第十二話 【処刑サイド:勇者たち】勇者たち、犯罪者になる、そして、分裂する

 勇者たちが脱獄した日の早朝、勇者たちはインゴット王国の追っ手を逃れ、王城の宝物庫から盗んだ金を使って、王都のすぐ南側にあるカナイ村まで馬車で向かい、それからカナイ村の森の中にある、小屋と思われる廃屋へと身を隠した。

 勇者たちは急いで馬車を飛ばし、森の中へと隠れたため、全員が飲まず食わずの状態であった。

 勇者筆頭である、「勇者」にして「光の勇者」島津 勇輝が勇者たちに声をかけた。

 「みんな、ここまでお疲れ様。鷹尾さん、姫城さん、若葉さん、脱獄に協力してくれてありがとう。脱獄をしたことで僕たちはインゴット王国からお尋ね者になったかもしれない。だがしかし、僕たちには勇者のジョブとスキルがある。インゴット王国以外にも勇者である僕たちを必要とする国はたくさんある。これからは、どこか別の国に行って、勇者としてみんなで一緒に活動しよう。王城から拝借した6億リリスがあるし、お金に困れば冒険者として活動すればいい。他の国はすぐに勇者でかつ優秀な冒険者である僕たちをスカウトしようとするだろう。みんな、僕たちの冒険はこれからだ。他国で実力と実績を伸ばせば、僕たちはふたたび勇者としての栄光を取り戻せる。そして、僕たちから勇者の地位を奪った宮古野の奴に復讐することができる。さぁ、みんな元気を出して前に進もう。」

 島津の言葉に、勇者たちは少しだけ元気を取り戻したかに見えた。

 だが、その時、「槍聖」にして「水の勇者」、沖水 流太が、自身のギルドカードを手に持って見ながら、驚きの声を上げた。

 「な、何でござるかこれは!?皆の者、自分たちのギルドカードを見てみるなり!大変なことになっているでござる!」

 勇者たちは沖水に言われ、自分たちの冒険者の証であるギルドカードを取り出して確認した。

 そして、自分たちのギルドカードに記載された衝撃的内容を見て、皆絶句した。

 島津も自身のギルドカードの記載内容を確認して驚いた。

 「な、何だ、これは一体!?」

 島津のギルドカードの内容は、以下の内容に記載事項が変わっていた。

 

 ネーム:島津 勇輝


 パーティーネーム:勇者パーティー


 ランク:L


 ジョブ:犯罪者Lv.0


 スキル:破邪一閃Lv.0


 「僕のジョブが「犯罪者」に変わっている!?ジョブもスキルもレベルが0になっている!?それに、このLランクとは一体!?みんなはどうなんだ!?」

 「ウチも同じだよ、勇輝~!?ジョブが「犯罪者」とかヤバ過ぎじゃん!?ってか、ウチらこれじゃあギルドで冒険者とかできないんじゃね!?カード見せた途端、即逮捕じゃん、マジで!?」

 「ど、どうしよう!?私のジョブも「犯罪者」に変わってるよ~!?これじゃあ勇者どころか冒険者もできないよ~!?一体どうしたらいいの!?」

 「我が輩のジョブも「犯罪者」になっているでござる!?わ、我が輩は勇者でなくなったということでありまするか!?ジョブもスキルもレベルが0なんて、無理ゲーなり!?異世界で人生ゲームオーバーでござる!?」

 「お、俺が、は、「犯罪者」~!?レベルも0になって、弱くなったんだなぁ~!?これじゃあ、戦うなんて絶対に無理なんだなぁ~!?宮古野どころか、モンスターにすら勝てなくなっちゃったんだなぁ~!?」

 島津、姫城、花繰、沖水、山田たちは困惑を隠せない。

 他の勇者たちも、同じように、ジョブが「犯罪者」に書き換わり、ジョブとスキルのレベルが0になっていた。彼らもまた、ギルドカードの変化に困惑した。

 鷹尾は自身のギルドカードを見ながら、一人冷静に分析していた。

 「おそらく、私たちが国家反逆罪やら脱獄罪やらの犯罪を犯したことがトリガーになって、変化したんだわ。私のジョブも「弓聖」から「犯罪者」に書き換えられている。ジョブとスキルもレベルが0になっている。気になるのはこのLランクというランクだけど、L、L、L、・・・そうか、LawbreakerのLね。つまり、文字通り犯罪者という意味のランクというわけね。困ったわね。これじゃあ、冒険者としての活動はできないし、下手にギルドカードを見られたりしたら、私たちが犯罪者であることがすぐに露見してしまう。国の宝物庫から盗んだ6億リリスがあるから、それをみんなで分けて節約しながら生活が必要ね。それに、収入を稼ぐなら、身分確認をされない短期のバイトとかで食いつなぐか、前田君たちと同じように強盗でもするしかないわね。少なくとも、今、他国に勇者ですと言っても、みんなから犯罪者扱いされて即逮捕されるのが落ちでしょうね。警察署長の娘である私が犯罪者になるなんてすごく不愉快ではあるけれど、今は我慢するしかないわ。こうなったら、冒険者以外の仕事や方法で何とか食いつなぎながら、旅をして、実力を伸ばして、そして、ダンジョンを攻略して聖武器を手に入れるしかないわね。だったら、私はここでみんなとはお別れするわ。私に付いていきたい人は勝手に付いてきても構わないわ。それじゃあ、皆さん、お元気で。」

 鷹尾はそう言うと、廃屋を一人出て行こうとする。

 一人出て行こうとする鷹尾を、島津が引き留めようとする。

 「待つんだ、鷹尾さん。ここはまたみんなで一緒に行動すべきだ。僕たち勇者が今こそ一致団結して行動すべきだ。ダンジョン攻略だって、みんなで一緒にやった方が成功する確率もきっと上がる。「勇者」である僕だっているんだ。絶対にその方がいいはずだ。」

 鷹尾は振り返り、島津に向けて言った。

 「悪いけど島津君、これ以上あなたに付き合うメリットはないわ。あなたがこれまで勇者筆頭としてみんなを引っ張ってきたけど、あなたの行動は全部裏目に出ている。碌に作戦も練らず、レベルも低いのに勇者だからという意味不明な理由で高ランクのモンスターたちにただ私たちを突っ込ませるだけじゃない。それに、あなたはもう「勇者」じゃなくてただの「犯罪者」でしょ。聖剣も失って、「勇者」に覚醒することもできない。正直言って、あなたはもう足手まといなの。私にはまだ「聖弓」が残されていて、勇者として復活できるチャンスがある。他の四人の「七色の勇者」もね。でも、あなただけは聖武器がない。もっと頭が良いと思っていたけど、結構残念なのね、あなた。あなたみたいな無能に用はないわ。後、手切れ金に1億リリアはもらっていくわ。それじゃあ、バイバイ。」

 鷹尾が島津を切り捨てた。

 そして、鷹尾の後に続くように、数名の勇者たちが後に続いた。

 「じゃあ、ウチもここでみんなとは一旦バイビーするわ。ウチも「聖杖」ってヤツを手に入れたら、ワンチャン勇者に戻れるかもしれないだし。ウチに付いてきたい人はついておいで~。ウチならお金稼ぐ方法、めっちゃ知ってるし。ああっ、勇輝はもういらねえから、他の人と組んでチョ。つか、イケメンでも頭空っぽで金も稼げねえクズはマジいらねえから。他の皆も聖武器手に入れるの頑張ってね~。それじゃあ、ウチは行くわ。生きてたらまた会おうじゃん。」

 姫城が続いて廃屋を出て行く。そして、彼女の後に続いて、数名の勇者たちが出て行く。

 「グフフフ、聖武器を一番に手に入れるのはこの我が輩なり。我が輩のオタク知識があれば、ダンジョン攻略など余裕なり。いずれ真の勇者になって我が輩が異世界で天下を取るでござる。島津氏、貴殿のような無能はいらないなり。我が輩の覇道にとって貴殿はただの邪魔にしかならないでござる。イケメンだけで通用する時代は終わったなり。まぁ、貴殿なら異世界で女をひっかけてヒモニート生活でもすればいいなり。勇者よりそっちがお似合いでござる。他の者ども、我が輩に付いてきたければ付いてこいでござる。我が栄光をその目に焼き付けてご覧にいれよう。それでは、我が輩はこれにて失礼するでござる。」

 沖水がそう言って廃屋を出て行く。沖水に続いて、数名の勇者たちが出て行く。

 「そんじゃ俺も行くとするんだなぁ~。「聖槌」ってヤツを手に入れれば、すぐに勇者に戻れるんだなぁ~。俺はじっくり時間をかけて手に入れるとするんだなぁ~。勇輝、お前のことは嫌いじゃねえけど、お前はもう足手まといなんだなぁ~。だから、一緒に連れては行けないんだなぁ~。農民なら土地を買ってすぐに金が稼げるから、お前は農民をやってればいんだなぁ~。じゃあ、俺はもう行くんだなぁ~。俺に付いてきたい奴は勝手に付いてくればいいんだなぁ~。」

 山田がそう言って、廃屋を出て行く。山田の後に続いて、他の数人の勇者たちが出て行く。

 「ごめんなさい、島津君。島津君の力になってあげたいけど、島津君には勇者は向いてないと思う。心配しなくても、私たちが必ず聖武器を手に入れて、異世界の人たちを助けてみせるから。だから、島津君は農民とか商人とかをしてみんなの活躍を待ってて。魔族を倒したら、必ずみんなで迎えに行くから。それじゃあ、私はもう行くね。私に付いてきてくれる人がいたら嬉しいな。それじゃあ、またね、島津君。お元気で。」

 花繰が島津に向かって言った。花繰の後に続いて、廃屋に残っていた残りの数名の勇者たちが出て行く。

 島津を一人残し、他の勇者たちは皆、廃屋を出て行った。

 一人残された島津は、怒りの形相を浮かべ、廃屋の壁を思いっきり殴った。

 「アイツら全員ふざけやがって!「勇者」である僕を無能だの足手まといだの勇者に向いていないだの好き勝手言いやがって!魔族を倒せる、女神から選ばれし真の勇者であるこの僕に刃向かうだなんて、良い度胸だ!もうアイツらは必要ない!利用価値のない駒はこっちから願い下げだ!アイツらも宮古野同様、殺してやる!僕を裏切ったインゴット国王もマリアンヌもついでに殺してやる!女神に選ばれし「勇者」であるこの僕を虚仮にしたこと、たっぷりと後悔させてやるからな、フ、フハハハハハ!」

 「勇者」島津 勇輝が、狂ったように笑いながら、自身にとって不都合な者たちへの殺意を剝き出しにした。

 その姿はもはや勇者ではなく、ただの憎悪にまみれた狂人にしか見えなかった。

 ついに勇者たちは分裂してしまった。

 そして、勇者たちの異世界での暴走がさらに加速していくのであった。














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