第十六話 【処刑サイド:光の女神リリア】光の女神リリア、ユグドラシル襲撃事件を知り絶句する、そして、「黒の勇者」を利用することを思いつく

 主人公が「大魔導士」姫城たち一行を倒し、「ユグドラシル襲撃事件」を解決してから四日後のこと。

 インゴット国王の下に、「ユグドラシル襲撃事件」のニュースと、世界各国からの多額の損害賠償金の請求が伝えられ、インゴット王国の財政破綻が確実なものとなったその日。

 様々な世界の神々が住まう、雲の上の楽園のような場所、神界。

 その神界の一角にある白いギリシャ神話風の神殿の建物に、光の女神リリアが、静かに目を閉じ、自身が管轄する異世界アダマスの様子をそっと観察していた。

 先日自身が選んだ勇者たちがインゴッド王国の王都を壊滅させ、犯罪者となってしまったことを知った彼女は、これ以上自身の管轄する世界で問題が起こっていないか気になり、久しぶりに下界の様子を観察していたが、元「大魔導士」姫城たち一行が「ユグドラシル襲撃事件」を起こしたと知って、両目を見開き、その場で絶句した。

 異世界アダマスの存続に欠かせない「世界樹」ユグドラシルを勇者たちが枯らそうとしたことを知った彼女は、青い瞳を血走らせ、激高した。

 「あの出来損ないの勇者たちめ!よくも、よくも私が管轄する美しい世界を傷つけるような真似をしてくれましたね!「世界樹」があの世界の大気を浄化し、地上に存在する全ての生命に新鮮な大気を供給していることは、幼い子供だって知っていることです!あの「世界樹」が世界の存続に大きな役割を果たしていることは周知の事実です!私もあの「世界樹」にダンジョンを作りはしましたが、なるべく「世界樹」の負担にならないよう配慮をして、それから見守ってきました。あの美しい「世界樹」を枯らそうなど、何という残酷なことをするのでしょう。ああっ、あの美しい「世界樹」が枯れ葉だらけです。もう見ていられません。もうこれ以上黙って見ているわけにはいきません。こうなったら、至急、あの出来損ないの勇者たちを始末しなければいけません!」

 女神リリアは両目を閉じ、考えた。

 そして、とある一計を思いついた。

 女神リリアはニヤリと笑みを浮かべた。

 「良いことを思いつきました。例の「黒の勇者」に、あの出来損ないの勇者たちを始末させるのです。「黒の勇者」は自分の処刑に加担したあの勇者たちを恨んでいるはずです。今回、ユグドラシルを襲撃した「大魔導士」たちをあの少年が始末したと聞いています。「世界樹」ユグドラシルを守り、悪に堕ちた勇者たちを倒したあの少年の行動は正しく勇者の行動そのものです。私の加護を受けていないという点が少し気に入りませんが、勇者としての素質は十分です。すでに、私の信徒たちのほとんどが、彼を本物の勇者と認識している様子です。後は「黒の勇者」を私の支配下に改めて置き、勇者たちを始末させればいいだけのこと。マリアンヌが今、「黒の勇者」を追ってペトウッド共和国に向かっているようです。「黒の勇者」もおそらくまだ、ペトウッド共和国にいるはずです。マリアンヌに「黒の勇者」こそ、私が選んだ真の勇者であり、「黒の勇者」とともに世界中に散らばった勇者たちを始末するよう、神託を授けることにしましょう。あの娘は私に従順ですから、文句ひとつ言わず、聞き入れることでしょう。マリアンヌを「黒の勇者」と接触させ、私からの神託を伝えさせるのです。「黒の勇者」も、女神であるこの私が真の勇者のお墨付きを与えたと知れば、きっと喜ぶに違いありません。まさか、一番期待していなかったハズレの異世界人が、こうも大化けするとは予想外です。得体のしれない力を持っているようですが、それでも勇者として十分な利用価値があります。上手くいけば、「黒の勇者」を使って魔族殲滅も成功するかもしれません。当初の計画とは大分予定が変わりましたが、結果オーライというヤツですね。ようやく私の計画を軌道修正することが叶いそうです。フフフ、私は何という強運に恵まれていることでしょう。女神であるこの私に叶わぬ願いなどはないのです。」

 光の女神リリアは、「黒の勇者」を新たな勇者として自身の陣営に加え、邪魔となった勇者たちを「黒の勇者」に始末させる計画を思いついた。

 それから、「黒の勇者」を利用して、魔族を殲滅することを企むのであった。

 だが、光の女神リリアは知らなかった。

 「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈が、勇者たちやインゴット王国国王たち同様、あるいは彼ら以上に、自身のことを憎み、復讐することを決意していることに。

 殺害を考えるほど、怒りと憎しみを自身に向けているという事実に。

 女神リリアの計画が叶うことは決してないのだ。

 光の女神リリアの計画は全て「黒の勇者」のせいで壊されていっていることに、リリア自身はいまだ気が付いてはいなかったのだった。















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