第四話 主人公、異世界の村をなぜか救ってしまう、そして、覚醒する

 草原から鵺とともに空を飛んで移動していた僕であったが、ほんの10分ほどで、目的地である鵺が見たと言う村が見えてきた。

 小さな村に見えるが、村の中を人々が逃げ回っているような様子である。

 どうやら、村で何か緊急事態が発生した様子である。

 村の上空に着いた途端、緑色の肌に長い耳、身長130cmほどの大きさの小鬼のようなモンスターが、棍棒や短剣、斧などを手に持って、村の人たちを追い回し、襲っている姿が見えた。

 「あれはもしかして、異世界召喚物のファンタジーでお馴染み、定番のモンスター、ゴブリンじゃないのか?この村を襲っているようだが、このまま放置していたら、村で情報収集やら食料の調達やらできなくなる。いや、僕の霊能力を試す良い機会だ。鵺、どうやったら、霊能力が使えるんだ?」

 「自分の内側から外側に向けて力を流すイメージ。力をギュッと入れて、スーッと流す感じ。大事なのは戦うという気持ち。今の丈君ならすぐに使えるはず。」

 「ええっと、もうちょっと具体的に教えてもらえるかな?正直言うと、精神論とか心で感じろとか言われてもよく分からないんだ。他に何かアドバイスとかコツとか無いの?」

 「無い。とにかく、私が言った通りにイメージしてやってみて。早くしないと、村の人たちが危ない。」

 「そんな無茶な!?」

 僕と鵺が霊能力のコントロールについて話している時、下から子供の叫び声が聞こえてきた。

 「うわぁーーー!」

 下を見ると、10歳くらいの少年が数匹のゴブリンに取り囲まれ、今にも殺されそうな状況だった。

 くそ、霊能力の使い方が全く分からない。

 ここは鵺たちに任せて、僕は安全なところで待機するか!?

 あの少年を僕が今すぐ助ける必要もない。

 だけど、ここで逃げてはいけない気がする。

 ぶっつけ本番でやるっきゃない。

 僕はゴブリンへの闘志を、怒りを燃やした。

 体中にぐっと力を込める。

 自分の内側から外側に向けて力を流すイメージ、だったな。

 「ハアアア!」

 その時だった。

僕の全身から青白い光が発せられ、そして、全身を光が包んだ。

 「これか!?これが僕の霊能力か!?よし、鵺、僕をあの子とゴブリンの間に落としてくれ!」

 「了解。落とすよ、丈君。」

 空中で僕を抱きかかえていた鵺が、僕の体を離した。

 僕は勢いよく空中から落下した。

 そのまま、少年と、少年を取り囲むゴブリンたちの間に着地した。

 ドーン、という音を立て、少年を庇うように、ゴブリンたちの前に立ち塞がった。

 突然空から落ちてきて目の前に現れた僕を見て、ゴブリンたちは動揺している。

 「「「ギギッ!?」」」

 動揺しているゴブリンたちの隙を突き、正面にいたゴブリンの一匹に向けて僕は殴りかかった。

 「トウっ!」

 僕の右の拳から繰り出された右ストレートのパンチが、ゴブリンの顔面に直撃し、そして、ゴブリンの頭を粉々に吹っ飛ばした。

 「す、すごい!?」

 後ろの少年が、僕のパンチの威力に驚いた様子だった。

 僕はチラっと後ろを振り返り、少年に向けて言った。

 「少年、ここは僕に任せて、君は逃げろ!コイツらは全部僕が倒す!」

 「うん、ありがとう、お兄ちゃん!」

 少年は走って、逃げて行った。

 ゴブリンたちが少年の後を追おうとする。

 「行かせない!お前たちの相手は僕だ!」

 僕はゴブリンたちにパンチやキック、アイアンクローなどで攻撃した。

 ゴブリンたちは棍棒や短剣、斧などで反撃してくるが、霊能力を纏っている僕の体には傷ひとつつかず、ゴブリンたちの武器は僕の体に触れるたびに砕け散った。

 ゴブリンたちは何もできず、全員頭を潰されたり、腹を突き破られたりして、血を流し、倒されていく。

 目の前にいたゴブリンたちをあっという間に倒したが、村の中にはまだまだゴブリンたちが残っていて、村人たちを襲っている。

 「一匹残らず、駆逐してやる!」

 僕は村の中にいた残りのゴブリンたちを倒しに向かった。

 15分ほどして、村の中にいた残りのゴブリン全てを倒した。

 ゴブリンたちと戦ったために、僕の両手と両足は返り血を浴びて血まみれだった。

 一人ゴブリンを黙々と倒していった僕の姿を見て、村人たちは口を開け、驚いた表情で僕を見ている。

 「フー。これで全部倒したみたいだな。」

 「お疲れ様、丈君!初めて霊能力を使ってここまで戦えるなんてすごいよ!私の出る幕は全く無かった!これで、丈君と一緒に戦える!」

 いつの間にか、地上に降りていた鵺が、僕の方に駆け寄ってきて、僕の戦いぶりを褒めてくれた。

 「ありがとう、鵺。ぶっつけ本番だったけど、何とかなったよ。霊能力の使い方も少し分かった。アドバイスありがとう、鵺。」

 「私はアドバイスしただけ。すごいのは丈君の方。丈君の霊能力はこれからますます強くなる。私も楽しみ。」

 鵺と話をしていると、僕の体から、とり憑いていて体内に入っていた玉藻と酒吞が出てきた。

 玉藻が僕に声をかけてきた。

 「初陣、大変お疲れ様でした、丈様。どこか、お怪我はございませんでしたか?」

 「いや、怪我はしていないよ。このとおり、ピンピンしてる。」

 「そうですか、それは何よりです。わたくしも丈様の初陣を見ておりましたが、見事ご自分の霊能力を使いこなしていらっしゃいました。私、大変感激いたしました。これからの丈様のますますのご成長、ご活躍を思うと、胸が熱くなります。」

 「あはは、ありがとう、玉藻。」

 酒吞も声をかけてきた

 「丈、お疲れさん。俺もお前の初陣を見ていたが、初めてにしては良い戦いっぷりだった。さすがは俺たちの主だ。俺もお前の成長に期待してるぜ。」

 「ありがとう、酒吞。僕も三人を守れるくらい、強くなってみせるよ。」

 「はは、俺たちを守れるくらい強くなりたいとは、嬉しいことを言ってくれるじゃあねえか?なら、期待して待ってるよ。」

 僕が三人と話をしていると、後ろから声をかけられた。

 「お兄ちゃん、さっきは助けてくれてありがとう。」

 声をかけてきたのは、先ほどゴブリンたちに襲われているのを助けた少年だった。

 「ああ、君はさっきの少年か。別に大したことはしていないよ。君、名前は何て言うの?」

 「僕の名前はジャック。ジャック・ストーンって言うんだ。お兄ちゃんは何て言うの?」

 「僕?僕の名前は、宮古野 丈。ジョーって呼んでくれて構わないよ。」

 「ジョー、ジョー兄ちゃんだね!?分かった、よろしく、ジョー兄ちゃん。」

 ジャックと名乗る茶髪の少年に僕は訊ねた。

 「ジャック、君にちょっとお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」

 「うん、何、ジョー兄ちゃん?」

 「僕は後ろにいるお姉ちゃんたちと旅をしているんだけど、この村やこの村がある国については知らないことがたくさんあるんだ。良かったら、そういうことについて詳しい人を知っていたら、僕たちに紹介してくれないか?後、僕はさっきモンスターと戦ったせいで返り血で汚れちゃったから、体や服を洗いたいんだけど、洗える場所も教えてくれないかな?」

 「それなら、僕の家においでよ。僕のお爺ちゃんはこの村の村長をしていて、すっごく物知りなんだよ。ついでに僕の家の近くに井戸があるから、そこで体を洗えばいいよ。」

 「ありがとう。じゃあ、君の家まで案内してもらえるかな?」

 僕はそれから、他の三人とともに、ジャックに案内され、ジャックの家へと向かった。

 ジャックのお爺ちゃんはこの村の村長をしているそうだが、村にある他の家と大きさは大して変わらなかった。

 僕はジャックの家の近くの井戸で、ゴブリンの返り血で汚れた体と服を洗った。

 服が水に濡れたままよそ様の家に上がるのはどうかと思っていると、鵺が僕に言った。

 「丈君、じっとしてて。今、乾かしてあげる。」

 彼女が右手を上げると、暖かい風がどこからともなく吹いてきて、あっという間に僕の服は乾いた。

 「鵺、君はもしかして風を操れるのか?」

 驚いた僕は彼女に訊ねた。

 「その通り。厳密にいえば、私は天候を自由自在に操作する力を持っている。暖かい風を起こすなんて朝飯前。本気を出せば、竜巻でも吹雪でも大雨でも雷でも、自由に天候を変えられる。丈君もいずれは私と同じことができるようになる。」

 「すごいよ、鵺!空を飛べるだけでなく、天候を自由自在に操作できる力があるなんて!天候を操れるなんて、万能、いや、チートと言われてもおかしくない力だよ。本当にすごいな、鵺は!?」

 「丈君、褒め過ぎ。でも、ありがとう。」

 僕の称賛を聞いて、鵺が照れた。

 「またしても、鵺が活躍するとは。ですが、私の力を発揮するのはこれからです。」

 「また鵺の奴が一歩リードかよ。だが、俺の力だって負けちゃあいねえ。戦いになれば、俺の凄さがきっと分かるぜ。」

 玉藻と酒吞が悔しそうな顔をして、鵺を見ていた。

 何をそんなに張り合う必要があるのだろうか?

 三人とも伝説の妖怪ですごい能力を持っていることはすでに分かっていると言うのに。

 二人の反応に思わず僕は首を傾げた。

 体を洗い終えると、僕はジャックに案内され、彼の家へと伺った。

 ジャックが家のドアを開けて中に入った。

 「お爺ちゃん、ただいま!」

 「おおっ、ジャック、無事だったか!?本当に心配したんじゃぞ!あれほど、一人で家の外に出るなと言っておっただろうが!だが、無事に帰ってきてくれて良かった!」

 ジャックのお爺ちゃん、村長がジャックを抱きしめた。

 この人が村長か。

 年齢は70歳くらいだろうか?ジャックと同じ茶色い髪に、茶色い長い口髭を生やしている老人であった。

 「ところでジャック、後ろにいる人たちは誰じゃ?この辺ではお見掛けしない顔だが?」

 村長がジャックに訊ねた。

 「お爺ちゃん、ここにいるジョー兄ちゃんがゴブリンから僕を助けてくれたんだ。ジョー兄ちゃんはすごいんだよ。たった一人で、村を襲ってきたゴブリンをやっつけちゃったんだ。空から突然降りてきて、ゴブリンをパンチやキックでみんな倒しちゃったんだ。こんな風にシュッ、シュッって。」

 ジャックが僕の真似をしながら、僕のことを村長に紹介する。

 「ご、ゴブリンを素手だけで倒したですと!?それも村を襲ってきたゴブリンの集団をたったお一人で倒したですと!?それに、空から降りてきたとは一体?」

 村長は僕がゴブリンたちを倒したことにひどく驚いている様子でした。

 「し、失礼。取り乱してしまい、申し訳ありません。儂の名はカイン・ストーン。このアープ村の村長をしております。この度は孫とこの村をお救いいただき、誠にありがとうございます。失礼ですが、あなた方は冒険者の方でしょうか?お一人で、それも素手でゴブリンの集団を倒すなど、さぞ高名な冒険者様なのではありませんか?」

 村長は僕の顔を見ながら、僕のことを高名な冒険者ではないかと訊ねてきた。

 冒険者。異世界召喚物の物語で定番の何でも屋みたいな職業で、モンスター退治を主な生業にしていることが多い。

 冒険者ギルドという組織があり、そこに冒険者として登録して活動し、依頼を達成すると報酬がもらえる。そんな感じで、物語では描かれていることが多い。

 少し探ってみるか。

 「いえ、僕たちは冒険者ではありません。私たちは通りすがりのただの旅人です。実は訳あって、このインゴット王国で冒険者として活動しようにも、冒険者ギルドで登録できず、困っている身なのです。僕たちは遠い辺境の地よりこの国へとやって参りましたが、何分この国へは来たばかりで、この国の事情については知らないことばかりでして。お孫さんからあなたがこの国やこの村についてとても詳しい御方だと聞いて訪ねてきました。よろしければ、僕たちにこの国のこと、冒険者のことなど、いろいろと教えていただけると助かるのですが、どうでしょうか?」

 僕のお願いを、カイン村長は快く聞いてくれた。

 「ええっ、そんなことでしたらお安い御用です。儂で良ければ、お答えできることは何でも答えましょう。ささっ、狭いところですが、どうぞ、お上がりください。」

 そう言って、村長は僕たちを家の中へと招いてくれた。

 テーブルに着き、村長が入れてくれたお茶を飲みながら、村長と話をした。

 「して、儂に聞きたいこととは具体的にどのようなことでしょうか?」

 「はい、まずお聞きしたいのは、冒険者についてです。確認ですが、冒険者は冒険者ギルドに登録をしてから冒険者として活動できる。これは間違いないでしょうか?」

 「はい、あなた様のおっしゃる通りですじゃ。」

 「では、冒険者として登録する際、登録料を取られることはありますでしょうか?」

 「いえ、ギルドは常に人手不足で、冒険者となる方を求めています。登録料を取ることはありませんですじゃ。」

 「なるほど、では、ジョブとスキルが無い場合、登録はできるのでしょうか?実は僕たちは元々、それぞれジョブとスキルを持っているのですが、この国に来て一度ステータス鑑定をしてもらった際、何故か4人全員がジョブとスキルが表示されないという原因不明の異常事態に見舞われて困っているのです。僕たちはどうしてもこの国のギルドで冒険者として登録し、活動したいと考えております。何か良い方法はご存じありませんか?」

 「ステータス鑑定をしたらジョブとスキルが表示されないとは、儂も長年生きておりますが、そのようなことは初めて聞きましたぞ。確かに、ギルドで冒険者として登録する際、ジョブとスキルが必ず確認され、冒険者本人の個人情報が記載された、冒険者の証でもあるギルドカードが発行されますじゃ。ですが、皆様全員がそのような状態ですと、ギルドで冒険者の登録をするのは難しいでしょうな。はてさて、どうしたらよいものか?」

 カイン村長はその場で考え込んだ。

 そして、ふと、何か思いついたような顔をした。

 だが、すぐに申し訳なそうな顔をしながら僕たちに言った。

 「すみません。一つ妙案を思いついたと思ったのですが、儂たちの村の問題に、いくらお強いとは言っても、冒険者でもない、部外者のあなた方を巻き込むのは失礼な話です。どうか忘れてください。」

 「待ってください。僕たちは何としてもこの国の冒険者ギルドで冒険者として登録したいのです。冒険者になるためなら、何だってやります。僕たちはこう見えて様々なジョブとスキルを持っております。ゴブリンたちを倒す腕っ節だってあります。どうか、僕たちを信じて、あなたが思いついた妙案とやらを話していただけませんか?お願いします!」

 僕は椅子から立ち上がり、村長に向けて深々と頭を下げた。

 「頭をお上げください。頭を下げる方はむしろ儂の方ですじゃ。妙案と言いますのは、このアープ村の近くの森の洞窟に住み着いたゴブリンの群れを皆様方で討伐し、ギルドに報告をしてその実績を手土産にギルドと交渉してみてはと、そう思いましたのじゃ。」

 「ゴブリンの群れの討伐ですか?先ほど村を襲っていたゴブリンたち以外に、別にゴブリンがいて困っていらっしゃる、それを討伐してはどうか、ということでしょうか?」

 「その通りですじゃ。実は三ヶ月ほど前から、この村はゴブリンに襲われるようになりましてな。始めのうちは一匹や二匹程度で、村の男衆でもどうにかなっておりましたが、日に日に村を襲ってくるゴブリンたちの数は膨れ、今日のように数十匹ほどの集団で村を襲うようになりましたのじゃ。牛や馬、豚などの家畜が襲われ、次に村の若い娘たちが襲われ、さらわれましての。ついには、村中の者がゴブリンたちに襲われるようになりましたのじゃ。」

 村長は一旦お茶を飲むと、話の続きを始めた。

 「村の衆の一人がゴブリンたちの後をつけたところ、村のすぐ近くにある森の中の洞窟を、ゴブリンたちが巣にしていることが分かりましたのじゃ。正確な数は分かりませんが、100匹以上のゴブリンがいると思われます。もちろん、すぐに冒険者ギルドに討伐依頼を出しましたが、三ヶ月経った今も引き受けてくださる冒険者の方はおりませんのじゃ。理由は分かっております。たった50万リリアの報酬でゴブリンを100匹以上討伐してくれなど、虫のいい話ですじゃ。ここは王国の中でも北の辺境にある小さくて貧しい村です。大した報酬も出せません。好き好んで、こんな田舎のゴブリンの巣の討伐を引き受ける冒険者などおるがずがない。所詮は夢物語ですじゃ。」

 村長は暗い表情を浮かべながら、村の抱える問題について話してくれた。

 「大体の事情は分かりました。細かいことを聞くようですが、50万リリアというのは、そんなに少ない報酬なのでしょうか?この国の経済事情にも疎いものでして、失礼とは存じますが、教えていただけますか?」

 「はい、ゴブリンはEランククラスのモンスターで、一匹当たりの討伐報酬は1万リリアが相場ですじゃ。100匹を討伐するとなると、最低でも100万リリアが妥当な報酬です。ですが、この村は貧しく、村のみんなからお金を集めても、冒険者の方にご用意できる討伐報酬は最大で50万リリアが精いっぱいなのです。相場の半分しか報酬を支払えないとは、情けない話ですじゃ。儂がもっと村長としてしっかりしておれば、こんなことにはならなかったでしょうな。」

 村長の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 「お爺ちゃんは何も悪くないよ!村の人はみんなお爺ちゃんのことが大好きだよ!みんなお爺ちゃんがこの村の村長で良かったっていつも言ってくれるよ。お爺ちゃんはゴブリンを退治してもらうために、みんなを説得してお金を集めて、ギルドの人に一生懸命お願いしてたもん!僕なんて剣士のジョブがあるのに、何もできなかったもん。僕が一人前の剣士だったら、ゴブリンをやっつけたんだ!」

 ジャックが、カイン村長を励ました。

 「ちょっと良いか、カイン。君は農民ではなくて、剣士のジョブを持っているのか?」

 僕の質問にジャックは答えた。

 「うん、そうだよ、ジョー兄ちゃん。僕、農民の子だけど、なぜか僕は剣士のジョブを持ってるんだ。だから、大人になったら、僕、冒険者になるのが夢なんだ。今日だって、ゴブリンが出たって聞いたから、やっつけてやろうって、言いつけを破って家の外に出てゴブリンと戦ったけど、全然ダメだった。僕が一人前の剣士だったら、やっつけられたかもしれないのに。」

 ジャックは悔しそうな表情を浮かべている。

 「ジャック、お前が剣士のジョブを持っていても、まともな練習相手がいなければ、ジョブもスキルも成長などせんとあれほど言っただろうが。全く、ゴブリンと戦うことなど、今のお前では無理じゃ。もっと大人になってからでないと戦ったりはできんと口酸っぱく言っておるのに、このやんちゃ坊主が。お見苦しいところをお見せしました。ジャックは亡くなった息子夫婦の一人息子でして、我が家は代々、農民のジョブを持つ家系なのですが、なぜかジャックは剣士のジョブを持って生まれてきましての。ジョブとスキルは本来遺伝するものですが、時たま、ジャックのように親のジョブが遺伝せず、別のジョブを持って生まれる者もおりますのじゃ。村始まって以来、戦闘職系のジョブ持ちが生まれたとあって喜んでおったのですが、どうにもやんちゃが過ぎるところがあって、儂もいつも手を焼いておりますんじゃ。」

 ジャックが農民でなく、剣士のジョブを持っている。

 ジョブとスキルは通常親から子へと遺伝するが、時たま遺伝せず、変化することがある。

 中々興味深い情報ではある。

 だが、今はもっと大事なことがある。

 「カイン村長、ゴブリンの巣の討伐依頼についてですが、その討伐依頼、ぜひ僕たちにやらせてもらえませんか?例え100匹いようが1,000匹いようが僕たちには問題ありません。一匹残らず、ゴブリンの奴を駆逐してやりますよ。報酬もいりません。無料で引き受けます。どうでしょうか?」

 僕の提案に、村長は目を丸くして驚いた。

 「ゴブリンの巣の討伐依頼を引き受けていただけるのですか!?それも報酬はいらないと?確かにあなた方はお強いですから、ゴブリンたちを討伐できるかもしれませんが、それでも、相手は100匹以上はおるのですよ?Bランク、いえ、Aランクパーティー以上の実力が必要とされる難しい案件ですぞ?そんな難しい案件を無報酬とは、本当にそれでよろしいのですか?」

 「ええっ、構いません。そのゴブリンの巣を討伐できれば、僕たちは冒険者ギルドで冒険者として登録できる可能性が上がります。それに、あなたからはたくさんの貴重な情報をいただきました。あなたからもらった情報に対する情報料としても、この討伐依頼を引き受けます。三人とも、異論はあるかい?」

 僕は、玉藻、酒吞、鵺の三人に声をかけた。

 「ありません。」

 「俺もねえぞ。」

 「異論はない。」

 他の三人も、ゴブリンの巣の討伐依頼を引き受けることに賛成してくれた。

 「連れもこう言っています。改めて、ゴブリンの巣の討伐依頼を引き受けさせていただきます、カイン村長。」

 僕の言葉を聞いて、村長とジャックは共に喜んだ。

 「ありがとうございます。何卒ゴブリンの巣の討伐をお願いいたします。」

 「ジョー兄ちゃん、ありがとう!ジョー兄ちゃんなら、絶対にゴブリンたちをやっつけてくれるよ!」

 「ああっ、ジャック、必ずゴブリンたちは一匹残らず僕たちが倒すよ。約束する。だから、僕たちが帰ってくるまで、家の中で待っているんだぞ。お爺ちゃんを心配させるようなことはもう絶対にしちゃダメだぞ。約束だぞ。」

 「うん、分かった、ジョー兄ちゃん。」

 話を終えると、僕と、玉藻、酒吞、鵺の四人は村長の家を出た。

 そして、村の近くの森の中にあるゴブリンの巣がある洞窟へと向かった。

 村長の話によれば、村の北側にある森の中を、まっすぐ北に向かって歩いて30分ほどのところに、ゴブリンの巣という洞窟があるそうだ。

 うっそうと茂った森の中にあるため、今回は空を飛ばずに、徒歩で移動することになった。

 アープ村から森の中をまっすぐ北に歩いて30分ほど進むと、森の中に隠れた洞窟が木々の隙間から見えてきた。

 「みんな一旦止まって。その場にしゃがんで、前の方を見るんだ。」

 僕の指示を受けて、他の三人もその場でしゃがみ込んだ。

 「おい、何でこんなところでしゃがまなきゃいけないんだよ?」

 「しっ、酒吞。声が大きい。声を抑えて。いいから、そのまま前を見ながら、僕の話を聞いて。」

 「一体何なんだ!?」

 「洞窟の入り口を見てくれ。洞窟の入り口の前にはゴブリンが二匹立っている。おそらく、見張り役だ。ゴブリンは異世界召喚物の物語だと、ある程度知能が高い異世界のモンスターと言われている。見張り役が僕たちの存在に気づけば、一斉に洞窟の中からゴブリンたちが呼ばれて、僕たちを襲ってくる。正直、ゴブリンの数は未知数だ。村長は百匹以上と言っていたが、それ以上の数がいる可能性もある。それに、ゴブリンの中にはホブゴブリンだとかゴブリンキングだとか、ゴブリンが進化してより強力な力を持った個体がいる、なんてのが、異世界召喚物の物語のお約束だ。下手に突っ込むのはまずい。後、おそらく洞窟の中もゴブリンたちの仕掛けた罠でいっぱいのはずだ。ここはひとまず、他のゴブリンたちに気付かれないように、あの見張り役のゴブリン2匹を倒すぞ。それから、洞窟の中に入り、罠を解除するなり避けるなりして進んでいく。洞窟の中に入っても、なるべく静かに戦うんだ。手間がかかるけど、いわば、洞窟探索兼暗殺のミッションだ。三人とも、慎重に頼むよ、良いね?」

 僕は他の三人に作戦内容を伝えた。

 「分かりました。」

 「ちっ、了解だ。」

 「分かった。」

 他の三人が答えた。

 「丈様、あの見張り役の二匹のゴブリンですが、私が倒してもよろしいでしょうか?暗殺ならば、少々自信がございます。」

 玉藻が僕に提案してきた。

 「分かった。じゃあ、君に任せるよ、玉藻。」

 「御意。」

 玉藻はそう言うと、懐から、黒い鉄扇を取り出した。

 「それでは、ハッ!」

 玉藻が鉄扇を開き、鉄扇を横に振った瞬間、キラッと光る何かが二つ、鉄扇から発射され、それらが見張り役の二匹のゴブリンに当たった。

 当たった瞬間、口から泡を吹いて絶命した。

 あっという間の出来事に僕は驚いた。

 よく見ると、死んだ二匹のゴブリンの喉元には、金色に光る細い針のようなものが刺さっていた。

 「玉藻、ゴブリンの喉元に刺さっているあの金色に光る針は何なんだ?」

 玉藻は得意げな顔をしながら、僕に答えた。

 「あれは、猛毒の付いた毛針です。私の持つ能力の一つは、あらゆる生物を絶命させる猛毒を扱うことができることです。毒の種類にはいくつかのバリエーションがございます。丈様、私の毒ほど暗殺に向いた能力はございません。丈様からのご命令であれば、どこの誰であろうと、私の毒で必ず暗殺して御覧に入れます。例えば、丈様を処刑しようとした愚鈍なこの国の王族たち、元ご学友の勇者たちなど、今すぐにでも暗殺いたしますが?暗殺者リストをお渡しいただければ、すぐにでも実行に移します、フフフ。」

 玉藻の目にどこか狂気めいたものを感じた僕は思わず、ゾッとした。

 狐だからてっきり炎をイメージしていたが、まさか毒とは思わなかった。

 そういえば、九尾の狐が退治されて姿を変えた石は「殺生石」と呼ばれていて、石に近づく動物や鳥を殺す毒があると、前に亡くなった祖父から聞いたおぼえがある。

 うん、玉藻を怒らせることだけは止めておこう。

 あんなモンスターを一瞬で絶命させる猛毒なんて絶対に食らいたくない。

 玉藻の能力はある意味凶悪だ。

 むやみやたらに使っていいものじゃあないな。

 主として、しっかり管理しなければ。

 「ええっと、ありがとう、玉藻。君が毒のスペシャリストだとは思わなかったよ。でも、おかげで助かったよ。今の調子で頼むよ。ただ、間違って、僕や他の二人に毒針を誤射しないよう、念のため、注意してね。洞窟の中は暗くて、ちょっと狭いかもしれないね。」

 「はい、お任せください。ゴブリンどもは私の毒で速やかに処分いたします。試しに、洞窟の入り口から私の毒煙を流すのはいかがでしょう?ものの数分で毒煙が洞窟内に広がり、ゴブリンたちを一気に毒殺できますが?」

 洞窟に毒煙を流す!?それは不味い!

 「いや、洞窟の中に毒煙を流すのは止めておこう。確かにゴブリンたちを一気に殲滅できるかもしれないが、もしかしたら、洞窟の中にはゴブリンたちに攫われた村の女性たちが今も生きて捕らえられているかもしれない。それに、洞窟の中が毒煙で満たされたら、ゴブリンたちの死体の一部を討伐の証として持って帰ろうにも、中に入って、剥ぎ取り作業ができなくなる。君は毒に耐性があるかもしれないが、僕たち三人には無い。悪いが、当初の予定通り、洞窟の中に入って、ゴブリンを静かに討伐する方向でいこう。」

 「私としたことが申し訳ありません。人質や討伐の証の回収を失念しておりました。さすがは丈様です。では、当初の予定通りで参りましょう。」

 僕たちは借りてきたナイフで見張り役のゴブリン二匹の死体から耳を削ぎ落し、それを持ってきた袋に詰めた。

 そして、玉藻、僕、鵺、酒吞の順番に洞窟の中へと入った。

 洞窟の中は、小さなゴブリンたちが住んでいる割には広かった。

 洞窟内の通路は天井が高く、腰をかがめる必要もなく、身長が2メートルある酒吞でも普通に歩いて通れる大きさだった。

 「丈様、少しよろしいでしょうか?」

 先頭の玉藻が急に立ち止まり、後ろを振り向きながら僕に言った。

 「何だい、玉藻?」

 「今回はゴブリンを暗殺する必要があるそうですので、ゴブリンたちに気付かれぬよう、ここにいる全員に幻術を少しばかりおかけいたしますが、よろしいでしょうか?」

 「ええっと、幻術ってのは具体的にどんなものかな?」

 「はい、私の幻術にもいくつかバリエーションがございますが、今回、皆様にかけるのは、認識阻害の幻術です。簡単に申しますと、この幻術をかけられた者は透明人間になります。ゴブリンたちの目には幻術をかけられた私たちの姿は全く見えません。においや足音、声も相手には分からなくなります。幻術をかけられた者同士だけがお互いを認識できます。暗殺には打ってつけだと思いますが、どうでしょうか?」

 玉藻は幻術も使えるのか。それも認識阻害、敵から全く認識されなくなるとは、実に素晴らしい能力だ。

 彼女に幻術をかけてもらうだけで、暗殺者や透明人間になれる。

 暗殺には少々自信があると言っていたが、本当に暗殺者向きの能力だと思う。

 ますます玉藻のことが怖くもなったけど。

 「認識阻害、今回のゴブリン討伐にぴったりじゃないか。他の場面でもかなり応用が利く能力だよ。すごいよ、玉藻。申し訳ないけれど、早速、僕たちに君の認識阻害の幻術をかけてくれ!」

 玉藻は照れ臭そうに笑うと、それから僕たちに幻術をかけてくれた。

 「それでは、ヤッ。」

 彼女が持っていた鉄扇を開き、軽く横に振った。

 次の瞬間、薄い透明な膜が僕たちの全身を包んだ。

 「無事、幻術がかかりました。これでゴブリンたちは私たちを認識できません。」

 「よし、じゃあ、ゆっくりと前へ進もう。みんな、前進開始。」

 洞窟の中を僕たちは慎重に進んでいく。

 洞窟の通路はゴブリンたちが設置した蠟燭やら松明やらで薄っすらと照らされている。

 洞窟の中は落とし穴にトラバサミ、まきびし、毒矢の飛んで来るブービートラップなどの罠が仕掛けられていた。

 それらの罠を避けながら、僕たちは洞窟内を移動していく。

 途中、何匹ものゴブリンたちに出会ったが、玉藻の幻術をかけられた僕たちの姿が全く見えないらしく、玉藻、僕、鵺の三人で倒していった。

 ゴブリンたちは見えない僕たちからの奇襲を受け、一匹、また、一匹と数を減らしていく。

 ちなみに鵺は武器として黒い鞘に収まった日本刀を使っていた。

 いつの間にか鵺の腰に日本刀が下がっていたが、鵺の剣術は凄まじく、あっという間にゴブリンたちの首を刎ねていく。

 その斬撃の速さ、威力は実に見事だった。

 僕なんか、パンチにキック、アイアンクロー、チョップなど、徒手空拳の肉弾戦スタイルだ。

 戦えないよりはマシだが、鵺や玉藻に比べると地味に見える。

 霊能力を身に纏ってのパンチやキックを繰り出すことから、僕はこの戦闘スタイル兼技を「霊拳」と呼ぶことにした。

 もし、スキルを聞かれた時は、これでごまかすことにしよう。

 そんなこんなでゴブリンの巣である洞窟に入ってから、かれこれ1時間ほどが経過しようとしていた。

 かなりの数のゴブリンを倒した気がする。

 村長は100匹以上と言っていたが、洞窟にいたゴブリンの数は、軽く200匹、いや、300匹は超えている気がする。

 いちいち数えてはいないが。

 「大分洞窟の奥まで来た気がするな?ゴブリンの数も減ってきた気がするし、もうそろそろ洞窟の最深部に出るんじゃないか?」

 僕がそんなことを言っていると、僕は自分のすぐ後ろで物凄くフラストレーションが溜まっている仲間が一人いることに気が付いていなかった。

 「ウガァーーー!もう、我慢できねええ!お前らばっかりゴブリンを倒して、俺は一匹も倒してねえぞ!玉藻と鵺ばっかり丈の前で活躍してずりいぞ。大体、この俺は殿なんて合わねえんだよ。立つなら、先頭、やるなら、切り込み隊長役が良いんだ!どけ、お前ら!どうせもう奥なんだし、ちゃっちゃっとゴブリンどもを退治するぞ!行くぜ、オラァー!」

 酒吞はそう言うと、自分の身長と同じくらいの長さの、棘がいくつも付いた黒い大きな金棒を背中から取り出した。鬼の金棒という奴である。

 金棒片手に、先頭の僕たちを押しのけ、前へどんどん進んでいく。

 「待て、酒吞!ここは洞窟の最深部の近くなんだぞ!おそらく、一番罠が多いはずだ!考えなしに前へ進むな!止まれ、止まるんだ!」

 プツン、と酒吞のいる前方から、何かワイヤーが切れるような音がした。

 次の瞬間、「カランコロン、カランコロン、カランコロン~」という音が洞窟中に響き渡った。

 酒吞が気まずそうな顔をして、それから、苦笑いをしながら僕たちの方を振り向いた。

 「あれ、もしかして、俺、やらかしちゃった?」

 僕たち三人は一斉に酒吞に向かって、罵声を浴びせた。

 「やらかしちゃった、じゃないよ!今のは侵入者を知らせる鳴子っていう日本でも有名なトラップだよ!どうするんだよ、奥にいるゴブリンたちに僕たちの存在がばれちゃったじゃないか!ゴブリンたちがさらった村の女性たちを人質にとってくるかもしれないし、何かしらこちらに攻撃をしかけてくるかもしれない!今回は静かにゴブリンたちを討伐する作戦だと、最初に説明したじゃないか?どうすんだよ、一体!?」

 「酒吞、丈様の作戦を聞いていなかったのですか?今回は暗殺という形でゴブリンを倒すと皆で方針を決めたでしょうに?あなたが一番暗殺に向いていないから、隊列の一番後ろに並ばせていたのです!せっかくの作戦があなたのせいで台無しですよ!ゴブリン討伐に失敗した場合、責任は全部あなたに取っていただきますからね!丈様との主従契約は即刻破棄させます!良いですね!?」

 「酒吞の馬鹿!単細胞!間抜け!ドジ!後で絶対、お仕置きする!」

 僕たちが揉めている間に、洞窟の奥から「「「「「「ギギィ―――!」」」」」」というゴブリンたちの鳴き声が聞こえた。

 その直後、ドシドシという大勢の歩く足音が聞こえてきた。

 足音はどんどんこちらに向かってくる。

 次の瞬間、洞窟内をひしめくように、100匹近い数のゴブリンが一斉に津波のようになって僕たちに押し寄せてきた。

 「しょうがない!暗殺作戦はここまでだ!玉藻、幻術を解いてくれ!こうなったら、強行突破だ!一気にゴブリンたちに攻撃だ!酒吞、ゴブリンが人質を取る前に急いで奥まで行くんだ!きっと、群れのボスがいるはずだ!ソイツを倒せ!玉藻、鵺、僕と一緒に残りのゴブリンたちを倒すぞ!酒吞が先に行けるよう道を切り開くぞ!全員良いか?」

 僕は暗殺から強行突破に作戦を切り替えるよう三人に指示を出した。

 「分かりました!」

 「了解だぜ!」

 「分かった!」

 酒吞を洞窟の最奥まで行かせるため、僕と玉藻、鵺は押し寄せて来るゴブリンたちを攻撃し、酒吞のために道を切り開く。

 「オラアー、邪魔だぜ、ゴブリンども!道を開けろー!」

 酒吞が彼女の前に立ち塞がるゴブリンたちに向かって、手に持っていた金棒を縦横無尽に振り回す。

 酒吞の金棒が直撃したゴブリンたちは全身が粉々に潰され、全員ぺちゃんこ、いや、ほぼミンチにされていた。

 彼女の金棒がゴブリンたちを粉砕するたびに、その衝撃で洞窟の床や壁に亀裂が入った。

 圧倒的なまでの破壊力、怪力である。

 酒吞の能力はどうやら怪力らしい。正に、妖怪重戦車と言っても過言ではない。

 明るく豪快な彼女らしい能力と言える。

 いつの間にか前方にいたはずの酒吞の姿は無かった。

 おそらく、今頃洞窟の最深部に着いたところだろう。

 そんなことを考えていると、急にドカーン、という凄まじい音が洞窟の奥から聞こえてきた。

 それから、ゴゴゴォーっと、洞窟内が激しく揺れ出した。

 足元が激しく揺れ、洞窟の壁や天井に亀裂が入った。

 「な、何だ、地震か!?」

 僕が思わず声を上げると、玉藻と鵺が僕に言った。

 「いえ、丈様、おそらく酒吞の仕業です。酒吞が自慢の怪力を使って洞窟の奥で暴れたためでしょう。酒吞の怪力は底が知れないのです。彼女が本気を出せば、大地を割ることも、山を砕くことも可能です。この程度は大したことはありません。実力の1割も出していないはずです。」

 「酒吞、腕力だけなら私たちの中で最強。酒吞の金棒で砕けないものはない。頭は弱いけど、力は半端ない。」

 洞窟を揺らすほどの一撃が全力じゃない、実力の1割も出していないだって!?

 大地や山を割って砕くとは、凄まじいなんてものじゃない。

 正に怪物のなせる業だ。

 うん、酒吞と腕力で喧嘩するのだけは止めておこう。

 まず間違いなく、さっきのゴブリンみたいに、ほとんど原型も残らず、僕はミンチにされるだろう。

 って、こんなことを考えている場合ではない。

 「揺れも収まったみたいだし、こっちにいたゴブリンたちも片づけた。僕たちも最深部へ向かおう。」

 僕たちは酒吞がいる洞窟の最深部へ向かった。

 洞窟の最深部に到着すると、最深部は大きな空間が広がっていた。

 最深部の中央に、酒吞が金棒を肩に抱えながら、ぽつんと一人立っていた。

 酒吞の前には三つの大きな肉塊が転がっていた。

 おそらく、ゴブリンの群れのリーダー格や副リーダー格の死体だろう。

 耳以外、ほとんど原型をとどめていない。

 僕は酒吞に声をかけた。

 「酒吞、お疲れ様。君の怪力はすごいな。君の攻撃の衝撃で洞窟が揺れた時は、一瞬地震で洞窟が崩れるんじゃないかと思ったよ。しかも、あれで全力をほとんど出していないんだろ。さすがは鬼の王、酒吞童子と呼ばれる妖怪だけのことはあるよ。」

 「ああっ、別に大したことはないぜ。」

 酒吞を褒めた僕だったが、彼女はいまいち元気が無かった。

 「どうしたんだ、酒吞?元気がないぞ?一体何があったんだ?君らしくないぞ?」

 元気のない様子の酒吞が気になり、理由を訊ねた。

 「ああっ、みんなちょっと俺に付いてきてくれ。」

 彼女にそう言われ、僕たちは彼女の後を付いて行った。

 最深部の壁側には小さな小部屋がいくつもあった。

 「中を見てくれ。ゴブリンどもに攫われた村の女たちがいる。だげど、中を見てショックを受けないでくれ。」

 小部屋を覗くと、中には、ゴブリンたちによって攫われたと思われる村の女性たちがいた。

 だが、女性たちは皆、虚ろな目をしていて、死んだような顔をしている。

 服は汚れていて、所々破れていてボロボロだ。

 手足を手錠や鎖で繋がれており、逃げられないようにしてあった。

 顔は土で汚れ、体には傷や青あざがいくつも見受けられる。

 彼女たちは生きてはいる。しかし、ゴブリンたちに犯され、嬲り者にされ、彼女たちの心は死んでいる。

 ゴブリンたちによって、廃人同然にされた状態だった。

 彼女たちの悲惨な姿を目の当たりして、僕は声が出なかった。

 「俺が駆け付けた時には、村の女たちは全員こんな有り様だった。きっと、あのゴブリンどもの仕業だ。ひでえことしやがるぜ。女を犯して、暴力を振るうなんざ、鬼畜の所業だぜ。全くもって虫唾が走るぜ。ゴブリンなんてモンスターは絶対にこの世から一匹残らず駆逐しなきゃいけねえ。そうは思わないか、お前ら?」

 ゴブリンたちの、村の女性たちへの残虐極まりない行為に、酒吞が怒りの表情を見せた。

 「僕もそう思うよ、酒吞。ゴブリンなんて言う残虐なモンスターはこの世からいなくなっていいと、ぼくも思う。もし、冒険者になったら、一緒にこの異世界のゴブリンたちを退治しよう。少しでも、ゴブリンのために犠牲になる人がでないよう、頑張ろう。」

 「ああっ、その時はよろしく頼むぜ、丈。」

 日本の鬼の王が、異世界の小鬼を憎み、怒る。

 酒吞、彼女もまた僕同様、異世界を憎む者なのだろう。

 ゴブリンによって攫われた村の女性たちは全員合わせて10人いた。

 彼女たちを運ぶ手段までは考えていなかったし、用意していない。

 いや、もしかしたら、鵺にならできるかもしれない。

 「鵺、彼女たち、村の女性たちを君の力で村まで運ぶことはできないかな?一度、村に戻って、彼女たちを運ぶ馬車なり荷車なりを取りに行くのも有りではあるけど?」

 「それなら問題ない。私が風を起こして彼女たちを安全に村まで運ぶ。すぐにでもこの人たちを早く村に帰してあげたい。」

 「丈様、鵺の言う通りです。一刻も早く、こんな忌まわしい場所からこの方たちを連れ出し、治療を受けさせるべきです。この方たちは体も心もボロボロです。それに、村にいるご家族も心配しているはずです。」

 鵺と玉藻が彼女たちをすぐに村に帰すべきだと言ってきた。

 「分かった。玉藻、酒吞、鵺は彼女たちをこの洞窟から一旦外に連れ出してくれ。同じ女性の君たちなら少しは安心するはずだ。僕は急いでゴブリンたちの耳を集める。三人とも、よろしく頼むよ。」

 「かしこまりました。」

 「了解だぜ。」

 「分かった。」

 玉藻、酒吞、鵺の三人は、ゴブリンたちに攫われた村の女性たちを、一生懸命宥め、洞窟の外へと一人ずつ連れだして行く。

 僕は大急ぎでゴブリンたちの死体から討伐の証である耳を切り取り、袋に詰めていった。

 一人で何百匹ものゴブリンの死体から耳を切り取るのは中々の重労働であった。

 僕は剥ぎ取り作業を終えると、急いで洞窟の外へ出た。

 洞窟の外では、玉藻、酒吞、鵺の三人に、ゴブリンに攫われていた村の女性たちが待機していた。

 「待たせて、ごめん、みんな。それじゃあ、鵺、皆さんを村までお運びしてくれ。」

 「分かった。」

 その時、村の女性たちの一人が僕に声をかけてきた。

 「あ、あ、あの、た、助けて、く、くれて、あ、ありがと。」

 こげ茶色の髪をおさげにした、僕と同い年ぐらいの女の子だった。

 「僕は大したことはしていません。あなたたちを助けられたのは、僕の連れの三人がいたからです。礼なら、あの三人に言ってください。」

 「あ、あなた、も、い、一生懸命、た、たすけて、く、くれ、た。わ、わたし、た、たーにゃ、です。」

 「ターニャさんですか?僕は宮古野 丈です。ジョーとでも呼んでください。一日でも早くあなたの体調が治ってくれたら、僕はそれで満足です。」

 「じょ、じょーさん、ほ、ほん、と、に、あ、ありがと。」

 「はい、どういたしまして。」

 ターニャと名乗る女性が少しだけ、笑顔になった。

 彼女の体と心に受けた傷が無事に癒えることを僕は切に願った。

 それから、僕たちはゴブリンに攫われていた村の女性たちとともに、アープ村へと無事帰還した。

 アープ村に戻るなり、村長やジャック、村の人たちが驚いた顔で僕たちを迎えてくれた。

 僕たちは、依頼通りゴブリンの巣を討伐したこと、ゴブリンに攫われていた村の女性たちを救出したことを村長や村人たちに報告した。

 村長や村人たちは、村を襲っていたゴブリンたちが一匹残らず討伐されたと聞き、皆喜んでいた。

 また、ゴブリンに攫われていた村の女性たちと、彼女らの家族は、再会を喜び、涙を流し、抱き合っていた。

 カイン村長が僕に話しかけてきた。

 「この度は何と御礼を申し上げましたら良いものか?報酬はいらないとおっしゃっていましたが、どうか受け取ってください。あなた方には決して返しても返しきれない恩ができました。あなた方はこの村の救世主ですじゃ。何か他に欲しい物はございませんか?できる限りのことをさせていただきますぞ。」

 「お気持ちだけ受け取っておきます。僕は大したことはしていません。ゴブリンを討伐できたのも、攫われていた村の女性たちを救出できたのも、全部僕の連れがいたからです。御礼でしたら、連れの三人に言ってください。」

 「そんなことはおっしゃらんでください。あなたが先頭に立って、ゴブリンたちを退治してくれたのは、儂だけでなく、この村の者全員が知っておりますじゃ。そんな全身血まみれの姿を見れば、あなたがどれだけ一生懸命、儂たちのために戦ってくれたのか、一目で分かりますぞ。」

 「えっ、全身、血まみれ!?」

 村長に言われ、自分の体を見ると、ゴブリンたちの返り血で全身血まみれだった。

 着ている制服やシャツ、靴下に靴まで、真っ赤に血で染まっている。

 はっきり言って、血生臭い。

 戦闘に夢中で、今の今まで全く気が付かなかった。

 「うわっ、制服が血まみれだ。服はこれ一着しか持っていないんです。あーあ、靴下も靴も血まみれだ。もう、この服は血が付きすぎてとてもじゃないが着られる状態じゃないぞ。いや、洗えば、何とかなるか?でも、これからモンスターと戦うたびに血まみれになって、そのたびに洗濯するのも面倒だぞ?一体どうしたら?」

 僕が、制服が血まみれになる問題について考えていると、村長が僕に言った。

 「お待ちくだされ、ジョー殿。あなた様のお悩みを解決する良い品がこの村にございますじゃ。しばしお待ちを。」

 そう言うと、村長はとある商店の中へと入っていった。

 10分後、何やら手に黒い衣装を持った村長が僕の方に駆け寄ってきた。

 「お待たせいたしました。ジョー殿、こちらの服を着てみてくだされ。きっと、お気に召すはずですぞ。」

 僕は村長から服を渡され、一旦村長の家に入り、それから、渡された服を着てみた。

 村長から渡された服は、全て黒のレザーでできた、ライダースジャケット、パンツにベルト、それから、手首まで覆うグローブに、ブーツ、そして、白いシャツだった。

 ほぼ全身黒一色という格好であった。

 「これは一体何の皮でできているんだ?それに、全身黒一色って、なんかちょっと偏ってないか?まぁ、着心地は悪くないけども。」

 それから、渡された服に着替えた僕は、ふたたび村長たちの前に現れた。

 村長は僕の姿を見るなり、とても喜んだ。

 「おおっ、よくお似合いですぞ、ジョー殿。そちらは、ワイバーンの皮でできた冒険者のための服になりますじゃ。その服ならば、モンスターの返り血を浴びてもすぐに血をはじくので、返り血が付くことはありません。おまけに、熱にも寒さにもある程度強いのです。以前、この村の日用品店にたまたま入荷していたものですが、この村でその服を着るものは誰もおらず、ずっと倉庫の中に眠っていた品ですじゃ。これから、冒険者になられるのであれば、その服は絶対にお役に立つはずです。どうか、報酬代わりにその服を受け取っていただけませんか?」

 「ジョー兄ちゃん、すっげえかっこいいよ。まるで本物の勇者みたい。」

 「勇者か。」

 勇者。光の女神からジョブとスキルを与えられた特別な存在。

 そして、女神からジョブとスキルをもらえなかった俺を能無しの悪魔憑きと呼んで処刑した憎むべき相手。

 僕は勇者たちが嫌いだ。彼らを憎み、彼らへの復讐を誓った。

 僕は復讐の鬼だ。

 そんな僕が勇者と呼ばれるのはおかしい。

 僕に勇者を名乗る資格は無いし、名乗りたいとも思わない。反吐が出て来る。

 「ジョー兄ちゃん、どうしてそんな苦しそうな顔をしているの?どこか怪我でもしているの?」

 ジャックが青い澄んだ瞳で僕を見つめてくる。

 「何でもないよ、ジャック。カイン村長、この服は大事に使わせていただきます。こんな貴重な品をありがとうございます。それから、ジャック、僕を褒めてくれてありがとう。でも、僕はジャックの思うような良い人間じゃないんだ。勇者なんて君に呼んでもらえる資格は僕にはないんだ。僕はね、ジャック、君をあの時、ゴブリンから助けたのは、君に優しくしたらこの村の人たちが優しくしてくれるんじゃないか、そんなことを考えていたんだ。本当はゴブリンと戦うのが怖くてしょうがない臆病者なんだ。それに、僕はとある理由から復讐の旅をしているんだ。僕は復讐の鬼なんだ。だから、僕のことはもう忘れてくれ。僕を勇者とは呼ばないでくれ。いつかきっと、君の前に本物の勇者が現れる。その人を好きになればいい。分かったね、ジャック。」

 「違うよ!?ジョー兄ちゃんは良い人だよ!臆病者なんかじゃない!復讐の鬼なんかじゃない!ジョー兄ちゃんは僕にとっての本物の勇者様だよ!ジョー兄ちゃんは、ジョー兄ちゃんは「黒の勇者」様だよ!僕を、みんなを守ってくれてありがとう、「黒の勇者」様!僕、絶対にジョー兄ちゃんのことは忘れない!ジョー兄ちゃんみたいな立派な冒険者になるから!だから、僕のことも絶対に忘れないでね!」

 ジャックはこんな復讐鬼の僕を良い人間だと、勇者だと言って慕ってくれる。

 僕は胸が急に苦しくなった。

 こんな純粋な子に慕われていい人間なんかじゃないんだ。

 僕はこれから人殺しをするただの復讐の鬼なんだ。

 なのに、なのに、僕はどうしてこの子にずっと慕われていたい、そう思うんだ?

 僕の心の中はぐちゃぐちゃだ。

 僕の目から涙がこみ上げてくる。

 「ジョー殿、あなたがとても複雑な事情を抱えていることが分かりました。しかし、これだけは言わせてください。あなたが例え復讐の鬼でも、あなたはこのアープ村を救ってくれた英雄ですじゃ。儂たちはあなたから受けた御恩を、あなたの優しさを忘れません。どうか、これからも世のため、人のため、あなたのお力をお使いください、「黒の勇者」様よ。あなたの旅に幸多からんことを願っておりますぞ。」

 「ありがとうございます。その言葉でもう充分です。さよなら、ジャック。さよなら、カイン村長。さよなら、アープ村の皆さんたち。」

 僕はそう言うと、村の人たちに背を向け、アープ村を出ることにした。

 僕はうつむきながら、黙ってアープ村を歩いて出て行く。

 「お待ちください、丈様!」

 「おい、待てよ、丈!」

 「待って、丈君!」

 玉藻、酒吞、鵺の三人が慌てて僕の後を追いかけてくる。

 アープ村を出て、しばらく街道を黙って歩いていた。

 アープ村が見えなくなると、僕は街道を逸れて、街道沿いの森に生えている一本の木の前に立ち尽くした。

 「ああああああっ!」

 僕は叫び声をあげ、右の拳に霊能力を込めて、霊拳の一撃を目の前の木にぶつけた。

 目の前の木がへし折れ、倒れた。

 僕はそのままその場で膝から崩れ落ち、しゃがみ込んだ

 「僕は、僕は優しくなんかない。ジャックを助けたのは、下心があったからだ。でも、本当は、あの時、ゴブリンに襲われているあの子が、叔父叔母夫婦に虐待を受けていた時の僕に重なって見えたんだ。あの子は僕が復讐を誓ったこの異世界の子供なのに、体が、勝手に動いたんだ。あの子を助けるために体が動いてしまった。アープ村だって、情報収集や食料の調達のための道具だと、そう思っていたのに、放っておいてもいいのに、助けてしまった。ゴブリンよりランクの高いモンスターを他所で狩ればいいのに。でも、あの優しいカイン村長が、亡くなった丈道お爺ちゃんに重なって見えた。あの人の優しさが、あの人とジャックの二人の姿がどこか懐かしくて、守りたいと思ってしまった。僕は勇者たちに、インゴット王国の王たちに、光の女神リリアに、この異世界アダマスに復讐すると誓ったのに。僕は復讐の鬼なんだ。復讐の鬼なんだ。優しい人間じゃない、勇者なんて呼ばれる立派な人間じゃないんだ。僕は、僕はどうしたら良いんだ!?」

 僕は涙を流し、苦悩した。

 その時、僕の背後から、玉藻、酒吞、鵺の三人がそっと抱き着いてきた。

 「丈様、もう泣かないでください。丈様が復讐心と優しさの間で苦しんでいることがよく分かりました。もっと早くに気付いてあげるべきでした。丈様、私は優しい丈様が大好きです。丈様が誰よりもお優しいことを知っております。この異世界に来て、丈様は大変辛い思いをなされました。ご学友や教師たちに裏切られ、この国の王族たちから冷たい仕打ちを受けました。ですが、丈様はそれでも優しさを失いませんでした。丈様の持つその優しさこそ、本当に勇者が持つべき心だと思います。丈様、私は優しい復讐の鬼、そんな復讐の鬼がいてもいいと思います。」

 玉藻の言葉に、僕は反応した。

 「優しい復讐の鬼?」

 「はい、優しい復讐の鬼です。この異世界にも、アープ村の人たちのように、丈様に優しくしてくれる善良な人間がおります。この異世界で丈様の敵となった者、敵となる者に復讐すればいいのです。そして、この異世界でも丈様の真の味方となってくれる者には慈悲の手を差し伸ばせばいいのです。本物の勇者のように優しい復讐鬼、そんな存在がいてもいいじゃありませんか?」

 「丈、俺はあの村の人たちのために戦ってくれたお前が人間として好きだ。一緒に冒険者になって、この異世界に巣食うゴブリンの糞どもを一緒に倒そうと言ってくれたお前が好きだ。他の誰かに優しくできるってのは、本当に強い奴にしかできねえことだ。お前は俺が見込んだ男だ。この異世界の悪党どもは容赦なく倒せばいい。復讐すればいい。俺もお前の復讐に手を貸してやる。それから、異世界の奴でもお前が助けたいと思うなら助ければいい。俺も一緒に助けてやる。優しい復讐鬼、良い響きじゃねえか、ええ。」

 「丈君は決して下心で人を助けたりはしない。本当の優しさを知っているから、他の人を一生懸命に助けることができる。異世界の人でも良い人ならきっと丈君は助ける。悪い人ならきっとやっつけちゃう。丈君の優しさがきっとこの異世界を良くしてくれる、そんな気がする。勇者たちも国王たちもどう見ても悪人。だから、復讐しても問題ない。みんな、喜ぶはず。勇者よりも優しい復讐鬼の方がずっと良い。私もみんなもハッピー。だから、元気を出して。」

 彼女たち三人の温もりが僕を包み込んだ。

 「ありがとう、玉藻、酒吞、鵺。優しい復讐鬼か。何だかその言葉を聞くと、心が落ち着くよ。僕は僕なりに復讐の旅を続けるよ。その旅の先に何が待っているかは分からないけど、僕は異世界への復讐は止めないし、自分の中の優しさに従って人を助けるよ。本当にありがとう、みんな。」

 僕はしばらく三人と抱き合った。

 それから、立ち上がり、異世界の旅を、復讐の旅を再開した。

 「みんな、ここから街道を馬車で進んで二時間ほど、アープ村からだと東の方角に、インゴット王国の冒険者ギルド北支部があると、カイン村長から聞いている。そこが一番近いギルドだそうだ。そこで冒険者登録をしよう。鵺、また一緒に空を飛んでくれるかい?」

 「もちろん。丈君、他の二人も準備して。」

 そして、僕たちはインゴット王国の冒険者ギルド北支部に向けて空を飛んで移動を始めた。

 アープ村でのゴブリン退治を通じて、僕の霊能力はついに覚醒した。

 また、アープ村の人たちとの交流を通じて、僕の中にあった復讐心がより強固で、より鮮明なものになった。

 優しい復讐鬼。一見中途半端にも聞こえるが、これが、僕の復讐のやり方だ。

 僕を苦しめる異世界の悪、勇者たち、インゴット王国の王族たち、光の女神リリア、僕と敵対する異世界の者たちには容赦なく復讐する。

 そして、この異世界で守りたいと思った人たちは、異世界人であっても絶対に守る。

 僕の異世界への復讐の旅は続いていく。








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