第四話 【処刑サイド:剣聖外その仲間たち】剣聖たち、ダンジョン攻略ができると勘違いする、そして、叶いもしない夢に浮かれる

 勇者たち一行が二度目の遠征に向かったその日の早朝。 

 「剣聖」にして「火の勇者」、前田 敦外4名の勇者たちは、城をこっそりと抜け出し、「火の迷宮」と呼ばれるダンジョンを攻略し、聖武器の一つ、聖双剣を手に入れるため、「火の迷宮」があるというラトナ公国行きの特急馬車へと乗り込み、インゴット王国を出たのだった。

 馬車へと乗り込む中、王都をパトロール中の騎士たちが前田たち一行に声をかけ、彼らを制止しようとしたが、彼らは騎士たちの制止を振り切り、特急馬車で出発してしまったのであった。

 馬車の車内で、前田たち一行は今後の予定や将来などについて話をした。

 「上手くいったな敦!だけど、さっき俺たちを見かけて止めようとした騎士たちが姫様たちに告げ口して連れ戻されるかもしれねえぞ?大丈夫なのか?」

 前田にそう訊ねるのは、「剣士」甲斐元かいもと はじめであった。

 「心配いらねえよ。俺たちが今乗っている馬車は朝いちばんに出る特急馬車だ。告げ口されたところで、姫様や勇輝たちが気づいた時には簡単に追いついたりなんかできねえ。それに、邪魔してくるならぶっ倒して進めばいい。俺たちは大事な勇者さまだからな。騎士たちも易々と俺たちには手は出せねえってわけだ。」

 前田は自信満々に答えた。

 「さすがだぜ、敦。なら、さっさとラトナ公国とやらに行ってダンジョン攻略と行きますか。でも、俺たちだけでダンジョン攻略なんてできんのかよ?俺たち一応S級冒険者ってことになってるけど、実戦経験なんてないぜ?本当に俺らだけでモンスターと戦えんのか?」

 不安を口にし訊ねるのは、「剣士」立野たての たかしだった。

 「ハッ、心配すんなよ、孝。俺たち全員勇者でS級冒険者なんだぜ。それに「剣聖」の俺もいる。そこいらのカス冒険者とはレベルが違うんだよ。ダンジョン攻略なんて余裕に決まってる。もし、苦戦した時はコイツを使えばいい。」

 前田はそう言うと、懐から包みを取り出し、包みの中から赤い錠剤を5粒出してみせた。

 それから、赤い錠剤を一粒ずつ他の仲間たちにも渡した。

 「おい、敦、この錠剤は何だよ?まさか、ヤバい薬とかじゃねえよな?」

 渡された錠剤を見て怪訝な表情を浮かべてそう訊ねるのは、「剣士」松元まつもと ひとしだった。

 「おいおい、俺をもっと信用しろよ、お前ら。ソイツは別にヤバい薬とかじゃねえよ。ソイツはドラゴンブラッドって言う一種の滋養強壮剤だ。ちゃんと王都の薬屋で買ったもんだ。ソイツにはドラゴンの血が使われていて、飲むと魔力やスタミナを一気に回復できる代物だ。おまけに、回復だけでなく、魔力やスタミナ、パワー、スピード全てが一気に爆上がりして、一時的に今のレベルが一気に20上のランクのレベルにまで上がる、スゲエ薬らしい。効果は一回ぽっきりで効果の持続時間は2時間くらいのくせに、たったの5粒で1,000万リリアする貴重な薬だ。失くさず大切に使えよ。こんな便利な薬まであるんだ、ダンジョン攻略なんて余裕だろ。」

 前田が仲間たちに配ったこのドラゴンブラッドという薬、前田は王都の薬局で買ったと言ったが、実際は王都の闇市、ブラックマーケットで買った、裏ルート入手の非合法な薬である。

 前田が仲間たちに説明した通り、このドラゴンブラッドという薬には回復や強化といったメリットがある。

 しかし、非常に中毒性が高く、繰り返し使用すると、肉体が度重なる急速な強化に耐え切れず、血管や内臓、脳に深刻なダメージをもたらすデメリットがあり、インゴット王国他世界各国でも違法薬物の一つに指定され、所持や使用、製造を禁止されている。

 中々ランクが上がらないことに悩んだ冒険者がこの薬に手を出し、中毒患者となって中毒死するケースが多く、社会問題ともなっている。

 国や冒険者ギルドが中心となって、このドラゴンブラッドの取り締まりに力を入れており、冒険者ギルドではドラゴンブラッドを使用する冒険者が出ないよう、冒険者の育成や薬物乱用防止教室の開催などの活動に取り組んでいる。

 ドラゴンブラッドを使用することは冒険者にとって恥ずべき行為とされ、冒険者の名を汚す犯罪行為というのが世間一般の認識である。

 前田は大病院を経営する医者の息子で、よく実家の病院から薬を黙って盗み出していた。元いた世界でも違法ドラッグに手を出していたが、それらは大病院を経営する父が権力とコネを使って揉み消していた。

 尚、前田が元いた世界で違法ドラッグにまで手を出していた事実を仲間たちは知らない。

 前田からドラゴンブラッドを受け取った4人は何も知らず、喜んでそれを受け取ったのだった。

 「サンキュー、敦。やっぱお前は頼りになるぜ。勇輝より敦の方が勇者筆頭に向いてると俺も思うぜ。勇輝は実際口だけでそんなに強くもねえし、聖剣だって失くしちまうしよ。敦の方について正解だったわ。ダンジョン攻略して聖双剣とかを手にしたら、一番最初に聖武器を手に入れて覚醒した敦が勇者筆頭で即決まりっしょ。そん時は俺たちにもお恵みを頼むぜ、未来の勇者筆頭様。」

 前田に向かってそう言ったのは、「剣士」美川みかわ 照彦てるひこだった。

 「おう、まかせとけ。「剣聖」にして未来の勇者筆頭であるこの前田様がお前らに良い思いを味わせてやるよ。金でも女でも権力でも好きなものをやろう。だから、協力頼むぜ、お前ら。」

 前田は笑いながら、他の仲間たちにそう言った。

 インゴット王国からラトナ公国までの道中、前田たち一行は、インゴット王国の追っ手を振り切り、道中立ち寄った町や村から金品を奪い、ギャンブルや女遊びに興じた。

 だが、ラトナ公国に入ると、他国のため、インゴット王国国王の王命も役に立たない。

 道中、派手に遊んで金に困った彼らは、あろうことかラトナ公国の立ち寄った町や村で強盗をした。

 インゴット王国からラトナ公国の街道に出没する剣士五人組の強盗の話はすぐにラトナ公国中に広まった。

 リーダー格の男が赤い刀身の立派な装飾の付いた双剣を所持していることが大きな特徴として挙げられ、ラトナ公国や冒険者ギルドから賞金首のお尋ね者として指名手配された。

 しかし、剣士五人組の強盗の犯行は突発的で、顔を隠している上、死傷者が出ることは無く、深夜の時間帯に貴金属店から現金や宝石類が盗まれるくらいで、強盗たちにかけられた賞金の金額はわずか50万リリアであった。

 偶に街道に出没する、Cランクギリギリの賞金しか出ない、特徴はあるけれどどこにでもいるような強盗に興味を示す者は少なかった。

 インゴット王国を馬車で出発して、南西方向に街道を進んで2週間後、前田たち一行は、ラトナ公国の首都に着いた。

 前田たち一行は首都に着くと、通行人に改めて「火の迷宮」のあるボルケニア山への道を訊ねた。

 それから、前田たち一行は首都で最も高級な宿に部屋を取り、首都で最も高級なレストランで昼食をとった。

 昼食を食べ終えると、ふたたび馬車に乗り、首都から馬車で街道を西に半日ほど進んだところにあるという、「火の迷宮」のあるボルケニア火山へと、前田たち一行は向かった。

 「ククっ、ダンジョンを攻略して聖双剣を手に入れされすれば、俺が勇輝に替わって勇者筆頭ってわけだ。俺がこの異世界の頂点に君臨する日がすぐそこまで来ていやがる。マジで笑いが止まらねえぜ、おい。」

 前田は浮かれていた。

 前田の仲間たち4人も浮かれていた。

 ダンジョンを攻略して、薔薇色の将来を手にした自分たちの姿を想像し、浮かれまくっていた。

 それが叶いもしない夢だと、所詮は絵に描いた餅とも知らずに。

 前田たち一行がダンジョンを攻略できず、主人公、宮古野 丈によって彼ら全員が悲惨な結末を迎えることになるとは、彼らは誰一人として予想していなかった。






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