第五話 主人公、怪盗になる、そして、元「槍聖」たちをおちょくる

 僕たち「アウトサイダーズ」が、「水の迷宮」のダンジョン攻略に成功し、聖槍を破壊した日から二日後のこと。

 僕たちは早朝、サーファイ島の北側の、海岸から100mほど離れた海の上に船を泊めた。

 僕たち全員と「海鴉号」には認識阻害幻術をかけているため、海賊たちに気付かれる心配はほとんどない。

 船の操縦を酒吞、デッキでの見張りをエルザに任せて、僕と他のパーティーメンバー五人、それからメルの七人は、メインキャビンで一緒にグレイの作った朝食を食べていた。

 やけに今日の朝食は量が多く、凝ったモノが出てきたが、グレイに何か良いことでもあったのだろうか?

 それに、女性陣がやけにメルのお世話をしたがるのが気になった。

 メルが僕をパパと呼ぶようになり、女性陣に母性が急に芽生えたのであろうか?

 そんなことを考えながら、僕は今後の予定について、みんなに話した。

 「今後の予定についてだけど、まずは元「槍聖」たちの討伐に必要な道具をズパート帝国に買いに行こうと思っている。元「槍聖」たちと海賊団を討伐する作戦については、概ね考えはまとまっているんだ。作戦の内容については、必要な道具の買い出しが終わってから説明する。それと、メルの新しい服も買いに行こうと思う。着替えも無しにメルを今日まで過ごさせてしまったからね。イヴ、マリアンヌ、グレイの三人には、僕とメルと一緒に買い物に付いて来てほしい。船の操縦は酒吞、デッキでの見張り役はエルザに引き続きお願いする。それと、玉藻、鵺の二人には、この後すぐにサーファイ島へ潜入してもらい、元「槍聖」たちや海賊団の動向について調べてほしい。特に重点的に調べてほしいのは、元「槍聖」たちに攫われた教会の孤児院の子供たちの行方、元「槍聖」たち率いる海賊団の財産、金品の保管場所、海賊団の船が置いてある場所、「ドクター・ファウストの魔導書」の保管場所、この四つだ。元「槍聖」たちに見つからないよう、慎重に調査を進めてほしい。午後6時に、冒険者ギルドの前に集合だ。二人の調査結果次第で、元「槍聖」たちの討伐作戦の進行度合いが変わるんだ。イヴ、先に玉藻と鵺の二人をサーファイ島の首都へ転送してほしい。それじゃあ、みんな、よろしく頼むよ。」

 僕はパーティーメンバー全員に指示を出した。

 それから、各自行動を開始した。

 午前9時。

 玉藻と鵺の二人を見送ると、僕、メル、イヴ、グレイ、マリアンヌの五人は、イヴの瞬間移動で、ズパート帝国の帝都へと移動した。

 ズパート帝国の帝都の中心部に着くと、僕たちは商店が立ち並ぶ、帝都の大通りへと歩いて向かった。

 大通りに出ると、僕はマリアンヌに訊ねた。

 「マリアンヌ、お前、手紙を書くのは得意か?」

 「ええっ。王女として公務をこなす際、よく手紙を書いておりましたが。」

 「なら、ちょうどいい。早速だが、10通ほど、手紙を書く紙や封筒、筆、封蝋、スタンプ、インクといった具合に、手紙を書くためのセット一式を買って来てほしい。できれば、高そうな白い上質紙とか、ちょっとお高めの道具を買ってきてほしい。スタンプは花柄とか文字とか、なるべくおしゃれなヤツがいいなぁ。受け取った相手に緊張感を持たせる、高級そうな感じで、お堅めのヤツを買って来てくれ。お前の王女としてのセンスに期待しているからな。」

 「かしこまりました、ジョー様。必ずご期待に添えてみせます。」

 「よろしく頼んだよ。僕たち四人はこの近くの服屋でメルの服を買うことにするよ。買い物が早く終わった時は、この辺の服屋を覗いてみてくれ。それじゃあ、買い物開始だ。」

 僕たち四人はマリアンヌと別れると、メルの新しい着替えの服や下着、靴を買うため、大通りにある、一番大きな服屋を訪ねた。

 グレイとイヴにメルの服を選んでもらっている間、僕は黙って三人の様子を見ながら、元「槍聖」たちの討伐作戦について考えていた。

 二時間後、試着まで終えたメルが、僕の前にやって来た。

 水色のワンピースを着て、足には黄色いリボンの付いた水色のサンダルを履いていた。

 「パパ、どう?メル、似合ってる?」

 「うん、とっても似合ってるよ。メルは水色がよく似合っていて可愛いよ。サンダルもリボンが付いておしゃれだね。」

 「本当?やったー、なの!パパが可愛いって褒めてくれたの!グレイお姉ちゃん、イヴお姉ちゃん、ありがとうなの!」

 「グレイ、イヴ、二人とも洋服選びを手伝ってくれてありがとう。男の僕じゃあ、小さい女の子の服を選ぶ自身がなくてね。本当に助かったよ。」

 「服選びなら、このアタシに任せろって。アタシの女子力を持ってすれば、メルを最高に可愛くコーディネートしてみせるじゃんよ。」

 「妾のセンスの良さを忘れてもらっては困るぞ。可愛さとおしゃれ、ちょっとしたエレガントさまで、全て考慮した上で、メルの好みに合わせた、最高の服を選んだのだ。娘のためなら、妾は一切の努力は惜しまんのだ。」

 「二人とも協力ありがとう。メルの服の代金は僕が支払っておくから。二人はメルを連れて入り口で待っててくれ。」

 僕はそれから、メルの買った服や下着、サンダル、靴などの代金を支払った。

 ワンピースなどの洋服が10着に、下着が上下20セット、サンダルが5足に、ブーツが2足、ヒールの低い靴が3足で、合計金額は100万リリアであった。

 5歳児の成長は早いんだし、ちょっと買い過ぎだし、高すぎないか、と思う僕であったが、メルの満面の笑みで喜ぶ姿を見たら、払わずにはいられなかった。

 貯金はこれでも7億リリアあるのだ。ハズレ依頼をこなし、無駄遣いをせず、コツコツと貯金を貯めてきたのだ。

 娘のため、新しい家族のためを思えば、100万リリアなど痛い出費ではない。

 けど、次回からメルの服を買う時は、もう少し安い服を買ってもらうようにしよう。

 メルの金銭感覚に狂いが生じて、お金を無駄遣いするような人間に育ってほしくはないからだ。

 今後は僕も一緒にメルの服選びをちゃんと付き合うことにしよう、そう思った。

 さて、会計を終え、服屋の入り口へ向かうと、買い物を終えたマリアンヌがすでに合流し、僕を待っていた。

 「お疲れ、マリアンヌ。無事、手紙のセットを買うことができたか?」

 「はい、ジョー様。ご指示どおりの内容の手紙を書くために必要な道具一式を買いそろえました。貴族や王族に出しても問題ないレベルの、高品質の物を購入いたしました。」

 「よし。それならOKだ。これで元「槍聖」たちの討伐に必要な道具は揃った。メルの服も買い終えたし、買い物はこれで完了だ。それじゃあ、「海鴉号」に戻るとしよう。イヴ、「海鴉号」まで僕たちを転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。フフっ、婿殿がどのような作戦を立てたのか、聞くのが楽しみだ。」

 イヴは笑いながら言うと、右手の指をパチンと鳴らした。

 直後、目の前の景色がグニャリと歪んだと思ったら、一瞬で僕たち五人は「海鴉号」のデッキの上に転送された。

 買い物を終えた僕たちはそれから、昼食を食べ、メルとおしゃべりをしたり、遊んだり、昼寝をしたり、仕事をしたりしながら、玉藻と鵺との合流を待った。

 午後6時。

 イヴに玉藻と鵺を迎えに行ってもらうと、瞬間移動でたちまち、玉藻と鵺がイヴに連れられて、「海鴉号」へと帰って来た。

 グレイの作った夕食をみんなで一緒に食べた後、船の操縦を酒吞、デッキでの見張り役をエルザに任せ、僕、玉藻、鵺、グレイ、マリアンヌ、メルの六人は、メインキャビンで元「槍聖」たちの討伐作戦について、作戦会議を始めた。

 「それでは、玉藻、鵺、二人ともそれぞれ調査結果の報告を頼む。」

 「では、まず、わたくしから調査結果をご報告させていただきます。私と鵺の二人は首都に潜入後、元「槍聖」たちの根城であるサーファイ連邦国大統領府へと潜入いたしました。そして、元「槍聖」たちとその手下である海賊たちの会話を盗聴した後、会話から得た情報を元に、二手に分かれ、調査を行いました。元「槍聖」たち率いる海賊団の財産、金品の保管場所ですが、大統領府の二階の大金庫室に、海賊団の盗んだ金品が保管されていることが分かりました。それから、サーファイ連邦国国立銀行の本店の金庫室に、国家予算でもあり、海賊たちがサーファイ連邦国政府から奪った金があることが分かりました。付け加えて、大統領府の二階の一室に、ベトレー宰相と名乗る人物がおりました。このベトレー宰相なる人物ですが、元はサーファイ連邦国海軍情報部の大佐であったとのことで、海賊たちから時折、元締めと呼ばれておりました。恐らく、このベトレー宰相なる人物が国を裏切り、裏で海賊たちと元「槍聖」たち一行を操っている黒幕だと推測いたします。今回の元「槍聖」たち率いる海賊団によるサーファイ連邦国占拠事件において、裏で作戦を手引きしていたのもこの人物ではないかと思われます。尚、国家予算の運用も含め、現在のサーファイ連邦国政府の政治、行政、経済のほぼ全てを、この人物が取り仕切っている様子です。元「槍聖」たちはただ遊び惚け、所詮は飾り物の王に過ぎないことが分かりました。それと、「ドクター・ファウストの魔導書」の保管場所ですが、元「槍聖」が腰のアイテムポーチに入れて、肌身離さず持っているようです。私からの報告は以上になります。」

 「報告ありがとう、玉藻。そうか、政府内に裏切り者がいたのか。確かに、いくら「反魔力」なんて武器を手に入れたとしても、戦争は素人同然の元「槍聖」たちに、サーファイ連邦国海軍と戦争をして勝つほどの作戦を立案する頭はない。ベトレー宰相、ソイツが元「槍聖」たちのブレーン、いや、黒幕というわけだな。国を守るべき軍人が海賊と繋がり、国を裏切るなんて、あまりに酷すぎる。そのベトレー宰相も必ず殺す。生かす価値は全くない外道だ。それじゃあ、鵺、君からも報告を頼む。」

 「玉藻と大統領府で得た情報を元に、私は空からサーファイ島全域を調査した。午前中、元「槍聖」たちは大統領府を出ると、首都の南側の外れにある大きな屋敷へと向かった。空から追跡し、後を追って屋敷の中に潜入すると、ワイヒー・ライアーと名乗る中年の男と、元「槍聖」たちは一緒にいた。何をしているのか探っていると、屋敷には大きな地下室と大きな檻があって、中には大勢の女性たちがいた。教会の孤児院から攫った女の子たちや、闇ギルドで買った女性の奴隷たちだと、連中は言っていた。それから、元「槍聖」たちとワイヒーと言う男は、地下室から何人かの女性を連れ出すと、暗い部屋へと連れていった。そして、女性たちを裸にして、照明とカメラのような木箱の前に立たせてポーズを撮らせた。連中は木箱から銀色の板を取り出すと、それを別室で一枚一枚、丁寧に処理を行った。完成した銀色の板には、女性たちの鮮明な裸体が写っていた。連中は気色悪い笑顔を浮かべ、興奮した様子で、最高のエロ写真ができたと言って喜んでいた。元「槍聖」たちとワイヒーとか言う変態のクズどもは、攫った女の子たちや女性の奴隷たちをモデルに、エロ写真を作っていた。おまけに、ワイヒーとか言う変態は、闇ギルドを通じてエロ写真を世界中に売りさばいていると言い、収益の一部が元「槍聖」たちの手元に入っているらしい。正に害虫以下の変態のクズ。今すぐその場で全員、抹殺してやりたい気分だった。」

 鵺の怒りは凄まじかった。

 話を聞いている他の女性陣の顔も険しく、目は怒りに燃えていた。

 僕も元「槍聖」沖水たちの、攫った女の子たちを使ってエロ写真を作って売り捌ていると聞いて、心が怒りで燃え上がった。

 「沖水の下衆野郎め。孤児院から攫った女の子たちを使ってエロ写真を作って、裏で売りさばいて金儲けをする悪事まで働いていたわけか。ワイヒーとか言う男と、闇ギルドとグルになって、罪もない女性たちを食い物にしていたとは、絶対に許せん。ワイヒーも闇ギルドも徹底的に潰す。沖水たち全員、去勢してから地獄に送ることにしよう。鵺、他に報告することはあるかい?」

 「元「槍聖」たちとワイヒーは、サーファイ島の南の港にある闇ギルドの倉庫に、大量のエロ写真を保管していると言っていた。それも闇ギルドの船に積んで大儲けすると言っていた。それから、サーファイ島の南の港まで飛んで調査したら、海賊船が50隻に、戦艦が1隻泊まっていた。後、島の東側にも、海賊船が30隻泊まっていた。上空から詳しく見ると、サーファイ連邦国の海域を、常時20隻ほどの海賊船が走っていることが分かった。海賊たちが港で戦艦に武器や弾薬を積み込んでいた。武器や弾薬は、サーファイ島の南側にあるサーファイ連邦国海軍の武器庫や弾薬庫から運んできたと言っていた。敵の戦力や警備体制はそんなところ。私からの報告は以上。」

 「報告ありがとう、鵺。敵の戦力は大体、分かった。元「槍聖」たちと海賊たち、連中を支援する悪党どもの動向がよく分かったよ。玉藻、鵺、本当にありがとう。」

 「いえ、丈様のお役に立てたのなら何よりです。」

「丈君のためなら、どんな任務だって必ずやり遂げてみせる。丈君の願いは必ず叶える。」

 「さてと、それじゃあ、みんなにお待ちかねの、元「槍聖」たちと海賊団、その他の悪党どもを討伐する作戦について発表する。作戦名は、ずばり、「怪盗ゴースト作戦」だ。」

 僕が笑いながら作戦名を発表すると、全員が目を丸くして驚いた表情を浮かべてみせた。

 「婿殿、「怪盗ゴースト作戦」とは一体?名前から察するに、つまり我々は泥棒になる、ということか?」

 イヴの問いに、僕は笑いながら答えた。

 「その通りだよ、イヴ。元「槍聖」たち、海賊たちにとって最大の屈辱は何か、それは自分たちの盗んだお宝を盗まれることだと、僕は考えた。海賊にとって盗んだ宝は大事な財産であり、戦利品でもある。海賊としての誇りの象徴だ。それを、泥棒にまんまと盗まれたとあっては、連中の評判やプライドに傷が付く。何度も泥棒に宝を盗まれるようなことになれば、海賊団は混乱し、内部で分裂する動きだって起こりかねない。何より、海賊団の船長で、自称皇帝を名乗る、元来プライドが高い性格の元「槍聖」の沖水は、自分のプライドや看板が傷つけられたと怒り狂うに違いない。奴の受ける精神的ダメージは相当なものになるはずだ。僕たち「アウトサイダーズ」は神出鬼没の怪盗となり、元「槍聖」たち率いる海賊団から、連中の持つ財産、金品、武器、船、魔導書、資金源、捕えられた女性たち、これら全てを盗み出す。そして、元「槍聖」たちを破滅の一歩手前まで追い詰める。これが僕の立てた、元「槍聖」たちを討伐する作戦の内容だ。処刑ショーのフィナーレについてもちゃんと考えてある。ちなみに、怪盗ゴーストの由来だけど、適当に良さそうなものを付けてみた。沖水の、キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザーなんて、長ったらしくて、意味不明な名前を付けるのは嫌だったし、神出鬼没な怪盗をイメージして、ゴーストと名付けてみた。作戦の内容は以上だ。みんなから何か質問はあるかい?」

 僕の説明を聞いて、皆、笑顔を浮かべながら返事をした。

 「中々面白い作戦ではないか、婿殿。この妾が怪盗になる日が来ようとは、思ってもいなかった。クククっ、元「槍聖」たちの間抜け面を見るのが楽しみだ。」

 「私たちが怪盗になって、元「槍聖」たちをとことん追い詰める。さすがは丈様、元「槍聖」たちや海賊たちにとって有効的な作戦を思いつく頭の切れにこの玉藻、感服いたしました。」

 「カッカッカ。俺たちが怪盗になって海賊どもを追い詰めるか。元盗賊の血が騒ぐぜ。」

 「怪盗になって海賊から宝を盗む。調子に乗っている元「槍聖」たちと海賊どもの鼻っ柱をへし折る、ナイスアイディア。あの害虫どもをじわじわと嬲り殺すのも一興。」

 「我らが怪盗の真似事をする日が来ようとは。しかし、人食い海賊団を討伐するために必要とあらば、泥棒の一つや二つ、やってみせようではないか。」

 「怪盗をやるなんて面白そうじゃんよ。元「槍聖」どもからアタシらでお宝を根こそぎ奪ってやろうぜ。」

 「世界を滅亡の危機から救うためとはいえ、勇者が泥棒の真似事をするのはいかがなものかと思いますが、致し方ありません。世界平和のためです。私も怪盗になって、元「槍聖」たちの討伐を支援いたします。」

 「パパ、怪盗になるの!?パパならきっと、カッコいい怪盗になるの!頑張って、なの!」

 イヴ、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、マリアンヌ、メルが、それぞれ意気込みや考えを述べた。

 「質問はなし。みんな、賛成ということだね。それでは早速、本日から「怪盗ゴースト作戦」を開始する。まず、最初の獲物は、ワイヒーの屋敷に捕われている教会の孤児院の子供たち、それから奴隷の女性たちだ。彼女たち全員を救出する。作戦のメンバーは、僕、鵺、イヴ、マリアンヌ、の四人だ。作戦決行は今夜12時ちょうどだ。メンバーは準備をしておいてくれ。」

 「「「「了解!」」」」

 「さぁ、怪盗ゴーストの華麗なる泥棒ショーを始めよう!沖水、怪盗ゴーストに恐怖するがいい!」

 僕は、怪盗ゴーストによって元「槍聖」たちが破滅へと追い詰められる光景を想像し、その場で笑みを浮かべるのであった。

 午後12時。

 僕、鵺、イヴの三人は、「海鴉号」からイヴの瞬間移動を使って、サーファイ島の首都へとやって来た。

 認識阻害幻術を使って姿を消した僕たち三人は、首都の南の外れにある、ワイヒー・ライアーと言う男の屋敷へとやって来た。

 外見は、近くにあるサーファイ島の高床式の建物と大差ないが、よく見ると、床下の奥に、レンガで覆われた大きな部屋らしきスペースがあるのが分かった。

 「鵺、この屋敷の地下、床下に見えるレンガ造りのスペースが、孤児院から攫われた子供たちや奴隷の女性たちがいる場所で間違いないか?」

 「間違いない。この屋敷の地下は、女性たちを監禁している部屋だけ。」

 「イヴ、君の千里眼にはどう見える?」

 「鵺の言う通りだ。メルと同じくらいの年頃から、成熟した女性まで、大勢の女たちが檻に入れられ、監禁されている。この屋敷の主は、反吐が出る外道だということが分かる。」

 「よし、では、イヴ、今すぐ僕たちを地下室に転送してくれ。」

 「了解した、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間、目の前の景色がグニャリと歪んだ後、僕たちは屋敷の地下室の中へと転送されていた。

 地下室の中を見ると、檻の中に入れられた、たくさんの女性たちの姿が目に入った。

 女性たちの年齢は、下は5歳くらい、上は30代前半くらいで、いずれも容姿が優れた女性ばかりであった。

 健康状態は一見悪くはなさそうだが、起きている女性たちの表情は暗い。

 首輪や手錠、足枷などが嵌められている様子ではない。

 「イヴ、この檻に何か特殊な仕掛けは施されていないか?警報装置が作動するとか、電流が流れるとか?女性たちにも何か、逃亡防止用の仕掛けは施されていないか?」

 「ふむ。見たところ、この折には何ら特殊な仕掛けは施されていないようだ。女たちだが、全員、首に魔法がかけられている。所有者に逆らおうとすると、首が絞まって、息が出来なくなる、という仕掛けだ。呪いの魔法の類だ。恐らく、闇ギルドで奴隷たちに使用されているものに違いない。」

 「なるほど。脱走防止や口封じのため、後、商品に傷が付かないように、というわけか。人間をただの物扱いするとは、絶対に許さん。元「槍聖」たちもワイヒーも闇ギルドも全員、ぶっ殺してやる。それじゃあ、女性たちの救出開始だ。認識阻害幻術!」

 僕は右手を突き出すと、認識阻害幻術を発動し、檻にいる女性たち全員に、認識阻害幻術をかけた。

 「イヴ、僕たちと檻にいる女性全員を一旦、屋敷の外へと転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、僕たち三人と、檻に監禁されていた女性たちは全員、ワイヒー氏の屋敷の外へと転送された。

 突然、屋敷の外に転送され、女性たちは全員、皆、驚き、困惑している。

 「驚かせてしまってすみません、皆さん。僕は宮古野 丈。冒険者です。「アウトサイダーズ」という冒険者パーティーのリーダーを務めております。皆さんを、元「槍聖」たちとワイヒー・ライアーから救出するため、まいりました。ここは皆さんが監禁されていた屋敷の外です。皆さんの姿や声は僕たち以外の人間には分かりませんので安心してください。それと、皆さんの首には逃亡防止用の魔法がかけられていますが、僕の方ですぐに解除します。どうか、僕に首の方を見せていただけますか?」

 僕の説明を聞き、女性たちは全員、声を上げて喜んだ。

 20代前半くらいの女性が僕の方に駆け寄ってやって来た。

 「助けていただき、ありがとうございます。私たちは闇ギルドに誘拐された者や借金のかたに売られた者、それと、海賊たちに攫われた子供たちなのです。奴隷にさせられ、飽きたら殺される、そんなことを思う辛い毎日でした。本当にありがとうございます。」

 女性は涙を流しながら、僕に語った。

 「もう大丈夫ですから。首にかけられた魔法を解除したら、皆さんを安全な場所までお送りいたします。それでは、首を見せてください。」

 僕は、霊能力のエネルギーを解放すると、右手に霊能力のエネルギーを集中させた。

 それから、右手で女性たちの首に触れ、女性たちの首にかけられた呪いの魔法を解呪して回った。

 救出した女性たちは、孤児院から攫われた女の子たち20人、ワイヒーが闇ギルドで購入した奴隷の女性たち50人、合計70人であった。

 攫われた孤児院の子供たちの中で、最年少の女の子は5歳で、沖水たちやワイヒーに裸の写真を撮られ、さらに体をいやらしく触られたと聞き、僕も鵺もイヴも、卑劣で変態で下衆野郎の連中に対する怒りが燃え上がった。

 「イヴ、すまないが、ここにいる全員を今すぐ、ズパート帝国の帝都中央病院の前まで転送してほしい。ナディア先生に、彼女たちの保護と治療を頼もうと思う。」

 「分かった、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、目の前の景色がグニャリと歪んだ後、僕たちはズパート帝国の帝都中央病院の前へと転送されていた。

 救出した女性たちを連れながら、僕は帝都中央病院の中へと入り、一階の受付の職員に、ナディア先生を呼んでもらった。

 10分後、白衣を着たナディア先生が僕たちの前に慌ててやって来た。

 「お久しぶりです、ナディア先生。夜分にすみません。実はお願いがあって来ました。」

 「ジョーさん、あなた、サーファイ連邦国にいるはずじゃないの!?お久しぶりって、別れてからまだ一週間しか経たないんだけど!?まぁ、今はそんなことより、私にお願いって何かしら?後ろにズラッとたくさんの女性がいるようだけど。」

 「ええっ、後ろにいるこの方たちは、サーファイ連邦国で海賊たちに攫われた女性や、闇ギルドから海賊たちに売られた奴隷の女性なんです。彼女たちはエロ写真と呼ばれる、女性の裸を鮮明に写した最新の違法ポルノを売るために、海賊たちに監禁されていた被害者なんです。たった今、彼女たちを海賊たちから救出してきたところなんです。それで、先生にお願いがありまして、海賊団の討伐が終わるまでの間、彼女たちを先生に保護していただけないかと。それと、彼女たちは海賊たちより、裸の写真を撮られるだの、体を触られるなど、心と体に傷を負っています。どうか、先生とこの病院で彼女たちの治療をお願いできますか?」

 「事情は理解したわ。患者とあっては見過ごせないわね。良いわ。彼女たちの治療と面倒は私が預かるわ。」

 「ありがとうございます、ナディア先生。」

 「全く、次来る時は事前に連絡ぐらいしてちょうだい。私だって忙しいんだから。」

 「アハハハ。すみません。次からは気を付けます。後、彼女たちの存在は内密にお願いします。特に、サーファイ連邦国の連中、今はダーク・サーファイ帝国と名乗っていますが、彼らには絶対に気付かれないよう、お願いします。実は僕、今、怪盗をやっているものでして。彼女たちは「怪盗ゴースト」によって盗まれた、そういうことになっていますので、そこのところ、よろしくお願いしますね。」

 「怪盗ゴースト!?ジョーさん、あなた、今度は勇者だけじゃなく、怪盗まで始めたわけ?何で怪盗なんてやっているのよ?」

 「全ては元「槍聖」たち率いる海賊団を討伐するための作戦です。まぁ、見ていてください。2週間以内に、この僕「怪盗ゴースト」が、海賊団を討伐してみせますから。それじゃあ、僕はこれで失礼しますね。彼女たちのこと、よろしくお願いします。イヴ、「海鴉号」まで転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、主人公たち三人は、ナディア先生の前から一瞬で姿を消した。

 「き、消えた!?相変わらず無茶苦茶な人たちね、ホント。この前この国を出たと思ったら、すぐ戻ってきて、一瞬でまたどっかに行くなんて。怪盗ゴーストねぇ。ジョーさんのやることはいつも常識外れというか、奇天烈というか。いつもみたいにやり過ぎないことを祈るばかりだわ。」

 主人公の突然の訪問と報告に、少々不安を抱く、ナディア先生であった。

 監禁されていた女性たちの救出作戦を無事に終えた僕たち三人は、「海鴉号」へと戻った。

 そして、メインキャビンへと入ると、待機していたマリアンヌに声をかけた。

 「ただいま、マリアンヌ。ワイヒー邸に捕らわれていた女性たちの救出は無事、成功した。ズパート帝国の帝都中央病院で保護してもらったから、もう大丈夫だ。」

 「お帰りなさいませ、皆様。作戦成功、おめでとうございます。それで、ジョー様、私は手紙を書けばよろしいのですね?」

 「その通りだ。封筒に宛名は不要だ。手紙の文章の内容は、これから僕が言う通りに書いてくれ。」

 僕はマリアンヌに、次のような内容の手紙を書かせた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿とワイヒー・ライアー氏が所有する、 

ワイヒー・ライアー氏の御屋敷の地下室におられた見目麗しい女性たち全員、確かに頂戴いたしました。                              

              怪盗ゴーストより


 白い紙に達筆な文字で、僕の言った内容通りにマリアンヌは手紙を書くと、白い封筒に赤い封蝋を垂らし、それから、薔薇の印章が付いたシーリングスタンプを押して封をした。

 手紙の作成を終えたマリアンヌが、僕に手紙の入った白い封筒を渡した。

 「このような感じでよろしかったでしょうか?」

 「ああっ。完璧だ。ありがとう、マリアンヌ。犯行声明文の手紙としては文句なしの出来栄えだ。沖水の奴、きっと慌てふためいて、怒り狂うに違いない。さてと、イヴ、この手紙を大統領執務室の机の上に転送してくれ。これで第一の作戦の仕上げは完了だ。」

 「フフっ。了解だ、婿殿。明日の朝にでも、千里眼で連中の間抜け面を拝むとしよう。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、犯行声明文の手紙は、大統領執務室へと転送された。

 「丈君の犯行は完璧。怪盗ゴーストの完全犯罪に、元「槍聖」たちのクズどもは恐怖すること間違いなし。」

 「鵺も協力ありがとう。さぁ、どんどん連中のお宝を盗むとしよう。」

 僕、鵺、イヴ、マリアンヌの四人は、作戦成功を喜び、笑った。

 作戦二日目。

 午後12時。

 僕、玉藻、酒吞、イヴの三人は、首都の大統領府前へとやって来た。

 今回の獲物は、大統領府の大金庫室に保管されているお宝である。

 「さて、今回の怪盗ゴーストの獲物は、大統領府の二階の大金庫室にある海賊団のお宝だ。今朝、犯行声明文を受け取って、元「槍聖」たちや海賊たちも当然、警戒を強めているに違いない。油断せず、気を引き締めて盗みにかかろう。玉藻、大金庫室まで案内を頼む。」

 「かしこまりました、丈様。」

 僕たち四人は、玉藻に案内されながら、大統領府へと潜入した。

 大統領府の周囲は、大勢の海賊たちが、昨日の怪盗ゴーストによる犯行を受けて、警備を行っていた。

 敷地内も海賊たちが武器を持ちながら、警備のため、巡回していた。

 大統領執務室の中にどこからともなく、何の手掛かりも残さず、犯行声明文の手紙が投げ込まれていたら、警備を厳重に固めるのは当然ではある。

 しかし、認識阻害幻術を使って、姿形、声、音、体温、匂い、影など、自身に関するあらゆる認識情報を消して、透明人間のごとく完全に姿を消している僕たちには、どんな厳重警戒な警戒網も無意味なのである。

 僕たちは大統領府の正面入り口の門から堂々と、警備する海賊たちの横を通り抜けて、大統領府の敷地内へと入った。

 それから、大統領府の中へと易々と潜入したのであった。

 玉藻の案内を受け、僕たちは階段を上がり、二階にある大金庫室の前へとやって来た。

 二階の大金庫室のドアの前には、海賊の男二人が警備員として立っていた。

 二階の廊下には、他に海賊の姿を見えなかった。

 「この部屋が大金庫室なんだな、玉藻?」

 「左様でございます、丈様。このドアの奥に、海賊たちの宝を保管した大金庫がございます。ドアを開けた大金庫の前にも、さらに警備を担当する海賊がいる、とのことです。」

 「了解だ。なら、まずは目の前の海賊二人を始末するとしよう。音を立てずに、確実に始末するとしよう。酒吞、協力を頼む。」

 「了解、丈。久しぶりに盗賊の血が騒ぐぜ。」

 僕と酒吞はそれぞれ、海賊二人の前に立った。

 僕は全身から一気に霊能力を解放した。

 僕は霊能力のエネルギーを圧縮し、普段の青白い色の霊能力のエネルギーから、赤い色の霊能力のエネルギーを変換させた。

 両腕全体に、赤い霊能力のエネルギーを僕は纏った。

 「鬼拳!」

 赤い霊能力のエネルギーを両腕に纏った僕は、ゆっくりと海賊の顔に両手を伸ばすと、左手で一気に海賊の口と鼻をふさいで壁に抑えつけ、右手で海賊の頭をアイアンクローのように鷲掴みにすると、海賊の頭を左回りに思いっきり捻った。

 ゴキっ、という小さな音を立てながら、海賊は顔を、正面の僕から見て右側を向くように首の骨を折られ、その場で静かに息絶えた。

 酒吞も僕と同じように、左手で海賊の口と鼻を塞ぐと、海賊の頭を鷲掴みにして体ごと持ち上げると、そのまま海賊の頭を左回りに思いっきり捻り、首の骨を折って殺した。

 酒吞が海賊の死体の頭を右手だけで持ち上げながら、僕に訊ねてきた。

 「丈、鬼の力のコントロール、大分上手くなったじゃねえか。で、コイツらの死体だが、どうするよ?」

 「この二人の死体はとりあえず、僕のアイテムポーチに入れておく。死体は後で玉藻に処理を頼むとするよ。イヴ、金庫の扉の前まで僕たちを転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、僕たち四人は金庫の扉の前へと転送された。

 大きな金属製の部屋のような金庫が、僕たちの目の前に現れた。

 大きな金属製の丸い蓋のような扉の前に、警備の海賊二人が立っていた。

 「要領はさっきと一緒だ。酒吞、コイツらの始末を手伝ってくれ。」

 「了解だぜ、丈。」

 僕と酒吞は、大金庫の扉の前で警備している海賊二人の顔と鼻を塞ぎ、首の骨を折って静かに殺害した。

 海賊たちの死体をアイテムポーチに収納すると、僕はイヴに訊ねた。

 「イヴ、念のため、千里眼でこの金庫の構造を調べてほしい。入った瞬間、警報が鳴ったり、床に電流が流れたり、そんな侵入者対策の仕掛けが施されてはいないか?」

 「ふむ。そうだな。特にこの金庫に婿殿の言うような仕掛けは施されていないようだ。厚さ30cmほどの頑丈な金属の箱、と言ったところだな。強いて言えば、ダイヤル式で10桁の暗証番号を知らないと扉が開かない仕掛けらしい。金庫の中には、大統領府の金庫には不釣り合いな高価な美術品が入っている。恐らく、海賊たちの盗んだ宝だろう。海賊たちめ、この金庫を破ることはできたのに、大統領執務室の秘密の脱出口には気付かんとは、リーダーがあのクソガキの元「槍聖」たちだからか?」

 「侵入者対策の仕掛けがないなら、問題はない。この金庫の暗証番号を調べたのは恐らく、裏切り者のベトレー宰相とか言う奴だろうさ。まぁ、いくら海軍の元情報部の大佐でも、国の超最高機密である大統領執務室の秘密の脱出口についての情報は簡単には入手できなかった、ということだろう。後、沖水たちがあの部屋を占拠して自分たち以外の人間が入るのを拒んで、いまだに調べさせないでいることも要因だろうが。とにかく、今は金庫のお宝を盗むことにしよう。イヴ、金庫内まで転送を頼む。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、僕たち四人は金庫の内部へと転送された。

 僕が全身に纏っている赤い霊能力のエネルギーにだけ、認識阻害幻術を解除すると、赤い光が暗い金庫内を照らした。

 金庫内にはいくつかの棚があり、棚には大量の現金の札束が置かれていた。

 それから、床には、宝石やアクセサリー、高価な壺や置物、絵画、金の延べ棒などが無造作に置かれていた。

 「中身は、現金と宝石類、高価な美術品といった具合か。アイテムポーチに全部収納できなくもないが、時間がかかるし、後で取り出して仕分けるのも面倒だ。イヴ、すまないけど、ここにあるお宝全部、大統領府の秘密の脱出用の隠し通路に転送してくれないか?どうせ、沖水たちも海賊たちも例の隠し通路の存在に気付くことはないはずだ。それに、盗まれたお宝が壁一枚隔てた、自分たちのすぐ目と鼻の先に隠されていることに気付かない連中の滑稽な姿を拝むのも一興だとは思わないか?」

 「クククっ。確かにそれは面白そうだ。目の前に盗まれたお宝があるのに気付かない連中の間抜けな姿を楽しむのは、中々面白そうだ。よし、では、すぐに転送しよう。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、僕たちの目の前にあった金庫内のお宝は全て消えてしまい、一瞬で大統領府の秘密の脱出用の隠し通路に転送された。

 「では、撤収することにしよう。イヴ、「海鴉号」まで転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴの瞬間移動で僕たち四人は、「海鴉号」まで戻った。

 僕はアイテムポーチから、始末した海賊四人の死体を取り出すと、玉藻に指示した。

 「玉藻、死体の処理を頼む。君の毒で肉も骨も完全に溶かしてくれ。海賊たちの所持品は念のため、「海鴉号」のロッカーにでも隠しておいてくれ。万が一、他の海賊たちに発見されたら面倒だ。死んだコイツらには、怪盗ゴーストの共犯になってもらう、そういう筋書きだから。」

 「了解しました、丈様。ご指示どおりに処理いたします。」

 僕は玉藻に指示すると、酒吞、イヴとともにメインキャビンへと向かった。

 メインキャビンには、マリアンヌがいて、手紙を書く用意をしながら僕たちを出迎えた。

 「お疲れ様です、ジョー様。作戦はどうでしたか?」

 「ただいま、マリアンヌ。作戦は無事、成功した。大統領府の金庫にあったお宝は僕たちの手で全部、盗み出した。明日の朝、元「槍聖」たちが金庫を覗いた時、金庫は空っぽというわけだ。連中の慌てふためく姿が目に浮かぶ。早速だが、これから僕の言う通りに手紙を書いてくれ。」

 「かしこまりました、ジョー様。」

 僕はマリアンヌに、次のような内容の手紙を書かせた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が所有する、大統領府の大金庫室に保 

管されていた財宝全て、確かに頂戴いたしました。

   私の部下四人の華麗なる変装と盗みをお見せできず、大変残念です。                            

              怪盗ゴーストより


 白い紙に達筆な文字で、僕の言った内容通りにマリアンヌは手紙を書くと、白い封筒に赤い封蝋を垂らし、それから、薔薇の印章が付いたシーリングスタンプを押して封をした。

 手紙の作成を終えたマリアンヌが、僕に手紙の入った白い封筒を渡した。

 「このような感じでよろしかったでしょうか?」

 「ああっ、完璧だ。沖水たちめ、自分の部下たちの中に裏切り者が隠れていたと勘違いして、動揺しまくることだろうな。」

 「さすがはジョーだぜ。人に裏切られる心の痛みをよく知っているお前だからこそ考えられる、悪党への最高最悪の報復だぜ。俺が盗賊だった時にこれをされたら、たまったもんじゃないぜ。」

 「裏切りは何よりも重い罪だ。アイツらはクラスメイトで無実の僕を自分たちの都合であっさりと裏切り、処刑しようとした。人に裏切られる苦しみを、痛みをアイツらの脳みそにたっぷりと刻んでやるとしよう。疑心暗鬼になって、怒り狂うがいい、クズども。それじゃあ、仕上げだ。イヴ、この手紙を大統領執務室の机の上に転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。婿殿の怨念がこもったこの手紙、確かに届けよう。」

 僕はイヴに手紙を手渡した。

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、イヴの左手にあった手紙は、大統領執務室の机の上へと転送された。

 「これで、第二の作戦は完了だ。みんな、お疲れ様。怪盗ゴーストはいつ、どこからでも、お前たちのお宝を狙っているぞ、沖水。」

 僕は第二の作戦が無事成功し、ニヤリと笑みを浮かべた。

 作戦三日目。

 午後12時。

 僕、玉藻、エルザ、イヴの四人は、玉藻の案内で、首都の中央の大通りにある、サーファイ連邦国国立銀行本店の前へとやって来た。

 目的は、サーファイ連邦国国立銀行本店の金庫室に保管してある、国家予算10兆リリアである。

 サーファイ連邦国には珍しい四階階建ての白い鉄筋コンクリート造りのビルで、一階部分は四本の太い柱だけで、建物を支えていると同時に、高床式になっている。

 銀行の周囲は、警備する海賊たちに囲まれ、鼠一匹通さない、といった感じの厳重な警戒態勢が敷いてあった。

 二階へと続く階段にも、海賊たちが立って、部外者が通れないよう、階段を塞いでいる。

 二階の銀行の入り口には、シャッターが下ろされている。

 僕は霊能力を解放すると、両目に霊能力のエネルギーを集中させ、「霊視」を発動すると、銀行内を透視した。

 銀行内を透視すると、二階から四階まで、海賊たちと警備員の男たちが、銀行内を巡回していた。

 「昨日の大統領府の大金庫室が襲撃されたのを受けて、連中も警備を強化してきたか。入り口は塞がれ、銀行の中も上から下まで、海賊たちと警備員が巡回して警備している。肝心の金庫室は、三階の中央部分の、分厚い金属の壁に覆われた部屋か。金庫の扉の前に、海賊が10人立っている。まぁ、いくら人数を揃えたところで僕たちの前では無意味だけどな。イヴ、ここから三階の金庫室の仕掛けを調べることはできるかい?」

 「もちろんだ、婿殿。妾の千里眼にかかれば、遠隔から金庫の構造を調べるなど、容易いことだ。ふむ。なるほど。金庫室の構造だが、まず、金庫室の扉は、銀行の関係者以外の人間が扉に触れただけで警報が鳴る仕組みだ。扉の鍵を開けられるのも、扉の魔法の鍵に登録された人間のみ、という仕組みだ。さらに、金庫室内に入れるのも、魔法で登録された人間のみで、部外者が金庫内の床や壁、棚などに触れただけで警報が鳴るという仕組みだ。さすがは国立銀行の金庫室と言うだけのことはある。」

 「やっぱり国立銀行とだけあって、セキュリティーが厳重だな。しっかし、銀行を襲うはずの海賊が、銀行の警備員と一緒に銀行の金庫を守るなんて、実にシュールな光景だ。おっと、話が脱線したな。魔法で登録された人間しか入ることのできない金庫か。部外者が迂闊に立ち入ると警報が鳴る仕組みか。壁や床、棚にまで警報装置が仕掛けられているとは厄介だなぁ。金庫室の棚に置いてある大量の現金、国家予算の10兆リリスが盗まれれば、元「槍聖」たち率いる海賊団に大ダメージを与えること間違いなしだ。イヴ、ここから金庫室を透視しながら、現金を大統領府の秘密の隠し通路へ転送することはできるかい?」

 「不可能ではないが、千里眼で見ながらだと、多少時間がかかる。取り残しがあってもいかんしな。直接この目で確認しながらの方が確実だ、婿殿。」

 「そうか。なら、潜入するしかないな。僕に考えがある。イヴ、銀行の三階まで僕たちを転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴがパチンと指をパチンと鳴らすと、僕たちは銀行の三階のフロア内へと転送された。

 僕たち四人は、奥に金庫室のある部屋の入り口前へとやって来た。

 入り口のドアには、海賊が二人、立って警備していた。

 ドアノブには鍵穴があって、鍵穴を覗くと、金庫室の扉と、金庫室の扉の前に立って警備する10人の海賊の姿が見えた。

 ドアから離れると、僕は玉藻に指示した。

 「玉藻、お願いがあるんだ。この鍵穴から、催眠ガスの効果がある毒の煙を流し込んで、中にいる海賊たちを眠らせてほしい。入り口の二人は、僕とエルザで始末する。エルザ、左に立っている奴の喉を搔っ切って始末してくれ。僕は右に立っている奴を始末する。なるべく、音を立てずにね。」

 「了解した、ジョー殿。」

 僕は赤い霊能力のエネルギーを両腕に纏うと、「鬼拳」を発動し、右に立っている海賊の口と鼻を左手で塞ぎ、右手で海賊の頭を掴むと、海賊の首を捻り、そのまま首の骨を折って静かに殺した。

 エルザは、左に立つ海賊の正面に立つなり、素早く右手に持つロングソードの刃を海賊の喉元に押し付けると、一気に横に引き抜き、喉元を搔っ切って、海賊に叫び声を上げさせることなく、あっという間に殺した。

 それから、玉藻は無色無臭の催眠効果のある毒の煙を少しづつ、ドアノブの鍵穴から流し込んだ。玉藻の毒の煙を吸って、金庫室の前にいた、10人の海賊たちは一斉に眠り込んだ。

 僕は、床の血をタオルでふき取ると、エルザと玉藻に声をかけた。

 「エルザ、海賊の始末、お疲れ様。玉藻も毒の煙をありがとう。玉藻、毒の煙は何分くらいで消えるかな?煙が消えた時点で、金庫室の前まで移動しようと思うんだけど?」

 「後三分ほどで、室内に充満した煙は自然に消えます。三分後に問題なく、潜入可能です。」

 「了解だ。お次は、分身幻術!」

 僕は床に転がる海賊二人の死体を見ながら、部屋のドアの前に、殺した海賊二人が生きて見張りをしているような姿の、海賊たちの分身を、分身幻術で作ってみせた。

 分身を作ると、僕は殺した海賊二人の死体をアイテムポーチにしまった。

 三分後、イヴの瞬間移動を使って、僕たちは金庫室の扉の前へとやって来た。

 「玉藻、扉の前で眠っている海賊たちは何時間くらいで目を覚ますんだ?」

 「はい。六時間ほどで目を覚まします。」

 「六時間か。それだけあれば十分だ。玉藻、この建物全体に認識阻害幻術をかけてくれ。ただし、認識阻害幻術で消すのは、この建物全体の内側から発する音だけだ。僕がこれから、金庫室にかけられている登録認証と警報装置の魔法を破壊する。頼むよ。」

 「かしこまりました、丈様。」

 玉藻が黒い鉄扇を右手に構え、顔の前でサッと開くと、頭上へと掲げた。

 直後、鉄扇の先から、薄い透明な膜のようなモノが現れ、銀行の建物の内側である床や壁、柱、そして、金庫室をそっと覆った。

 僕はその場で勢いよくジャンプしたが、着地しても足音は全く聞こえなかった。

 「上出来だ。後は金庫室の仕掛けを破るだけだ。」

 僕はそう言うと、霊能力のエネルギーを集中させ、死の呪いの効果を持つ、黒い霊能力のエネルギーへと変換した。

 あらゆる魔法を無効化できる効果も持つ黒い霊能力のエネルギーを右手に纏うと、僕は右手で金庫室の扉の取っ手へと触れた。

 僕が金庫室の扉の取っ手へとしばらく触れ、黒い霊能力のエネルギーを1分ほど流し込んだ後、僕は金庫室の扉の取っ手を引いてみた。

 すると、金庫室の扉がすんなりと開いた。

 金庫室の扉を開けると、僕は恐る恐る右足を、金庫室の床へと付けると、警報の音は全く聞こえてこなかった。

 「よし、登録認証と警報装置の魔法の破壊に成功だ。みんな、僕の後に続いて中に入ってくれ。扉は開けたままで良い。」

 僕が金庫室に入ったのを合図に、他の三人が金庫室の中へと入った。

 金庫室の中には巨大な横長の棚が20個ほど並んでいて、札束の入ったジュラルミンケースが棚の上にズラーっと並んでいた。

 「それじゃあ、現金10兆リリアをいただくとしようか。エルザ、ケースを棚から下ろして一ヵ所に集めるのを手伝ってくれ。」

 「了解だ、ジョー殿。」

 僕とエルザは、現金の入ったジュラルミンケースを次々と棚から下ろすと、一ヵ所に集めた。

 「ふぅ、お疲れ、エルザ。これで金庫室の現金は全部だ。イヴ、いつものように、この現金の入ったジュラルミンケースを全部、大統領府の秘密の隠し通路へ転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。力仕事、お疲れであった。」

 イヴはそう言うと、右手の指をパチンと鳴らした。

 すると、一ヵ所に集められた、サーファイ連邦国の国家予算、10兆リリアの入った大量のジュラルミンケースが、一瞬で大統領府の秘密の隠し通路へと転送された。

 「よし、それじゃあ、撤収するとしよう。イヴ、「海鴉号」まで転送を頼む。」

 僕たちはサーファイ連邦国国立銀行から、「海鴉号」まで瞬間移動で転送された。

 僕は海賊二人の死体をアイテムポーチから取り出すと、玉藻に死体の処理を頼んだ。

 メインキャビンへ入ると、僕、エルザ、イヴをマリアンヌが出迎えた。

 「皆様、お疲れ様です。作戦は今回も無事、上手くゆかれましたか?」

 「ただいま、マリアンヌ。国立銀行の金庫室から国家予算の10兆リリア、全て盗むことに成功した。少々、セキュリティーが厳しかったが、問題なく突破できたよ。それじゃあ、これから僕の言う通りに手紙を書いてくれ。」

 「かしこまりました、ジョー様。フフっ、手紙を書くのがこんなに楽しいのは初めてです。」

 僕はマリアンヌに、次のような内容の手紙を書かせた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が所有する、サーファイ連邦国国立銀行本店の金庫室に保管されていた現金10兆リリア、確かに全額頂戴いたしました。

   私と部下の華麗なる変装と盗みを直接お見 

せできず、ふたたび大変残念な思いです。                            

              怪盗ゴーストより


 白い紙に達筆な文字で、僕の言った内容通りにマリアンヌは手紙を書くと、白い封筒に赤い封蝋を垂らし、それから、薔薇の印章が付いたシーリングスタンプを押して封をした。

 手紙の作成を終えたマリアンヌが、僕に手紙の入った白い封筒を渡した。

 「このような感じでいかがでしょうか?」

 「ハハハ!上出来だ!金庫室前の警備を担当していた部下二人が、怪盗ゴーストとその手下にいつの間にかすり替わっていて、たった二人に国立銀行の金庫室を破られたと勘違いして、沖水の奴、ますます怒り狂うに違いない。おまけに、国家予算の10兆リリア全額を奪われたとあっては、連中は国を運営するどころか、生活にさえ不自由するはずだ。金を持たない奴に、金に汚い海賊たちを束ねることはできない。海賊団の内部分裂がさらに加速するに違いない。」

 「怪盗をやるというのも実に楽しい経験だった。怪盗ゴーストが義賊として世界にその名を広めるのも時間の問題であろう。また我を作戦に誘ってくれ、ジョー殿。」

 「了解、エルザ。怪盗ゴーストの盗みはまだまだ続くからね。期待して待っててくれ。イヴ、この手紙をいつものように大統領執務室の机の上に転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。元「槍聖」たちは金を全て失ったと知り、慌てふためくに違いない。連中の馬鹿面をまた、千里眼で見て楽しむとしよう。」

 僕はイヴに手紙を手渡すと、イヴは右手の指をパチンと鳴らした。

 犯行声明文の手紙は大統領執務室へと転送され、第三の作戦は無事、成功に終わった。

 「沖水、これでお前は一文無しだ。さてさて、金のないお前に付いてきてくれる部下が何人いるかな?怪盗ゴーストはお前から全てを奪う。楽しみに待っていろ。」

 僕は第三の作戦が成功し、笑った。

 作戦四日目。

 午後12時。

 僕、玉藻、イヴの三人は、首都の大統領府前へとやって来た。

 三日連続で怪盗ゴーストによる、元「槍聖」たち率いる海賊団に対する犯行が続き、おまけにいつの間にか大統領執務室の机の上に、犯行声明文の手紙が置かれているという、海賊団の警戒体制が連続して突破される非常事態が続いている。

 そのためか、怪盗ゴーストの侵入を警戒して、大統領府の周囲や中は、以前よりさらに人数が増え、警戒が厳重になっている。

 ざっと見て、3,000人近くはいるんじゃないかと思われるほどの警戒網が敷かれている。

 何人海賊を集めようが、警戒網は無意味なのだが。

 さて、今回の目的は、大統領官邸の、沖水の自室にある、「ドクター・ファウストの魔導書」が入ったアイテムポーチである。

 沖水たちの切り札で、連中がチートアイテムと呼ぶ「ドクター・ファウストの魔導書」が盗まれたとあっては、連中は自分たちの使う「反魔力」の正体や弱点が敵国に渡るかもしれないと思い、大分焦るに違いない。

 これまで以上に厳重な警戒ではあるが、認識阻害幻術を使って完全に姿を消している僕たちには意味をなさなかった。

 僕たちは相変わらず、大統領府の正面入り口の門から、警備する海賊たちの横を悠々と通り抜けて、大統領府の敷地内へと入っていった。

 「玉藻、沖水の自室がある大統領府官邸は、大統領府の一番奥の建物、と言う話だったな?」

 「左様でございます、丈様。」

 「イヴ、念のため、大統領府の建物全体を調べてもらえるか?警報装置やらトラップやらが追加で設置されていたりはしないか?」

 「いや、妾の千里眼で調べるかぎり、婿殿の言うような追加の侵入者対策のトラップは建物内には設置されていないな。無駄に人間が建物の廊下や敷地内を警備しているだけだ。婿殿の作戦で組織内部に裏切り者や怪盗ゴーストが潜んでいるかもしれんのに、人海戦術に頼るのは、元「槍聖」たちは相当、阿保らしい。まぁ、国立銀行の金庫室のセキュリティーが破られた故、その辺の道具屋で買えるような茶地なトラップや魔道具は意味をなさないと考えたのだろうが。大統領執務室の中に、元「槍聖」たちの仲間の内、四人が部屋の隅に潜んで隠れているようだ。恐らく、犯行声明文の手紙を怪盗ゴーストが大統領執務室に持って潜入してきたところを、生け捕りにする魂胆だろう。後、元「槍聖」の仲間の二人が、大統領府の敷地内を海賊たちを率いて見回っている様子だ。肝心の元「槍聖」だが、自室のベッドで呑気に寝ているぞ。この程度の警戒網で妾たちを捕まえようとは、片腹痛い。」

 「ありがとう、イヴ。沖水の奴、戦国武将好きを自称していたが、もっと頭を使った戦術は立てられないのかよ。戦略シミュレーションゲームをやってたとか自慢していた割に、作戦が雑過ぎるだろ。リアルの犯罪の前じゃ、妄想狂のオタクも手も足も出ないってところか。イヴ、とりあえず、大統領官邸の沖水の自室の中まで転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、僕たちは一瞬で、沖水の自室の中へと転送された。

 ベッドでいびきをかきながら眠っている沖水を横目に、僕は沖水のアイテムポーチを探した。

 沖水の寝ているベッドの横の丸いテーブルの上に、無造作に青いアイテムポーチが置かれていた。

 「玉藻、この青いアイテムポーチが、「ドクター・ファウストの魔導書」が入った魔導書で間違いないんだな?」

 「はい、丈様。間違いございません。」

 「それじゃあ、いただくとするか。全く、大切な魔導書が入っているなら、金庫にしまうなり、体に身に着けるなり、もっと厳重に保管しろよ。どこまで甘ちゃんなんだ、この変態食人鬼は。」

 僕は呆れながら、テーブルの上に置いてある、「ドクター・ファウストの魔導書」が入った沖水のアイテムポーチを手に取った。

 「こう簡単に盗んでしまえると、少し面白味にかけるな。そうだ!玉藻、君の能力で強力な脱毛剤の効果を持った毒を作れるかい?」

 「はい、可能ではございますが?」

 「なら、ちょうどいい。ついでに沖水の奴から、大事な髪を奪ってやることにしよう。ツルンツルンのスキンヘッドにしてあげよう。遅効性で、寝ている沖水に気付かれない、それでいて超強力な脱毛剤を、このロリコン食人鬼の頭にお見舞いしてやってくれ。」

 「かしこまりました、丈様。フフフっ、丈様の思いつく復讐はいつも最高です。」

 玉藻は笑いながらそう言うと、懐から鉄扇を取り出し、寝ている沖水の頭の上に、鉄扇を持った右手を近づけた。

 「丈様を処刑し、多くの罪もない人間を食い殺した罰です。一本残らず、頭の毛を奪ってやります。鏡を見て、髪を根こそぎ奪われた己の姿に恐怖しなさい。まぁ、すでに醜い食人鬼ですし、この程度の容姿の変化、大した苦痛にはならないかもしれませんが。」

 玉藻はそう言うと、鉄扇の先を沖水の頭に近づけた。

 鉄扇が一瞬、金色に光った後、一滴の紫色の液体が鉄扇の先から流れ落ち、沖水の頭にかかった。

 沖水の傍から離れると、玉藻はニヤリと笑みを浮かべた。

 「丈様、ご指示通り、元「槍聖」の頭に強力な脱毛剤の効果のある毒をかけました。これから六時間後、早朝には元「槍聖」の髪は全て抜け落ちることになります。ポロポロと、頭を動かすたびに髪が抜け落ちるのです。それに、一週間は毒で頭皮が侵され、ほんの少し風を受けただけで、元「槍聖」は頭皮に刺激を受け、悶え苦しむことになります。いかがでございましょう?」

 「アハハハ!そりゃ良い。後で沖水のスキンヘッドにされて悶え苦しむ様をみんなで一緒に見て楽しむとしよう。」

 「婿殿の復讐は本当にえげつないな。しかし、その情け容赦ない、飽くなき復讐心にはいつも惚れ惚れする。さすがは妾の婿殿だ。クククっ、元「槍聖」の情けない姿が今から目に浮かんでしょうがない。」

 「では、撤収することにしよう。イヴ、「海鴉号」まで転送してくれ。」

 僕たちは盗みを終えると、瞬間移動で「海鴉号」まで戻った。

 メインキャビンに入ると、マリアンヌが僕たち三人を出迎えた。

 「お帰りなさいませ、皆様。作戦はどうでしたか?」

 「このとおり、無事、沖水のアイテムポーチを盗むことに成功した。さて、中身を拝見っと。」

 僕は沖水のアイテムポーチに手を突っ込み、中身を取り出した。

 沖水のアイテムポーチの中から、黒い表紙に「ドクター・ファウストの魔導書」と書かれた本が一冊、それから、100枚ほどのエロ写真と呼ばれる銀板が出てきた。

 エロ写真には、5歳から12歳くらいの女の子たちの裸の写真や、水着を着た半裸の写真、魔術士、正確には日本のアニメに登場する魔法少女のようなコスプレをした少女たちのパンチラ写真などがあった。

 エロ写真の一枚の板を手に取り、嫌悪感を表情に浮かべながら、僕はエロ写真を見て言った。

 「孤児院の子供たちや、闇ギルドで購入した女性の奴隷たちを使って、こんないかがわしいモノを作っていたとは。沖水たちには本当に反吐が出る。未成年をモデルに使用したポルノも、奴隷をモデルに使用したポルノも、製造どころか存在自体が許されない。マリアンヌ、こういったポルノは異世界では違法じゃないのか?僕の元いた世界じゃ、犯罪行為だったが?」

 マリアンヌもエロ写真を見て、激しい嫌悪感を顔に浮かべながら答えた。

 「もちろんです、ジョー様。ポルノを作るには法に則り、正式な製造、販売の許可を国からもらう必要があります。ですが、未成年をモデルに使用することも、ましてや闇ギルドで違法に売買される奴隷をモデルに使用することも違法です。奴隷の売買自体がすでに違法なのです。元勇者ともあろう者が、闇ギルドと通じ、このようないかがわしく、おぞましい違法ポルノを製造し、売りさばき、コレクションするなど、何と嘆かわしいことでしょう。女神リリア様がこのことをお知りになれば、きっと大層お怒りになるはずです。」

 「今度リリアと話すことがあったら、次に勇者を召喚する時は、勇者に選ぶ人間の性癖だとか、犯罪歴だとかをきちんと事前にチェックするよう、僕が言っていたとリリアに伝えとけ。性犯罪者がまた、勇者に選ばれて問題を起こされても、僕もイヴも一切、関知しないからな。」

 「かしこまりました。勇者の教育と管理方法についても、再度厳しく見直さねば。はぁー、頭が痛みます。」

 元「槍聖」たちの違法ポルノの製造、販売、所持という問題を知り、頭を抱えるマリアンヌであった。

 エロ写真を見て、玉藻もイヴも嫌悪感を露わにした。

 「幼い女性の裸を写真にとって楽しみ、さらには私腹まで肥やそうとは、正に外道の所業です。あの性犯罪者どもは一匹残らず、始末いたしましょう。」

 「写真なる技術は一定の評価を出せなくはないが、嫌がる幼い女児の裸を写して、己の性のはけ口にしようなど、絶対に許せん。あの変態のクズどもは今すぐこの手で宇宙の塵にしてやりたい気分だ。」

 「このエロ写真だが、これも元「槍聖」たちの悪事の証拠だ。遺憾だが、とりあえず沖水のアイテムポーチに入れておくとしよう。この写真は絶対、メルの目には触れさせないよう、気を付けよう。さて、「ドクター・ファウストの魔導書」を無事、沖水たちから奪うことに成功した。「ドクター・ファウストの魔導書」を使ってのさらなるパワーアップや、禁術の使用はこれで完全に防いだ。大事なチートアイテムを失った連中は慌てること間違いなしだ。マリアンヌ、今から僕の言う通りに手紙を書いてくれ。」

 「かしこまりました、ジョー様。」

 僕はマリアンヌに、次のような内容の手紙を書かせた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が所有する「ドクター・ファウストの魔導書」、確かに頂戴いたしました。

   それから、貴殿の大事な頭の髪も頂戴いた   しました。

   貴殿の若さで髪を失うことは大変お辛いこととは存じますが、どうぞお大事に。                                

              怪盗ゴーストより


 白い紙に達筆な文字で、僕の言った内容通りにマリアンヌは手紙を書くと、白い封筒に赤い封蝋を垂らし、それから、薔薇の印章が付いたシーリングスタンプを押して封をした。

 手紙の作成を終えたマリアンヌが、僕に手紙の入った白い封筒を渡した。

 「言われた通りに書きましたが、髪を失ったとは?」

 「ああっ、元「槍聖」の頭に、玉藻特製の超強力な脱毛剤を塗ってきた。朝には沖水の頭は髪が抜け落ち、ツルツルの見事なスキンヘッドに早変わりだ。エロ写真なんて作る変態のクズには優しすぎるくらいの罰だ。」

 「プっ、プフフフ!いえ、すみません。その、あまりにも、奇抜な罰を思いつかれたものだと思いまして。あのオキミズ氏が、ツルツルのスキンヘッドになった姿を想像すると、プっ、すみません。わ、笑いが堪えられなくて。」

 マリアンヌは、沖水が頭に脱毛剤を塗られ、スキンヘッドになる罰を受けたと聞き、笑いが堪えられずにいた。

 「実際に見たら、もっと面白いはずだ。それじゃあ、イヴ、いつものように手紙を大統領執務室に転送してくれ。ただし、大統領執務室の机の上じゃなくて、執務室のドアの前、廊下側に転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。クフフフ、朝、元「槍聖」が禿げ頭で怒り狂う姿を見るのが楽しみだ。」

 イヴは手紙を僕から受け取ると、右手の指をパチンと鳴らした。

 犯行声明文の手紙は、大統領執務室のドアの前へと転送された。

 「みんな、お疲れさまでした。第四の作戦も無事、終了だ。引き続きよろしく頼むよ。」

 第四の作戦が成功し、僕もみんなも笑った。

 沖水、チートアイテムはもうお前の手元にはない。後、未来永劫、お前の頭から髪の毛が生えてくることはない。一本残らず、根こそぎ奪ってやった。ご愁傷様。

 作戦五日目。

 午後12時。

 僕、鵺、イヴの三人は、サーファイ島の南側にある、大きな港へとやって来た。

 今回の獲物は、沖水たちとワイヒー・ライアーが作った、闇ギルドの所有する港の倉庫に保管されている、世界各国へ輸出予定の大量のエロ写真だ。

 情報によれば、闇ギルドの船より世界各国に輸出して、闇ギルド経由でエロ写真を売り捌き、沖水たちと闇ギルドでひと儲けしようと悪事を企んでいるらしい。

 沖水たちの大事な資金源を根絶やしにすることが目的だ。

 鵺の案内に従い、僕たち三人は、闇ギルドの倉庫へと向かった。

 とある大きな倉庫の前に、僕たちは到着した。

 倉庫の周辺は、海賊たちと、闇ギルドの構成員らしき、黒いアロハシャツを着た、武器を手に持った、イカつい男たちが、倉庫周辺を取り囲んでいた。

 倉庫の入り口のシャッターは、完全に閉ざされている。

 「イヴ、この倉庫に何か、警報装置やトラップの類は仕掛けられているかい?」

 「ふむ。倉庫の中に、侵入者の体温を感知して、警報が鳴る仕掛けが施されている。倉庫の入り口横の操作盤で事前に警報装置を解除しないと、倉庫内には誰も入れない仕組みのようだ。そのため、倉庫内は無人だ。倉庫内のコンテナに、あのいかがわしいエロ写真が大量に詰め込んであるのが見える。」

 「了解だ。体温を感知して警報が鳴る仕組みか。なら、認識阻害幻術を使って体温を消している僕たちには無意味だな。早速、中に入るとしよう。イヴ、倉庫内へ転送してくれ。」

 「了解した、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、僕たち三人は倉庫内へと転送された。

 「警報装置は作動せず。よし、後はこのエロ写真を廃棄するだけだ。僕が倉庫の内側全体に、認識阻害幻術をかけて、倉庫内の音を消す。そしたら、イヴ、目の前にあるエロ写真の入ったコンテナを全て、君のブラックホールで消去してくれ。このエロ写真の山に残す価値は全くない。遠慮なく、消し去ってくれ。」

 僕はそう言うと、右手を前に突き出した。

 そして、認識阻害幻術を発動し、倉庫の内側の壁や床、コンテナに認識阻害幻術をかけた。

 僕と鵺はコンテナから距離をとると、僕はイヴに指示した。

 「よし、準備完了だ。イヴ、コンテナを消し去ってくれ。」

 「任せよ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、大量のエロ写真が入ったコンテナの山を、イヴが地面に生み出したブラックホールが飲み込み、エロ写真の入ったコンテナはブラックホールに引きずり込まれ、あっという間に僕たちの前から跡形もなく消滅した。

 「お疲れ様、イヴ。これで元「槍聖」たちの資金源は失われた。おぞましい大量のエロ写真は永遠にこの世から消え去った。ありがとう。」

 「婿殿のフォローのおかげだ。婿殿こそ、お疲れ様であった。」

 「むぅ。今回は私、大して活躍できなかった。ちょっと悔しい。」

 「そんなことないよ、鵺。鵺の掴んできた情報が無ければ、今回の作戦は実行すらできなかった。鵺にはこれからもっと活躍してもらう予定だから、そう気を落とさないで。」

 「分かった。丈君のために、私、もっと頑張る。」

 「ありがとう、鵺。期待しているよ。それじゃあ、撤収するとしよう。イヴ、「海鴉号」まで転送してくれ。」

 イヴの瞬間移動で、僕たち三人は「海鴉号」まで転送された。

 メインキャビンへ入ると、マリアンヌが僕たちを出迎えた。

 「お疲れ様です、皆様。本日の作戦はいかがでしたか?」

 「ただいま、マリアンヌ。今回の作戦も無事、成功だ。沖水たちが世界中に売り捌こうとしていたエロ写真は全て、この世から消し去った。連中の資金源は失われ、おぞましい違法ポルノはこの世から消え去った。大勝利だ。さて、それじゃあ、いつものように、僕が言う通りに手紙を書いてくれ。」

 「かしこまりました、ジョー様。」

 僕はマリアンヌに、次のような内容の手紙を書かせた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が闇ギルドの倉庫に保管しておられたエロ写真全て、確かに頂戴いたしました。

   貴殿が精魂込めて制作されたエロ写真を買うことができず、貴殿のエロ写真のファンたちが血の涙を流して悲しむ姿が目に浮かびます。

   貴殿のエロ写真はこの私が責任を持って処分いたしますので、どうぞご安心ください。                                    

              怪盗ゴーストより


 白い紙に達筆な文字で、僕の言った内容通りにマリアンヌは手紙を書くと、白い封筒に赤い封蝋を垂らし、それから、薔薇の印章が付いたシーリングスタンプを押して封をした。

 手紙の作成を終えたマリアンヌが、僕に手紙の入った白い封筒を渡した。

 「エロ写真の処分、お疲れさまでした。元「槍聖」たちは全世界の女性の敵です。どうか、元「槍聖」たちに正義の鉄槌をお願いいたします、ジョー様。」

 「もちろんだ。あの変態の外道ども全員に、正義と復讐の鉄槌をこの手でお見舞いしてやるよ。それじゃあ、イヴ、この手紙を大統領執務室の机の上に転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。エロ写真を失い、資金繰りに困る元「槍聖」どもの悩む姿が目に浮かんでくるぞ。」

 僕から手紙を受け取ると、イヴは右手の指をパチンと鳴らした。

 犯行声明文の手紙は、大統領執務室の机の上へと転送された。

 「さて、資金源は奪った。今から海賊たちを使って略奪を始めるなら、何とか金は集まるだろうが、今すぐに大金を集めるのは無理だ。海賊であるお前とまともに取引をする国はいない。他国からの船はサーファイ連邦国の海域を、お前たち海賊を警戒してほとんど通らない。当てにしていた裏ビジネスはご破算になった。お前が大金を手にすることはない、沖水。」

 僕は第五の作戦が成功し、笑った。

 作戦六日目。

 午後12時。

 僕、玉藻、鵺、グレイ、イヴの五人は、鵺の案内で、首都の南側にある、四階建ての鉄筋コンクリート造りの、灰色の壁のビルへとやって来た。

 目の前にある灰色のビルは、サーファイ連邦国の闇ギルドの本部である。

 今回の目的は、闇ギルドの本部内に捕らわれている奴隷の女性たちの救出と、闇ギルド本部の殲滅だ。

 闇ギルドの奴隷の女性たちを、沖水たちとワイヒー・ライアーが購入し、ふたたびエロ写真を作って売り捌こうとする可能性が高い。

 ビルの前には、人影は見えない。

 「イヴ、情報によれば、この建物のどこかに、闇ギルドに捕えられている奴隷の女性たちがいるはずだ。彼女たちの居場所を探してほしい。それと、ビル内の警備状況を教えてくれ。」

 「了解だ、婿殿。まず、奴隷の女性たちは全員、このビルの地下室に、檻に入れられ、監禁されている。例の、所有者に逆らうと首が絞まる脱走防止用の呪い付きだ。地下室と檻に警報装置やトラップといった仕掛けは施されていない。奴隷の数だが、ざっと300人近くはいる。それと、地下室の扉の前に、見張り役の男が二人、ビル内にも地下から上の各階に、それぞれ10人ずつ闇ギルドの構成員と思われる男たちが廊下に立って見張っている。最上階の部屋に、5人男がいる。恐らく、闇ギルドの幹部で間違いないだろう。以上だ。」

 「ありがとう、イヴ。それじゃあ、まずは、闇ギルドの連中を全員、始末する。沖水たちの悪事に加担し、奴隷の売買に手を染める、極悪人どもに生きる価値は微塵もない。全員、暗殺する。玉藻、君は四階の部屋にいる幹部たち5人を始末してくれ。四階の廊下にいる連中は、グレイ、君が始末してくれ。三階にいる連中はエルザ、二階にいる連中は鵺、一階にいる連中はイヴ、地下にいる連中は僕が始末する。静かに暗殺して、ターゲットを全員始末するように。始末が終わったら、全員、地下室まで来てくれ。作戦は以上だ。みんなから他に質問はあるかい?」

 「特にはありません、丈様。」

 「私も質問はない。害虫は一匹残らず、駆除する。」

 「我も特にはない。確実に暗殺してみせよう。」

 「アタシも特にねえな。女を食い物にするクズどもはアタシの槍で串刺しにしてやるじゃんよ。」

 「妾も特に質問はない。早急に敵を排除しよう。」

 「では、作戦開始だ。イヴ、僕たちをそれぞれ担当の場所まで転送してくれ。」

 「了解だ。では行くぞ、皆の者。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らした瞬間、僕は闇ギルド本部のビルの地下へと転送された。

 地下の廊下に男が10人、奥の地下室と思われる部屋の扉の前に、見張り役の男が二人。

 暗殺するターゲットは全部で12人。

 僕はジャケットの左の胸ポケットから、如意棒を取り出した。

 右手に如意棒を持つと、霊能力のエネルギーを流し込み、如意棒を黒い鉄扇へと変形させた。

 僕は鉄扇を顔の前に構えると、鉄扇に金色の霊能力のエネルギーを集中させた。

 僕が鉄扇をサッと開くと、僕の周囲に一本の長さが10㎝ほどの、金色の千本の毒針が生まれた。

 「毒針千本!」

 僕は右手に持つ鉄扇を正面に向かって突き出すと、千本の毒針が、地下にいる闇ギルドの12人の男たちに向かって一斉に発射された。

 猛スピードで発射される千本の毒針が、機関銃を乱射したような勢いで発射され、地下にいた闇ギルドの男たちは全員、毒針が全身に刺さり、毒に体を侵され、口から泡を吐いて全員、その場で息絶えた。

 「まだまだ、玉藻には遠く及ばないな。千本も毒針を飛ばして、口から泡を吐かせて殺す程度のことしかできない。毒に関する知識を玉藻からもっと学べば、発射する毒針の数も減らせて、一瞬で毒で敵を溶かせるようになるはずだ。今度、トレーニングを玉藻に改めて頼むとしよう。」

 僕は自己評価をしながら、男たちの死を確認した。

 15分後、各階で闇ギルドの構成員たちの暗殺任務を行っていた他のパーティーメンバー五人が、僕のいる地下のフロアーへとやって来た。

 「お疲れ様、みんな。その様子だと、無事ターゲットを全員、始末したようだね。」

 「お疲れ様です、ジョー様。幹部たちは肉も骨も残さず、私の毒で全員、始末いたしました。暗殺は私の専門ですので、この程度造作もありません。」

 「お疲れ、ジョー。アタシの槍とスピードにかかれば、速攻で闇ギルドの連中を始末するなんてわけないぜ。」

 「お疲れ様だ、ジョー殿。我の剣で連中の喉元を素早く搔っ切って、叫び声一つ上げさせず、成敗してやったぞ。闇ギルドの連中も存外、大したことはないな。」

 「お疲れ様である、婿殿。妾の作ったブラックホールで、闇ギルドの連中は一瞬で始末した。1分もかからんかったぞ。皆の戦いぶりを千里眼で覗いてみたが、見事であった。後、奴隷の女たちは全員、無事だ。呪いも発動していない。後は、檻から出して、呪いを解呪し、保護するのみだ。」

 「ありがとう、みんな。それじゃあ、地下室に向かうとしよう。」

 僕たちはイヴによって、闇ギルドに捕らわれていた奴隷の女性たちがいる、地下室の中へと瞬間移動で移動した。

 地下室の檻の中には、イヴの言ったように、300人近い女性が監禁されていた。

 下は5歳くらい、上は30代前半くらいで、人間、獣人を問わず、多くの女性たちが闇ギルドによって捕らえられていた。

 監禁されている女性たちの姿を見て、闇ギルドや沖水たち率いる海賊団への激しい怒りを僕はおぼえた。

 「イヴ、ここにいる全員を今すぐ、ズパート帝国の帝都中央病院の前へと転送してほしい。呪いの解呪と、ナディア先生への保護依頼は、僕が引き受ける。」

 「了解だ、婿殿。」

 イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、目の前の景色がグニャリと歪んだ後、僕たちと奴隷の女性全員が、ズパート帝国の帝都中央病院の前へと一瞬で転送された。

 認識阻害幻術を解除すると、僕は奴隷の女性たちに、彼女たちを闇ギルドから救出した旨を伝えた。

 そして、喜ぶ女性たちの首にかけられた呪いを解除して回ると、救出した女性たち全員を連れて、ナディア先生を訪ねた。

 病院から慌てて出てきたナディア先生に、なぜ、事前に連絡をしなかったのかと、こっぴどく怒られた僕であったが、サーファイ連邦国の闇ギルドから奴隷の女性たちを救出した事情を伝え、彼女たちの治療と保護の依頼に成功したのであった。

 闇ギルドからの奴隷救出作戦を無事、完了すると、僕たちは「海鴉号」まで瞬間移動で戻った。

 メインキャビンへ入ると、僕たちをマリアンヌが出迎えた。

 「お疲れ様です、皆様。今回の闇ギルドに捕らわれている奴隷の方々の救出作戦の進捗はいかがでしたか?」

 「ただいま、マリアンヌ。闇ギルドに捕らわれていた奴隷の女性たちは全員、救出した。後、闇ギルドの本部にいた連中は全員、僕たちで始末した。サーファイ連邦国の闇ギルドは壊滅したも同然だ。これで、元「槍聖」たちは奴隷を買ってエロ写真を作ることはできなくなった。闇ギルドを通じて販売することもできなくなった。連中の裏ビジネスは潰したも同然ってわけだ。それじゃあ、僕の言う通りに手紙を書いてくれ。」

 「かしこまりました、ジョー様。元「槍聖」たちによる裏ビジネスの根絶、奴隷たちの解放、闇ギルドの殲滅、ありがとうございました。」

 僕はマリアンヌに、次のような内容の手紙を書かせた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が闇ギルド本部より購入予定でございました、闇ギルドの奴隷の女性たち全員、確かに頂戴いたしました。

   奴隷の女性たちは全員、この私が大切にお預かりいたしましたので、どうぞご安心ください。

   付け加えまして、私よりささやかではございますが、闇ギルド本部の構成員たちの死体をプレゼントさせていただきます。

   人肉がお好みとのことですので、どうぞ心ゆくまでお召し上がりください。

   くれぐれもお腹を壊さぬよう、ご注意ください。                                  

              怪盗ゴーストより


 白い紙に達筆な文字で、僕の言った内容通りにマリアンヌは手紙を書くと、白い封筒に赤い封蝋を垂らし、それから、薔薇の印章が付いたシーリングスタンプを押して封をした。

 手紙の作成を終えたマリアンヌが、僕に手紙の入った白い封筒を渡した。

 「欲しがっていた奴隷の女性たちの代わりに、悪党の死体をプレゼントする。裏ビジネスがご破算となった上、食人鬼となった元「槍聖」たちへ代わりに死体の肉でも食って満足していろ、という皮肉や憐みを込めたメッセージというわけですね、ジョー様。」

 「その通りだ。エロ写真を販売する裏ビジネスを支えていた闇ギルドは壊滅、モデルとして欲しがっていた奴隷の女性たちは手に入らない、残ったのは闇ギルドの構成員たちの死体だけ。困っている連中に食料を提供してやるんだから、むしろこっちに感謝してほしい気分だ。さてと、それじゃあ、イヴ、いつものようにこの手紙を大統領執務室の机の上に転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。闇ギルドが壊滅し、裏ビジネスを潰され、憐みに死体を贈られ、さらに怒り狂う元「槍聖」たちの姿が目に浮かんでくる。クククっ、千里眼で連中の憐れな姿を拝むとしよう。」

 イヴは僕から手紙を受け取ると、右手の指をパチンと鳴らし、手紙を大統領執務室の机の上へと転送した。

 「裏ビジネスも、お前を裏で支える連中も完全に潰した。呑気にエロ写真を作っている余裕はないぞ、沖水。そのお仲間たちもな。せいぜい、僕の贈った死体でも食いながら間抜け面を晒すがいい。」

 僕は第六の作戦が成功し、静かに笑った。

 作戦七日目。

 午後12時。

 僕、鵺、イヴの三人は、サーファイ島の南側にある、サーファイ連邦国海軍本部の建物の前へとやって来た。

 今回の作戦の獲物は、海軍本部の武器庫と弾薬庫にある、武器弾薬全てだ。

 鵺に案内され、巨大な基地であるサーファイ連邦国海軍の本部前へと僕たちは到着した。

 海軍本部は、200人ほどの海賊たちが周囲や敷地内を警備している様子であった。

 数人だが、白い海軍の軍服を着た男たちもいた。

 恐らく、ベトレー宰相とともに、サーファイ連邦国海軍や政府を裏切った軍人たちに違いない。

 海軍本部の割に、大して警戒は厳重には見えなかった。

 「鵺、武器庫と弾薬庫の場所まで案内してくれ。」

 「了解、丈君。」

 僕たちは海軍本部の正面入り口から侵入した。

 認識阻害幻術を使っているため、姿を完全に消した僕たち三人に、海賊たちは全く気が付かないでいる。

 怪盗に盗まれるようなモノはないはずだと、勝手にそう思い込んでいるに違いない。

 海軍が壊滅した現在、海軍に関する大した機密情報の記された書類は特にはない。

 だが、この僕、怪盗ゴーストはお前たちの大切なお宝は全て奪う。

 武器や弾薬だって、お前たち海賊にとっては、自分たちの身を守るための大事な資産だ。

 いざとなれば、武器や弾薬は売ってお金に換えることもできる。

 怪盗が盗むのは現金や宝石だけとは限らない。

 僕たちは鵺に案内され、海軍本部の武器庫と弾薬庫の前に着いた。

 武器庫と弾薬庫の周囲に見張り役の連中は立っていない。

 「イヴ、武器庫と弾薬庫に警報装置やトラップなどの仕掛けは施されているかい?」

 「ふむ。体温を感知して警報が鳴る仕組みだ。入り口横の操作盤を操作して、警報装置を切ってから、中に入る必要がある、という感じだ。闇ギルドの倉庫を破った時とほとんど変わらんな。」

 「なら、どっちも中に人はいないわけか。一応、建物全体に認識阻害幻術をかけて、音を消しておこう。僕が武器庫と弾薬庫に認識阻害幻術をかけるから、イヴは中に入って、武器と弾薬を全て、お得意のブラックホールで消し飛ばしてくれ。弾薬を消すときは爆発しないよう、注意を払ってくれ。」

 「任せよ、婿殿。」

 僕は右手を突き出し、認識阻害幻術を発動した。

 武器庫と弾薬庫の全体を、認識阻害幻術の薄い透明な膜が包み込んだ。

 それから、イヴは武器庫と弾薬庫の中に瞬間移動で潜入すると、武器弾薬全てをブラックホールで跡形もなく、消し飛ばした。

 5分後、武器弾薬全ての処理を終えたイヴが、僕たちの前に現れた。

 「指示通り、武器と弾薬は全て妾のブラックホールにて吸い込み、消し去ったぞ、婿殿。」

 「お疲れ様、イヴ。こちらからも透視して確認した。武器弾薬はきれいさっぱり失くなった。これで、海賊たちは武器弾薬の補充ができなくなった。新たに武器弾薬を買う金もない連中には大打撃だ。それじゃあ、撤収することにしよう。」

 僕たちはイヴの瞬間移動を使って、「海鴉号」まで無事、帰還した。

 メインキャビンへ入ると、マリアンヌが僕たちを出迎えた。

 「お疲れ様です、皆様。武器弾薬の破壊工作は無事、成功されたのですね?」

 「ただいま、マリアンヌ。破壊工作は成功した。元「槍聖」たち率いる海賊団は武器も弾薬も完全に補充することができなくなった。連中には新たに武器と弾薬を買う金もない。連中の戦力は大幅にダウンした。それじゃあ、いつものように僕が言う通りに手紙を書いてくれ。」

 「かしこまりました、ジョー様。破壊工作、お疲れさまでした。」

 僕はマリアンヌに、次のような内容の手紙を書かせた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が海軍本部の武器庫並びに弾薬庫に保管されておられた武器弾薬全て、確かに頂戴いたしました。

   頂戴いたしました武器弾薬は、この私が後日、ブラックマーケットにて高値で売らせていただきます。

   十分なお金がご用意できました時は、是非お買戻しください。                                     

              怪盗ゴーストより


 白い紙に達筆な文字で、僕の言った内容通りにマリアンヌは手紙を書くと、白い封筒に赤い封蝋を垂らし、それから、薔薇の印章が付いたシーリングスタンプを押して封をした。

 手紙の作成を終えたマリアンヌが、僕に手紙の入った白い封筒を渡した。

 「フフフっ。武器弾薬を買い戻す金など、1リリアも元「槍聖」たちは持っていないでしょうに。短いながら、パンチの効いた皮肉ですね。」

 「どこの国のブラックマーケットで、いつ売るのかも書いていないし、結局、金を用意できたところで、元「槍聖」たちが盗まれた武器弾薬を買い戻すのは不可能だ。そもそも、買い戻す金を用意すること自体、無理な話だが。それじゃあ、イヴ、いつものようにこの手紙を大統領執務室の机の上に転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。武器弾薬のほとんどを盗まれたと知って、元「槍聖」たちは恐怖で青ざめるに違いない。元「槍聖」たちに侵略戦争を起こそうなどという考えは起こらないだろう。」

 イヴは手紙を受け取ると、右手の指をパチンと鳴らした。

 手紙は、大統領執務室の机の上に転送されたのだった。

 「武器弾薬のほとんどを失ったお前は、部下たちから格好の笑い者だ。ベトレー宰相もだろうな。お前の帝国とやらは崩壊寸前だぞ、沖水。」

 第七の作戦が成功し、笑みを浮かべる僕であった。

 作戦八日目。

 午後12時。

 僕、玉藻、鵺、エルザ、グレイ、イヴの六人は、サーファイ島の南側にある港へと向かった。

 今回の獲物は、サーファイ島の南側の港に停泊している海賊船50隻である。

 港へ向かうと、情報通り、海賊船が50隻、それと、海賊団が海軍より奪った戦艦1隻が港に停泊していた。

 海賊船の周囲には、1,000人ほどの海賊たちが警戒に当たっていた。

 「武器弾薬を全て奪われたもんだから、次は船が狙われるかもしれないと、少しは考えたらしいな。だけど、残念。お前らの浅知恵は僕たちには通用しないんだよ。鵺、エルザ、グレイ、僕と一緒に海賊船を係留するロープを切るのを手伝ってくれ。どんどん、ロープを切ってくれ。玉藻、僕たちが海賊船のロープを切ったのに合わせて、海賊船に認識阻害幻術をかけてくれ。全ての船を認識阻害幻術で海賊たちの目の前から消えたように演出してほしい。イヴ、仕上げに、流された海賊船をブラックホールで全て消し飛ばしてくれ。この暗闇じゃあ、海賊たちはブラックホールを見ることはできないはずだ。みんな、よろしく頼むよ。」

 「「「「「了解!」」」」」

 それから、僕はジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出した。

 右手に如意棒を持つと、霊能力のエネルギーを流し込み、黒いサーベルへと変形させた。

 霊能力を解放し、全身とサーベルに纏った。

 両足に霊能力のエネルギーを集中させると、瞬時に超スピードで海賊船の下へと移動し、海賊船を係留するロープを素早くサーベルで斬っていく。

 認識阻害幻術を使って姿を完全に姿を消している僕、鵺、エルザ、グレイの四人は、わずか3分足らずで、50隻の海賊船全ての係留用のロープを切った。

 僕たち四人がロープを切るのに合わせて、玉藻がどんどん海賊船に認識阻害幻術をかけていき、海賊船を海賊たちの目には映らないよう、透明にしてみせた。

 突然、ほぼ一斉に海賊船を係留するロープが切れ、海賊船が流れ始めたと同時に、次々と海賊船が消失していく光景を目の当たりにして、海賊たちは訳が分からず、混乱している。

 海賊船が海の方へと流れ始めると、イヴが海賊船50隻の真下にそれぞれブラックホールを発生させ、海賊船はブラックホールに全て飲み込まれ、完全に消滅した。

 暗い夜の海の上に、ブラックホールがいくつも発生し、海賊船を消滅させていった事実に、混乱する海賊たちは全く気が付かないでいた。

 50隻の海賊船が消滅したのを見届けると、僕はみんなに声をかけた。

 「お疲れ様、みんな。これで敵は保有する海賊船の半分を失ったことになる。半分もの海賊船を奪われたと勘違いして、元「槍聖」たちは混乱し、さらに怒り狂うこと間違いなしだ。引き続き、協力を頼むよ。」

 「お疲れ様です、丈様。海賊たちの慌てぶりは相当なものです。海賊団の崩壊はすでに確定したも同然です。」

 「お疲れ、丈君。元「槍聖」たちのゴミどもは大切な船を失ったと知って、ショックを受けること間違いなし。早く連中をこの手で始末したい。」

 「お疲れ様である、ジョー殿。海賊どもめ、船を失っては最早、戦うどころか逃げることさえままならんはずだ。連中の壊滅まであともう少しだ。」

 「お疲れ、ジョー。「船が消えたー!?」とか言って、海賊の連中、今も間抜け面で騒いでいるぜ。元「槍聖」どもの悔しがる姿が目に浮かんできて、マジ笑えるじゃんよ。」

 「お疲れ様だ、婿殿。今回も婿殿の作戦勝ちというわけだ。船の無い海賊など、陸に上がった無力な魚同然だ。元「槍聖」どもの破滅は目前と言っても過言ではない。」

 「協力ありがとう、みんな。それじゃあ、撤収することにしよう。イヴ、「海鴉号」まで転送を頼む。」

 僕たち六人は、海賊船50隻の破壊工作を終えると、「海鴉号」まで戻った。

 メインキャビンへ入ると、マリアンヌが出迎えた。

 「皆様、お疲れ様です。海賊船の破壊工作はどうでしたか?」

 「ただいま、マリアンヌ。敵の保有する海賊船の半分、50隻の破壊に無事、成功した。後ちょっとで、元「槍聖」たちの討伐作戦の最終段階へ入れる。それじゃあ、僕の言う通りに手紙を書いてくれ。」

 「かしこまりました、ジョー様。海賊船の破壊工作、お疲れさまでした。」

 僕はマリアンヌに、次のような内容の手紙を書かせた。

 

 拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

  貴殿が所有するご自慢の海賊船50隻全て、確かに頂戴いたしました。

  頂戴いたしました海賊船は、この私が後日、ブラックマーケットにて高値で売らせていただきます。

  このような素晴らしい海賊船という商品をいただき、私も笑いが止まらない限りです。

  十分なお金がご用意できました時は、是非お買戻しください。                            

              怪盗ゴーストより


 白い紙に達筆な文字で、僕の言った内容通りにマリアンヌは手紙を書くと、白い封筒に赤い封蝋を垂らし、それから、薔薇の印章が付いたシーリングスタンプを押して封をした。

 手紙の作成を終えたマリアンヌが、僕に手紙の入った白い封筒を渡した。

 「海賊が海賊船を盗まれたと世間に知られれば、良い笑い者です。元「槍聖」たちの海賊としての名誉と誇りに傷が付いたも同然です。」

 「その通りだ、全く。沖水たち率いる海賊団の、海賊としての名誉も誇りもボロボロにされ、海賊としての地位は失墜した。沖水たちの下を離れようと考える海賊たちが本格的に現れるかもしれないな。それじゃあ、イヴ、いつものようにこの手紙を大統領執務室の机の上に転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。元「槍聖」たち率いる海賊団が分裂を始める姿を後でゆっくりと見物して楽しむとしよう。」

 イヴは僕から手紙を受け取ると、手紙を大統領執務室の机の上に転送した。

 「沖水、お前の海賊としての面目は丸つぶれだ。海賊のキャプテン失格のレッテルを貼られたお前に、一体何人の海賊たちが手元に残るだろうな。」

 僕は第八の作戦が成功し、みんなと一緒に笑った。

 作戦九日目。

 午後12時。

 僕、玉藻、鵺、エルザ、グレイ、イヴの六人は、サーファイ島の東側にある港へと向かった。

 今回の獲物は、サーファイ島の東側の港に停泊している海賊船30隻である。

 港へ向かうと、情報通り、海賊船が30隻、港に停泊していた。

 海賊船の周囲には、1,000人ほどの海賊たちが警戒に当たっていた。

 また、港の周囲の海を、20隻の海賊船が取り囲み、港から海賊船が盗まれないよう、海上からも包囲していた。

 そんな海賊たちの警戒網なんて僕たちに通用などはしない。

 昨日と同じ手口で、認識阻害幻術を使って姿を完全に姿を消している僕、鵺、エルザ、グレイの四人は、わずか2分足らずで、30隻の海賊船全ての係留用のロープを切った。

 僕たち四人がロープを切るのに合わせて、玉藻がどんどん海賊船に認識阻害幻術をかけていき、海賊船を海賊たちの目には映らないよう、透明にしてみせた。

 突然、ほぼ一斉に海賊船を係留するロープが切れ、海賊船が流れ始めたと同時に、次々と海賊船が消失していく光景を目の当たりにして、海賊たちは訳が分からず、混乱している。

 海上で見張っていた海賊船20隻に乗っている海賊たちも、船の上から混乱してギャー、ギャー、何か喚いている。

 海賊船が海の方へと流れ始めると、イヴが海賊船30隻の真下にそれぞれブラックホールを発生させ、海賊船はブラックホールに全て飲み込まれ、完全に消滅した。

 暗い夜の海の上に、ブラックホールがいくつも発生し、透明化させた海賊船を消滅させていった事実に、混乱する海賊たちは、またしても全く気が付かないでいた。

 あっさりと海賊船30隻の破壊工作を完了させた僕たち六人は、イヴの瞬間移動で「海鴉号」まで戻った。

 メインキャビンへ入ると、マリアンヌが出迎えた。

 「お疲れ様です、皆様。今回の破壊工作はどうでしたか?」

 「ただいま、マリアンヌ。東側に停泊していた海賊船30隻全てを破壊した。これで、敵の保有する戦力は、海賊船20隻と戦艦1隻だけとなった。元「槍聖」たちにもう、まともな戦力は残されていない。いよいよ、最終段階一歩手前だ。それじゃあ、いつものように、僕の言う通りに手紙を書いてくれ。」

 「かしこまりました、ジョー様。さらなる破壊工作、お疲れさまでした。」

 僕はマリアンヌに、次のような内容の手紙を書かせた。

 

  拝啓 キャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が所有するご自慢の海賊船30隻全て、確かに頂戴いたしました。

   頂戴いたしました海賊船は、この私が後日、ブラックマーケットにて高値で売らせていただきます。

   十分なお金がご用意できました時は、是非お買戻しください。

   それから、気が向いた時は、残り20隻の海賊船と戦艦1隻もいただきにうかがいます。

   なるべく高値で売りたいと考えておりますので、大事に船の保管をお願いいたします。                                     

              怪盗ゴーストより


 白い紙に達筆な文字で、僕の言った内容通りにマリアンヌは手紙を書くと、白い封筒に赤い封蝋を垂らし、それから、薔薇の印章が付いたシーリングスタンプを押して封をした。

 手紙の作成を終えたマリアンヌが、僕に手紙の入った白い封筒を渡した。

 「保有する戦力のほとんどをジョー様に奪われ、元「槍聖」たち率いる海賊団に、他国の軍隊と戦う力さえ、もう残っていない状況です。ついに討伐作戦も最終段階に入ってよろしい頃合いかと思います。」

 「ああっ、次の作戦で、元「槍聖」たちと手下の海賊団を全員、討伐する予定だ。連中に絶望を味わわせてから、まとめて全員地獄のどん底に叩き落す。怪盗ゴーストによる恐怖のショータイムがこれから始まる。それじゃあ、イヴ、この手紙を大統領執務室の机の上に転送してくれ。」

 「了解だ、婿殿。まともな戦力を失った元「槍聖」たちの絶望に染まった顔を後でゆっくりと見物するとしよう。」

 イヴは僕から手紙を受け取ると、手紙を大統領執務室の机の上に転送した。

 「保有する海賊船の8割を失い、お前にはもう戦う力は残っていない。お前はもう袋の鼠同然だ、沖水。」

 僕は第九の作戦が成功し、最後の作戦を決行する時が近づいてきたと思い、笑った。

 「みんな、お疲れ様。今日はゆっくり休んでくれ。イヴ、マリアンヌ、夜、二人に頼みたいことがある。最後の作戦の下準備を手伝ってほしい。何、すぐに終わるから、それまで二人も休息をとっていてくれ。午後11時に、メインキャビンへ集まってくれ。それじゃあ、解散!」

 作戦が終わり、僕たちはソファーやベッドで眠りに就いた。

 それから、昼食を食べたり、メルと遊んだり、軽くトレーニングをしたり、本を読んだりしながら、僕たちはそれぞれ時間を潰した。

 午後11時。

 夕食や風呂を終え、僕、イヴ、マリアンヌの三人はメインキャビンへと集まった。

 「夜遅くにすまない、二人とも。最後の作戦の下準備を手伝ってもらいたくてね。すでに、どうやって元「槍聖」たちと海賊団を討伐するか、作戦は考えてある。まず、今回は犯行声明文ではなく、予告状を出す。連中に挑戦状を叩きつけるわけだ。沸点が低くて、無駄にプライドが高い、おまけに怪盗ゴーストに煮え湯を飲まされ続けている元「槍聖」の沖水は、必ず怪盗ゴーストからの挑戦を受けようとするはずだ。予告状で誘き出した連中を一気に殲滅する、というのが、僕の考えた作戦の概要だ。早速だが、マリアンヌ、僕の言う通りに予告状の手紙を書いてくれ。」

 「かしこまりました、ジョー様。ついに、元「槍聖」たちの討伐作戦が最後の段階に入るわけですね。私も胸が高鳴る思いです。」

 僕はマリアンヌに、次のような内容の予告状を書かせた。


  予告状

  拝啓 親愛なる間抜けなキャプテン・ダーク・ジャスティス・カイザー様

   貴殿が治めるダーク・サーファイ帝国の至宝、ピグミーシャーク島にございます、「女神リリアの黄金像」を本日より三日後の午前12時ちょうどに頂戴すべく参上いたします。

   この私、怪盗ゴーストによる華麗なるショーを是非、海賊団の皆様とともに最後までゆっくりとお楽しみください。

   間抜けで愚かな貴殿と、無能で役立たずな  お仲間たちにこの私の犯行を止めることは不可能だとは思いますが、心より貴殿らの健闘を祈っております。                                          

              怪盗ゴーストより


 白い紙に達筆な文字で、僕の言った内容通りにマリアンヌは予告状を書くと、白い封筒に赤い封蝋を垂らし、それから、薔薇の印章が付いたシーリングスタンプを押して封をした。予告状の作成を終えたマリアンヌが、僕に予告状の入った白い封筒を渡した。

 「予告状と言えば、怪盗の定番でございますね。これだけ挑発的な文言の予告状を受け取れば、元「槍聖」たちは必ず、私たちの挑戦に応じてくることでしょう。」

 「ピグミーシャーク島は、サーファイ連邦国で一番東端の島だ。元「槍聖」たち率いる海賊団が占拠したサーファイ島から大分離れている。サーファイ島や他の島から海賊たちを引き離すには絶好の舞台だ。おまけに無人島だから、一般人が戦闘に巻き込まれる恐れもない。予告状を受け取ってのこのこ島へとやって来た元「槍聖」たちを一網打尽にする作戦だ。ピグミーシャーク島を奴らの墓標にしてやる。それじゃあ、イヴ、この予告状を大統領執務室の机の上に転送してくれ。」

 「クククっ。了解だ、婿殿。予告状を見て、怒り狂い、まんまと罠に嵌まる元「槍聖」たちの間抜けな姿を後で楽しむとしよう。怪盗ゴーストの最後のショーがいよいよ始まるわけだ。楽しみにしているぞ、婿殿。」

 イヴは笑いながら言うと、僕が手渡した予告状を大統領執務室の机の上に転送した。

 「決戦は三日後だ。この僕、怪盗ゴーストがお前を必ず破滅させる。恐怖のショータイムの幕開けまでのカウントダウン開始だ。楽しみに待ってろよ、沖水。」

 僕は怪盗ゴーストとなり、元「槍聖」沖水たち率いる海賊団から、金、宝石、アクセサリー、高価な美術品、「ドクター・ファウストの魔導書」、エロ写真、武器、奴隷の女性たち、弾薬、海賊船など、連中のありとあらゆるお宝を盗みまくった。

 金も船も武器も資金源も、元「槍聖」たち一行にはほとんど残されていない。

 元「槍聖」たちの悪事はこの僕がほとんどぶち壊してやった。

 人食い海賊団のお前たちに殺されたたくさんの人々の恨み、そして、この僕を処刑して殺そうとした恨みを、お前たち全員にぶつけ、たっぷりと絶望を味わわせた後、地獄のどん底まで叩き落してやる。

 「反魔力」なんて言うチート能力も、この僕の前では無意味だ。

 お前たち全員を血祭りに上げる準備はすでに出来ている。

 沖水、この僕がお前に異世界という現実の残酷さ、リアルな痛みと恐怖と絶望と、そして、死を教えてやる。

 どんな卑怯な手を用いてこようが、お仲間もまとめてぶち殺してやる。

 三日後の処刑ショーが楽しみだ。

 僕の異世界の悪党への復讐が、ついに幕を開けたのであった。


























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