第九話 【処刑サイド:光の女神リリア】光の女神、国王たちと勇者たちの失態に怒る、そして、頭を悩ます

 勇者たちの遠征が失敗し、勇者たちの歓迎パレードも失敗し、おまけに国王から勇者たちに「光の迷宮」の崩壊と聖剣の紛失という最悪の知らせが届けられたその日のこと。

 様々な世界の神々が住まう、雲の上の楽園のような場所、神界。

 その神界の一角にある白いギリシャ神話風の神殿の建物に、光の女神リリアが、静かに目を閉じ、自身が管轄する異世界アダマスの様子をそっと観察していた。

 勇者たちの成長ぶりが気になった彼女は、久しぶりに下界の様子を観察していたが、国王たちと勇者たちのまさかの失態と醜態ぶりにひどく怒った。

 「勇者たちもインゴット王国の国王たちも一体何をやっているのです!?たかだかLv.20程度でS級冒険者になろうなど、無知を通り越して恥もいいところです。すでに達成された依頼を受け、モンスターを一匹も討伐することなく、王命を盾に道中遊び惚けるなど、それでも本当に勇者なのですか?依頼など無くとも、旅の途中に野良のモンスターを一匹でも狩れば良いものを、それさえせず、ただ食って遊んで寝るだけしかしないとは、呆れて物も言えません。今回の勇者たちは全員どうやら相当頭の弱い方ばかりのようみたいです。私が質より量をとったなどと民に誤解されかねません。」

 女神は大変興奮していた。

 一杯水を飲むと、また話し始めた。

 「インゴット王国の国王たちも馬鹿なのですか!?勇者たちに国民から何でも略奪しても良いなどという馬鹿な王命を出して、勇者たちを堕落させ、民からの信頼まで失わせるとは、正に愚行の極みです。いくら勇者と言えど、あのような盗賊紛いのおぞましい行為をさせれば、勇者たちが民から嫌われることがどうして分からないのですか?勇者たちの歓迎パレードに国民が参加しないのは当然です。勇者たちを甘やかし、まともな指導もできないとは、何と情けない。もっと最悪なのは、「光の迷宮」が崩壊し、聖剣を失ったことです。「光の迷宮」はきちんと管理し、聖剣は大事に扱うようずっと言ってきたはずです。それなのに、「光の迷宮」を壊し、聖剣を失うとは、何たる大失態でしょうか?「光の迷宮」は災害程度ではびくともしないはずです。となると、何者かがあのダンジョンを攻略し、聖剣を破壊して、ダンジョンを崩壊させたと考えるべきでしょう。しかし、それほどの力を持った者は現在、あの世界にはいないはずです。まさか、あの者の封印が解けたのでは?ですが、見たところ、封印が解けた様子には見えませんね。あの者が活動を始めればすぐに分かるはずです。分かりません。実に不可解です。」

 光の女神リリアは頭を抱え込んだ。

 「聖剣の経年劣化による破損の影響も捨てきれません。とにかく、勇者たちも国王たちも今回の失態は相当堪えた様子です。少しは彼らもお尻に火が付いたことでしょう。ですが、もし、また今回のような失態を犯すようであれば、その時は私が神託を新たに授け、彼らに喝を入れるとともに、正しい方向へ導くとしましょう。聖剣を失ってしまったのは大きな痛手です。悔しいことに、あれは私では作れませんからね。聖剣の代わりをどうするかについては私の方でも考えておくとしましょう。やれやれ、本当に手のかかることです。あんなので本当に魔族たちを殲滅することができるのでしょうか?私も少し不安になってきました。今回の私の計画は完璧だと思っていましたが、そう簡単にはいかないようです。まぁ、ひとまず今は様子を見るとしましょう。」

 女神リリアは少し疲れた表情を浮かべたが、すぐに一人瞑想を始めた。

 女神リリアは気が付かなかった。

 自身が以前計画の人柱と呼んで見捨てた主人公、宮古野 丈が、自身への復讐心から「光の迷宮」と聖剣を破壊した事実に。

 そして、勇者たちや国王たちが、自身が懸念していたとおりさらなる失態や醜態を重ねることになること、主人公によって自身の思い描く計画がさらに崩れることになることを、女神リリアは知らないでいた。




















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