第七話 【処刑サイド:聖女たち&皇帝】聖女たち&皇帝、自分たちの悪事が成功したと勘違いする、そして、自分たちが破滅へと向かっていることに気付かない

 主人公、宮古野 丈が、ズパート帝国皇女でもあるナディア医師を暗殺から守り、皇女派の貴族たちを救出し、ナディア医師たちとともに新皇帝率いる現帝国政府に対し、クーデターを起こすことを決意したその日のこと。

 二日前の夜、「聖女」花繰たち一行は「黒の勇者」こと主人公がズパート帝国に来たことを知った。

 そして、主人公が、彼女らが帝都全域にばらまいた死の呪いを解呪し、帝都全域の患者たちを治療したこと、彼女らが死の呪いをばらまき、患者たちを治療して勇者の資格を取り戻すという狂言を実行する悪事の証拠を握っていることを知った。

 新皇帝サリムとともに、謎の奇病の流行騒ぎを利用して、治療代と称して国民から金を巻き上げる悪事まで働いていた「聖女」たち一行は、主人公の手で自分たちの悪事が露見する前にダンジョンを攻略して聖盾を手に入れ、「聖女」を覚醒させることで勇者の地位を不動の物にする、という起死回生の策を思いついた。

 「聖女」たち一行はダンジョン攻略のため、新皇帝サリムに頼み、ズパート帝国の軍隊を貸してもらえることになった。それと、冒険者ギルドからもダンジョン攻略のため、冒険者を雇って同行してもらえることになった。

 「聖女」たち一行は準備を整えると、翌日の朝、すぐに騎士たちとともに帝城の地下にある、帝城と「土の迷宮」の間を結ぶ、移動用の特殊な魔法陣を使って、「土の迷宮」へと一足先に向かった。

 「土の迷宮」は、ズパート帝国の帝都から北へ馬車で2週間から3週間ほどかけた距離に位置する、巨大なピラミッドである。

 高さ200m、下辺の長さが400mある超巨大ピラミッドで、砂漠のど真ん中にある。

 日中の平均気温は約30℃、最高気温は40℃に達し、夜の最低気温は0℃という、寒暖差が激しく、近くには水場もない、非常に過酷な環境の中にある。

 「聖女」たち一行は予定では二日後の朝に、総勢30万人の騎士や冒険者で混成される軍隊とともに、「土の迷宮」のダンジョン攻略を行う予定である。

 新皇帝サリムにより、ダンジョン攻略開始後も追加で20万人の人員が派遣されるよう手配してもらった。

 50万人もの軍隊さえあれば、ダンジョン攻略も決して無理ではない、そう考える「聖女」たち一行であった。

 騎士たちや冒険者たちの手を借りて野営しながら、「聖女」たち一行はダンジョン攻略の日が訪れるのを待っていた。

 一方、新皇帝サリム・ムハンマド・ズパートは、「聖女」たち一行と結託し、謎の奇病の流行騒ぎを利用して金儲けを行う悪事が露見し、主人公と妹のナディア医師が手を結んでクーデターを起こすことを恐れ、ナディア医師の暗殺を企んでいた。

 闇ギルドから暗殺依頼を断られ、おまけに絶縁宣言までされたことで、当初は焦っていたサリムであったが、何としてでもナディア医師を暗殺すべく、頭を働かせた。

 そして、ダンジョン攻略のために募集をかけて帝城に集まってきた冒険者たちの中から、金に困っている妻子持ちの数人の冒険者たちを選んで、自身の下へと呼んだ。

 サリムは、ダンジョン攻略に協力した際の100倍の報酬を遺族たちに支払うことを条件に、冒険者たちにダイナマイトを体に付けて特攻し、自爆テロにみせかけ、ナディア医師を暗殺するよう命令した。

 金に困っていて、妻子たちを養う余裕がない冒険者たちは、妻子たちへ必ず報酬を支払うことを条件に、サリムの要求を飲み、ナディア医師の暗殺依頼を引き受けた。

 冒険者たちに暗殺依頼をした翌日の午後1時過ぎのこと。

 帝城の執務室で酒を飲んでいたサリムの耳に、遠くから爆発音らしき音が聞こえてきた。

 爆発音を聞いて、サリムはニヤリと笑みを浮かべた。

 「ついにやったか、あの冒険者ども。後はナディアの奴が死んでくれれば万事解決だ。」

 30分後、40代後半の男性がサリムのいる執務室を訪れた。

 「失礼いたします、陛下。先ほど騎士たちより、ナディア皇女様が爆弾テロに巻き込まれ、亡くなられたとの報告が入りました。それから、ナディア皇女様と同行していた「黒の勇者」こと、ラトナ公国のラトナ子爵殿も爆発に巻き込まれ、死亡されたとのことです。」

 「そうか!ついにナディアの奴が死んだか!おまけに「黒の勇者」まで死んでくれるとはな!目障りなあの二人が死んでくれるとは嬉しい限りだ!ズイール宰相、このことを早速、ユミたちにも伝えてやれ!ハッハッハ、これで俺様の天下は盤石というわけだぜ!皇女派の貴族は全員捕えてある!もう誰も、この俺様に逆らえる奴はいない!報告、ご苦労だった、ズイール宰相!お前には後で特別ボーナスをやろう!今日の俺様はすこぶる気分が良い!」

 「はっ、ありがとうございます、陛下。それで、例の暗殺に協力した冒険者たちの遺族への報酬の支払いはいかがなさいますか?」

 「はっ、そんなモン、最初から払う気なんてねえよ!テロリストの家族に払う金なんぞねえ!連中との約束は所詮口約束だ!連中に依頼した証拠なんて何もねえ!連中の家族が何か言ってきても適当に追い払っとけ、いいな?」

 「かしこまりました、陛下。さすがは陛下です。陛下の悪知恵にはいつも感服させられております。今後ともよろしくお願いいたします。」

 「お前こそ、相当な悪だな、ズイール。あの冒険者どもを見繕ってきたのはお前だからな。自爆を命じたのは俺様だが、生贄を選んだのはお前だ。まぁ、これからも俺様のために働いてくれよ。なぁ、ズイール宰相殿。」

 「お任せください、サリム陛下。このズイール、粉骨砕身で陛下のために働くつもりです。宰相の地位をいただいた恩に報いるためにも、精一杯働かせていただきます。それでは、失礼させていただきます。」

 そう言うと、ズイールは執務室を出ていった。

 ズイールが去った後、サリムは一人呟いた。

 「ナディアも「黒の勇者」も死んだ。後はユミたちがダンジョンを攻略すれば、全て解決だ。「黒の勇者」が死んだ以上、これ以上、俺様たちの計画を邪魔する奴はいないはずだ。くくっ、最後に勝つのはやっぱり俺様、というわけだ。そうだ、ユミたちのダンジョン攻略が終わり次第、俺様とユミの結婚式を盛大に上げるとしよう。ついでに、目障りな皇女派の貴族も全員、処刑するか。それと、闇ギルドも潰すとしよう。この俺様にたてついて、「黒の勇者」に味方した罰だ。フロストの奴を殺して、この俺が闇ギルドを牛耳るって、手もあるな。まったく、笑いが止まらねえぜ。」

 ナディア医師と主人公が死んだと思い、サリムは酒を飲みながら一人笑った。

 午後7時過ぎのこと。

 執務室で上機嫌で酒を飲んでいたサリムの下に、現宰相のズイールが血相を変えて飛び込んできた。

 「た、大変です、陛下!?一大事でございます!」

 「何だ、騒々しい?許可なくこの俺の部屋に入るなと、いつも言っているだろうが?一大事とは何だ、一体?」

 「落ち着いて聞いてください、陛下。城の地下牢に捕えていたはずの皇女派の貴族たちが脱獄しました。それも、全員です。」

 ズイールの報告を聞き、サリムは目を丸くして驚き、手に持っていた酒瓶を落としそうになった。

 「はあっ!?皇女派の貴族どもが脱獄しただと!?それも全員だと!?おい、全員脱獄とはどういうわけだ!?城の騎士どもは何やってんだ!?逃げた貴族どもの行方は掴んでいるんだろうな、おい?」

 ズイールは顔を青ざめさせながら、恐る恐る答えた。

 「交代の看守役の騎士たちが、夕食を持って貴族たちのいる城の地下牢を訪ねたところ、先に牢の番をしていたはずの騎士たちが全員、眠っており、不審に思った交代の騎士たちが牢を覗いたところ、捕えていたはずの皇女派の貴族たちが全員、姿を消していたとのことです。貴族たちの行方については現在、全力を挙げて行方を追っております。尚、捕えていた貴族たちの家族も全員、行方を眩ませました。それと、彼らの下に監視役として派遣していたはずの騎士たちと全員、音信不通の状態にあります。陛下に申し上げます。恐らく、皇女派の貴族たちに味方する何者かの手引きにより、貴族たちは全員脱獄したものと考えます。それも、300人もいた囚人たちを我々の警備に気付かれず、全員脱獄させるなど、只者ではありません。皇女派の貴族たちに協力する巨大な勢力が現れた可能性がございます。オネスト元宰相を中心に、大規模なクーデターを起こす可能性もございます。ここは一時、ダンジョン攻略を中止し、クーデターに備え、帝城の守りを固める必要がございます。ダンジョンに派遣している騎士たちや冒険者たちも呼び戻すべきかと考えます。」

 ズイールの報告を聞き、サリムは苛立ちを露わにした。

 「くそがっ!?ナディアも「黒の勇者」も死んだというのに、またこの俺様の邪魔をする奴が現れるとは!?オネストのくそジジイどもめ、いつの間に脱獄の用意をしてやがったんだ?奴ら全員に脱獄されたのは厄介だ!だが、連中だけでクーデターを起こしたところで、兵の数はこちらが圧倒的に有利だ。帝都には50万もの騎士たちがいる。ダンジョン攻略のために呼びつけた騎士たちだっている。オネストどもがバックにどんな連中を味方につけたところで、何も問題はねえ。ズイール、念のため、帝都にいる騎士たちを全員、城に集めて警備させろ。一歩たりとも、敵をこの城の中に入れるんじゃねえ。それと、冒険者たちにも呼びかけて城を守らせろ。ダンジョン攻略は中止せず、予定通り進めろ。ただし、攻略は予定を繰り上げて今すぐ始めさせろ。ユミたちに急いでそのことを伝えろ、分かったな?」

 「かしこまりました、陛下。早急に手配いたします。」

 サリムの命令を受け、ズイールは執務室を出ると、急いで命令通りに動き始めた。

 ズイールが執務室を出て行くと、サリムは酒を飲みながら、ぼやいた。

 「ヒック。せっかく邪魔者が消えたと思ったのに、また邪魔者が現れやがった。まぁ、いい。オネストのくそジジイどもなんぞ、大した脅威じゃあねえ。連中のバックにいる奴は気にはなるが、束になってかかってこようが、この俺様には傷ひとつつけることはできねえ。こっちには圧倒的な兵力がある。ユミたちがダンジョンを攻略さえすれば、俺様は真の勇者を抱える偉大な国の指導者だ。誰も俺様に手出しはできねえ。せいぜい、悪足掻きをするがいい、カスどもが。」

 サリムはそうぼやくと、憂さ晴らしに酒を飲み続けるのであった。

 サリムがオネストたち皇女派の貴族たちの脱獄に関する報告を受け、それから、「聖女」たち一行にダンジョン攻略をすぐ開始するように伝えろと、ズイールはサリムより命令を受けると、すぐに騎士を使って、「聖女」たち一行にサリムからの命令を伝えさせた。

 騎士からの伝令を受け取って、「聖女」花繰たち一行は顔を顰めた。

 「クーデターが起こりそうだから、さっさとダンジョンを攻略してこいだと?本当に大丈夫かよ、あの皇帝様はよ?俺たちが帰った途端、クーデターで反皇帝派の連中が城を制圧してて、俺たちを犯罪者として逮捕する、なんてことにはなっていたらマジで最悪だぜ?どうするよ、おい?」

 不安を口にしたのは、「盾士」祝吉 楽であった。

 「落ち着け、楽。皇帝の話を信じるなら、反皇帝派の連中より、皇帝派の戦力の方が圧倒的優位だということだ。宮古野の奴だって死んだ。なら、クーデターが起こったところで、皇帝が負ける確率は低い。念のため、帝城に帰還する前にクーデターが起こったかどうか、戦況を聞いてから帰還するかどうか決めればいい。クーデターが起こって皇帝が敗北したと分かった場合は、ズパート帝国には戻らず、別の国へ移動すればいい。覚醒した「聖女」を連れていると分かれば、俺たちを勇者として受け入れてくれる国もあるかもしれない。国外逃亡をする可能性が浮上したのは痛いところだが、概ね俺たちの想定通りに事は動いている。何も心配することはない。」

 冷静な表情を浮かべながら意見を述べたのは、「盾士」上川 順であった。

 「そうね。上川の言う通りだわ。戦況は断然、こちらが有利よ。反皇帝派だか何だか知らないけど、こっちには大勢の軍隊がついている。仮に、あの皇帝が負けることがあっても、私らが聖盾を手に入れて、優美が「聖女」に覚醒さえすれば、誰も私らには手出しできなくなる。本物の勇者であることを証明すれば、私らを勇者として必要とする国も現れるはずよ。宮古野の奴が死んだ今、どこの国も新しい勇者を欲しがっている。私らを売り込む絶好のチャンスが巡ってきたわけじゃない?このチャンスを絶対に物にすべきよ。」

 勇者として完全復活するチャンスが巡ってきた、そう言うのは「盾士」郡元 鈴であった。

 「でもさぁ、私らが死の呪いをばらまいたことを反皇帝派とか言う連中にバラされたら、いくら私らが本物の勇者に戻っても簡単には受け入れてくれなくない?私らのやったことって、ぶっちゃけテロじゃん?テロ事件の犯人を勇者だからって受け入れてくれる国なんてまずなくない?信用してもらうためにも何か対策しといた方がいいんじゃない?」

 他国に行っても勇者として受け入れてもらえるのか、不安を口にするのは「回復術士」小松原 春香であった。

 「まだクーデターが起こったわけでも、皇帝が反皇帝派に負けたわけでもない。だけど、春香の言う通り、国外逃亡しても私らを他の国があっさり信用して受け入れてくれる保証はない。本物の勇者に戻っても、何か手土産も別に用意しておかないと、受け入れてはもらえない可能性はあるわね。そうだ。他の勇者の連中を私たちで捕まえて犯罪者として売り渡すってのはどうよ?今のところ、姫城以外の「七色の勇者」に関するニュースは聞かないじゃん。他の勇者の連中もダンジョン攻略に手こずっている可能性がある。私たちみたいにレベルが回復していない可能性もある。国際指名手配犯を正義の勇者として捕まえたと聞けば、国のお偉いさんたちを説得するいい交渉材料になると思うけど、どう?」

 「回復術士」千町 愛が、他の指名手配中の勇者を捕まえ、他国との交渉材料に利用することを提案した。

 「それいいかも。別に勇者が全員揃ってる必要なんかないし、何の後ろ盾もない犯罪者を捕まえたところで問題ないしね。島津を捕まえるのが一番楽そうじゃない?聖剣もないし、一人だけだし、アイツが一番捕まえるのが簡単そうでしょ?どこにいるかは知らないけど、見つけさえすれば速攻で捕まえられるでしょ?」

 「キャハハハ。春香の言う通りだわ。それに、元勇者筆頭で元「勇者」の島津なら、捕まえればきっと高くで売れるでしょ?しっかし、春香も結構ゲスいこと考えるねえ。昔は島津の大ファンだったじゃん?」

 「もう、嫌なこと思い出させないでよ、鈴。島津なんて所詮顔だけの無能じゃん。「勇者」のジョブとスキルもらっといて、あんなにポンコツだとは思わなかったし。アイツを好きだった頃の自分を思い出すと、マジ吐き気がしてくるんですけど。って言うか、鈴だって島津のこと好きだったくせに。私だけ恥ずかしい思いさせるのは無しだから。」

 「ごめんて、春香。まぁ、私も島津のことはちょっと良いかなぁ、なんて思った頃もあったけどさ。でも、異世界に来て勇者になってからあんなダメ男になるとは思ってもいなかったのよ。今思うと、マリアンヌ姫が離れていった時点で島津とは手を切るべきだったかもね。そうしたら、今頃は国外逃亡とか考えずに済んでいたかもね。」

 小松原と郡元の二人が、笑いながら話をした。

 「けっ。見た目だけで人を好きになるから、そういう痛いしっぺ返しを食らうんだよ。なぁ、順。」

 「そうだな、楽。少なくとも、俺たちは外見だけじゃなく、むしろ中身の方で人の善し悪しを判断しているからな。まぁ、島津の口車に乗せられて馬鹿な事をしてしまったのは俺たちも一緒ではあるがな。」

 祝吉と上川が、女性陣に向かって苦笑しながら言った。

 「中身で人を判断しなかったのはこの場にいる全員に言えることね。まぁ、過ぎたことは忘れましょ。それで、優美、もしもの時は国外逃亡、国外へ逃亡する時は他の勇者の連中を捕まえて手土産に差し出す、っていう方向で行こうと思うけど、どうかしら?」

 千町が、「聖女」花繰に訊ねた。

 「うん。私もみんなの意見に賛成だよ。クーデターがどうなるかはまだ分からないけど、必要な時は国外へ逃亡するべきだと思う。他の勇者の人たちを捕まえるのには少し抵抗があるけど、私たちが勇者として受け入れてもらえるためには仕方のないことだと思うの。でも、なるべく他の勇者の人たちは傷つけずに捕まえたいかな。他の勇者のみんなも大切なクラスメイトだし、できれば、一緒に勇者として戦ってほしいと思うの。みんなは甘いって言うかもしれないけど、私はやっぱり少しでもみんなとの友情を大事にしたい、そう思うの。ダメ、かな?」

 花繰の言葉に、他のメンバー五人は笑ったが、皆納得したような様子だった。

 「大丈夫よ、優美。私たちも本気で他の勇者と殺し合いをしようだなんて、思っていないわよ。いざとなったら、ダンジョン攻略を手伝う見返りに、わざと捕まってもらうよう頼めばいい話よ。今日、これから実際にダンジョンを攻略さえすれば、他の勇者の連中も私たちの、特に「聖女」として覚醒した優美の力をきっと欲しがるはずよ。クラスメイトと殺し合いをしたくないのは私たちも同じよ。島津の奴も、一応勇者なんだし、少しは役に立つはずでしょ。そんなに心配しなくても大丈夫。ホント、優美ってば優しいんだから。」

 郡元がそう言って、心配そうな表情を浮かべる花繰を宥めた。

 「それを聞いて安心だよ。そうだよね。私たちクラスメイトが本気で殺し合いなんてするわけないよね。私の考え過ぎだよね。良かったぁ、本当。」

 花繰がホッとした表情を浮かべながら言った。

 「よ~し。なら、善は急げ、だね。皇帝陛下もきっと私たちがダンジョンを攻略することを期待して待ってくれているはずだしね。私たちには軍隊がついている。みんなの体調も万全。私たちならきっとダンジョンを攻略できる。みんな、一緒にダンジョン攻略、頑張ろう!」

 花繰の掛け声に、「オー!」という声を上げて、他の五人も答え、ダンジョン攻略に向けて気合を入れるのであった。

 午後9時。

 「聖女」たち一行は、騎士たちと冒険者たちで混成される約20万人の軍隊とともに、ダンジョン攻略をすべく、「土の迷宮」へと突入した。

 「土の迷宮」の入り口をくぐりながら、花繰は考えていた。

 「当初の予定より人数は少ないけど、それでも20万人という圧倒的な数の力が私たちにはある。今も追加の人員をこちらに送ってもらっているし、これならダンジョンを攻略できる可能性はある。問題はクーデターの方ね。サリムが上手く鎮圧してくれるといいけど、もし、クーデターが成功されたら、帝都に戻るのは危険ね。例え私が「聖女」として覚醒しても、犯罪者として捕まる可能性が高い。サリムとつるんでいた以上、下手をすれば処刑される恐れもある。クーデターが成功したことが分かった場合は、すぐに国外へ逃亡することにしましょう。サリム、あなたのことは愛してはいるけど、私を助けてくれる力がないのなら、その時は不要よ。私を必要としてくれる人間は他に大勢いるんだから。私に愛してもらいたいなら、私に愛してもらえるだけの力を示してちょうだい。頑張ってね、サリム。」

 冷酷にも、自身と肉体関係を持ち、自身のダンジョン攻略に全面的に協力をしてくれる皇帝サリムでさえも、用済みとなればすぐにでも切り捨てることをためらいなく決断する花繰であった。

 「聖女」たち一行と新皇帝サリムは、自分たちの地位や身の安全を守るため、それぞれ行動を開始した。

 だが、彼女たちは自分たちの悪事が成功したと勘違いしていることに全く気が付いていない。

 自分たちがこれから行おうとしていることが全て失敗に終わることも気が付いてはいなかった。

 「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈は生きていた。

 そして、彼女たちの計画を尽く潰している事実を知らないでいた。

 「聖女」花繰たち一行と、新皇帝サリムは、主人公によって真っ直ぐに破滅という未来へと向かっているのであった。




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