第五話 主人公、冒険者になる
アープ村を出てから1時間、出発直後にいろいろとあったが、元気を取り戻した僕は、鵺とともに空を飛び、目的地であるインゴット王国冒険者ギルド北支部がある、ノーザンという大きな町の前に着いた。
30分ほどのフライトを終え、人目に付かないよう、近くの森の中に着陸した。
僕にとり憑いていた玉藻と酒吞の二人が僕の体からそれぞれ出てきた。
「アープ村の人たちからもらったこのワイバーンの服だけど、フライト中も全然寒さを感じなかった。アープ村の人たちには本当に感謝しかないな。」
「丈君、元気が出て良かった。その黒い服、超似合ってる。」
「丈様、元気を取り戻されて何よりです。お召しになっているその服はとてもよくお似合いです。ひとえにこれも丈様の人徳の賜物です。」
「丈、似合ってるぜ、その服。制服なんかよりそっちが断然いい。どうせなら、ついでに「黒の勇者」様とやらになったら、どうだ?あのクソガキどもよりお前の方が勇者にぴったりだと俺は思うぜ。」
玉藻、酒吞、鵺の三人が、僕が着ているワイバーンの服の感想やらを述べた。
「ありがとう、みんな。僕もこの服がすごく気に入っているよ。だけど、勇者になるのだけは勘弁してもらいたいよ。僕はただの優しい復讐鬼さ。」
僕は笑いながら答えた。
「それより、みんなには遠回りさせちゃってごめんね。僕の我が儘に付き合ってくれて、本当にありがとう。特に酒吞、さっきはゴブリンたちの住んでいた洞窟を壊してくれてありがとう。ゴブリンたちを退治しても、また、他のゴブリンたちが巣にしたら大変だからね。洞窟の破壊、本当にお疲れ様。たった一撃であんなに大きい洞窟をがれきの山に変えてしまうなんて、本当にすごい怪力だよ。」
「おう、あれぐらい朝飯前だぜ。丈、お前は本当に優しくて頭が回るよな。あれなら、もうあの村の連中も安心だろうよ。」
僕はノーザンの町に向かう途中、アープ村の近くにあった、ゴブリンたちが巣にしていた洞窟に立ち寄り、酒吞に頼んで、他のゴブリンやモンスターたちが巣にしないよう、徹底的に破壊してもらった。酒吞の怪力から繰り出される金棒の一撃は、洞窟を一瞬にしてがれきの山へと変えてしまった。あれで全力の1割出したかどうかとは、本当に恐るべき怪力である。
だが、これでしばらくはあのアープ村の人たちもモンスターに怯えることなく、また、穏やかな生活に戻れることだろう。
他の三人と話をしながら森の中を抜け、街道を歩いていると、ノーザンの町の入り口に着いた。
巨大な外壁が町をグルっと囲んでいて、巨大な扉の付いた門が、町の出入り口になっている。
入り口には門番をしている兵士が二人ほど立っていたが、他の通行人たちからお金を受け取っている様子では無かった。
異世界召喚物の物語ではまれに門番から通行料を徴収される様子が描かれていることがあり、通行料を取られるかと思ったが、別に取られる様子もなかった。
実際、僕たちは一文無しなので助かった。
僕たちは特に疑われることもなく、すんなりとノーザンの町の中へと入れた。
アープ村と比べ、ノーザンの町は何十倍も広く、商店が道端にはいくつも立ち並び、人も多く、活気に満ちている。
さて、早く冒険者ギルドに行って、冒険者登録を済ませねば。
ぶっちゃけ、今の僕たちは無職で宿無し、金無しという、戦闘力以外、生活に必要なものを何一つ持っていない。
後、妖怪の三人は知らないが、僕は非常にお腹が空いている。
食事にも早くありつきたい。
僕は通行人の男性に声をかけた。
「すみません。お訊ねしますが、冒険者ギルド北支部というのはどちらにあるんでしょうか?この町には初めてきたもので、道が分からなくて。」
「ああっ、冒険者ギルド北支部でしたら、この道をずっとまっすぐ行って、左手に見える大きな三階建ての白い壁の建物がそうですよ。大きな看板も出ているから、すぐに分かると思いますよ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
僕は通行人と話し終えると、通行人の案内に従い、まっすぐ道を歩いた。
20分ほど歩くと、左手に白い壁の三階建ての大きな建物が見えてきた。
入り口の看板には「インゴット王国冒険者ギルド北支部」という文字がデカデカと書かれた看板が見えた。
異世界であるにも関わらず、異世界の文字が読める、というのは何だか不思議な気分だ。
異世界語を知らないのに、異世界の人と普通に話したり、異世界の文字が読めたりするなんて、何とも言えない変な気分がしてくる。
異世界召喚されて唯一得られた能力である。
もし、異世界語が使えなかったら、ますます僕の異世界生活は詰んでいたことだろう。
本当に異世界召喚とは奇妙で面倒くさいものである、そう思った。
いかん。そんなことを考えている場合じゃない。
僕は頭を切り替え、それから後ろの三人に声をかけた。
「これからこの冒険者ギルド北支部で冒険者の登録をする。ギルドの職員たちとの交渉は僕が行う。中に入ったら、出来る限り騒がず、静かに待っていてくれ。異世界召喚物の物語だと、冒険者ギルドの冒険者たちは荒くれ者が多いのが定番だ。彼らと出来る限り、トラブルにならないよう、みんなも注意してくれ。それじゃあ、一緒に中に入ろう。」
木製の扉を開き、僕たち四人は冒険者ギルドの中に入った。
ギルドの中はとても広く、異世界召喚物の物語で出て来る、武器や冒険者風の装いを身に着けた、いかにも冒険者たちといった姿の人たちがたくさんいた。
壁には掲示板が掛けられ、そこには冒険者への依頼内容が書かれた依頼書が何枚も貼られていた。
ギルド内のテーブルに座って、話をしたり、酒を飲んだりしている人たちもいる。
正面には、ギルドの受付嬢と思われる受付係たちが座ったカウンターが見えた。
僕は空いているカウンターに向かい、受付嬢に声をかけた。
「すみません。僕と後ろにいる三人なんですが、こちらで冒険者として登録をしたいのですが、お願いできますでしょうか。」
「はい、冒険者登録ですね。かしこまりました。では、ステータスの鑑定を行いますので、こちらの水晶玉に手をかざしていただけますか?鑑定したステータスを基に、皆様の冒険者としての証となるギルドカードを発行させていただきます。」
「ええっと、すみません。実は僕たち4人ともこの国に来てからジョブとスキルがステータスとして表示されないという大変奇妙な事態に見舞われていまして、それでも冒険者として登録はできますでしょうか?」
僕の言葉に、受付嬢は驚いた。
「ええっ!?ジョブとスキルがステータスに表示されない!?すみません、確認のため、皆さん、こちらの水晶玉に手をかざして、ステータスを見せていただきますか?」
「はい、分かりました。」
僕、玉藻、酒吞、鵺はそれぞれ、受付嬢の指示に従い、カウンターの上に置かれた水晶玉にそれぞれ手をかざした。
しかし、四人とも、ジョブもスキルも全く表示されなかった。
受付嬢は困惑している。
「ええっ!?四人ともジョブもスキルも表示されないなんて!?当ギルド始まって以来の珍事です。一体どうしてこんなことが?水晶玉は故障していないはずですし?弱りましたねぇ!?」
「そう仰ると思いましたので、手土産と申しますか、僕たちで討伐したゴブリンの耳をお持ちしました。この袋の中に、ちょうど400匹のゴブリンの耳が詰まっています。中を開けてご確認ください。僕たちの実力の参考になるかと思います。よいしょっと。」
僕はカウンターの上に、先ほど討伐したゴブリンたちから剥ぎ取った耳が入った袋を乗せ、袋の口を開いて、中にあるゴブリンの耳を受付嬢に見せた。
耳を見せながら、僕は説明した。
「これはアープ村から出ていたゴブリン退治の依頼にあったゴブリンたちの耳です。当初の依頼内容では100匹以上とありましたが、確認したところ、400匹のゴブリンたちがいました。アープ村を襲っていたゴブリンたちは僕たち全員で一匹残らず討伐しました。それから、倒したゴブリンたちの内、三匹は通常より大きい個体でした。おそらく、ホブゴブリンやゴブリンキングと呼ばれる種だと、アープ村の方からうかがっております。どうでしょう、この討伐実績を基に、冒険者登録をお願いできませんか?」
袋の中にパンパンに詰まったゴブリンの耳を見ながら、受付嬢は言った。
「確かにこれは間違いなくゴブリンの耳です。アープ村を襲っていたゴブリンたちの耳と言われましたね。100匹ほどと聞いていましたが、まさか400匹もいたなんて!?それによく見ると、他のものよりはるかに大きいゴブリンの耳もありますね。私は専門ではありませんが、間違いなくホブゴブリンやゴブリンキングのものでしょう。順当に考えれば、皆さんの戦闘能力、冒険者としてはおそらくBクラス以上でしょう。しかし、ジョブとスキルが確認できない者を冒険者として登録したことはこれまでにありませんし、申し訳ありませんが、一度ギルドの上層部と相談させてもらえませんか?上層部の判断を基に、あなた方の冒険者登録を行うかどうか、決めさせていただきたいのですが?」
やはり、ジョブとスキルが確認できないと、すぐに冒険者として登録はしてもえらえないらしい。
ここは頑張って粘るしかない。
ギルドの上層部の判断を待つことにしよう。
今ここでギルドと事を構えるのは得策ではない。
僕は受付嬢に向かって言った。
「分かりました。では、ギルドの上層部の判断をお待ちすることにします。出来る限り良いお返事をお待ちしております。それと相談なのですが、僕たち4人とも遠い辺境の地からここまで旅をしてきたのですが、路銀が底をついてしまい、食事や宿に困っております。どうにかならないものでしょうか?」
「それでしたら、ギルドの簡易宿泊所をご利用ください。宿泊料が安くて、支払いのツケも利きますし、食事と部屋も十分ございます。皆さんの実力を上層部が理解してくれれば、すぐにたまったツケも清算できますよ。ギルドの二階が宿泊所になります。では、こちらの書類にサインをお願いいたします。部屋はお一人ずつ一部屋をとられますか?」
「はい、それでお願いしま・・・」
「お待ちください、丈様!部屋は4人部屋でお願いいたします!」
「おう、俺も4人部屋がいいぜ!絶対に4人部屋だ、良いな!?」
「私も4人部屋に賛成!4人一緒が一番安心!」
僕の後ろで話を聞いていた、玉藻、酒吞、鵺の三人が大声を上げて、4人部屋をとれ、と抗議してきた。
受付嬢は、「アラアラ、お盛んですね。」と、笑いながら言ってきた。
僕は三人の言葉に困ったが、三人ともすごい真剣な目付きで僕にお願いしてくる。
どうやら断れる雰囲気では無かった。
「ハアー、分かったよ。すみません、四人部屋を一つお願いします。後、受付嬢さんが思っているような関係じゃありませんから、僕たち。」
受付嬢は今もクスクス笑いながら言った。
「かしこまりました。では、4人部屋をおとりいたします。こちらが部屋の鍵です。失くさないようお願いいたします。お食事はギルド一階に併設してある食堂でお願いします。宿泊料の清算はこちらのカウンターにてお願いいたします。宿泊の日数は何日ほどをご予定ですか?」
「ええっと、とりあえず9泊10日でお願いします。延長する場合はこちらから連絡します。それで一旦お願いします。」
「かしこまりました。では、9泊10日で承ります。あなた方が冒険者として登録できることを願っております。」
部屋の鍵を渡しながら、受付嬢のお姉さんが僕たちにそう言った。
「ありがとうございます。では、上層部へのご相談、よろしくお願いします。」
僕たちが受付嬢と話をしていると、後ろから僕に声をかけてくる男がいた。
「おい、さっきから話を聞いてりゃ、ジョブとスキルがねえのに冒険者登録してえだと!?ゴブリンを400匹狩っただの言ってるが、どっかの底辺冒険者どもから盗んできたんじゃねえのか!?大体、後ろに三人も女を連れてハーレム気取りか、テメエ!?テメエみたいなひ弱なハーレム気取りのお坊ちゃんに務まるほど、冒険者の仕事は甘くねえんだ!怪我したくなかったら、今すぐこのギルドから消えな!ついで後ろの姉ちゃんたちも置いて行け。俺がたっぷり可愛がってやるからよぉ。」
年齢は20代後半ぐらいの、背中に斧を担いだ、いかにも柄の悪そうな男が、僕の後ろにいた玉藻、酒吞、鵺の三人に、下卑た視線と笑みを向けながら、僕に向かって言った。
何だ、この男は?
僕を盗人呼ばわりする上に、ひ弱なハーレム気取りのお坊ちゃんだとか言いやがった。
後、僕の大切な三人に下品な視線を向けるとは、絶対に許せん。
「あなたに盗人呼ばわりされるおぼえも、ハーレム気取りだとか呼ばれるおぼえも無いな。後、僕の連れをいやらしい目で見るのは止めてください。失礼ですが、あなた、本当に冒険者の方ですか?僕には女性にいやらしい目線をむけるただの変質者にしか見えませんが?」
僕の挑発を聞いて、男は激高した。
「テメエ、俺のことを変質者だといいやがったな!俺は、このギルドのエース、ワルダー・スート様だぞ!このギルドで数少ないCランク冒険者で重戦士のジョブを持つこの俺にそんな口をきいて、タダで済むと思うなよ!」
ワルダーと名乗る男はそう言うと、僕に向けて背負っていた斧を抜いて構えた。
ああっ、あれか。
異世界召喚物の物語でお馴染みの、主人公に絡んでくる、新人冒険者や後輩の冒険者をいびって楽しんでいる、碌でもないクズ冒険者ってやつだ。
本当につくづく、異世界召喚物の物語の世界にありがちな展開ばかりで、正直うんざりしてくる。
「丈様、あの不埒な輩をどう処理いたしますか?今すぐこの場で暗殺してもよろしいですが?」
「丈、あの糞野郎、ぶっ殺してもいいか?アイツの顔、どことなくゴブリンみてえで今すぐぶっ潰してやりてえんだが?」
「丈君を馬鹿にした。絶対に許さない。即刻、首を斬り落としてやる!」
玉藻、酒吞、鵺の三人もあの男への不快感を露わにした。
「三人とも、手を出さないでくれ。どうも、あのワルダーさんとやらは僕に御用があるそうだ。ちょっと行って、話をつけてくるよ。三人は待ってて。」
僕は三人にそう言うと、斧を構えて立つワルダーの正面に立ち、彼に言った。
「ワルダーとか言ったな。あいにく僕はあなたにお付き合いしているほど暇じゃない。大体、冒険者でもない者に気に食わないからという理由だけで刃物を向けるとは、冒険者としての格の低さが良く分かりますよ。言っておきますが、僕の強さは間違いなくBランク以上ですよ。Cランクのあなたじゃ僕には勝てっこない。いい加減、その斧を降ろしてくれませんかねえ。怪我をさせたくないのはむしろこちらなんですよ。分かってもらえませんか?」
ワルダーは僕の言葉を聞き、ますます怒った。
「テメエ、この俺が冒険者として格下だの、テメエより弱いだの言いやがったな!調子に乗るんじゃあねえぞ、クソガキ!今すぐテメエをぶっ殺してやるよ!」
ワルダーは斧を構え、そして、僕に向かって一気に駆け出し、持っていた斧を僕の脳天目掛けて振り下ろした。
「死ねえ!重破斬!」
ワルダーの振り下ろした斧が僕の脳天に直撃する直前、僕は霊能力を体に纏った。
霊能力が青白い光となって、僕の全身を包んだ。
「霊拳。」
ワルダーの振り下ろした斧が僕の脳天に直撃した。
が、しかし、ワルダーの振り下ろした斧は僕の頭にぶつかるや否や、粉々に砕け散った。
ワルダーも、ギルド内で僕たちの様子を見物していた冒険者たちも、目を丸くして驚いた。
「な、何いー!俺の自慢の斧が砕けただと!?一体何しやがった!?こ、こんなこと、あ、ありえねえ!?」
斧の直撃を受けても全く平気そうな僕の様子を見て、ワルダーが後ずさる。
「もう終わりか?じゃあ、次はこっちから行くぞ!」
僕は右の拳に力を込め、構えた。
「ま、待ってくれ!?あ、アンタにはもう逆らわねえ!ゆ、許してくれ!」
ワルダーが命乞いを始めたが、聞くつもりは微塵もない。
「今更謝っても遅い!」
僕は一瞬でワルダーの下に詰め寄ると、彼の顎目掛けて右の拳からアッパーカットをお見舞いした。
「トゥリャーーー!」
僕の放ったアッパーカットがワルダーの顎に直撃し、ワルダーを天井高くまで吹っ飛ばした。
そのままワルダーの体はギルドの一階の天井を突き破り、ギルドの最上階である三階の天井まで突き破った。
空中高く吹っ飛ばされたワルダーが落下し、また、ギルドの天井に空いた大穴から落ちてきた。
グシャっという音を立て、ワルダーが床に伸びている。
ワルダーは口から血を流し、白目を剝いている。手足の関節が明後日の方向に折れ曲がっている。全身も傷だらけでボロボロだ。
ギルド内は騒然となった。
「フー、これに懲りたら僕たちにはもうちょっかいを出さないことだ。特に、僕の連れの三人に変なちょっかいを出してみろ。この程度じゃ済まないと、そう思え!」
僕はギルド内で一部始終を見ていた冒険者たちを睨みつけながら大声で言った。
冒険者たちは全員、青い顔をして僕を見ている。
「とりあえず、これで僕たちにちょっかいを出してくる奴はいなくなるだろう。」
「丈様、お疲れさまでした!」
「丈、格好良かったぜ!」
「丈君、すごく格好良かった!さすが、私たちの主様!」
玉藻、酒吞、鵺の三人が僕に労いの言葉をかけてくれた。
「ありがとう、三人とも。僕が馬鹿にされたり、けなされたりするのは別に構わないけど、君たちまでそんな目に遭うのは我慢できない。何より、大切な君たちがそこに転がっているような悪漢どものいやらしい目で見られるのが嫌なんだ。だけど、ギルド内では揉め事を起こさないように言ったのは僕なのに、約束を破ってごめん。だけど、三人を思うと、つい我慢できなくてさ。これで冒険者登録できなくなったら、本当にごめんよ。」
僕は三人に謝った。
「気にしないでください、丈様。
「丈、俺たちのために怒ってくれるなんて嬉しいぜ!ますます惚れちまいそうになるぜ!冒険者なんぞなれなくても俺たちは気にしねえからな!」
「丈君、ありがとう!丈君は本当にジェントルマン!冒険者以外の仕事でも私たちは全然問題ない。丈君のためならどんな仕事でも大丈夫。いくらでも稼いでみせる。」
「本当にありがとう、みんな。」
僕たちが話をしていると、ドタドタとギルドの階段を誰かが降りてきた。
「おい、今の爆発は何だ一体!?ギルドの屋根が吹き飛んでいるぞ!?一体、何が起こった?」
階段から、40代後半と見える、白髪の短髪に金骨隆々の男性が降りてきて、慌てた様子で、受付嬢たちに訊ねた。
先ほど僕たちと受付で話をしていた受付嬢が、白髪の男性に向かって声をかけた。
「ぎ、ギルドマスター、聞いてください!実は、ワルダーさんがあちらに立っている黒髪に黒い服の男性に、いつもの新人いびりの感じでちょっかいを出したら、喧嘩になって、それでその、ワルダーさんがあの男性に吹っ飛ばされてしまったんです。天井に穴が開いたのはワルダーさんがあちらの男性に吹っ飛ばされた時にできた衝撃でできたものでして。」
「何、また、ワルダーの奴が問題を起こしたのか?一体何度注意すれば懲りるんだ、あの馬鹿は?それで、ワルダーはどうした?」
「ええと、ワルダーさんでしたらそこの床に転がっています。全身傷だらけで、見るに堪えない状態でして。」
受付嬢が、床に転がって気絶しているワルダーを指さした。
ギルドマスターと呼ばれた男性がワルダーの下に駆け寄る。
「おい、両手両足の骨が完全にイカレテいるぞ。誰か、今すぐワルダーの奴をギルドの医務室に運んでやってくれ。こりゃ、しばらく入院、下手したら冒険者は廃業だぞ。」
ギルドマスターは、ボロボロになったワルダーを見ながら言った。
受付嬢がギルドマスターに駆け寄り、それから僕の方を見ながら言った。
「ギルドマスター、聞いてください。そこに立っている黒い服の男性ですが、冒険者への登録をご希望されているんですが、ステータスを鑑定しても、スキルもジョブも表示されないんです。スキルもジョブもないと出て来るんです。お連れの三人の女性も同じです。ですが、あのアープ村から依頼が出ていたゴブリンの巣の討伐を成し遂げたそうです。しかも、依頼では100匹とありましたが、実際は400匹いたそうで、400匹全てを討伐したそうです。カウンターに袋詰めにされたゴブリンの耳が置いてあります。中を見ましたが、ホブゴブリンやゴブリンキングと思われる上位個体の耳が入っていました。それに、ワルダーさんとそこにいる黒い服の男性が戦った際、男性の方がスキルのようなものを使っていました。スキルを纏ったワルダーさんの斧の一撃を頭で受け止めただけでなく、ワルダーさんの斧をそのまま砕いてしまいました。おまけに、拳一発でワルダーさんを倒し、ギルドの天井に大穴を開けました。ギルドマスター、彼らの実力は間違いなくBランク以上です。どうか、彼らの冒険者への登録を認めてもらえませんか?ワルダーさんへの毅然とした態度や丁寧な口調と言い、性格面も問題ありません。絶対に将来、ウチのギルドの即戦力になるはずです。断言いたします。どうか、ご一考いただけませんか?」
受付嬢が熱のこもった目で、ギルドマスターに、僕たちについて説明した。
「おい、色々と情報量が多すぎて、理解が追いつかんぞ!?鑑定しても、ジョブとスキルが出てこないだと?アープ村のゴブリンを討伐した、それも400匹だと?ワルダーの斧の一撃を頭で受けて斧を砕いただと?おまけに、重戦士のジョブを持つCクラス冒険者のワルダーを、ギルドの天井に大穴を開けるほど吹っ飛ばしただと?それも、拳一発でだと?一体何がどうなっているやら?おい、そこの黒い服の君、とりあえず事情を聞きたいから、私の部屋まで来てくれないか?私はこのギルドの代表を務める、ブロン・ズドーだ。ギルドマスターと呼ばれる者だ。君の名前をうかがっても?」
「宮古野 丈。ジョーと気軽に呼んでください。」
「ジョー君だね。分かった。では、私の後に付いてきてくれ。連れの三人も一緒にだ。」
ブロンと名乗るギルドマスターからそう言われ、僕たちは彼の後を付いていく。
階段を上り、三階にあるギルドマスターの部屋へと向かった。
三階の廊下へ出ると、僕がワルダーを吹っ飛ばした衝撃の余波で、三階の屋根の一部が吹き飛んでいた。
ま、まさか、賠償金を払えなんて言われるんじゃ?
大切な三人をいやらしい目で見られ、ついカッとなっていたとは言え、確かに少々やり過ぎてしまった。
このまま冒険者にもなれず、ギルドへの賠償金を払うために借金をするハメになったら、目も当てられない。
何としてでも、借金だけは回避しよう。
借金の恐ろしさは、叔父叔母を見て僕はよく知っている。
文無しの借金地獄など、断固阻止だ。
ギルドマスターの執務室へと通されるなり、僕はギルドマスターに向けて、それはそれは見事な土下座を披露した。
「本当にこの度は大変申し訳ございませんでした!ギルドの天井に穴を開けてしまったことは決してわざとではありません。大切なギルドに穴を開けたことは深く謝罪いたします。だから、どうか賠償金の請求だけはご勘弁ください。僕たちは現在、一文無しで職にも就いていない状態でして。どうか、どうか賠償金の請求だけは見逃してください。この通りです!」
僕が土下座しながらひたすら謝った。
「お、おい、君、頭を上げてくれ。別に君たちに賠償金を請求するつもりはないよ。そもそも冒険者でもない、一般人である君たちに向かって刃を向けたワルダーの責任だ。賠償金ならアイツに請求するよ。そもそもの責任は、こちらにある。今回の一件は、所属する冒険者への監督義務を怠ったこちらにある。君たちに責任は無い。だから、とにかく顔を上げてくれたまえ。」
ギルドマスターが、僕たちには何も責任がないと、許してくれると言ってくれた。
ギルドマスターの言葉を聞いて、僕はホッとした。
「丈、いくら何でも土下座までする必要あるか?本当に心配性だよな、お前はよ。」
「丈様、丈様が借金の恐ろしさを知っていることは重々理解しておりますが、何もそこまでする必要はないかと。」
「丈君、私たちは別に何も悪いことはしていない。丈君が謝ることは何も無い。土下座なんて恰好悪いから止めて。」
玉藻、酒吞、鵺が呆れたような顔で僕を見ながら言った。
「そうかもしれないけど、一応、僕たち、いや、僕にも非があるわけだし、借金を背負うわけにはいかなしさ。でも、良かったぁ。賠償金を請求されたら一体どうしたら良いものかと、本当に焦ったよ。」
「ハハハ、中々謙虚だね、君は。安心したまえ。賠償金を君たちに請求するつもりは私にはないよ。それより、君たちに聞きたいことがある。君たちは冒険者になりたい、しかし、ステータスにジョブとスキルが表示されない、これは事実かね?」
ギルドマスターが僕たちに訊ねてきた。
「はい、その通りです、ギルドマスター。僕たちは遠い辺境の地から冒険者になるため、この国へやって来ました。しかし、何故か、この国でステータスを鑑定すると、ジョブとスキルが表示されない、という異常事態に見舞われています。僕たちはどうしても冒険者になりたい、そこでアープ村を襲っていたゴブリンたちを討伐したわけです。僕たちがゴブリン400匹を討伐したのは紛れもない事実です。お疑いなら、アープ村の人たちに確認してみてください。ゴブリンたちを討伐した実績があれば、ジョブとスキルが表示されなくても冒険者になれるかもしれない、そんな話を聞いてここまでやってきました。どんなに低いランクでも構いません。どうか、僕たちの冒険者への登録を認めていただけませんか?」
僕はギルドマスターに事情を説明し、冒険者への登録を認めてもらえるよう頼み込んだ。
ギルドマスターは一瞬考え込んだ後、僕に言った。
「君たちの事情はよく分かった。君たちが嘘をついているわけではないことは分かる。ゴブリンやワルダーの件から、君たちの実力の高さは分かるよ。ギルドマスターの権限で、君たち4人の冒険者登録を認めてもいい。ただし、一つだけ条件がある。」
ギルドマスターが真剣な顔つきで僕に向かって言った。
「条件!?その条件とは何ですか、ギルドマスター?」
「ブロンで構わないよ、ジョー君。何、簡単なことだよ。私と君でちょっとした腕試しをしたいのさ。ジョブとスキルが分からないが、モンスターを討伐する確かな実力がある。君たちが一体どれほどの実力を持っているのか、冒険者のライセンスを与える者として、私には君たちの実力を把握する義務がある。何、簡単な試験だと思ってくれたまえ。ちなみに私はすでに引退した身だが、これでも元A級冒険者だ。どうかね、私と腕試しをしてもらえるかな?」
ブロン・ギルドマスターから僕と腕試しをしたいと言われ、僕は驚いたが、すぐに答えた。
「分かりました。あなたとの腕試しを受けます、ブロンさん。ところで一つ確認なんですが、Aランクとは一体どれほどの強さなんでしょうか?何分遠い田舎から来たものでして、世情には疎くて。ワルダーは自分のことをこのギルドでも数少ないC級冒険者だと名乗っていました。A級冒険者って、きっと相当な実力なんじゃないかと、そう思いまして。」
僕の問いに、ブロンさんは答えた。
「冒険者のランクは全部で八つある。上から順に、SS、S、A、B、C、D、E、Fとある。最高ランクがSSなわけだが、これは歴代の勇者パーティーしか獲得したことがない、伝説の最高ランクだ。その次がSランク。これは現状冒険者の最高ランクで、世界に数人しかいない実力者に与えられている。その次がAランクで、冒険者たちの到達点の一つだ。Aランクは一流と呼ばれる冒険者に与えられる。私もかつてその一人だ。その次がBランク、冒険者としてはある程度の高い実力と実績の持ち主に与えられるランクだ。その次がCランクで、冒険者としてやっと一人前になった者に与えられるランクだ。ワルダーの奴も一応、Cランクだったが、あれは例外だ。今回の君との一件でおそらく奴は降格になる。その次に、D、E、Fと続くが、これらはまだ半人前だったり、新人だったりのランクだ。Fランクが最低だが、これは実力も実績も無い駆け出しの新人冒険者がなるものだ。まぁ、中にはギルドから何らかの理由できつい処分を受けて、このランクにまで降格される者も少なからずいたりするが。まぁ、これで少しは私の実力も分かっただろ。それじゃあ、ギルドの裏が訓練場になっているから、一緒に訓練場まで付いてきてくれるかい、ジョー君。」
ブロンさんは椅子から立ち上がると、執務室の壁に飾ってあった大斧を一本手に取り、執務室を出て、訓練場へ向かおうとする。
僕たちはブロンの後に続いて訓練場へと向かった。
ギルドの裏は広々としたスタジアムの訓練場になっていた。
訓練場では、冒険者たちが剣や槍、弓などの武器を使って、訓練をしていた。
また、観客席部分では、他の冒険者たちが練習する冒険者たちを見ていたり、応援したりしていた。
ブロンさんが訓練場で練習していた冒険者たちに声をかけた。
「君たち、訓練中に済まないが、ちょっと席を外してもらえないか?これから、私と、そこにいるジョー君とで模擬戦を行いたいと思っている。模擬戦が終わるまでの間、訓練場を借りたいのだが、良いかね?」
ブロンさんに声をかけられ、訓練場で練習していた冒険者たちは皆、驚いた様子だった。
「ぎ、ギルドマスター!?ギルドマスターが模擬戦をされるんですか?わ、分かりました。どうぞ、お使いください。」
ブロンさんが僕と訓練場で模擬戦をすると知ると、冒険者たちが一斉に声をあげた。
「おーい、みんな、ギルドマスターが模擬戦をするんだってよ。」
「何、ギルマスが模擬戦をするなんて、いつ以来だ?」
「ギルドマスターって、確か元A級冒険者だろ?A級冒険者の模擬戦なんて滅多に見られねえぞ。」
「「竜殺しのブロン」の技が見られるなんて、滅多にないチャンスだぞ。ギルドにいる全員に声をかけろ。」
ブロンさんが僕と模擬戦をする話はあっという間にギルド中に広まり、ギルドにいた冒険者やギルドの職員たち、一般の人たちまで、大勢の人たちが集まってきた。
訓練場のスタジアムはすでに超満員で、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
僕とブロンさんは訓練場の中央のフィールドへと立つと、お互いに向き合った。
訓練場の脇には、玉藻、酒吞、鵺の三人が立ち、僕を応援する。
「丈様、頑張ってください!」
「丈、負けんじゃねえぞ!絶対に勝て!」
「丈君、ファイト!」
三人の声援を受け、気合が入る。
僕はブロンさんに訊ねた。
「ブロンさん、「竜殺しのブロン」って呼ばれていましたけど、ドラゴンを倒したことがあるんですね。驚きました。」
僕の問いに、ブロンさんは照れ臭そうに笑った。
「ハハハ、冒険者をしていた若い頃に一度、ソロでドラゴンを倒したことがあるんだ。まぁ、運が良かっただけさ。ソロでドラゴンに挑むなんて、普通は自殺行為なんて言われるからね。あの頃の私は青かった、それだけの話さ。それより、君は得物を何一つ持っていないが、まさか素手で私と勝負する気かい?そこに立てかけてある剣や槍を使ってもらっても構わないよ。」
ブロンさんが訓練場の壁に立てかけてある武器を指さしながら言った。
「いえ、結構です。僕の武器は、この肉体です。」
僕は、ボクシングのオーソドックスと呼ばれる型のように、ファイティングポーズを構えながら言った。
ブロンさんは驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑いながら、言った。
「ハハ、本当に素手で挑んでくるとは思わなかったよ。言っておくが、私もワルダーと同じ重戦士のジョブを持つが、奴の攻撃と同じ威力だとは思わないことだ。戦うなら、全力できたまえ。私も最初から全力で君に挑むつもりだ。」
ブロンさんはそう言うと、大斧を構えた。
ブロンさんの構える大斧が光り輝き始める。
「分かりました。では、僕も遠慮なく行かせていただきます。霊拳!」
僕も霊能力を全開にし、霊能力を体に纏った。
僕の体が青白い光を放ち、全身を包んだ。
僕とブロンさんの間に、緊張した空気が張り詰める。
訓練場にいる全員が固唾を飲んで見守る中、ついに模擬戦が始まった。
先に動いたのはブロンさんだった。
ブロンさんが大きく飛び上がり、僕の頭上目がけて光り輝く大斧を豪快に振り下ろした。
「剛重破斬!」
ブロンさんの振り下ろす大斧に合わせるように、僕は頭上から迫りくる大斧目がけて、右の拳から斜め上にストレートパンチを繰り出し、渾身の一撃を食らわせた。
「トゥアアアー!」
ブロンさんの大斧と僕の拳が激しくぶつかり、ドオーンという大きな衝撃音が上がった。
あまりの大きな衝撃音に観客たちは一斉に耳をふさいだ。
衝撃音が去った後、観客たちの目の前に広がっていたのは、ブロンさんの手にしていた大斧が僕の繰り出した拳の一撃で粉々に砕け散り、僕が見事ブロンさんの一撃を防いだ姿であった。
衝撃的な光景の前に、訓練場の観客席にいた冒険者たちやギルドの職員たちは、口を開け、目を丸くし、唖然としていた。
しばらくして、急に「ウオオオーーーー!」という歓声が、観客席から聞こえてきた。
「おい、「竜殺しのブロン」の一撃をあの黒い服の兄ちゃんが受けきったぞ!マジで信じられねえ!」
「ギルマスの大斧の刃が完全に砕けてるぞ!元A級冒険者のギルマスに勝つなんて、あの坊主、一体何者だよ!?」
「元A級冒険者のギルマスに勝てる奴なんて、このギルドには誰もいねえぞ。ってことは、あの黒い服の少年は、A級かそれ以上ってことになるぞ。期待の大型ルーキーの誕生だぜ、おい!?」
「あの子、まだ10代じゃない?今のうちに唾つけとかないと、よそのギルドに取られたら大変よ!私、今からあの子にパーティーを組んでもらえるか聞いてみるわ!」
「おいおい、みんな抜け駆けはなしにしようぜ!あのスーパールーキーとの交渉は平等にやろうぜ!色仕掛けだとか大金を積むとかはなしにしねえと、あのルーキーのためにならねえからな!全く、とんでもねえ大物が入ってきたぞ!」
「ねぇ、あの子、ちょっと恰好良くない!?黒髪、黒目とか見たことないじゃん!黒い服もめちゃくちゃ似合ってるし!あの子の受付担当、私やりたいんだけど!」
「ずる~い、あの子の受付はみんなで平等にやりましょ!独占禁止!」
観客席の冒険者たちやギルドの職員たちは口々に色々なことを言っている。
僕は目の前のブロンさんに訊ねた。
「ブロンさん、斧は壊れてしまいましたが、得物を変えて、模擬戦を続けますか?僕は一向にかまいませんが?」
僕の問いに、ブロンさんは苦笑いしながら、こう答えた。
「いや、模擬戦はもういい。まさか、私の一撃を受け止めただけでなく、私の相棒の大斧を破壊するとは思わなかったよ。ジョー君、君の実力はよく分かった。君たちの冒険者登録を認めよう。今日から君たちは晴れて全員S級冒険者だ。おめでとう!」
僕はブロンさんの言葉に耳を疑った。
「ブロンさん、冒険者登録を認めてくださるそうですが、僕たちがS級冒険者って、どういうことですか?S級って、世界でも数人しかいない、冒険者の最高ランクって言ってましたよね?そんなに簡単になれるものなんでしょうか?僕たちはまだ、大した実績も上げていないのに良いんですか?」
僕の疑問に、ブロンさんは笑いながら答えた。
「ハハハ、普通はあり得ないことだね。でも、君は元A級冒険者の私に勝った。私だって、まさか一撃で勝負が決するなんて思わなかったよ。だけど、君は元A級冒険者の私にあっさりと勝利した。例え、このまま模擬戦を続けても、おそらく勝つのは君だ。正直、君の実力は底が知れない。君のお仲間の三人もそうだ。逆に聞くが、君よりもお仲間の三人の方が、圧倒的に強いんじゃないかな?彼女たちを見ていると、洗練された強さを、私や君よりも圧倒的な覇気を感じる。彼女たちの強さはS級以上だと私は勘だがそう睨んだ。故に、君たち全員をS級冒険者として認める。ギルド本部の連中が文句を言ってくるかもしれないが、その時は私が全力で抑え込む。それに、君たちの強さは、今この場にいるギルドの全員が知っている。文句なんて言わせやしない。期待しているよ、スーパールーキーのジョー君。」
ブロンさんはそう僕に言うと、観客席にいる冒険者たちやギルドの職員たちに向けて大声で言った。
「模擬戦を見ていた諸君!私と戦ったジョー君の冒険者としての実力は見た通り本物だ。私は、彼と、彼の仲間たちを全員S級冒険者として認定することを決めた。これはギルドマスターである私の本意だ。文句がある奴は今すぐ前に出てこい!「竜殺しのブロン」が相手になってやろう。諸君、異論は無いな?」
ブロンさんの言葉に、観客席にいる冒険者たちやギルドの職員たちは熱狂した。
「ウオオオー、スゲエぞ!冒険者登録して即S級になるとか、もしかして、世界初なんじゃねえのか?」
「ウチのギルドからS級が出たことなんて今まであったか?おまけに、Sランクパーティーまでできるなんてよ!?俺たちは今日、もしかしたら、伝説の1ページを見たかもしれねえぞ!?」
「いきなりS級とか凄すぎでしょ、あの子!?でも、パーティーにもう入ってるとか超残念。アタシも入りたいなぁ、あの子のパーティー。」
「S級冒険者ってことは間違いなく出世コース行きじゃあない?あの子と結婚したら、将来間違いなしよ!絶対に堕としにかかるわ!」
観客席にいた人たちは皆、口々にS級冒険者になった僕について言っている。
「何だかとんでもないことになった気が。まぁ、冒険者になれたわけだし、良しとしておこう。うん。」
僕はいまだに止まない観客席の熱狂に圧倒されたが、受け止めることにした。
僕はふと、ブロンさんに気になっていたことを聞くことにした。
「ブロンさん、ちょっと良いですか?」
ブロンさんが僕の方を振り返った。
「何だい、ジョー君?」
僕はブロンさんに訊ねた。
「アープ村からのゴブリンの巣の討伐依頼ですが、どうしてギルド本部や、このギルド北支部の冒険者たちは誰も受けなかったんですか?アープ村の人たちは3カ月前に依頼を出したけど、ギルドから冒険者が派遣されてくることは無かったと言っていました。あれだけ大きなゴブリンの巣があるのに、誰も依頼を受けないというのは、一体どういうことですか?ゴブリンの巣を放置すれば、アープ村以外にも被害が広がっていた危険性があるのに、何故でしょうか?正直に答えてください。」
僕の真剣な眼差しを見て、ブロンさんは急に暗い表情を浮かべたが、事情を説明してくれた。
「ジョー君。君の言いたいことは分かるよ。確かに君の言う通り、アープ村の近くにできたゴブリンの巣は決して放置していいものじゃあない。私が管轄するギルド北支部にもアープ村から討伐依頼があった。しかし、あのゴブリンの巣は少なく見積もってもBランク以上、最悪Aランク以上のパーティーを編成して挑む必要があった。だが、残念なことに、私が管轄するギルド北支部に所属する冒険者と冒険者パーティーは、最高ランクがBなんだ。おまけに、数もとても少ない。元A級冒険者の私が加わっても、討伐は困難が予想された。それに、アープ村が提示した依頼への報酬は、相場よりもはるかに安かったはずだ。ギルドは決して慈善団体ではない。れっきとした企業だ。報酬の低さも重なって、ウチのギルドでも引き受ける冒険者は見つからなかった。ギルドマスターである私がギルドを離れて討伐に加わることもできなかった。私もできるだけのことはやったが、手詰まりの状況で困っていたところだ。だから、君たちがアープ村のゴブリンの巣を討伐したと聞いたとき、とても嬉しかった。君たちをS級冒険者に認定するのは、私からのせめてもの償いでもある。そう思ってくれ。後、王都中央にあるギルド本部が動かなかったのは、単純に報酬が相場より低かったからだと思う。A級冒険者やAランクパーティーをたくさん抱えているくせに、あそこは常に利益至上主義だ。金なんて腐るほど余っているくせに、アープ村への冒険者の派遣を出し渋った。ギルドだけじゃない。A級冒険者自体も金のことしか頭にない腐った連中ばかりだ。とにかく、君やアープ村の人たちに迷惑をかけたことは謝る。本当にすまなかった。」
ブロンさんが深々と頭を下げた。
「ブロンさん、頭を上げてください。意地悪な質問をしてすみません。あなたのことは信用しています。ただ、どうしてギルドがあれだけ大きなゴブリンの巣を討伐せずにずっと放置していたのか、事情が気になって質問しただけです。あなたやギルドの冒険者たちを責めるつもりは全くありません。もし、今後、アープ村のように、報酬は少ないけど、高ランクの内容の依頼がくることがあったら、僕たちに斡旋してもらえませんか?僕たちでそういった依頼に対処しますよ。困っている人は放っておけませんから。ドンと僕たちに任せてください。」
僕はブロンさんにそう言った。
「本当かい!?そう言ってもらえると助かるよ。実は、達成報酬が相場より低いけど内容が難しい依頼の案件がいくつか溜まっていて、困っていたんだ。Sランクパーティーの君たちが手を貸してくれると、非常に助かる。よし、すぐに君たちの冒険者登録を済ませよう。それと、悪いんだが、後で今言った案件の依頼書を渡すから、目を通してくれないかな?明日からでもすぐに取りかかってもらえるとこちらも助かるよ。」
「分かりました。冒険者登録をしていただければ、明日からすぐに取りかかります。これからよろしくお願いします、ブロンさん。」
「こちらこそ、改めてよろしく、ジョー君。」
僕とブロンさんは固い握手を交わしたのだった。
模擬戦が終わると、玉藻、酒吞、鵺の三人が駆け寄ってきて声をかけてきた。
「丈様、大変お疲れさまでした。元A級冒険者を相手に一瞬で勝利するなど、さすがは私たちの主様です。それから、S級冒険者への就任、誠におめでとうございます。世界でもたった数人の実力者に選ばれるとは、私も誇らしさで胸がいっぱいです。微力ながら、私も丈様に力をお貸しいたします。」
「さすがは俺たちの丈だぜ!あのおっさんも中々の力を持っていたが、お前の力はそれ以上だ。お前ならS級どころか、伝説のSS級とやらにもきっとなれるぜ。お前が伝説を作るのに俺も手を貸すぜ。期待して待ってな。」
「丈君、お疲れ様。丈君なら絶対に勝つと思ってた。丈君の成長速度は凄すぎ。このまま霊能力が強くなれば、私たちの力も使いこなせるようになる。丈君なら、異世界最強の冒険者になれる。私もいっぱい丈君をサポートする。丈君との冒険が楽しみ。」
「ありがとう、みんな。みんなも僕と同じS級冒険者だよ。Sランクパーティーとしてこれから一緒に頑張ろう。」
僕は三人としばらく会話をした後、ギルドの受付へと行き、冒険者登録を済ませた。
受付嬢が僕に訊ねた。
「最後に、パーティー名を教えていただけますか?パーティー名は皆様にお渡しするギルドカードにも記載されます。いかがなさいますか?」
受付嬢にパーティー名を訊ねられた僕は、少し考え込んだ後、こう返した。
「えっと、パーティー名ですが、「アウトサイダーズ」でお願いします。」
「「アウトサイダーズ」ですね。かしこまりました。こちらの名前でご登録させていただきます。」
僕は自分たちのパーティー名を「アウトサイダーズ」と名付けた。
アウトサイダーズ、意味はよそ者、部外者と言う。
こう名付けた理由は、僕たち全員が別の世界からやってきて、ジョブもスキルも持たない、この異世界にとっては完全なよそ者、部外者だからだ。
我ながら良い名前だと思う。
後、パーティーのリーダーは僕が務めることになった。
「では、こちらが皆様のギルドカードになります。こちらのギルドカードは冒険者の証であり、身分証にもなります。こちらのギルドカードは世界中の各国のギルドで使用可能です。依頼の達成数や冒険者本人の実力、ギルドへの貢献度などで、ギルドカードに記載されるランクが更新されます。皆様は現時点でほぼ最高のSランクに到達されていらっしゃいます。依頼が未達成でしたり、問題行動をとったりといったことがあると、ギルドからペナルティを受け、ランクが下がることがございますので、十分ご注意ください。それから、こちらのギルドカードがあれば、指定のギルドに、ご自身の預金口座を開設することもできます。ぜひ、当ギルドに皆様の口座を作っていただけますと嬉しいです。それではどうぞ、お受け取りください。皆様方のご活躍を期待しております。」
受付嬢が説明を終えると、僕たちにギルドカードを渡した。
薄い銅でできた、金属製のカードだった。
カードには、以下の事項が記載されていた。
ネーム:宮古野 丈
パーティーネーム:アウトサイダーズ
ランク:S
ジョブ:なし
スキル:なし
「これでようやく冒険者になれたわけだ。みんな、明日からさっそく頼むよ。じゃんじゃん依頼をこなしていこう。アープ村のように困っている人たちを僕たちで助けてあげよう。」
僕がギルドカードを手にしながら、他の三人に向かって言った。
「はい、一緒に頑張りましょう。私たちにお任せください、丈様。」
「依頼なんて速攻で片づけてやるぜ。じゃんじゃん持ってこい。」
「丈君のためならどんな依頼でもやり遂げてみせる。私たちに不可能は無い。」
玉藻、酒吞、鵺の三人が、意気込みをそれぞれ語った。
心強い三人の仲間がいることに僕は安堵した。
彼女たちがいれば、きっとどんな困難な依頼だって達成できる。
僕はこれから始まる冒険を思うと、胸を躍らせた。
異世界召喚物なんて、危険で面倒臭くて、碌でもないことばかりだが、人助けをして、誰かを笑顔にできる喜びを知ることも、大切な仲間たちと出会い絆を深め、共に旅をすることもあるのだと、改めて思った。
だけど、異世界への復讐を止めるつもりはない。
僕を虐げる異世界の悪、勇者たち、インゴット王国の王族たち、光の女神リリア、僕と敵対する異世界の者たちには必ず復讐する。
だって僕は、優しい復讐鬼なのだから。
僕の異世界への復讐の旅が、これから本格的に始まろうとしていた。
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