第四話 【処刑サイド:聖女たち&皇帝】聖女たち&皇帝、「黒の勇者」の出現に慌てる、そして、計画が狂い始める

 「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈がズパート帝国で流行る謎の奇病の感染源を突き止め、帝都全域の患者たちを治療し、謎の奇病の感染を根絶した日のこと。

 「聖女」花繰たち一行は、ズパート帝国の新皇帝サリム・ムハンマド・ズパートの庇護の下、朝からいつものように謎の奇病に感染した患者たちの治療を行っていた。

 謎の奇病の原因は、「聖女」たちが共同井戸に投げ込んだ「レイスの涙」と呼ばれる呪われた宝石から溢れ出る死の呪いで汚染された水を使用することにあった。

 その事実を知らない患者たちを、一人一回につき10万リリスという高額な治療費を国に支払うことを条件に、「聖女」たちは患者たちへ何食わぬ顔で治療していた。

 500万人もの大勢の罪のない人々を、自分たちが勇者の地位と力を取り戻すため、そして、金儲けのため、「聖女」たちは呪いで殺したのであった。

 当初は犠牲者が出ることに反対していたメンバーも、勇者の地位と力を取り戻せたことや、新皇帝から勇者たちへの支援という名目で億単位の金を小遣いとしてもらえたことで、罪悪感は一気に消し飛んだのだった。

 「聖女」たちは患者たちから治療費として巻き上げた金を使って、休日や空いている時間に、ブランド品の服や化粧品、貴金属類を購入したり、カジノやキャバレーで遊び回ったりしていた。

 「聖女」花繰は警戒して、外での豪遊は控えていたが、他の勇者たちは花繰の制止を聞かず、外で派手に豪遊していた。

 謎の奇病が流行する中、派手に遊び回る勇者たちの行動に疑問や不満をおぼえる国民もいたが、謎の奇病を治療できるのが「聖女」だけということもあり、「聖女」の取り巻きである他の勇者たちを咎めて治療を拒否されることになることを恐れ、彼らを咎めることはしなかった。

 午前9時。

 「聖女」たち一行は患者たちの治療を始めた。

 「聖女」の治療を受けるべく、中流階級・上流階級の貴族や商人たちを始めとする富裕層の患者たちが列を作って並んでいた。

 中には、低所得者層でも必死に金を工面して「聖女」の治療を受けるべく来た人々も大勢いた。

 自分たちをもてはやし、高額な治療費を払い続ける患者たちの姿を見て、「聖女」たち一行は、患者たちから勇者として必要とされる自分自身に酔っていた。

 自分たちこそ、女神に選ばれし勇者で、神に愛された特別な人間である、などという高慢な思いを「聖女」たち一行は皆、抱いていた。

 勇者の皮を被ったテロリスト、それこそが彼女らの真の姿であるのだが、彼女らに死の呪いをばらまいたことへの罪の意識はもはや皆無で、呪いによる死者も自分たちが勇者に戻るために必要な犠牲だった、そのように考える有り様であった。

 午前中の治療を終えると、「聖女」たち一行は昼食をとるため、休憩をとった。

 午後5時までの診察であったが、最近では三時間以上もお昼休憩をとり、午後からは二時間未満の診察しか行わない日もあった。

 午後3時過ぎ。

 たっぷりとお昼休憩を取った後、「聖女」たち一行はふたたび帝城内にて患者たちの治療を再開した。

 だが、奇妙なことに、いつもは何百人という患者たちが列を作って、午後も治療を受けに来るというのに、その日の午後は治療を受けに来た患者たちはほんの20人程度であった。

 上流階級の貴族や商人たちが治療を受けに来たが、中流階級の貴族や商人たち、低所得者層の人々が治療を受けに来ることはなかった。

 患者たちの激減に首を傾げる「聖女」たち一行ではあったが、高額な治療費や長い休憩時間が原因ではないかと考え、治療方針を少し見直せばいいだろう、という結論を出して、その日の診察を終了したのであった。

 午後8時過ぎ。

 夕食を終え、帝城の自室でくつろいでいた「聖女」たち一行であったが、突然、窓の外から青白い光が部屋の中に差し込んできた。

 驚いて窓を開け、外を見ると、帝都の夜空に青白い小さな太陽が浮かび、帝都全域を明るく照らしていた。

 青白い太陽から放たれる光が、帝都全域に降り注ぎ、自分たちを包むような感覚を「聖女」たち一行は感じた。

 やがて、帝都の夜空に浮かんだ小さな太陽は突然、彼女らの前から消えた。

 そして、帝城の周りから徐々に人々の歓声が聞こえてきた。

 謎の小さな太陽の出現と、帝都中から聞こえてくる人々の歓声を聞いて、「聖女」たち一行を何とも形容しがたい、言葉でははっきりと表せないものの、何故かは分からないが、強い不安感がこみ上げてくるのであった。

 一方、時を同じくして、自分の執務室で一人酒を飲んでいた、ズパート帝国皇帝サリムも突如、夜空に浮かぶ太陽を見て、思わず酒をこぼし、口を開けて驚いた。

 何かの天変地異の前触れか、そう思い、逃げる算段を考えていたが、夜空に突如浮かび上がった小さな太陽は、青白い光を放つだけで、その後すぐに消えたので、サリムは逃げることを止めた。

 だが、帝都中から聞こえてくる国民の歓声を聞いて、サリムは何か不吉な予感をおぼえた。

 すぐに騎士たちを呼びつけ、夜空に突如浮かんで消えた、謎の太陽の正体について調査するよう命じた。

 午前0時過ぎ。

 謎の太陽の出現から約四時間後のこと。

 寝室で「聖女」花繰と一緒に寝ていたサリムの下に、調査を命じていた騎士たちから報告が入った。

 花繰とのセックスを邪魔され、気分を害したサリムであったが、緊急の報告と言われて、仕方なく騎士たちからの報告を聞くべく、着替えて執務室へと向かった。

 騎士たちからの報告が気になった花繰も、一緒に執務室へと向かった。

 執務室に入ると、サリムは報告に来た騎士たちに訊ねた。

 「こんな真夜中にこの俺様を起こすからには、よほどの内容なんだろうなぁ?もし、ゴミみたいな報告だったら、即刻処刑するぞ?分かったな?」

 サリムの恫喝交じりの問いを受けて、青ざめながらも騎士たちは報告を始めた。

 「調査報告を申し上げます。陛下のご命令通り、昨日午後8時頃に突如出現した謎の太陽について調査したところ、正体が判明しました。謎の太陽の正体は、「黒の勇者」こと、Sランクパーティー「アウトサイダーズ」のリーダーにしてラトナ公国子爵、ジョー・ミヤコノ・ラトナ子爵様であることが判明いたしました。謎の奇病に感染した患者たちを治療するため、治療効果のある青い光を放つ目的で、「黒の勇者」様は帝都上空にてご自身の力を使われた結果、あのような太陽が発生したとのことです。冒険者ギルド本部にて聞き込み調査を行った結果、この事実が判明いたしました。尚、青い光を浴びたことで、帝都全域のほぼ全ての患者が回復したと思われます。さらに、「黒の勇者」様によって、謎の奇病の原因が、死の呪いによって帝都の共同井戸の水が汚染されていたことが分かり、また、同氏の活躍によって汚染水が浄化されたとのことです。報告は以上になります。」

 騎士たちからの報告を聞き、サリムと花繰は慌てた。

 「あ、あの太陽が「黒の勇者」だと!?人間が太陽になるなど、そんな馬鹿な!?あの太陽の光で、帝都全域の患者が治療されただと!?感染源まで突き止め、帝都全域の汚染水を、死の呪いを浄化しただと!?あり得ねえ、こんな馬鹿なことが起こるわけねえ!?たった一人で帝都の患者たちを治すなんて、化け物か、「黒の勇者」は!?」

 「み、宮古野君が帝都に来ているですって!?あの太陽の正体も宮古野君!?それに、患者たちを全員治療して、感染源まで突き止めたですって!?へ、陛下、すみませんが、大至急、「黒の勇者」について他の勇者たちと話をしてまいりたいと思います!私はこれにて退室させていただきます!よろしいでしょうか?」

 「あ、ああっ、ユミ、構わんぞ!存分に話をしてくるがいい!」

 「では、失礼させていただきます。」

 花繰はそう言って、サリムや騎士たちを残し、執務室を出るのであった。

 花繰が退室した後、サリムは騎士たちに再度訊ねた。

 「「黒の勇者」は今、どこでどうしている?」

 「はっ。力を使い過ぎた反動で、意識不明の重体となり、帝都中央病院に搬送され、現在治療中とのことです。」

 「そ、そうか!?「黒の勇者」は意識不明の重体か!?民を救ってくれた英雄であるから、俺様から何か褒賞でもやらねばと思ったが、意識不明の重体とはな!?一刻も早い回復を祈るとしよう!」

 「黒の勇者」が意識不明の重体であると聞き、サリムは内心喜んだ。

 目の前にいる騎士たちの多くは、自身が金で買収した連中ではあったが、「聖女」たち一行が死の呪いを帝都中にばらまいた事実だけは伏せていた。

 国を滅ぼしかねないと言われた謎の奇病の流行に、皇帝である自身や「聖女」たち一行が関わっていることがバレれば、さすがの騎士たちも自身に反旗を翻すことになりかねなかった。

 このまま「黒の勇者」が死ねば、真相は闇に葬られる。

 念のため、後で闇ギルドに「黒の勇者」の暗殺依頼を出しておけば問題ない。

 そんなことをサリムが考えていると、一人の騎士が報告に訪れた。

 「皇帝陛下にご報告いたします!先ほど、「黒の勇者」様が意識を取り戻したとのことです!「黒の勇者」様は無事、回復され、現在は検査入院のため、帝都中央病院に入院中とのことです!ほぼ全快に近い状態まで回復されたそうです!「黒の勇者」様が回復されたと聞き、国民は皆、喜んでおります!どうぞ、お喜びください、陛下!」

 騎士から満面の笑みで報告を受け、サリムは苦笑いしながら返事をした。

 「ほ、ほう、「黒の勇者」が無事、回復したのか!?さ、さすがは我が国を救った英雄だ!実に凄まじい回復力だ!後で俺様から見舞いの品を贈ることとしよう!お前たち、報告ご苦労であった!もう、下がっていいぞ!」

 サリムにそう言われ、騎士たちは執務室から出ていった。

 騎士たちが退室した後、サリムは思わず、机を叩いて悔しがった。

 「くそがっ!もう回復しただと!?回復力まで化け物なのか、「黒の勇者」ってのは!?この俺の計画を邪魔しやがって!もうユミたちを使っての金儲けはできねえ!「黒の勇者」が、ユミたちが呪いをばらまいた証拠を掴んだかもしれねえ!だけど、相手は空に太陽を作るような化け物だ!闇ギルドの連中が暗殺できる可能性は低い!おまけに、「黒の勇者」はナディアがいる帝都中央病院にいやがる!あの女と接触でもされたら厄介だ!こうなったら、先にナディアの奴を始末するのが先決だ!あの女さえいなくなれば、いくら「黒の勇者」でもこちらに手出しできねえはずだ!くそっ、本当に面倒なことをしてくれたぜ!」

 サリムは怒りをぶちまけると、連絡用の水晶玉を机の引き出しから取り出した。

 相手はもちろん、ズパート帝国の闇ギルドである。

 ナディア医師の暗殺を依頼すべく、サリムは闇ギルドのギルドマスターに連絡をした。

 「おい、フロスト。俺だ、サリムだ。良いから返事をしろ。」

 『何だい、サリムの旦那?今は夜中だぜ、おい。こんな夜中に俺に連絡を寄越すなんて、よっぽどのことがあったんだな?それで、要件は何だい?手短に頼むぜ。』

 「お前に依頼してえことがある。俺の妹、ナディアの奴を始末してほしい。ちょいと面倒なことになってな。なるべく早く、あの女を消してほしい。礼金ならたっぷりはずむ。よろしく頼むぜ?」

 『ナディア皇女の暗殺ねえ?今頃になって暗殺を頼むなんて、一体どういう風の吹き回しだい?もしかして、「黒の勇者」様が原因か?ナディア皇女が働く病院に「黒の勇者」様が運び込まれたそうだな?噂の英雄様と妹さんに会われちゃ困るって、そういうわけかい?』

 「もうそこまで知ってんのか。なら、話は早ええ。大至急、ナディアの奴を殺してくれ。」

 『悪いなぁ、サリムの旦那。アンタのその依頼、受けることはできねえな。頼むなら、他所を当たってくれ。俺たちが引き受けることはねえから、まぁ、諦めてくれや。』

 闇ギルドのギルドマスター、フロストから断られ、サリムは驚き、激怒した。

 「俺様の依頼を断るだと!?テメエ、ズパート帝国の皇帝である俺の依頼を断るとは、どういうつもりだ?軍隊使って、すぐにテメエの組織をぶっ潰すことだってできんだぞ?俺様の依頼の一体何が気に食わねえって言うんだ?」

 『サリムの旦那、謎の奇病の原因とやらは、どうやら死の呪いが井戸水を汚染したことが原因だってなぁ?「黒の勇者」様が井戸水を浄化したって話も聞いてる。俺たち闇ギルドも謎の奇病のせいで大打撃を食らってよぉ。構成員が病気にかかって倒れてそのせいで治療代がかかるわ、ウチが経営するカジノや娼館も従業員が倒れて、臨時休業になるわ、売り上げが落ちるわ、ともかく散々だったわけよ。まぁ、オタクんとこの勇者様たちがちいっとばかし金を落としてはくれたが、売り上げ全体を見ると、大赤字になったわけよ。サリムの旦那、アンタ、謎の奇病の原因について知ってただろ?「黒の勇者」様がアンタと「聖女」がグルになって金儲けをしてた証拠を掴んだもんだから、ナディア皇女と接触される前に皇女を始末したい、そんなところだろ?旦那たちのせいで俺たちは大損害を受けた。後、個人的にだが、俺も「黒の勇者」様にはちょいとばっかし借りがあってね。そういうわけだから、アンタからの依頼はお断りだ。おっと、それと、アンタから以前受けた皇女派の貴族たちの監視の依頼だが、そっちも手を引かせてもらうぜ。これ以上、アンタに協力するメリットはねえと見た。今までウチをご贔屓にしてくれてありがとよ。じゃあな、サリムの旦那。』

 そう言って、フロストはサリムとの通信を切った。

 闇ギルドから依頼を断られた上、関係断絶まで言われたサリムは、あまりの衝撃に言葉を失い、呆然となった。

 しばらくして、サリムは正気に戻ったが、怒りから机の上に置いていた水晶玉を持ち上げると、床に叩きつけて粉々に割った。

 怒りと悔しさを交えながら、サリムは独白した。

 「くそがっ!どいつもこいつも俺を虚仮にしやがって!皇帝であるこの俺の頼みを断るだと!この俺と縁を切るだと!ふざけやがって!何が「黒の勇者」だ、忌々しい!「黒の勇者」、奴のせいで俺様の計画は全部台無しだ!ナディアも目障りだが、「黒の勇者」も目障りだ!こうなったら、何が何でも「黒の勇者」とナディアを始末してやる!闇ギルドなんぞ頼る必要はねえ!こっちには金がある!冒険者を雇って、始末させればいい!皇帝であるこの俺様を虚仮にしたことを後悔させてやるぜ!」

 サリムは怒りを吐露すると、それから、一人執務室でうっぷん晴らしに酒を飲み始めるのであった。

 一方、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈がズパート帝国に来て、患者たちを治療し、さらに謎の奇病の感染源まで突き止めたという報告をサリムとともに聞いた「聖女」花繰は、「黒の勇者」が「聖女」たち一行のすぐ傍まで来ており、自分たちに復讐の牙を向けてくることを恐れ、急ぎ寝ている仲間たちを起こし、騎士たちからの報告内容を伝えた。

 「黒の勇者」の突然の出現に、「聖女」たち一行は皆、戸惑いを隠せないでいた。

 「おい、どうして宮古野の奴がこの国にいるんだよ?アイツは遠く離れたペトウッド共和国の首都にいるって話だったろ?砂漠を渡って来てもかなり時間がかかるって話だっただろ?何でもうアイツがこの国にいるんだよ?」

 「盾士」祝吉 楽が困惑した表情を浮かべながら言った。

 「問題はそれだけじゃあねえ。宮古野の奴は帝都の患者全員を治療した。おまけに、感染源まで突き止めた。俺たちが「レイスの涙」を井戸に投げ込んだことを奴がバラせば、俺たちは国民から袋叩きにされる可能性が大だぜ。皇帝の奴も頼りになるかは分からねえ。バレねえ内に国外へ逃げるべきじゃねえか?」

 「盾士」上川 順が深刻な表情を浮かべながら、国外へ逃亡することを提案した。

 「逃げるたって、どこに逃げんのよ?私たちが呪いをばらまいたことがバレれば、世界中からまた目の敵にされることは分かってんじゃない?この国以外で、私たちを勇者として受け入れてくれる国なんて本気であると思ってんの?ここは皇帝に頼んで、軍隊でも使って宮古野の奴を殺してもらうしかないわ!皇帝の権力でねじ伏せる以外に手はないわ!」

 「盾士」郡元 鈴が、逃亡ではなく、皇帝と協力して主人公との徹底抗戦を主張した。

 「でもさぁ、鈴、宮古野の力は鈴も見たでしょ?太陽みたいになって、帝都の患者を一気に治すなんて、はっきり言って強さのレベルが私らとは段違いじゃん!Sランクモンスターをソロ討伐した上に、ペトウッド共和国でも武術大会みたいなのに出て活躍しまくったんでしょ。この国の軍隊使っても勝てないかもしれないよ?おまけに、ラトナ公国の貴族なんでしょ、宮古野は。ほかの国の貴族様を簡単に処刑するとか、いくらあの皇帝でも無理でしょ、絶対。こうなったら、宮古野を金で買収する以外、策はなくない?」

 主人公との徹底抗戦ではなく、金で主人公を買収することを、「回復術士」小松原 春香が提案した。

 「金で買収する案は悪くないかもしれない。けど、宮古野の奴はペトウッド共和国で姫城たちを殺したって話じゃん。あのお嬢様の姫城なら、買収を持ちかけてもおかしくないでしょ?宮古野が姫城たちの買収を断って、問答無用で殺した可能性もあり得るでしょ?私たちが買収を持ちかけても、宮古野が応じる保証はない。ここは暗殺をプロに依頼するべきじゃないかしら?闇ギルドにお金を払って、宮古野の奴を暗殺してもらうのがいいと私は思うわ。プロの殺し屋なら、証拠を残さず、宮古野の口を塞いでくれるかもしれないでしょ?暗殺がベストな対策だとは思わない?」

 「回復術士」千町 愛が、主人公を暗殺することを提案した。

 仲間たちが思い思いの提案を口にする中、「聖女」花繰が口を開いた。

 「みんな、意見をくれてありがとう。私も色々考えたんだけど、国外へ逃亡する案は一旦置いた方が良いと思う。国外への逃亡は最後の手段だと思うから。宮古野君が、私たちが「レイスの涙」を使って呪いをばらまいたことをいずれ世間に向かって公表する可能性がある。その前に、私たちは何としても勇者としての地位を不動の物にする必要があると思うの。私たちにはまだ聖盾がある。ダンジョンを攻略して、聖盾を手に入れて私が「聖女」として覚醒すれば、少なくとも世間は、私やみんなを女神さまに選ばれた真の勇者だと認めざるを得ない。そうなれば、宮古野君だって、私たちには簡単には手が出せなくなる。幸い、皇帝陛下は私たちを勇者として信頼してくれている。皇帝陛下にお願いして、軍隊を貸してもらって、それから、腕利きの冒険者たちも集めてもらって、私たちのダンジョン攻略を手伝ってもらうのはどうかな?物量作戦にはなるけど、何万、何十万という味方がいれば、ダンジョン攻略だってできると思うの?みんなはどう思う?私なんかの考えた作戦じゃ、やっぱり駄目かな?」

 少し自信なさげな表情を浮かべながら、軍隊や冒険者たちに協力してもらい、ダンジョンを攻略して勇者としての地位を確立する作戦を、花繰が仲間たちに向かって提案した。

 花繰の作戦を聞いて、仲間たちは彼女の作戦に賛同した。

 「いや、花繰の言う通りだぜ。軍隊の力を借りてダンジョンを攻略するのはアリだと思うぜ。大勢で一気に乗り込めば、ダンジョンの攻略はできるかもしれねえ。元々、攻略するつもりだったんだし、良いんじゃねえか?」

 「俺も花繰の意見に賛成だ。国外逃亡は最後の手段だ。まだ、俺たちには聖盾という切り札が残っている。軍隊や他の冒険者の力を借りれば、ダンジョンを攻略できる可能性はないとは言えない。聖盾さえ手に入れれば、誰も俺たちには手出しできなくなる。ナイスアイディアだ、花繰。」

 「ダンジョン攻略かぁ?確かに、軍隊を使うなら宮古野と戦うより、ダンジョン攻略に使う方が効率良いかもね。ダンジョンを攻略して優美が聖盾を手に入れて覚醒すれば、誰も私たちには文句言えなくなる。私も優美の作戦に賛成だわ。」

 「私たちが呪いをばらまいたおかげで、今、この国は儲かっているでしょ。ダンジョン攻略のために必要な金は十分あるはず。優美が頼めば、あの皇帝はいくらでも私らにお金をくれると思う。金さえあれば、ダンジョン攻略の遠征なんて余裕でしょ?軍隊も冒険者も何人だって雇えるしね。」

 「暗殺がもし、成功しなかった場合、宮古野の奴が貴族の地位を利用して、私たちを犯罪者として処刑を要求、あるいは身柄を引き渡すよう、皇帝に取引を持ちかける可能性がある。宮古野が行動を起こす前に、ダンジョンを攻略して、勇者としての地位を不動の物にすれば、宮古野も、他の奴らも私たちを傷つけることはできない。暗殺より、軍隊を使ってダンジョンを攻略する方が、むしろリスクが低いというわけね。正攻法こそが一番ということか。そういうことなら、私も優美の意見に賛成よ。」

 仲間たちから自分の作戦に賛同するという言葉をもらい、花繰は笑顔で喜んだ。

 「みんな、ありがとう!みんなに賛成って言ってもらえたら、私も自信が湧いてきたよ!軍隊を貸してもらうことや、冒険者の人たちを雇ってもらうことは、私から皇帝陛下にちゃんとお願いするから!私たちが勇者としてダンジョン攻略に挑みたいって言ったら、きっと陛下も喜んで力を貸してくれると思う!ダンジョンはすごく危険だけど、みんなが付いてきてくれるなら、私も安心だよ!絶対、みんなで一緒にダンジョンを攻略して、真の勇者になろうよ!」

 花繰たち一行は笑い合い、共にダンジョンを攻略することを改めて誓ったのであった。

 話し合いが終わり、花繰たちはそれぞれ自分の部屋へと戻った。

 自室に戻ると、花繰は呟いた。

 「ダンジョン攻略がとても危険なことは分かっている。例え軍隊や冒険者の人たちが一緒でも、みんなで無事にダンジョンから帰れる保証はない。私たちの中の誰かが死ぬことになるかもしれない。でも、みんなの犠牲は絶対に無駄にはしないから。私が「聖女」として覚醒したら、みんなの分まで私が勇者として異世界の人たちを助けてあげるから。だから、最後までみんなには手伝ってもらうから、頑張ってね。私のために死ねるなら、みんなも本望だと思うから。」

 自らが「聖女」として覚醒するためならば、一緒に旅をしてきた仲間たちさえも平気で犠牲にすることを、邪悪な笑みを浮かべながら一人呟く、「聖女」花繰の姿がそこにはあった。

 「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈の出現によって、自分たちの犯罪計画が狂い始め、慌てだした「聖女」花繰たち一行と、ズパート帝国皇帝サリムは、自分たちの悪事の露見を恐れ、行動を開始した。

 だがしかし、彼女たちの企みが成功することは決してない。

 主人公、宮古野 丈によって、自分たちの悪事が露見し、全員が主人公の手で破滅する未来が待ち受けていることを、「聖女」たち一行と、皇帝サリムはまだ知らない。







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