第五話 主人公、火の迷宮を攻略する、そして、聖双剣を破壊する

 僕たちがラトナ公国に到着して冒険者活動を始めてから3週間あまりの月日が経とうとしていた。

 僕たち「アウトサイダーズ」はクリスとともに、「火の迷宮」と呼ばれるダンジョンを攻略するため、早朝、馬車に乗って、「火の迷宮」があるボルケニア火山へと向かった。

 ラトナ公国の首都から馬車で街道を西に半日ほどかけて進んだところにボルケニア火山がある。

 早朝に馬車でラトナ公国の首都のクリスの屋敷を出発し、途中休憩を挟んで、街道を西に進むこと、約半日。

 ちょうど夜に入って間もない頃、目的地であるボルケニア火山へと無事、到着した。

 ボルケニア火山は標高3,000mほどの高さがある活火山で、草木はわずかに生える程度で、ほとんど石や岩だらけである。

 僕たちは馬車を降りると、とりあえず残っていた1件のハズレ依頼にとりかかることになった。

 このハズレ依頼はあくまで「火の迷宮」を攻略するための隠れ蓑、アリバイ工作である。

 僕たちがボルケニア火山にいても外部から疑われない必要があった。

 依頼内容は、ボルケニア火山の麓に住み着いたというSランクモンスター、サラマンダー一匹の討伐。

 達成報酬は400万リリアで相場の約4割、ランクはSランクという高難易度。

 依頼主はボルケニア火山の麓近くの町の住人たちであった。

 サラマンダーが麓から時折下りてきては麓近くの町で火を吐き暴れるため、困っているという。サラマンダーによる火事が原因で街の住人から死傷者が大勢出ているとのことだった。

 僕たちはボルケニア火山に登ると、サラマンダーを発見すべく山の麓をくまなく探した。

 そして、1時間後、火山の麓の北側にいるサラマンダーを発見した。

 サラマンダー、異世界召喚物の物語やゲームによく登場するモンスターだ。蜥蜴の姿をした火の精霊とも言われることがある。

 サラマンダーの外見は、体長10メートルほどの大きさで、尾が5メートルほどの長さである。全身はオレンジ色の鱗で覆われ、黄色い瞳に、喉の部分に大きな袋を持っている。袋は火炎袋と呼ばれるもので、口から火炎を吐くための特殊な器官だと聞いた。

 岩陰に隠れて観察していると、どうやらブラッドボアと呼ばれる巨大な猪に似たモンスターを口から吐く火炎で焼き殺し、ブラッドボアの肉を食べている様子だった。

 さすがSランクモンスター、同じモンスターを餌にするとは実にたくましい。

 岩陰に隠れながら、僕は、玉藻、酒吞、鵺、クリスに向かって言った。

 「みんな、話を聞いてくれ。あのサラマンダーの討伐は、今回は僕一人でやる。サラマンダーは口から鋼鉄を一瞬にして溶かすと言われるほどの強烈な火炎を吐くそうだけど、おそらく僕なら火炎を浴びても問題ないと思う。それに、Sランクモンスターの火炎攻撃の威力を知っておきたい。もし、勇者たちが火を使って攻撃した時、その火がSランクモンスターと同等以上の威力だと分かった場合、事前に対抗策を用意して迎え撃つことができる。サラマンダーを一人で討伐するのが難しいと分かったら、みんなの力を借りるよ。それじゃあ、行ってくるよ。」

 僕は四人にそう言うと、岩陰から出てサラマンダーへと近づいて行った。

 「霊拳!」

 僕は霊能力を全身に纏った。

 僕の全身を霊能力の青白い光が包む。

 僕は一歩ずつゆっくりと歩いてサラマンダーへと近づく。

 正面から近付く僕の姿に気づき、サラマンダーがブラッドボアの肉を食べるのを止め、僕の方に顔を向けた。

 そして、僕がサラマンダーから2メートルほどの距離にまで近づいた瞬間、急にサラマンダーが口から僕目がけて火炎を吐いた。

 火炎放射器から出るような勢いでサラマンダーの吐く火炎が僕の全身を焼こうと襲ってくる。

 だが、霊能力を纏った僕の体に、サラマンダーの火炎は通用せず、焦げ目一つ付かなかった。

 「Sランクモンスターの火炎ってのは案外大したことはないな。良い参考基準になったよ。」

 僕はそう言うと、右手を思いっきりサラマンダーの口の中に突っ込んだ。

 僕に口の中へ右手を突っ込まれ、サラマンダーの吐く火炎の量が徐々に減ってきた。

 それに比例するように、サラマンダーの喉の火炎袋がどんどん膨らんでいく。

 「グゴっ!?」

 僕に右手を喉奥まで突っ込まれ、火炎を吐き出せず、サラマンダーが苦しむような鳴き声をあげた。

 次の瞬間、バアーンという大きな音を立ててサラマンダーの火炎袋が破裂した。

 そして、破裂した火炎袋から漏れ出た大量の火炎を全身に浴びて、サラマンダーは一瞬で焼け死んだ。

 僕はサラマンダーの焼死体から熱が冷めるのを待つと、サラマンダーの焼死体を腰のアイテムポーチへと収めた。

 サラマンダーの討伐を終えると、僕は岩陰にいて様子を見守っていた玉藻、酒吞、鵺、クリスの四人に声をかけた。

 「みんなお待たせ。サラマンダーの討伐依頼は無事、終わったよ。Sランクモンスターの火炎は想像以上の威力じゃなかったよ。良いデータが取れたと思う。」

 「お疲れ様でした、丈様。Sランクモンスターの火炎をものともしないとはさすがでございます。」

 「丈、お疲れさん。Sランクモンスターのソロ討伐が当たり前のようにできるようになるとは大した成長だぜ。今のお前でも十分勇者たちを軽くひねりつぶせると思うぜ。」

 「丈君、お疲れ様。丈君の霊能力はますます進化している。この調子なら必ず勇者たち全員を倒せるはず。期待してる。」

 「エクセレント、ジョー君!まさかサラマンダーの火炎を直に浴びても平気とは驚いたよ。それに、サラマンダーの口の中に手を突っ込んで、炎をわざと暴発させて倒すなんて普通は考え付かない方法だよ。君だからこそできる方法だと言えるよ。ますます君の能力を研究したくなったよ、私は。後、全てのハズレ依頼の達成、おめでとう。そして、本当にありがとう。私も国民も大助かりだよ。君たち「アウトサイダーズ」には後でたっぷりと私から御礼を改めてさせてもらおう。」

 「みんな、ありがとう。それじゃあ、これから「火の迷宮」へ行こう。ここからが本番だ。みんな、気を引き締めていこう。」

 僕たちは会話を終えると、それからボルケニア火山の中腹にあるという「火の迷宮」へと向かった。

 2時間ほど山を登ると、標高1,500mを超えたあたりで、ちょうど山の中腹にある巨大な洞窟が僕たちの前に現れた。

 洞窟の入り口には見張り役と思われる人造ゴーレムが2体立っていた。

 入り口の周りには、「光の迷宮」で見たような、半透明の光る薄い膜が張ってあった。洞窟の入り口を守るための結界であった。

 僕はクリスに言った。

 「クリス、手筈通り、人造ゴーレムの機能停止と結界の解除を頼む。」

 「了解。あれらは全部私が作った物だし、私の権限でいつでもどうにかできるからね。お安い御用さ。」

 クリスはそれから、結界を発生させている魔道具を止め、見張り役の人造ゴーレムたちを呼びよせると、人造ゴーレムたちの機能を停止させた。

 洞窟の入り口の前まで移動すると、僕はみんなに作戦内容を伝えた。

 「よし。それじゃあ、これから予定どおり「火の迷宮」のダンジョン攻略を始める。みんな、洞窟に入る前に買ったコートを着るように。まず、「火の迷宮」内は火山と繋がっているため、高温になっている。そこで、鵺にブリザードを起こしてもらい、そのブリザードの冷気をダンジョンの中へと注ぐ。高温のダンジョンを冷やすだけじゃなく、ブリザードの冷気でダンジョン内のモンスターたちを凍らせて一気に殲滅する。ついでに罠も凍らせて作動できないようにする。ダンジョン内部の凍結が完了したと見られるタイミングでダンジョンに突入し、一気に最深部まで向かい、ダンジョンを踏破する。最後に聖双剣を破壊してダンジョンの攻略終了とする。「火の迷宮」はダンジョン攻略後、ブラックオリハルコンの採掘場として利用するので、なるべくダンジョンは傷つけないよう注意してくれ。尚、ダンジョンに入る際の隊列の並びは、先頭から玉藻、僕、クリス、鵺、酒吞童子の順とする。以上が作戦になる。みんな、何か質問はあるかい?」

 「ありません。」

 「俺もねえ。」

 「特にない。」

 「私もないよ。」

他の四人が答えた。

 「では、攻略開始だ。鵺、ブリザードを起こしてくれ。」

 「了解、丈君。みんな、一旦入り口から離れて。後、ブリザードで飛ばされないよう注意して。」

 僕、玉藻、酒吞、クリスはコートを着ると、一旦洞窟の入り口から離れた。

 僕たち四人は近くの岩陰に隠れながら様子を見守った。

 洞窟の入り口に立った鵺は、僕たちが近くの岩陰まで移動したのを確認すると、右手を空中に向けてかざした。

 僕たちの上空にどんよりとした灰色の大きな雲ができると、急に猛烈な吹雪が吹き始めた。

 鵺はブリザードを発生させると、ブリザードの向きを変え、「火の迷宮」の洞窟の入り口から内部へとブリザードを注ぎ入れた。

 鵺がブリザードをダンジョン内に注ぎ始めてから30分が経過した。

 「鵺、もうブリザードを止めてもらっても大丈夫だ。止めてくれ。」

 「了解、丈君。」

 鵺が右手を下ろすと、ブリザードが止んだ。

 僕たちは岩陰から出て、洞窟の入り口へと向かった。

 ブリザードのせいで洞窟の入り口には雪が積もっていた。

 「鵺、お疲れ様。それじゃあ、みんな、ダンジョンの中へ入ろう。さっき言った隊列で中に入ろう。では、出発。」

 僕たち5人は縦一列になって、ダンジョンの中へと入った。

 ダンジョンの中に入ると、ダンジョンの壁や天井、地面は完全に凍り付き、地面には雪も積もっている。

 ダンジョンの構造は地下へと潜る構造になっていて、全部で八つの階層に分かれていた。

 洞窟のある第一階層から、最深部のある第八階層まで慎重に歩いて進んでいく。

 ダンジョン内部には大量のモンスターたちがいたが、ほとんど鵺の起こしたブリザードの冷気のせいで凍り付き、凍死していた。

 第一階層から第七階層まで順に、ウィスプ、ジャック・オー・ランタン、ファイアー・モス、ヘルハウンド、ボナコン、ファイアードレイク、サラマンダーなど、火に関連するモンスターたちがそれぞれ大量にいた。

 第七階層までモンスターたちと戦うこともなく、特に罠が作動して襲われることもなく、無事に僕たちはダンジョン内を進むことができた。

 そして、第八階層に続く階段を降りると、第八階層へと降りた僕たちの前に大きな扉が現れた。

 おそらく、ダンジョンの最深部に続く扉であろう。

 この扉の奥に、聖双剣があり、聖双剣を守るモンスターがいる。

 聖双剣を守るモンスターは、「光の迷宮」で聖剣を守っていたホーリードラゴンのお仲間と聞いている。

 すんなりこちらの説得に応じて、聖双剣を渡してくれるといいが。

 「みんな、この扉の奥がおそらくダンジョンの最深部だ。そして、この扉の奥に、聖双剣があって、聖双剣を守るモンスターもいるはずだ。モンスターの説得に失敗した場合は戦闘になる。戦闘になった場合はクリス、君は一旦この扉まで戻って身を隠してくれ。僕を含む残り四人はモンスターとの戦闘に臨む。それじゃあ、扉を開けるぞ。」

 扉が凍り付いていたため、僕は扉を蹴破った。

 扉が開くと、僕たちは扉をくぐって中へと入った。

 中に入ると、他の階層よりも広大な地下空間が広がっていた。

 周りにはマグマが流れ、マグマの中央に直径100mほどの丸い形の浮島のような岩があった。

 岩の上には赤色の台座があり、台座の上には赤い双剣が置かれていた。

 鵺がダンジョン内に注いだブリザードの影響でマグマは冷えて固まっていた。

 壁や天井、地面も凍っていた。

 僕たちはマグマや暑さを気にせず、難なく聖双剣の置かれている台座まで近づけたのだが、当然、聖双剣の後ろには、聖双剣を守るモンスターもいた。

 そのモンスターは、体長50メートルほどで、全身を赤い鱗で覆われ、翼はないが、巨大で太い四本の足を持ち、また、足の先から巨大で長く鋭い四本の黒い爪を生やしていた。一見巨大な蜥蜴にも見えるが、頭部は赤い瞳を持つ、巨大なドラゴンの頭であった。

 赤いドラゴンは体の半分以上が凍り付いていて、ブルブルと体を震わせていた。

 赤いドラゴンは僕たちの姿を見るなり、声をかけてきた。

 『へ、へっくしょん!き、貴様らか、ダンジョンを凍らせるなどというふざけた真似をする連中は!?これまでたくさんの勇者を見てきたが、ダンジョンを凍らせる奴など見たことがないわ!貴様ら全員、頭がどうかしているんじゃないのか!?』

 赤いドラゴンはちょっとお怒りのご様子だった。

 僕は赤いドラゴンに声をかけた。

 「寒い思いをさせたことは謝ります。どうか、僕たちの話を聞いてください。僕たちは勇者ではありません。僕たちはただの冒険者です。しかし、僕たちは決してあなたの敵じゃありません。僕たちはあなたが光の女神リリアから無理やり守らせているという聖双剣を破壊しに来ました。聖双剣を破壊してあなたをこのダンジョンから解放するのに協力します。僕たちはすでに「光の迷宮」を攻略して聖剣を破壊し、あなたのお仲間であるホーリードラゴンを助けました。ホーリードラゴンから同胞たちを助けてほしいとの依頼もあり、今回この「火の迷宮」へと僕たちは来たんです。」

 僕の言葉を聞いて、赤いドラゴンは驚いた。

 『何、ホーリードラゴンだと!?アヤツから依頼を受けて聖双剣の破壊に来ただと!?もし、その言葉が誠なら願ったり叶ったりだ。しかし、貴様たちがこの聖双剣を盗みに来た盗人の可能性もある。聖双剣が悪人の手に渡りでもしたら一大事だ。何か貴様たちが信頼に足りうる人間だという証はあるか?』

 赤いドラゴンからそう訊ねられ、僕は腰のアイテムポーチからホーリードラゴンにもらった「光竜の石」を取り出し、それを赤いドラゴンへと見せた。

 「これは以前、ホーリードラゴンから信頼の証にといただいた「光竜の石」です。こちらが証拠にはなりませんか?」

 「光竜の石」を見るなり、赤いドラゴンは声を上げた。

 『おおっ、それは正しく「光竜の石」ではないか。なるほど、あの頑固者がその石を渡すということは、貴様たちがあの頑固者から信頼足りうる実力と人格の持ち主であると認められたことが分かる。良かろう。貴様たちを信じるとしよう。我はファイアードラゴン、竜王の一匹にして「火竜」とも呼ばれる者だ。では早速、そこにある聖双剣を破壊してくれ。こんな窮屈な洞窟に閉じ込められてうんざりしていたところだ。よろしく頼む。』

 「信じていただき、ありがとうございます。では、破壊させていただきます。霊拳!」

 僕は霊能力を身に纏うと、右の拳を目の前にある聖双剣目がけて振り下ろした。

 僕の振り下ろした拳が聖双剣へと直撃すると、パリーンという音を立てて、聖双剣は跡形もなく粉々に砕け散った。

 聖双剣が破壊された瞬間、ダンジョン内が若干暗くなり、周りを流れていたマグマが消えた。

 『ご苦労であった、名も知らぬ冒険者たちよ。おかげでやっとこの忌々しいダンジョンから解放される。そこの黒き冒険者よ、名を何と言う。』

 「宮古野 丈です。ジョーとでも呼んでください。」

 『ジョーだな、分かった。お前たちにはこれをやろう。』

 ファイアードラゴンがそう言うと、ファイアードラゴンの額から赤く光り輝く宝石が現れ、フワフワと空中を浮かんで、僕の前に飛んでやってきた。

 『それは「火竜の石」と言う。それを使えばいつでも我を召喚することができる。我の力を借りたい時はそれを使ってこの我を呼ぶがいい。我から貴様たちへの礼だ。受け取るが良い。』

 「ありがとうございます。では、頂戴します。」

 僕はファイアードラゴンから「火竜の石」をもらうと、それをアイテムポーチへと入れた。

 『勇者でもない人間がこのダンジョンを攻略し、聖双剣を破壊する日が来ようとは夢にも思わなかった。今でも実に不思議だ。もしかしたら、あの方の御導きかもしれんな。とにかく、礼を申すぞ、冒険者たちよ。我はこれで失礼する。さらばだ。また会おう。』

 ファイアードラゴンはそう言い残すと、地面に穴を開け、地中深く潜っていった。

 ファイアードラゴンを見送った後、僕は後ろを振り返ると、仲間たちに向けて言った。

 「みんな、これでダンジョン攻略は完了だ。モンスターとの戦闘を避けれたし、聖双剣も無事、破壊できた。後はここを撤収するだけだ。酒吞、念のため、聖双剣があったこの最深部の空間だけは破壊してくれ。聖双剣がダンジョンの崩落の影響で破壊されたように偽装するんだ。みんなで扉を出た後、破壊工作を頼む。」

 「了解だぜ、丈。任しときな。」

 みんなで一緒に扉を出ると、酒吞は背負っていた金棒を右手に持つと、扉からまっすぐに、最深部の空間目がけて金棒を振り下ろした。

 「オラァー!」

 酒吞の振り下ろした金棒が地面に直撃した瞬間、扉から最深部の空間にまっすぐに地面が割れ、衝撃で最深部の空間の天井が崩落した。

 「ありがとう、酒吞。みんなもお疲れ様。それじゃあ、帰ろうか。」

 僕たちはそれから来た道を引き返し、ダンジョンの外へと出た。

 ダンジョンの外へ出ると、外はすっかり真っ暗で、時刻はちょうど深夜だった。

 僕たちはボルケニア火山を下山し始めた。

 「いやぁ、「アウトサイダーズ」の諸君、本当にありがとう。これでブラックオリハルコンの採掘が可能になった。ブラックオリハルコンが入手できるようになれば、世界の科学技術は進歩するし、我が国の経済だってますます潤うことになるだろう。そして、私の研究もさらに進むことだろう。本当にありがとう。」

 クリスが笑いながら、僕たち「アウトサイダーズ」に御礼を言った。

 「どういたしまして。クリス、聖双剣は火山活動の影響によるダンジョンの崩落で紛失したと、もし、世界各国から「火の迷宮」や聖双剣について問い合わせがあった場合はそう答えてくれ。情報操作を忘れずに頼むよ。」

 「ハハハ、分かったよ。私だって聖双剣の破壊に加担した人間の一人だからね。その辺はよく心得ているよ。一国のトップである私が聖双剣の紛失は自然災害によるものだと言えば、各国の連中は信じざるを得ないさ。まぁ、そんなに心配しないでいてくれたまえ。それより、屋敷に帰ったらみんなで一緒にパアーっとお祝いでもしようじゃないか。ダンジョン攻略祝いのために、すでにパーティーの手配はすませてきてあるんだ。五人で喜びを分かち合おうじゃあないか。」

 「相変わらず気の早いことだな、本当。まぁ、せっかくだし、みんなでお祝いするとしようか。」

 こうして、僕のさらなる復讐が完了した。

 聖双剣を破壊したことで、「剣聖」が覚醒する機会は完全に失われ、勇者たちの戦力のさらなる弱体化に成功した。

 ざまぁみやがれ、前田。インゴット国王。光の女神リリア。

 僕は復讐が成功したことに思わず笑みをこぼした。

 だが、ダンジョン攻略に成功してまもなく、僕はさらなる復讐の機会へと恵まれた。

 僕の異世界への復讐の旅は次なるステージへと向かっていた。

 勇者たちへの死という名の報復がこれから始まろうとしていた。



























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