【中間選考突破!!】異世界が嫌いな俺が異世界をブチ壊す ~ジョブもスキルもありませんが、最強の妖怪たちが憑いているので全く問題ありません~
第一話 主人公、ラトナ公国へ降り立つ、そして、女大公と出会う
第三章 火の迷宮編
第一話 主人公、ラトナ公国へ降り立つ、そして、女大公と出会う
インゴット王国北部のノーザンの町から馬車で街道を南西方向に約2週間から20日間ほどかけて進むと、「火の迷宮」があるラトナ公国があった。
ラトナ公国はインゴット王国のほぼ南西に位置する小国で、元はインゴット王国の一部だったが、約1,000年前にインゴット王国から独立して誕生した国家だと聞いている。
魔道具の研究開発や高い製鉄技術を用いた金属製品の開発など、世界トップの技術力を持っていると聞く。
錬金術師や鍛冶師、魔術士のジョブを持つ者が多いとも聞いている。
僕たちは途中休憩を挟みながら、ノーザンの町を出発してから約三日をかけて空を移動し、ラトナ公国へと到着した。
鵺のおかげで空を高速で移動できるため、僕たちは超短期間でラトナ公国に着くことができた。
ラトナ公国の首都の傍の森の中に着陸すると、森を出て、しばらく街道を歩いて進んだ。
街道を歩いて進むと、高い外壁に囲まれた大きな町が見えてきた。
この大きな町こそラトナ公国の首都である。
僕たちは他の通行人同様、門をくぐって町の中へと入った。
町の中を見ると、インゴット王国とは異なる街並みが見えてきた。
まず、町の中を走っている馬車の馬が、生きた本物の馬ではなく、金属でできた人形であった。
魔石という石を核に、その魔石が含む魔力というエネルギーで動く人造の機械人形、人造ゴーレムという魔道具の一種である。
金属の馬が、町のいたるところで馬車を引いていた。
さすが、世界一の技術力を持つ国と言われるだけのことではある。
さらに、町の建物を見ると、どの建物も鉄筋コンクリート造りの建物であった。小さな商店も、7階から8階建てのビルにも、鉄やコンクリートがふんだんに使われている。
建築技術のレベルも高いようで、元いた世界の日本とあまり変わらない印象を受ける。
インゴット王国では、木製の建物がほとんどで、7階以上のビルなども建ってはいなかった。
ラトナ公国の建物を見ていると異世界感らしさが抜けて、それになつかしさもあって、少し落ち着く感じがする。
ラトナ公国は小国のため、冒険者ギルドは首都にある本部一つだけと聞いている。
僕は通行人に道を訊ねた。
「すみません。ちょっとうかがいますが、ラトナ公国冒険者ギルド本部はどちらでしょうか?」
「ああっ、冒険者ギルドなら、この道をまっすぐ行って、それから突き当りの角を右に曲がってしばらく進むと、三階建ての白い大きな建物が右手に見えるよ。それが冒険者ギルドだよ。看板も出ているからすぐ分かると思うよ。」
「お急ぎのところすみません。ありがとうございます。」
僕は通行人に御礼を言うと、通行人に言われたとおりに道を進んだ。
すると、「ラトナ公国冒険者ギルド本部」と書かれた大きな三階建ての白い壁の建物が見えた。
外見はインゴット王国冒険者ギルド北支部とよく似ているが、やはり全体は鉄筋コンクリート造りで、入り口の扉は鉄製の引き戸であった。
僕はギルドの扉を開け、仲間たちとともにギルドの中へと入った。
ギルドに入ると、僕たちは受付カウンターへと向かった。
受付嬢が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。ラトナ公国冒険者ギルド本部へようこそ。お客様は初めてお見掛けいたしますが、本日は当ギルドにどういった御用事でしょうか?依頼の受注、依頼の斡旋、それとも、冒険者登録でしょうか?」
「ええっと、僕たちはインゴット王国冒険者ギルド北支部から来た冒険者です。ギルドの宿泊所を利用したいのですが、よろしいでしょうか?宿泊期間は2泊3日、三食食事付きでお願いします。」
「かしこまりました。宿泊のご利用ですね。恐れ入りますが、皆様のギルドカードをご提示いただけますか?」
「分かりました。」
僕たち四人はそれぞれ自分のギルドカードを取り出し、受付嬢へと渡した。
「拝見いたします。ええっと、ランクがSランク、パーティーネームは「アウトサイダーズ」、って、ええっ、皆さん、噂のあの「アウトサイダーズ」の方々なんですか!?」
僕たちのギルドカードを見て、受付嬢が驚き、大きな声を上げながら言った。
受付嬢の大声が聞こえて、周りにいた冒険者たちや、他のギルド職員たちが僕たちの方を一斉に見てきた。
「お、おい、今、アイツら「アウトサイダーズ」って言わなかったか?」
「「アウトサイダーズ」って言えば、確か隣のインゴット王国で大活躍しているSランクパーティーじゃあねえか?」
「「アウトサイダーズ」のリーダーってのは、Sランクモンスターのソロ討伐をやり遂げた「黒の勇者」様だろ?あの黒い服の少年がそうじゃないのか?」
「「アウトサイダーズ」なんて大物がどうしてこのギルドに、この国に来たんだ?」
周りにいた冒険者たちや他のギルド職員たちが僕たちを見ながら口々に話をする。
僕たちはそんな周囲の反応を気にせず、手続きを進める。
「僕たちは確かにSランクパーティー「アウトサイダーズ」です。僕がパーティーのリーダーを務める宮古野 丈です。僕のことはどうぞ気軽にジョーと呼んでください。僕たちはこの国へは観光に来ました。すみませんが、チェックインの手続きをお願いします。」
受付嬢はハッと正気に戻ると、また手続きを始めた。
「コホン。取り乱してしまい、申し訳ございません。では、2泊3日、三食食事付きでチェックインの手続きをさせていただきます。お部屋はお一人一部屋づつでおとりしますか?」
「いえ、四人部屋があれば四人部屋を一つお願いします。」
「かしこまりました。では、四人部屋を一部屋おとりいたします。こちらがお部屋の鍵になります。失くさないようにお願いいたします。宿泊料金の精算はこちらの受付カウンターでお願いします。ようこそ、ラトナ公国へ、「アウトサイダーズ」の皆さん。ぜひ、観光をお楽しみください。それと、もし良かったら、空いている時間に何か依頼を受けていただけると助かります。私どものギルドにもSランクやAランクで溜まっている依頼があるものでして。良ければ引き受けていただけますでしょうか?」
「ええっと、そうですね、観光が終わって時間が余った時はお引き受けしましょう。急ぐ旅でもありませんので。」
「そうですか。ありがとうございます。その時はよろしくお願いします。では、観光をお楽しみください。」
チェックインの手続きを済ませ、受付嬢から泊まる部屋の鍵を受け取ると、僕たちはギルドの二階の宿泊所の自分たちが泊まる部屋へ向かおうとした。
その時だった。
ギルドの扉を思いっきり開け、一人の人物が中へと入ってきた。
その人物は、赤い羽根の付いた赤いつば広帽子を頭に被り、左目にはモノクルをかけ、中世ヨーロッパの伯爵が着るような赤い男物のジャケットに赤いズボン、赤いベスト、白いシャツを着て、手には白い手袋、足には赤い革のブーツを履いた、身長180cmくらいの、朱色の長いウェーブのかかった髪、朱色の瞳を持つ30代前半くらいの、男装姿の女性だった。
なぜ、男装と分かったのか?
それは、その人物がギルドに入って来るなり、ギルドにいた人たちが驚いた顔で口々に言ったからだ。
「おい、クリスティーナ大公殿下だぞ。一体ギルドに何の用だ?また変な実験の依頼なら御免だぞ、俺は。」
「女大公のおでましだ。おい、みんな目を合わすな。関わると碌なことがないぞ。」
「大公としては立派なんだが、ちょっと変わってるんだよな、あの人。変な研究ばっかして、だから三十路過ぎでもいまだに結婚相手が見つからないんだよな。」
「クリスティーナ様が一体何の御用かしら?彼女、また変な依頼を持ってきたのかしら?危険な研究や実験とかじゃないと良いんだけど。」
ギルドにいた人たちが次々に彼女を見ながらそう言った。
大公ということは、彼女がこのラトナ公国の国家元首らしい。
しかし、一国の国家元首が冒険者ギルドに一体何の用だろう?
それに、ちらほら聞こえる実験とか危険な研究とか、どうゆう意味だ?
彼女と関わると碌なことがないとも聞こえたぞ。
つまり、この大公様とは関わらないことがベストな選択らしい。
僕は急いで荷物を持ってその場を去ろうとした。
がしかし、大公様はまっすぐに受付カウンターへとズカズカと歩いて向かってくるなり、僕の左腕を掴んだ。
「待ちたまえ、君。それから「アウトサイダーズ」の諸君。私はこのラトナ公国を治めるクリスティーナ・ニコ・ラトナ大公である。私は君たちが来るのをずっと待っていたんだ。そんな嫌そうな顔をせず、どうか私の話を聞いてくれないか?」
大公に腕を掴まれた僕は、とりあえず彼女に挨拶をした。
「お初にお目にかかります、クリスティーナ大公殿下。僕は冒険者パーティー「アウトサイダーズ」のリーダーを務めております、宮古野 丈と申します。ジョーとでもお呼びください。大公殿下には申し訳ありませんが、僕たちは依頼を受けるためではなく、この国には観光のためにやって参りました。恐れ入りますが、冒険者にご依頼とあれば他の冒険者の方にご依頼願います。それでは、僕たちはこれにて失礼させていただきます。」
僕は頭を下げると、大公様の前から去ろうとする。
しかし、彼女は僕の腕を決して離そうとせず、掴んでくる。
「そんな冷たいことを言わないでくれ。どうしても君たちに協力してほしいことがあるんだ。お金ならいくらだって払おう。だから、ね、お願いだからどうか私の話を聞いてくれ。この通りだ。」
大公様は僕の腕を掴んだまま、しがみついてくる。
依頼を受ける気はないが、下手にしがみついてくる大公様を振り払って、大公様に暴力を振るっただの言われたりしたら大変だ。
僕は精一杯の笑顔で断ろうとした。
「大公殿下には大変申し訳ありませんが、僕たちは依頼を受けるつもりはございません。どうかお引き取りを。」
しかし、それで引き下がる大公様ではなかった。
大公が僕の耳元でソッと囁いた。
「いいのかい、君。「火の迷宮」に用事があるんだろ?私の条件を飲んでくれたら、「火の迷宮」に入るのを特別に許可するよ。」
彼女の言葉に僕は一瞬固まり、驚いた。
そもそもこのラトナ公国には僕たちはまだ着いたばかりだ。
馬車を使わず空を飛んでショートカットしてここまできた。
超最速超最短距離で来たはずだ。
それなのに、どうして僕たちがこの国を訪れるタイミングが分かったんだ?
さらに、僕たちが本当は「火の迷宮」の攻略を目的にこの国を訪れたことを何故か知っている。
僕は目の前の大公様にどこか得体の知れなさを感じた。
だが、彼女の提示する条件とやらを飲めば、「火の迷宮」へと入れるらしい。
「火の迷宮」を管理する国のトップから、中へ入るお墨付きがもらえるのは決して悪くはない話だ。
僕は少し考え込んだ後、大公様に向かって言った。
「分かりました、大公殿下。あなたのお話をうかがいましょう。とりあえず宿に荷物を置いてまいりますので、どうかここでしばらくお待ちください。」
僕が荷物を持ってギルドの宿泊する部屋へと向かおうとしたが、大公様がそれを無理やり止めた。
「はっはっは。それなら私の屋敷に泊まればいい。そこの受付嬢君、彼らの宿泊はキャンセルにしてくれたまえ。「アウトサイダーズ」の諸君、君たちには私の屋敷へと来てもらう。それじゃあ、行こうか、君たち。」
そう言うと、僕の左腕を強引に掴み、外へと引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと、そんな横暴な。依頼ならちゃんと受けますし、わざわざ大公殿下の御屋敷に泊めていただくことはありません。安宿で十分ですから。」
「いいから、いいから。遠慮せず私の屋敷に来たまえ。君たちには私の実験の成果についてもぜひ聞いてもらいたし、依頼内容についても我が家でじっくりと話がしたい。とにかく来たまえ。ええっと、君の名前はジョー君で良かったかな?」
「はい、ジョーです、大公殿下。」
「大公殿下なんて堅ぐるしい呼び方は止めたまえ。私のことはクリスと呼んでくれ。」
「はい、クリス様。」
「様もいらない。それから敬語も不要だ。次、様付で呼んだら、国外追放にしちゃうぞ。」
横暴というか、破天荒というか、はっきり言って滅茶苦茶だぞ、この人。
周りを見ると、ギルドにいた人たちが、クリスに腕を掴まれ引っ張られていく僕に、憐みの視線を向けている。中には合掌までしている者もいる。
どうやらとんでもないトラブルメーカーに巻き込まれたらしいぞ、僕は。
僕はため息をつきながら、クリスに返事をした。
「ハアー、ええっと、よろしく、クリス。」
「よろしいジョー君。では、私の馬車に乗りたまえ。詳しい話は私の屋敷に着いてからにしよう。」
僕たちはクリスに言われるまま、彼女の馬車に乗って、ギルドを後にし、彼女の屋敷へと向かった。
尚、馬車の中では、何故かクリスは僕と腕を組んで一緒に座っていた。
向かい側の席には、玉藻、酒吞、鵺が座っていたが、何故か三人とも不機嫌そうな顔でこちらを見てくる。
玉藻がクリスに訊ねた。玉藻の顔は笑っているが、目は明らかに笑っていない。
「あの~、クリス様、どうして丈様と腕を組んでいらっしゃるのですか?暑くはありませんか?」
「いや~、別に。むしろ「黒の勇者」様と腕を組める機会なんて滅多にないからね。世の女性たちは羨ましがることだろうな。いや~、役得、役得。」
クリスが笑いながら答えた。
僕と腕を組むのが役得だって!?元いた世界じゃばい菌呼ばわりされて女子たちからは滅茶苦茶嫌われていた僕と腕を組むのが?
僕は正直信じられない気持ちだった。
そんなことを思っていると、すごく不機嫌そうな顔で酒吞が言った。
「調子に乗るなよ、ババア。依頼主でなかったら即ぶっ殺してやるところを俺たちはギリギリ我慢してんだぞ、分かったな。」
「ババアとは心外だねえ。これでもまだ32歳のピチピチのお姉さんだよ。そんなこと言うと、君だけ国外追放にしちゃうぞ。それでも良いのかな~?」
クリスが笑いながら酒吞を挑発した。
だが、酒吞は「ちっ。」と舌打ちをしただけで何とか踏みとどまってくれた。
「丈君、嫌なら嫌とはっきり言った方がいい。断れないなら、その女の腕を私が切り落としてあげる。」
鵺が刀を抜きながら、物騒なことを言い始めた。
「きゃあー、ジョー君あの子怖~い。」
と言って、クリスが僕によりかかってきた。
鵺のオッドアイの瞳が鋭くクリスを睨みつけた。
「す、ストップ、鵺。良いからその刀をしまって。クリスも三人をからかうようなことはしないでくれ。もう腕を組むのは止めますから。」
僕はそう言うと、クリスを引き剝がし、腕を組むのを止めた。
向かい側の席に座っていた三人の表情はホッとした表情へと変わった。
「ちぇっ、残念。まぁ、屋敷にいればいくらでもチャンスはあるからいっか。それより、諸君、私の屋敷が見えてきたよ。」
馬車の窓を覗くと、窓の外に、茶色いヴィクトリアン・ハウス風の大きなお屋敷が見えてきた。
馬車が門をくぐり、庭園を抜けると、屋敷の中央の入り口の前へと着いた。
クリスが僕たちに向かって言った。
「ようこそ私の自慢の屋敷へ諸君。この屋敷は一見外壁はレンガ造りに見えるが、実は屋敷全体は鉄筋コンクリート造りになっている。そして、屋敷の本館の隣にある大きな建物は、私の錬金術の研究所兼工房となっている。良かったら、そちらもぜひ見学して行ってくれたまえ。それでは、広間まで案内しよう。」
僕たちはクリスに案内され、屋敷の中へと入ると、広間へと案内された。
広間には凝ったインテリアや肖像画、暖炉にソファが置いてあり、ダンスホールやパーティー会場になりそうなほど広かった。
とても豪華で広い広間に僕は驚かされた。
さすがは一国の国家元首が住む屋敷だけのことはある。
「では、そちらのソファにでも座ってくれたまえ。ああっ、ジョー君は私と同じソファに座ってくれ。」
僕は仕方なくクリスと同じソファに座った。
玉藻、酒吞、鵺の三人が向かいのソファへと座った。
ふたたび三人の機嫌が悪そうになったが、ここはどうか堪えてくれ。
僕はとりあえず話を切り出した。
「クリス、君にはいくつか聞きたいことがある。まず、どうして僕たちがこのラトナ公国へ来ることが分かった?インゴット王国を出発してからまだ三日しか経っていないのにも関わらずにだ。それから、どうして僕たちがこの国に来た目的が「火の迷宮」を訪ねることだと知っている?一体、どこまで僕たちのことを知っているんだ?」
僕たち全員に緊張が走った。
もし、僕たちが「光の迷宮」ほか、世界各国のダンジョンを攻略し、全ての聖武器を破壊することが目的だということがバレていたら、もし、そのことも含め、すでに僕が処刑された異世界人であるという僕の正体が露見していたら、そう思うと、身構えずにはいられなかった。
クリスはテーブルの上に出された紅茶をティーカップから一口すすると、答え始めた。
「君たち「アウトサイダーズ」の活躍はこの国でも評判だよ。低報酬で高ランクの依頼、ハズレ依頼ばかりを受け、大量のハズレ依頼を次々と達成しては困っている民たちを助けて回る、「黒の勇者」様率いるSランクパーティー「アウトサイダーズ」の噂は、この私の耳にも届いた。私が治めるこのラトナ公国でもハズレ依頼と呼ばれる案件で苦しむ国民が多くてね。そこで、インゴット王国の冒険者ギルド本部に君たち宛てに私の名前で指名依頼を出していたんだけど、何故か全く音沙汰無しでね。部下を派遣して調べたら、ギルド本部の連中が私の指名依頼を握りつぶしていたことが分かった。君のいたギルド北支部や、君たち「アウトサイダーズ」に人気や売り上げを持っていかれての意趣返しだろうね。一国の代表からの指名依頼をそんなくだらない嫉妬で握りつぶすとは、インゴット王国のギルド本部はかなり質が悪い。あそこに冒険者ギルドを名乗る資格はないね。それで仕方なく、部下を派遣して君たちに直接依頼しようとしていたら、インゴット王国を出発して君たちが旅に出たとの報告が入った。それでとりあえず、君たちがこの国に現れるのを待っていた。この国はインゴット王国の隣だしね。後、ギルドには盗聴器をしかけていてね。別に私自身は今、立て込んだ仕事もないし、基本研究の日々だから、空いてる時間を使って、ギルドの向かいのカフェで盗聴マイクを使って君たちが現れるのを待った。そしたら、張り込んで三日目に早速、君たちがギルドに現れた。あの時、私は運命を感じたよ。天は私に味方したと、そう確信したね。それで君たちに依頼をすべく声をかけたんだ。」
クリスが興奮気味に僕たちに向かって言った。
おい、今、さらっとギルドに盗聴器を仕掛けていると言わなかったか?
僕たちがギルドに現れるまで、盗聴マイク片手に盗聴をしていたと。それも三日間ぶっ続けでと。
ギルドの人たちが言っていたように、どうやらこの人はヤバい人らしい。
玉藻、酒吞、鵺の三人もちょっと引いちゃってるぞ。
僕は仕方なく話を続けた。
「クリス、君がなぜ僕たちがこの国へ来たことがすぐに分かったのか、理由は分かった。だけど、ギルドに盗聴器を仕掛けるのは良くない。後ですぐに外すんだ。いくら君が大公でも、個人のプライバシーは尊重すべきだ。いいね。」
「ちぇ、分かったよ、ジョー君。盗聴ごっこ、面白いからもうちょっと遊びたかったなぁ。」
「次の質問だけど、クリス、君はどうして僕たちがこの国に来た目的が「火の迷宮」を訪ねることだと知っているんだ?どうやって、その情報を掴んだんだ?」
「ああっ、それなら簡単なことさ。インゴット王国が異世界から勇者たちを召喚した際、なぜか勇者としてのジョブとスキルを女神から与えられず、能無しの悪魔憑きとして処刑された人物がいるとの情報が、インゴット王国に派遣していた部下から以前私に報告があった。おとぎ話に出て来るような悪魔憑きが実際にこの世に現れるなんて、非常に興味を注がれたよ。遺体でもあったらこっそり部下に持ち帰らせて良い研究サンプルにならないかなんてね。そして、しばらくしてインゴット王国に君たち「アウトサイダーズ」が現れた。調べたところ、何と君たち全員がステータスを鑑定してもジョブとスキルが鑑定されない異常を抱えていると聞くじゃないか。それなのに、S級冒険者としてずば抜けた実力の持ち主である。そして、ジョー君、君の容姿だよ。召喚された勇者たちと同じこの世界ではほとんど見かけない黒い髪に黒い瞳、君の容姿を聞いて私の頭は閃いた。もしかしたら、例の悪魔憑きが実は生きているんじゃないかと。それから、「光の迷宮」が突如原因不明の崩壊を起こしたとの情報が入った。3,000年近く国に守られ、天災でもびくともしなかった、あのダンジョンが崩壊するなんて、どう考えても普通じゃない。だけど、誰かがあのダンジョンを攻略し、そして、破壊したとしたらどうだろうか?悪魔憑きで腕利きのS級冒険者である君や君の仲間たちが「光の迷宮」のあるインゴット王国にいた。君たち「アウトサイダーズ」ならあのダンジョンを攻略し、破壊することもできるのではないか、そう私は考えた。悪魔憑きと呼ばれた者が自分を処刑した王国や勇者たちを恨んでいる可能性は高いし、「光の迷宮」や聖剣を破壊しようと考えたっておかしくはない。悪魔憑きと呼ばれ処刑された人物は一人らしいが、その人物が何らかの手段で自分と同じ境遇の持ち主を見つけた、あるいは、自分と同じ境遇の存在を召喚術を使って呼び出した、と考えれば、悪魔憑き、すなわち、ジョブとスキルを持たない者が複数現れてもおかしくはない。ジョー君、君こそが勇者として異世界から召喚され悪魔憑きとして処刑された人物だ。そして、お仲間の三人も何らかの手段で集められた悪魔憑きなのだろう。そして、君たちはインゴット王国の王族たちや勇者たちへ復讐するために行動していて、今回「火の迷宮」を攻略するためにやってきた。だけど、私は別に君たちの復讐を止めるつもりはないよ。私も君たちにあのダンジョンを攻略してほしいし、何なら聖双剣とやらも破壊してもらって構わないよ。」
僕はクリスの言葉に驚いた。
僕の正体を言い当てたこともそうだが、「火の迷宮」を攻略してもいい、聖双剣も破壊して構わない、そう彼女は言ったのだ。
僕は驚きながらも、正直に彼女に話した。
「クリス、君の言うとおりだ。僕は、君の言う勇者として異世界から召喚され悪魔憑きとして処刑された人物だ。他の三人は、僕の体にとり憑いて一緒にやってきた妖怪と僕の世界では呼ばれる、怪物だったり神様だったりする存在だ。僕も僕の仲間たちも元いた世界から特殊な能力を生まれつき持っていてね。だから、ジョブとスキルが無くても戦えるんだ。そして、僕たちはインゴット王国の国王たち、勇者たちに復讐するため、旅をしている。「光の迷宮」を破壊したのも僕たちだ。この国に来たのも「火の迷宮」を攻略するためだ。だけど、クリス、君はどうして僕たちに「火の迷宮」を攻略していいと、聖双剣も破壊しても構わないと言うんだ?あれらはこの世界にとって、君にとっても大切なものなんじゃないのか?」
僕の問いに、クリスは笑いながら答えた。
「確かに表向きは大切なものだね。だけど、私からしたら、「火の迷宮」も聖双剣も害悪にしか見えない。この国、ひいてはこの世界を衰退させる忌むべき存在だと考えている。」
「忌むべき存在だって!?それはどうゆう意味だ?」
「まず聖双剣だけど、あれは世界中の武器開発のテクノロジーの進化を妨げる唾棄すべき存在だ。いいかい、あの聖双剣は女神が勇者たちのために作った七つの聖武器と言われているが、あれが作られたのは今から3,000年以上も昔のことだ。人間と魔族との戦いが始まってから3,000年以上経つけど、その間にも少しづつ人間の間で武器開発のテクノロジーは進化してきた。聖剣には3,000年前には当時加工技術が未発達だった希少金属のオリハルコンが使われている。だけど、現在ではすでに人間もオリハルコンの加工技術を手に入れ、高価な魔道具や武器には当たり前のようにオリハルコンが使われるようになった。オリハルコンを使用した高性能の武器が人間でも作れる時代なんだ。それなのに、いまだ時代遅れの聖武器こそ武器開発の目標と捉えている者が多い。私から見たら、聖武器なんて3,000年以上も昔に作られた、型落ち品の骨董品にしか見えない。あんな骨董品を持ち出して最新鋭の武器を持つ相手と戦争しようなんて馬鹿げていると思わないか?歴代最強と呼ばれた勇者パーティーが使っても、あの聖武器じゃ魔王は倒せなかった。性能不足は明らかだ。あんな骨董品じゃいつ破損してもおかしくはないね。インゴット王国なんて密かにあの聖武器のレプリカを開発して勇者たちに与えたそうだけど、3,000年以上昔の型落ち品の骨董品のレプリカなんて、例えオリハルコンを使っていても粗悪品としか言いようがないね。あんな粗悪品を掴まされたんじゃ勇者たちの実力なんてたかが知れているよ。」
クリスは一旦紅茶をすすると、また話し始めた。
「聖武器の存在が、この世界の武器開発のテクノロジーの成長の足枷となっていると私は考える。いや、武器開発以外の分野のテクノロジーでも同じだと考えるよ。だから、私は聖武器を、聖双剣を破壊してもらってもいいと思っている。そして、「火の迷宮」を攻略してほしいのは、あのダンジョンのあるボルケニア火山が、ブラックオリハルコンと呼ばれる、超希少金属の鉱脈でもあるからなんだ。君たちには「火の迷宮」を攻略してもらい、ブラックオリハルコンの鉱脈開発に協力してほしいんだ。」
オリハルコン。異世界召喚物の物語でよく登場する、貴重な金属の名前だ。建築材だけでなく、武器や魔道具に使われる描写もあり、物語には欠かせない存在と聞く。
しかし、ブラックオリハルコンなど聞いたことがない。
おそらくこの異世界特有の金属に違いない。
僕はクリスに訊ねた。
「クリス、ブラックオリハルコンって言うのは一体何だ。聞いたこともない金属の名前だが?」
僕の質問にクリスが答えた。
「ブラックオリハルコン、それはオリハルコンをはるかに超える力を持つ超希少金属だ。以前ボルケニア火山でフィールドワークを行った際、偶然発見したモノさ。発見者兼命名者はこの私だ。ブラックオリハルコンの存在が確認されているのは現在、この国だけだ。ブラックオリハルコンは通常のオリハルコンと違い、黒い光沢をしている。そして、驚くべきことに、通常のオリハルコンと比べ、魔力の伝導率が100倍、強度も100倍というとんでもない特徴を秘めていることが分かった。もし、このブラックオリハルコンを使えば、武器開発のみならず、あらゆる分野のテクノロジーが飛躍的な成長を遂げることになるはずだ。そして、このブラックオリハルコンの鉱脈は現在我が国でしか確認されていない。我が国が事実上ブラックオリハルコンを独占することができる。そうなれば、我が国の経済に大きなプラスとなるだろう。それに、ブラックオリハルコンは私の研究にも欠かせない存在なんだ。だから、君たちに「火の迷宮」を攻略してブラックオリハルコンの鉱脈を何としてでも確保してほしいんだ。「火の迷宮」への立ち入り許可は私が出すし、君たちが極秘裏に攻略を進められるよう手配するつもりだ。後はこちらの提示する条件さえ飲んでもらえれば、いつでも攻略してもらって構わない。どうかな、諸君?」
クリスの説明と提案を聞き、僕は返事をした。
「分かった。君の言う条件を飲もう。「火の迷宮」も必ず攻略する。それで、君の言う条件とは何だ?」
「フフっ、何簡単なことだよ。私が君たちに提示する条件は二つ。一つは、この国の溜まっているハズレ依頼を全部片づけてもらうこと。もう一つは、「火の迷宮」のダンジョン攻略に私も同行させること。この二つさ。ね、簡単だろ?」
クリスが笑いながらそう言うと、着ているジャケットの内側の左ポケットから、ドサッと依頼書の束を出してテーブルに置いた。
僕は依頼書を手に取った。
「何々、サラマンダーの討伐に、ウィスプ2,000匹の討伐、ゴブリン1,000匹の討伐、ケンタウロス20匹の討伐って、この依頼書全部Sランクじゃないか!?それも、パッと数えただけで30枚以上は依頼書があるぞ。今からこの依頼全部こなすとして、最悪一ヶ月はかかるぞ。「火の迷宮」攻略もあるのに、こんなにたくさんのハズレ依頼を受けるなんて僕たちだけじゃ正直厳しいぞ。クリス、悪いけど、一部は他の冒険者パーティーに斡旋してもらうことはできないか?」
僕は想像以上の依頼の数の多さに困り、クリスに訊ねた。
「ええ~、そんなこと言われても困るな~。だってもう、全部君たちに引き受けてもらうって、ギルドには言って引き受けてきちゃったし。それに、この国のギルドにもS級冒険者やAランクパーティーがいるけど、みんなこの手のハズレ依頼を引き受けるのは断るんだよねえ。私が特別に褒賞金を出すと言っても断られる始末だしさ。だから、今更キャンセルなんてできないよ。そういうわけだから、依頼達成頑張ってね。」
クリスが悪戯っ子のような笑みを浮かべながら僕に言った。
ハズレ依頼を30件も、僕たちの断りもなく勝手に引き受けてくるなんて。
やっぱりこの人は碌でもない人だ。本当にヤバい人だ。
僕は思わずその場で項垂れた。
「はっはっは。そう落ち込まないでくれよ、ジョー君。なぁに、君たち「アウトサイダーズ」なら楽勝だって。何たってあの「黒の勇者」様もいることだし。僕もできるかぎりサポートはするからさ。元気出してよ。」
クリスは呑気に笑いながら言った。
僕は顔を上げると、彼女に訊ねた。
「それはそうと、「火の迷宮」攻略に付いてくると行ったけど、本気なのか?ダンジョンの中は大量のモンスターや罠でいっぱいだし、最深部には聖双剣を守るSSランクモンスターだっているんだぞ。見たところ君は戦闘職系のジョブには見えないし、冒険者でもない者をダンジョンに連れて行くのは良くないと思うんだけど?」
「ああ、その点なら問題ないよ。確かに私は非戦闘職の錬金術師だけど、そんじゃそこらの錬金術師とは違うよ。冒険者で言えば、私の錬金術師としての腕はSランクだし、非戦闘職でもちゃんとモンスターと戦う術を持っている。何より、君たち天下無敵のSランクパーティー「アウトサイダーズ」が付いているんだ。問題なんて何一つない。それに、前から「火の迷宮」の中を一度見てみたいと思っていたからね。いやぁ、どんな発見があるやら、楽しみだなぁ!」
クリスはとても興奮した様子で答えた。
この人のことだ。ダメと言っても勝手に付いてくるだろうな。
僕はため息をついた。
「ハアー、分かったよ。同行を許可するよ。だけど、ダンジョン攻略中はパーティーリーダーの僕の指示には必ず従ってくれ。絶対に単独行動したり、命令無視をしたりしないこと。いいね?」
「ああ、もちろんさ。ああ、今から楽しみだなぁ。」
クリスはダンジョン攻略に同行できると聞いて浮かれている様子だった。
ダンジョンを管理する国のトップからダンジョン攻略のお墨付きをもらえたのは喜ばしいことだけれど、厄介な人に関わった挙句、面倒ごとまでしょい込むことになろうとは。
せっかく復讐の幸先いいスタートを切れたと思っていたのに。
僕の復讐計画が思わぬ形で遅れてしまったのだが、まぁ仕方がない。
僕たちはクリスからの依頼を受けると、彼女の屋敷に泊まり、ラトナ公国に滞在する間、彼女の屋敷を拠点に、冒険者活動に取り組むことになった。
僕たちは屋敷の二階の、空いている部屋を一人一部屋ずつ割り当てられ、使わせてもらうことになった。
玉藻、酒吞、鵺の三人は四人一緒がいいと抗議したが、他に部屋はないと言われ、しぶしぶ従うのだった。
一人部屋に泊まるのは久しぶりのため、少し新鮮な気持ちになった。
それから、ラトナ公国での僕たちの生活が始まったのだった。
異世界に召喚されてから一ヶ月が過ぎた。
僕の復讐計画は少し遅れることになったが、例えどんな障害が立ち塞がろうとも、僕の復讐は決して歩みを止めることはない。
僕を虐げる異世界の悪、勇者たち、インゴット王国の王族たち、光の女神リリア、僕と敵対する異世界の者たちには必ず復讐する。
僕の異世界への復讐が、新たな地で始まろうとしていた。
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