第八話 【主人公サイド:インゴット王国冒険者ギルド北支部】ブロン、ダンジョン崩壊の知らせに驚く、そして、嫌な予感が的中した

 主人公、宮古野 丈が「光の迷宮」を攻略し、聖剣を破壊した日から二日後の朝。

 インゴット王国冒険者ギルド北支部のギルドマスター、ブロン・ズドーは早朝にも関わらず、他のギルド職員の誰よりも早くギルドに出勤した。

 ブロンがギルドに朝いちばんに出勤するのは日課であった。

 彼が執務室で書類に目を通していると、机の上に置いてある外部との連絡通信用の水晶玉が光った。

 早朝にブロン宛てに連絡をよこす者は限られている。

 ブロンは水晶玉に手をかざすと、それから水晶玉に向かって話しかけた。

 「もしもし、こちらインゴット王国冒険者ギルド北支部ギルドマスター、ブロン・ズドーだ。」

 「ああっ、ブロン、良かった!僕だよ、スミスだ。大変だよ、ブロン。緊急事態発生だ。」

 連絡してきたのは、彼の腹心の部下で、副ギルドマスターにして情報収集のエキスパート、スミス・シャドーであった。

 スミスが緊急事態という言葉を使う時、それはギルドまたは国の一大事が起こった時ぐらいである。

 ブロンは何か嫌な予感がしたが、とにかくスミスに訊ねた。

 「スミス、緊急事態とは何だ?落ち着いて説明してくれ。」

 スミスは深呼吸すると、詳細について話し始めた。

 「ブロン、よく聞いてくれ。実はあの「光の迷宮」が崩壊したんだ。」

 スミスの言葉に、ブロンは衝撃を受け、驚きのあまり座っていた椅子からひっくり返った。

 思わず後頭部を打ったブロンは、頭をさすりながら、スミスに訊ねた。

 「あっ痛たたっ。ひ、「光の迷宮」が崩壊しただと!?一体なぜだ?原因は分かっているのか?」

 「いや、「光の迷宮」が崩壊した原因についてはまだ分からない。僕も先ほど現場に居合わせたばかりなもんでね。だけど、今、「光の迷宮」の前は騎士たちが集まって大騒ぎしているよ。「光の迷宮」だけど、完全にがれきの山へと変わってしまっているよ。それに、「光の迷宮」には七つの聖武器の一つ、それも「勇者」の覚醒に不可欠な聖剣があったはずだろ。聖剣が「光の迷宮」の崩壊で壊れたかもとか、失われたかもしれないと言って、騎士たちは大騒ぎしているよ。国は近々聖剣の捜索隊を組んで派遣してくるみたいだよ。とにかく、国、そして、世界の一大事なのは確かだ。だけど、問題はそれだけじゃあない。」

 「何だ?まだ他に問題が起こったのか、スミス?」

 「ああっ、その通りさ、ブロン。君も決して無関係じゃないよ。僕は君に命じられて、ジョー君を監視していたんだけど、二日前、彼、「光の迷宮」の近くに現れるバジリスクの討伐依頼に向かっただろ。早速彼の後を尾行したんだけど、彼、突然お仲間と一緒に空を飛んで移動し始めたんだ。気付かれないよう、双眼鏡越しに見ていたけど、この世界で空を飛べる人間なんてほんの一握りのはずだよ。とにかく驚いたよ。しかも飛ぶの滅茶苦茶早くってさ。あっという間に見えなくなっちゃてさ。彼の行き先は分かっていたから、「光の迷宮」まで大急ぎで馬車を捕まえて移動したよ。それで今さっき、やっと「光の迷宮」の近くまで着いてジョー君たちの姿を探すけど、どこにも姿が見えなくてさ。それで、「光の迷宮」の近くの森の中をブラブラ歩いていると、今回の大事件にぶつかったわけさ。」

 スミスは一拍置くと、話を続けた。

 「おそらくもうジョー君たちは依頼を終えてそちらに帰っているんだろ?ここからが肝心だけど、ジョー君たちが「光の迷宮」の近くの依頼を達成した日の後に、「光の迷宮」は崩壊しているんだ。依頼を達成してからギルドに戻るまでの彼らの詳細な足取りを知る者はほとんどいない。これは僕の推測だけど、先日僕が君に話した、ジョー君が実は異世界から勇者として召喚され国によって処刑されたもう一人の人物で、処刑された恨みから「光の迷宮」を破壊したとしたら、「聖剣」を奪ったとしたら、彼は世界中からテロリストとして指名手配されるかもしれない。「光の迷宮」を破壊できる人間がいるとしたら、彼ら以外に考えられないだろう、ブロン?」

 スミスの推測を聞いて、ブロンは顔を青ざめた。

 「そ、そんな、ジョー君が「光の迷宮」を破壊した犯人だって!?スミス、滅多なことを言うもんじゃない。もし、仮にそれが事実だとしたら、ジョー君と国王たちを仲直りさせるなんて絶対に無理だぞ。テロリストをS級冒険者に認定したことがばれてみろ、私もこのギルドも一巻の終わりだ。ああっ、どうしてこういつも私の嫌な予感は的中するんだ!?スミス、お前は引き続き「光の迷宮」を監視しろ。もし、ジョー君たちが「光の迷宮」を破壊した犯人だという証拠が見つかった時は全力で揉み消せ、良いな?」

 「了解だよ、ブロン。証拠が出た時は必ず揉み消すよ。だけど、「光の迷宮」が崩壊して、聖剣が失われたとしても、そんなに問題ないんじゃない?例え聖剣があっても、あの弱っちい勇者たちじゃ宝の持ち腐れだと思うし、アイツらじゃ魔王討伐だって絶対できないと思うけど、僕は。」

 「おしゃべりはいいから、とっとと任務に当たれ。」

 「はいはい、分かりましたよ。」

 スミスとの通信が終わると、ブロンはどっとと疲れた気がして、椅子にもたれかかった。

 「まだジョー君たちの仕業と決まったわけじゃない。変に疑うのは良くない。だがしかし、犯人かもしれないと言われると、そう思えるというか、本当にできそうなんだよな、あのパーティーは。こうなったら、腹を割って話をするしかない。彼らの真意を確かめた上で、どうするか判断するとしよう。」

 ブロンの嫌な予感は見事的中し、彼は大きな悩みをまた一つ抱えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る