第十五話 【主人公サイド:ラトナ公国大公】とある女大公の楽しい盗聴ごっこ

 主人公たちがラトナ公国を出発し、ペトウッド共和国へと旅立ったその日の深夜のこと。

 主人公、宮古野 丈とその仲間たちと別れたクリスは一人、自室にこもって、盗聴マイク片手に、盗聴ごっこをして遊ぼうとしていた。

 盗聴するのはもちろん、主人公である。

 「さてと、今はもう夜だし、ジョー君も寝ちゃった頃かな?フフン、まさか、私があげた指輪が、発信機兼盗聴器兼通信機になっているとはさすがのジョー君も気付かなかったようだね。私がそう簡単にジョー君のことを諦めるわけないじゃないか。君が泊まっていた部屋にもばっちし盗聴器をしかけて、毎晩可愛い寝息を聞いていたんだもんねぇ。それじゃあ、今夜も楽しい盗聴ごっこを始めると行きましょう!」

 クリスは主人公に贈ったラトナ公国子爵の証である指輪に、盗聴器の機能を仕込んでいたのだった。

 盗聴ごっこと言っているが、間違いなく本物の盗聴である。

 盗聴は個人のプライバシーを侵害する紛れもない犯罪行為である。

 クリスは主人公から以前注意を受けたにもかかわらず、ずっと主人公を盗聴していたのだった。

 そして、今夜も盗聴ごっこと称して、主人公の寝息を盗聴するのだった。

 「さてさて、今夜もお姉さんに可愛い寝息を聞かせておくれ、ジョー君。」

 クリスはニタニタと笑いながら、盗聴マイクに耳をつけた。

 「~ZZZ、グーグー。」

 主人公の寝息が聞こえてきた。

 「おおっ、今日も可愛い寝息だぁ!いやぁ、やっぱり可愛い男の子の寝息は最高だなぁ!これぞ至福の時間だよ。おっと、忘れず録音録音っと。」

 クリスはいつものように主人公の寝息を盗聴していた。もちろん、録音も欠かさず毎回行っている。

 32歳の女性が17歳の少年の寝息を毎晩、盗聴している。

 もはや一種のホラーである。

 クリスが盗聴を楽しんでいると、ふいにドアの開くような音が聞こえてきた。

 そして、かすかに足音も聞こえてきた。

 「ほ、ほら、お二人とも、このほっぺを触ってみてください。とてもプニプニしています。久しぶりに触る丈様のほっぺはやはり格別ですね。」

 「ああっ、確かにこのほっぺのプニプニはたまんねえぜ。丈のほっぺたはいつ触っても最高だな、本当によ。」

 「丈君のほっぺたプニプニ最高。これを触れない日々が1ヶ月以上も続くなんて最悪だった。でも、もう邪魔されることはない。今日からまた思う存分、プニプニできる。丈君の寝顔も可愛い。丈君、マジ天使。」

 盗聴マイクから、玉藻、酒吞、鵺の声が聞こえてきた。

 「やれやれ、人の盗聴ごっこに水を差すとは、無粋な連中だな。大体、僕に盗聴ごっこを注意しておいて、自分たちは勝手に丈君の部屋に侵入して、丈君のほっぺに触ったり、寝顔を見て楽しんだりする方がよっぽど問題だろ。不法侵入やセクハラじゃないか、まったく。あの三人が寝ているジョー君に変なことをしないか、今夜は徹夜で見張らなければ。安心してくれ、ジョー君。ジョー君の貞操は私が守る。」

 自身を盗聴するストーカー女に、勝手に貞操を守ることを知らぬ間に宣言される主人公であった。

 結局、クリスは主人公が起きるまで一睡もせず、盗聴を楽しんだのだった。

 盗聴を終えると、クリスは自室のベッドにそのままダイブして寝転んだ。

 「いやぁ~、今回の盗聴ごっこも実に良かった。途中、変な邪魔が入ったけど、まぁ良しとするか。」

 クリスは満面の笑みを浮かべながら、盗聴の感想を述べた。

 「ジョー君たちのおかげでブラックオリハルコンは手に入るし、トランスメタルは完成するし、インゴット王国から1兆リリスの損害賠償金をふんだくれるし、おまけに毎晩ジョー君の可愛い寝息は聞けるし、実に毎日がハッピーに変わったよ。早くジョー君がトランスメタルを使って戦ってくれるのが楽しみだなぁ。本当に君は最高だよ、ジョー君。」

 クリスはこれからの日々に思いをはせていた。

 そして、主人公のことを強く思うのであった。

















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