第三話 主人公、光の迷宮を攻略する、そして、聖剣を破壊する

 カトブレパスを討伐してから二日後、僕は依頼を受けた、「光の迷宮」のすぐ近くに現れたバジリスクの討伐へと向かった。

 今回の遠征の主な目的は、「光の迷宮」のダンジョン攻略にあった。

 バジリスクの討伐はあくまでダンジョン攻略の隠れ蓑に過ぎない。

 今回は一人ではなく、「アウトサイダーズ」のパーティーメンバー全員で挑む予定だ。

 ダンジョンと聞く以上、どんな強力なモンスターたちや恐ろしい罠が仕掛けてあるか分からない。

 異世界召喚物の物語に定番のように出て来る、ダンジョン。宝を守る強力なモンスターたちや侵入者除けの大量の様々な種類の罠が仕掛けられた迷宮。遺跡や洞窟など、その姿は様々だが、ダンジョンを攻略する者に財宝や聖なる武器などをもたらす、異世界召喚物の物語には欠かせない存在として描かれている。一般の冒険者たちが挑戦する描写も多く、世界各地に無数のダンジョンがあることも多いが、僕のいる異世界アダマスのダンジョンは世界に七つしかなく、勇者たちしか挑戦することを許されていないそうだ。

 だが、そんな異世界の事情など、僕には関係ない。

 例えどんな手段を使ってでも、必ず「光の迷宮」を攻略し、そして、聖剣を破壊してやる。

 勇者たちを強化させたりするものか。

 さあ、復讐の幕開けだ。

 ノーザンの町から南西方向に馬車で三日ほどかけて街道を進んだ森の中に、「光の迷宮」はあると、先日他の冒険者たちから聞いた。

 いつものことながら、僕は馬車など使ったりはしない。

 僕には鵺という飛行能力を持つ心強い仲間がいる。

 ノーザンの町を出ると、すぐ近くの森の中に入り、人目が無いことを確認すると、僕は鵺に頼み、彼女に運んでもらいながら、空を飛んで移動した。

 玉藻、酒吞の二人は僕にとり憑き、僕の体の中へと入った。

 毎度のことながら、いつも鵺にお姫様抱っこされながら運ばれるのはやはり少し恥ずかしい。

 今回は長時間のフライトになるため、途中休憩を挟みながら、移動した。

 ノーザンの町を出発してから六時間ほどで、目的地である「光の迷宮」へと辿り着いた。

 時刻はちょうど地球で言う午後3時くらいだろうか。

 早朝に出たが、とっくにおやつの時間になっていた。

 僕たちはとりあえず、「光の迷宮」のすぐ近くの森の中に着陸した。

 この森のどこかにバジリスクが3匹潜んでいると、依頼書には書かれていた。

 僕たちは着陸すると、森の中を探索して回った。

 森の中を探索し始めてから、およそ1時間後、森の中にいるバジリスクたちを僕たちは発見した。

 バジリスクは、体長3メートルほどの大きさで、緑色の鱗に、赤い瞳を持つ、頭に鶏のような鶏冠が生えた大蛇の姿をしていた。

 「みんな、とりあえず一旦しゃがんで、身を隠して。大きな音も立てないように。」

 僕は、玉藻、酒吞、鵺の三人に、小声で指示した。

 三人は僕の指示に従い、しゃがんだ。

 僕はバジリスクについて説明を始めた。

 「みんな、あのバジリスクというモンスターの特徴は、視線で相手を石化させる能力にある。要するに、バジリスクと目が合った者は石に変えられてしまうんだ。異世界召喚物の物語でよく出て来るモンスターで、大体は蛇や蜥蜴の姿をしているけど、この異世界では蛇らしい。それから、牙には猛毒があるから、噛まれないよう注意が必要だ。Aランクモンスターだから油断禁物だ。石化に猛毒と、状態異常攻撃のオンパレードで、おまけに蛇だからおそらく相手の体温を感知して襲ってくる、隙の無い相手だ。接近戦だと分が悪い。遠距離攻撃で確実に仕留める必要がある。誰か良いアイディアはないかい?」

 僕が三人に訊ねると、鵺が手を挙げて言った。

 「丈君、私に任せて。良い方法がある。」

 そう言うと、鵺は空に向けて右手をかざした。

 急に、僕やバジリスクたちのいる森の上に、黒い雷雲が発生した。

 雷雲はゴロゴロという音を立てて、雲の中を雷が走り、光っている。

 次の瞬間、雷雲からバジリスクたち目がけて雷が落ちた。

 雷の凄まじい音と閃光に、僕や玉藻、酒吞は思わず、目を閉じ、耳をふさいだ。

 雷が鳴り止むと、いつの間にか僕たちの頭上にあった黒い雷雲は姿を消していた。

 そして、目の前には、鵺が起こした雷の直撃を受けて真っ黒こげになったバジリスクたちの死体が転がっていた。

 僕たちは立ち上がり、恐る恐るバジリスクたちの死体に近づいた。

 バジリスクたちの死体は焼死体の域を超え、もはや、バジリスクたちの姿をした炭同然という有り様だった。

 僕は死体が崩れないよう、慎重に、腰に巻いたアイテムポーチにバジリスクたちの死体を収納した。

 ううむ、ギルドの人たちにこれらをバジリスクたちの死体ですと見せて果たして信じてもらえるだろうか?ただのデカい炭だとは言われないだろうか?

 しかし、今回のバジリスク討伐はあくまで「光の迷宮」攻略の隠れ蓑で、報酬をもらいたいとも特に思っていなかったので、結果オーライとしよう。

 「ありがとう、鵺。バジリスクたちへの雷を使った攻撃は良い判断だった。パーティーの戦術の幅がさらに拡がったと思う。討伐、お疲れ様。」

 僕は鵺に労いの言葉をかけた。

 「丈君の役に立てて良かった。雷が必要になったらまた言ってね。」

 鵺は嬉しそうにそう言った。

 「さてと、表向きの目的は達成したわけだ。みんな、昨晩説明はしたけれど、これからの予定について改めて伝える。よく聞いてくれ。僕たちはこの後、七つの聖武器の一つ、聖剣があると言われる、「光の迷宮」と呼ばれるダンジョンの攻略に挑む。決行のタイミングは深夜とする。目的はただ一つ、ダンジョンにある聖剣の破壊、もしくは奪取にある。できれば、聖剣は完全に破壊し、決して勇者たちを強化させないことがベストだ。みんなには悪いが、僕はこの「光の迷宮」の攻略を機に、勇者たちへの本格的な復讐を始めるつもりだ。もし、僕たちが「光の迷宮」を攻略し、聖剣を破壊したことが国に発覚したら、僕たちは全員お尋ね者になる。S級冒険者やSランクパーティーの資格をギルドから剥奪される可能性もある。過酷な異世界での生活が待ち受けているかもしれない。それでも、僕の復讐に付き合ってくれるかい?」

 僕は玉藻、酒吞、鵺の三人に訊ねた。

 三人は笑いながら返事をした。

 「わたくしたちの覚悟は最初から決まっております、丈様。例え何があろうと、地獄の底までお付き合いいたします。微力ながら、最後まであなた様の復讐にお付き合いさせていただきます。」

 「俺たちの覚悟は最初っから決まってる。地獄だろうとどこであろうと、俺たちはこの命尽きるまで、お前と一緒だ、丈。いや、死んでも、ずっと一緒だぜ。お前が復讐を望むなら、とことん最後まで付き合ってやるよ。」

 「私たちはどこまでも丈君の後に付き従うだけ。例え付き従った先が地獄でも、私たちは構わない。丈君が復讐をしたいなら、私たちはその復讐を全力でサポートする。決して後悔はさせない。」

 三人の言葉を聞いて、僕は胸が熱くなった。

 「ありがとう、三人とも。なら、最後まで僕の復讐に付き合ってもらうよ。もう後戻りはできない。さぁ、ダンジョン攻略という名の復讐を始めようか!」

 僕は、ここに復讐開始の狼煙を上げた。

 僕たちは森の中で携帯食料や水をとりながら、夜が訪れるのを待った。

 深夜。動物たちや鳥たちが寝静まった頃、「光の迷宮」攻略のため、僕たちはついに動き始めた。

 森の中を進むと、半透明の光る膜に覆われた、黄金に輝くギリシャ風の巨大な神殿が僕たちの前に姿を現した。

 神殿一帯を包む光はおそらく神殿を守る結界だろう。

 黄金の柱に黄金の壁、黄金の屋根という黄金一色の神殿、あれが「光の迷宮」か。

 神殿の入り口の前には騎士が二人立っていた。

 おそらく見張り役の騎士だろう。

 騎士たちはあくびをしたり、雑談をしたりと、暇そうにしている感じだ。

 まさか自分たちが見張っている「光の迷宮」を襲う者などいるはずがないと、完全に油断仕切っている。

 結界もあるためか、思った以上に警戒は緩い。

 僕たちは森の中からそっと「光の迷宮」を観察した。

 「「光の迷宮」の前には、あの騎士二人以外誰もいない。結界を張っているのはあの騎士二人か、それとも、結界を常時張る魔道具、アイテムの類があるんだろう。だけど、結界なんて僕たちには何の問題もない。」

 僕はそう言うと、後ろを振り返り、後ろにいた仲間たちに声をかけた。

 「これより「光の迷宮」のダンジョン攻略を開始する。まず、ダンジョンを覆う結界を破壊する必要がある。酒吞、君にあの結界を破壊してもらう。君の怪力で思いっきりあの結界を壊してくれ。結界の破壊と同時に、見張りの騎士二人を始末する。玉藻、騎士たちの始末は君に任せる。できれば、君の毒で騎士たちの死体を溶かしてくれ。なるべく僕たちの仕業であるという痕跡は残したくない。警戒網を突破した後は、玉藻、僕、鵺、酒吞の順番に一列に並んで、「光の迷宮」の中を進んでいく。目標は「光の迷宮」の地下最深部にある聖剣。聖剣を発見後、速やかにこれを破壊する。決してミスは許されない。みんなから他に質問はあるかい?」

 僕は三人に作戦内容を伝え、確認をとった。

 玉藻、酒吞、鵺が答えた。

 「ありません。」

 「俺もないぜ。」

 「私も問題ない。」

 「よし、それでは、攻略開始!」

 僕たちは一斉に森の中から飛び出し、「光の迷宮」目がけて向かって行った。

 先頭を切って、酒吞が金棒片手に結界へと向かって行った。

 「オラァ、行くぜー!」

 酒吞が右手に持った金棒を豪快に結界目がけて振り下ろした。

 酒吞の振り下ろした金棒が結界に直撃した直後、ドーンという大きな衝撃音が鳴った後、結界全体にひびが入り、それから、パリンパリンというガラスの割れるような音を立てて、結界は跡形もなく崩れ去り、消滅した。

 突然の事態に、見張り役の騎士たち二人は慌てふためいている。

 「な、何だ、一体!?何で結界が壊れた!?」

 「見ろ!侵入者だ!おい、そこの四人組、止まれ!自分たちが何をやっているか分かってるのか!?おい、止まれ!止まれと言っているだろ!?」

 僕たちの姿を見つけて騎士たちがギャアギャア騒いでいるが、僕たちはそれを無視して進んでいく。

 「玉藻、騎士たちを始末しろ!」

 僕は玉藻に指示した。

 「かしこまりました。丈様。」

 玉藻が着物の懐から鉄扇を取り出した。

 そして、手に持っている鉄扇を横に振った。

 「はっ!」

 玉藻の鉄扇から猛毒の付いた毛針が二本放たれ、毛針が騎士たちの喉元に突き刺さった。

 「グハっ。」「ガハっ。」

 騎士たちは口から泡を吐き、白目を剥いてその場に倒れた。

 そして、騎士たちの体は、服や鎧、武器を残し、みるみると溶けていった。

 1分後、騎士たちの体は完全に溶けて無くなった。

 警戒網を無事、突破し、神殿の階段を上り、神殿の入り口にまで辿り着いた。

 僕は三人に声をかけた。

 「酒吞、玉藻、二人ともお疲れ様。相変わらず見事なお手並みだったよ。冒険者としてこの4週間あまり依頼をこなしてきた経験もしっかり活かされている。さて、いよいよここからが本番だ。さっき説明した隊列でダンジョンの中を進むぞ。玉藻、みんなに認識阻害の幻術をかけてくれ。おそらく、ここがダンジョンなら、異世界召喚物の物語では、ダンジョン内では無数のモンスターが出現し、宝を狙う侵入者を襲う仕組みになっている可能性が高い。冒険者たちから聞いた話によると、この「光の迷宮」というダンジョンは地下に続いているそうだ。おそらく、地下の階層を進むにつれ、各階層にいるモンスターのランクが上がっていく、そんな感じだと思う。あいにく、いちいちモンスターたちと戦うつもりは僕には無い。はっきり言って時間の無駄だ。異世界召喚物の物語のテンプレな展開に付き合う必要はない。モンスターたちは無視して、ダンジョン内に仕掛けてあるかもしれない罠に注意しながら、まっすぐ聖剣のある地下の最深部まで一気に行くぞ。みんな、頼むよ。」

 「かしこまりました、丈様。」

 「了解だぜ、丈。」

 「分かった、丈君。」

 玉藻、酒吞、鵺の三人が僕に返事をした。

 それから、玉藻に認識阻害の幻術をかけてもらい、僕たちは一列になってダンジョン内を慎重に歩いて進んだ。

 ダンジョンの中は、黄金色の壁に黄金の柱、黄金のタイルの床と、周りは黄金一色だった。正直言って、成金趣味のようで、あまり僕は好みじゃない。

 ダンジョン内は床や壁などから光が発せられ、とても明るかった。

 そして、思った通り、ダンジョン内部は、無数の様々なモンスターたちでいっぱいだった。

 ダンジョン内部について解説すると、第一の階層は大量のスライム、第二の階層は大量のゴブリン、第三の階層は大量のコボルト、第四の階層は大量のオーク、第五の階層は大量のオーガ、第六の階層は大量のバジリスク、第七の階層は大量のコモンドラゴンであった。

 モンスターの詳しい生態に関する説明は割愛するが、階層を下るごとにモンスターの強さ、ランクがFランク、Eランク、Dランク、Cランク、Bランク、Aランク、Sランクと、どんどん上がっていった。

 僕たちはモンスターたちの間をすり抜け、モンスターたちに気付かれぬまま、ついにダンジョンの最深部である第八の階層へと辿り着いた。

階段を降りると、僕たちの前に両開きの巨大な黄金色の扉が姿を現した。

 扉の前にはモンスターの姿は見えない。

 おそらく、この扉の向こうに、聖剣があるのだろう。

 そして、聖剣を守るボスモンスターがいると聞いている。

 これまでのことを総合すると、おそらくボスモンスターは最高ランクのSSランクの強さに違いない。

 SSランクとはいまだ戦ったことはない。他の「アウトサイダーズ」の三人も同じだ。

 はっきり言って、未知数の強さだ。

 ボスモンスターが一匹だけとも限らない。

 しかし、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 上手くいけば、ボスモンスターとの戦闘を避け、ちゃっかり聖剣を奪取すればいい。

 僕は扉の前で立ち止まると、三人に言った。

 「ここがこの「光の迷宮」の最後の階層のはずだ。そして、この扉の向こうにおそらく、目的の聖剣と、聖剣を守ると言われるボスモンスターがいるはずだ。おそらく、ボスモンスターの強さはSSランクだと推測される。僕たち四人がいまだ対峙したことのない強敵だと思われる。これまで通り、ボスモンスターとの戦闘は避け、聖剣を奪取できればそれでいい。もし、不測の事態が発生し、ボスモンスターとの戦闘になった場合は、みんな協力を頼む。何としてでも聖剣を奪い、破壊するんだ。それじゃあ、突入するよ。みんな、準備はいいかい?」

「はい、準備はできております。」

「いつでも行けるぜ。」

「私も準備万端。」

 玉藻、酒吞童子、鵺がそれぞれ返事をした。

「それじゃあ、突入開始!」

 僕は、扉を音を立てないよう、ゆっくりと静かに開けた。

 そして、扉をくぐって、扉の中に入った。

 僕に続いて、他の三人も扉の中へと入った。

 扉の向こうには、広大な地下空間が広がっていた。

 僕は正面を見ると、100メートルほど先に、黄金の台座の上に置かれた、黄金色の一振りの剣が目に入った。

 近づいてよく見ると、間違いなく、それは聖剣だった。

 僕が勇者たちによって処刑されたあの日、「勇者」にして「光の勇者」、島津 勇輝が手にしていたあの聖剣のレプリカと全く同じ姿をしている。

 僕を処刑したあの忌まわしい剣の本物がすぐ目の前にあると思うと、すぐにでも破壊したい気分だ。

 僕の心の中に復讐の炎が燃え上がる。

 だが、聖剣の後ろにいるモンスターを見て、僕はすぐに冷静さを取り戻した。

 聖剣の後ろには、体長50メートルほどの大きさで、二枚の大きな翼、四本の足に一本の長い尾を持ち、全身を黄金色の鱗で覆われた巨大なドラゴンが、聖剣の前に鎮座していた。

 その黄金色の巨大なドラゴンは全身を丸め、聖剣の前で眠っていた。

 このドラゴンがおそらく聖剣を守るボスモンスターなのだろう。

 目の前に見えるドラゴンの巨体に圧倒された僕だが、僕はそっと聖剣の方へと近づき、聖剣に触れようとした。

 その時だった。

 急に、目の前にいたドラゴンが目を覚まし、巨大な頭部を持ち上げると、僕たちの方へと視線を下ろすと、金色の瞳で僕たちのいる方向を見ながら、しゃべりかけてきた。

 『待て。姿を隠しても無駄だ。我にはお前たちの姿が見える。我には生物の持つ魂の気配を感じとることができる。ふむ、魂の数は四つ。目的はこの聖剣を奪うことか。ならば、姿を現して、この我と勝負いたせ。我に勝てば、その聖剣をお前たちにくれてやろう。さぁ、挑んでくるがいい、勇者たちよ!』

 目の前のドラゴンが突然話しかけてきたことに僕たちは驚いたが、ばれてしまってはしょうがない。

 「玉藻、幻術を解いてくれ。どうやらこのドラゴンとの戦闘は避けれないらしい。」

 「分かりました、丈様。」

 僕の指示を受け、玉藻が幻術を解いた。

 幻術を解き、姿を現した僕たちを見て、ドラゴンは言った。

 『それがお前たちの姿か。たった4人で我に挑んで来るとは大した自信だ。我は偉大なる竜王の一匹、ホーリードラゴンだ。光竜とも呼ばれている。さぁ、勇者たちよ、我と戦え!そして、この我から聖剣を見事奪ってみよ!』

 ドラゴンは戦闘態勢に入りながら、興奮した様子で話しかけてくる。

 僕は苦笑いしながら、ホーリードラゴンに向けて言った。

 「確かに僕たちは聖剣を奪いにやってきた。だけど、残念だが、僕たちは勇者じゃない。」

 僕の言葉を聞き、ホーリードラゴンが驚いた。

 『な、何、勇者じゃないだと!?このダンジョンには勇者以外、入れないはずだぞ!?お前たち、一体どうやってここまで来た?勇者でもない者がなぜ、聖剣を欲しがる?まさか、お前たち、盗賊ではあるまいな?』

 ホーリードラゴンが僕たちに訊ねる。

 「勇者じゃなくて悪いな。僕たちはSランク冒険者パーティー「アウトサイダーズ」だ。ホーリードラゴン、お前は勇者以外、このダンジョンには入れないと言っていたけど、結界は滅茶苦茶脆いし、ダンジョンの入り口は弱っちい見張りの騎士たちが二人立っているだけだし、警備ははっきり言って手薄だったぞ。それと、ここまでは認識阻害の幻術を使ってきたから、上の階層にいるモンスターたちとは全く戦わずにここまで来れたぞ。仕掛けてあった罠も全部避けるか解除するかして対処できたし。全然大したことなかったぞ。後、僕たちが聖剣を欲しがる理由だが、僕たちは聖剣なんて欲しくない。僕たちはその聖剣を破壊しに来た。悪いが、怪我をしたくなかったら、おとなしく聖剣を僕たちに差し出せ。木っ端微塵にその聖剣を破壊してやるよ。」

 僕の答えを聞き、ホーリードラゴンは慌てふためいた。

 『勇者ではなくただの冒険者だと!?一度もモンスターたちと戦わずにここまで来ただと!?それに聖剣を破壊しに来ただと!?お前たち、この我を虚仮にしているのか!?その傲慢な態度、気に食わん!今すぐ全員、殺してくれるわ!』

 ホーリードラゴンが僕たちへの怒りを露わにした。

 「なるほど、おとなしく聖剣をこちらに寄越すつもりはないと。だったら、こちらはお前を倒して聖剣を奪うまでだ。とっととかかってこい!」

 僕はホーリードラゴンを挑発した。

 僕の挑発を聞いて、ホーリードラゴンは怒った。

 『舐めるなよ、小僧!ただの冒険者の分際でこの我に挑戦したこと、後悔させてくれるわ!』

 ホーリードラゴンは僕にそう言うと、天井まで飛び上がった。

 そして、口から僕たちに向けて何かを吐きだそうとしている。

 「みんな、後ろに下がっててくれ!どうやらあのドラゴンは僕との一騎打ちをご所望のようだ。なら、その申し出、受けて立つよ!」

 僕の言葉を聞き、他の三人は黙って後ろに下がった。

 僕は霊能力を解放した。

 「霊拳!」

 僕の全身を青白い光が包んだ。

 僕は霊能力を体に纏うと、空中にいるホーリードラゴンを見上げるように立って、直立不動に構えた。

 『我が自慢の一撃を食らって灰になるがいい、ゴールデン・ホーリー・ブレス!』

 空中にいるホーリードラゴンが口から黄金色の光線を僕に向けて放った。

 ホーリードラゴンの放った黄金色の光線が、僕の全身を包み、襲ってきた。

 ホーリードラゴンの攻撃による衝撃で、大量の土ぼこりが舞った。

 ホーリードラゴンは口を閉じ、攻撃を止めた。

 『フハハハ、愚かな人間めが!ただの冒険者の分際でこの我に挑もうなど思い上がりも甚だしい!聖剣を破壊するなど戯言を言いおって!我に刃向かったこと、あの世で後悔するがいいわ!』

 ホーリードラゴンは勝ち誇ったように叫んだ。

 だがしかし、土ぼこりの中から、徐々に青白い光が、ホーリードラゴンの目の前に現れた。

 土ぼこりの中から、霊能力を纏った僕が、全身無傷の状態で、その姿を現した。

 「誰があの世で後悔するだって?この程度の攻撃で僕を倒せると思ったら、大間違いだ。思い上がっているのはお前の方だ、ホーリードラゴン。」

 僕は空中にいるホーリードラゴンに向かって言った。

 無傷の僕を見て、ホーリードラゴンは驚きを隠せない。

 『ば、馬鹿な!?我の全力のゴールデン・ホーリー・ブレスを食らって平気だと!?それに無傷だと!?勇者さえまともに食らえば怪我をする攻撃なのだぞ!?なぜ、なぜ、ただの冒険者風情に受け止められる!?あり得ぬ、小僧、お前は一体・・・』

 「御託は良い。次はこっちから行くぞ。お前に僕の新技を食らわせてやろう。」

 僕はそう言うと、両手の拳を強く握りしめた。

 左の拳を前にまっすぐと突き出し、右の拳を引いてあばら骨の下まで寄せた。

 空中高くにいるホーリードラゴンに向かって、正拳突きの構えをとった。

 僕は右の拳にぐっと力を込めた。

 右の拳に霊能力を集中する。

 右の拳がまぶしいほどの青白い光を放つ。

 僕は空中高くにいるホーリードラゴンに向かって、まっすぐに猛スピードで右の拳を突き出した。

 「霊波動拳!」

 右の拳を突き出した瞬間、霊能力により音速を超えるスピードで右の拳が繰り出されたことにより、右の拳から拳圧が巨大な衝撃波、ソニックブームとなって放たれ、空中高くにいるホーリードラゴンを襲った。

 僕の拳から放たれた巨大なソニックブームがホーリードラゴンを天井へと、ホーリードラゴンの巨体を押し付けた。

 『グエエエーーー!?』

 ホーリードラゴンはソニックブームを受け、悲鳴を上げた。

 ソニックブームが止むと、空中にいたホーリードラゴンが落下してきた。

 ドーンという大きな落下音を立て、ホーリードラゴンは床に落下した。

 落下の衝撃で大量の土ぼこりが舞う。

 土ぼこりがおさまったと同時に、ホーリードラゴンが口を開いた。

 『ゼェー、ゼェー、な、何だ、今の攻撃は!?何も見えなかった!?一体、我は何をされた!?』

 ホーリードラゴンは息を切らしながら、疑問を口にした。

 「さすがSSランクモンスターだな。僕の霊波動拳を受けても口を利ける元気があるとはね。まぁ、全力の半分ぐらいの力でしか打たなかったけど。天井が崩れてきたら面倒だと思ったけど、やっぱり手を抜くべきじゃなかった。よし、今度は全力の一撃をお見舞いしてやろう。一瞬であの世に送ってやる。」

 僕はホーリードラゴンの傍に近づくと、ふたたび霊波動拳を打つべく構えをとった。

 僕の構える姿を見て、ホーリードラゴンは慌てて謝罪を始めた。

 『ま、待て、早まるな、小僧。我の負けだ。降参する。だから、攻撃を止めてくれ。お前たちを馬鹿にしたことは謝る。どうか、どうか命だけは助けてくれ。聖剣だってくれてやる。破壊したいなら破壊しろ。むしろ助かる。だから、助けてくれ、頼む。』

 ホーリードラゴンは一生懸命頭を下げ、命乞いをしてきた。

 僕はホーリードラゴンに訊ねた。

 「分かった。お前の命は助けてやる。だから、こちらの質問に素直に答えろ。聖剣をくれると言ったが、お前は大事に守ってきたはずの聖剣を壊していいと、むしろ助かると言ったな。それはどうゆう意味だ。どうして聖剣が破壊されるとお前が助かるんだ?理由を説明しろ。」

 僕の質問に、ホーリードラゴンは訳を話し始めた。

 『我は確かに「光の迷宮」でその聖剣を守るよう、光の女神リリアから頼まれた。しかし、我も、我の同胞である他の竜王の6匹も騙され、不当な契約をあの忌まわしい女神から結ばされ、強制されたためだ。我はとある御方からの依頼だと聞き、その御方の代わりだと言うあのリリアに騙され、この「光の迷宮」で聖剣を守る存在として、この場所に縛り付けられた。過去に何度も勇者たちが我に挑んできては、聖剣を手にすることがあった。しかし、我が聖剣を破壊するよう頼んでも、勇者たちは耳を貸してはくれなかった。勇者たちが死ぬと聖剣は自動的にダンジョンへと戻ってくる。そして、聖剣を手にする新たな勇者が現れるまで、ただひたすらこのダンジョンで聖剣を守る、その日々の繰り返しだった。リリアが前々から魔族を快く思っていなかったのは知っていたが、よもや我々を騙し、ダンジョンに閉じ込めただけでなく、勇者を使って魔族殲滅を図ろうなどという暴挙に出るとは考えてもいなかった。だがしかし、お前たちがその聖剣を破壊してくれれば、我は自由になれる。聖剣には我をこのダンジョンへ縛り付ける力と、このダンジョンの機能を維持する力がある。お前たちが聖剣を破壊さえしてくれれば、我はリリアに結ばされた不当な契約から解放され、「光の迷宮」もダンジョンとしての機能を失う。我が知っていることは全て話した。さぁ、だから、その聖剣を破壊してくれ、強き冒険者たちよ。』

 ホーリードラゴンはまっすぐに僕たちを見つめてそう言った。

 僕は聖剣を手に取った。

 ホーリードラゴンの話を聞く限り、やはり光の女神リリアは碌な奴じゃない。

 何の罪もないドラゴンたちを騙し、聖武器を守らせるためにダンジョンに閉じ込める、糞野郎である。

 女神じゃなくて詐欺師だ。

 僕は聖剣を一旦台座へ戻すと、右の拳を、力を入れて握りしめ、それから、聖剣目がけて思いっきり拳を振り下ろした。

 「トゥっ!」

 振り下ろした僕の右拳が聖剣に直撃し、聖剣はパリーンという音を立てて粉々に砕け散った。

 次の瞬間、黄金一色だったダンジョンの壁や床、天井や柱などが、色を失い、灰色へと変わった。

 ダンジョンの中も若干薄暗くなった。

 聖剣が破壊されたことで、「光の迷宮」はダンジョンとしての機能を失ったようだ。

 粉々に砕け散った聖剣を見て、ホーリードラゴンが言った。

 『ありがとう、名も知らぬ冒険者よ。おかげで我は辛い役目から解放された。礼を申すぞ。』

 そして、ホーリードラゴンの額から黄金に光り輝く宝石が現れ、フワフワと空中を浮かんで、僕の目の前にやってきた。

 『それは我からの感謝の証だ。それは「光竜の石」と言って、その石に向かって念じれば、この我をいつでも召喚できる。もし、何か困ったことがあれば、その石を使って我を呼ぶがいい。いつでもお前たちに力を貸そう。さぁ、受け取るが良い。』

 僕は目の前に浮かぶ、黄金に光り輝く宝石を手にした。

 「ありがとう、ホーリードラゴン。では、遠慮なくいただくよ。」

 僕は受け取った「光竜の石」を腰のアイテムポーチに入れた。

 『冒険者たちよ、本当にありがとう。もし可能ならば、他のダンジョンも攻略し、我が同胞たちを解放してほしい。お前たちならばきっとできると信じている。最後に、黒き冒険者よ、お前の名を訊ねても良いか?』

 「僕は宮古野 丈。ジョーと呼んでくれ。」

 『ジョーだな。確かにその名、覚えたぞ。』

 そう言うと、ホーリードラゴンは翼を広げ、飛び上がった。

 『ジョー、そしてその仲間たちよ。さらばだ。いずれまた会おう。』

 ホーリードラゴンはダンジョンの天井を突き破り、羽ばたいて僕たちの前を去っていく。

 僕はハッと思い出し、ホーリードラゴンに向かって叫んだ。

 「待ってくれ!お前の言ったとある御方とは誰だ!?教えてくれ!」

 『いずれお前たちにも分かる。おそらくすべてはあの御方の導きだ。それでは諸君、さらばだ!』

 ホーリードラゴンは気になる言葉を言い残し、僕たちの前を飛び去った。

 ホーリードラゴンが言っていたあの御方とは一体誰だ!?

 すべてはあの御方のお導きだとも言っていた。

 僕たちは自分の意志でここまで来たはずだ。

 僕たちが「光の迷宮」を攻略すること、聖剣を破壊することは、僕たちが知らない、あの御方なる人物が意図したことだと、そう言っているのか?

 まさか、僕が光の女神リリアから勇者のジョブとスキルを与えられなかったことにも関わっていたりするのか?

 謎は深まるばかりだ。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 目的通り、聖剣は無事破壊した。

 これで、勇者の強化を阻止した。

 ざまぁみやがれ、島津。インゴット国王。光の女神リリア。

 復讐が成功したことに僕は笑った。

 僕の笑い声を聞き、玉藻、酒吞、鵺の三人が僕に駆け寄ってきた。

 「お疲れさまでした、丈様。SSランクモンスターを軽く一蹴してしまうとはさすがです。そして、見事聖剣を破壊なされました。これで、復讐の第一段階が完了したわけですね。誠におめでとうございます。」

 「やったな、丈。これでお前の復讐が一歩進んだわけだ。この調子で他のダンジョンとやらも攻略しようぜ。何、俺たちならきっと楽勝さ。あのクソ勇者どもの泣きっ面が目に浮かんでくるぜ。ああっ、ゾクゾクする。」

 「丈君、お疲れ様。目的の聖剣は破壊した。これで勇者が覚醒することはない。例え勇者が覚醒しても丈君の敵じゃあないと思うけど、勇者たちに復讐できて私も嬉しい。これからも一緒に頑張って復讐しよう。私たちが付いている限り、必ず復讐を成功させてみせる。」

 「ありがとう、みんな。聖剣を破壊できたのはみんなのおかげだよ。これからも色々とみんなに迷惑をかけるかもしれないけど、一緒に頑張ってくれると嬉しい。さぁ、もうこのダンジョンにはもう用はない。撤収するよ。」

 僕は三人にそう言うと、みんなで来た道を引き返した。

 一応隊列を組んで、ダンジョン内部を歩いて入り口まで戻ったが、最深部同様、他の階層は全て色を失い、灰色に変わっていた。

 また、大量にいたはずのモンスターたちも姿を消していた。

 おそらく、この「光の迷宮」がダンジョンとしての機能を失ったに伴い、モンスターたちも合わせて消滅したのだろう。

 僕たちは何事もなく、無事、ダンジョンの外へと出た。

 後ろを振り返ると、黄金に光り輝いていたダンジョンは色を失い、灰色の神殿へと姿を変えていた。

 僕は酒吞に言った。

 「酒吞、最後の仕上げを頼む。このダンジョンを木っ端微塵に破壊してくれ。ダンジョンの破壊を地震によるものと偽装したい。王国もダンジョンの崩壊の原因が僕たちによるものだとすぐには気が付かないだろう。遠慮なくやってくれ。」

 「分かったぜ。それなら、遠慮なく、思いっきりブチ壊してやるぜ!」

 酒吞はそう言うと、右手に持っていた金棒を、ダンジョンの階段目がけて思いっ切り振り下ろした。

 「オラァー!」

 酒吞の金棒が階段に直撃した瞬間、ドーンという地響きが聞こえ、地面が大きく揺れた。

 そして、ダンジョンの柱や壁に見る見るうちに大きなひびが入ったかと思うと、ダンジョンは跡形もなく崩れ落ちた。

 「光の迷宮」と呼ばれたダンジョンだったそれは、がれきの山へとたちまち姿を変えた。

 これで、ダンジョンの崩壊の原因が僕たちだとは、王国も簡単には気が付くまい。

 僕は酒吞に労いの言葉をかけた。

 「お疲れ様、酒吞。完璧な破壊工作だ。これで王国もダンジョンの崩壊が僕たちのせいだとは分からないだろう。本当にありがとう。」

 「へへっ、こんなのお安い御用さ。俺にかかればダンジョンなんて一発でバラバラだぜ。」

 酒吞が笑いながら返事をした。

 改めて周りを見ると、外はまだ薄暗いが、もうじき朝日が昇ろうとしていた。

 少し冷たい風が、僕たち四人の間を通って行った。

 「さてと、みんな、お疲れのところ悪いが、早くここを立ち去ろう。誰かに見つかっちゃマズい。とりあえず、適当な場所まで飛んで、そこで朝食をとることにしよう。本当にお疲れ様。」

 それから、僕たちは三時間ほど鵺の力で空を飛んで移動した後、近くの町の飲食店で軽く朝食をとった。

 そして、また、三時間ほど空を飛び、インゴット王国冒険者ギルド北支部のあるノーザンの町の近くの森の中へと着陸した。

 森の中を出て街道を歩いて進み、ノーザンの町の中へと入った。

 ノーザンの町へと戻ったのは、ちょうどお昼頃であった。

 それから、僕たちは何食わぬ顔でギルドに戻り、ギルドの受付でバジリスク討伐依頼を無事達成したことを報告した。

 黒焦げになった、いや、炭になったバジリスクたちの死体を見て、ギルドにいた人たちはドン引きしていたが、まぁ、気にしないでおいた。

 報告を終えると、僕たちはギルドの食堂で一緒に昼食を食べた。

 その後は、みんなで一緒に休みをとった。

 ギルドの二階の宿泊している部屋へと戻ると、僕はベッドに着替えもせず、そのまま寝転んだ。

 部屋の天井を見つめながら、僕は呟いた。

 「ようやく復讐を始めることができた。さぁ、これからがもっと大変だ。でも、僕は復讐を止めるつもりはない。待っていろ、くそったれの勇者たちに国王、女神リリア。お前ら全員、必ず地獄に落としてやるからな。」

 僕はさらなる復讐を決意したのだった。

 僕がこの異世界アダムスに召喚されてから、もうすぐで一ヶ月の月日が経とうとしていた。

 僕は霊能力を覚醒させ、S級冒険者になるまでの戦闘能力を身に着けた。

 「光の迷宮」を攻略し、聖剣も破壊した。

 僕を虐げる異世界の悪、勇者たち、インゴット王国の王族たち、光の女神リリア、僕と敵対する異世界の者たちへの復讐の準備は万端だ。

 僕は今日、異世界への復讐の第一歩を確かに踏み出した。

 僕の異世界への復讐の旅がいよいよ始まった。



















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