中の素行、動向、活躍などを試験官の立場から監視、監督しておりました。結論から先に申し上げますと、現在までに派遣された人材の内、5名が死亡、10名が現地でトラブルを起こし、逮捕又は職務を放棄、10名が現地でトラブルを起こし、現地人とトラブルになり民事訴訟及び刑事訴訟中のため、職務を一時停止、残り5名が職務を遂行中ですが、目立った成果は特に出ておりません。以上です。」

 セクトからの衝撃的な報告を聞いて、リリアは驚き、思わず声を荒げる。

 「う、嘘です!?派遣した30名の内、25名が職務を遂行できていないとは、たった5名しか職務に専念できていないなど、あ、あり得ません!いくら何でも異常です!セクト、試験官で女神であるあなたが監督していて、このような事態に陥るはずがありません!どうか、納得のいく説明をお願いします!?」

 「ふぅー。リリア、私の言ったことは全て真実よ。まず、死亡した5名だけど、彼らは皆、モースの王族を侮辱した罪で死刑が下され、死んだわ。あれほど、モースでは外見のことで差別する発言はタブーだと、外見容姿に関する差別、誹謗中傷は最悪、死刑に問われる、そう注意したのに、死んだ五人はモースに到着早々、私からの忠告を破った。派遣直後、彼らを出迎えたマンティス王家の、国王夫妻が溺愛する5歳の幼い可愛い王女が最初に挨拶してきたのに、彼らは王女に向かって醜いだの、気色悪いだの、化け物だの言って、王女をその場で泣かせたのよ。国王夫妻やモースの国民たちが激怒して当然よ。彼らはその場で即刻、マンティス王家を侮辱した罪で全身を大鎌で斬り落とされ、死刑になった。私がどれだけ、王家やモースの人々に頭を下げるはめになったか、あなたにその苦労が分かる、リリア?まだ、これで終わりじゃないわよ。こんなのは序の口よ。逮捕又は職務放棄した10人は、研究が上手く行かないからと、現地人の、他の研究者の研究を盗もうとしたのよ。盗んだ苗や種を企業に売りつけて金儲けまで企んだ輩までいる。即刻、ソイツらの女神の加護を使用不能にして、現地の警察に逮捕させたわ。その10名は逮捕されて、牢屋の中にいるか、職場を追い出されて、農業とは無縁の場所でアルバイトや日雇いの仕事をしているか、あるいはホームレスになっているわ。次、職務を一時停止中の10名は、確かに真面目に研究を行っていたわ。だけど、現地人のガイドや職場の同僚の意見を無視して、女神の加護を二つも持っている天才だとか言って自分を過信して、暴走したの。功を焦っていたのもあるのでしょうね。まだ未完成の研究中の新種の野菜や穀物、植物、農薬、肥料などを、周囲の反対や許可も無視して、勝手にモースの農地で、栽培実験を行った。その結果、実験を行った農地や周辺の農家の農地などの土が使い物にならなくなる被害が出た。実験を行った農地の傍にある農家の畑の野菜類が、未完成の新種の影響で枯れて全滅した。中には、実験中の植物を食べた害虫が突然変異を起こし、より強力な害虫へと進化して、モースの農家の畑の作物を食い荒らす被害まで出した。問題を起こした10名は直ちに女神の加護を使用不能にしたわ。だけど、本人たちは自分たちだけの責任ではないと言って、責任逃れをしようとする醜態ぶりよ。現在、被害を受けた現地人の農家や土地の所有者、農業関連の企業から、損害賠償請求や土地への不法侵入、不法占有、研究資金の横領、恐喝なんかで、民事訴訟と刑事訴訟でそれぞれ訴えられている始末よ。裁判はきっと泥沼化するだろうし、あんな身勝手で無責任な連中の活動を認めるわけにはいかないわ。何とか5名が残って、真面目に研究してはいるけど、問題を起こした連中のせいで、現地人からの彼らに対する風当たりは強くて、まともに研究を続けるどころか、日常生活を送ることすら日々、怪しくなっている状況よ。今のままだと、とても残り11ヶ月以内に成果を出すのは精神的に厳しいと言えるわ。一応、私の方でケアは行っているけど。リリア、あなたの選んで派遣したアダマスの人間たちのせいで私は大恥をかかされた。現地人たちは多大な被害を被り、怒り心頭よ。もう分かってるとは思うけど、今の時点であなたの大幅な減点は確実。そんなことよりも、あなたのせいで滅茶苦茶にされたモースの土地に作物、食糧への損害賠償は、契約書通り、きっちり請求して取り立てるから。いい、絶対に返済してもらうから!」

 セクトが激しい怒りを露わにしながら、リリアやビギンたちの前で説明を終える。

 「せ、セクト、ゆ、許してください!?私が選んだアダマスの人間たちがそこまで愚かで、深刻な問題をいくつも起こすなんて、本当に、本当に想像もしていなかったのです!賠償は必ずします!で、ですから、どうか残り5名のことは何とかフォローしてください!お願いします!」

 「「虫の女神」セクト、報告ご苦労である。お前の発言、報告に嘘偽りがないことは分かった。こちらで個別に調査した内容とも合致している。次に、異世界グルージャ担当、「獣の女神」ベスティアよ、先日グルージャへと派遣したアダマスの人間たちの、グルージャでの動向、活躍、試験の進捗状況について報告を頼む。」

 「分かりました、神王様。先日、アタシが管理する異世界グルージャへ、「光の女神」リリアより推薦のあったアダマス出身の人間30名を派遣いたしました。グルージャが抱える社会の停滞、刺激不足の解消のため、武術、芸術、学問など、各ジャンルの専門家を30名、アダマスより派遣いただき、約一ヶ月あまりに渡り、彼らの試験中の素行、動向、活躍などを試験官の立場から監視、監督しておりました。結論から先に申し上げますと、現在までに派遣された人材の内、10名が負傷で入院中のため、職務を一時停止中。6名が現地人とトラブルになって、民事訴訟と刑事訴訟のため、同じく職務を一時停止中。4名が刑事事件を起こして逮捕され、収監中あるいは職務を放棄。残り10名が職務を遂行中ですが、特に成果らしい成果はまだ出ていません。職務遂行中の10名の内、約3名ですが、精神的ショックでうつ状態にあり、このまま職務遂行を続けさせるべきか判断に迷っています。以上です。」

 「そ、そんな!?ベスティア、まともに職務を遂行している、アダマスから派遣した人間が、実質7名しかいないとは、一体どうして、そのようなことになったのですか?り、理由を教えてください!?」

 「理由だぁ~!?そんなの決まってる。クソ女神のお前が育てた、元性犯罪者の人間のクズで根性なし、だからに決まってるだろうが?はぁー!?一応、詳しく説明してやるが、まず、負傷して入院中の10名、コイツらは全員、ただの実力不足だ。ついでに言えば、女神の加護に胡坐をかきまくって、自分の実力を見誤って、調子に乗った馬鹿だ。コイツらは全員、グルージャの武術大会に出場した、アダマス出身の武芸者だ。確かにアタシの加護も与えて、リリア、お前の加護も使えるようにして、腕もそれなりにあって、武芸者としてそれなりに実力はあった。けどな、アニマンたちが主宰する武術大会のレベルは、アニマンの真の猛者である武芸者たちの実力は、女神の加護を二つ持って、ちょっと他の異世界で腕が立った程度じゃあ、絶対に勝ち残れねえ厳しい世界なんだよ。地方の小さな大会からスタートして、優勝なり入賞するなりすればいいってのに、連中はアタシや現地人たちの忠告を無視して、いきなり中級クラスや上級クラス、全国レベルの大会に出場した。練習とかでちょっと現地人の武芸者を負かしたからっていい気になってよ。結果、上級クラスのアニマンの武芸者、歴戦の猛者たちに挑んで、全員ボコボコにされて予選で敗退、入賞すらできず、即入院だ。おまけに怪我の程度がひどくて、一番軽い奴で全治4ヶ月、一番重い奴で全治半年以上だ。散々、大会会場で他の出場者や観客を煽って、いきりまくって、好感度は下げまくってからの盛大に自爆だ。入院してる奴の中には、アニマンの強さにビビッて、しばらく大会は出たくないとか言ってる奴もいる。ありゃあ、全員、無事に怪我が治っても、入賞どころか出場すら難しいぜ。そういうわけだ。ええっと、現地人とトラブルになって職務停止中の6名だが、コイツらは芸術や学問の分野の専門家ってことで呼んだんだが、今一、アダマスの絵画とか音楽だとか、科学だとかの良さが現地のアニマンたちに伝わらなくてよ。アイツらなりに研究して道を極めてきたのは分かる。だけど、アダマスの、異世界の文化、テクノロジーを伝えて、グルージャの刺激に飢えている現地人たちの心を動かすレベルじゃあなかった。コンテストに出ても入賞には至らなかった。それで、ここからが肝心なんだが、どうもこの連中には、現地のアニマンの他の奴の、デザインだとか研究だとかを盗作した、あるいは他の奴の作品作り、研究を故意に隠れて妨害した疑いが浮上してよ。それで、その6名と現地人たちの間で争いが起きて、民事訴訟や刑事訴訟にまで発展して、とても職務遂行ができる状態じゃねえ。もし、盗作なんかが事実なら、グルージャの法律で連中は逮捕されることになる。疑惑のせいで各コンテストへの無期限の出場停止処分を食らってる。それから、刑事事件を起こして逮捕されて職務停止中の4名だが、コイツらはマジで全員、変態かクズだ。宝石職人の奴のケースだが、アダマス風のデザインとやらで勝負するものの、出場したコンテストでは入賞できなかった。功を焦ったソイツは、あろうことか、女神であるこのアタシのヌードをデザインした宝石の彫刻を作って、コンテストに出場しやがった。当然、アタシの信者である現地人たちは審査員、観客含め、全員大激怒。即失格の上に、わいせつ物頒布等罪、女神への侮辱罪などで逮捕され、永久にコンテストへの出場資格を失って、職も信用も、全て失った。女神のヌードならウケると思うとか、マジで頭が狂ってやがる。正直、ソイツを今すぐぶち殺してやりたい気分だ。他にも、他人の作った剣を、自分の作った剣だとか言って、勝手にコンテストに出品して、入賞する不正を働いたクズなんかもいたな。即刻、バレて逮捕されて、今も牢屋の中だ。追い詰められたら、何の努力もせずにすぐに犯罪や不正に走って楽しようとするのは、どっかの誰かさんや、アダマスで暴れ回る元勇者どもと一緒だよな、マジ?最終的に今、職務遂行中の人間は10名だが、3名は精神的ストレスや、他の連中が起こした風評被害のせいで、うつ状態やノイローゼ気味になって、はっきり言って、職務遂行の継続は厳しい。無理をせず、病院で治療をして、しばらく静養するよう、アタシの方で言い聞かせてるところだ。リリア、いや、クソ女神、テメエが寄越したアダマスの人間は全っ然、問題解決の役に立ってねえ。逆に問題を増やして、アタシやグルージャの現地人たちに迷惑をかける一方だ。迷惑料として、約束通り、アダマスの珍しい鉱物をたっぷりと払えよ。正直、その鉱物すら新しい問題の種にならねえかと、アタシは疑ってるがな。マジでアダマスの人間が根性なしの卑怯者のクズ人間、男は変態ばかりだってのも、よ~く分かったぜ。二度とアダマスの人間を入れさせたりはしねえからな。ああっ、「黒の勇者」、噂の勇者君なら大歓迎だがよ。いや、イヴに相談する話だったな。お前じゃダメだったわ。まぁ、そういうわけだ。減点は覚悟しとけよ、クソ女神?」

 ベスティアが、顔を顰め、怒りの眼差しを向けながら、リリアに冷たく言い放った。

 「べ、ベスティア!?くっ!?元性犯罪者とは言え、そこまであの人間たちが堕落していたなんて!?本当に、本当に、すみません!?ベスティア、何とか、何とか、残り10名のフォローをお願いします!必要なら追加で鉱物以外のモノを支払いますので、協力してください!お願いします!」

 「リリアよ、お前は少し黙っていろ。まだ、報告は終わっていない。「獣の女神」ベスティアよ、報告ご苦労である。お前の発言、報告に嘘偽りがないことは分かった。こちらで個別に調査した内容とも合致している。最後に、異世界ニグマ担当、「遊戯の女神」ティーズよ、先日ニグマへと派遣したアダマスの人間たちの、ニグマでの動向、活躍、試験の進捗状況について報告を頼む。」

 「ニッシッシ!かっしこまりました~、神王様~!この前~、ティーズが管理する異世界ニグマに~、「光の女神」リリアより推薦のあったアダマス出身の人間40名を派遣しました~。ニグマが抱えてるティーズ特製のダンジョンの攻略率低下の解決のために、アダマス出身の冒険者や傭兵なんかをやってたことのある人間を推薦、派遣してもらって、一ヶ月ちょっと、その人間たちの試験中の素行、動向、活躍などを試験官の立場から監視、監督してました~。結論から先に言っちゃうと~、20名が死亡、10名が再起不能、5名が逮捕されて職務停止中、2名が逃亡又は職務放棄、残り3名が生き残って職務遂行中で~す。1割も残らず、ほぼ壊滅状態で~す。リリア~、もう人生ゲームオーバー確定しちゃったね~(笑)!」

 「そ、そんな馬鹿な!?たった3名、1割も残っていない!?B級冒険者以上の、ダンジョン攻略に適性のある人間たちだったはずです!ティーズ、あなたも選考に関わって、試験官を務めてくれていました!な、何故、そのような酷い有り様に、試験開始から一ヶ月ほどしか経たないのになってしまったのです!?無理なダンジョン攻略は控えるよう、言い聞かせたのではなかったのですか?」

 「あのさ~、勝手にティーズだけに責任を押し付けようとすんのは止めてくんない?ティーズは試験官としても、ニグマ担当の女神としてもちゃんとお仕事してるから~。悪いのはそもそも、エロ写真なんかを買った変態ばっかを選んで寄越してきたリリアなんだし~。元が犯罪者だったんだから、しょうがなくな~い?後、選んだ人間が低レベルの、弱っちい雑魚で馬鹿で間抜けのクズばっかだったからでしょ~。リリア、ティーズのダンジョンは簡単には攻略できない、プレイヤーとしての適性が無ければすぐに死ぬかもしれないって、ちゃんと言ったよね~。一応、教えてあげるけど~、デットエンドになった20名はただの実力不足のお馬鹿さんだったから死んじゃったの。リリアの加護だけじゃあ生き残れないから、ティーズの女神の加護もちゃ~んと与えた。成長次第ではチートスキルにもチート装備にもなる武器を、プレイヤー本人が望む物を一つだけ、あげたの。レベルアップ前の状態でも、レベル20クラスのダンジョンは攻略できるくらいの奴だよ。だけど~、死んじゃったプレイヤーはみんな、ちょっと自分が成長が早いからって、周りより強いからって自信過剰になってさ~、現地人、シーカーの同じ冒険者パーティーの仲間の意見を無視して、自分の適正レベルより上のダンジョン攻略に挑んだの。中には、宝を独り占めしたくてソロで攻略しようと挑んだ強欲なお馬鹿さんもいたっけ。レベル30クラスのダンジョンに無謀な突撃して、ソイツら全員、ダンジョン攻略に失敗して、即ゲームオーバー、デットエンドになっちゃったわけ。ティーズの警告を破るからそういうことになるんだよ。ええっと~、ゲームオーバーになった10名は、デットエンドになったプレイヤーたちと理由はほぼ同じ。自分たちではまだ攻略不可能な高レベルのダンジョンに挑んで、その結果、全員、プレイヤーとして再起不能になる重傷を負って、即ゲームオーバー。シーカーの仲間でアイツらを見捨てず、助けてくれる優しいプレイヤーたちがいたから命だけは助かった感じ。でも~、中には完全に歩けなくなったり、目が見えなくなったりして、もう一度プレイヤーとしてダンジョン攻略に挑むのは無理だね~。ゲームリタイアになった5名は、マジで犯罪をしでかしたから、全員逮捕されてアウトになったの。ダンジョン攻略中に自分がモンスターにやられそうになったからって、仲間を殺してモンスターの餌、身代わりにして逃げようとしたり、パーティーの資金に勝手に手を出したり、注意されたからって仲間に暴力を振るったり、ホントマジで最悪。アレが一番、ティーズ的にムカついたなぁ~。だから、全員、殺人罪に横領罪、暴行罪、恐喝罪なんかで逮捕されて今は刑務所の中に入って全員、リタイアってわけ。自分からゲームをリタイアした2名は、ティーズのダンジョンにビビッて、プレイヤーを辞めちゃった。後、同じパーティーの仲間の彼女に手を出して、寝取ろうとしたことが分かって、パーティーを追放されて、悪評も広まって、プレイヤーを辞めて、逃亡中。最終的に3名のプレイヤーがダンジョン攻略に今も挑んでいるけど、ソイツらは今だ低レベル、レベル20クラスのダンジョン攻略にすら苦戦して、今一、成長してないかな。他の連中よりは真面目だけど、どこまで続くかな~、って感じ。はっきり言って、アダマスの人間のプレイヤーって、マジ低レベル。マジで弱くて、馬鹿で間抜けでクズばっか。あの程度の実力でアダマスでは一流とか、高レベルの冒険者なの?マジで期待外れ、ガッカリなんですけど~。ああっ、アダマスのモンスターがたくさん欲しいって前にリリアにお願いしたけど、レベルが高いのをちょっとくれるだけでいいから。正直、アダマスのモンスターは強くないって分かったから。レベル10クラス以下で使えるかどうか、試すくらいでいいかな~って。ティーズも、現地のシーカーたちもホントにガッカリだよ~。せめてレベル100を攻略してくれる奴が1人くらいはいて欲しかったよ~。つか、逆にダンジョンの攻略率さらに下がったんですけど~。リリア~、仕事サボり過ぎでしょ。もう女神の仕事は辞めて、イヴとブレンダの二人にアダマスは任せて引退したら~?マジ向いてないって、絶対。」

 ティーズが残念そうな表情を浮かべながら、リリアに白けたとでも言いたいような眼差しを向けて、説明した。

 「こ、ここまで、私との約束を、私の期待を裏切るなんて!?何故、何故、このような事態に・・・」

 「リリアよ、私語を慎め。「遊戯の女神」ティーズよ、報告ご苦労である。お前の発言、報告に嘘偽りがないことは分かった。こちらで個別に調査した内容とも合致している。セクト、ベスティア、ティーズ、三人とも改めて報告をありがとう。現地での試験官役、トラブルの処理など、よく頑張ってくれた。三つの異世界に今も残って活動中のアダマスの人間たちへのフォロー、監視を引き続きお前たちには頼む。さて、「光の女神」リリアよ、お前の適性試験の進捗状況に関してセクトたち試験官より報告があったが、いずれの報告も事実である。元々の、お前の人選自体に問題があったのも承知しているが、お前が育て、女神の加護を与えたアダマスの人間たちは、散々たる有り様だ。試験開始からわずか1ヶ月弱しか経過していないにも関わらず、300名の派遣した人間の内、異世界で活動を継続できている人間は15名、全体の5%にとどまる。実際にまともに働いている人間はそれよりも少ない。派遣した各異世界が受けた被害も大きい。現地人に多数者の死傷者が出る被害まで出ている。まだ試験開始からまもないが、既に結果は明らかだ。採点官にして最高責任者である私の命を持って、「光の女神」リリアの女神適性試験を即刻、中止、終了する。現時点での「光の女神」リリアの試験の点数は、合格ラインの150点に遠く及ばない、35点だ。残り11ヶ月で合格ラインに必要な残り115点を満たす可能性は全く無いと、私を含む七名の採点官は判断した。これ以上、適性試験を続ければ、モース、グルージャ、ニグマの、三つの異世界へのさらなる被害拡大が懸念される。「光の女神」リリアよ、適性試験を不合格とみなし、お前の女神の資格と能力を剥奪する。さらに、これまでに犯した数々の罪、問題を考慮し、お前を地獄に落とし、地獄で3,000年間、火炙りの刑に処す。これは神王である私、及び神界上層部の決定である。判決は以上だ。」

 神王ビギンから、自身の適性試験の終了、自身の試験不合格、さらに、女神の資格と能力を剥奪、地獄での刑罰執行という処分、決定を聞かされ、リリアはその場でビギンや神界上層部に向かって、命乞いを始めた。

 「お、お待ちください、神王様!?どうか、どうか、この私、「光の女神」リリアに今一度だけチャンスをお与えください?まだ、現地に活動中のアダマスの人間たちが残っております!彼らは必ず、合格ラインに必要な点数を、確かな成果を上げるはずです!どうか、どうか、適性試験の継続をお願いします!私とアダマスの人間たちに猶予をお与えください!どうか、どうか、お願いします!?」

 「それはできぬ。適性試験の終了、お前への処分は既に決定し、覆すことはできない。リリアよ、お前がいくら嘆願しようとも、これ以上、お前の適性試験の継続は不可能だ。これ以上、お前の適性試験のために、アダマスから派遣した人間たちのために、他の異世界や、セクトたちに被害が出るような事態を起こさせるわけにはいかぬ。今回の適性試験で、リリアよ、お前に女神としての資格や能力が著しく欠如していることが分かった。お前のアダマスでの行いは邪神認定に匹敵するレベルだ。アダマスの人間、獣人たちが、如何に堕落し、腐敗し、野蛮で危険かつ邪悪な知的生命体であるかも、よく分かった。全てはお前自身が招いた結果だ。今回の適性試験で我々神界上層部が一体、何を最も評価基準の項目にしていたか、お前に分かるか、リリアよ?一体、何だと、お前は考える?」

 「そ、それは、各異世界の問題を解決できる個人の能力、専門知識や技術レベルの高さではないかと?」

 「違う。確かに能力ではあるだろう。我々神界上層部が、採点官たちが最も重視していた項目は、心、だ。善悪を正しく判断できる良心、例え大きな成果は得られずとも努力を諦めない精神力、他者を思いやる優しさ、命や愛、正義、自由、平和のために生き抜く真っ直ぐな魂を持っているか、だ。リリアよ、お前の選んだ人間たちは、知的生命体にとっても最も欠かせないモノの一つである、善良な心が欠けていた。多少、贖罪の意思はあれど、すぐに自らの欲望や悪意、本能に負け、我々神々の言葉を忘れ、理性を捨て、派遣した異世界で失敗、暴走した。お前が知的生命体を育成する上で、知的生命体の「心」を育てることをこれまで軽視してきたことが全ての原因なのだ。もし、今も異世界に残って活動している人間たちが優れた心の持ち主ならば、試験の継続も考えた。私も他の採点官たちも、各異世界の問題の解決、あるいはそれに貢献する成果を求めたが、成果の大きさ、質の高さはそこまで求めてはいない。ほんの僅かでも、他者の幸福や社会への貢献に繋がり、善良な心から生み出されたモノであるなら、それで良かったのだ。派遣する人材の能力も大事だが、人材となる人間の心、精神に問題があれば、失敗することは目に見えている。知識や技術、能力が多少低くとも、善良な心の持ち主ならば、派遣した異世界でも地道に努力を重ね、ほんの僅かでも真に評価に値する結果を出した、我々採点官たちや試験官たちの心を感動させる姿を見せてくれたはずだろう。分かったか、リリアよ?」

 ビギンの言葉を聞いて、リリアは膝から崩れ落ちた。

 「こ、心!?能力や成果ではなく、派遣した人間たちの心の在り方を見ていたと!?そ、それでは、私は、最初から試験に不合格だったと?人選から既に間違っていたと?」

 「その通りだ。お前が知的生命体の心を軽視し、目先の人間の能力や試験の合格に囚われ、本来の己の女神としての在り方、人間の心、異世界の人々の幸福を見失わなければ、お前が女神の資格を剥奪される処分を受けることにはならなかっただろう。善良な心を失ったお前に最早、女神を名乗る資格はない。大人しくこの場で裁きを受けよ、リリア。」

 玉座に座るビギンが、リリアに向かって軽く右手を向けて裁きを下そうとした直後、リリアの全身がプラチナ色に光り輝いた。

 謁見の間がリリアの放つプラチナ色の光に一瞬、包まれ、全身を一筋の光に化して、一筋の光が謁見の間の後方出入り口に向かって飛んで行き、リリアが謁見の間より逃亡を図った瞬間、リリアの後方にいて、謁見の間の後方出入り口を塞ぐように立って待機していた「剣の女神」ブレンダが、素早く腰に提げている銀色のロングソードの柄を右手に掴み、右手が瑠璃色に光り輝きながら、目にも止まらぬスピードで素早く抜刀した。

 ブレンダが抜刀し、プラチナ色の一筋の光を断ち切った直後、腹部を斬り裂かれ、一筋の光から、元の女神の姿へと戻り、腹部と口から血を流して、謁見の間後方の出入り口の手前の床に倒れ込み、苦しむリリアの姿があった。

 「がっ!?ううっ!?」

 「無駄な抵抗はお止めください、「光の女神」リリア様、いえ、罪人リリア。あなたが逃亡を図る可能性は先刻、承知済みです。潔く、神王様の裁きを受け入れなさい。最近のあなたなら、このような無意味な抵抗もせず、大人しく裁きを受け入れると、僅かばかり期待していました。あなたが己の犯した罪、これまでの過ちを受け入れ、潔く罰を受け入れるようでしたら、真摯に反省する姿を見せたのなら、神王様たちは減刑も考えておられたのですよ。本当に残念です。」

 ブレンダが、血を流しながら床に倒れて苦しむリリアに、深い憐みの眼差しを向けながら、残念そうに呟く。

 「ぶ、ブレンダ、た、助けて、く、ください!か、体が、体が、勝手に動いて、わ、私は逃げるつもりなどなかったのに、ど、どうして・・・」

 リリアはブレンダに向かって苦しそうな表情を浮かべながらそう言うと、意識を失い、その場で倒れた。

 リリアが意識を失った直後、ビギンの右手が緑色に光り輝き、同時にリリアの全身が緑色に光り輝くとともに、ブレンダに斬られたリリアの体の傷が癒えるとともに、リリアの持つ「光の女神」としての能力、不老不死の能力、不滅の魂の能力、などが全て剥奪される。

 「「剣の女神」ブレンダよ、「光の女神」リリアの逮捕、ご苦労であった。衛兵たちよ、罪人リリアは直ちに地獄へと送るように。リリアの女神としての資格、能力は全て剥奪した。逃亡される恐れは皆無だ。謁見の間に集まってくれた諸君、ご苦労であった。これにて、「光の女神」リリアの適性試験並びに「光の女神」リリアへの処分を終了する。全員、解散せよ。皆、本当にご苦労であった。」

 神王ビギンの指示に従い、神殿の謁見の間に集まった神々、天使たちは解散していく。

 衛兵の天使たちに担がれ、地獄へと送られていく、気絶したままのリリアの姿を、ブレンダは少々、疑問の表情を浮かべながら黙って見つめる。

 そんなブレンダに、先輩女神であるセクト、ベスティア、ティーズの三人が声をかける。

 「お疲れ様、ブレンダ。リリアの逮捕、よくやってくれたわ。流石は「剣の女神」、若手のホープと言われるだけのことはあるわ。」

 「お疲れ、ブレンダ。また、剣の腕を上げたようだな。前にも増して、剣速が速くなったのが分かったぜ。ったく、クソ女神が、最後まで往生際が悪いにも程があるぜ?」

 「お疲れ~、ブレンダ。ベスティアの言う通りだよね~。神王様の裁きから逃げられるわけないのにね~。どこへ逃げたって無駄なのに、本当に馬鹿って言うか、頭狂ってるよね~。つか、マジで即、地獄行きになるとか、超ウケるんですけど~(笑)。ニッシッシッシ。」

 「お疲れ様です、「虫の女神」セクト様、「獣の女神」ベスティア様、「遊戯の女神」ティーズ様。「光の女神」リリア様が御三方と約束した報酬については、後日、私の方からアダマスの人間たちにも事情を説明した上で、リリア様に代わって必ずお支払いいたします。この度は適性試験の試験官役、大変ご苦労様でした。」

 「あなたが頭を下げる必要はないわよ、ブレンダ。損害賠償は、報酬の支払いは多少、遅くなっても構わないわ。悪いのは全部、リリアだから。まったく、リリアにもアダマス出身の人間たちにも、本当に迷惑をかけられたわ。アレでよく、知的生命体を育成、保護する女神を名乗れたものよ?想像以上に、人間たちの知的生命体としてのレベルは低いし。神々である私たちの言葉や忠告を平気で無視するわ、反省の自覚すらないわ、悪質にも限度があるわよ。ブレンダ、あなたが相当、アダマスの人間たちに手を焼いていることが良く分かったわ。」

 「全くだぜ。やっぱり、女神のエロ写真を買う元性犯罪者なんぞ入れるべきじゃなかったぜ。アタシの裸を想像した宝石の彫刻なんぞ作ってコンテストに出品しやがって。マジでアダマスの人間たちは頭が、いや、心もイカれてる。いっそ、綺麗さっぱり滅ぼしちまったらどうだ、ブレンダ?神王様たちだって、マジで頭にきてる感じだったぜ?」

 「ティーズが担当女神なら、アダマスの人間は絶対、見限るね~。正直、アレは低レベル過ぎて、女神が育成する知的生命体には該当しないんじゃな~い?クソ女神のリリアのせいもあるけど~、元々が酷いって言うか~、今後キチンと成長する可能性って、ほぼゼロに近くない?魔族ってのがいるんだし、そっちの育成に力を入れて、人間たちの方は女神の加護を奪って、自然消滅させるで、よくな~い?イヴだって、魔族の方に力入れてるんでしょ~?アダマスの人間たちに構っても碌なことないって。仕事増やすだけだし、もう見限っちゃいなよ、ブレンダ~?」

 「ご心配とアドバイスをありがとうございます、皆様。ですが、アダマスの人類、人間たちと獣人たちの中にも、善良な心を持った者たち、世界の正義と秩序のために働く者たちも確かにおります。そういった人々を守るために、私や「闇の女神」イヴ様、「黒の勇者」ジョー・ミヤコノ・ラトナ、彼の仲間たち、協力者たちもいます。私は同胞であるジョー・ミヤコノ・ラトナがアダマスの人間たちを見限ることが起きたりしない限り、私もまた、担当女神として、共にアダマスの正義と秩序、発展のために、人間たちを守り、導き続けるつもりです。神王様もアダマスの人間たちには、私たち神々が望む知的生命体として成長する可能性があると、そう思っておられるご様子です。私はまだアダマス担当の女神の職を拝命したばかりですが、これからもアダマスの人間たちを見守り続けるつもりです。お三方のご忠告は参考意見としてありがたく頂戴します。」

 「そう。担当女神のあなたがそう思うのなら、したいようにやれば良いわ。あなたなら、リリアよりはまともにアダマスの人間たちを育てられるはずでしょうし。困った時は、先輩として何時でも相談に乗るから。」

 「アタシも先輩女神として、知的生命体の育成、保護を担当してる女神の一人として相談に乗るぜ、ブレンダ。イヴに相談するのも良いが、他の先輩に相談するのも大事だぜ。アダマスの場合、一人で抱え込むのは良くねえ。」

 「ティーズも相談に乗ってあげる~。ダンジョンの作り方とか、ダンジョンを使った知的生命体の育成の仕方とかなら、色々と教えてあげられるしね~。ちょっと手間がかかって大変かもしれないけど、ダンジョンを使う方法は今流行ってるし、おすすめだよ~。」

 「ありがとうございます。是非、相談に伺わせていただきます。申し訳ありませんが、私はこの後、神王様に会ってご相談や報告など、お話ししなければならないので、今日はこれにて失礼させていただきます。では、セクト様、ベスティア様、ティーズ様、また今度お会いできるのを楽しみにしております。失礼いたします。」

 セクト、ベスティア、ティーズたちにそう言うと、ブレンダは神王ビギンに会うため、セクトたちの下を去って行った。

 セクトたち三人と別れ、ビギンと会って話をするため、神殿内の廊下を一人歩きながら、ブレンダは呟く。

 「あの時感じた違和感は一体、何だったのでしょうか?同じ女神を斬ったにしては、手ごたえが軽い感じがしたのは、気のせいでしょうか?ここ最近のリリア様は体調は優れないご様子でしたが、最初にお会いして仕事を始めた時よりも精神は大分、落ち着いておられました。私に斬られた直後に言ったあの言葉に、噓偽りは全く無いように、私の目には、そう見えました。本当に逃げる意思は無かったように見えました。脊髄反射で体が無意識に動いて逃亡を図ろうとしたとしても、あれほど心が酷く動揺していたのは、些か気になります。私の思い過ごし、考え過ぎなのでしょうか?神王様がリリア様に罰を下したのは確かですが、何故、こうも釈然としないのか?神王様の決定や仕事に間違いはないはずです。周りには私以外にも、高位の神々、天使たちがいました。しかし、・・・」

 ブレンダは、自らの抱く疑問を口にしながら、神殿の廊下を歩いて進む。

 ブレンダは自らの抱いた疑問を神王ビギンや神界上層部に伝えるべきか否か、判断に迷うのであった。

 こうして、「光の女神」リリアの適性試験は、試験開始からわずか一ヶ月余りで試験が終了し、リリアは試験に不合格となった。

 リリアは女神の資格と能力を剥奪され、地獄に落とされ、罰を受けることになった。

 「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈の、最も憎む敵、異世界最大の悪党である「光の女神」リリアが、ついに地獄に落とされることになった。

 主人公の、リリアへ正義と復讐の鉄槌を下し、リリアを地獄へと落とし、破滅させる復讐計画の最大の目的は達成されたように見える。

 だがしかし、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈の、「光の女神」リリアへの復讐は、リリアとの因縁は、真の異世界の悪への復讐は、まだ終わってはいない。


























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【中間選考突破!!】異世界が嫌いな俺が異世界をブチ壊す ~ジョブもスキルもありませんが、最強の妖怪たちが憑いているので全く問題ありません~ 迎火 灯 @mukaebiakari

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