第十三話 【処刑サイド:光の女神リリア】光の女神リリア、勇者たちが全員犯罪者になったと知り呆れる、しかし、勇者たちをクビにできず苦悩する

 勇者たちがボナコンの討伐に失敗し、勇者たちが引き寄せたボナコンたちによってインゴット王国の王都が壊滅し、勇者たちが国王によって国家反逆罪で犯罪者として投獄されたその日のこと。

 様々な世界の神々が住まう、雲の上の楽園のような場所、神界。

 その神界の一角にある白いギリシャ神話風の神殿の建物に、光の女神リリアが、静かに目を閉じ、自身が管轄する異世界アダマスの様子をそっと観察していた。

 勇者たちの成長ぶりが気になった彼女は、久しぶりに下界の様子を観察していたが、勇者たちがボナコンの討伐に失敗し、勇者たちが引き寄せたボナコンたちによってインゴット王国の王都が壊滅し、勇者たちが激怒した国王によって国家反逆罪で犯罪者として投獄されるという前代未聞のスキャンダルを目の当たりにして、驚きのあまり、座っていた椅子からひっくり返ってしまった。

 「あ痛たた!?あの勇者たちは一体何をやっているのですか!?Lv.20のままSランクのボナコンたちの討伐依頼に向かって、ボナコンたちを一匹も討伐せずに逃げ帰った挙句、王都にボナコンたちを引き寄せ、王都を壊滅させるとは、何と無様な!?国王の話を聞くと、「剣聖」たちが無謀にもダンジョン攻略に挑み、「火の迷宮」を崩落させ、大事な聖双剣を紛失するとは。自分で聖武器を破壊する勇者など聞いたことも見たこともありません。おまけに、違法薬物を使用したり、他国で強盗を働くなど、そんな無法者で愚か者の勇者などはこれまで一人たりともおりません。碌にレベルも上げず、モンスターともまともに戦わずに逃げ出し、国の金を使って遊び惚けるこの体たらく、もはやあの異世界人たちに勇者としての価値はありません。勇者全員が犯罪者になり、投獄されるなど、何と情けないことでしょうか。どうやら今回は勇者たちの人選を間違ったようです。ここまで酷い勇者、いえ、人間は見たことありません。「勇者」のジョブを与えた少年ですが、見た感じは顔が良く、頭も良さそうに見えましたが、中身はおつむからっぽで凡人以下の実力しかない、見掛け倒しだったようです。マリアンヌがいれば、すぐにでも勇者たちを処刑し、改めて私が厳選した異世界人たちを勇者として召喚するよう、神託を授けるところですが、肝心のマリアンヌの姿がインゴット王国内にはありません。どうやら、インゴット王国とラトナ公国の国境付近にいるようですね。今すぐインゴット王国に戻り、勇者たちを処刑するよう伝えますか。おや、勇者たちが何やら脱獄の準備をしているようです。すでに「勇者」のジョブが失われ、「犯罪者」になって今更どうしようもないというのに。しかし、これでは勇者たちに逃げられてしまいますね。弱りました。これでは勇者たちを処刑して、新しい勇者を召喚することはできません。あくまで「勇者」たちはギルドから制限をかけられ、「ジョブ」が「犯罪者」に上塗りされ、勇者のスキルはそのままにレベルが0にまで下げられ、抑えられているにすぎません。勇者たちが生きている限り、新しい勇者たちに勇者のジョブとスキルを与えることはできません。勇者のジョブとスキルはあくまで一人に一つだけです。複数の人間が同じ勇者のジョブとスキルを持つことはできません。特に「七色の勇者」がそうです。これは大変困ったことになりました。想定外の事態ばかりです、まったく。」

 女神リリアはコップの水を一杯飲みほすと、独白を続けた。

 「しかし、国王が一つ気になることを言っていました。何でも、勇者たちが異世界召喚されたあの日、なぜか勇者のジョブとスキルを与えることができなかった、あの人柱となった少年が生きていると。しかも、「黒の勇者」と呼ばれる英雄になったと、あの少年こそ真の勇者だとも言っておりました。インゴット王国の民も皆口々に「黒の勇者」の名を呼んでいます。ですが、確かにあの少年は勇者のジョブとスキルを持っていないはずです。それなのに、真の勇者と呼ばれる人物にまで成長するとは、実に不可解です。私の加護を受けていない者が真の勇者になるなど、考えられません。どうにも嫌な予感がします。私の管轄する世界に、得体のしれない異物が紛れ込んだ気がします。私が与えるジョブとスキルも持っていないため、「黒の勇者」と呼ばれるあの少年がどこにいるのか全く掴めません。早急に「黒の勇者」の居所と目的、彼の持つ力について把握する必要があります。マリアンヌが「黒の勇者」の居所を探しているようですし、彼女に発見させることにしましょう。そして、彼女から「黒の勇者」の情報を入手することにしましょう。もし、「黒の勇者」が私の敵となるようならば、その時はどんな手段を用いてでも排除することにいたしましょう。全く、今回の勇者召喚は次から次に問題が起こってばかりで本当に困ります。とにかく、魔族殲滅計画がこれ以上狂わないよう私も行動を起こすことにしましょう。やれやれ、面倒なことです。」

 女神リリアは、勇者たちが全員犯罪者になったことに呆れ、しかし、勇者たちをクビにもできないと分かり、ほとほと疲れ果てた様子だった。

 おまけに、自身が計画の人柱と呼んで見捨てた主人公が生きて「黒の勇者」と呼ばれる実力者になったことに、イレギュラーな存在が現れたと分かり、そのことでも頭を悩ませた。

 犯罪者となった勇者たちが自身の管轄する異世界でさらなる予想外の暴走を続け、また、主人公、宮古野 丈が自身の計画をことごとく妨害することに、光の女神リリアは全く気が付いてはいなかったのだった。

 







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