第八話 【主人公サイド:ヒロインたち】とある乙女たちの恋と悩みとデート大作戦

 「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈と、主人公率いる冒険者パーティー「アウトサイダーズ」が、強化トレーニングとバカンスのため、サーファイ連邦国の南にあるフラワーコーラル島のコーラル・リゾートホテルへと滞在し始めてから三日目の深夜。

 メルとゾーイ(&スロウ)を除くパーティーメンバーの女性陣たちの不満と怒りは、早くも限界寸前に達していた。

 

 (玉藻・酒吞・鵺SIDE)

 玉藻、酒吞、鵺の三人が泊っている水上コテージのリビング内で、テーブルを囲んで、玉藻たちは深刻な表情を浮かべながら、話し合っていた。

 「わたくしはもう我慢の限界です!ゾーイさんに丈様を独占されるなど、耐えられません!」

 「俺もだぜ!あのブラコン女、丈の妹になったからって調子に乗り過ぎだぜ!丈に四六時中ベタベタくっつきやがって!大人しいふりして、猫被ってたんだぜ、きっと!」

 「私はとっくに我慢のピークを越えた!私たちを差し置いて丈君と添い寝するなんて、1,000年早い!今すぐ乗り込んで、ゾーイを海に放り込んで追い出すべし!ブラコンは滅するべし!」

 「落ち着きなさい、鵺!そのようなことをすれば、丈様から顰蹙を買って嫌われることになりかねません!これまでに築き上げてきた丈様との絆が壊れることにもなりかねません!過激な行動は控えなさい!」

 「分かっている。でも、このままだと、丈君を一ヶ月もあのブラコンに独占されてしまう。今すぐ手を打たないと、丈君をゾーイに盗られる。」

 「鵺の言う通りだぜ、玉藻。このまま何もせずに黙って一ヶ月も指をくわえて我慢しろ、なんて無理だぜ、俺も鵺もよ。」

 「酒吞、鵺、私も同意見です。このままゾーイさんを野放しにするのは危険です。幸い、丈様はゾーイさんに手を出すつもりはなく、ゾーイさんも添い寝以上の行為には及んでいません。ですが、ゾーイさんのブラコンぶりがさらに酷くなって、妹の立場を利用して私たちと丈様の恋路を妨害して、自分が優位に立とうとするのは明白です。故に、私たちが今後取るべき手段は二つです。」

 「手段って何だよ、玉藻?」

 「二つもあるらしいけど、具体的には何?」

 「まず、一つ目に、丈様と私たちでデートをするのです!二人っきりで、誰にも邪魔されず、二人っきりの時間を作り、デートを満喫して、私たちの恋路を一気に推し進めるのです!」

 「で、デート!?いや、デートをするってのは悪くない考えだぜ。けどよ、丈の奴が、アイツが首を縦に振ると思うか?大事なトレーニングがあるからって言われて、あっさり断られたりはしねえか?」

 「丈君とデートはしたい。けど、私たちには大事な強化トレーニングもある。丈君は遊ぶためより、トレーニングのためにこの南の島にやって来た。トレーニングだって始まったばかり。みんなで一緒に遊ぶ方が難易度が低くて断られにくいと思うけど?」

 「二人の懸念していることは分かっています。しかし、ここは強気に出るべきです。よく考えてみてください、二人とも。ここ最近、私たちは丈様と二人だけでどこかに出かけたり、仕事をしたり、遊んだりしたことがありましたか?元勇者たちへの復讐に集中し過ぎて、大事な主であるジョー様と二人だけで親密に過ごせる時間が減ったとは思いませんか?」

 「確かに、玉藻の言う通りだな。最近、丈と二人だけで一緒に過ごした覚えがないぜ。」

 「私も同じく。丈君と二人っきりで何かした記憶がない。これはかなり良くない。」

 「そうでしょう。だからこそです。ここは強気に出て、丈様と二人きりでデートを楽しみたいと要求するべきなのです。私たちは今、異世界でも有数の高級リゾート地、デートをするには最も適した環境にいます。ここへ来た目的の半分はバカンスでもあります。絆の力こそが私たちの力。二人の間に紡ぐ絆をより深めることが大事であると、丈様に訴えれば、必ず首を縦に振られて快諾してくださるはずです。」

 「なるほど。玉藻、ここはお前の立てた作戦通りに進めれば、上手く行きそうだな。」

 「二人の絆の力を深めることも大事なこと。そのためのトレーニングにもデートは打ってつけ。悪くはない。問題は、他のメンバーが邪魔してくる可能性があること。特に、ブラコンのゾーイと、お下劣な相棒のゾーイ。あのコンビは要注意。」

 「その点ならすでに対策を考えています。エルザさん、グレイさん、イヴさん、マリアンヌさん、あの四人も仲間に引き入れるのです。あの四人もゾーイさんに丈様を独占され、メルさんの母親候補の座まで脅かされているとあって、私たち同様、不満を募らせているはずです。七人に同時に申し込まれれば、流石の丈様も私たちのデートの誘いを断れないはずです。ゾーイさんが邪魔しようとしてきても、圧倒的多数で押し切るのです。もちろん、人数が増える分、デートの時間や場所などが多少、制限されることにもなりますが、丈様とのデートが実現する可能性は上がること間違いなしです。」

 「なら、早速他の四人を抱き込みに行こうぜ。善は急げ、って言うだろ?」

 「エルザたちもきっとすぐに仲間に加わる。多数決は嫌いだけど、こういう時の多数決は嫌いじゃない。すぐに行動に移すべし。」

 「ありがとうございます、酒吞、鵺。では、二人も一緒にこの後すぐ、他の四人の説得を手伝ってください。それと、もう一つの手段ですが、これ以上のパーティーへの女性メンバーの加入は断固阻止することとしましょう。元々は、丈様と私たち三人だけで異世界を旅する予定でした。丈様の恋人兼家族になるのも、私たちだけだったはずです。しかし、事情はあれど、私たち以外の女性メンバーの加入を許していました。が、はっきり言いまして、増えすぎました。これ以上、ライバルを増やすわけにはまいりません。今後、例えどのような事情があろうと、新しい女性メンバーの加入は一致団結して阻止しましょう。男性でしたら良しとしましょう。まぁ、この異世界には、丈様の足元に遠く及ばない碌でもない男しかいないので、男性メンバーの加入はあり得ないことですが。」

 「他に女の新しいメンバーを加えないのは俺も大賛成だ。これ以上、丈に近づく女が増えるのは御免だぜ。男なら良いぜ。ゴブリン以下の最低のクズ野郎しか基本いねえがよ、この異世界には。」

 「これ以上、私たちの恋路を邪魔するライバルは排除すべし。元々、正ヒロインは私たち三人だった。ケモ耳のボーイッシュ娘にヤンキー娘、ヤンデレ女神、ポンコツ王女、グウタラダウナー系ギャルのお下劣堕天使、ブラコン娘、すでに容量一杯。外には、ショタコンストーカー女の女大公に、クーデレ女医の女皇帝、堅物ぶった清楚系ビッチ女神までいる。丈君はハーレムが嫌い。ちょっと年上の大人の女性との普通な恋愛が好み。対象外まで割り込んでこられては困る。丈君以外の男性メンバーは、私は別にいらない。どうせ、この異世界には害虫以下、ゴミ同然のクズ男しかいない。クズ男は即刻、抹殺すべし。」

 「この方針も他の四人に伝えて、新たな協定の内容に付け加えるとしましょう。ゾーイさんとスロウさんにも後から伝えるとしましょう。皆さん、賛成するはずです。では、早速他の四人に相談へ伺いに行きましょう、酒吞、鵺。」

 玉藻はそう言うと、酒吞と鵺の二人を連れて、夜こっそりと、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌの泊まる水上コテージを訪ねようと、自分たちの泊まる水上コテージを出るのであった。


 (エルザ・グレイ・イヴ・マリアンヌSIDE)

 深夜、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌの四人が泊っている水上コテージのリビング内で、テーブルを囲んで、エルザたちは深刻な表情を浮かべながら、話し合っていた。

 「我は、我はもう辛抱ならん!ゾーイ殿の甘えぶりは行き過ぎだ!アレは我の知っている妹ではないぞ!アレは明らかに妹ではなく、恋する女の顔だ!あのような卑劣な戦法を使ってくるとは許せん!」

 「アタシなんてとっくにぶっちぎりの全速力で我慢の限界を超えてるじゃんよ!あのブラコンがマジで調子に乗ってるぜ!アタシらの目の前でジョーに「あ~ん❤」とかしやがって!ああいうのは妹とは呼ばねえ!泥棒猫って言うんだぜ!」

 「婿殿の婚約者にして正妻である妾を差し置いて、婿殿に食事を食べさせたり、添い寝をしたりするなど、妹と言えど見過ごすわけにはいかぬ!血の繋がっていない義妹なら結婚もできると分かっていて、あのように婿殿に甘えてすり寄っているに違いない!オウムを使ってメルを懐柔してくる手まで使ってくるずるがしこさも腹が立つ!これで婿殿の貞操を奪おうなどとしてくるならば、今すぐにでも宇宙の塵にして葬ってくれる!ゾーイと言い、ブレンダと言い、闇の女神にして正妻たる妾を舐めおって、実に不愉快だ!」

 「私もゾーイさんのブラコンぶりは良くないと思います!アレは正しく不健全、不純異性交遊ギリギリと言っても過言ではないと考えます!妹ではなく、恋する乙女の姿です!私だって、トレーニングのコーチとしてだけでなく、もっと異性としてジョー様と接したいのに!正に職権乱用、あざといと言える所業です!」

 「いや、マリアンヌ殿は朝から夕方までジョー殿と一緒にトレーニングできるのだから、我らよりはずっとマシではないか?」

 「マリアンヌ、お前の方がよっぽどあざといだろ?アタシらと違ってジョーと毎日会って、話したり、コーチしたりしてもらってんだろ?昼食も一緒に食ってるじゃんよ?ちょっとはジョーに甘えたりできてるだろ?お前は全然マシじゃんよ。そういうのを贅沢って言うか、だから、あざとい、って言われるんじゃんよ?」

 「全くだ。本来なら、婿殿から復讐されてとっくの昔に地獄に落とされていてもおかしくはないのに、ちゃっかり許しをもらって、パーティーにも入れてもらった上に、今は毎日ほぼ付きっ切りで婿殿にトレーニングのコーチをしてもらっているとは、いかに自分が恵まれているか全く理解できておらん。これだから、温室育ちのお嬢様でリリアの「巫女」なんぞやってる女は、我が儘であざとくて困る。ゾーイの方がまだ健全だと妾も思うぞ。」

 「なっ!?わ、私はここ三日、毎日トレーニングのみに集中しています!ジョー様に甘えたりなど決してしてはおりません!私なりに強くなるために頑張っているんです!今はゾーイさんのシスコンぶりをどうするかという議題だったはずです!後、私は全然、あざとくはありませんから!いつもいつも私をあざといと言うのは止めてください!」

 「はぁ~。まぁ、マリアンヌがあざといと言うのはさておき、話を戻すとしよう。このままでは、ゾーイ、あの妹を名乗る猫被りのブラコンぶりはますます悪化する可能性が高い。ゾーイに、後スロウ、あの二人に婿殿を独占され、婿殿の心が妾たちから離れることにもなりかねない。何としてでも婿殿を妾たちの下へと取り戻さねばならない。そのためには、妾たちは実力行使に打って出るしかあるまい。今こそ介入すべき時だと考える。」

 「じ、実力行使とは、一体何をするつもりだ、イヴ殿?」

 「まさか、アタシら全員でジョーの泊まってるコテージに乗り込んで直接夜這いをかけるとかか?」

 「よ、夜這い!?い、いけません!結婚もしていない男女がせ、性交渉をするなど!?メルさんだって傍にいるんですよ!?」

 「夜這いなどするわけなかろう。無理やり肉体関係を迫ったりすれば、婿殿の嫌いなクソビッチ同然に見られて完全に嫌われるのは分かり切っていることだろうが。お前たち三人とも普段からそんなことを考えているのか、小娘ども?」

 「だ、誰が夜這いなど考えるものか!?」

 「あ、アタシらが夜這いなんて考えるわけねえだろうが!?」

 「よ、夜這いをするなど、そんな不健全で淫らな行為を行うことを考えるようなはしたない女ではありません、私たちは!?」

 イヴの質問に思わず顔を赤面させて、声を荒げて反論するエルザ、グレイ、マリアンヌの三人であった。

 「まぁ、婿殿に夜這いをかけようなどすれば、妾のブラックホールですぐに葬ってやるがな。お前たち三人とも思春期真っ盛りの人間の処女だ。少しくらい性的な妄想に耽ることもあるだろし、それくらいならば許してやる。妾が考えている実力行使とは、婿殿とデートをする、と言うことだ。勘違いするな、三人とも。」

 「で、デートをするか!?我らとジョー殿でデート?しかし、ジョー殿がすぐに承諾してくれるだろうか?」

 「だよな。ここへは強化トレーニングでやってきたんだぜ。ジョーの奴、きっと真面目にトレーニングに集中したいとか、遊んでいる暇はないとか言うに決まってるじゃんよ?」

 「そうです。ジョー様のトレーニングぶりは正に真剣そのものです。私とメルさんのコーチもしながら、ご自分のさらなる強化に向けて懸命にトレーニングに励んでおられます。デートは長時間を要します。トレーニングの時間が減るとも思われて、ジョー様は私たちとのデートは断られるのではないかと思うのですが?」

 「そこは頭の使いどころだ。要は婿殿のトレーニングの邪魔にならず、婿殿に妾たちとデートをしたいと、そう思わせればいいのだ。短い時間で楽しめるデートプランを組んで、皆でローテンションを回してデートを楽しむのだ。幸い、妾たちがいるのはアダマス切手の高級リゾート地だ。デートには最適なスポットがいくつもある。妾たちがこの地へ来た目的の半分はバカンスだ。二人きりでデートをする、という形でバカンスを楽しみたい、婿殿ともっと親密になりたい、と皆で一緒に呼びかければ、流石の婿殿も首を縦に振るに違いあるまい。問題は、ゾーイ、ブラコン妹が反対して邪魔しようとしてくることだが、ここは玉藻、酒吞、鵺、あの三人にも話を持ちかけ、一緒に婿殿を説得してもらえば、数の力で押し切ることができる。婿殿とのデートが実現できなければ、妾たち後輩組はより一層、婿殿との恋愛が不利な立場になりかねん。ブラコン妹の影響力を排除することも叶わん。今が一致団結して妾たちの恋路を大きく進めるチャンスだとは思わぬか?」

 イヴの提案に、エルザ、グレイ、マリアンヌは顔を見合わせて、それから笑みを浮かべながら答える。

 「正しくイヴ殿の言う通りだ。今こそ、一致団結してジョー殿との恋路を進める良い機会だ。我もジョー殿の説得に一役買おう。」

 「アタシも一枚かむぜ。ゾーイ、あのブラコンに一泡吹かせて、ついでにジョーとの距離を縮める絶好のチャンスじゃんよ。姉御たちにも早速、協力してもらおうじゃん。だけど、いつも通り抜け駆けは禁止だかんな?」

 「私も参加いたします。ゾーイさんとスロウさんばかりが得をする状況は、ほぼ一人勝ちの今の状況は良く思いません。私だって、もっと女の子らしいところをちゃんとジョー様にアピールしたいです。」

 「話は決まったな。ならば、早速あの三人の下へ向かうぞ。皆で協力して婿殿をあのブラコン娘から取り返すのだ。行くぞ、エルザ、グレイ、マリアンヌよ。」

 イヴはそう言うと椅子から立ち上がり、エルザ、グレイ、マリアンヌの三人を引き連れて、共に玉藻たちの宿泊する水上コテージへと向かうのであった。


 イヴ、エルザ、グレイ、マリアンヌの四人が自分たちの泊まる水上コテージをこっそりと抜け出し、玉藻たちの泊まる水上コテージを訪ねようと外に出た瞬間、同じくイヴたちの泊まる水上コテージを訪ねようと、こっそりと歩いてやって来た玉藻、酒吞、鵺の三人と偶然、鉢合わせしてしまった。

 「「「「「「「あっ!」」」」」」」

 七人の女性たちは、互いの顔を見て、思わず声を上げて驚いた。

 それから、全員が何を考えているのか、すぐに察した。

 「どうやら皆さん、考えていることは同じようですね。」

 「そのようだな、玉藻よ。妾たちも今ちょうど、そちらを訪ねようとしていたところだ。」

 「俺たちみんな、考えていることは一緒か。それなら、話は早ええな。」

 「私たちはみんな、ジョー君に恋する乙女。なら、考えが被るのは必然。」

 「先輩方も我らと同じであったか。いや、今の状況ならば当然であると言えよう。」

 「クックック。流石は姉御たちだぜ。アタシらの先輩だけあるぜ。なら、とっとと話を合わせて準備するといこうじゃん?」

 「同じパターンを繰り返しているようで少し嫌な予感がするのは気のせいでしょうか?ですが、今はそんな悠長なことを言っている場合ではありませんね。私たちが今、一致団結して戦わねばならない状況なのは事実ですから。」

 「イヴさんたちの泊まるコテージで、ここにいるメンバーだけで緊急の対策会議を行うとしましょう。議題はもちろん、ジョー様を如何にして憎きブラコン妹の魔手から取り戻すか、です。では、皆さん、早速中で改めて会議をするとしましょう。善は急げ、です。」

 玉藻を筆頭に、イヴたちの泊まる水上コテージにて、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌの七人の女性たちによる夜を徹した話し合いが行われた。

 スヤスヤと自分のコテージで気持ちよく眠る主人公、宮古野 丈の預かり知らぬところで、七人の恋する乙女たちによる主人公奪還作戦や、今後のパーティーの方向性について熱く議論が交わされたのであった。

 

 翌日の早朝、午前8時。

 僕がメルとゾーイ(&スロウ)と一緒に、自分の泊まる水上コテージで仲良く朝食を食べていると、コテージのドアが三回、ノックされた。

 僕がドアを開けると、ドアの前には玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌの七人が立っていた。

 突然の訪問に少々驚いた僕だったが、すぐに玉藻たちに声をかけた。

 「おはよう、みんな。急に訪ねて来て、何かあったのかい?今日の打ち合わせなら、1時間後のはずだけど、よっぽどの急用なのか?」

 「おはようございます、ジョー様。お食事中に大変申し訳ございません。緊急にご相談したいことがあってまいりました。お部屋の中に入ってお話ししてもよろしいでしょうか?」

 「ああっ、そういうことなら構わないよ。なら、みんな、中に入ってくれ。」

 僕はそう言うと、玉藻たちをコテージのリビングルームへと招き入れた。

 「おはようございます、なの、お姉ちゃんたち!」

 「うっ!?お、おはようございます、皆さん。」

 部屋に入ってきた玉藻たちを見るなり、メルとゾーイがそれぞれ挨拶をした。

 「おはようございます、メルさん。それと、ゾーイ、さん。」

 「おはよう、メル。よう、ブラコンゾーイ。」

 「おはよう、メルちゃん。おはよう、ブ・ラ・コ・ン!」

 「おはよう、メル殿。おはよう、我がライバル、ゾーイ殿。」

 「おはようさん、メル。ブラコン女、お邪魔するじゃんよ。」

 「おはよう、メル。おはよう、妾のカワイイ義妹、ゾーイよ。兄妹仲睦まじい様で何よりだ。今すぐ宇宙の塵にしてやりたいと妬ましく思うほど、にな。」

 「おはようございます、メルさん。おはようございます、ゾーイさん。妹権限がいつまでも通用しない、ということを今日、はっきりと教えにまいりました。よろしいですね?」

 玉藻たちがメルとゾーイの二人に返事をする。

 しかし、顔は笑っているが、目は全く笑っていない。

 言葉にも棘がある。

 特に、ゾーイに対してだ。

 僕はこの状況が悪いことに、朝のさわやかな空気が一瞬にしてピリついた空気に変わったことが、すぐに分かった。

 玉藻たちが不機嫌だということが、ゾーイがこの前、みんなを挑発して、僕と一緒のコテージで寝泊まりすることになったことを今もとても不満に思っていることに、僕は気が付いた。

 みんなで代わる代わる、組み合わせを変えて、ローテンションを組んで寝泊まりするように提案すべきだったのだろうか?

 家族で、娘と妹と一緒に同じ部屋に泊るという僕の判断は、選択は間違っていたのか?

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 「ええっと、玉藻、緊急に話したいことって何かな?トレーニングもあることだし、すぐに話してもらえると助かるんだけど?」

 「すみません、丈様。コホン。ご相談したいことと申しますのは、実は丈様に私たちからお願いしたいことがあってまいりました。単刀直入に申し上げますと、私たちとデートをしていただきたいのです。」

 「えっ!?で、デート!?ええっと、それはつまり、その、みんなの買い物に付き合うとか、一緒にどこかへ遊びに行く的な感じの奴かな?」

 「いえ、男女二人きりで楽しむデートです。」

 「そっち!?僕と二人きりでデートしたい?いや、でも、強化トレーニングの予定があるし、デートできる準備とかもできていないし、急すぎて、ちょっと頭が追いつかないというか・・・」

 「そうです!お兄ちゃんは大事なトレーニングがあるんです!私もスロウもメルちゃんも忙しいんです!みんなとデートをしていたら、お兄ちゃんはトレーニングをする時間が無くなっちゃいます!お兄ちゃん、そうですよね?」

 玉藻たちの、僕と二人きりでデートをしたい、という申し出に戸惑う僕と、僕と玉藻たちがデートをすることに真っ向から反対するゾーイであった。

 「ゾーイさん、少し黙っていてください。最終的に決断されるのは、丈様です。丈様、確かにトレーニングも大事ですが、時には休息も必要です。私たちがこのサーファイ連邦国を訪れた目的の一つは、バカンスを取るためです。ですが、丈様はここ三日、ほとんどトレーニングのために働き詰めです。十分に休息を取れているとは思えません。それに、特定のパーティーメンバーとだけ過ごすことは、他のパーティーメンバーとの信頼関係に、絆に綻びが生まれることに繋がりかねません。そこで、私たちの方で短い時間でお楽しみいただけるデートプランをご用意しました。気分転換や心身のリフレッシュ、各パーティーメンバーと互いの絆をより深めること間違いなしのデートプランです。メルさんのお世話などは私たちに全てお任せください。私たちとのデートはお嫌でしょうか、丈様?」

 玉藻たちが不安そうな、ウルウルとした瞳で、皆一様に僕の方を見つめてくる。

 「嫌な訳、ないよ。」

 「お、お兄ちゃん!?」

 「では、私たちとデートしていただけるのですね?」

 「僕なんかで良ければ、だけど。でも、デート用に着れる服とか持ってないし、デートの経験もないし、長い時間デートをすることもできないけど、それでも良いかな?」

 「もちろんです、丈様!ありがとうございます!」

 「よっしゃー!言質を取ったぜ!」

 「確かにOKと聞いた!私の耳はどんな音も聞き逃さない!」

 「我もしかと聞いたぞ!ジョー殿、共にデートを楽しもう!」

 「やったぜ!ざまぁみやがれ、ブラコン!ありがとじゃん、ジョー!」

 「婿殿が妾とのデートを断るわけがない!正妻として、最高のデートをプレゼントしよう!楽しみに待っているがいい、婿殿!」

 「ありがとうございます、ジョー様!やりました、やりましたよ、私!」

 僕からOKの返事をもらって、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌの七人は皆、満面の笑みを浮かべながら、声を上げて喜ぶ。

 「ず、ずるいです、皆さんだけ!なら、私もお兄ちゃんとデートをしたいです!私とスロウにもお兄ちゃんとデートをする権利があります!こんなのは不公平です!」

 「少しは私たちに遠慮していただきたい、というのが本音ですが、ゾーイさん、スロウさん、あなた方二人の参加も特別に認めましょう。ただし、デートの順番はあなた方お二人は最後になります。碌に用意もできていない状態でデートをさせられるのは不利でしょうし。勝負は公平に行いましょう。よろしいですね。」

 「くっ!?わ、分かりました!条件を飲みます!その代わり、私もスロウもお兄ちゃんとデートをします!皆さんには絶対に負けません!」

 ゾーイと玉藻たちが互いに火花を散らすように、見つめ合う。

 「それと、これからジョー様たちのコテージに、私たちの内の一人が交代で時々、泊まりに行かせていただきます。ベッドでしたら、メルさんと一緒のベッドを使わせていただければ事足ります。メルさん、私たちも時々、メルさんと一緒にお泊りしてもいいですよね?」

 「玉藻お姉ちゃんたちがお泊りに来るの~?メルは良いよ~。」

 「なっ!?め、メルちゃん!?家族水入らずを邪魔するなんて、そんなのダメです!ですよね、お兄ちゃん?」

 「えっ!?いや、僕も別に構わないよ。みんなとは普段から一緒に寝泊まりしてるし、みんな家族同然だと思っているし。一人くらいなら増えても問題はないだろ。メルも良いって言ってるしね。」

 「ううっ!?お兄ちゃんまで。分かりました。ちっ。」

 「ジョー様の許可もいただいたことですし、時々、お邪魔させていただきますね、ゾーイさん。これまでのように好き勝手できないということをご理解ください。では、ジョー様、早速ですが、本日の午前9時より私たちと一緒にデートをしていただきます。格好は普段の冒険者用装備で構いません。デート中は全て私たちにお任せください。よろしくお願いします。」

 「今日の午前9時から!?ええっと、わ、分かったよ。急いで支度するから、ちょっと待っててくれ。メル、マリアンヌ、僕がいない間のトレーニング内容を後で伝えるから、よく僕の話を聞くように。それと、僕が傍にいない間の二人の護衛役兼コーチ役をスロウ以外にもう一人頼みたいんだけど、みんなに任せてもいいかな?」

 「かしこまりました。メルさんたちのことも私たちに全てお任せください。すでに準備は整っております。ご安心ください、丈様。」

 「そ、そうか?手回しが良いね。流石だよ。では、よろしくお願いするよ。」

 「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします、丈様。」

 こうして、僕は玉藻たちパーティーの女性陣と、より親交を深めるため、メンバー一人一人と二人きりでデートをすることになった。


 (ゾーイ・スロウSIDE)

 玉藻たちが主人公、宮古野 丈にデートを申し入れてから数分後のこと。

 コテージのトイレの個室内で、ゾーイと、ゾーイと肉体を共有する「怠惰の堕天使」スロウラルドの二人は、二人きりで密談を行っていた。

 「ど、どうしましょう、スロウ?せっかく勇気を出してお兄ちゃんと一緒のお部屋に泊れるよう、頑張ったのに、邪魔されることになっちゃいました。それに、お兄ちゃんとデートをすることになりましたけど、私は何も用意できていません。デートなんてしたことがありません。ど、どうしたらいいでしょうか?」

 『だから、ウチの言ったように、さっさとジョーちんを襲ってそのままS〇Xして、既成事実作っちゃえば良かったんよ~。ゾーイが恥ずかしがってもたもたしてたからいけないんよ~。』

 「だ、だって、そ、そんなハレンチなことできるわけないでしょう!?私とお兄ちゃんは兄妹なんですよ!傍にはメルちゃんだっているんですよ!ダメに決まってるでしょ!」

 『はぁ~。兄妹、っ言っても義理だっしょ。義理なら問題ナッシングじゃん。そんなんじゃ、いつまで経ってもジョーちんの彼女にはなれないっしょ。一生、処女の干物女のままで終わるっしょ。もっと自分から攻めていかなきゃダメだっしょ。ジョーちんは草食の唐変木なんだからさぁ~。』

 「そういうスロウだって、経験があるんですか?経験があるなら、スロウが交代して、先にお兄ちゃんと、そ、その、せ、S〇Xすればいいでしょう!」

 『いや、ウチも処女だけど。神界で天使なんかやってっと、ほとんど男との出会いなんてなかったし。不老不死だからあんまし恋愛に興味を持つことがないってのが普通だったって言うか。ウチらから見たら、ゾーイは人間なんだし、恋愛をするのが普通の生き物なのに、どうして自分から遠慮すんだろう、って見えるんだよね~。まぁ~、下手にジョーちんに手ぇ出して、後でイヴ様たちにマジで半殺しにされるかもだから、ウチは手ぇ出したりしないけど。』

 「自分もできないことを私にさせないでください!ふぅー。それよりも、今はお兄ちゃんとのデートです!私たちは全然、準備が出来ていません!私はデートに関する知識も経験もありません!はっきり言ってピンチです!このままじゃあ、お兄ちゃんをガッカリさせて、他の人たちに差をつけられてしまいます!スロウ、何か良いアイディアは持っていませんか?」

 『完全に不意打ちを食らったっしょ。でも、ウチが傍についてるから、全然挽回できるっしょ。ウチらのデートの順番は一番最後。準備する余裕はまだまだあるんよ。逆に、このデートで大トリを飾って、一気に大逆転もできるっしょ。ウチにとっておきの秘策があるんよ。ゾーイはウチの言う通りにやれば、絶対デートは大成功、ジョーちんともっと仲良くなれること間違いなしだっしょ。』

 「ほ、本当ですか!?な、なら、スロウのとっておきの秘策を教えてください!私だって、お兄ちゃんと楽しいデートをしたいです!」

 トイレの個室内で、ゾーイとスロウは、主人公との楽しいデートを実現するため、大急ぎで打ち合わせを行い、ゾーイはスロウのアドバイスを聞き入れながら、主人公とのデートに向けた準備を進めることになった。


 デート初日。

 午前9時。

 フラワーコーラル島のとある浅瀬。

 大急ぎで朝食を食べ終え身支度を整えた僕は、玉藻に連れられて、フラワーコーラル島のとある浅瀬で、玉藻と一緒にシュノーケリングを体験することになった。

 マリンスポーツの専門店でシュノーケリングに必要なセット一式をレンタルした僕たち二人は、シュノーケリングに関する基礎知識などを店員からレクチャーしてもらった後、初心者コースである浅瀬にて、シュノーケリングを始めた。

 足がつくかつかないかくらいの深さの浅瀬だったが、海に潜ると、色とりどりの、たくさんのサンゴや魚がいる光景が目の前に広がっていた。

 シュノーケリングを始めてから約1時間後、一端浜辺に上がって僕と玉藻の二人は、休憩を取ることに決めた。

 「生まれて初めてシュノーケリングをしたけど、シュノーケリングって結構、面白いね。もっと難しいモノだと思っていたよ。サンゴも魚もすごく綺麗だし、こんなに海の中をマジマジと見たのも初めてだし、これは案外、嵌まるかも。」

 「お喜びいただけて何よりです、丈様。せっかく南国へバカンスに来たのに、海を楽しまないというのはもったいないことです。世界一美しい海が目の前にあるなら、尚更です。普段できないことを体験してみるのも、貴重な経験になりますし、良きリフレッシュにもなります。こうして、海の中を泳ぎながら、ゆっくりと海の自然を見て楽しむのが一番かと思いました。」

 「クソみたいな異世界でも、こんな綺麗な海を見ると、すさんでいた心が癒されるのを感じるよ。確かに世界一美しい海だね、ここは。さて、それじゃあ、もうひと泳ぎしに行こうか。今度はもう少し遠くまで行ってみよう。」

 「はい、丈様。沖に近づくほど、見られるサンゴの種類がもっと増えるそうです。一緒に海の花畑を楽しみましょう。」

 僕と玉藻はさらに30分ほど、二人でシュノーケリングを楽しむのであった。

 そんな僕たち二人の様子を、離れた場所から鵺、エルザ、グレイ、イヴの四人が監視するように見ていた。

 「南の海でシュノーケリングデート。楽しく遊べて、二人で綺麗な海を見ることもできて、デートとしては結構いい。シュノーケリングは丈君も初体験だから興味をそそられる。ポイントはかなり高い。流石は玉藻。」

 「シュノーケリングは一人では危なくてできんからな。デートだからこそできることだと言える。流石は玉藻殿だ。よく考えておられる。」

 「流石は玉藻の姉御。丈とは10年以上の付き合いと言うだけあるぜ。ジョーへのフォローも完璧じゃん。こりゃ、アタシらも負けてられねえな。」

 「フン。流石は婿殿の一番の従者を名乗るだけのことはある。シュノーケリングで婿殿を手取り足取りフォローしつつ、婿殿をエスコートし、良き恋人アピールをするとは、よく考えてあるデートプランだ。ライバルとしては認めよう。しかし、婿殿なら道具無しでも海の中を、それこそ深海までスイスイ潜れて行ける気がするのだが?婿殿なら一人でシュノーケリングをしても全く危なくないのではないだろうか、と妾は少々思うのだが?」

 「「「確かに。」」」

 主人公と玉藻がデートする姿を見ながら、意見を述べ合う鵺たちであった。

 

 デート初日。

 午前11時30分。

 フラワーコーラル島のとある浜辺。

 玉藻とのデートを終えると、次に僕はグレイと一緒に、フラワーコーラル島のとある浜辺で一緒に昼食を食べることになった。

 昼食は、グレイが用意してくれたグレイお手製のお弁当で、二人でお弁当を食べながら、浜辺で一緒に海を見る、というランチデートを楽しもうとなった。

 パラソルの下で、いくつもランチボックスが入った包みを広げながら、グレイは僕に向かって言った。

 「たくさん泳いで腹が減っただろ、ジョー?今日のお弁当はアタシが腕によりをかけて作った特製弁当だぜ。好きなだけいっぱい食べるじゃんよ。」

 グレイが包みを広げ、ランチボックスを並べて、各ランチボックスの蓋を開けると、彩とりどりの、たくさんのおかずが入った、鮮やかなお弁当が僕の目の前に広がった。

 「おおー!流石はグレイ!パーティーで一番の料理自慢!おかずの量も種類も盛りだくさんだ!それにめちゃくちゃ彩りがあって綺麗だ!では、遠慮なく、いただきます!」

 「おう!じゃんじゃん食べてくれ!ジョーの好きなおにぎりもたくさん作ってからよー!」

 お弁当のおかずだが、焼き鮭のおにぎりにツナマヨおにぎり、鮭のムニエル、ブリの照り焼き、エビフライ、アジフライ、鮭のから揚げ、サバの野菜炒め、マグロの赤身とアボガドのサラダ、白身魚のトマト煮込み、魚の白身のハンバーグなど、サーファイ連邦国自慢の海の幸をふんだんに使った魚料理がたくさんあった。

 魚以外の食材を使ったおかずに、デザートまであった。

 「んー、美味しい!やっぱり米は最高だ!どのおかずも本当に美味しい!流石はグレイ!でも、よくこんなにたくさんおかずを作れたな?食材を集めるだけでかなり時間がかかってるだろ、このお弁当?この白身魚のハンバーグなんて、相当手間がかかってるだろ?」

 「へへっ!朝一番に、市場で買いまくったからな!全部、獲れたての魚ばっかりだぜ!鮭は港の方まで行って直接買いつけたんだぜ!マジで材料からこだわり抜いたじゃんよ!」

 「それは本当に凄いな。いや、そこまでしてもらうと、何というか、何かお返しをしなくちゃいけないな。材料費も手間も相当かかってるだろうし。グレイ、何か欲しいモノがあったら言ってくれ。」

 「いいよ、別に。いや、お返しねぇ?なら、アーンさせろよ、アーン。アタシが食べさせてやるよ。」

 「はぁっ!?アーンさせろって、それじゃあ全くお返しにならない気が・・・」

 「いいから、いいから。アタシが良いって言うんだから、それでいいんだよ。少しはデートっぽいことさせろよ。ホレ、アーン❤」

 「あ、アーン!?うん、この鮭のから揚げも美味い!身がフワフワで柔らかくて、それでいて肉よりも脂っこさがなくて、ほんのり塩気が効いていて、本当に美味しいよ!」

 「へへへっ!そうだろ、そうだろ!愛情もたっぷり詰め込んだアタシの手作りなんだから、絶対美味いに決まってるぜ!ほれ、ジョー、こっちのタラのソテーも食べてみろよ。はい、アーン❤」

 「あーん!」

 グレイお手製のお弁当を、グレイに食べさせてもらい、照れ笑いする僕と、僕に嬉しそうにお弁当を食べさせるグレイなのであった。

 二時間ほど、グレイの作ったお弁当を食べながら、僕とグレイは青い海を見て、特別なランチを楽しんだ。

 そんな僕たち二人の様子を、離れた場所から玉藻、イヴ、エルザ、鵺の四人が監視するように見ていた。

 「ああっ!?ま、また、アーンをしました!私だってまだなのに!くっ、得意の料理で、手作り弁当でランチデートとは、グレイさん、中々やりますね!」

 「フン。少し料理ができるからと言って調子に乗りおって。若き天才女神たる妾ならば、少し勉強すれば、料理を作るなど容易いことだ。だが、グレイの料理の腕と、今回のデートプランの巧みさは認めよう。今から妾も本格的に料理を学ばねば。」

 「グレイの奴め、料理の腕前の高さは認めよう。だが、我だって、料理はできる方だ。パーティーメンバーでグレイの次に料理ができるのは我だ。いずれ料理の腕前でも勝ってみせる。」

 「グレイも中々やる。きれいな海辺で恋人に手作りのお弁当を振る舞う。一緒にお弁当を食べつつ、自分の料理の腕前や、お弁当にかけた手間暇、凝ったお弁当を作ることでの愛情アピール、さらに、お弁当を作った本人だからこそより効果を発揮するアーン。ランチデートとしては高得点間違いなし。だけど、料理の腕前だけで丈君を落とすことはできない。デートには普段とは違う特別さも必要。ランチデートは少々、詰めが甘い。」

 「鵺、あなたも私たちと同様、本格的な料理はほとんどできないんですから、あまり偉そうに物を言える立場ではないでしょう。しかし、丈様は地球にいた頃は自炊をされていましたし、グルメにも元々、関心が高い方です。私たちも料理を本格的に学ぶ必要はあるのではないかと?」

 「「「確かに。」」」

 主人公とグレイがデートする姿を見ながら、意見を述べ合う玉藻たちであった。


 デート初日。

 午時2時。

 フラワーコーラル島のとある森の奥深くにある滝。

 グレイとのデートを終えると、次に僕は鵺と一緒に、フラワーコーラル島の、とある森の奥深くにある滝を見に来た。

 フィリピンのセプ島にあるカワサン・フォールにも似ている、大きな滝と滝壺が僕たち二人の前に広がっていた。

 深い森の中に囲まれた、水しぶきを上げる大きな滝と、エメラルドグリーン色の美しい水が広がる滝壺という、海とは一味違う南国の島の自然の美しさを見て、僕は景色に見とれるとともに、それだけで心が洗われる気分になる。

 「それじゃあ、丈君、水着に着替えて。これから一緒に二人で滝行をして、心身をリフレッシュする。」

 「へっ!?た、滝行!?」

 「そう、滝行。滝に打たれることで、心の中にある悩みや雑念が消えて、精神力も体も鍛えられて、ストレス解消とトレーニングになって、正に一石二鳥。別に本格的にするわけじゃなくて、ちょっとしたアクティビティ。ここは滝行もできることで有名らしい。ほら、あそこでカップルらしい人たちが一緒に滝行をやってる。普段できないことをやって遊ぶこともデートの楽しみ方の一つ。ちなみに、私は昔、よく修行で滝行をやっていた。滝行はやってみると案外、面白い。」

 「へぇー。確かに、あのカップルも笑いながら滝行をやってる。アクティビティとしてやってみるのも面白そうだね。よし、なら、一緒に滝行をしてみよう。けど、ほどほどに頼むよ、鵺。僕は初心者だから。」

 「任せて、丈君。私がちゃんとエスコートする。安全で楽しく、滝行を楽しむ方法を教える。」

 僕は鵺に誘われ、水着に着替えると、鵺と一緒に滝行へ初チャレンジするのであった。

 滝の真下に入ると、大量の冷たい水が真上から僕たちの全身に勢いよく流れ落ちてくる。

 「つ、冷たっ!?し、染みるー!?」

 「まずは1分間チャレンジ。素で1分滝行できたら凄い。」

 僕は鵺にアドバイスをもらいながら、滝行に挑むのであった。

 素で、直で頭から被る滝の水は冷たいし、ちょっと痛い。

 けど、徐々に慣れていくと、滝の水を被るのが気持ちよく感じられてくる。

 僕と鵺以外にもアクティビティの一つとして滝行を楽しむカップルたちがいて、ワイワイキャッキャ言いながら、滝の水を楽しそうに浴びている声も聞こえてきて、それもあってか、アクティビティとして十分滝行を僕たちは満喫することができた。

 滝行に合計で20分ほど挑戦した後、冷えた体を温めて小休憩をとってから、僕と鵺の二人は、滝壺の中を一緒に泳いで楽しんだ。

 「ヤッホー!」

 滝壺のすぐ傍の、高さが約10mほどある崖から一気にジャンプして滝壺へと飛び込むのは、少しスリルもあって、ちょっとしたターザン気分を味わえて、楽しかった。

 エメラルドグリーン色の水が広がる滝壺周辺を泳いだり、天然のウォータースライダーのようになった滝の水が流れるところを滑り台のようにして滑って遊んだり、海とは違う南国のアクティビティを、僕は鵺と一緒に思いっきり遊んで楽しんだ。

 「鵺、ありがとう。何だか久しぶりに童心に帰った気分だよ。仕事とかトレーニングとか、色んなことを忘れてこんなに思いっきり誰かと一緒に遊んだのは、本当に久しぶりだったと思う。滝行も最初は不安だったけど、やってみると面白かったよ。すごく気分爽快だよ、今。海以外にもこんなに楽しい遊び場があるなんて知らなかったなぁ。また一緒にここへ遊びに来よう。」

 「丈君に喜んでもらえて良かった。海以外にも楽しく遊べる場所はたくさんある。滝行だって、トレーニングとしてだけでなく、気分転換やアクティビティとしても楽しむことができる。工夫次第で何だって楽しい遊びにも、ちょっと特別なデートにも変身する。また一緒に滝行にチャレンジしてみよう。今度は連続2分にチャレンジしてみるのもいい。」

 「ハハハっ!素で2分連続耐えるか!記録更新にチャレンジも良いね!」

 僕と鵺は、滝行や滝で泳いだり、飛び込みをしたりなど、滝を利用したアクティビティを二人で一緒に遊ぶデートを楽しんだのであった。

 そんな僕たち二人の様子を、離れた場所からエルザ、グレイ、玉藻、イヴの四人が監視するように見ていた。

 「まさかデートの初めに滝行を選ぶとは、鵺殿も大胆な手を打たれるものだ!実際、ジョー殿も意外に楽しんでおられて、好評のようだったし!」

 「鵺の姉御、結構際どいというか、攻めたチョイスをブッ込んできたじゃんよ。でも、女の方から誘うからOKされるし、だからこそ男と一緒に楽しめると言えるじゃん。姉御の個性全開で、ジョーをフォローしながら一緒に遊べて、おまけに次のデートの約束まで取り付けるとは、流石だぜ。」

 「鵺も中々やりますね。敢えてデートには選ばれにくいモノを選んで、他の人たちと差別化を図る。滝行をデートプランにチョイスしようとは、普通は考えません。鵺の大胆さには私も皆もいつも驚かされます。」

 「フン。滝行をデートに選んだその大胆さは認めよう。滝行という大胆な先手から、滝を使った他のアクティビティへと誘っていき、婿殿と二人だけで思いっきり心行くまで遊び尽くす。婿殿との長い付き合いから成功した作戦とも言える。だが、婿殿がまた一緒に滝行へ行こうと言ったのは、デートという意味より、トレーニングの意味合いが強いのではないだろうか?奥手な婿殿が自分から鵺をデートに誘えるとは妾には思えぬのだが?」

 「「「確かに。」」」

 主人公と鵺がデートする姿を見ながら、意見を述べ合うエルザたちであった。


 デート初日。

 午後5時55分。

 フラワーコーラル島の街中、大通りの一角にある、とあるバーの入り口前。

 鵺とのデートを終えると、僕は一度、メルとマリアンヌのトレーニングに関する報告を聞いた後、酒吞に誘われて、とあるバーの入り口前で一緒に待ち合わせをしよう、という話になった。

 僕は普段通りの格好で良いと言われ、バーの前で午後6時に待ち合わせることになり、僕は20分ほど早く先にバーの入り口前で酒吞の到着を待っていると、後ろから声をかけられた。

 「お待たせ、丈。待ったか?」

 僕が声の方を振り返ると、そこにはいつものビキニアーマー姿ではなく、ドレスメイクをした酒吞が、笑みを浮かべながら僕の背後に立っていた。

 酒吞は、ワインレッドカラーのやや薄い生地で、胸元と背中が大きく開いた、裾の長いワンピーススタイルのドレスに身を包んでいた。

 足にはワインレッドカラーのピンヒールを履き、右手には茶色いクラッチバッグを持っている。

 酒吞の褐色の肌と燃えるように赤い髪に、ドレスも小物もとても似合っていて、不覚にも僕は少々、酒吞の美しいドレス姿に見惚れてしまった。

 「えっ、あっ、いや、全然待ってないよ。僕も少し前に着いたばかりだよ。その、ドレス、とっても似合っていて、綺麗だよ、酒吞。」

 「そ、そうか!?へへっ!俺だって、オシャレする時はちゃんとオシャレな服を選んで着るんだぜ!そうか、俺が綺麗か!丈は俺のドレス姿も結構好きか!そっか、そっかー!おっと、それじゃあ、早速バーに入ると行こうぜ!」

 酒吞は嬉しそうに笑みを浮かべながら言うと、僕の左腕に自分の右腕を絡めて、僕と一緒に二人でバーの入り口を通ろうとする。

 「丈、俺に見惚れるのもいいけど、こういう時は男が率先して女の腕をとってエスコートしなきゃだぜ。まぁ、今日は気分が良いから特別に許す。次からは気を付けろよ?」

 「ご、ごめん!分かったよ、酒吞。次は僕から必ずエスコートする。約束する。」

 「よろしい。じゃあ、入るぞ。」

 僕は酒吞にたしなめられるも、酒吞にエスコートされながら、バーの中へと一緒に入っていく。

 バーはいわゆるオーセンティックバーという本格的なバーで、長いカウンターにオシャレで豪華で気品さのある内装に、高そうな酒やグラスがいくつも並んだ棚に、ベテランの中年男性のバーテンダーがカウンターの奥にいる、という様子である。

 まだ午後6時過ぎ、日が落ちたばかりのためか、僕たち二人以外に店内にお客はいなかった。

 緊張しながらバーのカウンター席に座る僕と、僕の隣に座る酒吞である。

 「酒吞、ここって、かなり高級なバーなんじゃないか?格式というか、気品みたいなモノをすごく感じるんだけど。やっぱり僕ももっとフォーマルな服に一度着替え直すよ。冒険者用の服だと、僕だけかなり浮くって言うか、場違いな感じで見られそうでさ。」

 「大丈夫だ、丈。心配いらねえよ。この店は今日、アタシら二人だけの貸し切りだ。客は今日、アタシらだけだ。だから、全く遠慮はいらねえ。だよな、マスター?」

 酒吞の呼びかけに、カウンターの向こう側にいるバーテンダー兼マスターが、グラスを拭きながら、僕たちの方を見て、口元にニコリと笑みを浮かべ、軽く会釈をしてきた。

 「か、貸し切り!?このバーをまるごと?お客は僕たち二人だけ・・・、酒吞、財布の方は大丈夫か?無理してないよな?」

 「カッカッカ!だから、心配いらねえって!ちょっと金は使ったが、ちゃんと十分、財布には金が入ってるよ!今日はお前と二人きりで一緒に飲みたいから奮発したんだぜ!細かいことは気にせず、今日は二人だけで飲み明かそうぜ、丈!」

 「それならいいけど。後、僕はまだ未成年だから、お酒は飲めないからね。アダマスでは、お酒は18歳以上からって決まりだからね。お酒以外なら飲めるし、付き合うよ。でも、こんなオシャレなバーにソフトドリンクとかおいてるのかな?」

 「心配すんな、丈。ちゃんと未成年のお前でも飲めるモンがあるのは確認済みだぜ。まぁ、俺を信じて全部任せな。マスター、フルーツカクテルを二つくれ。男の方はノンアルコールで頼む。」

 「かしこまりました。」

 マスターがカウンターでカクテルを作っている間、僕と酒吞はカウンターに座って話をする。

 「色々とありがとう、酒吞。せめて、お酒ぐらいは僕に奢らせてくれ。そうしないと、格好がつかないからさ。」

 「そうか?なら、遠慮なく奢らせてもらうぜ、丈。言っとくけど、俺は頂き女子だとか、港区女子だとか呼ばれる、男を騙して奢らせるだけ奢らせて男を食い物にするクソビッチじゃあねえからな。死んだ元勇者のパパ活女子どもとも断じて違うからな。俺はお前と真剣にデートしたいんだぜ。」

 「そんなこと当然分かってるよ。酒吞がクソビッチ元勇者どもなんかと同じなわけないだろ。酒吞はとっても身も心も綺麗な女性だよ。酒吞みたいな素敵な女性のデートのお相手をできるなんて、とても光栄なことだよ。」

 「綺麗、素敵!そうか、そうか!よしよし!俺のことをよく分かってるじゃねえか、丈!ますます気分が乗ってきたぜ!」

 僕と酒吞が話をしていると、マスターが僕たち二人の前にカクテルを作って持ってきた。

 「お待たせいたしました、お客様。こちら、季節のフルーツカクテルになります。シャインマスカットを使っております。こちらはノンアルコールのカクテルになります。では、どうぞごゆっくり。」

 マスターがカクテルの入ったグラスを置いて僕たちの前を去ると、僕たちはカクテルのグラスを手に取り、二人で乾杯をした。

 「では、初めてのデートを祝して乾杯、丈!」

 「乾杯、酒吞!」

 乾杯をし終えると、僕と酒吞はフルーツカクテルを一口飲んだ。

 僕はノンアルコールだけど、ピューレ状にしっかり裏ごしされて、ややとろみがあり、マスカットの爽やかな甘みが口いっぱいに広がり、キンキンに冷えているか、昼間動いて火照った体が涼んでいくような感覚が口から全身に広がっていくようで、とても美味しく感じた。

 「フゥー。とろみがあるのに、凄く爽やかな感じの喉越しもあって、美味しいね、このマスカットのフルーツカクテルは。」

 「だろ?このフラワーコーラル島で一、二を争うバーだって言われるくらい有名なバーらしいぜ、この店は。酒好きの俺から見ても、このバーの酒は間違いなく最高レベルだぜ。フルーツカクテルでこれほど美味いカクテルを飲める店は初めて出会ったぜ、俺も。」

 「せっかくだから、何かフードメニューも頼んでみよう。フィッシュアンドチップスに、イワシのマリネ、トマトとチーズのカプレーゼ、なんてどうかな?メニューボードにおすすめって書いてあるよ。」

 「なら、その三品を頼むとしようぜ。ついでに俺は、モヒートを一杯頼むとするかな?」

 「だったら、僕はマンゴー・カクテルをノンアルコールで一杯、いただこうかな?」

 「マスター、こっちへ来てくれ。」

 「かしこまりました。少々、お待ちください。」

 僕たちはそれから、フードメニューと追加のお酒を注文し、お酒を飲みながら二人で会話をして、オシャレなバーでの大人な一時を楽しむ。

 「異世界に来てからもうすぐで半年になるのか?酒吞は地球が、日本が恋しくはならないかい?こっちじゃあ、日本酒は無いし、日本酒が飲めないのはストレスに感じていないか?」

 「まぁ、確かに日本酒が恋しくなる時はあるぜ。こっちじゃあ、米を使った酒は置いてねえし、そもそも米自体がマイナーな食べ物扱いだし、しょうがねえけど。だけど、別にそこまで気にしちゃいねえぜ。こうして、肉体を取り戻して、お前と自由に外で楽しく大好きな酒を飲めるんだ。俺は十分満足で幸せだ。俺が人間の男と二人きりで、しかもおめかしまでして一緒に酒を飲んでいる姿を見たら、死んだ子分共もあの世で驚いて、全員ひっくり返ってるかもな。丈、お前に出会えて俺は本当に幸せだ。本当にありがとな。」

 「こちらこそだよ。亡くなった丈道おじいちゃんが結んでくれた縁とは言え、ずっと僕を陰から守ってくれた。異世界召喚に巻き込まれて、インゴット王国と勇者たちに裏切られて殺されかけた僕を助けてくれた。異世界での危険な復讐の旅にこうして付いてきてくれて、僕にいつも力を貸してくれる。こうして、僕をデートに誘ってくれて、僕を元気づけてくれている。僕も君に出会えて本当に幸せ者だよ。いつもありがとう、酒吞。」

 「本当に丈は、強くて優しくて良い男だぜ。俺もお前を陰から守って支えてきた甲斐があるってもんだぜ。お前が不良に絡まれた時、思わず不良をぶっ飛ばしたり、喧嘩で負った怪我がとんでもなく早く治ったことがあったのを覚えてるか、丈?実はな、アレ、俺がちょっぴり力を貸してたんだぜ。」

 「そ、そうなの!?いや、喧嘩に巻き込まれた時にできた傷とか骨折とかが10日もかからずにすぐ治るもんだから、僕も気になってはいたんだよ。周りからは、ゾンビだとか、悪魔が憑いてるだとか、散々気味悪がられたけど。こっちに来てから、実はそうだったのかな、と薄々思ってはいたけどさ。」

 「カッカッカ!お前の暴走する霊能力を抑え込むのに忙しくもあったが、俺だって大事なお前を目の前で傷つけられて黙って見ているだけじゃあ、腹の虫がおさまらねえからよ。ちょいとばっかし、目立たねえ範囲で手を貸したりもしていたんだ。玉藻からはやり過ぎだとか、過保護だとか、余計な手出しだとか、散々説教されたけどよ。でも、玉藻も鵺も、あの二人も俺と大差ないぜ。玉藻なんて、お前にいたずらしようとする連中にご自慢の毒と幻術で幻覚を見せてしばらく再起不能にするだとかの報復をやってたし。鵺の奴なんか、お前に意地悪や暴力を振るった連中の真上に雨を降らせてずぶぬれにさせて風邪を引かせるだとか、突風を起こしてゴミをぶつけてゴミまみれにするだとか、俺よりもずっとえぐい報復をやってたんだぜ。俺の手助けの方がまだ可愛いもんだぜ。」

 「それは初耳だったな。いや、僕の霊能力が無意識とは言え、暴走していたせいで被害にあった人もいるだろうし、そこに酒吞たちによる報復まで食らったら、ちょっと気の毒に思えてきたな。ああっ、不良だとか、いじめっ子だとか、ビッチだとか、毒親だとか、そういう人間のクズのことは別に全然、気にしないけど。」

 「お前の瘴気にやられた人間のほとんどは、何かしら元から瘴気にやられてさらに不幸な目に遭うことが決まっていた、人間のクズ、悪人ばかりだ。丈、お前には何の責任もねえ。何も気にすることはねえ。お前の霊能力の暴走を抑えて傍でずっと見守っていた俺が保証するぜ。しっかし、ゴブリン以下の人間のクズがわんさかいる異世界に飛ばされるとは、丈、お前って奴はつくづくクズ共が寄ってくる星の下らしいな。まぁ、これからも俺がしっかり傍で支えてやっから、心配はいらねえよ。お前に近づくゴブリン以下の外道どもはこの俺が全員、ぶっ潰す。安心しな。」

 「本当に心強いよ、酒吞。なら、君に近づく人間のクズ、異世界の悪党どもは僕がぶっ殺す。君の背中は僕が守る。これからも一緒に異世界の悪党どもに、正義と復讐の鉄槌を下すのを手伝ってくれ、鬼の王さん?」

 「おう。もちろんだぜ、俺のご主人様。」

 僕と酒吞の二人は、貸し切りのバーでお酒を飲みながら、語らい合い、夜のバーでのデートを一緒に楽しんだ。

 そんな僕たち二人の様子を、バーの向かい側にある小さなレストランの窓からメル、イヴ、玉藻、鵺、エルザ、グレイ、マリアンヌ、スロウの九人が監視するように見ていた。

 「酒吞お姉ちゃんがオシャレしてるなのー!すっごい綺麗なの!」

 「フン!少し着飾ったところで美の女神たる妾の美貌には遠く及ばぬ!婿殿め、酒吞に見惚れてデレデレと鼻を伸ばしおって!後で説教してやらねば、まったく!」

 「あの酒吞が、大酒ぐらいでガサツで怪力だけが取り柄の酒吞が、あんな風にオシャレをしてバーで大人のデートをできるとは、驚きました!くっ、これは少々、油断していました!」

 「酒吞が大人の女になってる!信じられないくらい色っぽくなっている!ドレスも小物も、デートに選んだバーも、ほぼ完璧!私のデートよりもポイントが高いかもしれない!酒吞、意外にやる!」

 「酒吞殿がドレスを着ている姿など我も初めて見た。普段の冒険者服の姿とはかなりギャップがあって、それが絶大な効果を発揮しているように見える。未成年の我では、バーでのデートはできない。これは確かに一本取られた。敵ながら天晴だ、酒吞殿。」

 「流石は酒吞の姉御だぜ。普段ガサツに見えて、結構考えてるんだよな。ドレス姿で夜の高級なバーでジョーと一緒に酒を楽しむ、か。大人の女って感じがして、バーも滅茶苦茶雰囲気があって、おまけに貸し切りだからますますデートの雰囲気が出てるじゃんよ。マジで今日の姉御は半端ねえ。」

 「ど、どうしましょう!?酒吞さんのようなデートをできる自信は、正直ないです。私はジョー様からクソ王女扱いされてマイナススタートですし。今からでも何か追加の対策を取らないと!?ううっ、あの時ジョー様の処刑を黙って見ていた自分を今すぐ叱り飛ばしたい気分です。」

 「酒吞、ただのメスゴリラじゃなかったんよ!マジで別人かと思うほど綺麗になってるっしょ!つか、よく酒吞のサイズに合うドレス見っけたな~?ハイヒールとか、酒吞の馬鹿でかい足に入るサイズとか売ってなさそうに見えっけど?こりゃあ、ウチもゾーイもうかうかしてられんですわ~!超超マジでジョーちんを落としに行かなきゃだし!気合入れていくっしょ!」

 「まだ全員のデートが終わったわけではない、皆の者。酒吞の変身ぶりには皆、驚かされたであろう。しかし、バーでのデートは、未成年の婿殿には早すぎる印象がある。婿殿も少々、気を遣っているようにも見える。デートはやはり、お互い気を遣うことなく楽しめる方が一番だ。そういう意味では、妾たちのデートだって決して負けてはいない。そうは思わぬか?」

 「「「「「「「「た、確かに。」」」」」」」」

 主人公と酒吞がデートする姿を見ながら、幼いメルを除き、意見を述べ合うイヴたちであった。


 デート二日目。

 午前9時。

 フラワーコーラル島のとあるジャングルの中を流れる大きなの川の上流付近。

 デート二日目を迎えた僕は、早朝、エルザに誘われて、フラワーコーラル島のとあるジャングルの中を流れる大きな川の上流付近へと二人でやって来た。

 目的は、二人でカヌーに乗って一緒に川下りに挑戦するためである。

 水着とライフジャケットに着替えると、僕たちは係員の指示に従い、川に浮かんでいる木製のカヌーへと乗り込んだ。

 エルザが前の座席に座り、僕が後ろの座席に座る。

 木製のシングルプレートパドルを両手に持って、僕たちは早速、パドルで漕ぎながら、カヌーを発進させた。

 エルザが主に右側の舵、僕が主に左側の舵を担当することになった。

 カヌーは前後に座る二人の呼吸の相性、左右の舵取りを如何にバランスよく二人で保ちながら漕ぎ進められるかが、大事なポイントだということだ。

 ちなみに、僕は小学生の時に一度、修学旅行でカヌーを体験したことがある。

 だが、陰キャでぼっちで、クラスのみんなから呪われているだの、ばい菌だの言われて嫌われていた僕は、クラスメイトたちから避けられ、クラスメイトの誰とも組めず、最終的に担任でもない、隣のクラスの先生と二人でカヌーに乗ることになった。

 クラスメイトたちが仲の良い友達同士でカヌーに乗る姿を、僕は羨ましく思い、普段より寂しい気持ちになったのを、今でも覚えている。

 正直、僕はカヌーにあまり良い思い出はない。

 余談だが、僕が初めてカヌーを体験した日、僕と隣のクラスの先生が乗るカヌー以外のボート、僕のクラスメイトたちが乗る全てのカヌーが突然、一度に、一斉に転覆し、僕以外のクラスメイト全員が川に落ちて流されるハプニングが起こった。

 担任の先生や他の先生たち、係員の人たちが大慌てで川に一斉に落ちたクラスメイトたちを助けに行ったことを覚えている。

 地球にいた頃の思い出を思い出しもしながら、僕はエルザと二人でカヌーを一生懸命に漕いで、川を下っていく。

 「エルザ、ちょっと右に寄ってる!左に戻そう!」

 「了解だ!ジョー殿、もっと左に強く漕いでくれ!」

 「よいっしょ!よいっしょ!」

 「よし!OKだ、ジョー殿!このまま前進だ!」

 「「1、2!1、2!1、2!・・・」」

 僕とエルザは互いに呼吸を合わせながら、カヌーを漕いで川の中を進んで行く。

 カヌーでの川下りを始めてから20分ほどが経過した頃。

 水の流れが激しい川の上流付近から、水の流れが穏やかな川の中流付近へと移動した僕たちは、一度カヌーを漕ぐのを止めて、川の流れに舟を任せて、二人で周りの景色を見ることにした。

 「ストップだ、ジョー殿。この辺で一旦、手を休めよう。見ろ、周りの景色を。素晴らしい眺めではないか!」

 「ああっ、本当だね、エルザ!川の中から見るジャングルは一味違うね!マングローブがこんなにたくさん生えているよ!圧巻だね、本当!」

 ジャングルの中に広がる、マングローブ林を始めとした雄大な自然の景色を見て、僕は景色に圧倒されるとともに、その美しい光景に見とれてしまう。

 中流のゆっくりとした川の流れに、澄んだ川の水が、さらに癒しの効果を与えてくれる。

 「エルザ、ゴールは確か、下流を出た先の、河口から少し左に回って出たところにある、海の洞窟で合ってるよね?」

 「その通りだ、ジョー殿。ゴール地点の海の洞窟の中も相当、景色が綺麗だそうだ。期待しててくれ。」

 「それは楽しみだなぁ。海の洞窟かぁ。いかにも冒険って感じもして、良いね。」

 僕とエルザはしばらく、中流付近でカヌーの上からジャングルの景色を見て楽しんだ。

 下流へと入ると、ふたたび川の流れがやや早くなり、僕たちはゴールの海側にある洞窟に向けて、ふたたび力を合わせて、懸命にカヌーを漕いだ。

 下流の河口を出て、河口から左側に向かって海へと出て、標識に従い、左回りに海を進んで行くと、ゴールである海の洞窟が見えてきた。

 洞窟の入り口へと入り、カヌーで洞窟の中を進んでいくと、そこにはとても美しい光景が広がっていた。

 洞窟の上部に開いた穴から日光が入り込み、暗い洞窟の中を白く輝く日光が照らしている。

 同時に、洞窟の水が、洞窟の上部から差し込む日光に照らされる影響で、水面から水底までコバルトブルー色に染まり、美しい青い輝きを放っている。

 洞窟の中に広がる神秘的で、幻想的で、とても美しい光景に、僕とエルザの二人は感動し、しばらく黙り込んで、目の前に広がる絶景を目で楽しむのであった。

 「何て神秘的なんだろう。同じ海の水のはずなのに、全然色が違う。見る場所でこんなにも変わるなんて。自然の奥深さを感じるよ。」

 「ああっ、そうだな、ジョー殿。自然とは実に神秘的で奥が深いモノだ。同じ水でも環境によって大きく見え方が変わる。我ら人間と同じだ。ヒトもまた、自然の一部であり、出会いによって己の可能性はどこまでも変わっていけるのだと、そう思えてしまう。」

 「何だが悟りを開いた、みたいな言い方だね。でも、確かに、僕もこの景色を見ていると、君と同じように思ってしまうよ。こんなに綺麗な景色を見せてくれてありがとう、エルザ。カヌーも本当に楽しかった。君が相手だったから、こんなに楽しむことができた。誘ってくれて、本当にありがとう。」

 「こちらこそだ、ジョー殿。ジョー殿に楽しんでもらえたなら、それが何よりだ。また二人で一緒にどこかへ遊びに行こう。ジョー殿と一緒なら、我は何だって楽しめる気がするのだ。」

 「ハハハ!それはどうも!なら、また二人で一緒に外へ遊びに行こう!二人で遊べる良いアウトドアがないか、僕も探してみるよ!それじゃあ、ゴールに向かおうか!」

 僕とエルザは笑いながら話を終えると、洞窟の一番奥にあるゴール地点を目指して、一緒にカヌーを漕いで、美しい洞窟内を進んで行く。

 そんな僕たち二人の様子を、二人より少し離れた場所からカヌーを漕ぎながら、玉藻、鵺、グレイ、イヴ、スロウの五人が監視するように見ていた。

 「カヌーに乗って川下りデート。とてもオーソドックスで非常に分かりやすいデートプランですね。一緒にカヌーを漕いで、お互いにフォローし合いながら、カヌーや景色を楽しむ。デートとしては及第点と言えますね。」

 「エルザも中々やる。カヌーは一人ではできない。カップルでやれば、お互いの親密度が上がって、仲良くなれる効果はバツグン。川に落ちるかもしれない、というちょっとしたスリルもあって、それが吊り橋効果なアクセントにもなる。男の子は冒険好きが多い、というポイントも上手くついている。全体的にポイントは高い。」

 「へっ。エルザの奴にしては、結構やるじゃんよ。普段トレーニングと剣術にしか興味ない感じのくせに、上手くジョーに自分をアピールして、デートを楽しんでやがるぜ。元々、アイツもぼっちだったからな。ぼっち同士だから楽しめるデート、って奴にも見えるじゃん。」

 「フン。エルザも意外にやるではないか。婿殿と一緒に狭い小舟に乗って、小舟を動かしながら遊ぶ共同作業でより二人の仲を深める。島の自然全てをフルに活用したところもデートの演出としてはよく出来ている。同じ年頃の男女で行うデートとしては実に現実的で健全で、敷居も低い。エルザなりによく頑張った方だな。」

 「でも、カヌーは結構体力使うし、かなり疲れるっしょ。ジョーちんはどっちかと言えば、インドア派じゃね?ジョーちんはインドアにしては体力ある方だから誘えたっぽくない?ウチみたいなタイプは誘われても絶対無理。三人乗りで乗ってるだけならいいけど。つか、デートっつうより、仲の良い友達同士で遊んでる感じにウチには見えるっしょ?異性アピールはイマイチ成功してないんじゃね、あれ?」

 「「「「確かに。」」」」

 主人公とエルザがデートする姿を見ながら、意見を述べ合うスロウたちであった。


 デート二日目。

 午後1時。

 フラワーコーラル島のとある砂浜。

 エルザとのデートを終え、強化トレーニングに励むメルとマリアンヌのところに一旦顔を出し、午前中のトレーニングの進捗具合について聞きながら、二人と一緒に僕は昼食を食べた。

 昼食後、僕はイヴに誘われて、フラワーコーラル島のとある砂浜を二人で訪れた。

 目的は、二人で一緒に砂浜を歩きながら、海を見て、ビーチコーミングを楽しむためである。

 ビーチコーミングとは、浜辺で貝殻や流木、ガラス瓶など、海から流れ着いたさまざまな漂着物を拾い集めて観察しながら散策する活動のことを指す。

 浜辺に漂着した珍しくて価値のある漂着物を見つけてコレクションしたり、希少価値のある漂着物を売ってビジネスをしたり、見つけた漂着物で自由研究をしたり、など、僕が元いた地球でもよく行われていた、海の楽しみ方の一つでもある。

 サーファイ連邦国は島国であることから、砂浜でビーチコーミングを楽しむカップルや家族連れ、旅行者も多く、かなり人気らしい。

 中には、トレジャーハンターを主な稼業としているサーファイ連邦国の冒険者たちも、他の人たちに混ざって、サーファイ連邦国のあちこちの島でビーチコーミングでレアアイテムの発見に勤しんでいる。

 手袋を両手に嵌めて、僕とイヴの二人は、太陽の下、ゆっくりと穏やかな青い海が広がる砂浜を二人、腕を組みながら海岸を散策しつつ、ビーチコーミングを楽しもうとする。

 「フフフ、婿殿とこうして腕を組んで堂々とデートできるとは、実に良いモノだ。婿殿もそう思わぬか?」

 「あ、あはははっ!?その、デートできるのは確かに嬉しいよ、本当に。僕みたいな、いかにも冴えない男と、イヴみたいな美人が腕を組んで砂浜を歩いてデートするなんて、僕も周りもビックリだと言うか。今でも夢だとかドッキリじゃないかと思うくらいだよ。」

 「婿殿はもっと自分に自信を持って良いと思うぞ。婿殿は闇の女神であるこの妾の婚約者にして、妾が選んだ史上最強最高の勇者なのだ。いずれは女神である妾の夫になるのだぞ。もっと自信を持ってもらわねば、神王様にも、他の知り合いの女神たちにも紹介できん。婿殿はこの妾が選んだ最高の男だ。もう少し人前で堂々した振る舞いをしても罰は当たらん。あまり妾以外の女の前で大胆になり過ぎるのはダメだがな。」

 「ハハハ!僕がイヴやパーティーメンバー以外の前で、女性に大胆に振る舞うのは、ちょっと無理だなぁ~。事務的な会話だったら、ギルドの受付嬢さんたち以外の前でも多少、話せるようにはなったよ。でも、僕は基本、陰キャなのは変わらないからなぁ~。もっと陽キャっぽく振る舞えるようになる自信はあんまりないな。一応、パーティーリーダーをやってるし、頑張ってはみるけども。」

 「フッ。まぁ、婿殿があまり目立ち過ぎるのは妾も困る。今の謙虚で控えめな婿殿の方が妾の好みでもある。ただ、妾の知り合いの前ではもう少し堂々と振る舞っても良いとは思うがな。おっ!婿殿、足下を見てみよ!早速、お宝を発見したぞ!」

 イヴはそう言うと、急に地面へとしゃがみ込み、それから、砂浜の上に落ちている白い凹凸と、角が丸くなっていて、大きな穴が開いてる物体を拾い上げると、僕に見せてきた。

 「イヴ、これは何だい?」

 「フフフっ!婿殿、これはイルカの耳骨だ!イルカの耳の骨がまるごと残っている!こんなに原型を美しく留めているモノは、早々ないぞ!」

 「これがイルカの耳の骨?へぇー、これがか?そう言われると、穴が開いていて、耳っぽい形をしているように見えるね。よく知ってたね、イヴ?」

 「フッ。妾を誰だと心得る。惑星アダマスの創造に携わった闇の女神にして、知恵の女神なのだぞ。多少、生物学にも心得はある。アダマスの自然に関することならば、大抵のことは知識として知っているのだ。千里眼を使って分析せずとも、これくらいのこと、すぐに分かるのだ。」

 「流石は女神様だ。自分が管理しているとか抜かしているくせに、全く自分の世界のことを分かっていない、自称女神で詐欺師の、どこぞのクソ女神とはレベルが違いすぎる。イヴは本当に凄いなぁ。」

 「フハハハ!当然だ!リリアの馬鹿女など、天才で真の女神たる妾の足元には遠く及ばん!100万年かけても無理であろう!そんなことより、婿殿、ビーチコーミングを続けるとしよう!砂浜にはまだまだ、貴重なモノがたくさん落ちている!一緒に宝探しを思う存分、楽しもうではないか?」

 僕はイヴと一緒に、砂浜の上や下に、何か珍しい漂着物が落ちていないか、ビーチコーミングと言う名前の宝探しを続ける。

 「イヴ、この水色とか緑色の丸っぽい石は何だい?ツルツルとしていて、半透明で、宝石みたいだよ、まるで?」

 「それは、ガラスだ、婿殿。海の中を流れていく内に自然に研磨されると、角が取れて、そのような半透明の丸い石のように形が変わるのだ。シーグラスとも呼ばれる。確かに美しいモノではある。集める者も多いだろう。だが、それがあるということは、誰かが川や海にガラスでできたゴミを捨てている、という証明でもある。そういう意味では、あまり喜ばしいモノではないとも言える。」

 「これがガラス・・・、誰かがガラス製品を海や川に捨てて生まれたモノ。そう聞くと、何だか悲しくなるな。こんなに綺麗な石だけど、元が不法投棄されたゴミだなんて。それに、世界一美しい海と呼ばれるサーファイ連邦国の浜辺で見つかるなんて。異世界でも人類による環境破壊はあるってことか。」

 「文明が発展するとともに、人間が生みだすゴミも必然的に増えていく。人間のほんのでき心の、小さな悪意が、積もりに積もって、美しい海を汚す巨大な悪の塊へと変わってしまうのだ。人間が知的生命体として成長するのは喜ばしいことだが、そのために自然が穢れ、この惑星アダマスの自然環境が破壊されることは、担当女神としては見過ごせぬことだ。人間もこの星の一部であるという自覚を、全ての人間に持ってほしいと、妾は願う限りだ。」

 「見た目は宝石のように美しくても、中身は環境を汚す不法投棄物と言う、人間の悪意の産物、か。見た目が綺麗だから、美しいモノを見たいから、そんな理由で星の環境に悪影響を及ぼすモノを考え無しに作ったり、不法投棄したり、汚してそのままにしたり、そんな身勝手な行為が許されていいわけがない。僕の元いた地球では、アダマスよりも環境破壊がずっと進んでいる。対策はしているけど、それでも環境破壊は止まらない。悪いことだと頭では分かっていても、心が求めてしまうんだよ。自然よりも自分の欲しいモノを選べって。それが、人間って言う愚かな生き物なんだよ。僕もその愚かな生き物の一匹なんだけどね。」

 「そのセリフを言える時点で、婿殿は他の愚かな人間とは違うと、妾は思うぞ。婿殿は今、自分がその手に握るシーグラスを見て、悲しみの眼差しを向けている。同時に、ガラスを海へと捨てた愚かな人間と、その人間の持つ悪意に対して、怒りの感情を抱いている。妾には婿殿の気持ちがよく分かるぞ。妾は婿殿の正妻、だからな。婿殿は優しい人間だと、妾はいつも思っている。」

 「ありがとう、イヴ。決めた!せっかくのデート中で申し訳ないんだけど、二人で一緒に、この砂浜に落ちているシーグラスとか、他にゴミが落ちていたら、すぐに拾って回収しないかい?綺麗な海が悪意で穢されるのはやっぱり放ってはおけない。それに、僕の千里眼の訓練にもなるしね。もちろん、ビーチコーミングも一緒に楽しむつもりだよ。ダメかな、イヴ?」

 「ビーチコーミングに誘ったのも、シーグラスのことを教えたのも、妾だ。婿殿が海を綺麗にしたいと申すなら、妻として支えるのは妾の義務だ。当然、妾も手伝うぞ、婿殿。」

 「ありがとう。じゃあ、一緒にお宝探しとゴミ拾いを頑張るとしよう。シーグラスは残らず回収して完璧に処分するぞ。」

 僕はそれから、イヴと一緒に、砂浜で、珍しい形の流木やサンゴの死骸、クジラの骨、海のモンスターの骨、色鮮やかな貝殻、珍しい鉱物など、貴重なお宝的アイテムを拾って楽しみつつ、シーグラスやガラス瓶などの海を汚すゴミも一緒に拾って回収した。

 ビーチコーミングで集めた貴重なアイテムは、二人のデートの記念の品として二人で分けあい、お互いにプレゼントした。

 後、拾ったゴミは全て、ゴミとしてきっちり処分した。

 二時間ほど、僕はイヴとのビーチコーミングを利用したデートを楽しんだのであった。

 そんな僕たち二人の様子を、離れた場所から玉藻、鵺、エルザ、グレイ、スロウの五人が監視するように見ていた。

 「丈様とあのように腕を絡めて密着するなんて、う、羨ましい!お、オホン!ビーチコーミング、よく出来たデートプランです。海岸を二人っきりで腕を組んで歩きながら、貝殻などを見つけて楽しみ、お互いにデートの記念にプレゼントする。海を楽しみつつ、ロマンスも感じさせる、少し大人の雰囲気を感じさせるデートと言えます。敷居もあまり高くない感じですし、よく練られているデートです。」

 「イヴは丈君と密着し過ぎ。デートとは言え、丈君にあんましベタベタ触るのは良くない。それ以上先に進むようなら、即刻腕を斬り落としに行っていた。今回はギリギリ見逃す。次はない。」

 「い、いや、男女二人だけのデートなのだし、腕を斬り落とすというのは、いかがなものかと思うが、鵺殿?ライバルに塩を送るつもりはないが、どのようなデートをするかは我らの裁量次第だ。イヴ殿のデートは、イヴ殿の知的な大人の女性、という部分をアピールできていて、内容も至って健全な方で、決して抜け駆けにはなっていないと、我は思うぞ。」

 「ちっ!イヴの奴、上手くジョーにくっつく口実を見つけやがって!ウンチクも披露できて、上品で頭の良いデキる彼女アピールって奴かぁ!まぁ、流石は闇の女神様ではあるけどよ!丈からプレゼントまでもらって、大満足って顔だぜ、アレ?一番デートっぽいってのは認めてやるじゃんよ!くそっ!」

 「流石はイヴ様っしょ。他の人のデートも参考に、最適なデートプランを考えて実行したって感じ~。インドア派で、割とウンチク好きのジョーちんにも合ってるし、自分の頭の良さとかもアピールできて、デートの終わりまでちゃんと演出が考えてあって、確かに超ポイント高いっしょ。でも~、完璧過ぎっつ~か、まとまり過ぎっつ~か、ちょっと大人し過ぎじゃね?付き合いたてのカップルじゃなくて、結婚してから結構時間が経ちました夫婦がやります、的な感じで、ちょっちハプニングって言うか、トキメキ的な何かが物足りない感じに見えるっしょ、ウチには?」

 「「「「た、確かに。」」」」

 主人公とエルザがデートする姿を見ながら、意見を述べ合うスロウたちであった。


 デート三日目

 午前9時。

 フラワーコーラル島の中心市街地、大通りの一角にある、とある大きな服屋。

 デート三日目を迎えた僕は、早朝、マリアンヌに誘われて、フラワーコーラル島の中心市街地、大通りの一角にある、とある大きな服屋へと二人でやって来た。

 マリアンヌから一緒に自分が着る服を買うのを手伝ってほしい、と頼まれた僕は、マリアンヌおすすめの服屋の中へと彼女と一緒に入る。

 店内は、サーファイ連邦国で普段着としてよく着られるアロハシャツから薄手の生地のTシャツ、ドレス、水着、短パン、パンツ、下着、フォーマルスーツ、靴、バッグなど、たくさんの商品が置いてあって、品揃えは豊富だ。

 「今日は私のお誘いに応じていただき、ありがとうございます、ジョー様。よろしくお願いいたします。」

 「ああっ、こちらこそよろしく。ただ、服選びを手伝ってほしい、ってことだが、僕は、その、あまり、ファッション自体に詳しくはない。見ての通り、ファッションとは縁遠い陰キャだ。特に、女の子の服なんてな。本当に僕が手伝って大丈夫か?ハイセンスな感想とか求められても無理だぞ、僕には?」

 「いえ、是非ジョー様に手伝ってほしいのです。ジョー様のパーティーにいる以上、ジョー様の好みを知りたいんです。それに、その、一応デートですし、男の方に服を選ぶのを手伝ってほしいなぁー、と思いまして。」

 「デート、ねぇ。まぁ、お前も最近は更生に向けて地道によく頑張っているし、服選びくらい手伝ってもいいかな、とは思えるようになったけど。ポンコツクソ王女ではあるが、パーティーリーダーとして、男の知り合いとしてなら協力はするよ。」

 「ううっ!?そ、そんな言い方をされなくても、と言いたいところですが、何も言い返せないです。せっかくの、人生初デートなのに。ううっ。」

 「人生初!?お前が!?マリアンヌ、お前、インゴット王国の王女だろ、一応。一人しかいない王家の後継ぎなんだし、上流貴族の男の後継ぎたちからデートだとか、見合いだとか、結婚だとかの申し出なんかをたくさん受けてるんじゃないのか?元「勇者」の島津とも付き合っていたんだから、デートだってとっくに経験済みだと僕は勝手に思っていたんだが?」

 「それは、確かにジョー様の仰るように、王国の上流貴族のご子息たちから、デートやお見合いなどの申し出を受けたことはあります。婚約者候補としてお父様より何人かご紹介いただいたこともございます。ただ、お父様から婚約は16歳を過ぎてからだと、自分が認めた相手でないと婚約も結婚も許可できないと言われておりまして、あまり、異性の、同じ年頃の殿方と本格的な男女のお付き合い的なことをするのはお父様から止められていたと言いますか、経験する機会がほとんど来なかったと言いますか。異性のお友達の何人かを交えて、一緒に遊んだことなら何度かあります。元「勇者」のシマヅ氏とは一時期、お付き合いをしておりました。お父様も私とシマヅ氏をゆくゆくは婚約させるおつもりでした。ですが、その、シマヅ氏とお付き合いをしていたのは、ほんの二ヶ月ほどでした。シマヅ氏は勇者のトレーニングでお忙しかったですし、私も「巫女」兼王女として、公務で忙しかったのです。シマヅ氏から告白された後も、二人きりで城内でお話をしたり、トレーニングにお付き合いしたり、食事をご一緒したり、することはありました。でも、こうして、外で二人きりでデートをしたことはありません。私からデートへお誘いしたこともありましたが、先約があるからと、いつも断られておりました。だから、その、男の方とデートをするのは、今日が、ジョー様が初めてなんです、はい。」

 少し暗い顔をしながら説明をするマリアンヌの話を聞いて、僕は少し複雑な気持ちになった。

 「ええっと、そうか、それは、何と言うか、ちょっと悪いことを聞いてしまったな。すまない、マリアンヌ。人を勝手に見た目だけで決めつけるのは良くないことだ。本当にごめん。謝るよ。」

 「いえ、ジョー様が疑問に思われても不思議ではないと、私も思いますから、お気になさらないでください。」

 「お前が箱入りのお嬢様だとは分かっていたけど、お前の親父のクソ国王、過保護にも程があるだろ?そりゃあ、王女で自分の娘がどこの馬の骨とも分からない男と付き合ったりされたら困るだろうけど、もう少しお前の気持ちとか自主性とかを尊重してもいいんじゃないか?いや、クソ国王が認める相手と結婚させられたりしたら、本当に不幸な結婚生活になった可能性も否定できないし、結果としてはある意味、正解か?インゴット王国にいたままだったら、今頃は島津の奴と結婚して、王国共々、共倒れになって、最悪、島津と一緒に処刑される運命だったかもしれないしな。本当に悪運が強いよな、お前。」

 「そう言われると、そんな気がしてまいります。あのまま、ジョー様を追いかけて王国を出ていなかった場合、私はとっくの昔に命を落としていたかもしれません。」

 「それと、追い打ちをかけるようですまないが、多分、島津がお前からのデートの誘いを断ったのは、きっとわざとだと思うぞ?恋人からの初デートの申し出を、先約があるから、なんて言って断るのはまず、あり得ないだろ?地球にいた頃から学校中の女子にモテていた超イケメンだったからな、アイツ。同じ勇者でクラスメイトの、他の女勇者たちからもモテていたしな。先約は先約でも、男友達と遊ぶとかじゃなくて、裏で他の女勇者と先にデートの約束をしていたんじゃないか?アイツ、地球にいた頃、同じ学校の女子と10股しているだとか、年上の女子大生とも付き合っているだとか、そんな噂もあったし。まぁ、本当にただの用事があっただけの可能性もあるかもだけど、島津の奴、きっとお前以外の女子とも絶対裏で隠れて付き合ってたと、僕は思えて仕方ないな。ああっ、島津とはもう別れてるんだし、僕の勝手な推測だ。だから、気にするなよ、マリアンヌ?」

 「気にするなと言われても気にしますよ!ううっ、やっぱり、シマヅ氏は浮気をしていた可能性があると、ジョー様でもそう思われるなんて!私って、私ばっかり、どうしてこんな目に!?悪運以外、取り柄がないんですか、私!?アハ、アハハハハハっ!?」

 僕に、元恋人の島津から浮気されていたかもしれないと言われ、落ち込むと同時に、急に何かが吹っ切れたように、目は焦点が合ってなく、乾いた笑い声を上げて苦笑するマリアンヌであった。

 「お、落ち着け、マリアンヌ!?服、服を選ぶぞ!お詫びに僕から一着、気に入った服をプレゼントするからさ!高すぎる服は難しいけども!だから、機嫌を直してくれ、なっ?」

 「じょ、ジョー様が私にプレゼント!?私に服を買ってくださる!?是非、是非、お願いします!私、急に元気が出てきました!頑張って気合を入れて最高の一着を選びますから!服選びのお手伝い、よろしくお願いします、ジョー様!」

 「ああっ、もちろんだ!こちらこそよろしく!」

 急に元気を取り戻し、笑顔を浮かべるマリアンヌを見て、ホッとした僕であった。

 それから、僕とマリアンヌは一緒に服屋の店内を一緒に見て歩いた。

 マリアンヌはアロハシャツに興味があるらしく、レディース用のアロハシャツのコーナーで、一生懸命、アロハシャツを選ぼうとする。

 僕はマリアンヌのすぐ傍で、一生懸命服選びをするマリアンヌを見守り、時にはマリアンヌからの質問に答える。

 マリアンヌは何着か気に入ったアロハシャツを見つけると、アロハシャツを手に持って、試着室の中へと入っていく。

 「どうでしょうか、ジョー様?」

 試着室のカーテンを開けて、白い生地に水色と黄色の花柄模様が施されているレディース用のアロハシャツを上に着て、白くて薄地のインフォーマルな長いパンツに、茶色い革ベルトを腰に巻いたマリアンヌが現れた。

 「似合っていると思うぞ。元々、白が好きなんだし、派手過ぎない感じだし、良い感じのコーデだと思うけど。あくまで素人目線の意見だけど。」

 「他のはいかがでしょうか?同じデザインで、ピンクに赤、青などもあります。これなんか、白と緑で縦に分かれているバイカラーです。こちらなんかは、花柄ではなく、葉っぱをプリントしてあって、特徴的なデザインをしています。ジョー様の素直な好みを聞かせてください。」

 「僕の好み?う~ん、そうだなぁ~?正直に言うと、白色と金色はあまり好きじゃない。白はぶっちゃけクソ女神とゾイサイト聖教国を思い出すから、真っ白なデザインの服とかは好きになれない。後、金色、特に派手派手しいイエローゴールドだ。理由は言わなくても分かるだろうが、お前のクソ親父とインゴット王国を思い出すから、嫌いだ。大体、黄金の剣とか黄金の城だとか、如何にも成金趣味って感じで、センス悪過ぎだろ?イエローゴールド一色のデザインなんて、普通の人間なら絶対に嫌がる。僕の好みはこんな感じだ。でも、本当に参考になったか?別に白い服を着たいなら着ても良いんだからな?」

 「い、いえ、とても参考になりました!くっ、今後は白い服はなるべく着ないようにしましょう。コホン。今着ている服は買うのはやめにします。ピンクと赤と青、この三着を買いたいと思います。パンツは、別の色を選ぶことにします。」

 「そ、そうか!?最終的にお前が気に入った服を選んでもらえれば僕は構わないよ。なら、次はその三着に合うパンツを買わなきゃだな。ジーパンとかも似合いそうな感じがするけど。」

 マリアンヌが一度試着室を出た後、僕たちは一緒にマリアンヌが選んだアロハシャツに似合おうパンツを選ぶべく、パンツや短パン、ジーンズなどを置いているコーナーへと二人で一緒に向かった。

 マリアンヌと一緒にパンツ選びをしていると、女性の店員が僕たちに話しかけてきた。

 「いらっしゃいませ~、お客様!デニムをお探しでしょうか?良かったら、こちらのショートパンツのジーンズはいかがでしょうか?お客様と同じ年代の方に人気のデザインでして、足を見せたい方にも大変おすすめの商品です。最近はショートパンツのデニムやジーンズが若い女性の間で流行っていますし、おすすめですよ?」

 服屋で店員に話しかけられる。

 それも、如何にも明るくて陽キャな感じの女性店員、にだ。

 正直、ぼっち気質で陰キャな男の僕にとって、服屋でこういったタイプの店員に話しかけられるのは、例え自分が着る服を選ぶわけでないにしても、どうしても緊張して、つい反射的に身構えてしまう。

 これぞ、生まれついたぼっちの悲しき性、なのである。

 男の店員なら、話しかけられてもちょっとは平気だ。

 でも、やはり、緊張はしてしまう。

 できれば、服屋では店員に話しかけられたくはない。

 どうしても必要な時でない限り、自分から服屋で店員に声をかけたりはしない。

 多少、対人スキルを身に着けたと思っても、僕の根っからのぼっち気質は、陰キャは治らないようだ。

 地球にいた頃の、地球の、現代日本の服屋では店員が客に話しかけることは客に気を遣わせる、ということで減りつつある。

 異世界はやはり、僕には優しくない、ぼっちにも厳しい世界だと、改めて痛感する僕であった。

 「・・・、ジョー様、ジョー様、大丈夫ですか?」

 「お客様、何か失礼なことをしましたでしょうか?お顔が優れないようですが、どこか具合が悪いのでしょうか?奥にトイレがございますが?」

 マリアンヌと店員に話しかけられ、僕はハッと意識を取り戻した。

 「い、いや、大丈夫です!ちょっと考え事をしていただけです!マリアンヌも心配しなくて大丈夫だ!」

 「そ、そうですか?それなら良かったです!店員さん、こちらのショートパンツのジーンズを試着してもよろしいですか?」

 「ええっ、どうぞ、ご試着ください!失礼ですが、お客様はカップルでいらっしゃいますか?」

 「えっ、いや、別に・・・」

 「はい、カップルです!私たちはカップルです!彼氏に服を選んでもらいに一緒に来てもらいました!」

 「はぁっ!?おい、マリアンヌ、何勝手なことを言って・・・」

 「ああー!やっぱりそうでしたかー!実はお客様におすすめの商品がございまして、あちらのマネキンを見ていただけますか?最近は、あちらに飾ってあるマネキンが着ています、黒いアロハシャツと、黒いショートパンツのデニムが人気なんですよー!あちらの商品はペアルック仕様で、男女両方のバージョンが取り揃えてございます!デニムにつきましては、長いパンツもご用意しております!あちらの商品を買われてお揃いで着られるカップルの方が多いんですよ!当店でも最近の人気商品の一つです!有名な「黒の勇者」様を参考に最近は上下黒一色のコーデが人気なんですよー!しかも、あちらの商品は男女ペアで買われたら、特別カップル割引が適用されます!いかかですか、お客様?」

 「買います!今すぐ買います!もちろん、ペアルックで!彼氏の分も是非、お願いします!後、横にいるこの人が本物の「黒の勇者」様です!」

 「そうなんですかー!ありがとうございますー、お客様ー!へっ!?本物!?・・・あ、ああっ、う、うそっ、まさか、本当に、雑誌の記事に書いてある通り!?しょ、少々お待ちください、お客様!?て、店長、「黒の勇者」様が、本物の「黒の勇者」様がいらっしゃいましたー!?」

 「あっ、ちょ、ちょっと待って!?マリアンヌ、お前、馬鹿か!?変に騒ぎになりたくないから、迂闊にその嫌なあだ名で僕を呼ぶなって、いつも言ってるだろうが!?周りにいるお客さんまで集まってきただろうが?これじゃあ、ゆっくり服を買えなくなるだろうが?」

 「す、すみません!?つい、嬉しくて、興奮して、忘れちゃいました!本当にすみません、ジョー様!」

 「おい、どうすんだよ、この騒ぎ!?勘弁してくれよ、本当!?」

 マリアンヌのうっかり発言のせいで、僕たち二人の周りに、噂の「黒の勇者」こと僕、宮古野 丈を見るため、店内にいる客たちから服屋の店長、店員たち、果ては服屋の外の通りを歩いていた通行人たちが集まり、店内は大勢の人でごった返し、ちょっとした騒ぎになった。

 結局、僕とマリアンヌの二人は、大勢の人たちが見る中、ペアルックの黒いアロハシャツと黒いショートパンツのデニムを、特別カップル割引で買い、僕がペアルックの黒いアロハシャツ一式の一つをデートの記念にマリアンヌにプレゼントする、という羞恥プレイにも似た姿を晒すハメになり、僕とマリアンヌは大勢の野次馬たちを押しのけながら、急いで服屋を後にしたのだった。

 「おい、ポンコツクソ王女、今日のことは絶対に忘れないからな!明日からのトレーニングはたっぷりしごいてやるからな!血反吐が出るまで、みっちりしごき抜いてやる!覚悟してろよ?」

 「本当に、本当にすみません!本当にわざとじゃあないんです!どうか機嫌を直してください、ジョー様!私だけしごくのは勘弁してください!お願いします!」

 僕は服屋で羞恥プレイをさせられた恨みを露わにしながら、先頭に立って大通りを歩いていく。

 僕の後方で、僕の後ろについて歩くマリアンヌは、慌てて僕を追いかけ、困ったような顔を浮かべながらも、後から少し恥ずかしそうな照れ笑いを浮かべて、紙袋の中に入った僕がプレゼントした黒いアロハシャツ一式を大事そうに抱えて、僕の後ろを歩いてついていく。

 マリアンヌの、頬がほんのりと赤く恥ずかし気に染まった、どこか嬉しそうな笑顔は、彼女の先頭を歩く、主人公こと宮古野 丈には見えていなかった。

 ハプニングはあれど、服屋でのショッピングデートを楽しんだ、主人公とマリアンヌの二人であった。

 そんな主人公たち二人の様子を、離れた場所から玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、スロウ、メルの八人が監視するように見ていた。

 「服屋でのショッピングデート、実に王道なデートプランです。10代のカップルがデートとして行うのには最適です。ただ、服屋が苦手なジョー様にはあまり向いてはいない内容ですね。ジョー様へのフォローはできていた方だと思います。ですが、マリアンヌさんは後でお仕置き決定です。本当は今すぐにでも暗殺してやりたい気分です。」

 「俺たちの前だけでなく、大勢の奴らが見てる前でジョーを彼氏呼びするとか、調子に乗り過ぎだぜ。マリアンヌは問答無用でお仕置き決定だ。とりあえず、後で百発、殴っておくか?」

 「この私の目の前で、他の人たちも見ている中で丈君を勝手に恋人呼ばわりして、おまけにプレゼントまで買わせた。もはや、有罪、ギルティ、処刑決定。恋愛黒歴史製造機の分際であのビッチ王女は調子に乗り過ぎた。即刻、首を斬り落とすべし。」

 「マリアンヌ殿が如何にずる賢い女か、ハレンチ極まりないか、改めて我はよく分かったぞ。ジョー殿を公衆の面前で恋人呼びしたのは、絶対にわざとだ。世間公認の恋人になろうだとか、新聞に記事にしてもらおうだとか考えてやったに違いあるまい。あのような卑劣極まりない、あくどい攻め方は許せん。我が剣にて直接、成敗してやろう。地獄への手向けにな。」

 「エルザ、お前だって議長決定対抗戦の決勝の時に、観客が見てる前でジョーの頬にキスしたらしいじゃんよ?お前だってヒトのこと悪く言えなくね?けど、アタシらの目の前で、その他大勢のギャラリーの前でジョーを恋人呼びするとか、あのポンコツ王女、マジで舐めた真似してくれたじゃんよ。決めたぜ。あのポンコツ王女はアタシの槍で串刺しにして速攻で地獄に落とす。覚悟してろよ、ポンコツマリアンヌ。」

 「婿殿の婚約者にして正妻たるこの妾を差し置いて、公衆の面前で婿殿を勝手に恋人呼びし、ペアルックのプレゼントまで買わせるとは、随分と舐めた真似をしてくれるではないか、世間知らずで怖いモノ知らずの、愚かな王族の小娘が。リリアの「巫女」でポンコツのクソビッチ王女が、よくもまぁ、婿殿の恋人を名乗ろうなどと思ったものだ。闇の女神の婚約者に手を出せばどういう目に遭うか、一度たっぷりと教え込んでやらねばな。妾直々に闇の力で神罰を下してやろう。恐怖するがいい、愚かなマリアンヌよ。」

 「マリアンヌ、マジで調子に乗り過ぎですわ~。ウチらだけじゃなくて、他の人間も見てる前でジョーちんを彼氏呼びするとか、ウチもゾーイもマジ激おこなんですけど~。ぜってぇー、さっきのアレ、わざとっしょ?絶対、狙って、計算してやってるっしょ。マジであざといわ~。元カレがクソ勇者のクソビッチ王女の癖に、ジョーちんを一度殺そうとした性格クズ女の癖にね~。時間止めてバラバラに斬り刻んでやろっかな~、マジで。過去一レベルでマジでムカついたっしょ。」

 「お、お姉ちゃんたち、すっごく怒っている、なの。マリアンヌお姉ちゃんがパパを怒らせちゃったからなの?」

 「いいえ、メルさん。私たちが怒っているのは、マリアンヌさんがあざとい、からです。」

 「あ、あざとい、って、いけないこと、なの、玉藻お姉ちゃん?」

 「そうです。あざといとは、いけないことなのです。悪い女はみんな、あざといんです。あざとい、とは、ぶりっ子でズルくて、はしたない女の子のこと、なんです。マリアンヌさんはあざといんです。あの人は悪い見本です。絶対に真似をしてはいけません。分かりましたね?」

 「分かりました、なの!マリアンヌお姉ちゃんの真似はしません、なの!」

 「よく言えました。メルさんはとっても偉くて良い子です。流石は丈様の娘です。それにしても全く、本当にマリアンヌさんは、」

 「「「「「「「あざとい。」」」」」」」

 主人公とマリアンヌがデートする姿を見ながら、幼いメルを除き、意見を述べ合う玉藻たちであった。

 

 デート三日目。

 午後1時。

 フラワーコーラル島のとある小さな海水浴場。

 ハプニングで終わったマリアンヌとのデートを終えた僕は、大通りのレストランでおいしい昼食を食べて機嫌を直してから、ゾーイとのデートに臨むことになった。

 海水浴場で一緒に泳ぎたい、というゾーイからの誘いを受け、僕はゾーイとともに、フラワーコーラル島のとある海水浴場を訪れた。

 先に更衣室で着替えを済ませると、水着に着替えた僕はゾーイが来るのを待った。

 15分ほど遅れて、白いバスタオルを体に巻いたゾーイが、少々顔を赤らめながら僕の前へとやって来た。

 「お、お待たせしました、お兄ちゃん!」

 「大して待ってはいないよ、ゾーイ。でも、何でバスタオルを巻いたままなんだ?もしかして、水着が壊れたのか?」

 「い、いえ、その、い、行きます!えいっ!」

 僕が質問した直後、ゾーイが突然、覚悟を決めたかのような表情を浮かべ、勢いよくバスタオルを脱ぎ捨てた。

 次の瞬間、バスタオルの下から水着姿のゾーイが僕の目の前に現れた。

 ゾーイだが、ターコイズグリーン色のホルダーネック・ビキニを着ている。

 トップは紐を首の後ろで結んで固定するタイプで、トップの布地が三角状のデザインで布地自体が大きいのだが、ゾーイ(&スロウ)のKカップはあると言う大きな胸を包み込み、これでもかと最大限強調している。

 身長155cmほどの小柄で細身ながら、超巨乳とも言える、幼さとセクシーさのアンバランスさが入り混じったゾーイのスタイル、体型が引き立っている。

 ゾーイの大きな胸、もとい、大胆な水着姿に驚かされ、つい見入ってしまう僕であった。

 「ど、どうでしょうか、お兄ちゃん?変、じゃないですか、私の水着は?」

 「えっ、あっ、いや、全然変じゃないよ!水着、よく似合っているよ。お兄ちゃん的にはちょっとびっくりはしたけど。ゾーイがビキニを着るとは思わなかったなぁ。でも、凄く似合っているのに、何でバスタオル姿で来たんだ?」

 「そ、それは、その、やっぱり、周りの人たちの視線が気になって。と、特に、お兄ちゃん以外の男の人とかが、です。」

 ゾーイにそう言われ、周りを見ると、ゾーイの水着姿を凝視する他の海水浴に来た人たち、ゾーイの超巨乳のビキニ姿に見惚れている男性たちの視線が僕の目に入った。

 「なるほど。そういうことか。なら、ビキニは止めて、もっと露出の少ない水着を着たらどうだ?すぐそこのお店でも水着を売っているようだし、僕が新しい水着を買ってあげようか?」

 「い、いえ、大丈夫です!やっぱりこの水着を今日は着ます!他にサイズの合う水着もないですし。それに、私にはお兄ちゃんが傍にいてくれるから、全然へっちゃらです!」

 「そ、そうか?まぁ、ナンパしてくるチャラ男どもが寄って来ても、僕がガードするし、心配はいらないからな。これでも一応、S級冒険者でゾーイのお兄ちゃんだからな。」

 「は、はい!よろしくお願いします、お兄ちゃん!」

 『やったね、ゾーイ!ウチらの自慢のKカップにジョーちんの視線釘付けだっしょ!作戦大成功だっしょ!』

 「そうですね、スロウ!ちょっと恥ずかしいですけど、お兄ちゃんに褒めてもらいました!頑張った甲斐がありました!」

 『作戦はまだ始まったばっかりっしょ!作戦を第二フェーズに進めるっしょ!妹権限でとことん甘えまくるんだし!』

 「了解です、スロウ!」

 頭の中で、融合する相棒のゾーイと会話するゾーイであった。

 「・・・ゾーイ、ゾーイ、ボゥーっとしているけど、大丈夫か?具合が悪いなら、ちゃんと言うんだぞ?」

 「はっ!?い、いえ、大丈夫です、お兄ちゃん!ちょっと考え事をしちゃっただけです!それよりも、早く海に入りましょう!」

 「そう?なら、早速一緒に泳ごっか!」

 「あの、お兄ちゃん、その、できれば、私に泳ぎを教えてもらえないでしょうか?私、実は海で泳いだことが一度もないんです!今日、初めて海で泳ぐんです!お願いします、お兄ちゃん!」

 「そうなの!?いや、ずっと体が弱くてベッドでほぼ寝たきりの生活だったんだよな。なら、泳げなくてもしょうがないよな。僕もそんなに泳ぎが得意ってわけじゃあないよ。人並みには泳げる程度ってだけでさ。上手く教えられるかは分からないけど、それでも良いなら?」

 「はい!是非、教えてください、お兄ちゃん!」

 「了解。準備体操をしたら、一緒に海に入って練習しよう。」

 僕とゾーイは海に入る前に、軽く準備体操をして体をほぐした。

 「よし、じゃあ、まずは水に慣れるところから始めよう。お兄ちゃんの手を離すなよ、ゾーイ。」

 僕はそう言うと、左手でゾーイの右手をとって、ゾーイと手を繋いで、一緒に砂浜を歩いて、海へと向かって行く。

 ゾーイと手を繋いだまま、僕はゾーイと一緒に海の中へと入っていく。

 体が半分出るくらいの、足が海底につく浅いところで、僕とゾーイは立ち止まった。

 「それじゃあ、まずは水の中に顔をつけるところからだね。ゆっくり、ゾーイのペースでいいから、全身を水の中に潜らせて、水の中で目を開けれたら合格だ。苦しかったら、すぐに水の中を出て息をするんだ。無理は絶対にしちゃダメだよ。良いね、ゾーイ?」

 「は、はい、お兄ちゃん!」

 緊張するゾーイの手を取りながら、僕はゾーイとゆっくりと海の水の中へと徐々に全身を潜らせていく。

 海の中に潜って5秒ほどして、ゾーイがパっと、水中で両目を開いた。

 僕は笑顔を浮かべながら、右手を振って、ゾーイを見つめ返し、水中で返事をした。

 ゾーイが僕に向かって左手を振って水中で返事をすると、僕とゾーイはすぐに水中から顔を上げた。

 「プハぁー!できた!できました、お兄ちゃん!」

 「うん!ちゃんと水中に顔をつけて、目を開けることができたね!凄いぞ、ゾーイ!最初はみんな怖がるのに、一発目でできるなんて、本当に凄いよ!なら、今の感じで、今度は10秒潜れるか、チャレンジしてみようか?」

 「はい、お兄ちゃん!」

 僕はゾーイと一緒に、水の中に潜る練習をした。

 ゾーイが水の中に顔をつけて潜れるようになると、次に僕はゾーイの両手をとって、バタ足の練習を一緒に始めた。

 「次はバタ足の練習をしよう。僕がしっかり手を握っているから、足を伸ばして、顔だけ上げて、足をこうこうバタバタ動かして、前に進む練習をしてみよう。足をつったりした時は僕にちゃんと言うんだぞ?」

 「はい!よろしくお願いします、お兄ちゃん!」

 それから、僕はゾーイの手を取って、一緒にバタ足の練習を始めた。

 「よ~し、その調子だ!もっと足を強く動かして、足以外の力は抜くんだ!体を水にあずけて浮かせる感覚を掴むんだ!」

 「はい、お兄ちゃん!」

 「よしよし!良くなってきた!そのままバタ足で前に向かって進んで行く感じだ!」

 「アハハハ!楽しいです、お兄ちゃん!」

 僕とゾーイは手を繋ぎながら、一緒に泳ぎの練習をしながら、海を楽しむ。

 バタ足の練習をひとしきり終えると、休憩をとるため、僕とゾーイは一緒に海を出て、砂浜に座って休憩を取り始めた。

 「ふぅ~。お疲れ、ゾーイ。初めて海で泳いでみてどうだった?」

 「はい、とっても楽しいです、お兄ちゃん!海の中はすっごく綺麗です!それに、お兄ちゃんに泳ぎ方を教えてもらえて、すっごく楽しいです!」

 「それは良かった。妹に喜んでもらえたなら、僕も少しはお兄ちゃんらしいことができてる、ってことかな?」

 「もちろんです。お兄ちゃんは私の自慢のお兄ちゃんなんです。お兄ちゃんと一緒に泳げて喜ばない妹は絶対にいません。」

 「ハハハ!そう言われると照れるな、本当!泳ぎの練習もいいけど、海での遊びもやってみないかい?海の家でビーチボールのレンタルをやっているらしいよ。二人でビーチボールで遊んでみないか、ゾーイ?」

 「ビーチボール!私も遊んでみたいです、お兄ちゃん!」

 「決まりだな。じゃあ、一緒にボールを借りに行こっか?チャラ男にナンパされるといけないから、お兄ちゃんと手を繋ごう。」

 「は~い、お兄ちゃん!」

 僕はゾーイと手を繋いで、一緒に海の家まで行き、ビーチボールをレンタルした。

 僕とゾーイは、海辺で一緒にビーチボールを使って、一緒にボール遊びをして楽しむのであった。

 「キャハハハ!お兄ちゃん、もっと高く高く~!」

 「オッケーイ!じゃあ、もっと上に投げるからなー!」

 ゾーイは生まれて初めてのビーチボールを、とても楽しんでいるようで、ゾーイの楽しそうに遊ぶ姿を見て、僕も嬉しくて笑顔になる。

 ビーチボールでひとしきり遊んだ後、砂浜で一緒に冷たいジュースを飲みながら、僕とゾーイは話をする。

 「初めて海で泳いで、遊んで、どうだった、ゾーイ?」

 「すっごい楽しかったです!お兄ちゃんと一緒だから、想像の100倍増しで楽しかったです!」

 「そりゃあ、良かった!なら、また一緒に海で遊ぼう!泳ぎも教えるよ!後1ヶ月くらいはこっちに滞在する予定だし、暇を見つけたら一緒に海を楽しもう、ゾーイ!」

 「はい、ジョーお兄ちゃん!もっともっと、いっぱいいっぱい海での思い出作りをしましょう!兄妹だけの思い出をたっくさん作りましょうね!」

 ゾーイはそう言うと、僕の左肩に自分の頭をチョコンと乗せるのであった。

 「ゾーイは本当に甘えん坊だなぁ~。遊んでばっかりはいられないんだぞ。まぁ、でも、せっかく海に来たんだし、思い出作りもしなきゃもったいないよな。家族サービスも大切だよな。」

 「そうです~。妹への家族サービスも大事なんですよ~、お兄ちゃん。」

 「全く、しょうがないなぁ~、この妹は。」

 僕とゾーイは、一緒に海を見ながら、兄妹の会話を楽しむのであった。

 海水浴場での兄妹水入らずのデートを楽しんだ、僕とゾーイの二人であった。

 そんな僕たち二人の様子を、離れた場所からエルザ、マリアンヌ、鵺、グレイ、イヴ、玉藻、酒吞、メルの八人が監視するように見ていた。

 「アレはただの脂肪の塊だ。そう、ただの脂肪の塊だ。あんな大きな胸は戦いには邪魔になるだけだ。女の価値は胸だけでは決まらんのだ。我は決して負けてはいない。」

 「そうです!女性の価値は、魅力は胸だけではありません!スタイルとか、ファッションとか、マナーだとか、もっと他にもたくさんあります!あんな下品な水着とか、媚びた妹アピールとか、いかにもあざとくて不健全です!」

 「あざとい女代表は少し黙っていて。だけど、ゾーイの水着も胸も下品すぎる。ジョー君とずっと手を繋いでいた上、頭を肩に乗せた。最早、ブラコンの域を越えている。あのブラコンは今すぐ抹殺すべし!」

 「けっ!胸のデカさだけが女の魅力じゃねぇっつの!妹になったからって調子に乗り過ぎだぜ!鵺の姉御の言う通り、今すぐ殴り込みに行こうじゃんよ!ゾーイ、あのブラコン女にきっちりお灸を据えなきゃじゃんよ!」

 「フン!あのブラコン娘が、婿殿の妹だからと妾たちの目の前で好き放題イチャつきおって!あんな牛乳のどこがいいのだ?あんなに大き過ぎては、年を取ったら垂れ下がって困るだけではないか?婿殿も婿殿で、あんな牛乳なんぞに見惚れて、デレデレと鼻を伸ばしおってからに!美の女神にして正妻たるこの妾の、究極の美のスタイルがあるというのに、実にけしからん!あの牛乳ブラコン娘は今すぐ排除だ!」

 「皆さん、少し落ち着いてください!確かに、ゾーイさんの胸もブラコンぶりも過剰で全く良くはありません!ですが、ゾーイさんは義理とは言え、ジョー様の妹という立場にあります!後で軽くお仕置きは必要でしょうが、今お二人の間を邪魔するのは良くありません!ゾーイさんはギリギリ、ルール違反はしておりません!幸い、ジョー様のゾーイさんへの認識は、甘えん坊の妹止まりです!今回のデートでそれがよく分かりました!妹や巨乳といった飛び道具ぐらいではジョー様の心を射止めることはできません!私たちの方が以前、有利であることは変わりありません!下手に手出しするべきではないかと!」

 「ゾーイのブラコンぶりは問題だけどよ、あの程度で落ちる男じゃねえぜ、丈の奴はよ。俺たちよりちょっとばっかし胸が大きいからって、女としての魅力なら俺たちだって負けてねえぜ。ゾーイなんてまだまだおこちゃまだぜ。丈の好みは年上、もっと成熟した女なんだよ。甘えん坊のブラコン妹キャラじゃあ、所詮は妹止まりってわけだ。これからは俺たちも丈の部屋に一緒に寝泊まりするんだぜ。俺たちの方が断然、ヒロインになれる脈ありだと思うぜ、俺はよ。」

 「玉藻、酒吞、二人とも自分が胸が大きいから、年上の女だからと思って油断し過ぎ。ゾーイのブラコンと牛乳が丈君の性癖に悪影響を及ぼさない、とも言いきれない。今回は見逃すにしても、やはりゾーイ、ブラコン妹は要注意。いずれ義理の姉になる者として、あのブラコンにきっちり立場の違いを教えるべし。近〇相姦は断固阻止すべし。」

 「「「「「「「た、確かに。」」」」」」」

 「キン〇ンソウカン、って何なの~?」

 「め、メルちゃんは知らなくていいこと。大人の間だけの秘密のお話。お姉ちゃんたちが話をしていたことは丈君にも絶対に秘密。メルちゃんは良い子だから、秘密を守れるよね?」

 「ん~、分かった、なの。パパにも内緒にします、なの。秘密は守ります、なの。」

 「流石はメルちゃん。それでこそ、丈君の娘。これで秘密は守られた。セーフ。」

 「「「「「「「ほっ。」」」」」」」

 主人公とゾーイがデートする姿を見ながら、幼いメルを除き、意見を述べ合う鵺たちであった。


 デート三日目。

 午後5時。

 フラワーコーラル島のとある小さな海水浴場。

 ゾーイとの兄妹水入らずのデートを終えた僕は、ゾーイと意識を交代したスロウと、海水浴場にて一緒にバーベキューをすることになった。

 海の家でバーベキュー用のコンロや網、炭、トング、マッチ、軍手などのセット一式をレンタルし、バーベキュー用の食材と飲み物を購入すると、僕とスロウは砂浜でバーベキューの準備を始めた。

 と言っても、バーベキューの用意をしているのは基本、僕一人である。

 スロウの奴はバーベキューデートだとか言っているが、絶対にただバーベキューを食べたいだけだと、僕は思った。

 ホタテやアワビ、エビ、カニ、イカ、タコ、アジの干物、トウモロコシ、ピーマン、玉ねぎ、ニンジン、キャベツ、ナスなどの食材を鉄製の網の上に乗せて、火加減や焼き具合を見ながら、僕は黙々と食材を焼いていく。

 「ジョーちん、まだ~?ウチ、めっちゃお腹空いた~。この辺のカニとか、もうよくな~い?」

 「ダメだ。まだ、十分火が通ってない。後3分ぐらい焼いて、身と殻の隙間からグツグツと汁が溢れ出てきたら、ちょうど食べ頃だそうだ。って言うか、スロウ、お前も見てるだけじゃなくて手伝えよ。僕にばっかり調理させるな。バーベキューをしたいって言ったのはお前だろうが。」

 「ええ~、だってウチ食べる専門だもん。料理とか全然できないし、したこともないっしょ。デートなんだし、ジョーちんはウチの彼氏なんだから、ジョーちんが焼いてよ~。」

 「はぁ~。お前、これで僕がバーベキュー未経験だったら、そもそもお前の企画したこのデート、初っ端から破綻してたぞ。エルザにバーベキューのやり方教わっておいて本当に良かった。」

 「む~。デート中に、ウチがいる前で他の女子の名前出すとか失礼だよ、ジョーちん。ウチじゃなかったら、普通の女の子なら激おこで帰っちゃうところだよ、マジ?」

 「いや、自分から誘っておいて、彼氏に準備とか調理とか全部任せっぱなしで、自分は横で手伝わずに食べるだけの彼女の方が絶対、失礼だろ?普通は彼氏の方が先に怒るか、帰るかするところだぞ、きっと?バーベキューデートって、恋人同士で一緒に準備したり、料理したりするのを楽しむものなんじゃないのか?スロウ、お前、本当はデートとか言って、ただバーベキューをたらふく食べたいだけなんだろ?魂胆見え見えだぞ?」

 「ち、違うっしょ!?ウチはウチなりに真面目にデートの内容、考えたんだし!ほ、ほら、夜の海見ながら海辺で、カップルでバーベキューするのってロマンチックな感じがするっしょ?ウチはこれでも超真面目にデートしてるんだし!」

 「はぁ~。なら、せめて焼くのだけは手伝ってくれ。火加減とか味付けとか、下準備とかは僕がするからさ。僕の食べる分を網の上に適当に乗せてくれるだけで良いからさ。」

 「わ、分かったっしょ!乗せればいいんでしょ、乗せれば!」

 スロウはそう言うと、トングを手に持って、魚介類をトングで掴んでドンドンと、無造作に網の上へと置いていく。

 「おい、そんなに一気にたくさん乗せるな。魚介類は食あたりしやすいから、ちゃんと火を通さなきゃいけないんだ。乗せたのを少し戻せ。後、間隔を開けて乗せるんだ。空気の通りが悪くなって、かえって火力が弱くなる。それと、野菜も乗せるように。後半、野菜ばっかりになって辛くなるぞ。」

 「もう、そんなに一辺に言わないでよ、ジョーちん!ウチは初心者なんだから、もっと優しくフォローしてよ!ウチは今、ジョーちんの彼女なんだからね、もう!」

 「はいはい。しょうがないな、まったく。焼き方をちゃんと教えるから、僕の分もちょっとやるから、機嫌を直せ。後でとっておきのデザートも作ってやるから。」

 「とっておきのデザート!?マジ!?やったー!なら、手伝う手伝う~!」

 「本当に食い意地の張った奴だな、お前は。ロマンスより食い気、花より団子か。やっぱり目的は食欲だったか。」

 「もう、細かいことはいいから、一緒に早く焼いて食べるっしょ。焦げたらもったいないんよ。」

 僕とスロウは何だかんだ言いながら、一緒にバーベキューをするのであった。

 だが、結局のところ、僕がほとんど調理をして、僕が焼いた食材のほとんどはスロウの腹の中に入り、僕はほんのちょっとしか食べられなかった。

 「ん~、このカニ美味しい~!バーベキューで食べるカニはマジ最高だっしょ!バーベキューデート、超最高!もぐもぐ・・・」

 「ほとんど一人で、カニを食べやがった。おい、スロウ、僕の分をちょっとやるとは言ったが、せっかく用意したカニを、9割方一人で食べるなんて、お前、僕に対して何か言うことはないか?後、僕の分のアワビが一つも残っていないんだが?僕の取り皿にあったアワビがいつの間にか全部、消えているんだが?僕は一口もアワビを食べた覚えはないんだが?」

 「え、ええっと~、あ、アハハハ!?すみませぬ。許して、ジョーちん?おねが~い?」

 「スロウ、お前なぁー!」

 「ご、ごめんて、ジョーちん!わざとじゃないんよ!ほら、ピーマン、ウチのピーマンをあげる!あっ、ちょっと、焦げてる!ほ、ほら、あ~ん?」

 「あ~ん、じゃないよ!全然ちょっとじゃないだろ!それ、さっき、お前が自分で焼いて焦がして食べなかった奴だろうが!せめて焦げてないのを寄越せ!完全にデートのことを忘れてたな、お前?ったく、スイーツ作るのはやっぱり止めにするか?」

 「ちょっ、本当にごめん、ごめんなさい!だから、とっておきのスイーツを作ってください!この通り!お願いしまする、ジョーちん様!」

 「ゾーイの顔に免じて許してやる。ゾーイだって楽しみにしていてくれたかもしれないしな。ゾーイと融合してなかったら、拳骨を一発お見舞いしていたところだぞ?後でゾーイにちゃんと御礼を言うんだぞ、良いな?」

 「ははぁー!ありがとうございまする、ジョーちん様!」

 ゾーイがその場で正座をして合掌をし、頭を下げて僕に謝るのであった。

 魚介類と野菜を食べ終えると、僕は食後のデザート作りにとりかかった。

 食後のデザートとして、僕は串に刺して焼いた焼きマシュマロと、スキレットの上に乗せて焼いた焼きチョコバナナの二品を作った。

 甘い物が大好物のスロウは、口元からよだれをこぼしながら、目の前に出された焼きマシュマロと焼きチョコバナナを見て、歓喜の声を上げる。

 「ぐじゅる!すっごく良い匂いがするっしょ!も、もう、食べちゃダメ?」

 「どっちも出来上がっているから食べてもらってもOKだ。だけど、僕の分にまで手を付けるなよ?手を付けた途端に没収だからな?」

 「もちのろん、です!いっただきま~す!」

 スロウは僕に許可をもらうと、猛烈な勢いで目の前にある焼きマシュマロと焼きチョコバナナを僕の前で食べ始める。

 僕はスロウに全部食べられないようにと、自分の分をすでに自分の手元へと避難させ、確保している。

 「う~ん、このマシュマロ、中はトロトロ、外はフワフワで、めっちゃ甘~い!何本でも食べれる~!もぐもぐもぐもぐ・・・、チョコバナナ美味ええ~!バターとチョコがバナナにめっちゃ染み込んでて、激甘でウマ~!バーベキューで食べるスイーツ、マジ最高だっしょ!ジョーちん、マジで美味しいよ!ゾーイも滅茶苦茶美味しいって言ってるよ~。いやぁ~、流石はジョーちん、ウチらの自慢の彼氏ですわ~!」

 「別に大したモノは作っていないが、褒めてくれてありがとな。焼きチョコバナナは海の家でもらったレシピのメモ通りに作っただけだしな。まぁ、喜んでもらえてよかったよ。ゾーイも喜んでくれているならよかった。ただ、次僕を誘う時はちゃんとバーベキューができるようになってから誘えよ。結局、僕一人でほとんどやったようなもんだし。費用も僕が全部出したな。次はスロウ、お前が僕にごちそうしろよ?カニとアワビの件、僕は忘れないからな?」

 「ぐっ!?ええっと、うん、また、今度誘う時は、ね!次誘う時は絶対、ウチがちゃんと奢るから、絶対、必ず、本当に!お金もちゃんと貯めて、その内、早めに、ちゃんとお返しするから!ナハハハハハ!?」

 今一信用できないスロウの言葉に、顔を顰める僕であった。

 バーベキューの後片付けを大体終え、デートの終了時間が迫る直前、スロウが僕に話しかけてきた。

 「今日はホントにありがとね、ジョーちん。バーベキュー、すっごく美味しかったし、楽しかったんよ。こんなに楽しかったのはマジで久しぶりだったんよ。また、こんな風に誰かと一緒に外で遊べるなんて、それも男の子とデートできるなんて思ってもいなかったし。ホントにありがとう、ジョーちん。」

 「どういたしまして。まぁ、僕も久しぶりのバーベキューは何だかんだ言って、楽しかったよ。僕もこうして、夜の浜辺で女の子と一緒に海を見ながらバーベキューができるなんて、異世界に来るまでは思ってもいなかった。こっちこそ、ありがとう、スロウ。」

 「やっぱしジョーちんは優しいなぁ~。ジョーちんに出会えて、ウチもゾーイも超幸せだっしょ。ジョーちんに出会えてなかったら、ウチらは二人ぼっちで行く当てもなくさまよっていたか、プララルドたちに巻き込まれてとばっちりを食らって封印されたか、地獄にまた落とされたか、きっと今よりも全然悪いことになってたんよ。だから、ジョーちんにはマジで感謝してるから。いつも何だかんだ言って、ウチらの我が儘聞いてくれるしね。」

 「いつもではないぞ、いつもでは。僕の許せる、常識の範囲内でだ。ゾーイはともかく、スロウ、お前は少しは申し訳ないと思うなら、もう少し遠慮してくれ。今日のバーベキューだって20人前はあったんだぞ。せめて10人前くらいで勘弁してくれ。お前に毎回奢っている僕のお財布事情を少しは考えてくれよな。」

 「いいじゃ~ん、それくらい。ジョーちん、結構お金持ってるんだしさ~。他のみんなにもデートの時、奢ったり、プレゼントしてたりしてたじゃ~ん。ウチだけに言うのは不公平だっしょ。」

 「お前以外はみんな、デートのために自分でお金を出したり、僕にプレゼントをくれたりしたから、お返しとして僕もお金を出したんだよ。お前だけだよ、僕にデート代を全額奢らせたのは。一番お金がかかっているのもな。具体的な金額は失礼になるから敢えて言わないが、普通なら後で、半分でも良いから、すぐにでも返金をお願いしたくなるレベルだ、ぶっちゃけ言うと。」

 「ぐっ!?こ、これからはもう少し、デート以外の時は控えるようにするから。次はウチが奢るからさ、本当に、絶対、きっと。だから、もう許してよ。ね~?」

 「本当に控えてくれよ。頼むぞ、まったく。」

 「アハハハ!?話戻すけど、ウチとゾーイはマジでジョーちんに感謝してる。ウチもゾーイも、デートは生まれて初めてだったんよ。ゾーイはデートどころか、水着を着るのだって初めてだったんよ。ウチもゾーイも、生まれて初めてのデートが上手く行くのか、ジョーちんにちゃんと喜んでもらえるのか、ぶっちゃけマジで不安だった。だから、ジョーちんがそんなウチらのことをちゃんと見てフォローしてくれて、一緒に遊んでくれて、本当に嬉しかった。」

 月明かりに照らされて、後ろ手に手を組んで、ニコっと静かに笑みを浮かべるスロウの、普段の気怠げでおちゃらけた姿とは違う、真面目で穏やかに微笑む姿を見て、思わず少しドキッとしてしまう僕であった。

 「あっ、ジョーちん、今、ウチを見てドキッとしたでしょ?」

 「い、いや、別に!?急にいつになく真面目な顔をされたから、ちょっと驚いただけだよ!」

 「ニヒヒヒっ。ホントかな~?まぁ、そういうことにしてあげてもいいけど~?」

 「誰がお前みたいな大食いグウタラ女子にドキッとするか。僕よりデートスキルを覚えてからそういうセリフは言うんだな。」

 「もう、すぐそういう白けたセリフを言うんだから。そういうところがジョーちんの悪いところだよ。ジョーちんだってウチと大差ない癖に~。」

 「お前よりは経験の数なら勝ってる。見た目は陰キャだからって、僕なりに成長はしてるんだよ。本当に本物の彼女ができて、デートする日が将来やってくるのかは未定だけど。」

 「ぷっ!?努力が無駄にならないと良いね~。何なら、ウチが本当にジョーちんの彼女になってあげよっか?今なら、可愛い妹も一緒に付いて来て、彼女も二倍でお得だよ、マジ?」

 「遠慮させてもらおう。食費が僕の20倍以上かかる大食いの誰かさんなんて御免だね。後、ゾーイは義理でも妹だから。僕の可愛い妹を勝手に巻き込むんじゃない。それに、大事な復讐の旅が一段落するまで僕は恋愛NGだしな。」

 「もう、ウチもゾーイもマジなんだけどな~。でも、そっか、復讐の旅が終わるまで恋愛NGか。ちょっとそれはそれで安心かな~。ふ~ん。ねぇ、ジョーちん、ちょっち耳貸して。」

 「ん、何だよ、急に?」

 「良いから、良いから、耳貸して。大事な、ウチらだけの内緒話だから。」

 僕はスロウに言われて、横を向いて左耳をスロウの顔の方に傾ける。

 スロウも僕の方に体を伸ばし、顔を僕の左耳に近づける。

 「あのね、ウチとゾーイからジョーちんにプレゼントをあげる。ウチとゾーイの時間を、自由をちょっとだけジョーちんにあげる。ウチとゾーイがパワーアップしたら、ウチらはジョーちんと契約して合体してあげる。何があっても、ウチとゾーイはずっと、ずっとジョーちんの傍についていてあげるから。後、ジョーちん、大好き❤」

 スロウはそう言うと、僕の左耳に自分の唇をくっつけて、僕の左耳に軽くキスをした。

 「ちょっ、おまっ、スロウ!?」

 「ニヒヒヒ~!ジョーちん、隙あり~!でも、今言ったことはマジのマジ、約束だかんね~!片付けよろしく~!ニャハハハ!」

 驚いてスロウから離れ、赤くなった左耳を押さえる僕に、スロウはいたずらっ子のような笑みを浮かべながら、イタズラ大成功と言った感じで、バーベキュー用品の片付けを僕に押し付けて、砂浜を走って立ち去っていく。

 「あ、アイツ!?片付け全部、僕に押し付けていきやがった!何が隙ありだ、ったく?これ全部、僕で片づけなきゃいけないのかよ?ちょっとぐらい持ってくれてもいいだろうに。本当に手のかかる奴だな。しょうがない、さっさと片づけるか。はぁ~。」

 僕は片付けを押し付けて走り去っていったスロウへの文句を言いながらも、一人バーベキューの後片付けを黙々とするのであった。

 「やったしょ!ジョーちんにキスしたんよ!告白もしたんよ!成功はしてないけど、成功したんよ!」

 『す、すごいです、スロウ!お兄ちゃんにキス、いいなぁー!流石はスロウ、あの状況から最後に一気に大逆転ですね!で、でも、他の皆さんはきっとカンカンですよ?どうするんですか?』

 「決まってるっしょ!今夜は一緒に全力で逃げまくるんよ!とにかく、イヴ様たちに殺されないよう、朝まで逃げ切るよ、ゾーイ?フォロー、よろしくね?」

 『ヒェー!?や、やっぱり!?もう、スロウの馬鹿!やり過ぎですよ!』

 「ニヒヒヒっ!終わったことはしょうがないっしょ!ほら、一緒に逃げるよ、ゾーイ!ニハハハ!」

 最後にはスロウからの思わぬサプライズがありながらも、海の浜辺で一緒にバーベキューデートを楽しんだ、主人公とスロウの二人であった。

 そんな主人公たち二人の様子を、離れた場所から玉藻、イヴ、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、マリアンヌ、メルの八人が監視するように見ていた。

 正確には、メル以外の七人は大変な怒りの形相であった。

 「今すぐ、スロウさんを暗殺、いえ、お仕置きです!北西方向に気配を感じます!急ぎ追いかけて、始末、いえ、お仕置きです!私の毒をあの中身のない頭にたっぷり注入してやらねば!行きますよ、皆さん!」

 「あの生意気で下品で阿保の堕天使は北西方向に向かって、市街地に向かって逃走中だ!妾と一緒に付いてこい、皆の者!一瞬で追いついて、その場で宇宙の塵に変えてくれる!おのれぇ、阿保で下品な堕天使の分際で、妾の目の前で婿殿の耳にキスするとは、絶対に許さんぞ!」

 「あの阿保が調子に乗りやがって!俺たちの目の前で丈にキスするとは、ふざけやがって!今すぐあの脳味噌空っぽの頭を木っ端微塵に俺の拳でぶっ潰してやるぜ!」

 「私たちの目の前で、私たちの可愛いジョー君の柔らくて可愛いあの耳に勝手にキスした!最早、有罪、ギルティ、万死に値する!今すぐあのお頭空っぽクソビッチ堕天使をバラバラに斬り刻んで抹殺すべし!遺体は当然、粗大ゴミとして焼却処分する!」

 「我らの目の前でジョー殿にキスするとは、抜け駆け禁止の協定を自ら破った罪、絶対に許すわけにはいかん!我が剣にて今すぐ成敗してくれる!皆で四方から囲い込み、追い込んで確実に仕留めるのだ!ハレンチ極まりない堕天使は公然わいせつ罪で今すぐ処刑せねばな!」

 「スロウ、あの頭空っぽの阿保のお下劣女が、アタシらの目の前でジョーにキスしてトンズラしようとは、舐めた真似してくれたじゃんよ!速攻で追いついて、アタシの槍で串刺しにして地獄に落としてやるぜ!ついでにブラコン女も冥土に送ってやるんじゃんよ!」

 「こうも嫌な予感が当たるとは!?まったく、スロウさんこそ、よっぽどあざといではありませんか?とにかく、今はスロウさんとゾーイさんを確実に仕留めることが最優先です!わざと泳がせて、散々逃げ回らせたところを、食べ物で釣って一気に仕留めるのはいかがでしょうか?あちらもこちらの動きをある程度予測しているはずです!食べ物に眠り薬を仕込んで、眠り込んだところを一気に捕縛して仕留めるのはいかがでしょうか?」

 「マリアンヌさんの作戦も悪くはありませんね!できる手は全て打つことに越したことはないでしょう!スロウさんを確実に捕まえ、暗殺、いえ、お仕置きするのです!一致団結して裏切り者をお仕置きするため、頑張りましょう、皆さん!」

 「「「「「「「オー!」」」」」」」

 「お、お姉ちゃんたち、こ、怖い、なの!?め、メルはパパのところに行ってます、なの!」

 鬼のような形相で怒る玉藻たちを見て、主人公の下へと怖くなって避難する幼いメルと、スロウ(&ゾーイ)を捕まえて制裁を下すべく、鬼の形相で逃げるスロウの後を追う玉藻たち七人であった。

 夜を徹した、フラワーコーラル島中を駆け巡る、ヒロインたち総出の、逃亡中のスロウ(&ゾーイ)を追う、逃亡劇件追跡劇が、何も知らない主人公こと宮古野 丈の預かり知らぬところで行われていた。

 スロウ(&ゾーイ)が最終的に他のヒロインたちに捕まったのか、無事逃げ切ったのか、ヒロインたちからお仕置きされたのか、真相は夜の闇の中である。

 こうして、三日間に及ぶ、主人公こと宮古野 丈と、ヒロインこと玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、マリアンヌ、ゾーイ、スロウたちによる、サーファイ連邦国フラワーコーラル島でのデートは、思わぬハプニングやドキドキ、サプライズもありながらも、賑やかに終わりを告げるのであった。

 主人公に恋するヒロインたちの思いが主人公に届いたのか、ヒロインたちの恋が今後どういった展開を見せるのか、主人公とヒロインたちの異世界での恋物語は、その行き着く先は誰にも分からない。




















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