第十四話 主人公、一日だけのバカンスを楽しむ

 僕たち「アウトサイダーズ」が、サーファイ連邦国を治める十部族の新たな族長たちとの交渉を行い、メルを僕の娘として引き取ることを承諾させた日の翌日。

 早朝、取引の条件である、元「槍聖」たち一行率いる海賊団から奪取し、預かっていた国家予算の10兆リリア全額の引き渡しを、ラトナ公国大使館で行い、新族長たちへの返却を終えた僕たちは、一日だけではあるが、サーファイ連邦国でバカンスを楽しむことを決めた。

 10兆リリアの返却を終えると、僕たちはサーファイ連邦国の首都にある大きな服屋を訪ねた。

 サーファイ連邦国の世界一青くて澄んだ海を満喫したい、という思いがあり、みんなで水着を一緒に買いに来たのであった。

 本当は高級リゾートにも宿泊してみたい思いがあったが、次の元勇者たちの討伐を控えていて、いつ、緊急出動することになるか分からないため、海で泳ぐだけに止めることになった。

 くそったれな異世界の悪党どものために、ゆっくり休みをとることもできず、働かされることになるとは、本当に不愉快である。

 自由にバカンスを楽しむこともできないなんて、やっぱり異世界なんて碌でもない場所だと、改めて思った。

 僕は服屋で男性用水着の黒い海パンを一着買うと、女性陣たちが水着を選んで買うのを待つことにした。

 服屋に入って1時間ほど経った頃、女性陣たちが水着を無事、買い終えて僕のところへやって来た。

 何でも海に着くまでのサプライズだということで、どんな水着を選んで買ったのかは内緒だということだ。

 そのため、女性陣たちの水着の購入代金を僕が払うと言っても、バレるのが嫌だからと、断られてしまった。

 せめて、メルの水着の代金ぐらいは父親だから払いたいと言ったが、それも女性陣たちに断られてしまった。

 自分たちの水着より、メルの水着を選ぶのにやたら気合を入れていたように見えたが、そんなにみんなが家族として、お姉ちゃんとして、メルのことを気に入り、お世話してくれるのは実に嬉しいことではある。

 僕たち九人は服屋を出ると、サーファイ島の南東にある、海水浴場へと向かった。

 空は快晴で雲一つなく、サンサンと輝く太陽の光が、白い砂浜を照らしている。

 目の前には、青く澄んだ美しい海が広がっている。

 少し涼しい風も吹き、海水浴を楽しむにはちょうど良い気温であった。

 僕は男性用更衣室で着替えると、黒い海パンを着て、海水浴場の砂浜へと出た。

 海の家でパラソルや飲み物、レジャーシートなどを購入、又はレンタルすると、砂浜にパラソルを差し、レジャーシートを敷き、飲み物も用意して、女性陣たちの着替えが終わるのを待った。

 10分後、水着に着替え終えた、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌ、メルたちが、僕の前へと現れた。

 「いかがでしょうか、丈様?この水着、似合っていますでしょうか?」

 玉藻が僕に、自分が着ている水着が似合っているかどうか、訊ねてきた。

 玉藻は、金色のオフショルダー・ビキニを着ていた。

 胸元にヒラヒラとした飾りの布が付いているが、それがFカップはある玉藻の巨乳を強調している。

 それでいて、上品さや女性らしさが感じられるデザインでもある。

 玉藻って案外、着痩せするするタイプだったのか。

 僕は玉藻の水着姿に一瞬、見とれてしまったが、すぐに返事をした。

 「ええっと、うん、玉藻らしい、上品さのあるデザインで、よく似合っているよ。」

 「そうですか。お気に召していただいて、わたくしも嬉しいです。」

 玉藻が頬を少し赤らめながら、喜ぶのであった。

 「おい、丈。俺の水着はどうだ?似合ってるか?」

 酒吞が僕に、自分が着ている水着が似合っているかどうか、訊ねてきた。

 酒吞は、赤色のマイクロ・ビキニを着ていた。

 布面積が小さく、下はTバックで、超露出度高めで、セクシー路線を攻めている感じだ。

 普段からビキニ・アーマーを着ていて露出度が高めだが、Gカップもある巨乳が普段よりさらに強調され、引き締まったお尻もTバックで強調されている。

 「うん、綺麗な筋肉の付いたカッコいいスタイルの酒吞にピッタリだよ。よく似合ってるよ。」

 「そ、そうか。綺麗でカッコいいか。やったぜ。」

 酒吞が照れ臭そうに笑いながら、喜んだ。

 「丈君、丈君、私はどう?似合ってる?」

 鵺が僕に、自分が着ている水着が似合っているかどうか、訊ねてきた。

 鵺は、銀色の眼帯ビキニを着ていた。

 普段のスーツ姿と違い、トップが四角形の布でできた眼帯に見える水着のため、Eカップはある鵺の巨乳が強調され、普段の鵺には見られない、露出度高めのセクシー路線と言った感じだ。

 「うん、よく似合っているよ、鵺。いつもと違って、大胆さがある感じで、すごく良いと思う。」

 「そう。ありがとう。これで丈君のハートは掴んだ。」

 鵺が頬を少し赤らめながら、口元をニヤケさせ、喜んだ。

 「じょ、ジョー殿!我の水着はどうだ?似合っているだろうか?」

 エルザが僕に、自分が着ている水着が似合っているかどうか、訊ねてきた。

 エルザは、黄色のボーイレックビキニを着ていた。

 下がホットパンツになっているビキニで、全体的にボーイッシュな感じである。

 ボーイッシュなデザインにしたことで、エルザの女の子らしさが強調されている。

 「よく似合ってるよ、エルザ。ボーイッシュな感じで、女の子らしさが引き立っていて、すごく可愛いよ。」

 「か、可愛い!?そ、そうか、それは良かった!」

 エルザが顔を真っ赤にして照れながら、喜んだ。

 「ジョー、アタシの水着はどうじゃんよ?めっちゃ力入れて選んだじゃんよ。」

 グレイが僕に、自分が着ている水着が似合っているかどうか、訊ねてきた。

 グレイは、グレーのフリンジビキニを着ていた。

 トップに紐や紐状の布を束ねたり、房状にしたりした飾りを施したビキニを着ていて、Dカップはあるグレイの形の良い胸を強調している。

 紐丈の束の飾りがとてもオシャレにも見える。

 「うん、よく似合ってるよ。トップの飾りがすごくオシャレで、グレイのスタイルの良さを引き立てているって感じだ。さすがだね、グレイ。」

 「へへっ、そうだろう。アタシの女子力の高さはスゲエだろ。くくっ、やっぱりアタシが一番見てえじゃんよ。」

 グレイが少し頬を赤らめながらも、自信満々な顔で喜んだ。

 「婿殿、妾の水着はよく似合っているであろう。闇の女神の美貌、その目でとくと堪能するが良い。」

 イヴが僕に、自分が着ている水着が似合っているかどうか、訊ねてきた。

 イヴは、黒色のクロスホルダービキニを着ていた。

 トップを、紐を首の前で交差させた後、首の後ろで結んだりひっかけたりして固定するタイプのビキニだが、交差させて布から見える、イヴのEカップはある巨乳が強調されている。

 体全体のラインをバランスよく強調もしていて、大人のセクシーさを感じさせる。

 「よく似合っているよ、イヴ。大人の女性のセクシーさを感じさせて、それでいて、イヴのスタイル抜群のプロポーションにマッチしているよ。」

 「さすがは婿殿だ。妾のセンスの良さや水着の主旨をよく分かっている。女神であるこの妾の美しい水着姿に惚れ直したであろう。今日はたっぷりと、好きなだけ妾の水着姿を見るがいい。」

 イヴは僕に水着を褒められたことが嬉しく、自慢気な表情を浮かべながら、喜んでいた。

 「あ、あの、ジョー様、その~、私の水着はどうでしょうか?似合っていますか?」

 マリアンヌが僕に、自分が着ている水着が似合っているかどうか、訊ねてきた。

 マリアンヌは、白色のレースアップを着ていた。

 紐を交互にして締め上げたデザインの水着で、トップの間の、紐の結び目から見える、マリアンヌのCカップの形の綺麗な胸を強調している。

 アンダーも左右を紐で留めていて、紐の結び目から見える、太ももやお尻を、チラリズムのセクシーさを伴いながら、強調している。

 上品さとセクシーさ、それに可愛さも備えていて、マリアンヌのモデル体型のプロポーションの良さを完璧に引き出している。

 「さすがは王女だな。服選びのセンスあるな。紐を使ったデザインが、上品さやセクシーさ、可愛さを見事にバランスよく引き出している。清楚さも感じられるし、お前によく似合っているよ、マリアンヌ。」

 「そ、そうですか!よく似合っていますか!センスあるって言ってもらえた!やりました、私!」

 マリアンヌが僕に水着を褒められ、大喜びしている。

 「「「「「「あざとい。」」」」」」

 玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴの六人が、僕に水着を褒められて大喜びするマリアンヌを、顔を顰めながら、同時にボソリと呟いた。

 「わ、私は別にあざとくなんか、ありません!?皆さんの水着よりは露出も抑えていて、普通ですよ、普通!」

 マリアンヌが、玉藻たち六人の呟きに抗議した。

 「パパ~、メルは、メルは似合ってる~?」

 メルが僕に、自分が着ている水着が似合っているかどうか、訊ねてきた。

 メルは、水色のフリルスカート付きのワンピースの子供用水着を着ていた。

 白と青の水玉模様が施されていて、メルの青い髪とよく似合っていて、とても可愛い。

 「ああっ、メル、とってもよく似合っているよ。とっても可愛いよー、メル。」

 「やったー、なの!パパが可愛いって褒めてくれた、なの!」

 水着を褒められて大喜びするメルの頭を、僕は優しく撫でた。

 「パパー、メル可愛い?一番可愛い?」

 「うんうん、メルが一番、とっても可愛いぞ。さすがパパの子だなぁー、メルは。」

 「じゃあねぇ、二番目は誰が可愛いと思うの、パパ?」

 メルの何気ない、無邪気な質問に、玉藻たち他の女性メンバー全員が、一斉に僕の方をガン見して、僕の次の言葉を待っている。

 返答に一瞬、困った僕だが、波風を立てないように、こう答えた。

 「ええっとねぇ、パパはお姉ちゃんたちみんな、可愛いと思うなぁ。メルもお姉ちゃんたちはみんな、可愛くて綺麗だと思うよねえ?」

 「はい、なの!お姉ちゃんたち、みんな、可愛くて綺麗なの!」

 「そうだよねぇ。メルもいつか、お姉ちゃんたちみたいな可愛くて綺麗なお姉ちゃんになれるから、お姉ちゃんたちのことをよ~く、見習うんだよ?」

 「は~い。分かりました、なの。」

 僕とメルのやり取りを聞いて、女性陣たちは皆、ホッとした表情を浮かべている。

 異世界召喚物の物語の中に、たまに水着回なるサービスシーンを盛り込んだエピソードが出てきたりする。

 しかし、異世界も実際はただの現実だ。

 主人公がラッキースケベに遭遇するとか、ヒロインたちのポロリに遭遇するとか、海でヒロインたちとラブコメをする、なんていう都合の良い展開など、全く起きることはないのだ。

 誰の水着が一番似合っているか、という質問を、大勢の女性たちの前で質問されて、迂闊なことを言えば、女性たちから当たり前に顰蹙を買い、最悪、ボコボコに殴られることもある。

 しばらく口もきいてもらえず、無視されることだってあり得る。

 陰キャぼっちのコミュ障の僕のことを、他の女性メンバーたちが異性として僕を見ている可能性は、ちょっとはある、いや、やっぱり限りなくゼロに近い。

 僕は異世界召喚物の、異世界をチート能力で無双し、大勢のヒロインたちで作られたハーレムに囲まれ、夢の異世界生活を謳歌する、そんなご都合主義の展開ばかりの物語の中で生きる、カッコいい主人公などでは、決してない。

 異世界という厳しい現実を生き抜くため、自分を処刑した元勇者たちや異世界の悪党どもに復讐するため、モンスターや悪党どもと戦い続ける、ただの冒険者で復讐鬼なのだ。

 チート能力も、ご都合主義の展開も、この僕の異世界生活には一切ない。

 ただ、家族や友人、仕事仲間と海水浴を楽しみに来た、それだけのことなのだ。

 「さて、みんな、せっかくのバカンスだ。今日はとことん、海で遊びつくそう。元勇者たちの討伐は忘れて、みんなで一緒にバカンスを楽しもう。」

 それから、みんなで一緒に海を泳いだり、ビーチバレーをしたり、砂遊びをしたり、海の家で昼食を食べたり、のんびりお昼寝をしたりして、バカンスを楽しんだ。

 途中、イヴがワイヒー・ライアーの屋敷から押収したダゲレオタイプカメラを取り出し、みんなで一緒に記念写真を撮らないか、と提案してきた。

 イヴはすでにダゲレオタイプカメラの構造や使用方法について、分析し理解したらしい。

 元は、沖水たち一行やワイヒーが違法ポルノであるエロ写真を作るために悪用していたモノではあるが、本来、カメラは家族写真とか、記念写真とか、人生の大切な思い出を記録するために生まれたモノだ。

 僕は幼い頃に両親と祖父を残し、元いた世界では、あまり家族写真は持っていなかった。

 友達もいなかったため、いつも一人で写った写真か、風景の写真などしか持っていなかった。

 まさか、異世界で家族や友人と思い出の記念写真を撮る機会に恵まれることになるとは思わなかった。

 イヴが重力操作で闇を生み出し、闇で暗幕を作り、光の屈折を微妙に調整しながら、記念写真の撮影が開始された。

 しかし、撮影が始まった直後、僕はあることに気付き、イヴに小声で訊ねた。

 「い、イヴ、撮影中、済まないが、あれってピンホールカメラとかいうヤツで、確か写真を撮るためには、20分、下手したら30分は同じ姿勢で立っていなきゃいけないはずなんだが、まさか、このままずっと同じ姿勢でみんな立ってなきゃいけないんじゃ?」

 「婿殿、皆の者、ここは我慢してくれ。30分の辛抱だ。表情や姿勢を極力崩さないよう、注意してくれ。全ては記念写真を作るためだ。頑張ってくれ。」

 イヴから30分間、同じ姿勢と表情を崩さず、撮影が終わるまで立っているよう言われ、僕も他のメンバーも思わず、苦笑した。

 30分後、撮影が終わると、イヴがその後、銀板に加工処理を施した。

 それから、出来上がった記念写真を千里眼で解析し、記念写真のコピーを、パーティーメンバー全員分、作成して渡してくれた。

 渡された記念写真のコピーには、水着を着た僕たち「アウトサイダーズ」が笑顔を浮かべて集合した様子が写されていた。

 久しぶりに手にする家族や仲間との記念写真に、僕の心はほっこりとなった。

 元「槍聖」たち一行のせいで、カメラや写真は、エロ写真という違法ポルノを生み出す悪しきモノへと価値が下がってしまったが、連中がエロ写真を作らず、家族写真や記念写真など、正しい方向に使っていれば、異世界の技術であるカメラや写真への評価は、全く異なるものに変わっていただろう。

 まぁ、カメラや写真を悪用しようとする異世界人が他に大勢いたかもしれないから、必ずしも、美しい思い出を残すモノになり得たかは正直、微妙なところである。

 他のパーティーメンバーたちも、記念写真のコピーを手にし、皆、嬉しそうな表情を浮かべていた。

 こうして、海水浴場で僕たちは一日だけのバカンスを楽しんだのであった。

 僕たち「アウトサイダーズ」の日々に、新たな思い出の一ページが加わることとなった。

 家族や仲間たちと楽しい思い出を作ることができたことが、僕が異世界に召喚され、くそったれな異世界で見つけた、僕の人生における救いの一つである、そう思った。

 そして、これからまた、新たな元勇者たちの討伐が始まる。

 異世界の悪党どもへ復讐する新たな旅を始める準備に、僕はふたたび取りかかろうとしていた。




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