第八話 主人公、クーデターを起こす、そして、暴君を成敗する
僕たち「アウトサイダーズ」がナディア医師を暗殺から守り、人質であった皇女派の貴族たちを帝城から救出し、ナディア医師たちとともに新皇帝率いる現政府に対するクーデターを実行することを決意した日の翌日。
悪逆非道の限りを尽くす新皇帝と、グルになってともに悪事を働く「聖女」たち一行を成敗すべく、僕たちは昨日からクーデターの準備を進めてきた。
正義と復讐の炎で、僕の心は燃えていた。
奴らのせいで500万人以上の罪もない人々の命が奪われた。
ズパート帝国の大勢の国民が、奴らのばらまいた死の呪いで苦しめられた。
僕の大事な仲間であるグレイが奴らの悪事に巻き込まれて死にかけた。
インゴット王国で僕の処刑に加担した恨みだって忘れてはいない。
新皇帝も「聖女」たちも、僕を怒らせた。いや、怒らせ過ぎた。
奴らは人の皮を被った悪魔だ。
奴らにかける慈悲など全くない。
問答無用で全員、殺す。
新皇帝と「聖女」たちに協力する連中も、容赦なく殺す。
一人残らず血祭りにしてやる。
午前8時30分。
僕たち「アウトサイダーズ」の六人は、認識阻害幻術を使って姿を消し、帝城の正門の傍へと来ていた。
帝城の周りは、大勢の騎士や冒険者たちで囲まれていた。
情報によれば、帝都にいる50万人もの騎士たちが招集され、さらに冒険者を緊急に雇い入れ、帝城の守りを固めているとのことであった。
また、ダンジョン攻略のために集められた騎士たちや冒険者たちも別にいるらしい。
敵は最低でも50万人。
一方、こちらはたったの6人。
だが、僕たち「アウトサイダーズ」の力はそんじょそこらの冒険者たちとはわけが違う。
たった一人で災害級のダメージを与える心強い味方が三人もいる。
僕、エルザ、グレイの実力だって、それなりの自信がある。
さて、異世界召喚物の物語では、主人公の多くは姿を隠すことなく、堂々と正面から一人で敵陣に乗り込み、主人公の持つ圧倒的なチート能力で、大勢の敵をあっという間に蹴散らす、というのが定番だが、異世界召喚物の物語が嫌いな僕にそんな無謀なことをする考えは微塵もない。
異世界召喚物のテンプレどおりの戦い方をするつもりは毛頭ない。
大体、大勢の軍隊相手に、姿を隠さず、たった一人で相手をしようなど、はっきり言って自殺志願者としか思えない行動だ。
それか、よっぽど自分の力に自信がある、自信過剰のナルシスト、あるいは脳筋馬鹿である。
とにかく、僕はたった一人で、姿をまる出しにして、軍隊を正面突破する、ということは絶対にしない。
僕は帝城を背に振り返ると、後ろにいたパーティーメンバー五人に声をかけた。
「みんな、最終確認だ。これより、帝城制圧作戦を開始する。決行は30分後、午前9時ちょうどに開始する。渡した懐中時計で時間を逐一確認するように。尚、南側の正面入り口は酒吞、西側は鵺、東側は玉藻、北側の裏口は僕、エルザ、グレイで担当する。中央のドーム型の屋根がある宮殿には、ナディア先生より回収を依頼された初代皇帝の肖像画がある。中央の宮殿だけは絶対に破壊しないよう、注意してくれ。それ以外の建物は気にせず、破壊してもらって結構だ。クーデター成功のためだ。きっとナディア先生も多少の破壊には目を瞑ってくれるはずだ。認識阻害幻術を使って姿を消しながら一気に奇襲をかけ、敵を一人残らず殲滅する。皇帝も「聖女」たちも見つけ次第、問答無用で殺す。それと、初代皇帝の肖像画の回収も忘れずに頼む。作戦は以上だ。みんなから最後に何か質問はあるかい?」
僕が訊ねると、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイがそれぞれ答えた。
「いえ、特に質問はございません。フフっ、城攻めとは胸が高まります。
「俺も質問はねえ。久しぶりに思いっきり暴れられるぜ。敵は全員、この俺がぶっ潰してやるぜ。」
「私も特に質問はない。私にかかれば、竜巻一つで余裕で敵を全員、始末する。私たちという恐怖を敵に刻み込む。」
「我も特に質問はない。たった六人で城攻めをすることになろうとはな。だが、我らなら何も問題はない。「真獅子獣剣」の威力を試す絶好の機会だ。悪党どもは全員、我が剣にて成敗してくれる。」
「アタシも質問はないぜ。六人だけで城攻めをしようとは、まったくぶっ飛んでいやがる。だけど、それでこそ「黒の勇者」じゃんよ。アタシら全員、透明人間だ。おまけに、ジョーや姉御たちもいる。敵が何人いようが怖くはねえ。アタシも思う存分暴れさせてもらうぜ。皇帝も勇者どもも全員、アタシの槍で串刺しにしてやるぜ。」
五人ともやる気満々といった表情だ。
「頼りにしているよ、みんな。必ず全員生きて、作戦を成功させよう。だけど、もし、不測の事態が起こった時は迷わず撤退してくれ。自分たちの命が最優先だ。それじゃあ、みんな配置についてくれ。みんなの健闘と無事を祈る。」
僕たち六人は、それぞれ自分たちの持ち場へと移動し、作戦決行の時を待ち続けた。
午前9時。作戦決行の時がやってきた。
僕たち「アウトサイダーズ」の六人は、ズパート帝国帝城制圧作戦を開始した。
南側の正面入り口では、金棒を右手に担いだ酒吞が行動を開始した。
「そいじゃあ、いっちょ派手に暴れるとするか。行くぜ!」
酒吞はそう言うと、ブンブンと金棒を派手にふり回しながら、城門目がけて突撃をかました。
酒吞のふり回す金棒の一撃を受けて、城門に立っていた騎士たちの頭や胴体が木っ端微塵に吹き飛んだ。
突然、騎士たちの頭や胴体が吹っ飛んだのを見て、他の騎士たちは動揺した。
「な、何だ、一体!?」
「き、奇襲だ!?一体、どこから攻撃しているんだ?」
すぐ目の前に、奇襲をかました酒吞がいるのだが、認識阻害幻術を使って姿を消しているため、誰も酒吞が堂々と正面から奇襲をかけたことに全く気が付いていない。
「俺ならここにいるってえの。まぁ、俺の姿も声も分からないわけだが。とにかく、この邪魔な門もぶっ壊すとするか。オラアアアーーー!」
酒吞は金棒を縦に思いっきり城門目がけてふり下ろした。
酒吞の金棒の一撃を受けて、城門が木っ端微塵に吹き飛んだ。
酒吞の攻撃を受けて、地面が揺れ、城壁にはいくつもの大きな亀裂が入った。
城門を木っ端微塵に吹き飛ばし、酒吞は堂々と帝城の中へと入っていく。
そして、城門前に群がる騎士たちや冒険者たちを、金棒を振り回しながら、全員薙ぎ払っていく。
仲間たちが次々に頭や胴体が突然吹っ飛び、ミンチにされていくのを見て、騎士たちや冒険者たちは訳が分からず、全員恐怖した。
姿が見えない酒吞の金棒による攻撃を恐れ、騎士たちや冒険者たちは殺されるのを恐れ、逃げ出す有様であった。
「けっ。この程度で逃げ出すとは情けない連中だぜ。だが、一人残らず殺せとの丈からの命令だ。全員、生きて帰すわけにはいかねえなぁ。」
酒吞は後ろをふり返ると、城門の方を見た。
崩れた城門の瓦礫を乗り越え、我先にと騎士たちと冒険者たちが逃げようとしていた。
「宮殿以外はぶっ壊していいってことだったよな。なら、テメエら全員まとめてぶっ潰してやるよ。オラアアアーーー!」
酒吞が地面に目がけて、思いっきり金棒を叩きつけた。
次の瞬間、凄まじい地震とともに、崩れた城門目がけて地割れが起こり、パックリと地面が割れた。
突然出現した地面の大きな割れ目に、城門ごと騎士たちと冒険者たちは落ちていった。
酒吞の金棒の衝撃で、南側の城壁が崩れ落ち、崩れ落ちた城壁の瓦礫が城の周りにいた騎士たちの上へと落ちてきて、全員、瓦礫の下敷きになり、そのまま息絶えた。
南側にいた騎士たちと冒険者たちは、酒吞の攻撃でほぼ壊滅した。
酒吞はふり返ると、正面の宮殿へと向かって、金棒を振り回しながら歩きだした。
金棒で正面にいる騎士たちを叩き潰しながら、酒吞はゆっくりと宮殿へと進んでいく。
「まだまだ敵さんはいやがるな。でも、大したことはねえな。南側は今の一撃で大分削ったはずだ。とにかく、目の前の雑魚どもを片づけながら、進むとするか。」
金棒で情け容赦なく敵をミンチにしながら一人城内を進んでいく酒吞であった。
西側の城壁の上には、日本刀を腰に下げた鵺の姿があった。
城壁の上から、騎士たちや冒険者たちを見下ろしながら、鵺は呟いた。
「皇帝と「聖女」たちに味方する害虫は一匹残らず駆除する。それじゃあ、駆除開始!」
鵺はそう言うと、空中高く飛び上がった。
そして、右手を帝城に、左手を西側の城壁へと向けた。
突如、黒い雲とともに、巨大な二つの竜巻が出現した。
巨大な二つの竜巻の出現にパニックになる騎士たちや冒険者たちは、悲鳴を上げながら竜巻に飲み込まれていった。
「た、助けてくれええーーー!?」
「た、竜巻だぁーーー!?逃げろおおおーーー!?」
風速200mを超える二つの竜巻の直撃を受け、帝城内にいた騎士たちや冒険者たちは風で吹き飛ばされ、あるいは竜巻に巻き上げられ、空中高くから落下して死亡した。
西側の城壁は竜巻の直撃であっという間に崩れ、また、西側の城壁の周りを警備していた騎士たちも竜巻で吹き飛ばされ、地面に落下して次々に死んでいった。
鵺の起こした二つの巨大な竜巻によって、西側にいた騎士たちと冒険者たちは全滅した。
西側の敵勢力を一掃したことを確認すると、鵺は竜巻を消した。
「これで害虫はほとんど駆除したはず。敵は全員、始末した。中央の宮殿は壊していない。私の仕事は完璧。後は皇帝と「聖女」たちを始末するだけ。連中を始末したら、丈君もきっとたくさん褒めてくれる。」
鵺は着地すると、日本刀を鞘から抜き、中央の宮殿へと歩いて向かっていく。
宮殿内から出てきた騎士たちの首を日本刀で刎ねながら、鵺は宮殿の中へ入っていくのであった。
東側の城壁の上には、鉄扇を右手に持った玉藻がいた。
「フフっ。皆さん、派手に暴れているようですね。では、私も作戦開始と参りましょう。私の毒にかかれば、例え何人兵を集めようが、無意味なこと。全員まとめて始末して差し上げましょう。そう、骨も残さずに。」
玉藻がゾッとするような暗い笑みを浮かべながら、鉄扇を顔の前でサッと開くと、鉄扇を頭の上へと掲げた。
「ハッ!」
次の瞬間、玉藻の持つ鉄扇からモクモクと紫色の煙が出て、煙が上空で雲のような姿へと変わった。
紫色の雲から、帝城の東側で警備に当たっている騎士たちと冒険者たちに、紫色の雨が降り注いだ。
紫色の雲と雨には認識阻害幻術が施されており、騎士たちと冒険者たちはそれらを全く目で視ることができなかった。
ポツン、ポツンと、何も知らない騎士たちと冒険者たちに、上空の紫色の雲から、見えない猛毒の雨が降り注ぐのであった。
「ん、雨?うおおお、痛ええ!?か、体が溶けるーーー!?」
「痛ええ、痛ええよぉ!?だ、誰か助けてくれええ!?」
肉体を瞬時に溶かす、視えない猛毒の雨を体に浴びて、騎士たちと冒険者たちは悲鳴を上げながら、肉や骨を溶かされ、服や装備を残したまま、次々に消滅していくのであった。
玉藻の放った視えない猛毒の雨を体に浴びて、東側の騎士たちと冒険者たちは壊滅した。
そう、骨も残さずにだ。
敵勢力が壊滅したのを見届けると、玉藻は城壁の上からゆっくりと着地した。
「悪逆非道な王に魂を売った下賤な輩に生きている価値など全くございません。せめて私の毒で死んだことを光栄に思うことです。まぁ、毒で殺された自覚は全くないでしょうが。さて、邪魔者は始末しましたし、私も宮殿へと向かうことといたしましょう。」
玉藻は騎士たちを始末すると、中央の宮殿へと向かった。
宮殿の中にいる騎士たちを、鉄扇から放つ毒針で始末しながら、玉藻は宮殿の中へと入っていった。
北側の裏口には、僕、エルザ、グレイの三人がいた。
「よし、じゃあ、作戦開始と行こうか。とりあえず、邪魔な裏口も騎士たちもまとめて排除するとしよう。エルザ、「真獅子獣剣」で裏口を吹っ飛ばしてくれ。思う存分、やってくれ。」
「任された、ジョー殿。」
エルザはロングソードを上段に構えると、エルザの全身が光り輝き、エルザの全身と剣を膨大な魔力が包み込んだ。
エルザのロングソードの剣先に魔力で構成された巨大な50mの光の柱が現れ、それから、光の柱はすぐに巨大な光の刃へと変形した。
突然、目の前に現れた巨大な光の刃に、裏口を守っている騎士たちと冒険者たちは動揺している。
エルザの背後に巨大な獅子の顔のようなマークが浮かび上がった。
その直後、ロングソードとともに、巨大な光の刃を裏口の門めがけてエルザが縦に振り下ろした。
「食らえ!真獅子獣剣!」
エルザの放った「真獅子獣剣」の巨大な光の刃が、裏口の門を一刀両断すると、裏口が崩壊し、一気に瓦礫の山へと姿を変えた。
裏口の崩壊に巻き込まれ、騎士たちが瓦礫の下敷きになった。
「お見事、エルザ!「真獅子獣剣」の威力もコントロールも完璧だよ!さすがは「獣剣聖」だな!」
「ほええーーー!エルザがこんな大技を使えるとは知らなかったぜ!アタシも早くトレーニングしてもらって強くなんねえといけねえな!必ず追いついてみせるぜ!」
僕とグレイが、「真獅子獣剣」の感想を口にした。
「ジョー殿の技に比べればまだまだだ。だが、褒めてもらえるのは素直に嬉しい。さぁ、道は拓いた。後は前進あるのみだ。共に行こうぞ、お二方。」
エルザが笑みを浮かべながら、前へ進もうとする。
前方には、まだまだ大勢の騎士たちと冒険者たちがいる。
「左右の連中が邪魔だな。正面は二人に任せた。僕は外の連中を始末することにしよう。」
僕はそう言うと、まず右側にいる騎士たちに向かって、両手の拳を握りしめ、正拳突きの構えをとった。
僕は霊能力を全開で解放し、霊能力を全身に纏った。
そして、右の拳に霊能力のエネルギーを集中させた。
「手加減は一切なしだ!霊波動拳!」
右側にいる騎士たちに向かって、まっすぐに右の拳を猛スピードで突き出した。
右の拳を突き出した瞬間、霊能力により音速を超えるスピードで右の拳が繰り出されたことにより、右の拳から拳圧が巨大な衝撃波、ソニックブームとなって放たれ、右側で警備をしていた騎士たちと冒険者たちを一斉に襲った。
「ギャアアアーーー!」
霊波動拳の衝撃波を食らって、騎士たちと冒険者たちが悲鳴を上げながら、衝撃波で吹き飛ばされ、体を真空の刃で切断され、五体をバラバラに切り刻まれながら死んでいった。
「続いてもう一丁!霊波動拳!」
続いて、左側にいる騎士たちと冒険者たちにも、霊波動拳をお見舞いした。
騎士たちと冒険者たちが悲鳴を上げながら、体をバラバラにされ、吹き飛んでいくのであった。
北側の城壁は霊波動拳の影響で崩れ落ち、さらにその下には無数の騎士たちのバラバラとなった死体が積み重なり、凄惨な血の海を作り出していた。
正面から突撃をしていたエルザとグレイは、後ろを振り返り、宮古野 丈が放った霊波動拳による惨劇を見ながら、感想を口にした。
「あのような技は我も初めてみたぞ。拳一発で数千、いや、数万の敵を薙ぎ払うとは、凄まじい威力だ。拳で風を巻き起こし、数万の敵をバラバラに切り刻むとは恐れ入った。つくづく常識外れな男だな。」
「ああっ、全くだぜ。拳一発で、それも相手に触れずに木っ端微塵に吹き飛ばすなんて、とんでもねえぜ。でも、それでこそアタシらが惚れた男ってわけだ。全てが常識外れの史上最強の勇者、「黒の勇者」様が付いている限り、アタシらは無敵だ。何も恐れるモノはねえ。だろ、エルザ?」
「その通りだな、グレイ。さぁ、我らもジョー殿に負けないよう、敵を一匹残らず駆逐するとしよう。」
「へへっ。一人残らず串刺しにしてやらあ。覚悟しろ、悪党ども!」
グレイとエルザは笑いながら、愛用のロングソードとパルチザンで、正面にいる敵を次々に殺していく。
視えないエルザの剣と、グレイの槍による攻撃を受けて、騎士たちと冒険者たちは二人の視えない攻撃に対応できず、血を流して死んでいくのであった。
先行するエルザとグレイの後を追いながら帝城の中に入ると、霊波動拳を連発させながら、帝城内の騎士たちを僕は殲滅していくのであった。
北側は僕たち三人の攻撃で、騎士たちと冒険者たちの死体の山ができていた。
中央の宮殿へ向かうと、北側の入り口にはエルザとグレイの二人に殺されたであろう、騎士たちの死体があった。
宮殿内に入ると、廊下も騎士たちの死体でいっぱいであった。
僕は走って宮殿内を進むと、エルザとグレイの二人に追いついた。
「二人ともお疲れ様。外にいた騎士たちはほとんど始末した。後は皇帝と「聖女」たちを始末するだけだ。一階の一番中央の部屋が確か王の間だったはずだ。見取り図によれば、玉座の下に外へと続く隠し通路があって、非常時にそこから脱出することになっていたはずだ。皇帝が騒ぎを聞きつけて逃亡する可能性がある。すぐに王の間へ向かおう。」
僕、エルザ、グレイの三人は急いで、王の間へと向かった。
一方、時は少し遡り、新皇帝サリム・ムハンマド・ズパートは相変わらず執務室で呑気に酒を飲んでいた。
クーデターが起こっても、50万人超の兵力が自分にはある。
皇女派の貴族たちがクーデターを起こしても、圧倒的な戦力差で鎮圧する自信があった。
そんなサリムが執務室で酒を飲んでいると、突然、謎の地震が彼を襲った。
窓の外からは大勢の悲鳴が聞こえてくる。
驚いたサリムが窓の外を覗くと、城の西側に巨大な竜巻が発生し、騎士たちと冒険者たちが竜巻に吹き飛ばされ、次々に死んでいく光景が目に入った。
帝城の四方から次々と聞こえてくる大音量の悲鳴に、サリムは恐怖した。
青ざめた表情を浮かべ、困惑するサリムの下に、騎士の一人が慌てて駆け込んできた。
「陛下、今すぐお逃げください!帝城は謎の攻撃を受け、軍は壊滅状態となりました!急ぎ、我々と脱出をお願いします!」
「軍が壊滅状態だと!?謎の攻撃とは何だ!?ズイールの奴はどうした!?」
「攻撃方法はバラバラですが、敵は我々に全く視えない様々な、それも大規模な威力のある攻撃を使って帝城を攻撃しております!すでに城内にいた騎士たち以外は全滅しました!それと、ナディア皇女を筆頭に、皇女派の貴族たちが各地で一斉に武装蜂起を始めました!今回の帝城襲撃は恐らくナディア皇女たちによるクーデターの一部と思われます!とにかく、敵の数も攻撃方法も未知数で、我が軍は壊滅状態です!ズイール宰相は一足先に避難をされました!陛下も至急、避難をお願いいたします!」
「な、ナディアの奴が生きているだと!?あの女がクーデターを起こしただと!?馬鹿な!?あの女は「黒の勇者」とともに死んだはずじゃ!?ま、まさか、「黒の勇者」も生きているのか!?謎の攻撃とは奴の仕業か!?くそっ、奴らに一杯食わされたということか!?忌々しい連中だぜ!?だが、今は逃げるのが先決だ!ズイールめ、俺を置いて一人だけ逃げやがるとはムカつくぜ!見つけ次第、即ぶっ殺してやる!どいつもこいつも本当にムカつくぜ!」
サリムは苛立ちを露わにしながら、騎士の誘導に従って、避難を始めた。
避難をしている最中も、帝城の廊下から騎士たちの悲鳴が絶えず聞こえてくる。
騎士たちの悲鳴を聞いて、サリムは全身から冷汗を流しながら、急いで脱出口のある王の間へと向かった。
王の間へ到着し、玉座の下にある隠し通路から脱出を図ろうとするが、何故か、玉座が動かず、脱出口が現れない。
焦るサリムが、近くにいた騎士たちを怒鳴りつけた。
「おい、どうなっていやがる!?何で玉座が動かねえんだ!?さっさと直せ!?この俺様を殺す気か、テメエら!?」
「少々お待ちください、陛下!先ほどズイール宰相が使われた際は確かに動いておりました!すぐに直しますので!」
実は、脱出直後、ズイールは追っ手が来ることを防ぐため、玉座がふたたび動いて脱出口が現れないよう、秘かに破壊していったのであった。
保身のために部下に裏切られ、脱出口を破壊されたことに気が付かないサリムであった。
焦るサリムがいる王の間の入り口の扉が、突然蹴破られた。
ドーンという音とともに、扉が勢いよく吹き飛んだ。
扉が吹き飛ぶと同時に、傍にいた騎士たちが一斉に「ウッ。」という呻き声を上げると、口から泡を吐いて全員、サリムの目の前で死んだ。
騎士たちの首元には、金色の針が刺さっていた。
「ひっ!?」
驚いて悲鳴を上げ、思わず尻もちをついたサリムの前に、突然、六人の男女が姿を現した。
「だ、誰だ、貴様ら!?お、俺様がズパート帝国皇帝サリム・ムハンマド・ズパートと知っての狼藉か!?この俺様を殺せば、貴様らは全員テロリストだ!?分かっているのか!?」
震えた声で喚くサリムを、突然目の前に現れた六人の男女が、主人公率いる「アウトサイダーズ」が馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、口々に言った。
「テロリストと一緒になって悪事を働くような奴が、偉そうに説教をするなよ。お前が花繰たちと一緒に謎の奇病の流行騒ぎを利用して金儲けをしていたことはとっくの昔にバレているんだよ。ナディア先生を暗殺しようとしたことも分かっている。お前の計画は僕たちで尽く潰した。帝城の軍隊は僕たちで全員、始末した。残るはお前と「聖女」たちだけだ。おとなしく地獄に落ちてもらおうか、自称皇帝の暴君さん?」
「この者が悪逆非道の皇帝ですか?随分と品性の無い顔をしていますね。それに、酒の匂いがします。散々悪事を働いてきた上に、私たちの奇襲を受けるまで呑気に酒を飲んでいたとは、とても王とは思えぬ振る舞いです。正に救いようのないクズですね。」
「こいつが「聖女」どもと組んで悪事を働いていた皇帝かぁ?醜悪な面をしていやがるぜ。自分の国に死の呪いをばらまかれておいて、大勢の国民が死んだってのに、自分はテロリストなんかと組んで国民から金を巻き上げるたぁ、全くもって外道以下のゴミ野郎だぜ。ちょっと顔もゴブリンに似ていねえか?マジで今すぐぶっ殺してやりてえ気分だぜ。」
「この男はあのクソ勇者どもとグルになって散々、悪事を働いた。生きる価値もない、害虫以下のクソ野郎。即刻、抹殺すべし。」
「我が名はエルザ・ケイ・ライオン。ペトウッド共和国最高議会議長だ。貴様の悪事はすでに全世界に露見した。「聖女」たちと貴様がグルになって何の罪もない大勢の民の命を奪ったことは分かっている。貴様のような民の命を何とも思わぬ外道に、一国の王を名乗る資格は微塵もない。貴様の部下は我らが全員、始末した。おとなしく、成敗されるがいい。」
「よぉ、ナディアの馬鹿兄貴。テメエと「聖女」どものせいでアタシも散々な目に遭わされた。テメエみたいな下衆野郎に皇帝を名乗る資格なんぞねえ。すぐに串刺しにして地獄に送ってやるじゃんよ。覚悟しな。」
僕たち「アウトサイダーズ」は、それぞれ新皇帝に向かって怒りを露わにした。
「そ、そうか、貴様らが「アウトサイダーズ」か!?真ん中にいる黒い男が「黒の勇者」か!?き、貴様らのせいで俺様の計画は全部、台無しだ!だが、俺様は簡単には死なん!聞いて驚け!この部屋には爆弾が仕掛けてある!スイッチは俺様の手の中だ!俺様を殺そうとすれば、貴様らも道連れに爆弾で木っ端微塵だ!分かったら、そこをどきやがれ!動くんじゃねえぞ!」
悪足掻きを見せる新皇帝に、ため息をつきながら僕は返事をした。
「見え透いた嘘は止めろ。この部屋に爆弾が仕掛けられていないことは分かっている。大体、自分の城に、しかも王の間なんて大事な場所に爆弾を仕掛ける王様がいるわけないだろ?いい加減、無駄な悪足掻きは止めておとなしく死んでもらおうか?」
「くそがっ!テメエみたいなガキが偉そうに俺様に説教するんじゃねえ!どいつもこいつも本当にムカつくぜ!今すぐ、ぶっ殺してやらあ!」
そう言うと、新皇帝は腰に下げた、全長60cmほどの、剣先が鎌状になったケペシュという剣を、腰の革製の鞘から抜いて、僕に向かって真っすぐに斬りかかってきた。
僕は全身を霊能力で瞬時に覆うと、新皇帝を迎え撃った。
「死ねえ!狂毒斬!」
新皇帝サリムの右手に持つ剣の刀身が、緑色の液体に包まれ、そのまま僕目がけて剣が振り下ろされた。
新皇帝の振り下ろした剣を、僕は右手で掴んで受け止めた。
「馬鹿が!俺様の剣には精神を狂わせる毒が塗ってあるんだよ!狂い死にしやがれ、クソガキがぁ!」
新皇帝は笑いながら、僕に向かって言った。
だが、いつまでたっても僕は剣を掴んだまま、平然とした様子であった。
「な、何で平気な顔をしていやがる!?く、くそっ、離しやがれ!?」
驚く新皇帝に向かって、僕は笑いながら答えた。
「おあいにく様でした。僕にはどんな状態異常攻撃も通用しないんだ。精神を狂わせる毒?その程度の毒が僕に通用するわけないだろ?茶番はお終いだ。とっとと地獄に落ちろ、クズ野郎!」
僕はそう言うと、剣を握っている右手の力を込め、新皇帝の剣の刀身を粉々に破壊した。
「なっ!?」
「じゃあな、クズ野郎。霊拳!」
僕は右手に力を込めると、霊能力の込められた右の拳で、思いっきり新皇帝の顔を殴り飛ばした。
僕の右ストレートのパンチを顔面に食らい、頭が木っ端微塵に吹き飛ばされ、新皇帝はその場で頭部のない死体となって絶命した。
新皇帝を討ち取った僕は呟いた。
「ひとまず、皇帝の皮を被ったクズ野郎は始末した。皇帝に味方した連中も皆殺しにした。残るは「聖女」たちだが、この城にいないところを見ると、連中はダンジョンにいる可能性が高いな。とにかく、ダンジョンへ向かうとするか。」
新皇帝を倒した僕に、玉藻たち五人が声をかけてきた。
「お疲れ様です、丈様。見事、悪逆非道な皇帝を討ち取られました。残すは「聖女」たちだけです。いよいよ、復讐の本懐を遂げる時がやって参りましたね。引き続き、この玉藻、全力で丈様のお手伝いをさせていただきます。」
「お疲れ、丈。最後までみっともなく悪足掻きなんぞしやがって、本当に救いようのねえ野郎だったな、あの皇帝はよ。まぁ、あの皇帝が死んだ以上、この国もようやく平和になるだろうさ。後は、元凶である「聖女」どもをぶっ殺すだけだ。連中にはきっちり引導を渡さなきゃいけねえなぁ。俺も連中をぶっ殺すのに手を貸すぜ。期待して待ってな。」
「お疲れ様、丈君。皇帝の皮を被った害虫は駆除した。残るはクソ勇者どもを、勇者の皮を被った害虫以下のテロリストたちを始末するだけ。連中は塵も残さず、即刻全員始末するべし。人の命を弄んだ罪は大きい。何なら、ダンジョンごと私の手で連中を始末する。「聖女」たちを絶望のどん底に叩き落として、地獄に送ってやる。」
「お疲れであった、ジョー殿。悪しき皇帝は無事、討ち取られた。残すは此度の謎の奇病の流行騒ぎを起こした張本人である「聖女」たちの首を討ち取るのみだ。連中が生きている限り、ふたたび同じような惨劇が起こるに違いない。一刻も早く、連中を成敗せねばならん。我も「聖女」たちの討伐に全力で手を貸そう。」
「お疲れさん、ジョー。下衆野郎の馬鹿兄貴が死んだと聞けば、ナディアも喜ぶだろうぜ。国民だけじゃなく、実の妹まで殺そうとするなんて、本当に救いようのない奴だぜ、まったく。後は「聖女」どもをぶっ殺すだけだ。連中にもきっちり借りを返さねえとなぁ。アタシの槍で串刺しにして、きっちり連中を地獄に送ってやるじゃんよ。」
「みんな、ここまで本当にお疲れ様。引き続き、「聖女」たちの討伐にみんなにも協力してもらうよ。「聖女」たちは恐らく、今、ダンジョンにいるはずだ。アイツらがダンジョンを攻略できるとは思わないが、万が一の可能性もある。聖盾を手に入れられたら厄介だ。とにかく、急いで「土の迷宮」へ向かおう。地下の魔法陣を使えば、すぐにダンジョンの前に着くはずだ。必ず「聖女」たちを僕らの手で倒そう。」
僕たちは「聖女」たちの討伐に向けて、決意を露わにした。
帝城の地下へ向かうと、巨大な魔法陣が床に描かれている部屋があった。
床に魔力を流し込むことで起動し、目的地である「土の迷宮」まで一瞬で人や物を転送する仕組みとのことだ。
僕たち六人は魔法陣の上に乗った。
それから、魔力の代わりに僕は霊能力を床の魔法陣に注ぎ込み、移動用の魔法陣を起動させた。
床の魔法陣が起動すると、青い光を放ちながら、光が僕たちの体を包み込んだ。
光に包まれてから30秒後、目的地の「土の迷宮」の前へと到着した。
超巨大なピラミッドである「土の迷宮」の入り口には、大勢の騎士たちと冒険者たちがいて、続々とダンジョン攻略のため、中へ入っていく様子であった。
幸い、僕たちの周りには誰もおらず、また、誰も僕たちには気付いていなかった。
僕たちはキャンプテントの後ろに隠れると、玉藻の認識阻害幻術を使って姿を消した。
それから、僕たちは騎士たちと冒険者たちの合間を縫って、「土の迷宮」の中へと潜入したのであった。
新皇帝にして暴君、サリム・ムハンマド・ズパートは倒した。
帝城にいた皇帝派の連中は全員、始末した。
皇帝と「聖女」たちの悪事はナディア先生たちによって全世界に明るみにされた。
ナディア先生率いる皇女派のクーデターは無事、成功した。
皇帝は死に、「聖女」たちの後ろ盾となる者はもう誰もいない。
待っていろ、「聖女」ども。
お前たちにもう逃げ場はない。
「土の迷宮」が、ダンジョンがお前たち全員の墓場になる。
お前たちがばらまいた死の呪いで死んだ、大勢のズパート帝国の人々の恨み、そして、僕を処刑した恨みを、お前たち全員に味わわせてやる。
お前たち全員、地獄に叩き落としてやる。
僕の異世界の悪への復讐は、ついに幕を開けたのであった。
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