第五話 主人公、闇ギルドと接触する、そして、反撃の狼煙を上げる

 僕が霊能力を使って、ズパート帝国の帝都全域の、謎の奇病にかかった患者たちを治療し、その反動で倒れ、帝都中央病院に入院してから二日目のこと。

 僕、玉藻、酒吞、鵺の四人は入院初日ですぐに全快し、今は経過観察のため、入院している。

 昨夜、ナディア医師と話をした結果、「聖女」たち一行と新皇帝が死の呪いをばらまいて悪事を働いた証拠の品を持っている僕と、皇女でもあるナディア医師が接触したことを、新皇帝が危惧し、ナディア医師の暗殺を計画する可能性が浮上したため、僕たち「アウトサイダーズ」はナディア医師を警護することになった。

 僕、玉藻、酒吞、鵺の四人は入院患者、エルザとグレイの二人は見舞客を装い、ナディア医師を交代で24時間、付きっきりで警護するのであった。

 僕たちは「認識阻害幻術」を使って、姿を完全に隠すこともできるため、診察室や手術室などにも潜入して、ナディア医師を陰から警護することができた。

 敵は早々に刺客を放ってくるかと思っていたが、中々姿を見せないでいる。

 やはり敵は何らかの事情があって、簡単に暗殺計画を実行できない状況にあるようだ。

 もしかしたら、僕たちが警護していることにすでに気が付き、僕たちが退院する時が来るのを待っているのかもしれない。

 あるいは、何らかの巧妙な手段を用いて、ナディア医師を暗殺する計画を立てており、計画の実行がやや遅れている可能性も否定できない。

 病院内に暗殺者がすでに潜入していた場合、暗殺者か、そうでない無害な一般人であるかを判別するのは難しい。

 僕たちのパーティーメンバーの中で、暗殺を最も得意とする玉藻なら、暗殺者か否かの判別が可能ではあるかもしれないが。

 謎の奇病、死の呪いに感染した患者がほとんどいなくなった影響か、帝都中央病院は大混雑をしているわけではなく、ポツポツと患者が診察に訪れる程度まで落ち着いた様子である。

 昨夜からナディア医師をずっと警護しているが、特段異変は起こっていない。

 午後8時。

 交代の時間が来たため、僕と鵺はナディア医師のいる外科部長室へと向かった。

 認識阻害幻術を使い、そっと二人で病院内を移動した。

 それから、廊下に人がいないのを確認すると、ゆっくりと外科部長室のドアを開け、部屋の中へ入った。

 ドアを閉め、部屋の中へ入ると、僕たち二人は認識阻害幻術を解いて、姿を見せた。

 「お疲れ様です、ナディア先生。それから、交代の時間だよ、玉藻、グレイ。後は僕と鵺で引き継ぐから、二人は休んでくれ。」

 僕がそう言うと、認識阻害幻術を解き、玉藻、グレイの二人が姿を現した。

 「お疲れ様です、丈様。それでは、引き続き、警護をよろしくお願いします。」

 「お疲れ、ジョー。昼間は何にもなかったから安心しな。バッチリ二人で警護したじゃんよ。」

 「二人ともお疲れ様。何もなかったなら、何よりだよ。ここからは僕たちに任せてくれ。バッチリ先生を護ってみせるからさ。」

 「玉藻、グレイ、お疲れ様。後は私と丈君で引き継ぐ。二人はゆっくり休んで。」

 僕たち四人が話をしていると、ナディア医師が声をかけてきた。

 「姿を完全に消せるなんて、本当にあなたたちには驚かされることばかりよ。四六時中、幽霊に見られているような気分よ、こっちは。まぁ、おかげで私は大助かりだけど。」

 「そう言ってもらえると嬉しいですよ。でも、油断は禁物です。皇帝の放った刺客がいつ、どこから、どんな手段を使って、あなたの命を狙ってくるか分かりませんからね。これぐらいの用心はしておいて当然です。それじゃあ、玉藻、グレイ、また後でね。」

 玉藻、グレイの二人は、ふたたび認識阻害幻術を使って姿を消すと、病室にへと戻っていくのであった。

 僕はナディア医師に言った。

 「ナディア先生、就寝やトイレ、シャワーなどの際は一声かけてください。鵺が常にあなたの傍に同行します。それ以外の時は、僕も常にあなたを警護しますので。後、2時間おきに僕の方で院内の見回りをする予定です。何か警護に関して僕たちに要望はありますか?」

 「いえ、特にはないわ。警護についてはあなたたちに一任するわ。よろしくね、二人とも。」

 「分かりました、ナディア先生。」

 僕たちはそれから、ナディア医師の警護を始めた。

 外科部長室の奥には、外科部長専用の宿直室のスペースがあり、ベッドやシャワー、トイレなどがあるらしく、ナディア医師は基本的にここで寝泊まりする生活を送っているそうだ。

 鵺の協力もあり、警護は順調に行われた。

 僕も時折、病院内の見回りを行ったが、特に怪しいと思われる人物の出入りはなかった。

 午前2時過ぎ。

 六時間ごとに交代するローテーションを組んでいるため、酒吞とエルザの二人に警護を引き継ぎ、僕と鵺の二人は病室へと戻った。

 睡眠時間などが十分にとれているとは言えないが、ナディア医師を暗殺から守るため、ここは耐えることを決めた。

 入院三日目。

 午前11時頃のこと。

 僕は少し眠気があったものの、病室を出て、院内を歩き回った。

 交代の時間まではまだ3時間もあったし、僕がずっと病室にこもりっきりなのもかえって疑われるかもしれないと思い、認識阻害幻術は使わず、姿を現した状態で病院内を歩くことにした。

 何となく落ち着かない気分であったのも理由ではあったが。

 院内を歩いていると、時々、診察に来た人たちから声をかけられることもあった。

 先日、「霊光拳」を使って帝都全域の奇病の患者たちを治療したが、僕が治療を行った「黒の勇者」だと聞いて、わざわざ御礼を言いに来てくれたようであった。

 照れ臭い気持ちを抑えながら、僕は軽く挨拶をするのであった。

 僕は病院の中庭へ出ると、ベンチへと腰かけ、一休みすることにした。

 僕も一応、皇帝の暗殺対象であるかもしれないが、白昼堂々と暗殺を行うことは僕や他の人間に勘づかれるリスクがあるだろうから、まず、行われることはないはずだ。

 狙撃による遠距離、または死角からの暗殺の可能性が考えられるが、それについてはすでに対策済みだ。

 僕は霊能力のエネルギーで全身を常に覆い、鎧のように纏っている。

 そして、霊能力のエネルギーだけに認識阻害幻術をかけ、霊能力のエネルギーの青白い光が見えないようにしている。

 「霊透鎧拳」と、僕は名付けたが、僕は今現在、全身を霊能力でできた見えない鎧で覆っている状態だ。

 つまり、死角からの攻撃も防げる状態のため、全く問題が無いわけである。

 もしかしたら、敵が僕を無防備だと勘違いして襲ってくる可能性も考えたが、プロの暗殺者がそう易々と僕を襲ってくるとは考えにくい。

 だが、用心に越したことはないし、万が一の可能性もある。

 こうして僕が姿を見せることで、敵が何らかのアクションを起こしてくれることをわずかだが期待している。

 僕が中庭のベンチに座っていると、不意に後ろから声をかけられた。

 「よう、兄ちゃん。隣、空いてるかい?」

 後ろを振り返ると、身長180cmくらいの、細身で、浅黒い肌に、オレンジ色の髪を坊主頭にした、二重瞼でぱっちりとした瞳の、穏やかな顔立ちをした、30代前半の男性が立っていた。

 黒いシャツに黒いスーツ、黒い革靴という服装で、一般的なズパート帝国の男性が着る白いトーブを身に着けていないのは、少し珍しく思えた。

 「ええっ。空いてますよ。」

 「そうかい。なら、隣、失礼するよ。」

 男性はそう言うと、僕の隣に座った。

 男性は僕の隣に座るなり、ポケットから包み紙を取り出すと、中から数粒のチョコレートを取り出した。

 「良かったら、一緒に食べるかい?俺はチョコレートには目が無くてね。専門店のチョコレートだけど、どうだい?」

 僕はこの男性が暗殺者で、毒入りのチョコレートを渡してこようとしてきた可能性も考え、一応、食べずに受け取るだけにしておいた。

 「ありがとうございます。では、一粒いただきます。」

 僕はそう言うと、男性からチョコレートを一粒受け取った。

 「ハハハ。そう警戒することはないよ。そのチョコに毒なんて入っちゃいない。この国の英雄である「黒の勇者」様を暗殺しようなんて、そんな馬鹿なことはしないよ。第一、そんなことをする輩は、この俺が許さない。君とナディア皇女の命を闇ギルドが狙うことは決してないことは保証するよ。」

 笑いながら、僕に語りかけてくる男性の言葉に驚きながら、僕は警戒を解かず、男性に訊ねた。

 「なぜ、僕とナディア先生が命を狙われていると思うんですか?それに、闇ギルドが僕たちを狙うことはないと、なぜ断言できるんですか?あなたは一体、何者なんですか?」

 僕の質問に、男性は答えた。

 「俺の名前は、フロスト・ローファイブ。このズパート帝国の闇ギルドのギルドマスターをしている。おっと、そう警戒しなさんな。別に俺は君やナディア皇女に危害を加えるつもりは全くない。今日は君に御礼を言いに来ただけさ。とにかく、俺の話を最後まで聞いてくれるかい、「黒の勇者」様?」

 目の前にいる男性が闇ギルドのギルドマスターと名乗ったため、僕は驚きながらも、警戒しつつ、男性と話をしてみることにした。

 「フロストさんでしたか?闇ギルドのギルドマスターから感謝されるようなおぼえは僕にはないんですが、どういうことでしょうか?」

 「君には感謝しているんだ。君はおぼえていないだろうが、君が帝都中央病院で初めて謎の奇病の患者たちを治療したあの日、俺もその患者たちの一人だったのさ。あの日の前日、うっぷん晴らしに外で夜遅くまで酒を飲んでいたら飲み過ぎてしまってね。つい、酔い覚ましにと、近くの井戸で水を飲んだら、その水が、例の死の呪いで汚染された水だったわけさ。おかげで死の呪いにかかって、危うく死にかけたところだった。けど、そんな俺の前に偶然、君が現れ、死にかけていた俺を治療してくれた、というわけだよ。君がいなかったら、俺はあの日、恐らく死んでいた。君は俺にとって命の恩人だ。それに、俺の部下も大勢、君のおかげで命を救われた。俺たち闇ギルドが経営するカジノやキャバレーなんかの店も、無事に再開することができた。俺たち闇ギルドは、君に大きな借りが出来たわけだ。本当にありがとう、「黒の勇者」様。」

 フロストの言葉を素直に信じるべきか迷ったが、一応返事をした。

 「そうだったんですか。僕は別に大したことはしていません。目の前で困っている人がいて、自分に何かできることがあったら、助けることができるなら、迷わず助ける、それが僕の所属するパーティーの方針なんです。僕なんかでお役に立てたのなら良かったです。部下の方たちにもお大事にと、お伝えください。用件はそれだけですか?」

 「ハハハ。噂通り、謙虚な人間だねぇ、君は。損得抜きで人を助けるなんて、俺たち闇ギルドとは真逆の考えだよ。だけど、君みたいな人間もいるからこそ、世の中は成り立っているわけだ。損得抜きで人を助けられる君がいたから、俺は今こうして生きていられる。俺や俺の部下たちは命を救われ、ビジネスの回復まで手伝ってもらった。これだけ大きな借りを作った以上、言葉だけで御礼を済ませるつもりはない。それは俺のポリシーに反する。俺から君に、ちょいとばかしプレゼントをしようじゃないか。」

 そう言うと、フロストはチョコレートを一粒口に入れ、食べた。

 それから、話を再開した。

 「まず、情報提供だ。君の懸念通り、皇帝はナディア皇女を暗殺しようと企てている。君が帝都全域の患者を治療する奇跡を起こした日の夜、皇帝から直接俺に、ナディア皇女を暗殺してくれないかと、依頼があった。もちろん、お断りしたけどね。皇帝が「聖女」と組んで、今回の謎の奇病の流行騒ぎを起こして、金儲けを企んだことは、君の活躍もあってすぐに分かった。連中のせいで俺たち闇ギルドは大損害を被ったんだ。今も連中に一泡吹かせてやりたくてしょうがない気分さ。皇帝は、君が彼らの悪事の証拠を掴んでいて、皇女と君が接触して、クーデターを起こすことを恐れている。俺たち闇ギルドに暗殺依頼を断られて、皇帝も今頃右往左往しているところだろうが、油断はできないよ。あの男は目的のためなら手段を選ばないところがある。皇女にあらぬ罪を被せて軍隊を押しかけて制圧、あるいは皇女のいるこの病院まるごと爆破して殺す、だとかね。十分注意してくれ。一応、部下を使って皇帝の動きを探らせているから、何かあったら君に教えるとしよう。」

 フロストは僕に情報提供について話すと、手元の包みからチョコレートを一粒手に取って、口に放り込んだ。

 「それと、クーデターを起こすためのちょっとしたお手伝いをさせてもらったよ。皇女派の貴族たちだが、現在は帝城の地下牢に捕らわれているそうだ。人質がいちゃ、クーデターを起こすのは大変だろ?そこで、君に帝城の見取り図をあげよう。これが城の見取り図だ。」

 フロストは懐から一枚の折りたたまれた紙を取り出すと、それを僕に渡した。

 渡された紙を見ると、確かに帝城の見取り図らしき図面が書かれている。

 図面の内容自体はかなり詳細に書かれていた。

 「お疑いなら、後でその見取り図をナディア皇女に見せて確認してみるといい。その見取り図が本物だと分かるはずだ。きっと皇女もそれを見たらさぞ驚くことだろうね。それから、人質たちの家族についても問題ない。皇帝から彼らの監視依頼も受けていたが、依頼はキャンセルさせてもらったから、今は誰にも監視されておらず、自由な状態だ。帝城から騎士たちが俺たちの代わりに一度派遣されてきたが、こちらで全員始末しておいたから安心してくれ。後は帝城の地下牢にいる人質たちを救出さえすれば、すぐにでもクーデターを起こすことができる。俺からのプレゼントは気に入ってもらえたかな?」

 「闇ギルドのギルドマスターであるあなたの話を素直に信じるほど、僕もお人好しじゃありませんよ。ですが、参考意見として頭に留めておくことにはします。」

 「君に疑われるのも無理はない。俺の言葉を信じるなんて、まともな人間にはできないことだ。だが、これだけは言わせてもらおう。俺たち闇ギルドは君やナディア皇女と敵対する意思はない。君たちのクーデターを邪魔するつもりもない。君たちのクーデターが無事成功することを祈っているよ。それじゃあ、俺はこれで失礼させてもらう。頑張ってくれ、「黒の勇者」様。」

 フロストはそう言い残すと、ベンチから立ち上がり、僕の前から去っていった。

 僕はしばらくの間、フロストから聞いた話を思い返していた。

 フロストの話が真実であるかどうか確証はない。

 半分以上は作り話で、僕たちをおびき寄せる罠かもしれない。

 だが、現状はこちらが後手に回っているのも事実だ。

 人質たちの救出ができれば、戦況は一気に逆転する。

 新皇帝や「聖女」たち一行に先手を取られたまま、というのは気に入らない。

 こちらから攻撃を仕掛けることも必要だ。

 とりあえず、まずはフロストからもらった帝城の見取り図が本物かどうか、ナディア先生に聞いて確かめるとしよう。

 僕はベンチから立ち上がると、中庭を出て、ナディア医師の下へと向かった。

 午前12時過ぎ。

 昼食の時間になったので、僕は午前の診察を終えたであろうナディア医師のいる二階の外科の診察室を訪ねた。

 診察室に入ると、中にはナディア医師、玉藻、グレイの三人がいた。

 「玉藻、グレイ、一旦、姿を見せてくれ。二人にも聞いてもらいたい話がある。」

 認識阻害幻術を解除して、玉藻、グレイの二人が姿を現した。

 それから、僕はフロストからもらった帝城の見取り図を見せながら、フロストから聞いた話を、三人にも聞かせた。

 帝城の見取り図を見て、ナディア医師はひどく驚いた顔を見せた。

 「この見取り図は確かに本物だわ。自分が住んでいた城だもの。私には分かる。でも、これほど詳細な帝城の見取り図を闇ギルドが入手しているなんて。普通は最高レベルの国家機密に該当する情報よ。それをあっさりと外部の人間が、それもよりにもよって闇ギルドの人間が持っているなんて、皇女である私としては素直には喜べないことだけれど、この見取り図と、闇ギルドが提供してくれた情報があれば、人質になった人たちを救出できるかもしれない。」

 「でもよ、相手は闇ギルドだぜ?お前の馬鹿兄貴の悪事に協力してた連中だぜ?アタシらをおびき寄せる罠かもしれねえじゃんよ?」

 「グレイさんの言う通りです。わたくしたちをおびき寄せるための、新皇帝や「聖女」たちが仕掛けた罠である可能性は否定できません。裏の世界に生きる人間が素直に私たちに協力してくれるとも思えません。ですが、私たちが後手に回っていることも事実です。ここは闇ギルドが提供した情報が事実か否か、確認した上で行動を起こすことが得策かと考えます。いかかでしょうか?」

 「玉藻の意見に僕も賛成だ。このままナディア先生を警護しているだけじゃあ問題は解決しない。いつまでも人質をとられたままじゃあ埒が明かないのも事実だ。ここは打って出ることにしよう。僕に考えがある。僕はナディア先生と一緒にすぐ病院を出て、ナディア先生をラトナ公国大使館まで連れて行き、大使館で先生を保護してもらうことにする。玉藻、グレイの二人は、この後すぐに酒吞、鵺、エルザの三人と合流して、帝城に潜入してほしい。そして、五人で人質たちの救出を頼む。情報が確かなら、人質たちは全員、城の地下牢にいるはずだ。人質たちに認識阻害幻術をかければ、救出はそう難しくないはずだ。闇ギルドの提供した情報が偽情報であった場合は、人質の救出は断念して、即撤退してもらって構わない。ナディア先生、患者さんたちのことも気になるでしょうが、今は僕たちの作戦に協力をお願いします。よろしいですね?」

 「分かったわ。あなたたちを信じて、任せるわ。すぐに支度をすませるから。」

 「玉藻、グレイ、二人もよろしく頼む。」

 「かしこまりました、丈様。」

 「了解だぜ、ジョー。」

 ナディア医師、玉藻、グレイに作戦を伝えると、僕たちは行動を開始した。

 ナディア医師には、午後は私用で仕事を休むことを病院側に伝えてもらった。

 ナディア医師の支度が終わると、僕は認識阻害幻術を使って、ナディア医師とともに帝都中央病院を一緒に出た。

 透明人間のようになった僕たちが、病院の正面の入り口から出たことに誰も気付くことはなかった。

 帝都の南側にあるラトナ公国の大使館を歩いて目指しながら、僕は少しばかり一計を案じた。

 僕は病院から少し離れた帝都の路地裏に入ると、右手を正面に突き出し、詠唱した。

 「分身幻術!」

 直後、僕とナディア医師、二人の分身が目の前に現れた。

 自分の分身が現れて、ナディア医師は驚いた様子だった。

 「わ、私がもう一人目の前にいる!?ジョーさん、これは一体?」

 「これは僕と先生の分身です。会話はできませんが、僕の命令どおりに動きます。影まで再現しているので、一見は本物の人間にしか見えません。触られたりすると、実体ではないため、すぐに分身と分かってしまいますが、敵の目を欺くには有効です。ナディア先生、一つお訊ねしますが、インゴット王国の大使館は、ラトナ公国の大使館の近くにあったりしますか?」

 「ええっ、確か、200mほど離れたところに、すぐ近くにあったと思うけど、それがどうしたの?」

 「そうですか。なら、ちょうどいい。少し確認したいことがありましてね。とりあえず、このまま案内をお願いします。先に、インゴット王国の大使館へ案内していただけますか?」

 「何を考えているか、大体想像がついたけど、分かったわ。」

 僕はナディア医師に案内され、インゴット王国の大使館へと向かった。

 認識阻害幻術を使って姿を消しながら、分身幻術で生み出した僕とナディア医師の分身を操作し、街中を歩かせた。

 帝都中央病院から南へ歩いて40分ほどの距離に、各国の大使館があるエリアがあった。

 インゴット王国の大使館の傍まで到着すると、僕たち二人は大使館の正面入り口から少し離れた物陰へと隠れた。

 僕は、僕とナディア医師の分身を、少しづつインゴット王国の大使館の正面入り口へと向かわせた。

 大使館の入り口まで残り5mほど分身が近づいた時、分身のすぐ後ろから走って、茶色いローブに身を包んだ数人の冒険者らしき男たちが、分身目がけて突っ込んできた。

 男たちは、僕たち二人の分身を取り囲むなり、ローブをめくった。

 男たちの腹には、いくつものダイナマイトが取り付けられたベルトが巻いてあった。

 「ナディア皇女、お覚悟!」

 男たちはそう言うなり、腹のダイナマイトの導火線に火を付けた。

 大使館の入り口で門番をしていた騎士たちが慌てて止めに入ろうとするが、遅かった。

 火が付いたダイナマイトを腹に巻いたまま、男たちは分身に飛びかかった。

 男たちが分身に飛びかかった直後、爆発が起こった。

 インゴット王国の大使館の入り口や、門番の騎士たちを巻き込みながら、男たちのダイナマイトが、僕とナディア医師の分身を木っ端みじんに吹き飛ばした。

 「キャアーーー!」

 僕は咄嗟に霊能力を全身に纏うと、爆発に驚くナディア医師へ覆いかぶさった。

 爆発が止むと、大使館の入り口は爆発で崩れ、男たちや騎士たちは爆発のせいで死体も残さず消し飛んだようであった。

 突然の爆破事件に、通行人は驚き足を止め、周囲の建物からも騒ぎを聞きつけ、続々と人々が出てきて様子を窺っている。

 僕は体を起こすと、ナディア医師に声をかけた。

 「ナディア先生、お怪我はありませんか?」

 ナディア医師は、自分の分身が男たちに襲われ、ダイナマイトの爆発に巻き込まれたことにショックを受けている様子だったが、返事をしてくれた。

 「大丈夫。おかげさまで怪我ひとつないわ。だけど・・・まさか、こんなことになるなんて!?爆弾を使って私を殺そうとするなんて!?しかも、自爆するなんて!?」

 ナディア医師は、自分が命を狙われたこととともに、自分を狙った男たちが自爆して死んだことにショックを隠せず、涙を流していた。

 「ナディア先生、お気持ちは分かりますが、今は堪えてください。敵ももうなりふり構わない状況にまで追い込まれている、ということです。もし、あの男たちがあなたを狙って病院で自爆していたら、病院の患者さんや職員の人たちに被害が出ていた可能性もあります。最悪の事態を防げたのですから、良かったと考えるべきです。新皇帝はあなたや僕が死んだと思って油断するはずです。とにかく、急いでここを離れましょう。」

 僕はナディア医師を起こすと、一緒にラトナ公国大使館へと向かった。

 認識阻害幻術を解除すると、僕は左手のグローブを外し、大使館の門番へ、小指にはめたシグネットリングを見せた。

 「ラトナ公国子爵、ジョー・ミヤコノ・ラトナです。至急の要件があって参りました。大使へお取次ぎいただけますか?後、隣にいる女性はズパート帝国のナディア皇女様です。」

 僕の説明を聞き、門番の騎士は慌てながら、すぐに返事をした。

 「か、かしこまりました、ラトナ子爵様。至急、大使様にお取次ぎいたします。少々お待ちください。」

 それから、僕とナディア医師の二人は門番に通され、ラトナ公国大使館の中へと入った。

 大使に会い、事情を説明した後、ナディア医師を大使館で保護してもらうことになった。

 午後3時頃のこと。

 大使館で待機していた僕のところに、大使館の職員がやって来て、僕の知り合いと名乗る女性五人と、ズパート帝国の貴族を名乗る人たちが、大使館の入り口前に現れ、面会を求めているとの知らせを持ってきた。

 僕は全員を急いで大使館の中へと入れてくれるよう頼んだ。

 15分後、ナディア医師を連れて、大使館の一階のエントランスへと向かうと、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイの五人がいた。それと、ズパート帝国の皇女派と思われる貴族たちがいた。貴族たちは300人近くいて、想像よりもずっと多い人数に僕は驚いた。

 ナディア医師と貴族たちは再会を喜んでいる様子である。

 僕は玉藻たち五人に声をかけた。

 「お疲れ様、みんな!人質たちの救出は成功したようだね!みんなも無事で良かった!本当にありがとう!」

 「丈様こそ、お疲れ様でございました。外では丈様とナディア先生が爆弾テロに巻き込まれたと騒ぎになっております。ですが、お二人がご無事であると聞き、ホッとしたところでした。本当にご無事で何よりです。」

 「丈、お疲れ。まぁ、お前が爆弾程度でやられるわけねえとは分かっていたけどな。俺たちのご主人様を爆弾ごときで殺そうなんて考えが甘いぜ、まったく。玉藻がいたおかげで、城の警備もあっさり突破できて、人質の救出も楽勝だったぜ。」

 「丈君、お疲れ様。人質は私たちで全員、無事救出した。新皇帝も「聖女」たちもきっと人質が全員、救出されたと知って驚いているはず。丈君とナディア先生まで生きているとなれば、連中をもう追い詰めたも同然。私たちの勝利は確実。」

 「お疲れ様であった、ジョー殿。我もジョー殿が生きておると信じていたぞ。人質も皆、救出した。後は、「聖女」たちと新皇帝を我らで成敗してやるのみだ。悪人どもめ、今こそ天誅を食らわせてやる。覚悟するがいい。」

 「お疲れさん、ジョー。お前の作戦通りってわけだ。後はくそ勇者どもと、ナディアの馬鹿兄貴をぶっ倒すだけだな。ようやく、借りが返せるぜ。今度こそ、くそ勇者どもをアタシの槍で串刺しにして地獄に落としてやるぜ。腕がなるじゃんよ。」

 「さすがはみんなだよ。みんなが協力してくれたおかげで大成功だ。だが、まだ反撃の準備は終わっちゃあいない。インゴット王国政府に「レイスの涙」と「フェニックスの涙」が「聖女」たちによって盗難された事実を確認する必要がある。何、自国の大使館前で爆弾テロ事件が起こって、その原因が新皇帝と「聖女」たちのせいだと分かれば、インゴット王国も黙っちゃおれないはずだ。盗難の証拠の品も僕たちが握っている。きっと素直に協力してくれるはずだ。そうだ、ラトナ公国、ペトウッド共和国の連名で問い合わせればいい。エルザ、ペトウッド共和国最高議会議長の権力とやらを早速、僕に貸してもらえるかい?」

 「承知したぞ、ジョー殿。最高議長である我からも直々に問い合わせがあったとなれば、インゴット王国の連中も隠蔽はできまい。我が「レイスの涙」の現物をこの目で確認した、と言われれば、素直に盗難の事実を認めるであろう。早速、ペトウッド共和国大使館へと行き、問い合わせることにしよう。」

 「ああっ、よろしく頼むよ。」

 僕たちが話をしていると、ナディア医師とともに、救出した貴族たちが一緒に僕に声をかけてきた。

 「ジョーさん、紹介するわ。こちらはオネスト・マージ宰相。先代皇帝だった私の父の頃から皇家に仕えてくださってる方よ。父の腹心とも言える方よ。」

 汚れた白いトーブを着た、50代前半と思われる男性が話しかけてきた。

 「初めまして、ジョー・ミヤコノ・ラトナ子爵殿。私は、オネスト・マージと申す者です。サリム殿下が皇帝に即位される前はこのズパート帝国の宰相を務めておりました。このたびは私たちを救っていただき、誠にありがとうございます。そして、ナディア皇女様の命をお救いいただき、本当にありがとうございます。謎の奇病にかかった民たちまで助けていただいたともうかがっております。本当に何と御礼を申し上げたら良いものか。正しくあなた様こそ、真の勇者様でございます。「黒の勇者」と呼ばれるあなた様がいなければ、ナディア様や私たちはいずれ殺され、我が国は滅亡するところでした。本当に、本当にありがとうございます。」

 オネスト宰相はそう言って、僕に頭を下げた。

 オネスト宰相に倣い、他の貴族たちも一斉に僕に向かって頭を下げてきた。

 「頭を上げてください、皆さん。僕は自分にできることを精一杯やったまでです。皆さんを無事、救出できて僕も嬉しいかぎりです。オネスト宰相、それに皇女派の皆さんにお願いがあります。今回の謎の奇病の流行騒ぎの原因は、「聖女」たちが死の呪いを帝都全域にばらまいたことにあります。そして、新皇帝のサリム氏は「聖女」たちと結託し、今回の騒ぎを利用して、患者たちから治療代と称して金を巻き上げ、私腹を肥やそうとする悪事を働いたことが分かりました。僕とナディア皇女が連中の悪事の証拠を握っているため、僕たち二人を消そうと爆弾テロまで起こしました。もはや、一刻の猶予もありません。どうか、ズパート帝国を新皇帝と「聖女」たちから取り戻すため、僕たちに協力をお願いします。皆さんのご家族の身柄も無事だと、とある筋から聞いております。今こそ、国を取り戻すため、共に立ち上がりましょう。」

 「私からもお願いします。兄サリムは「聖女」たちとともに暴走を始め、この国を破滅へと導こうとしています。「黒の勇者」様の協力を得られた今が、この国の平和を取り戻す唯一の機会だと私は考えます。私は立ち上がる決心をしました。どうか、皆さんのお力をお貸しください。この通りです。」

 僕とナディア医師は揃って、頭を下げて頼んだ。

 「頭をお上げください、お二人とも。私たち家臣がサリム殿下の横暴な振る舞いを止められなかったことにも責任がございます。「賢帝」と呼ばれた亡き御先代様の守り続けたこの国を守りたい気持ちは我々も同じです。我々も覚悟は決まっております。例え、この命に代えてましても、ナディア皇女様とともにサリム殿下を討ち取り、この国を取り戻す所存です。私たちにできることがあれば、何なりとお申し付けください。」

 「ありがとうございます、皆さん。」

 「皆さん、本当にありがとう。父の愛したこの国を、一緒に取り戻しましょう。」

 僕、ナディア医師、オネスト宰相を始めとする皇女派の貴族たちは、共に新皇帝と「聖女」たち率いる現ズパート帝国政府と戦うことを決めた。

 「ナディア先生、皆さんにお願いがあります。皆さんは私兵をお持ちでしたら、ぜひ皆さんの私兵をお貸しいただけますか?それと、ここにいる皆さん以外にも協力してくれる貴族の方がいらっしゃったら、今回のクーデターに協力をしていただけるよう、お願いしていただけますか?ほんの少しでも戦力が多ければ、それで十分ですので。」

 「分かりました、ラトナ子爵殿。かき集められるだけかき集めてみせましょう。サリム殿下の率いる現政府の方針に不満を持つ者は多いはずです。ましてや、皇帝自ら国を滅亡させかねない悪事に加担していたとあっては、我々のクーデターに賛同し協力してくれる者は大勢現れるはずです。至急、国全土の皇女派の貴族たちに招集をかけます。」

 「よろしくお願いします。早ければ、明日にでもクーデターを起こし、帝城に攻め込みたいと考えています。まぁ、僕たち「アウトサイダーズ」だけで一気に制圧しようと思えば、すぐにでもできるんですがね。」

 僕が、「アウトサイダーズ」だけで帝城を制圧できると笑いながら言うと、オネスト宰相をはじめとする貴族たちはひどく驚いた顔を見せた。

 「た、たった六人だけで帝城を制圧できると、そうおっしゃいましたか?いくら何でもそんな無茶な。」

 「オネスト宰相、彼、いえ、ジョーさんの言っていることは事実よ。彼は少なくともSSランクモンスター100体分の魔力に相当する力を持っているの。他のメンバーも常識外れの力の持ち主ばかりよ。彼らが本気を出したら、城どころかこの国を一瞬で滅ぼしかねないわ。この国の戦力を全て集めても、彼らに通用しない可能性はほぼ確実よ。ジョーさんたちが私たちの味方についてくれたことは本当に幸いだったわ。」

 呆れたような口調でナディア医師が、僕たち「アウトサイダーズ」の戦力について、オネスト宰相たちに説明した。

 「SSランクモンスター100体分の魔力ですと!?それも、そんな方が大勢いるですと!?実に頼もしいと申しますか、味方であれば正に神、敵であれば悪魔とも言える力ですな。「黒の勇者」が味方についたことは本当に幸いとしか言いようがありませんな、まったく。」

 「アハハハ、とにかく僕たちに任せてください。ナディア先生を始め、皇女派のあなた方が挙兵した、現帝国政府に対してクーデターを起こした、その事実を新皇帝たちに突き付けてやれれば十分です。城攻めは任せてください。何なら、城ごと新皇帝も「聖女」たちも消し飛ばしてあげましょうか?」

 「ジョーさん、一応、私の実家だから、冗談でも本気でも、城を消し飛ばしたりなんてしないでちょうだい。後、あなたに一つお願いがあるのだけどいいかしら?」

 「何です、ナディア先生?」

 ナディア先生は僕の冗談を注意すると、それからお願いがあると言ってきた。

 「お願いというのは、とあるモノを回収してほしいの。実は、父は生前、私に自分の身にもしものことがあった時は、王の間の後ろに飾ってある、初代皇帝の肖像画を見ろ、そう言い残していたの。それと、このことは兄サリムには決してしゃべるなと、そう念を押されていたの。もしかしたら、父から私に向けて、何かメッセージが残されているかもしれない。そういうわけだから、何としてもその絵を回収して私に見せてもらえないかしら?」

 「王の間に飾ってある初代皇帝の肖像画、ですか。分かりました。傷ひとつなく、先生の下に届けることをお約束します。」

 「ありがとう、ジョーさん。よろしくお願いね。」

 僕がナディア先生と話をしていると、オネスト宰相が話しかけてきた。

 「お話中、すみません。一つ、お二人に言い忘れていたことがございました。帝城を脱出する際、多くの騎士たちと冒険者たちが、続々と帝城の中に入って行くのが見えました。クーデターを予想して制圧部隊のために人員を集めているように思いましたが、騎士たちが、ダンジョンを攻略しなければならない、そう言っているのが聞こえました。もしかしたら、サリム殿下や「聖女」たちは騎士たちや冒険者たちを使ってダンジョンを攻略することを考えているのかもしれません。帝城の中には、帝城と「土の迷宮」との間を結ぶ、移動用の特殊な魔法陣がございます。魔法陣を使って、集めた騎士や冒険者の一部を、ダンジョン攻略に送り込んでいる可能性がございます。「土の迷宮」の奥深くに眠る聖盾を手に入れ、「聖女」が覚醒することを目論んでいるのではないか、そう考えている次第です。」

 「ダンジョン攻略ですか!?そうか、花繰たちめ、自分たちの悪事が露見しそうな上に、自分たちだけじゃダンジョンを攻略できないもんだから、騎士たちや冒険者たちを使って一緒にダンジョンを攻略することを考えたわけか。「聖女」として覚醒できれば、本物の勇者として誰も自分たちには手出しできなくなると。なんちゃって勇者のアイツららしい、浅はかでせこい考えだな、まったく。人数をかき集めればどうにかなるほど、ダンジョンは甘くないんだよ。SランクモンスターやAランクモンスターが無制限で湧いて出てくるんだぞ。低レベルの連中を大勢集めたからって、攻略できるわけないだろ。どうせ、アイツらのことだ。騎士たちや冒険者たちを囮や捨て駒、あるいは盾替わりに利用するつもりだろうな。人の命を奪うことを何とも思っていない、連中らしいやり方だ。ますます、殺しがいが出てきた。「聖女」たちにダンジョン攻略など絶対にさせるものか。全員この手で皆殺しにしてやる。待っていろ、クソ勇者ども。新皇帝をぶっ潰したら、すぐに追いかけて全員地獄に送ってやる。」

 「聖女」たちがダンジョン攻略を目論んでいると聞き、僕は連中への復讐心で闘志を燃やした。

 横で話を聞いていた、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイの五人も、僕同様、「聖女」たちへますます闘志を燃やすのであった。

 「「黒の勇者」に目を付けられるなんて、兄もそうだけど、「聖女」たちも本当にご愁傷様としか言いようがないわね。ちょっと早いけど、彼らのご冥福を今からでも祈ることにするわ。まぁ、全員地獄行きだから、意味ないでしょうけど。」

 「まったくですな、皇女様。せめて、地獄から化けて出てこないことを祈りましょう。」

 僕たち「アウトサイダーズ」が「聖女」たちと新皇帝への闘志を燃やす中、ナディア医師とオネスト宰相がそんな僕たちの姿を見て、「聖女」たちと新皇帝にお悔やみの言葉を述べるのであった。

 その後、僕たちはラトナ公国大使館とペトウッド共和国大使館を通じて、インゴット王国政府に、インゴット王国国立博物館から「聖女」たちによって「レイスの涙」と「フェニックスの涙」が盗まれた可能性と、「レイスの涙」と思われる宝石を証拠の品として持っていること、「聖女」たちが「レイスの涙」を使って死の呪いをズパート帝国にてばらまく悪事を働いた可能性があること、僕たちがインゴット王国大使館を訪ねた際、僕たちを狙って「聖女」たちが暗殺者を仕向け、インゴット王国大使館前で爆弾テロ事件を引き起こした可能性を伝えた。それと、「聖女」たちが犯行に関わっていた場合、三国の政府要人に危害を加えようとしたものと捉え、インゴット王国政府に賠償金の請求を求めるとの抗議も伝えておいた。

 僕たちからの連絡を受け、インゴット王国政府は慌てた様子で、至急調査を行い、回答するとの回答を寄越してきた。

 明日の朝9時、皇女派の貴族たちが一斉に帝国全土で挙兵し、クーデターを起こすことになっている。

 それを合図に、僕たち「アウトサイダーズ」は一気に帝城へ乗り込み、帝城を制圧する予定だ。

 ようやく反撃の狼煙を上げることができた。

 待っていろ。花繰。他の勇者たち。新皇帝。

 お前たち悪党は全員、この僕がきっちり地獄に叩き落としてやる。

 クーデターは必ず成功させる。

 ダンジョン攻略も阻止してやる。

 お前たち全員、もうどこにも逃げ場はないのだ。

 僕の異世界への新たな復讐がようやく幕を開けようとしていた。























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