第七話 【処刑サイド:勇者たち】勇者たち、全員の間に不協和音が鳴る、そして、分裂が始まる

 国王から「光の迷宮」の崩壊と聖剣の紛失というショッキングな事実を聞かされた勇者たちは、国王や姫が部屋を退室した後も、皆部屋に残ってそれぞれ考えを巡らせていた。

 「勇者」の覚醒に欠かせず、対魔族及び対魔王への切り札的存在である聖剣の紛失が、今後異世界で魔族たちと戦うことになる勇者たちにとって、戦力の大幅ダウンにつながることは明白であった。

 誰もが、今後の異世界での生活に不安をおぼえ、どうしたらよいものかと考えていた。

 重苦しい空気が勇者たちを包んでいた。

 そんな中「剣聖」にして「火の勇者」、前田 敦が口を開いた。

 「なぁ、みんな、聖剣が失くなったってことはよう、「勇者」が覚醒することはもうねえってわけじゃん。だったらよ、勇輝の代わりに新しく誰かが勇者筆頭になるべきなんじゃねえかと俺は思うぜ?」

 突然の前田の提案に、現勇者筆頭で、「勇者」にして「光の勇者」、島津 勇輝が前田の顔を睨みながら言った。

 「何を言っているんだ、敦?僕の持つ「勇者」のジョブとスキルが無ければ魔王は倒せないんだぞ。例え聖剣が今は無くても、その内聖剣に代わる代案も見つかるはずだ。「勇者」である僕がこれまで通り勇者筆頭としてみんなをまとめていく。それに何の問題があるんだ?」

 前田は島津に笑いながら答えた。

 「そう怖い顔すんなよ、勇輝。別に今のままでも俺は問題ないとも思っているぜ。でもよ、万が一、聖剣の代わりもない、となったとするとだ、お前が「勇者」のジョブとスキルを持っていても、「勇者」として覚醒できず、他の「七色の勇者」と大きなレベル差って奴が出ることにもなりかねないぜ。勇者筆頭を名乗るなら、確実に今後一番強くなる奴がやっといた方がいいとは思わねえか?勇者として一番強い奴が先頭に立って他の勇者を引っ張る、それが勇者筆頭だろ?ならよ、「勇者」以上に剣が上手い「剣聖」の俺が勇者筆頭になって、みんなを引っ張るのが良くねえかと思うぜ?今後の戦いやらを考えるとよ?」

 前田は、自分が島津に代わって勇者筆頭になると言い出した。

 前田の言葉を聞いて、勇者たちの間に動揺が走った。

 「ちょっと待ちなさい。前田君の言うことも一理あるけど、勇者筆頭を今すぐに替える必要があるかしら?それに、仮に勇者筆頭を替える場合、前田君、あなただけが新しい勇者筆頭になる資格を持っているわけじゃあないわ。私を含む他の5人の「七色の勇者」に選ばれた人たちにも当然資格があるわ。勇者筆頭に誰がふさわしいのか、それについては国王や姫、他の勇者たちの意見も踏まえて決めるべきよ。」

 前田の言葉にそう異議を唱えたのは、「弓聖」にして「風の勇者」、鷹尾 涼風だった。

 鷹尾の異議に、前田は思わず「ちっ。」と舌打ちをした。

 「確かに涼ちんの言う通りじゃねえ~?ウチも一応「七色の勇者」だし、「七色の勇者」の中で攻撃魔法使えるのはウチの「大魔導士」だけだし、ウチだって勇者筆頭になる資格あるじゃんよ~。選ぶなら公平にするべきじゃなくね?」

 そう言ったのは、「大魔導士」にして「木の勇者」、姫城 麗華であった。

 「グフフフ、誰が本当の勇者筆頭かなど愚問なり。天下無双の槍を持つ我が輩こそ、真の勇者筆頭でござる。我が輩に秘められし真の力が覚醒せしその時こそ、我が輩の天下なり!」

 空気を読まずに自分勝手な妄想を公言し、その妄想に浸っているのは、「槍聖」にして「水の勇者」、沖水 流太であった。

 勇者たちの中で、沖水の妄言をまともに聞く者はさすがにいなかった。

 「俺が勇者筆頭とか難しそうだなぁ~。俺は別にならなくてもいいなぁ~。」

 勇者筆頭になることに消極的な発言をしたのは、「槌聖」にして「雷の勇者」、山田 剛太郎であった。

 「み、みんな、とにかく落ち着こうよ。私は島津君が勇者筆頭でもいいと思うよ。国王様が聖剣の代わりを見つけてくれるって言ってくれているし、みんなの中で一番リーダーシップがあるのは島津君だと思う。「勇者」の島津君がいるんだから、勇者筆頭は誰が良いとか、替えるとか、それで揉めるのは良くないと思う。今まで通り、クラスのみんなで仲良くやろう、ね?」

 みんなを諫めようとするのは、「聖女」にして「土の勇者」、花繰 優美であった。

 勇者たちの中に、特に「七色の勇者」たちに、勇者筆頭を巡る問題で不協和音が鳴っていた。

 聖剣が失われ、「勇者」が覚醒しない可能性が浮上した今、「七色の勇者」たちの心は大きく揺れていた。

 言葉や態度には表さずとも、いつ、どこで、誰が勇者筆頭の座を狙いに来てもおかしくない状況だった。

 勇者たちの間に、互いへの不信感が募っていった。

 結局、勇者筆頭は「勇者」である島津が引き続き務めることで話し合いは終わった。

 話し合いが終わると、勇者たちは皆、王城の自分の部屋へと戻った。

 だが、勇者筆頭の座を奪うため、行動を開始した者がいた。

 「へへっ、悪いが勇輝、テメエの下につくのはもう終わりだ。役立たずのテメエに代わって、「剣聖」であるこの俺が勇者筆頭になってやるぜ。ついでに姫様も俺がもらうぜ。待ってろよ、俺の勇者筆頭。」

 「剣聖」の前田は、そう裏切りの言葉を呟いた。

 勇者たちの分裂が始まった瞬間であった。

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