第六話 【処刑サイド:槍聖外その仲間たち】槍聖たち、謎の怪盗に宝をすべて奪われる、そして、怪盗に振り回され怒り狂う

 元「槍聖」沖水たち率いる海賊団が、サーファイ連邦国を占拠してから九日目のこと。

 「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈が、元「槍聖」たち一行を討伐するため、「怪盗ゴースト」を名乗り、元「槍聖」たち率いる海賊団からお宝を盗み出す作戦を開始した日のこと。

 怪盗ゴーストによる犯行一日目。

 早朝。午前9時頃。

 朝食と称して、朝から人間の死体の肉を食べ、皇帝としての仕事はほっぽって、ワイヒー・ライアーの屋敷で、教会の孤児院から攫った女の子たちや、闇ギルドで購入した女性の奴隷たちをモデルに、新しいエロ写真を作ろうなどと呑気に話をしていた沖水たちの下に、耳を疑うような、衝撃的な知らせが突如として舞い込んできた。

 食事をしている沖水のアイテムポーチから、沖水を名前を何度も呼ぶ声が聞こえてきた。

 アイテムポーチの中の、ピンククリアー色の通信連絡用の小さな水晶玉から、沖水を呼ぶワイヒー氏の声が聞こえてきた。

 『~もしもし、オキミズ氏、我が同志よ、聞こえますか!?聞こえるなら、返事をしてください!』

 「もしもし、我が同志よ。念のため、合言葉を聞かせてもらうなり。女神リリアは、」

 『Eカップ、です。』

 「よろしい。我が同志、ワイヒー氏よ、こんな朝から一体何事でござる?何かあったのでござるか?」

 『おおっ、我が同志、オキミズ氏。どうか、私の話を聞いてください。実は、私の屋敷に捕えていたはずの、孤児院の女の子たちと、闇ギルドから買った奴隷の女性たちが全員、地下の檻から逃げ出してしまったのです。70人全員が逃げたのです。あなたがお気に入りと呼んでいた女の子たちも全員、いなくなってしまったのです。これでは、最高のエロ写真を作ることができなくなりした。誠に申し訳ございません。』

 ワイヒー氏からの衝撃なニュースを聞いて、沖水は目を丸くさせ、驚いた。

 「捕えていた女の子全員逃げたのでござるか?あの厳重な地下室の檻から逃げ出したと?ワイヒー氏、逃げた女の子たちの行方は掴んでいるなりか?」

 『主人への反抗防止用の呪いの魔法を、捕まえていた女性たち全員の首にかけていました。しかし、魔法を発動しようとしても、上手く作動しないのです。恐らく、何者かが魔法を解除して、女性たちを檻から逃がしたものと思われます。闇ギルドにも連絡し、逃げた女性たちの行方を追っているのですが、まだ手掛かりは掴めておりません。女性たちを捕えていた檻にはこじ開けた形跡もありませんし、屋敷の周囲には女性たちの足跡一つ見つかりません。間違いなく、プロの犯行です。ですが、そう遠くには逃げていないと思われます。我が同志よ、どうかあなたにも逃げた女性たちを取り戻すのに協力していただきたいのです。犯人は船を使って、女性たちを国外へ逃がす算段かもしれません。あなたの部下の海賊たちと海賊船に捜索の手伝いをお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?』

 「分かったなり、我が同志よ。この我が輩から女の子たちを盗もうとは身の程知らずもいいところなり。すぐに部下どもに命じて、怪しい船がないか、調べさせるなり。すぐに女の子たちを取り戻し、賊を始末するなり。貴殿は安心して報告を待つがいいでござる。」

 『おおっ、ありがとうございます。さすがは我が同志、オキミズ氏です。女の子たちを無事取り戻された際には、SSランクのコレクション一式を、それも最上級のエロ写真ばかりが揃った秘蔵のコレクション一式をプレゼントさせていただきます。期待してお待ちしております。』

 「フハハハ!我が輩に全て任せるなり!では、また後で、我が同志よ。」

 自信満々に女の子たちを取り戻すとワイヒーに宣言した、沖水であった。

 すでに、捕らえられていた女性たち全員が、怪盗ゴーストによって救出され、海の向こうのズパート帝国の帝都中央病院で秘かに保護されていることも知らず、何の根拠もないのに、簡単に引き受けるのであった。

 朝食を終え、大統領執務室にベトレー宰相を呼び出し、逃げた女性たちの捜索を命じるため、沖水たち一行は大統領執務室へと向かった。

 ドアの鍵を開け、大統領執務室に入ると、沖水が座る大統領執務室の机の上に、見慣れない一通の白い封筒が置いてあるのが、沖水の目に留まった。

 「何でござるか、この封筒は?宛名も差出人の名前も書いてないなり?ベトレー宰相からこのような封筒を受け取った覚えはないでござる?」

 沖水は首を傾げながら、封筒を開いた。

 封筒の中には一通の手紙、正確には犯行声明文が入っていた。


  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿とワイヒー・ライアー氏が所有する、ワイヒー・ライアー氏の御屋敷の地下室におられた見目麗しい女性たち全員、確かに頂戴いたしました。                                     

             怪盗ゴーストより


 犯行声明文の手紙を読み、沖水は驚き、途端に慌て始めた。

 「な、何でござるか、これは!?怪盗ゴーストですと!?ワイヒー氏の屋敷から我が輩の女の子たちを盗んだのはコヤツであるのか?ゆ、許さんなり!この我が輩から女の子たちを盗み出し、このようなふざけた手紙を寄越すとは!?しかし、この部屋には鍵がかかっていたなり。外には見張りが大勢いたはずなり。まさか、この我が輩の根城に泥棒が入ったということでござるか?ええい、海賊どもは一体、何をやっていたなり!くそっ!」

 沖水は悔しそうな表情を浮かべ、手紙を机の上に叩きつけた。

 リーダーである沖水の慌てぶりを見て、他の六人の仲間も、沖水が持っていた手紙を読んだ。

 そして、手紙の内容を呼んで、皆、驚き、困惑した。

 「キャプテン、とりあえず落ち着けって。僕たちもお気に入りの女の子たちを盗まれたのは悔しいけどさ、所詮は泥棒だぜ?怪盗ゴーストなんてキザな名前を名乗っているけど、異世界最強の海賊団である僕たちからしたら、こそ泥程度の小物じゃないか?ベトレー宰相に頼んでおけば、すぐに捕まるさ、こんな奴。一応、人数を増やしてここを警備させれば大丈夫でしょ?僕たちに正面から喧嘩を売る馬鹿はいないだろうしさ。」

 「魔術士」志比田 敬が、沖水を宥めるように言った。

 「むぅ。確かに志比田氏の言うとおりなり。女の子たちをワイヒー氏の屋敷から盗んだところで、こちらは痛くもかゆくもないなり。この程度の回りくどい嫌がらせしかできん小物など、恐れるに足らず。すぐに捕まえて、処刑してやるなり。」

 沖水は落ち着くと、机の上に置いてある通信連絡用の水晶玉を使って、ベトレー宰相を大統領執務室に呼び出した。

 沖水はベトレー宰相に、怪盗ゴーストから届いた犯行声明文の手紙を渡しながら言った。

 「ベトレー宰相、この我が輩と懇意にしているワイヒー氏の屋敷から、捕まえていた女の子たちが、その手紙を送りつけてきた、怪盗ゴーストなるこそ泥に盗まれたなり。ただちに海賊どもを使って、隈なく女の子たちの行方を捜し、我が輩の下に連れてくるなり。海の方にも海賊船を派遣して調べさせるなり。それと、我が城の警備を、人数を増やして強化するなり。この我が輩の城に泥棒が侵入することなど、あってはならないでござる。」

 「かしこまりました、陛下。ただちに仰せの通りに手配いたします。念のため、こちらの手紙をお預かりしてもよろしいでしょうか?部下にこの手紙を調べさせ、怪盗ゴーストの正体を早急に掴ませますので。」

 「構わんなり。貴様に任せるなり。よろしく頼むなり。」

 ベトレー宰相は一礼すると、沖水たちの前から去っていった。

 「怪盗ゴーストめ、この我が輩にちょっかいをかけたことを後悔させてやるなり。すぐに捕まえて、無様に命乞いをさせた後に、我が輩の槍で成敗してくれるでござる。皆の者、これからワイヒー氏の屋敷へと行き、新しいエロ写真コレクションの作成について話そうではないか?ついでに、新しく仕入れるモデルの女の子たちについても話すなり。」

 ベトレー宰相に怪盗ゴーストへの対応を命じ、仲間たちを引き連れ、新たなエロ写真を作る用意のため、ワイヒー氏の屋敷へと呑気に笑いながら向かう沖水であった。

 怪盗ゴーストによる犯行二日目。

 早朝。午前9時頃。

 大統領官邸の一室で人肉の朝食を食べていた沖水たちの下に、ベトレー宰相がひどく慌てた様子で駆け込んできた。

 「た、大変です、陛下!我が城の二階の大金庫室に保管されていた現金100億リリアと、陛下たちがコレクションとして集めていた宝石やアクセサリー、美術品など、200億リリアの貴重品全部が何者かによって盗まれました!大金庫室は空っぽです!」

 ベトレー宰相からの報告を聞き、沖水たちは驚いて一瞬、言葉を失った。

 それから、沖水の顔は見る見る赤くなり、激高した。

 「ベトレー宰相!我が輩は昨日、確かに城の警備を強化せよと、貴様に言ったはずである!それなのに、我が城の大金庫室の我が輩たちの集めたお宝が全部盗まれるとは、一体どういうことなり!貴様、我が輩の命令をちゃんと聞いていたなりか!?」

 「もちろんでございます!陛下に申し付けられた通り、警備の人数を倍に増やし、2,000人の部下たちに城の警備に当たらせておりました!大金庫室の部屋の前に二人、大金庫室の金庫の扉の前にも二人、人員を配置して警備に当たらせておりました!ですが、その、朝、交代要員の者が大金庫室の部屋の前に向かうと、昨夜から警備を担当していた者たちの姿が見えず、不審に思った交代要員が私の下を訪れ、この私が大金庫室の金庫を開けたところ、金庫内の宝を全て盗まれていることが判明いたしました。大変申し上げにくいのですが、恐らく、金庫の宝を盗んだと思われる犯人に警備の者たち全員が始末され、その間に盗まれたか、あるいは、警備を担当していた者たちが裏切り、犯行に加担した可能性がございます。現在、総力を挙げて、犯人と盗まれた宝の行方を追っております。必ず、犯人を捕らえ、盗まれたお宝も取り戻して御覧に入れます。何卒、どうかお許しください、陛下。」

 ベトレー宰相は額から汗を流しながら、沖水たちに向かって頭を下げた。

 「もういいなり!ベトレー宰相、必ず犯人を捕らえ、盗まれた宝を全て取り戻すのである!二日続けて泥棒に入られるなど、貴様も海賊どもも少々、たるんでおる!分かったら、とっとと仕事に行くなり!」

 ベトレー宰相は一礼すると、慌てて犯人捜索に向かった。

 「全く、この我が輩の命令一つまともにこなせんとは、ベトレー宰相、アヤツを少々、過大評価していたなり!それにしても、二日続けて、我が輩の城に泥棒が入るなど、不愉快なり!」

 沖水は不機嫌な表情を浮かべながら、怒りを呟いた。

 「な、なぁ、キャプテン、まさかとは思うけどさ、昨日、僕たちに手紙を送りつけてきた怪盗ゴーストとか言う奴の仕業だったりはしないよな?」

 「槍術士」宮丸 雄二が、怪盗ゴーストによる犯行ではないかと、沖水に向けて言った。

 宮丸の言葉を聞いて、沖水はハッとした表情に切り替わった。

 「ま、まさか!?皆の者、急いで我が輩の執務室へと向かうなり!」

 沖水たち一行は、朝食を食べるのを止め、急いで大統領執務室へと向かった。

 ドアの鍵を開け、大統領執務室の中に入ると、机の上に、昨日と同じように見慣れない一通の白い封筒が置かれていた。

 沖水が恐る恐る封筒を開けると、中には一通の手紙が入っていた。

 手紙には、以下のような内容が書かれていた。

  

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が所有する、大統領府の大金庫室に保管されていた財宝全て、確かに頂戴いたしました。

   私の部下四人の華麗なる変装と盗みをお見せできず、大変残念です。                           

             怪盗ゴーストより


 怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を読み、沖水は激高した。

 「おのれぇーーー!またしても、怪盗ゴーストの仕業なりか!?この我が輩から宝を盗み出そうとはいい度胸なり!我が輩の部下が奴の手下どもとすり替わっていようとは!?小賢しい真似を、くそっ!」

 沖水は怒り、手に持っていた手紙を机の上に叩きつけた。

 他の六人の仲間たちも手紙を読み、大金庫室から自分たちの宝を盗んだのが怪盗ゴーストだと知り、驚いた。

 「きゃ、キャプテン、落ち着けって!大金庫室のお宝が盗まれて悔しいのは僕たちも同じだ。でも、大金庫室のお宝なんて、ダーク・サーファイ帝国を治めるキャプテンや僕たちからしたら、ほんのはした金じゃないか?国庫には10兆リリアもの莫大な金があるんだぜ。トータルで見たら、怪盗ゴーストが盗んだお宝なんて微々たるものじゃあないか?警備を突破されたのは問題だけど、さらに警備を固めさせて、警備に当たる連中の身辺チェックも行えば、もう盗まれることはないさ。怪盗が変装しているなら、顔を思いっきり引っ張れば、すぐに正体も分かるし、そうなれば、捕まえるのなんて楽勝だろ?機嫌直せって。」

 「弓術士」高城 志郎が、沖水を宥めるように言った。

 高城の言葉を聞いて、沖水は落ち着きを取り戻した。

 「確かに、高城氏の言うとおりなり。智将たるこの我が輩が、ついこそ泥の挑発に乗ってしまったなり。所詮、奴が盗んだ宝は、ダーク・サーファイ帝国の皇帝であるこの我が輩からしたら、はした金も同然。この我が輩には10兆リリアという莫大な金があるなり。300億リリア程度盗まれたところで、大したダメージにはならないなり。スパイを紛れ込ませたと言うなら、身辺チェックを徹底させれば、警備は万全なり。怪盗ゴーストめ、今度こそ必ず捕まえてやるでござる。そして、我が輩に挑んだその愚かな脳みそに我が自慢の槍を突き立ててやるでござる。」

 沖水は大統領執務室にベトレー宰相を呼びつけると、ベトレー宰相に怪盗ゴーストから届いた手紙を渡しながら、ベトレー宰相に命じた。

 「ベトレー宰相、今回、我が城の大金庫室から宝を盗んだ犯人は、例の「怪盗ゴースト」とか名乗るこそ泥であることが分かったなり。奴は我が輩の部下たちの中に、変装させた手下を潜入させていたなり。ベトレー宰相、すぐに警備に当たる部下どもの身辺チェックを行うなり。奴の部下が変装しているなら、顔を思いっきりつねればすぐに正体が分かるなり。それと、奴が我が国の国庫の金を盗もうとする可能性もあるなり。決して、怪盗ゴーストに国庫の金を盗まれぬよう、最大限の警戒態勢を敷くなり。分かったなりな?」

 「かしこまりました、陛下。国庫の金は何としても死守いたします。我が国の国立銀行本店の金庫室は世界最高レベルの警備システムが備えられております。この私自ら、部下たちの身辺チェックを行い、選りすぐりの部下たち1,000人を派遣し、銀行側とも連携して警備に当たらせます。鼠一匹通さぬ、完璧な警備態勢で怪盗ゴーストを撃退して御覧に入れます。どうか、お任せください。」

 「うむ。期待しているなり、ベトレー宰相。今度こそ、怪盗ゴーストを捕まえ、その首をこの我が輩に献上するなり。」

 「御意。」

 ベトレー宰相は一礼すると、大統領執務室を出て行った。

 「グフフフ。いくら怪盗ゴーストと言えど、本気を出した我が輩の手腕にかかれば、アヤツを捻りつぶすことなど造作もないこと。世界最高のセキュリティーまで備えた我が帝国の国立銀行の金庫室には手も足も出まい。クククっ、奴の首が献上される日が来るのが楽しみなり。」

 沖水は、警戒厳重な国立銀行の金庫室が破られ、怪盗ゴーストによって国庫の金10兆リリアが盗まれることはないと、高をくくっていた。

 怪盗ゴーストによる犯行三日目。

 早朝。午前7時頃。

 大統領官邸の自室のベッドで、いびきをかいて呑気に眠っていた沖水だったが、そんな沖水の自室のドアを、ドンドンと何度も激しく叩く音が聞こえてきた。

 「むにゃ~、まだ朝の7時なり。うるさいでござるなぁ。」

 寝ぼけ眼の沖水に向かって、ドアの向こうから、ベトレー宰相の大声が聞こえてきた。

 「陛下、起きてください!一大事です!国立銀行の金庫室が破られました!国庫の金10兆リリア全額が、盗まれました!ここを開けてください!」

 ベトレー宰相の衝撃発言を聞いて、沖水は眠気が一気に吹き飛び、慌ててドアを開けた。

 ベトレー宰相の大声が聞こえ、他の仲間の六人も、自室から廊下へと出てきて、何事かと沖水の自室の前へと集まってきた。

 ベトレー宰相の報告を聞いて、沖水は激高しながら、ベトレー宰相に掴みかかった。

 「ベトレー宰相、国庫の金10兆リリア全額が盗まれたとは、一体どういうことでござる!?貴様、我が輩の命令通りに部下どもの身辺チェックをちゃんと行ったのか?世界最高レベルのセキュリティーだと言っておったな?この我が輩に怪盗ゴーストの首を献上すると大口を抜かしたくせに、何たるざまなり!?今すぐ、ここで貴様を食い殺してやるなり!」

 「へ、陛下、どうかお許しください!私は確かに陛下の御申し付け通りに、警備する部下たち全員の身辺チェックを行いました!銀行側とも綿密に打ち合わせを行い、万全の警備体制を敷いておりました!銀行の出入り口や窓は全て封鎖し、選りすぐりの部下1,000人に、銀行側の用意した熟練のガードマンを加え、銀行の建物内各所に人員を配置し、定期的に銀行内を巡回させ、警備させておりました!銀行の警備システムも作動しているのを確認しました!銀行側の登録されたごく一部の者以外に、金庫室の扉を開けることも、侵入することも不可能で、侵入者が近づけば、警報装置が作動するはずでした!ですが、先ほど、銀行内を巡回していた部下の者たちが金庫室の前を通ると、金庫室の部屋の前で警備を担当していたはずの者たちが急にいなくなっており、不審に思った部下が部屋のドアを開けると、金庫室の扉前で警備を担当していた部下10名が眠らされており、さらに金庫室の扉が開いていて、中を覗くと、金庫室の中は空だったとの報告を受けました。信じられないことですが、恐らく怪盗ゴーストがいつの間にか金庫室の部屋の前で警備を担当していた者たちとすり替わり、それから、金庫室の扉の前で警備を担当していた者たちを眠らせ、さらにその隙に金庫室のセキュリティーを何らかの手段で破壊し、金庫室に保管されていた国家予算10兆リリアの現金を全額、盗み出したと思われます。部屋の前で警備を担当していた者たちは事件発覚の直前まで、確かに部屋の前に立っていたとの証言がございます。犯行はわずか30分足らず、つい先ほど行われたものと推測されます。しかし、10兆リリアもの大量の現金を持って遠くに逃げることは不可能です。怪盗ゴーストはまだ首都内、あるいは銀行近辺に潜んでいるはずです。現在、部下に命じてしらみつぶしに捜索を行っています。ですので、どうか、どうかこの私にチャンスをください。お願いいたします、陛下!」

 ベトレー宰相は必死に沖水に懇願した。

 「キャプテン、ベトレー宰相を離してあげなよ。ベトレー宰相は確かにキャプテンの指示通りに警備を強化した。銀行の人たちともよく話し合って、おまけに金庫室は世界最高レベルのセキュリティーシステムで守られていた。だけど、現実に金庫室は破られ、国家予算の10兆リリアは盗まれた。キャプテン、どうやら僕たちは怪盗ゴーストを甘く見過ぎていたようだ。怪盗ゴーストはマジで僕たちに喧嘩を売る気らしい。それに、怪盗を名乗るだけのプロの犯罪者だ、絶対。とにかく、今は10兆リリアを取り戻すことに専念しよう。ベトレー宰相がいなければ、この国の運営はできないよ。キャプテンだって、書類仕事なんて面倒なことはしたくないだろ?怪盗ゴーストは今日もまた、手紙を大統領執務室に送りつけてきたに違いない。奴はまた何か僕たちから盗もうとするはずだ。そして、また大統領執務室に次の手紙を持ってやってくる。手紙を持ってのこのこ現れたところを僕たちで捕まえれば、万事解決だ。盗まれたものを全部、取り返すことだってできる。そうだろ?」

 「魔術士」天神 良が、沖水に向かって宥めるように言った。

 「フン。天神氏の言う通りなり。国庫の金を全て奪われたことは大打撃ではあるが、怪盗ゴースト、アヤツはまた盗みを働くに違いないなり。そして、ご丁寧にのこのこと手紙を持って、我が輩の執務室にやってくるなり。そこを生け捕りにして、拷問で責め抜いた上、盗んだお宝の隠し場所を白状させればよいだけのこと。ベトレー宰相、今回だけは見逃してやるなり。だがしかし、次、失敗した時は、貴様にはそれ相応の罰を与えるなり。分かったでござるな?」

 「か、かしこまりました、陛下!テンジン様、私へのフォロー、誠にありがとうございます。さらにこの城の警備体制を固め、怪盗ゴーストの侵入を防ぐべく、全力で対処させていただきます。陛下たちのお力もお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「しょうがないなり。これだから、無能や凡人を部下に持つと苦労するなり。良かろう。我が輩たちの偉大なる力を貴様に貸してやるなり。感謝するがいい。」

 「ははぁー。誠にありがとうございます、陛下。では、私はこれにて失礼させていただきます。」

 ベトレー宰相は沖水たちに向かって頭を下げると、早足で沖水たち一行の前から去って行った。

 朝食を済ませると、不機嫌そうな表情を浮かべながら、沖水たちは大統領執務室へと向かった。

 ドアの鍵を開け、執務室の中に入ると、またしても、一通の白い封筒が、大統領執務室の机の上に置かれていた。

 沖水は封筒を開け、中から手紙を取り出して読んだ。

 手紙には、以下の内容が書かれていた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が所有する、サーファイ連邦国国立銀行本店の金庫室に保管されていた現金10兆リリア、確かに全額頂戴いたしました。

   私と部下の華麗なる変装と盗みを直接お見せできず、ふたたび大変残念な思いです。                                 

             怪盗ゴーストより


 怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を読み終えると、沖水は悔し気な表情を浮かべながら、手紙を机の上に叩きつけた。

 「おのれぇー、怪盗ゴーストめぇー。自ら我が帝国の国庫に乗り込み、国庫の金を全て盗むとはふざけた真似を。もう許さんなり。この我が輩、キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様を本気で怒らせたこと、後悔させてくれるわ!吉尾氏、金田氏、志比田氏、宮丸氏、貴殿ら四人は今夜から明日の朝にかけて、この部屋を見張るなり!怪盗ゴーストがのこのこ手紙を持ってきたところを捕まえるなり!腕の一本や二本、潰しても構わんなり!高城氏、天神氏、貴殿ら二人は、海賊どもを率いて城内を警備するなり!必ずや怪盗ゴーストをひっ捕らえ、この我が輩の下に連れてくるなり!分かったなりか?」

 他の仲間の六人は、沖水が机の上に叩きつけた手紙を読みながら、沖水からの命令を聞いていた。

 「了解だ、キャプテン。安心しろって。怪盗ゴーストは僕たちが捕まえてやるからさ。反魔力でちょっと攻撃すれば、すぐに身動きできなくなって、即逮捕だ。まぁ、任せときなって。」

 「槍術士」吉尾 奏太が笑いながら、自信を述べた。

 「クククっ。それもそうなり。我が輩たちは「反魔力」を使う最強のメフィストソルジャーなり。反魔力を食らえば、怪盗ゴーストはその場でTHE・ENDなり。グフっ、奴の憐れな姿が目に浮かんで、笑いが止まらんでござるよ。」

 さすがの怪盗ゴーストも、魔力を無効化する「反魔力」の前では無力、捕まえるのは時間の問題だと、そう思い込み、浮かれる沖水たち一行であった。

 怪盗ゴーストによる犯行四日目。

 早朝。午前6時頃。

 大統領官邸の自室のベッドで、いびきをかいて呑気に眠っていた沖水だったが、急に頭の上がヒリヒリと痛むのを感じ、目を覚ました。

 寝ぼけ眼で頭を掻きながら、自室の洗面台へと向かうと、洗面台の鏡に映った自分の頭部を見て、沖水は衝撃を受け、思わず叫び声を上げた。

 「プギャアーーー!?か、髪が、我が輩の髪がない!?髪がほとんど抜け落ちている!?い、一体、どういうことなりか、これはーーー!?」

 鏡に映った沖水の頭は髪がほとんど抜け落ちていた。

 頭のサイドにわずかに数本ほど残っているが、それらも頭をちょっと動かすだけで、振動でどんどん抜け落ちていく。

 沖水の両肩や寝間着には抜け落ちた大量の髪の毛が引っ付いていた。

 ベッドから洗面台に続く廊下にも、大量の髪の毛が抜け落ちていた。

 髪の毛がほぼ完全に抜け落ちた自分の頭を見て、沖水は激しく混乱し、表情は青ざめている。

 混乱する沖水の脳裏に、最悪の予想が浮かんだ。

 「ま、まさか、我が輩の頭がこんなことになったのは、アヤツの仕業でござるか!?」

 沖水は急いで、青い鎧の冒険者衣装に着替え、聖槍のレプリカを手に取った。

 そして、ベッドの横のテーブルの上に置いていたはずの、自分の青いアイテムポーチを手に取ろうとした。

 しかし、テーブルに置いていたはずの、「ドクター・ファウストの魔導書」を中に入れていたアイテムポーチが、いつの間にかテーブルの上から消えていた。

 必死にテーブルの下やベッドの下、部屋の中を探すが、どこにもアイテムポーチの姿は見えなかった。

 「ない!?わ、我が輩のアイテムポーチが、「ドクター・ファウストの魔導書」がない!?我が輩の魔導書がどこにもない!?や、奴に、怪盗ゴーストに盗まれたなり!?」

 「ドクター・ファウストの魔導書」の入った自分のアイテムポーチが盗まれたことに気が付き、沖水は急いで大統領官邸の自室を飛び出し、大統領執務室へと走って向かった。

 沖水が大統領執務室の前に到着すると、大統領執務室の廊下側のドアの前に、一通の白い封筒がそっと置かれていた。

 急いで沖水は封筒を手に取って、中を開くと、封筒の中から一通の手紙が出てきた。

 手紙は、怪盗ゴーストからの犯行声明文で、次のような内容が書かれていた。

  

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が所有する「ドクター・ファウストの魔導書」、確かに頂戴いたしました。

   それから、貴殿の大事な頭の髪も頂戴いたしました。

   貴殿の若さで髪を失うことは大変お辛いこととは存じますが、どうぞお大事に。                                 

             怪盗ゴーストより


 怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を読み終えた途端、沖水は激しく怒り狂い、目を血走らせながら、左手で手紙をグシャっと握り潰すと、右手に持っていた聖槍のレプリカから、高圧水流のカッターを四方八方に乱射して、廊下で暴れ回った。

 「おのれぇーーー!怪盗ゴーストーーー!殺してやるーーー!くそっ!くそっ!くそっーーー!」

 暴れ回る沖水の攻撃で大統領執務室のドアが吹き飛んだ。

 大統領執務室の中で、怪盗ゴーストを捕まえようと警備していた吉尾、金田、志比田、宮丸の四人が、沖水の叫び声や、吹き飛んだドアに驚き、慌てて大統領執務室の中から飛び出し、廊下で暴れ回る沖水を取り押さえた。

 沖水の暴れ回る音に気付き、大統領府内で警備を担当していた海賊の部下たちも、何事かと、様子を見に集まってきた。

 「お、落ち着け、キャプテン!?何があったんだよ!?それに、何でスキンヘッドになってんだ!?イメチェンか!?」

 吉尾の質問に、沖水は怒り、吉尾に掴みかかった。

 「吉尾氏ー、貴様、一体何をしていたでござるか?怪盗ゴーストによって、我が輩たちの大切なチートアイテム、「ドクター・ファウストの魔導書」が盗まれたなり!おまけに、あの怪盗ゴーストのせいで、我が輩はこんな無様な姿に変えられたなり!怪盗ゴーストからの手紙がこの部屋のドアの前に堂々と置いてあったなり!ダンジョン攻略に必要な大統領を殺すわ、メルたんはいまだに捕まえてこないわ、まんまと怪盗ゴーストに逃げられるわ、吉尾氏、貴様の無能っぷりにはもう我慢ならないなり!怪盗ゴーストを簡単に捕まえてみせると大口を叩いておきながら、この不始末、許せんなり!吉尾氏、今すぐ無能な貴様をここで処刑してやるでござる!」

 槍の穂先を吉尾に突きつけながら、沖水は怒りのあまり、冷静な判断力を失い、吉尾を殺そうとする。

 「ま、待ってくれよ、キャプテン!無神経に質問したのは謝る!許してくれよ、なっ!?それに、大統領執務室の中で警備を担当していたのは僕だけじゃない。優に雄二、敬も同じだ。怪盗ゴーストの奴を逃がしたのは僕だけの責任じゃないだろ。外で見張っていた志郎や良にも責任がある。そうだろ?みんなの連帯責任だ。頼むから処刑するなんて、そんなこと言わないでくれよ。同じ勇者の仲間だろ、僕たちは?なっ、キャプテン?」

 吉尾が必死に沖水に向かって謝った。

 「きゃ、キャプテン、奏太だけのせいじゃない。僕たちにも責任がある。奏太を許してやってくれよ、なぁ、キャプテン?」

 「回復術士」金田 優が、沖水に吉尾を許すよう頼んだ。

 「すまない、キャプテン。これは僕たち全員の責任だ。だから、奏太だけを責めるのは止めてくれ。本当にすまない、キャプテン。」

 「槍士」宮丸 雄二が申し訳なそうな表情を浮かべながら、沖水に謝った。

 「キャプテン、すまない。でも、奏太も寝ずに一晩中、僕たちと一緒にこの部屋の中で見張っていたんだ。一番頑張っていたのは奏太だ。どうか、許してやってくれよ、なっ、キャプテン?」

 「魔術士」志比田 敬が、吉尾を許すよう、沖水を諭した。

 他の三人のメンバーたちから宥められ、沖水はようやく冷静さを取り戻した。

 沖水は、吉尾を掴んでいた左手を離すと、吉尾に向かって言った。

 「吉尾氏、貴殿のことを特別に許してやるなり。しかし、次、失敗した時は貴殿に罰を与えるなり。部下の海賊どもに示しがつかんなり。分かったでござるな?」

 「すまない、キャプテン。恩に着るよ。」

 吉尾が沖水に向かって頭を下げた。

 「至急、怪盗ゴーストへの緊急の対策会議を行うなり。志比田氏、宮丸氏、外にいる高城氏と天神氏の二人を我が輩の執務室まで呼んでくるなり。ベトレー宰相も呼んで、対策を話し合うなり。怪盗ゴーストめ、この我が輩を本気で怒らせたこと、後悔させてやるでござる!」

 午前7時30分。

 部下から連絡をもらったベトレー宰相が慌てて、沖水たちのいる大統領執務室へとやって来た。

 「遅いなり、ベトレー宰相!この我が輩を30分も待たせた上に、怪盗ゴーストにまたも犯行を許す体たらく、貴様、この我が輩を舐めているのではないか?」

 「滅相もございません、皇帝陛下!先ほど部下より、陛下が私をお呼びであると聞き、急ぎ参上いたしました!怪盗ゴーストによる犯行を防げなかったこと、誠に申し訳ございません!家臣一同を代表して謝罪いたします!どうか、平にご容赦を!」

 額から冷汗を流しながら、ベトレー宰相は沖水に向かって、頭を下げて謝罪した。

 「貴様の謝罪はもう聞き飽きたなり!それよりも、怪盗ゴーストへの緊急対策会議をこれより行うでござる!ベトレー宰相、まずはこの手紙を読むなり!」

 沖水はベトレー宰相に、怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を渡した。

 手紙の内容を読み、ちらりと沖水のスキンヘッドにされた頭を見て、ベトレー宰相は沖水が怪盗ゴーストに抱く激しい怒りを知り、怪盗ゴーストを取り逃がしたために、自分が沖水より制裁を加えられるのではないかと思うと、一気に恐怖で青ざめた。

 「「ドクター・ファウストの魔導書」を盗んだとありますが、その魔導書は陛下たちにとって大変重要なモノであることが分かりました。必ず、怪盗ゴーストを捕まえ、魔導書を取り戻して御覧に入れます。現状、警備体制の問題点として二つが上げられます。まず、一つ目に、怪盗ゴーストは我々の警備体制を熟知している点です。昨夜、陛下たちはこの大統領執務室の中で一晩中、怪盗ゴーストが手紙を持って侵入してくるのを待っていました。ですが、怪盗ゴーストはいつものように部屋の中には入らず、部屋の外、廊下側のドアの前に手紙を置いて立ち去りました。以上の点を考えますと、怪盗ゴーストは事前に我々の警備体制に関する情報を掴んだ上で、毎回、この大統領府に潜入していることになります。となると、考えられるのは、怪盗ゴーストはこの建物内に盗聴器を仕掛けているのか、あるいは内部にスパイを潜り込ませている可能性がございます。至急、大統領府の建物全体に盗聴器が仕掛けられていないか、チェックする必要がございます。もちろん、この大統領執務室の中にもです。それから、警備を担当する者全員のボディチェックも行う必要がございます。このようなことを申し上げるのは心苦しいのですが、念のため、陛下たちにもボディチェックを受けていただきます。私も含め、この場にいる全員が本人であるとは限りません。知らない内に、体や持ち物のどこかに盗聴器を仕掛けられている可能性も否定できません。どうか、検査にご協力をお願いいたします。」

 ベトレー宰相の言葉を聞き、沖水を除く他の六人の仲間は、驚きの表情を浮かべながら、お互いの顔を見合った。

 「僕たちの中に、裏切り者の内通者がいるかもしれないだって!?そんな馬鹿な!?」

 「ベトレー宰相、この僕たちに怪盗ゴーストが盗聴器を仕掛けたなんて、そんなことあり得っこないって。いくら僕たちでも不審者が近づけば、すぐに気が付くよ。それに、チート能力を持つ、Lv.100の僕たちにバレれば、即殺されることぐらい、怪盗ゴーストの奴だって分かっているはずだ。盗聴器だの、スパイだの、あり得るわけがない。」

 「弓術士」高城 志郎と、「魔術士」天神 良が、信じられないといった様子で反論した。

 「いや、ベトレー宰相の言うことも一理あるなり。我が輩たち七人の中に裏切り者がいる可能性はないでござろうが、知らず知らずのうちに、我が輩たちの体や持ち物に、怪盗ゴーストが盗聴器を仕掛けている可能性は否定できんなり。この我が輩の寝室にまで忍び込み、我が輩から「ドクター・ファウストの魔導書」を盗んだ上に、眠っている我が輩の頭から大事な我が輩の髪を奪っていった、あの小賢しいアヤツなら、そのような芸当ができてもおかしくはないなり。ベトレー宰相、すぐにこの建物内や、建物にいる人間全員のチェックを行うなり。徹底的に行うでござる。」

 「かしこまりました。ただちに、私の海軍情報部時代からの子飼いの部下たちに、チェックを行わせます。皆様もチェックにご協力をお願いいたします。次に、警備体制の二つ目の問題点として、怪盗ゴーストの手口が判明していない点です。怪盗ゴーストは常に、この犯行声明文の手紙以外、何の証拠となる手掛かりを残していません。どのようにして毎回、この大統領府やワイヒー氏の屋敷、国立銀行の金庫室などに侵入しているのか、その方法に皆目、見当がつかない状況です。闇ギルドの脱走防止用の呪いの魔法に、我が城の大金庫室の10桁の暗証番号、国立銀行の金庫室の世界最高レベルの魔法のセキュリティーシステム、これら全てを破った手口も不明です。これはあくまで推測ですが、恐らく怪盗ゴーストは超一流の魔術士です。そうでなければ、闇ギルドの奴隷に施した魔法や、国立銀行の金庫室の登録認証と警報装置の魔法を破ることは不可能です。我が城の大金庫室を破った件も考えますと、金庫破りとしても相当な腕前だと思われます。あの大金庫室の暗証番号は、この私と陛下の二人しか知らないことです。大金庫室にはこじ開けられた形跡は一切ありませんでした。秘密の10桁の暗証番号をダイヤルに入力しなければ、あの大金庫室の扉は開けられません。そうなると、金庫破りとして熟練した腕前が必要になります。現在、部下に命じて、該当する特徴を持つ犯罪者がいないか調べさせております。正体が分かれば、怪盗ゴーストの手口と、それに対する対抗策が分かります。それと、怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を部下に命じて調べさせた結果、興味深い情報が手に入りました。陛下は、この怪盗ゴーストから毎回届くこれらの手紙を見てどう思われますか?」

 ベトレー宰相から手紙のことを訊ねられ、沖水と他の六人の仲間も、思わず首を傾げた。

 「いや、ただの手紙にしか見えないでござるが?」

 「一見、とてもシンプルな手紙に見えますが、怪盗ゴーストから届くこれらの手紙に使われている紙やインクなどは全て、超一流の高級ブランドの文房具が使用されていることが調査で判明いたしました。世界中の王族や貴族、大商人たちが御用達としている、世界で一、二を争う、超高級ブランドの文房具を販売する会社の商品であることが分かりました。この手紙に使われている紙やインク、封筒、スタンプ、封蝋は総額5,000万リリアに匹敵する最高級品なのです。また、手紙の筆跡を鑑定したところ、この手紙を書いた人物はかなり高度な教育を受けた、女性のモノであることが分かりました。以上の点を踏まえますと、怪盗ゴーストはかなりの資金力を持つ人物であり、高度な教育を受けた女性、元王族や元貴族、元大商人といった経歴の持ち主ではないかと推測されます。さらに、背後に巨大な資金力を持つ組織がついている可能性も浮上いたしました。報告は以上です。」

 ベトレー宰相の報告を聞き、沖水たちは手紙を驚いた表情で凝視した。

 「た、たかが犯行声明文の手紙に5,000万リリアもの大金を使っているなりと?泥棒をするためだけに、そんな馬鹿げたことをしていると?」

 「キャプテン、相手はマジだぜ。たかが手紙に5,000万リリアも使うなんて、僕たちの想像以上に頭がぶっ飛んだ奴みたいだぜ、怪盗ゴーストは。僕たちへ本気で挑戦しているようだ。」

 天神が、沖水に真剣な表情を浮かべながら言った。

 「テンジン様の仰る通りです、陛下。怪盗ゴーストは我々の想像以上の超一流の犯罪者です。そして、陛下たちの持つ財産をターゲットにしています。恐らく、陛下率いる海賊団がサーファイ連邦国を占拠したと聞き、我がダーク・サーファイ帝国が建国したばかりで、国がまだ不安定な部分があるこの時期を好機と捉え、我が国で犯行を開始したと思われます。怪盗ゴーストの犯行から人物像を察するに、自己承認欲求が強く、犯行自体を楽しむ快楽主義者の愉快犯だと推測されます。それでいて、高度な魔術に関する専門知識や教養を備え、資金力にも富んでいます。怪盗ゴーストは陛下たちから陛下たちの財産全てを盗むまで、犯行を続け、犯行はさらにエスカレートする可能性が高いです。怪盗ゴーストはゲーム感覚でこのような大規模な窃盗事件を行っていると思われます。」

 ベトレー宰相から怪盗ゴーストに関する推測を聞かされ、沖水たちは頭を抱えた。

 「おのれぇ。ゲーム感覚でこの我が輩から盗みを働くなど、言語道断なり。天才ゲーマーのこの我が輩がゲームで負けることはあってはならないなり。しかし、怪盗ゴースト、アヤツが超一流の犯罪者で、魔術のプロ、おまけに盗みのためなら平気で大金を使う、イカれた快楽主義者とあっては、一筋縄ではいかんでござる。今、我が輩たちには金が全くないなり。怪盗ゴーストに対抗できるだけの資金がないなり。困ったなり。」

 「きゃ、キャプテン、闇ギルドの港に預けてある、僕たちの作ったエロ写真が盗まれたら、や、ヤバいんじゃないかな?あれを全部売れば、2兆リリアの売り上げが出るって話だったろ?売り上げの8割は僕たちの方に入るって話だったろ?あのエロ写真まで盗まれたら、僕たちホントに当分、一文無しになっちゃうんじゃ?」

 金田が不安そうな表情を浮かべながら、恐る恐る沖水に訊ねた。

 「ま、マズいなり!?怪盗ゴーストにあのエロ写真まで盗まれたら、我が輩たちは一文無しも同然なり!?ベトレー宰相、至急、闇ギルド本部に連絡して、闇ギルドの港の倉庫に預けている、我が輩たちのエロ写真を何としてでも怪盗ゴーストから死守するよう、伝えるなり!海賊どもも派遣して、警備を固めるなり!我が輩たちの貴重な資金源を必ず守り通すのでござる!」

 「かしこまりました、陛下。至急、手配いたします。それと、怪盗ゴーストの存在を公表し、国中に指名手配をかけ、情報提供を呼びかけるのはどうでしょうか?怪盗ゴーストが我が国のどこかに潜伏しているのは間違いありません。さらに、10億リリアの懸賞金をかけるのはいかがでしょうか?金に釣られた者たちが、怪盗ゴーストの捜索に協力してくるに違いありません。陛下の評判に若干傷が付くかもしれませんが、怪盗ゴーストの逮捕のためには必要な措置だと考えます。それと、怪盗ゴーストの手紙に使われていた文房具のブランドを扱う会社の支店が、我が国にもございます。そちらの方も詳しく調査いたします。よろしいでしょうか?」

 「仕方ないなり。ベトレー宰相、貴様の提案通りにするなり。怪盗ゴースト、奴を捕まえるためなら手段は選ばんなり。怪盗ゴーストめ、この我が輩の顔に傷を付けた借りは、100倍にして返してやるなり。」

 「かしこまりました。では、私はこれにて失礼いたします。」

 ベトレー宰相は一礼すると、大統領執務室を去って行った。

 ベトレー宰相が去った後、沖水は不安で顔を曇らせた。

 「怪盗ゴースト、奴は油断ならないなり。もし、アヤツが昨夜、我が輩の寝室に侵入した時、眠っている我が輩を殺すこともできたなり。闇ギルドも犯罪のプロではござるが、怪盗ゴースト相手に通用するか、少々不安なり。だが、首都から港町までは馬車で遅くとも三日はかかるなり。明日、すぐに奴がエロ写真を盗みに入ることは不可能なり。時間はまだあるなり。後で追加の人員を3,000人ほど派遣して警備させるなり。怪盗ゴーストめ、今に見ているがいいなり。」

 だが、そんな沖水やベトレー宰相の作戦が成功することはなかった。

 ベトレー宰相により、サーファイ連邦国全土に、怪盗ゴーストの存在が正式に公表された。

 怪盗ゴーストは指名手配され、情報提供を国民に求めることが伝えられるとともに、怪盗ゴーストに懸賞金10億リリアを懸けることが、国民に伝えられた。

 神出鬼没の謎の怪盗、怪盗ゴーストが、沖水たち率いるダーク・ジャスティス・カイザー海賊団から次々と、海賊団のお宝を盗んでいることを知り、怪盗ゴーストを義賊と、サーファイ連邦国の国民たちは陰で呼ぶようになった。

 怪盗ゴーストによる犯行五日目。

 早朝、午前9時頃。

 大統領官邸で人肉の朝食を食べていた沖水たち一行の下に、慌てた様子でベトレー宰相が駆け込んできた。

 「大変です、陛下!陛下たちが闇ギルドの南の港の、闇ギルドの倉庫にて保管していたエロ写真の入ったコンテナ全てが何者かによって盗まれたとの報告が入りました!」

 ベトレー宰相からの報告を聞き、沖水は途端に激高した。他の六人の仲間は動揺を隠せないでいる。

 沖水は怒りのあまり、ベトレー宰相に掴みかかった。

 「ベトレー宰相、貴様、一体何をやっていたなり!?あのエロ写真は我が輩たちがワイヒー氏と精魂込めて作った傑作の数々なり!あのエロ写真を売り捌けば、少なくとも1兆6,000億リリアの大金が手に入ったのでござる!その貴重な資金源をみすみす全て奪われるとは何事か!?貴様の提案通り、盗聴器のチェックを行った。スパイがいないかもチェックを行わせた!警備の追加の人員もこちらから派遣させたなり!それなのに、またしても怪盗ゴーストの奴に盗まれるとは、貴様、それでも我が輩のブレーンか!?」

 「も、申し訳ございません、陛下!ですが、私の話を最後までお聞きください!対策会議の後、我が城と、城にいる構成員全員のチェックを行わせました。調べた結果、我が城と構成員に盗聴器は仕掛けられておりませんでした。もちろん、内通者もおりませんでした。闇ギルドの倉庫を警備する追加の人員を我が海賊団から1,000人派遣いたしました。それから、今日と明後日にかけて、陛下のご指示通り、さらに3,000人、追加の人員を派遣するよう手配いたしました。闇ギルドの倉庫には、倉庫内に侵入者が入った場合、侵入者の体温を感知して、警報が作動するセキュリティーシステムが常時、作動していました。セキュリティーシステムを入り口の操作盤から解除しなければ、倉庫を管理する闇ギルドの者たちでも迂闊に入ることはできません。しかし、その、30分ほど前に闇ギルドの倉庫の警備責任者が倉庫の入り口を開けて、倉庫内を確認したところ、陛下たちが売る予定でした大量のエロ写真が入ったコンテナが全て、跡形もなく消えてしまった、とのことです。入り口も含め、倉庫の周辺は闇ギルドの構成員たちと、我々が派遣した海賊たちで周囲を取り囲み、警備しておりました。入り口は朝まで完全に閉じられ、入り口の操作盤に近づいた不審者は誰もいなかったとのことです。倉庫周辺に近づいた部外者は誰一人いなかったと、警備を担当していた者たちは皆、口を揃えて言っています。倉庫内から数十トンもあるコンテナ全てを、どうやって入り口を通さずに運び出して盗んだのか、その手口もいまだ分かっておりません。そもそも、警報装置はずっと作動していたとのことです。警報装置を、熱感知システムを突破したこと自体、異常なことだと、闇ギルドの者たちは言っております。貴重な資金源を失った失敗はお詫び申し上げます。ですが、怪盗ゴーストの巧妙な犯行の手口を解明することが今は急務だと進言いたします。どうか、私に真相究明のチャンスをお与えください、陛下?」

 ベトレー宰相からの説明を聞き、沖水は怒りを鎮め、ベトレー宰相を離した。

 「くそっ!?またしても怪盗ゴーストに盗まれるとは!?それも我が輩たちが苦心して作った最高傑作のエロ写真5,000枚全てを、売れば2兆リリアは確実のレアな写真を全て奪われるとは!?おい、皆の者、すぐに大統領執務室に向かうなり!恐らく、奴からの犯行声明文が届いているはずなり!」

 沖水たちは食事を止め、ベトレー宰相とともに急いで大統領執務室へと向かった。

 ドアの鍵を開け、大統領執務室の中に入ると、机の上に一通の白い封筒が置いてあった。

 沖水が封筒を開け、中から一通の手紙を取り出した。

 手紙は、怪盗ゴーストからの犯行声明文で、以下の内容が書かれていた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が闇ギルドの倉庫に保管しておられたエロ写真全て、確かに頂戴いたしました。

   貴殿が精魂込めて製作されたエロ写真を買うことができず、貴殿のエロ写真のファンたちが血の涙を流して悲しむ姿が目に浮かびます。

   貴殿のエロ写真はこの私が責任を持って処分いたしますので、どうぞご安心ください。                             

             怪盗ゴーストより


 手紙を読み終えた沖水は激高し、手紙を机の上に叩きつけた。

 「おのれぇ、怪盗ゴーストめぇ!この我が輩の大切なエロ写真を全て盗むとは、絶対に許せんなり!おまけに、我が輩の最高傑作の数々を処分しようとするなど、奴は完全に我が輩の敵なり!いや、我が輩の同胞たち全員の敵なり!こうなったら、この我が輩自ら、奴を捕えてみせるなり!そして、この手で即、討ち取ってくれるわ!」

 怒り狂う沖水を横目に、他の六人の仲間とベトレー宰相は、怪盗ゴーストからの犯行声明文が書かれた手紙に目を通した。

 「きゃ、キャプテン、怪盗ゴーストを捕まえるのも大事だけどさ、あのエロ写真を売れなきゃ、ぼ、僕たち、もう完全に一文無しだよ?どうするのさ、一体?」

 「か、カネダ様の仰る通りです。怪盗ゴーストにより、我が帝国は現在、国庫の予算の全てを奪われ、おまけに貴重な収入源となるはずだったエロ写真までも奪われました。このままでは、国の運営どころか、部下たちに払う金もありません。現在、我が国は海賊が占拠したとあって、それを不安視し、他国から我が国に来る交易船はほとんどありません。我が国にやって来るのは、闇ギルドに関係のある船と、一部の商船だけです。それに、我が国の重要な産業である観光産業においても、我々海賊団を恐れて、観光客を乗せた船が一隻もやって来ず、各リゾート地は閑古鳥が鳴いている状態です。各リゾート施設を運営する企業から、助成金の申請や、観光客呼び込みのための支援策を求められている状況です。このままでは、いずれ我が帝国は破綻いたします、陛下。」

 金田とベトレー宰相から一文無しになったことや、自身が治める帝国が破綻寸前だと聞き、沖水の頭は混乱した。

 「た、たかが怪盗一人に、この我が輩が、偉大なるキャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様が追い詰められるなど。くそっ!?こうなったら、まずは金の確保なり。ベトレー宰相、今すぐ海賊どもに命じて、国民どもからありったけの金を奪ってくるなり。我が輩たちは闇ギルドの奴隷たちを使って、新たなエロ写真を大量生産するなり。グフフフ、よし、海賊どもに命じて、この国の美しい女どもも捕まえて、モデルにして、エロ写真を作って売るとするなり。それと、侵略戦争の準備をするなり。インゴット王国に攻め入り、根こそぎ宝を奪いつくすなり。よいな、ベトレー宰相?」

 沖水からの狂気じみた提案を聞き、ベトレー宰相は慌てて諫めた。

 「お待ちください、陛下!確かに我が帝国政府は現在、予算が全くない状況です。ですが、海賊たちに命じて国民から財産を略奪したり、女性たちを見境なく攫ったりすれば、国民から反発が起こりかねません。国民が国外へと流出し、産業が崩壊し、本当に我が国は崩壊してしまいます。財政破綻どころの話ではすみません。国民がいなければ、経済の維持も、税金の徴収もできません。そうなれば、現在財政破綻寸前のインゴット王国より先に、我が国は滅んでしまうことになりかねません。国民からの略奪だけはお考え直しください。侵略戦争についても、国庫に金がない以上、すぐに他国を侵略することは不可能です。まとまった軍事予算ができなければ、いくら陛下たちがおられても、戦争に勝つことはできません。逆に、戦争を行ったことがきっかけで、さらに我が国は衰退することになりかねません。今は、海賊団に占拠された国、という悪いイメージを払拭し、海賊たちを一流の軍人として育て、治安を安定させ、各国との交易や観光産業を復活させることが先決です。いざとなれば、大量の国債を発行し、海外の投資家たちに買ってもらい、予算を確保するのです。闇ギルドと連携し、裏のビジネスを盛り立て、そちらからの収入を得ることもできます。我が国自慢の水産業もいまだ健在です。陛下や我が国の信用と未来を守るためにも、どうか国民に手を上げることはお控えください。お願いいたします。」

 ベトレー宰相からの必死の説得を聞き、沖水も流石に説得を断るわけにはいかなかった。ベトレー宰相の言葉は確かに的を射ていたからである。

 「くっ。確かに、ベトレー宰相の言う通りなり。このまま国民から略奪を行えば、我が帝国は滅びかねんなり。あのインゴット王国や、愚かなインゴット王国の国王と同類、あるいはそれ以下と思われるのだけは勘弁なり。ベトレー宰相、貴様の言う通りにするなり。とりあえず、我が輩たちは闇ギルドと連携して、闇ギルドの奴隷たちを使って新たなエロ写真を作るとするなり。ベトレー宰相、貴殿は引き続き、怪盗ゴーストに関する捜査を続行するなり。それと、早急にまとまった金を確保する手段を講じるなり。よいな?」

 「かしこまりました、陛下。では、私はこれにて失礼いたします。」

 ベトレー宰相は一礼すると、大統領執務室を出て行った。

 ベトレー宰相が去った後、志比田が沖水に言った。

 「なぁ、キャプテン。首都から闇ギルドの倉庫がある港町までは、最低でも馬車で移動には三日はかかるはずだ。しかも、僕たちがエロ写真を警備すると決めた翌日には、怪盗ゴーストの奴はエロ写真を盗んでいった。盗聴器は仕掛けられていなかった。スパイもいなかった。ベトレー宰相はああ言ってたけどさ、本当に信用していいものかなぁ、と僕は思うんだよね。実はベトレー宰相が怪盗ゴーストの正体、とは考えられないか?」

 志比田の発言に、沖水や他の仲間たちは皆、驚いた。

 「し、志比田氏、いくら何でもそれは想像が飛躍し過ぎではござらぬか?」

 「でもさぁ、キャプテン。ベトレー宰相は元々、海賊の元締めをやっていて、闇ギルドと繋がりがあった。僕たちがエロ写真を作るために、毎日のようにワイヒーさんの屋敷に行っていたことも知ってた。ベトレー宰相なら、闇ギルドの奴隷に使う呪いの魔法の解除方法を知っていておかしくない。大統領府の大金庫室の暗証番号を知っていたのは、キャプテンとベトレー宰相の二人だけだった。国立銀行の金庫室のセキュリティーシステムについて詳しく知っていたのも、警備計画の責任者であるベトレー宰相だった。大統領官邸の寝室で寝ていたキャプテンから「ドクター・ファウストの魔導書」の入ったアイテムポーチが盗まれた時、僕たちが大統領執務室の中や、部屋のすぐ外で警備したのは、ベトレー宰相の提案がきっかけだった。闇ギルドの倉庫からエロ写真の入ったコンテナが盗まれた今回の事件だって、ベトレー宰相は元々闇ギルドと関係があったんだから、闇ギルドの奴や海賊どもを買収して、盗むことだってできたはずだ。重いコンテナを、倉庫の入り口を通さず、警報装置も作動している中、盗み出すなんて不可能だ。被害に遭った場所の警備計画のほとんどを考えたのも、事件の報告をしたのも、全部ベトレー宰相だ。怪盗ゴーストが毎回、大統領執務室の中にこっそり手紙を置いたのだって、ベトレー宰相がこの執務室の合鍵を秘かに作っていたからできたんじゃないのか?元々、ベトレー宰相はサーファイ連邦国を乗っ取ることを目的に行動していた。結果的にキャプテンが皇帝となり、国家元首を名乗っているけど、実際、国を動かしているのはベトレー宰相だ。怪盗ゴースト事件を引き起こして、僕たちから秘かに宝を奪って、精神的に追い詰め、油断した僕たちを殺して、僕たちからこの国を奪い取る。要は、怪盗ゴーストはベトレー宰相の狂言だと僕は考えているんだけど、どうかな?」

 志比田の推理を聞き、沖水を含む他の六人のメンバーは考え込んだ。

 「何度もミスをやらかしている僕が言える義理はないけどさ、敬の言うことも一理あるかも。僕たち全員、ベトレー宰相の言う通りに動いて、それなのに失敗している。事件の調査報告だって、いつもベトレー宰相から聞かされる情報を鵜呑みにしていた。ベトレー宰相は元々、自分がこの国のトップになるつもりだった。もしかしたら、本当は国立銀行の金庫室の金も、エロ写真の入ったコンテナも盗まれていないんじゃないのか?あんな大量の重たいモノを盗んで運ぶとか無理じゃねえか?本当は闇ギルドと海賊どもとグルになって、僕たちから盗んだものをちょろまかすつもりなんじゃないか?実際に、国立銀行の金庫室も、闇ギルドの倉庫も僕たちは誰一人としてこの目で確認していないし。ベトレー宰相、ちょっと怪しくないか?」

 吉尾が志比田の推理に賛同する意見を出した。

 「キャプテン、敬の推理が当たっている可能性も否定できなくないか?ここはひとまず、ベトレー宰相を泳がして、僕たちでそっと監視してみないか?キャプテンはさっき、闇ギルドの奴隷を使って、エロ写真を作るって、みんなの前で言ってただろ?今回は海賊たちを追加で警備には派遣させず、闇ギルドの連中だけに警備させるってのはどうかな?もし、闇ギルドから奴隷が盗まれた場合は、ベトレー宰相が裏で闇ギルドの連中を買収して、奴隷を盗むのに協力させた可能性が浮上する。エロ写真を作る技術は、元海軍情報部出身のベトレー宰相なら簡単に入手できそうだし、ベトレー宰相がエロ写真を作って売る裏ビジネスの乗っ取りを画策しているかもしれない。奴隷の強奪に成功したら、必ず闇ギルドの連中か、ベトレー宰相の手下が、ベトレー宰相の下に報告するはずだ。その現場を僕たちで押さえる、ってのはどうかな、キャプテン?」

 天神が、ベトレー宰相の監視を提案した。

 「ふむ。志比田氏たちの推理が当たっている可能性も十分あるなり。ベトレー宰相は元々、頭の切れる男なり。そして、国を平気で裏切った軍人でござる。あの男が邪魔な我が輩たちを排除するため、実在しない、怪盗ゴーストなる盗賊をでっち上げたかもしれないなり。皆の者、これよりベトレー宰相の監視を行うでござる。奴の普段いる執務室の隣は空き部屋だったはずでござる。交代で奴の執務室を盗聴し、監視するなり。ベトレー宰相に勘づかれないため、我が輩たちはエロ写真を作ると言って、大統領府の外に隠れて、自分の番が回ってくるまで待機するなり。ベトレー宰相がトイレに行く時も、自宅に帰った時も、そっと後を付けて監視するなり。分かったでござるな?」

 「「「「「「了解、キャプテン!」」」」」」

 「ベトレー宰相め、もし、怪盗ゴーストだった時は容赦なくその場でぶち殺してやるなり。この我が輩を欺こうなど、百万年早いなり。」

 怪盗ゴーストの正体がベトレー宰相で、怪盗ゴーストによる一連の犯行はベトレー宰相による狂言ではないかと疑い、夜を徹してベトレー宰相を四六時中監視する、沖水たち一行であった。

 そんな疑心暗鬼に陥った沖水たちの推理は全くの見当はずれで、努力も全て水の泡に帰すことを、沖水たちはまだ、知らないでいた。

 怪盗ゴーストによる犯行六日目。

 ベトレー宰相は昨日から大統領府の自分の執務室を出ることはほとんどなく、忙しそうに机の上で仕事をしていた。

 ベトレー宰相の執務室を、部下の役人たちや海賊たちが訪ねて報告をするが、特に疑わしい内容ではなく、ごく普通の仕事の内容であった。

 海賊船に積んであるお宝や、ベトレー宰相が銀行に預けている貯金が怪盗ゴーストによって盗まれないよう、指示を出していた。

 ベトレー宰相は大統領府内でシャワーを浴び、執務室で食事をとり、仮眠をとるなどしながら、昨日から徹夜をして、真面目に宰相としての仕事をこなしていた。

 ベトレー宰相の執務室の隣の空き部屋で、交代でベトレー宰相の監視を行っていた沖水たち一行であったが、昨日から今日の早朝まで、特にベトレー宰相に変わった動きはなく、拍子抜けした気分であった。

 午前7時。

 ベトレー宰相が執務室で朝食を食べていると、机の上の通信連絡用の水晶玉から声が聞こえてきた。

 沖水たちは隣の部屋から壁に耳を当てて、会話を聞こうとした。

 『もしもし、ベトレーさんですか?おはようございます。闇ギルド南支部の支部長、ビービリです。実は今朝から首都の闇ギルド本部の幹部の方々と全く連絡が取れない状況でして、何かご存知ありませんか?』

 「おはよう、ビービリ支部長。私の方には特にそちらの本部から連絡はもらっていないが。他に何かそちらで変わったことはなかったかね?」

 『そうですねぇ。実は、本部にいた他の構成員全員とも連絡が取れない状況なんですよ。昨日の夜、少し大きな取引をしまして、取引が無事、上手くいったので本部の幹部の方々にご連絡しようとしても、本部と一切連絡が通じない状況でして。本部と連絡が取れないなんてことは初めてなものでして、少々不安になったもので、何かご存知ではないか、お訊ねしましたところで。』

 「ふむ。それは奇妙な話だな。分かった。私の方から部下を派遣して、闇ギルド本部の様子を見に行かせるとしよう。何か分かったら、すぐにそちらに伝えよう。」

 『ありがとうございます、ベトレーさん。今後とも、当ギルドをごひいきにしていただけますと助かります。どうぞ、よろしくお願いいたします。』

 「ああっ、任せたまえ、ビービリ支部長。こちらも君たちにはいつもお世話になっているからね。様子を見て報告するくらい、大したことじゃないよ。では、また、後で。」

 ベトレー宰相はそう言うと、ビービリ支部長との通信を切った。

 それから、海賊の部下たちを呼びつけ、首都にある闇ギルド本部の様子を見るよう命じた。

 「闇ギルド本部に何かあったのだろうか?確か、陛下が闇ギルドから奴隷を買ってエロ写真をまたお作りになると言っていたが?しかし、いくら怪盗ゴーストでも闇ギルド本部に乗り込んだりはしないだろう。あそこは闇ギルドの上級構成員で固められていて、A級冒険者に匹敵する実力者ばかりだ。暗殺のプロだって大勢いる。警戒も相当なものだ。あそこに侵入するなど、自殺も同然だ。怪盗ゴーストもそこまで命知らずではないだろう。」

 ベトレー宰相はそんなことを言いながら、朝食を食べ終えると、真面目に仕事を再開した。

 ベトレー宰相の執務室の隣の空き部屋から、ベトレー宰相の会話を盗聴していた沖水たち一行は、闇ギルド本部に何か起こったかもしれないと聞き、皆、不安になった。

 空き部屋をそっと出ると、沖水は言った。

 「昨日からずっと監視していたが、ベトレー宰相に不審な動きはないなり。むしろ、徹夜で真面目に仕事をしていただけにしか見えなかったでござる。ベトレー宰相は白の可能性が高いなり。むしろ、気になるのは、闇ギルド本部の方なり。どうにも、嫌な予感がするなり。」

 「キャプテン、もしかしたら、僕の推理は外れていたかも。どう見ても、ベトレー宰相は真面目に仕事をしていたよ。ベトレー宰相が徹夜してあんなに一生懸命仕事していたなんて知らなかったよ。疑って何だかすごく申し訳ない気分だ。みんなも付き合わせてごめん。」

 志比田が申し訳なさそうな表情を浮かべながら、他のメンバーたちに向けて謝った。

 不安な表情を浮かべながら、沖水たちは大統領執務室へと向かった。

 ドアの鍵を開け、大統領執務室の中に入ると、机の上に一通の白い封筒が置かれていた。

 沖水が封筒を開くと、中から一通の手紙が出てきた。

 手紙の内容はもちろん、怪盗ゴーストからの犯行声明文であった。

 手紙には、以下の内容が書かれていた。

  

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が闇ギルド本部より購入予定でございました、闇ギルドの奴隷の女性たち全員、確かに頂戴いたしました。

   奴隷の女性たちは全員、この私が大切にお預かりいたしましたので、どうぞご安心ください。

   付け加えまして、私よりささやかではございますが、闇ギルド本部の構成員たちの死体をプレゼントさせていただきます。

   人肉がお好みとのことですので、どうぞ心ゆくまでお召し上がりください。

   くれぐれもお腹を壊さぬよう、ご注意ください。                              

             怪盗ゴーストより


 怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を読み終え、沖水は激高し、歯ぎしりをしながら、手紙を机の上に叩きつけた。

 「お、おのれぇ、またしても怪盗ゴーストにしてやられたなりー!闇ギルド本部から奴隷の女の子たちを全員、盗み出すとは!おまけに、闇ギルドの構成員たちを殺しただと!?闇ギルドはもはや壊滅したも同然なり!我が輩たちの裏ビジネスは完全にご破算となったなり!おとなしく死体の肉でも食っていろとは馬鹿にしよって!くそっ!」

 怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を読み、他の六人の仲間も顔を顰めた。

 「キャプテン、とりあえず、この手紙を急いでベトレー宰相に見せて、闇ギルド本部の様子を確認させよう。もし、この手紙の内容が全て事実なら、僕たちは完全に一文無しになったことになる。それに、闇ギルド本部の構成員たちを怪盗ゴーストの奴が殺したのが本当なら、奴は殺人さえ行うようになった、僕たちを追い詰めるためなら殺しも厭わない、そういうことになる。奴の犯行がこれ以上エスカレートする前に、何としても捕まえないとマジでヤバいぜ、コイツは?」

 宮丸が真剣な表情で沖水に向かって言った。

 「それもそうなり!急いでこの手紙をベトレー宰相に見せ、事実を確認し、対策を立てねば!怪盗ゴースト、奴を早く捕まえなければ、本当に我が輩たちは破滅するなり!」

 沖水はそう言うと、怪盗ゴーストからの手紙を持って、急いでベトレー宰相の執務室へと向かった。

 沖水たちから、怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を受け取り、その内容を呼んだベトレー宰相の顔は一気に恐怖へ変わった。

 ベトレー宰相が急いで闇ギルド本部の中を捜索するよう、部下たちに指示した結果、闇ギルド本部の地下室にいたはずの奴隷の女性たち全員の姿はどこにもなく、闇ギルド本部のビル内には本部の構成員たちの無惨に殺された死体が転がっていた、との報告が、部下たちより通信連絡用の水晶玉を通じて伝えられた。

 ベトレー宰相と一緒に報告を聞いていた沖水たち一行は、あまりにショッキングな内容に言葉を失い、その場でしばらく呆然と立ち尽くした。

 「へ、陛下、怪盗ゴーストはどうやら、闇ギルド本部を殲滅できるほどの戦力も保持しているようです。闇ギルド本部を壊滅させるためには、軍の特殊部隊クラス以上の戦力が必要になります。となると、怪盗ゴーストとその一味は、プロの暗殺者を複数保有していることになります。「暗殺者」のジョブ持ちは、自身の気配や姿、体臭を自在に消したり、顔を自在に変化させたりすることができる、多様な隠密スキルを持っています。怪盗ゴーストがなぜ、これまで、犯行現場にいともたやすく侵入できたのか、その理由がようやく分かりました。怪盗ゴーストは魔術の知識や資金力に富んでいるだけでなく、プロの暗殺者を大勢雇った、豊富な人材を揃えた一大組織を率いているようです。他国の特殊部隊、あるいは他国の闇ギルドがバックにいる可能性が濃厚です。我がダーク・サーファイ帝国の存在を良しとしない者の差し金ではないかと推察いたします。」

 ベトレー宰相が、怪盗ゴーストの正体に関する考察を沖水に向かって述べた。

 「おのれぇ、怪盗ゴーストめぇ。プロの暗殺者まで率いていようとは。奴が敵対勢力の差し金の場合、ベトレー宰相、貴殿は怪盗ゴーストを我が輩たちに差し向けた組織に心当たりはござらんか?」

 「他国の特殊部隊だと仮定した場合、可能性が高いのはゾイサイト聖教国とインゴット王国、この二つの国が有力な候補になります。どちらの国も、リリア聖教の狂信的な信者が多く、特にゾイサイト聖教国は顕著です。あの国はリリア聖教の総本山であり、エロ写真などの違法ポルノの売買も含め、リリア聖教の教えと法に背く者に対して厳罰を下すことで有名です。陛下たちの作るエロ写真をリリア聖教の教えに反する不道徳なモノと捉え、特殊部隊を派遣し、陛下たちの妨害、または排除を狙っている可能性もあります。他国の闇ギルドだと仮定した場合、どの闇ギルドかは現時点で特定は難しいですが、陛下たちの始めたエロ写真の裏ビジネスのために損益を被った組織が、暗殺者の部隊を派遣してきたと思われます。複数の国の闇ギルドが手を組んだ可能性も否定はできません。」

 「我が輩たちの作ったエロ写真が原因で、我が輩たちを潰そうとしてきたと?芸術を理解せん愚か者どもが、宗教など金などくだらん理由で邪魔をしてくるとは許せんなり。エロ写真の偉大さを理解せん馬鹿どもに天誅を下してやるでござる。ベトレー宰相、怪盗ゴーストの次なる獲物は何だと、貴殿なら考える?」

 「はっ。あくまで個人的な推測ですが、怪盗ゴーストの次の獲物として考えるとしたならば、海賊船にある非常時のために積んでいる金品、我が帝国の主要メンバーが各銀行に預けている個人の預貯金、闇ギルドが隠している裏金、陛下たちとワイヒー氏が保有するエロ写真、そして、陛下たちのお命、この五つが主に考えられます。これら以外のモノが狙われる可能性も否定はできません。」

 ベトレー宰相の推測を聞き、沖水たち一行は頭を抱え、その場で悩んだ。

 「とりあえず、怪盗ゴーストに狙われる可能性が高いモノを、重点的に警備するでござる。怪盗ゴーストが我が輩たちの暗殺を企んでいるかもしれん以上、念のため、我が輩たちの傍にも警護を付けるなり。我が城の警備の人数を5,000、いや、7,000人まで増やすなり。ベトレー宰相、早急に怪盗ゴーストに狙われそうなモノへの警備を強化するなり。」

 「かしこまりました。ご指示どおりに手配いたします。」

 ベトレー宰相はそう言うと、すぐに机の上の通信連絡用の水晶玉から、怪盗ゴーストに狙われると思われるモノの警備を強化するよう、部下たちに指示を始めた。

 そんなベトレー宰相の姿を見ながら、沖水たち一行はベトレー宰相の執務室を去って行った。

 「怪盗ゴーストめ、奴は次に一体、何を盗むつもりなり?完全に我が輩たちが後手に回っているなり。奴は変装して潜んでいる可能性が高いなり。いや、完全に姿を消している可能性も否定できんなり。この我が輩の頭脳明晰な頭を持ってしても、奴の手口が分からんなり。奴を捕まえる良い方法が見つからんなり。」

 「なぁ、キャプテン。僕に提案があるんだけど、こっちから怪盗ゴーストに挑戦状を送りつけるのはどうかな?怪盗ゴーストの目的がエロ写真なら、奴はエロ写真を必ず盗みに来るはずだ。僕たちやワイヒーさんのコレクションの一部を街中の美術館とかに飾って、エロ写真の個展を開いて、大々的に宣伝するのはどうだろう?怪盗ゴーストがエロ写真を盗みに来たところを僕たちが取り押さえる、どうだい、この作戦は?」

 悩む沖水に、高城が作戦を提案した。

 「高城氏、悪くない作戦なり。怪盗ゴースト、奴の目的の一つは、我が輩たちのエロ写真売買の裏ビジネスを潰すことなり。ならば、エロ写真のストックがまだまだあると知れば、必ずエロ写真を盗みに現れるはずなり。のこのこと現れたところを我が輩たち全員で捕まえるのでござる。早速、ワイヒー氏に相談して、コレクションを借りてくるなり。それから、ただちに美術館を借り切って、エロ写真の個展を開催するなり。そして、大々的に宣伝するなり。クククっ、怪盗ゴーストめ、ついに貴様の年貢の納め時なり。」

 高城の提案した通りに、沖水たち一行は、首都の国立美術館を借り切って、大量のエロ写真の個展を開催した。

 部下の海賊たちを使って、大々的に街中に宣伝をした。

 一人2,000リリアの入場料を取り、多くの街の男性客を呼び込むことに成功した。

 エロ写真の個展を開催したことで、一日で2,000万リリアの売り上げを沖水たち一行は手に入れたのであった。

 ただ、沖水たちがエロ写真の個展を開催したことが口コミで首都だけでなく、国中に広がり、サーファイ連邦国の女性たち全員が沖水たちに軽蔑と嫌悪感を抱くこととなった。

 エロ写真の個展を観に行った男性たちが、妻や恋人、妹、娘に個展を観に行ったことがバレて、喧嘩や離婚、縁切り騒動にまで発展することになったのであった。

 海賊たちも陰で国民たちが自分たちのことを「変態海賊団」と呼んでいるのを聞き、怪盗ゴーストによって沖水たち幹部陣が何度も宝を盗まれる失態を重ねていることもあり、沖水たち一行への不満をますます募らせることになった。

 怪盗ゴーストによる犯行七日目。

 早朝、午前8時。

 エロ写真の個展を開催し、一晩中、美術館で寝ずに警備をしていた沖水たち一行であったが、自分たちの予想に反して、何故か怪盗ゴーストは現れなかった。

 首を傾げる沖水たちであったが、きっと怪盗ゴーストが臆病風に吹かれて現れなかったに違いない、そう思った。

 「へっ。怪盗ゴーストの奴も大したことねえな。エロ写真を盗みに来ると思ったけど、僕たちが美術館を警備していると知って、尻尾を巻いて逃げ出したようだぜ。所詮、怪盗ゴーストなんて敵じゃない、そういうことだな、キャプテン?」

 吉尾がヘラヘラと笑いながら、沖水に話しかけた。

 「グフフフ。全くその通りでござる。我が輩たちが大々的に宣伝したのにも関わらず、アヤツはエロ写真を盗みには現れなかった。エロ写真は一枚も盗まれることはなかった。つまり、怪盗ゴーストは我が輩たちの挑戦状を受け取っていながら、挑戦を受けず、負けを認めて逃げ出したも同義。所詮、アヤツは我が輩たちの敵ではなかった、ということ。あの生意気なこそ泥の鼻っ柱をへし折ってやって、いい気分なり。ざまぁみろなり。」

 沖水が笑いながら返事をした。

 沖水たち一行は意気揚々と大統領府へと帰った。

 それから、大統領官邸の一室で人肉の朝食を食べながら、怪盗ゴーストを撃退したと言って、皆で騒いでいた。

 午前9時頃。

 沖水たち一行が人肉の朝食を食べ、呑気に騒いでいると、慌てた表情のベトレー宰相が、沖水たちの前に現れて言った。

 「た、大変です、陛下!先ほど、海軍本部より緊急の連絡が入りました!海軍本部に保管していたはずの武器弾薬、全てが盗まれたとのことです!我が帝国の補充用の武器弾薬全てが失われました!恐らく、怪盗ゴーストによる犯行と思われます!」

 ベトレー宰相の報告を聞き、沖水たち全員が目を丸めて驚き、口を開いたまま、しばらくその場で固まった。

 「武器と弾薬全てが盗まれたなりと!?そ、それでは、我が輩たちは丸腰も同然なり!?お、おのれぇ、怪盗ゴーストめぇ。エロ写真ではなく、我が輩たちの武器弾薬を盗んでいくとは、くそぉーーー!」

 沖水は激高し、椅子から立ち上がると、テーブルを思いっきり蹴飛ばした。

 「お、落ち着いてください、陛下!怪盗ゴーストが武器弾薬を狙うのはこちらも想定外の事態でした。陛下たちの開催したエロ写真の個展に展示されたエロ写真を盗みに行く、私もそう思っていました。しかし、怪盗ゴーストは恐らく、当初から武器弾薬を盗むことを計画していたと思われます。武器庫と弾薬庫、それぞれの管理責任者からの報告によりますと、熱感知のセキュリティーシステムは作動した状態のままだったとのことです。入り口を開けた形跡も全く無かったとのことです。入念な下準備なしに、海軍の武器庫と弾薬庫から武器弾薬を全て盗み出すことは不可能です。特に、弾薬は扱いを一歩間違えれば爆発する危険性があります。怪盗ゴーストに裏をかかれたことには違いありませんが、補充用の武器弾薬を全て失ったことは大きな痛手です。もし、この事実が他国に伝われば、我が帝国の戦力の低下を知った他国が、我が国の侵略に動き出す可能性も否定できません。すぐにでも売却できる資産を売却し、失った分の武器弾薬を早急に補充する必要がございます。最悪、陛下たちのお持ちのエロ写真のコレクションを全て売却していただかなければいけない可能性もあります。どうかご容赦ください。」

 「なっ!?他国が攻め込んでくるなりと!?我が輩たちの持つエロ写真のコレクションを全て売却しなければならないだと!?そ、そうか、怪盗ゴーストめぇ、は、始めからそれが狙いであったのか!?くそっ!」

 沖水は歯ぎしりをしながら、悔しがった。

 沖水たち一行とベトレー宰相は急いで、大統領執務室へと向かった。

 ドアの鍵を開け、大統領執務室の中に入ると、机の上に一通の白い封筒が置かれていた。

 封筒を開けると、中から一通の手紙が出てきた。

 手紙は、怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙だった。

 手紙には以下の内容が書かれていた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が海軍本部の武器庫並びに弾薬庫に保管されておられた武器弾薬全て、確かに頂戴いたしました。

   頂戴いたしました武器弾薬は、この私が後日、ブラックマーケットにて高値で売らせていただきます。

   十分なお金がご用意できました時は、是非お買戻しください。                              

             怪盗ゴーストより


 怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を読み終えると、沖水は激高し、手紙を机の上に叩きつけた。

 「十分なお金がご用意できました時は、是非お買戻しください、だと!?馬鹿にしよって!?」

 他の六人の仲間とベトレー宰相も、怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を読んだ。

 「陛下、ブラックマーケットにて盗んだ武器弾薬を売る、この一文の真偽のほどは確かではありませんが、もし、これが事実の場合、怪盗ゴーストはブラックマーケットを運営する闇ギルドの関係者、という可能性があります。他国のブラックマーケットを見張らせ、我が国より盗まれた武器弾薬が売られているのが分かれば、そこから怪盗ゴーストの足跡を辿ることは可能です。すぐに世界各国にいる我が国の大使館の職員たちに命じ、早急に各国のブラックマーケットを見張らせます。勝機がないわけではありません。どうか落ち着いてください。」

 ベトレー宰相の言葉を聞き、沖水は怒りを鎮めた。

 「ベトレー宰相、すぐに各国のブラックマーケットを見張るよう、指示を出すなり。絶対に怪盗ゴーストの尻尾を掴むよう、部下たちに伝えるなり。失敗すれば、全員、即刻解雇すると、我が輩がそう言っていたと伝えるなり。」

 「かしこまりました、陛下。それから、陛下に申し上げます。怪盗ゴーストは今回、武器弾薬を盗みました。そうなると、次に怪盗ゴーストが狙うのは、我々の保有する海賊船や戦艦だと推測されます。港にいる海賊たちに招集をかけ、早急に海賊船の警備を固めるよう、手配いたします。これ以上、戦力を失うことだけは何としてでも避けねばなりません。陛下たちには、護衛の部下たちとともに、首都内の警備をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「分かったなり。さっさと海賊船の警備を固めさせるなり。」

 「かしこまりました。では、私はこれにて失礼させていただきます。」

 ベトレー宰相はそう言うと、一礼してから大統領執務室を出ていった。

 「キャプテン、どうする?エロ写真の個展は入場料で儲かることだし、大事なエロ写真のコレクションがあるから、当然警備しなきゃだけど、他の場所の警備はどうするよ?」

 高城が沖水に訊ねた。

 「フン。我が輩たちがいちいち部下どもの貯金が預けてある銀行や、闇ギルドのどこに隠してあるかも分からない裏金を、歩き回って警備するなど、馬鹿馬鹿しいなり。個展の警備だけしていればいいなり。皆の者、貴殿らで自由にするがいいなり。我が輩はワイヒー氏の屋敷へ行くでござる。闇ギルドが潰れた以上、新たなエロ写真を売買するルートの開拓が必要なり。エロ写真を製造、販売する会社を我が輩たちで立ち上げ、大々的に世界中に販売するのでござる。我が輩たちに敵対しているかもしれない各国の闇ギルドに、エロ写真の製造技術を高値で売りつけるのである。そして、我が輩たちの立ち上げた企業を中心にさらなる高クオリティでより大量生産可能なエロ写真を開発し、一大ポルノ産業を生み出し、我が輩たちがエロ写真ビジネスのトップに君臨するのである。エロ写真を世界共通の裏ビジネスにし、我が輩たちが主導権を握る形にすれば、世界各国の闇ギルドが我が輩たちの協力者となり、我が輩たちは莫大な利益を得ることができる、というわけでござる。いざという時は、怪盗ゴーストの奴は金で買収すればいいだけの話なり。」

 「フヘヘヘ、さすがはキャプテン。エロ写真の技術はどの闇ギルドも欲しいに決まっている。それに、エロ写真作りに関して、キャプテンの右に出る者はいない。エロ写真ビジネスを世界中で成功させれば、大金も手に入る。怪盗ゴーストの奴も大金さえ払えば、ちょっかいを出してこなくなる。ついでに、世界中から女の子たちを買うこともできる。最高だよ、キャプテン。」

 「グフフフ、その通りなり、金田氏。エロ写真と金、これさえあれば何も恐れる者はないなり。怪盗ゴーストに我が輩の計画を阻止することは永久に不可能なり。我が輩たちは異世界最強の戦力を誇る天下無敵の大海賊団なり。怪盗ごときに我が輩たちが敗北することはないなり。我が輩がいる限り、我が帝国は永久に不滅なり。では、早速、新会社設立に向け、行ってくるなり。」

 沖水はエロ写真の製造技術さえあれば、金もすぐにまた手に入る、海賊団とメフィストソルジャーの力があれば自分たちが滅びることはない、怪盗ゴーストの脅威もいずれ解決するだろう、そう考えた。

 しかし、その考えが甘かったことを沖水はすぐに痛感することになった。

 怪盗ゴーストによる犯行八日目。

 午前9時頃。

 昨日は碌に首都の警備もせず、呑気にワイヒー氏の屋敷で、エロ写真を売る裏ビジネスの新たな販売ルートの開拓をしていた沖水は、今日も朝から大統領官邸の一室で、仲間たちとともに人肉の朝食を食べていた。

 そんな沖水たち一行の下に、暗い表情を浮かべたベトレー宰相がやって来た。

 「おはようございます、陛下。実は、陛下にご報告しなければならないことがございます。よく私の話をお聞きください。」

 「朝からご苦労である、ベトレー宰相。どうせ、また、怪盗ゴーストが何か盗んだのであろう?奴は所詮、泥棒なり。我が輩はエロ写真を使った新たな裏ビジネスを立ち上げている真っ最中である。新ビジネスが成功すれば、怪盗ゴーストなど、最早大した問題ではないなり。ところで、報告とは何なり?」

 「はい。昨夜、サーファイ島の南側の港に停泊していた海賊船50隻が盗まれました。我が帝国の海賊船の約半分が失われました。それと、海賊団内部から陛下たちに不満を抱き、海賊団を離反する者が続出しました。二日前から現在までの間に、我がダーク・ジャスティス・カイザー海賊団の構成員の約半分、1万人の海賊たちが、海賊団を抜けると言って去って行きました。現在も急速な勢いで辞表を提出し、国を去っていく者たちが後を絶ちません。このままでは、我が海賊団も帝国も崩壊いたします。報告は以上です。」

 「ふぇっ!?」

 ベトレー宰相から衝撃的な報告を聞き、沖水はあまりの衝撃の大きさに思わず、間抜けな声を上げて、驚いたまま、呆然となった。

 他の六人の仲間たちも、口をポカンと開け、呆然としている。

 しばらくして、ハッと意識を取り戻した沖水は、ベトレー宰相に詰め寄った。

 「海賊船が50隻も盗まれたなりと!?それに、海賊たちが1万人も辞めて出て行った!?な、なぜ、なぜそのような事態になったでござる!?」

 「陛下は最近、新聞をお読みになっていましたか?こちらの新聞を読んでいただけたら、その理由がすぐお分かりいただけますかと。」

 ベトレー宰相はそう言って、右手に持っていた新聞の束を渡した。

 沖水や他の六人の仲間たちがベトレー宰相から渡された新聞に目を通すと、そこにはとんでもない内容が書かれていた。

 各新聞の見出しのほとんどは、怪盗ゴーストをダーク・ジャスティス・カイザー海賊団の悪政からサーファイ連邦国の国民たちを守る義賊やヒーローとして褒め称えるモノばかりであった。

 それと同時に、沖水率いるダーク・ジャスティス・カイザー海賊団が怪盗ゴーストによって、エロ写真のモデルの女性の奴隷たち、大統領府の大金庫室のお宝、国立銀行の金庫室の国家予算の金、闇ギルドを通じて販売する予定だった大量のエロ写真、海軍本部に保管されていた武器弾薬の全て、海賊船50隻を盗まれたことが事細かに記されていた。

 そして、沖水たちが違法ポルノのエロ写真を売り捌こうとしていたことや、エロ写真の個展を国立美術館で開催したことも記事に書かれ、沖水たちのことを「変態海賊団」、「全世界の女性の敵」、「恥知らずのエロ皇帝」などと強く非難していたのであった。

 また、怪盗ゴーストによってキャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザーが禿げ頭にされた風刺画も掲載されていた。

 「新聞だけでなく、全世界の各メディアが怪盗ゴーストを称賛する記事を書き、国内だけでなく、全世界の市民から人気を集めております。一方で、陛下たちは怪盗ゴーストによって次々に財産を奪われ、さらに違法ポルノのエロ写真を販売しようとしたことや、エロ写真の個展を国立美術館で開催したことが各マスコミによって報じられ、陛下たちは義賊怪盗ゴーストによって成敗される、その、「変態海賊団」と世間からは呼ばれているのです。海賊団を離反したほとんどの海賊たちは、陛下たちが怪盗ゴーストによって財産を盗まれていく姿と、「変態海賊団」と呼ばれる姿に失望したと言って、皆、離れていきました。「変態海賊団」の一員と呼ばれることが耐えられない、恋人にも顔向けができないから、というのも理由の一つです。陛下に申し上げます。これ以上、怪盗ゴーストの犯行を許せば、海賊たち全員が離れていくことは避けられません。エロ写真を作って販売したり、それを嬉々として楽しむお姿を見せたりすれば、国民や海賊、果ては世界中から陛下たちは笑い者にされます。ここはエロ写真の製作は一時止めていただき、怪盗ゴーストと堂々と戦い、怪盗ゴーストを捕まえ、皇帝や海賊団の首領としての威厳を国内外に示す必要がございます。どうか、ご理解ください。」

 ベトレー宰相が深々と頭を下げて、沖水に頼み込んだ。

 新聞記事やベトレー宰相の言葉に、沖水は激高し、持っていた新聞をビリビリと破り捨てた。

 「お、おのれぇー!この我が輩を「変態海賊団」だの「恥知らずのエロ皇帝」だの、馬鹿にしよって!?全ては怪盗ゴースト、アヤツのせいなり!何が暴君を成敗する義賊、ヒーローなり!?この我が輩が怪盗ゴーストに負け続ける情けない海賊だなど、そのような屈辱、耐えられるわけないでござる!この我が輩、キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザーは全世界を支配する、完全無欠にして天下無敵の覇王なり!異世界を無双し、天下人となるこの我が輩が、たかが怪盗に敗北し、世間から負け犬として笑われることなど、絶対にあってはならんのだぁー!はぁ、はぁ、エロ写真作りは後回しなり!こうなったら、怪盗ゴースト、何としても奴をこの手で捕まえるでござる!そして、覇王たるこの我が輩の威光を全世界に知らしめるなり!ベトレー宰相、ただちに残りの海賊船の警備を固めるなり!何としても、怪盗ゴーストの次の犯行を阻止し、そして、奴をひっ捕らえるのである!分かったでござるな!?」

 「かしこまりました、陛下。大至急、警備体制を強化させます。では、私はこれにて失礼させていただきます。」

 ベトレー宰相は神妙な面持ちを浮かべながら、沖水に向かって一礼すると、沖水の前から去っていった。

 「皆の者、今すぐ大統領執務室に向かうなり!恐らく、また怪盗ゴーストから手紙が送りつけられているに違いないなり!」

 沖水たちは食事を止め、急いで大統領執務室に向かった。

 ドアの鍵を開け、大統領執務室に入ると、机の上に一通の白い封筒が置かれていた。

 手紙は、怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙であった。

 手紙には、以下の内容が書かれていた。

  

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が所有するご自慢の海賊船50隻全て、確かに頂戴いたしました。

   頂戴いたしました海賊船は、この私が後日、ブラックマーケットにて高値で売らせていただきます。

   このような素晴らしい海賊船という商品をいただき、私も笑いが止まらない限りです。

   十分なお金がご用意できました時は、是非お買戻しください。                           

             怪盗ゴーストより


 怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を読み終えると、沖水はさらに激高し、手紙を机の上に叩きつけた。

 「おのれぇーーー!どこまでもこの我が輩を虚仮にしよってぇー!我が輩から海賊船を奪った挙句、我が輩の顔に泥を塗りたくるとは、絶対に、絶対に許さんなり!我が栄光あるダーク・ジャスティス・カイザー海賊団が崩壊寸前!?そんなことは認めないなり!必ず捕まえてこの手で処刑してくれる!今に見ているがいい、怪盗ゴースト!」

 他の六人の仲間たちも、怪盗ゴーストからの手紙を読み、皆、怪盗ゴーストへの敵意と闘志を改めて燃やすのであった。

 そんな沖水たち一行のいる大統領執務室のドアの向こうで、ドアに耳を付けて、沖水たちの会話を盗聴している男がいた。

 ベトレー宰相の弟で、元レッド・シャーク海賊団船長で、現在は平船員の、コビール・レッド・シャークであった。

 「こりゃあ、もう駄目だな。」

 コビールはボソッとそう呟くと、ドアから離れた。

 そして、兄のベトレー宰相がいる、ベトレー宰相の執務室へと向かった。

 ノックもせず、いきなり執務室に入ったコビールは、ベトレー宰相に声をかけた。

 「おはよう、兄貴。随分顔が暗えなぁ。まぁ、当然だわな。海賊団の半分の連中が離れていっちまったし、現在進行形で退職者続出だもんな。俺も街中を歩いているとガキどもから、「変態海賊団」なんて呼ばれて、後ろ指差される始末だしよ。海賊団の誇りも名誉もありゃしねぇ。なぁ、兄貴、ここいらが潮時じゃねえか?もうあの人食いのガキどもに利用価値はないぜ。このままじゃあ、兄貴が築いてきたもん、全ておじゃんになるぜ。あのガキどもとはおさらばして、どっか別の国に行ってやり直そうぜ?今ならまだ引き返せるよ、なっ?」

 コビールが沖水たちと手を切るよう、ベトレー宰相の説得を試みた。

 しかし、ベトレー宰相は頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。

 「お前と違い、私は陛下たちに協力する者として、ダーク・サーファイ帝国の宰相として顔が売れてしまった。国を裏切る軍人を雇おうと思う組織はそうそういない。よほどの手土産を持って行かなければ、信用を得ることはできん。私の保有する財産だけでは、せいぜい隠居生活ができるくらいだ。私が長年かけて築き上げてきたモノは全て、あの怪盗ゴーストによって破壊された。サーファイ連邦国の海賊たちの元締めを務めてきたこの私にも意地がある。何としてでも、怪盗ゴーストと雌雄を決し、奴を倒す。これは私の男としてのプライドがかかっているのだ。何が何でも、どんな汚い手段を使ってでも、怪盗ゴーストを倒す。私の決意は決して揺らぐことはない。私からお前に言えることは以上だ。」

 「そうかい、兄貴。兄貴がそう決めたんなら、俺は反対はしねえよ。兄貴の人生だ。兄貴の好きなようにやればいい。だけどよ、兄貴、俺はどんなに無様に負けても、馬鹿にされても、最終的に自分を負かした奴らより長生きして、そこそこ幸せに生きられれば、それで良いんじゃないか、そう思うんだ。兄貴、悪いが俺はこの国を去るぜ。俺はどっか別の国に行って、一からまた自分の海賊団を立ち上げてみせるぜ。兄貴には本当に世話になった。感謝しているぜ。無事、生き残ってまた会うことがあったら、そん時は二人で一緒に酒を飲もうぜ。俺が美味い酒をたっぷり奢ってやるからさ。じゃあ、またな、兄貴。」

 コビールはそう言い残すと、ヒラヒラと右手を振りながら、ベトレー宰相の前から去っていった。

 コビールの去っていく姿を見ながら、ベトレー宰相は呟いた。

 「またな、馬鹿な弟よ。やっぱりお前は長生きするよ。素直に敗北を認められるお前が本当に羨ましい。馬鹿だが、立派な男に育ったな、コビール。」

 ベトレー宰相の顔はどこか寂し気で、しかし、どこか達観した表情にも見えるのであった。

 怪盗ゴーストによる犯行九日目。

 早朝、大統領官邸にいた沖水たちの下をベトレー宰相が訪れ、サーファイ島の東側の港に停泊していた海賊船30隻が盗まれたことが、ベトレー宰相より伝えられた。

 「陛下、この度の失態、誠に申し訳ございません。警備に当たっていた部下たちからの証言によりますと、突然、海賊船を係留していたロープが一斉に切れ、それからすぐに、突如として海賊船が煙のように消失した、とのことです。港の入り口付近を、残り20隻の海賊船を配置し、入り口付近を海上から封鎖していましたが、海上から警備していたどの海賊船も、盗まれた海賊船が自分たちを横切り、港を出て行く船は一隻もいなかったと、海賊船から警備を行っていた者たちは口を揃えて証言しております。尚、海賊船が盗まれた手口は、昨日の犯行と同一のモノです。間違いなく、怪盗ゴーストによる犯行だと思われます。海賊船を盗み出した手口については現状、調査中です。報告は以上になります。」

 「おのれぇ、またしても怪盗ゴーストにやられたなり!海賊船を30隻も同時に盗むとは、一体どんな手口を使えば、そんなことができるのでござる?何か、何か仕掛けがあるはずなり!」

 「私は調査がありますので、これにて失礼いたします。」

 ベトレー宰相は一礼すると、沖水たちの前から去った。

 ベトレー宰相から報告を受けた後、沖水たちは大統領執務室に向かった。

 ドアの鍵を開け、大統領執務室の中に入ると、一通の白い封筒が置かれていた。

 沖水が封筒を開けると、中から一通の手紙が出てきた。

 手紙は、怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙であった。

 手紙には、以下の内容が書かれていた。


  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が所有するご自慢の海賊船30隻全て、確かに頂戴いたしました。

   頂戴いたしました海賊船は、この私が後日、ブラックマーケットにて高値で売らせていただきます。

   十分なお金がご用意できました時は、是非お買戻しください。

   それから、気が向いた時は、残り20隻の海賊船と戦艦1隻もいただきにうかがいます。

  なるべく高値で売りたいと考えておりますので、大事に船の保管をお願いいたします。                              

             怪盗ゴーストより


 怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を読み終えると、沖水は手紙を机の上に叩きつけ、それから、スキンヘッドにされた頭を掻きむしった。

 「か、怪盗ゴーストめぇー!ますます調子に乗りおってぇー!必ず、貴様の手口を見破り、この手で捕まえてみせるなり!貴様の猪口才な手口など、この我が輩の頭脳明晰な頭を持ってすれば、謎を解き明かすなど、容易いことなり!今に吠え面をかかせてやるでござる!」

 他の六人の仲間たちも、怪盗ゴーストからの犯行声明文の手紙を読み、その場で考え込んだ。

 「キャプテン、もしかしたら、怪盗ゴーストの奴は、何か手品を使っているんじゃないか?魔法じゃなくて、種も仕掛けもある、僕たちがよく知っている奇術って奴だよ。船が煙のように消えたって言うけど、本当はしばらくの間、消えてはいなかったんじゃないかな?よくテレビで人体消失マジックとかやってたじゃん。ああいうのって、鏡とか、背景と同化する特殊な布を使うとかして、その場では一旦消えたように見せて、実は巧妙に隠されていたって言うことが多いってのを聞いたことがあるよ。怪盗ゴーストは魔法も使うけど、何かしらの手品を犯行に上手く取り入れているんじゃないかな?この異世界じゃ、手品をやっている人ってほとんどいないし、何か特別な魔法でも使ったんじゃないか、そう思い込まされていた可能性はないかな?」

 天神が、沖水に怪盗ゴーストが犯行で手品を使用している可能性を示唆した。

 「なるほど!天神氏、良い着眼点なり!魔術士のジョブを持つ貴殿だからこそ考えられる、逆転の発想なり!確かに、この異世界で手品をやっている人間はほとんど見ないなり!魔法という上位互換があるため、手品に興味を持つ人間はほとんどいないと言えるでござる!グフフフ、ようやく、怪盗ゴーストを打ち破る策が見えてきたなり!怪盗ゴーストはあらかじめ犯行現場に手品の仕掛けを施し、我が輩たちの目を欺いた後、改めて獲物を盗んでいった、そういうわけでござる!ならば、次の犯行現場となりそうな場所を洗い出し、事前に何か手品の仕掛けが施されていないか調べ上げ、その上で奴を迎え撃てばいい、というわけなり!怪盗ゴーストめ、ついに貴様をこの手で捕える時が近づいてきたなり!必ず貴様を捕え、我が輩の槍にて成敗してくれるわ!」

 沖水は怪盗ゴーストを捕える手段がようやく見つかったと思い、笑みを浮かべた。

 他の六人の仲間たちも、これで怪盗ゴーストへの対抗手段が見つかった、そう思った。

 実際は丸っきり見当違いなのであるが。

 消失マジックのような方法を使っているのは確かなのだが、主人公こと怪盗ゴーストと、その仲間たちは、霊能力や妖怪の力、女神の力などの、超常現象を引き起こす力を使って、沖水たちから宝を奪っていったのである。

 決して手品は使用していない。

 だが、その事実に全く気付いていない沖水たち一行であった。

 そして、怪盗ゴーストの犯行が始まってから十日目のこと。

 その日の朝、沖水たちにベトレー宰相から、怪盗ゴーストによる被害報告が伝えられることはなかった。

 首を傾げる沖水たちであったが、大統領執務室に入り、机の上を見ると、一通の白い封筒が置かれていた。

 沖水が封筒の中を開けると、一通の手紙が出てきた。

 それは、いつもの犯行声明文の手紙ではなかった。

 怪盗ゴーストからの予告状であったのだ。

 手紙には、以下のような内容が書かれていた。


  予告状

  拝啓 親愛なる間抜けなキャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が治めるダーク・サーファイ帝国の至宝、ピグミーシャーク島にございます、「女神リリアの黄金像」を本日より三日後の午前12時ちょうどに頂戴すべく参上いたします。

   この私、怪盗ゴーストによる華麗なるショーを是非、海賊団の皆様とともに最後までゆっくりとお楽しみください。

   間抜けで愚かな貴殿と、無能で役立たずなお仲間たちにこの私の犯行を止めることは不可能だとは思いますが、心より貴殿らの健闘を祈っております。                                

             怪盗ゴーストより


 怪盗ゴーストからの予告状を読み終えた途端、沖水は両目を血走らせ、怒り狂い、予告状を机の上に激しく叩きつけると、天井の方を向きながら叫んだ。

 「怪盗ゴーストーーー!この我が輩のことを間抜けと侮辱しよってぇーーー!予告状を送りつけてくるとは調子に乗りおって、絶対に許さんなりーーー!」

 沖水のこれまでにない、尋常ではない激しく怒り狂う姿を見て、他の六人の仲間たちは驚き、たじろいだ。

 気になった他の六人の仲間たちも怪盗ゴーストからの予告状を読み終えると、怪盗ゴーストが自分たちを馬鹿にし、侮辱する内容の予告状を送りつけてきたと知って、六人全員が怪盗ゴーストへの激しい怒りを露わにした。

 「怪盗ゴーストめ、マジでムカつくぜ。この僕たちのことを無能で役立たずのお仲間だとか言いやがって。絶対に捕まえてぶっ殺してやる。」

 吉尾が怪盗ゴーストへの怒りを口にした。

 「予告状まで送りつけてくるとはな。完全に僕たちのことを舐めている。舐めプしてきたことを後悔させてやる。」

 宮丸が怪盗ゴーストに舐められていると言って、怒りを見せた。

 「僕たちの目の前で盗んでみせると、挑戦状を叩きつけてきやがった。これで逃げたら、僕たちはますます世間から笑い者にされる。怪盗ゴーストはさらに調子に乗るに違いない。この挑戦、受けて立つしかない。」

 志比田が、怪盗ゴーストからの犯行予告と言う名の挑戦を受けて立つべきだと主張した。

 「フヘヘヘ。怪盗ゴーストは馬鹿なんだな。犯行場所を予告すれば、僕たちの反魔力で今度こそ捕まることが分かっていないようなんだな。正面からグチャグチャに捻り潰してやろうよ。」

 金田が、不気味な笑みを浮かべながら、怪盗ゴーストを倒すと言った。

 「僕たちやキャプテンのことを馬鹿にした報いを味わわせてやろうよ。予告状なんて出すなんて、調子に乗っている証拠だ。わざわざ犯行場所や日時を敵にご丁寧に教えるなんて、お前こそ間抜けだろって話だ。先回りして罠を張れば、怪盗ゴーストなんていちころさ。ついに奴も年貢の納め時が来たってわけだ。」

 高城が、怪盗ゴーストを捕まえる時が来たと、目には闘志を燃やしながら、笑って言った。

 「僕たちを散々虚仮にしてきた借りをついに返す時が来た。怪盗ゴースト、アイツが何かしらの手品を使っていることは分かっているんだ。犯行現場に先回りして、手品の仕掛けを事前に見つけてぶち壊せば、アイツの犯行は大失敗。そして、慌てふためくアイツを僕たちが捕まれば、僕たちの大勝利。ダーク・ジャスティス・カイザー海賊団は世界最強、最高の海賊団として世界からふたたび注目を浴びるってわけさ。そうだろ、キャプテン?」

 天神が、今も怒り狂う沖水に向かって、怪盗ゴーストを捕まえ、名誉挽回のチャンスが来たと、笑いながら言った。

 天神と他の五人の仲間たちの言葉を聞いて、沖水はようやく落ち着きを取り戻した。

 「はぁ、はぁ、つい、怒りに我を忘れてしまったでござる。怪盗ゴースト、アヤツのペースに呑まれるところであった。皆の言う通りなり。怪盗ゴースト、奴は今回、ミスを犯したなり。予告状を出して、ご丁寧に犯行場所や日時、獲物などについて教えてくるとは、完全に調子に乗っている証拠なり。奴の手口はすでに分かっているなり。どうせ大掛かりな手品の仕掛けを施し、我が輩たちの目の前で「女神リリアの黄金像」とやらを消したように見せかけ、後からこっそり回収する、そんなところなり。怪盗ゴーストめ、この我が輩を間抜けだの愚かだの侮辱した借りは100倍、いや、1,000倍にして返してやるなり。この頭脳明晰な我が輩の戦略で奴の犯行の手口を暴き、今度こそ捕まえてやるでござる。奴の間抜け面を拝むのが楽しみなり。」

 沖水は怪盗ゴーストを捕まえてみせると自信満々に笑みを浮かべた。

 それから、沖水はベトレー宰相を大統領執務室に呼び出し、怪盗ゴーストからの予告状を見せた。

 怪盗ゴーストからの予告状を読み終えると、ベトレー宰相は沖水に言った。

 「怪盗ゴーストからの予告状、確かに拝見いたしました。今回はあらかじめ犯行場所や犯行日時、標的を伝えてくるとは、実に大胆不敵です。犯行を予告してくるからには、敵も相当な自信と用意がある、ということです。今回の怪盗ゴーストの犯行を防ぐことができなければ、陛下や我が国、我が海賊団の地位も名誉もさらに失墜し、破滅を招く引き金になりかねません。しかし、「女神リリアの黄金像」を盗むというのは現実的に不可能な話です。あれを盗むにはとても一日では無理です。私から見れば、無謀な挑戦としか言いようがありません。」

 「ベトレー宰相、無謀な挑戦とはどういう意味なり?そもそも、「女神リリアの黄金像」とはどういったモノなり?我が帝国の至宝と書いてあるなりが?」

 「「女神リリアの黄金像」は、我がダーク・サーファイ帝国の一番東端の無人島、ピグミーシャーク島にある、高さが50mもある、光の女神リリア様の姿を模した、純金製の巨大な黄金像のことです。ピグミーシャーク島は我が国で最も「魔の海域」に近い島であることから、島の周辺を通る船が海のモンスターたちに襲われないよう、女神リリア様への祈りと魔除けが込められた、「女神リリアの黄金像」が建てられたことで有名なのです。観光産業が順調であった頃は、船に乗って「女神リリアの黄金像」をひと目見ようと、ピグミーシャーク島を訪れる観光客もいました。話を戻しますと、「女神リリアの黄金像」は全身純金製でその重量はおよそ数十トンになります。無人島の頂上付近にある上、黄金像の台座は島に固定されています。この巨大な黄金像を島の頂上付近から下ろすだけでも、数日は要します。解体専用の機材がたくさんいりますし、大勢の人員や大型船なども必要になります。故に、いくら怪盗ゴーストでも一日足らずの時間で、しかも衆人環視の状況で盗み出すのは不可能です。おまけに、犯行日時はお昼、日が昇っている間とあります。これは怪盗ゴースト自身にとって、相当不利な状況です。私が無謀な挑戦と言ったのは、そのためです。」

 ベトレー宰相からの説明を聞き、沖水たちは考え込んだ。

 「手品を使って、背景と同化する布を素早く被せて、消えたようにみせかけて、後から黄金像を運び出す、っていう可能性はあり得ないか?ただ、布が風で飛んだりしたら、すぐにバレる可能性は高い。そもそも、黄金像の周りに警備の人間が立っていたら、バレるリスクがさらに増すし、怪盗ゴーストもそのくらいのことは分かっているだろうしな。ううむ?」

 天神が、手品を使っても黄金像を怪盗ゴーストが盗み出すのは難しいのでは、という意見を出した。

 「いや、待てよ。黄金像の台座と島をあらかじめ切り離しておく。そして、黄金像に背景と同化する布を被せた巨大な風船と、重りを付けておく。犯行日時ちょうどに重りを切り離すと、黄金像が空中に浮かんで飛んで行く。後は海上から船で追って、空中を飛ぶ黄金像を素早く回収して逃げる。あるいは、黄金像を見えない仕掛けを施した気球で運びながら逃げる。こんな感じの手口で怪盗ゴーストは盗む気かもしれないぜ?」

 高城が、怪盗ゴーストが風船や気球を使って盗み出すつもりではないか、と意見を出した。

 「高城氏、貴殿の考えは当たっている可能性は十分あるなり。犯行日時までは後三日もあるなり。その間に貴殿の推理したような仕掛けを施すことは不可能とは言えないなり。グフフフ、怪盗ゴーストめ、種さえ分かれば、こっちのものなり。最早我が輩たちの勝利は確定したも同然。ベトレー宰相、これより出陣の用意をするなり。海賊団の構成員全員に招集をかけるなり。我が帝国の全勢力を結集させ、怪盗ゴーストを捕えるなり。」

 「かしこまりました、陛下。すぐに残りの海賊たち全員を集め、怪盗ゴースト捕縛作戦の用意を進めさせます。現在、我々が保有する戦力ですが、海賊団の団員が6,000名弱、海賊船が20隻、大型戦艦1隻となっております。武器弾薬は船に積んであるもののみとなっております。怪盗団の捕縛には十分な戦力がございます。ですが、現在、我が帝国には武器弾薬の予備がございません。なるべく、大砲の使用は最小限度に抑えていただきますと助かります。」

 「分かったなり。まぁ、怪盗団の船など、大した性能ではないであろうが。では、皆の者、出陣の準備をするなり。いざ、参らん、怪盗退治なり!」

 それから、沖水たち率いるダーク・ジャスティス・カイザー海賊団は、約三日かけて馬車を走らせ、サーファイ島の南側の港へ向かうと、残っていた海賊たちと海賊船、戦艦という、海賊団の全戦力を結集させ、怪盗ゴーストを捕まえるため、サーファイ連邦国の最東端の無人島、ピグミーシャーク島に向けて出発した。

 「グフフフ、怪盗ゴーストよ、今日が貴様の命日なり!この我が輩、完全無欠、天下無敵、「槍聖」にして「水の勇者」、禁断の力を操りしメフィストソルジャー、ダーク・ジャスティス・カイザー海賊団の船長、そして、ダーク・サーファイ帝国皇帝、偉大なるキャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様が、貴様の首を天下無双の槍で討ち取ってやるでござる!異世界の覇王たる我が輩を散々、虚仮にしたこと、後悔させてやるなり!」

 ピグミーシャーク島へと向かう戦艦のブリッジの上で、打倒怪盗ゴーストを高らかに宣言する沖水であった。

 他の六人の仲間たちも、自分たちなら怪盗ゴーストを捕まえることができる、自信満々にそう思っていた。

 だが、「槍聖」沖水たち一行が怪盗ゴーストを捕まえるチャンスを手に入れることは決してない。

 魔力を無効化する「反魔力」を操るメフィストソルジャーになったところで、海賊団を率いていたところで、彼らの用意した戦力も計略も全て無意味でしかないのだ。

 怪盗ゴーストが自分たちを破滅へと導くための用意周到な罠であり、自分たちがまんまと罠に嵌められたその事実を彼らは知らないでいた。

 「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈が、怪盗ゴーストとなり、沖水たち一行に絶望を味わわせ、地獄のどん底へと叩き落とす復讐計画を着々と進めているのだ。

 「槍聖」沖水たち一行とベトレー宰相、海賊たちは、主人公によって絶望と恐怖と苦痛をたっぷりと味わわされ、皆殺しにされ破滅する最悪の未来に向かって海を渡っていることに誰も気が付いていなかった。



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