第十一話 主人公、第二のダンジョンへ向け旅立つ
僕たち「アウトサイダーズ」が「光の迷宮」を攻略し、聖剣を破壊した日から二日後、僕たちはインゴット王国を出て、「火の迷宮」があるラトナ公国へと旅立つことを決めた。
「火の迷宮」には「剣聖」のための聖武器の一つ、聖双剣がある。
さらなる勇者たちの戦力の弱体化のため、そして、勇者たちへの復讐のため、僕たちは旅立つことを決意した。
この異世界に来てからちょうど一ヶ月くらいだが、本当に色々なことがあった。
勇者たちやインゴット王国の国王たちに処刑され、そして、生き延び玉藻、酒吞、鵺と出会った。
玉藻たち三人と契約し、霊能力が覚醒した。
アープ村のゴブリンの巣を討伐した。
冒険者登録のため、ギルドマスターのブロンさんと模擬戦をした。
S級冒険者になって、みんなとSランクパーティー「アウトサイダーズ」を結成してたくさんの冒険をした。
コルドー村に出たSランクモンスター、カトブレパスのソロ討伐に挑戦した。
パーティーのみんなと一緒に「光の迷宮」を攻略して、聖剣を破壊した。
思い返すと、本当に色んなことを経験した。
玉藻、酒吞、鵺の三人にはいまだ遠く及ばないけど、冒険者になってある程度戦えるようになったと思う。
勇者たちが一体どれほど実力を伸ばしているのか、どれほどの実力を秘めているのかは未知数だが、決して負けるつもりはない。
必ず勝って勇者たち全員に復讐する。
例えどのような代償を払おうとも。
人を呪わば穴二つ。
地獄に落ちる覚悟ならとうにできている。
僕の復讐が止まることはない。
僕たちは荷物をまとめると、宿泊していたギルドの部屋を引き払った。
荷物を持って階段を降り、ギルド一階の受付カウンターへと向かった。
僕たちを見るなり、受付嬢が声をかけてきた。
「おはようございます、「アウトサイダーズ」の皆さん。そんな大荷物を持って、今回はどちらに遠征に行かれるんですか?」
「おはようございます。実は僕たち、また旅に出ることに決めたんです。泊まっていた部屋は引き払ってきました。今まで大変お世話になりました。すみませんが、チェックアウトの手続きをお願いします。」
「ええっ、皆さん、このギルドを出て行かれるんですか!?せっかくウチの看板冒険者ができたと思っていたのに。残念です。ジョーさんたちがいなくなるとここも寂しくなりますね。行き先とかは決まっているんですか?」
「まだ明確には決まっていません。とりあえずこの国を一度出て世界を見て回りたいと思っています。まぁ、当てのない旅になりますね。」
「そうですか。道中気を付けてくださいね。もし、旅が終わって、気が向いた時はまたウチのギルドに来てください。みんな大歓迎ですよ。旅のお話とかぜひ聞かせてくださいね。それじゃあ、チェックアウトの手続きを進めますね。」
受付嬢と話をし、チェックアウトの手続きを進めていると、階段からブロンさんが降りてきて、僕たちに声をかけてきた。
「おはよう、ジョー君、それに「アウトサイダーズ」のメンバーの皆さん。実は君たちに少し話があるんだが、ちょっと時間をもらっても構わないかな?」
「ええっ、もちろん構いません。チェックアウトが終わったら、みんなでご挨拶にうかがおうと思っていたところです。」
「それは良かった。では後ほど、私の執務室まで来てくれ。」
そう言うと、ブロンさんは階段を上って、ギルドの三階の自分の執務室まで戻って行った。
ブロンさんが僕たちに話とは一体何だろう?
僕は首を傾げた。
チェックアウトの手続きが終わると、僕たちはブロンさんの執務室へと向かった。
執務室のドアを三回ノックする。
「失礼します。」
僕を先頭に、他の三人も執務室の中へと入った。
「お急ぎのところ悪いね、皆さん。そこのソファーに座ってくれ。つい立ち聞きしてしまったが、この国を出て、旅に出るんだってね。いやぁ、君たち「アウトサイダーズ」がいなくなるかと思うと私も寂しいよ。おっとごめん、実は君たちに聞きたいことがあるんだった。特にジョー君、君にだ。」
ブロンさんが急に真剣な表情を浮かべながら言った。
「僕たちに聞きたいこと、それも特に僕に聞きたいこととは何でしょうか?」
僕の顔をじっと見つめながら、ブロンさんが訊ねてきた。
「実は先ほどギルドに「光の迷宮」が崩壊したとの情報が入ってきた。「光の迷宮」が崩壊した原因はまだ分かっていないそうだ。君たちは二日前に「光の迷宮」の近くに出没するバジリスクの討伐依頼を受けたそうだが、その時、何か変わったことはなかったかね?」
「「光の迷宮」が崩壊したんですか!?本当ですか、それは?確かに僕たちは先日「光の迷宮」の近くへと行きましたが、特に変わったことはありませんでしたよ。」
僕はすっとぼけた。
だが、ブロンさんのこの反応、もしかしたら、僕たちが「光の迷宮」を破壊したことを知っているのか?
だけど、証拠は何一つ残していないはずだ。
バレることなどないはずだ。
ブロンさんは質問を続けた。
「そうかい。私も「光の迷宮」が崩壊したとは今でも信じられない気分だよ。あそこには勇者様たちのための聖武器の一つ、聖剣があってね。国も聖剣の捜索に必死になって当たっているそうだ。ところで丈君、話は変わるが、君は勇者様たちがどんな人たちか知ってるかい?」
「いえ、詳しくは知りません。異世界から来られたと聞いていますが。」
「そう君の言う通り、勇者様たちは異世界から召喚されてこの世界に来られたそうだ。その勇者様たちなんだが、彼らの多くは黒髪に黒い瞳の持ち主で、この世界ではほとんど見かけない容姿をしているそうだ。そして、ほとんどの者が10代後半の若者だと聞いている。ジョー君、君も勇者様たちと同じ黒い髪に黒い瞳をしているね。それに年齢もほとんど変わらない。勇者様たちがこの世界に来られた日に、君もどこからか突然現れた。これが果たして偶然の一致と呼んでいいものだろうかね?」
ブロンさんの言葉に、僕たち全員に緊張が走った。
「実は興味深い情報を掴んだものでね。国は公式には勇者様たちは全部で40人と発表しているが、勇者様たちが召喚された際、異世界から勇者として召喚された人物が本当はもう一人いたという話がある。しかも、その人物はステータスの鑑定を行ったところ、なぜか女神さまから勇者としてのジョブとスキルを与えられていないと分かったため、国はその人物を能無しの悪魔憑きと呼んで処刑したそうだ。だが、その人物の遺体はいまだに見つかっていない。ずばり言おう、ジョー君、君が今話した、異世界から勇者として召喚され、処刑されたもう一人の人物なんじゃないのか?そして、「光の迷宮」が崩壊したのは、君や君の仲間たちが破壊したからなんじゃないのか?正直に答えてくれたまえ。」
ブロンさんは真剣な眼差しで僕たちの顔を見つめる。
ブロンさんの言っていることは全て当たっている。
だが、ここで真相がバレるわけにはいかない。
今ここで僕の正体や「光の迷宮」の崩壊の真相がバレたら、せっかくの復讐計画が、これまでの道のりが、全て水の泡だ。
僕は緊張を解くと、笑いながらブロンさんに答えた。
「ハハハ、ブロンさん、中々面白い推理ですね。ですが、ブロンさんの推理は残念ながら外れています。僕は勇者様たちとそっくりな容姿をしていますし、ジョブとスキルを鑑定してもなぜかステータスとして表示されません。ですが、ジョブとスキルがステータスに表示されないのは、ここにいる僕の仲間たちも同じですよ。それに、僕を除くこの三人はお話にあった勇者様たちとの容姿とも明らかに合致しません。それから、ジョブとスキルがないからと国に処刑された人物は一人なんでしょう。人数が合いません。僕たちは四人です。大体、ジョブとスキルも無いのにどうやって冒険者が務まりますか?僕たちは全員、ジョブとスキルがステータスに表示されないという異常を抱えていますが、ちゃんと冒険者として戦えるジョブとスキルを持っています。そのことはギルドマスターであるブロンさんが一番分かっていることじゃあありませんか?こんな陰キャでコミュ障で、目立つのが苦手な田舎者の新人冒険者である僕をまるで犯罪者のように疑うなんて心外ですよ、ブロンさん?変な勘ぐりは本当に勘弁してください。」
僕の弁明を聞いて、ブロンさんは少し考え込んだ。
しかし、すぐに笑顔に戻り、こう言った。
「いやぁ、疑ったりして本当にごめんよ、ジョー君。確かに君の言う通りだ。君があまりに噂の人物と似ている者だから、つい早合点してしまったよ。不快な思いをさせて悪かった。どうやら私の思い過ごしらしい。職業柄、どうしても人を疑う癖があってね。本当に申し訳ない。」
ブロンさんはそう言うと、僕たちに向かって頭を下げた。
「気にしないでください、ブロンさん。誰にだって間違いの一つや二つありますよ。それに疑いが晴れたのならそれで満足ですよ。これから旅に出る前にブロンさんの面白い推理ショーが見られて、僕たちもここでのいい思い出話が一つ増えました。ブロンさん、今から探偵にお仕事を替えられてはどうです?」
「ハハハ、そう言って許してもらえると助かるよ。ただ、私の推理力じゃあ探偵には向きそうにない。君にあっさりと論破されるようじゃとても務まらないよ。今の仕事が私には一番向いているよ。」
僕とブロンさんは笑い合った。
「ジョー君、旅の行き先は決まっているのかい?」
「いえ、特には決まっていません。でも、行き先が決まっていない方が旅らしい気がして良くないですか?とりあえず冒険者をしながら世界中を見て回りたいなと思っています。旅が終わったら、またこのギルドに立ち寄りますよ。良いお土産話を持って帰るつもりなので、期待して待っていてください。」
「そうかい。それじゃあ楽しみに待っているよ。道中の無事を祈っているよ。」
ブロンさんとの会話を終えると、僕たちはブロンさんとそれぞれ握手を交わした。
そして、ブロンさんの執務室を後にした。
階段を下りて一階に戻ると、冒険者たちやギルドの職員たちが僕たちの見送りに来ていた。
「ジョー、旅に出るんだってな。お前がいなくなると思うと寂しいぜ。体に気をつけてな。無理はすんなよ。」
「ジョー、短い付き合いだったけど、お前にはずいぶん楽しませてもらったし、みんな稼がせてもらったよ。またこのギルドに帰って来いよ。お前が活躍する姿が見れるのをみんな楽しみに待ってるからな。」
「「アウトサイダーズ」の皆さん、たくさんのハズレ依頼をこなしていただき、ありがとうございました。ギルドだけでなく、国のみんながあなた方に感謝しています。他の国に行っても頑張ってください。応援しています。どうかお元気で。」
「「アウトサイダーズ」万歳!お前たちは永遠に俺たちみんなのエースだ。お前たちが世界中で活躍するのを期待して待ってるからな。頑張れよ、「アウトサイダーズ」。」
ギルドにいた冒険者たちやギルドの職員たちが僕たちに温かい言葉をかけてくれた。
「ありがとう、皆さん。またいつか会いましょう。それまでどうかお元気で。」
「皆様、お見送りありがとうございます。どうかお達者で。」
「じゃあな、みんな。元気でな。」
「みんなありがとう。それじゃあ行ってくる。」
僕、玉藻、酒吞、鵺は、見送りに来てくれたギルドの人たちに手を振りながら別れの挨拶をした。
そして、ギルドの人たちから見送られながら、インゴット王国冒険者ギルド北支部を後にした。
ノーザンの町の出入り口を出ると、僕たち四人はしばらく街道を歩いて進んだ。
「全く、まさかこんなにも早く僕の正体がバレそうになるとは思わなかったよ。てっきり僕のことは死んだ者として誰も気に留めていないものとばかり思っていたけど、やっぱり証拠隠滅をしておいて正解だったね。それに、みんながいるおかげでもうしばらく正体を隠せそうだ。これからもよろしく頼むよ、みんな。」
僕は三人に向かって言った。
「丈様の正体に気付く者がこんなにも早く現れるとは。油断は禁物ですよ、丈様。ブロンさんが
「例え正体がバレようが、お前は復讐を止めたりする男じゃねえだろ、丈?お前が世界中からお尋ね者になって、お前の命を狙う奴らが現れたら、その時は全員俺がぶっ殺してやるぜ。お前の復讐は誰にも邪魔させねえから安心しろ。」
「どんな刺客が相手でも私がいる限り、丈君には絶対指一本触れさせない。刺客は全員始末する。丈君を傷つける奴は絶対に許さない。必ず殺す。丈君は安心して復讐に専念すればいい。」
玉藻、酒吞、鵺が僕に意気込みを語った。
三人ともとても心強いが、少々物騒過ぎるのでは?
しかし、僕の復讐が世界中を敵に回す可能性がある以上、彼女らの言うくらいの意気込みは必要なのかもしれない。
「三人ともありがとう。僕は絶対に復讐をやり遂げてみせる。約束する。もし、復讐の旅が終わったその時、僕が生きていたら、三人と一緒にどこか平和な土地で静かに暮らしたいな。」
僕は三人にそう言った。
「わ、私たちと一緒に暮らしたい!?そ、それはつまり家族になりたいということでは!?」
「お、俺たちと一緒にく、暮らしたいって!?俺たちとずっと一緒にいたいって、そういう意味だよな、な!?」
「私たちと一緒に暮らしたい、つまりイコール私たちをお嫁さんにしたい、という意味では!?」
玉藻、酒吞、鵺の三人が後ろで何やら物々と呟いている。よく聞こえないが。
「丈様、ちょっと三人で話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
玉藻が声をかけてきた。
「ああっ、別に構わないよ。ただ、何があるか分からないし、ラトナ公国には早めに着きたいから、できれば短めに頼むよ。」
「はい、すぐに終わりますので、少々お待ちください。」
三人は僕から少し離れると、街道の真ん中で、三人で円陣を組んでコソコソと話を始めた。
きっと今回僕の正体がバレかけた件で何か対策案でも話し合っているのだろう、そう思った。
「お二人とも、先ほどの丈様のお言葉を聞きましたね。この約一ヶ月、ギルドで丈様と一緒に寝食を共にした甲斐がありました。復讐の旅が終わったら私たち三人と一緒に暮らしたい、そう思えるほど丈様の私たちへの好感度は上がっています。このまま一緒に旅を続け、機会を見てアピールすれば、丈様が私たちと本気で恋人になりたい、そう考える時が来るでしょう。引き続き協力して丈様をサポートしましょう。」
「了解だぜ。一ヶ月一緒の部屋で寝泊まりしたが、丈の奴が湯上りの俺たちの姿を見て意識してたのは知ってたぜ。丈は絶対、俺たちを女として意識し始めてる。依頼で活躍して、ついでに女としてもアピールすればアイツは絶対に堕ちる。間違いないぜ。」
「この一ヶ月で丈君の、私たちに対する好感度は急上昇している。恋人への到達ラインは目前。きっかけさえあればすぐに恋人になれること間違いなし。ゆくゆくはお嫁さんになる日も遠くはない。どんどんアピールして攻めれば、きっと丈君とラブラブになれるはず。私たちの恋路は明るい。」
玉藻、酒吞、鵺の三人は、宮古野 丈への異性アピールや自分たちの恋路について話し合っていたのだった。
三人は話を終えると、円陣を解いた。
僕は三人に声をかけた。
「三人とも話が終わったようだから、そろそろラトナ公国に向けて飛ぶことにしよう。人目に付かないようそこの森の中に入って、それから離陸しよう。」
僕たちは街道を逸れて、街道のすぐ横の森の中へと入った。
そして、いつものように、玉藻、酒吞の二人が僕にとり憑き、僕は鵺にお姫様抱っこされながら、ラトナ公国へ向け飛び立った。
僕が異世界に召喚されてから、約一ヶ月が経過した。
僕はさらなる復讐に向けて動き始めた。
僕の正体があやうくバレそうにもなったが、何とか誤魔化すことができた。
僕を虐げる異世界の悪、勇者たち、インゴット王国の王族たち、光の女神リリア、僕と敵対する異世界の者たちへの復讐を、僕は標的に悟られぬよう静かに進めていく。
僕の異世界への復讐の新たな旅が始まった。
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