【中間選考突破!!】異世界が嫌いな俺が異世界をブチ壊す ~ジョブもスキルもありませんが、最強の妖怪たちが憑いているので全く問題ありません~
第十三話 【EXTRAサイド:マリアンヌ姫】マリアンヌ姫、「黒の勇者」を追ってズパート帝国に向かう、しかし、モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに陥る
第十三話 【EXTRAサイド:マリアンヌ姫】マリアンヌ姫、「黒の勇者」を追ってズパート帝国に向かう、しかし、モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに陥る
「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈がズパート帝国にて、暴君にして前皇帝サリム・ムハンマド・ズパートを倒し、そして、「土の迷宮」を攻略し、さらに「聖女」花繰たち一行を倒した日から二日後のこと。
「黒の勇者」を追って、二週間前、マリアンヌ姫は馬車でペトウッド共和国からズパート帝国に向けて旅立った。
ズパート帝国の帝都までは、昼は平均気温30℃、最高気温は40℃、夜は最低気温0℃という過酷な環境でもある広い砂漠を、北から南に縦断する必要があった。
陸路が最短距離であることを知った彼女は、護衛もつけず、庶民の姿に化けて、一人旅を続けていた。
生粋のお姫様であるマリアンヌ姫にとって、砂漠を移動する旅は辛いモノであった。
しかし、光の女神リリアより、「黒の勇者」とともに世界中で暴走する元勇者たちを倒すよう、神託を授かった彼女は、「巫女」として、インゴット王国の王女として、女神リリアより授かった使命を全うすべく、砂漠の暑さや寒さにも根性で耐え抜いた。
若い世間知らずのマリアンヌ姫を、他の乗客たちは彼女の正体を知らないためか、真面目で不器用なメイドとして、優しく気遣うのであった。
旅をしていると、ズパート帝国と連絡をとっている御者から、マリアンヌ姫を含む乗客たちへ、ズパート帝国に関するニュースがよく伝えられた。
ズパート帝国で謎の奇病が流行し、大勢の国民が奇病に感染して亡くなったこと、「聖女」たちの治療を受けなければ治らないこと、国に10万リリアの治療代を支払わなければ治療してもらえないこと、「聖女」たちの治療を受けても謎の奇病が再発することも多いことなど、当初は暗いニュースばかりであった。
しかし、五日前から、謎の奇病の患者たちを全員、「黒の勇者」が治療したこと、「黒の勇者」が謎の奇病の感染源を除去して、奇病の流行が収束したなど、明るいニュースが聞こえてきた。
不安だった乗客たちの顔に笑顔が戻り、ニュースを聞いたマリアンヌ姫も、「黒の勇者」がズパート帝国にいて活躍していると聞き、喜んだ。
二日前、マリアンヌ姫たちに御者から衝撃的なニュースがもたらされた。
ズパート帝国でクーデターが起こり、前皇帝が死に、ナディア皇女を中心とする皇女派が帝城を占拠、新政府樹立を発表したと。
さらに、「聖女」たち一行がズパート帝国の帝都に死の呪いをばらまいて無差別大量殺戮テロ事件を引き起こしたこと、死の呪いの原因が、「聖女」たちがインゴット王国の国立博物館より盗んだ「レイスの涙」によるものだと、ズパート帝国新政府、ラトナ公国、ペトウッド共和国が共同で声明を出し、インゴット王国政府も盗難の事実を認めたとのことだった。
さらに、一連の事件解決に、「黒の勇者」が貢献したことも伝えられた。
乗客たちは口々に意見を言った。
「到着はまだ二週間先だけど、問題起こり過ぎじゃないか、ズパート帝国はよ。クーデターが商売に影響しなきゃいいが。」
「御者の話を聞いた限りじゃ、「聖女」たちが勇者に戻るために死の呪いをばらまいたそうじゃねえか。また、インゴット王国の元勇者たちが原因だぜ。さっさと元勇者たちを捕まえて処刑してくれないかねえ、国のお偉いさん方はよ。」
「元を辿れば、全部インゴット王国のせいだろ?今回もインゴット王国が「聖女」たちに「レイスの涙」とやらを盗まれなきゃ、大勢人が死ぬことはなかったはずだろ?あの国の王族も役人も全員、腐ってるからなぁ。色んな国から賠償金請求されて、財政破綻寸前との噂だぜ。インゴットに住んでた顔見知りの同業者が他の国に移って商売を始めたと聞いたぜ。あの国はもうヤバいぜ。」
「インゴッド王国ねぇ。犯罪者の元勇者は甘やかして、真の勇者と呼ばれている「黒の勇者」様のことを目障りだという理由で国王たちが処刑しようとしたって話だろ?王族たちは完全にキチガイだぜ。何で「黒の勇者」様のことを目障りだと思ったのか、処刑しようと思ったのか、謎だぜ、まったく。まぁ、キチガイの考えていることなんて俺たちには分からねえけどよ。世界一の大国と言われていたが、もう駄目だぜ、あの国は。商売するなら、インゴッド王国以外でやらないと大損するのが目に見えてるぜ。」
他の乗客たちの横で話を聞きながら、マリアンヌ姫の胸中は複雑だった。
「ズパート帝国の謎の奇病の流行が「聖女」たちの仕業だったとは。我が国の王都壊滅、ユグドラシル襲撃、そして、今回の無差別大量殺戮テロ事件、元勇者たちの暴走は止まることを知りません。女神リリア様の仰る通り、このままでは元勇者たちによって、この世界は滅びてしまうかもしれません。全ては、私や父が元勇者たちの教育と管理に失敗し、そして、「黒の勇者」様を誤って処刑したことが原因です。「黒の勇者」様に謝罪し、共に元勇者たちを討伐した後は、速やかに政府の改革を進める必要があります。我が国の汚職や隠蔽といった問題を解決し、政府の建て直しを早急に図らなければなりません。魔族殲滅が遅れることになるかもしれませんが、国を腐敗から建て直せない限り、戦争をすることなどできません。財政の建て直しと、国際社会からの信頼回復も行わなければなりません。問題は山積み状態です。」
マリアンヌ姫は心の中で、後悔の念とともに、祖国を建て直したいという強い思いを抱いていた。
さて、話は戻り、マリアンヌ姫の乗る馬車は、ちょうどズパート帝国の中央、「土の迷宮」が近くにあると言う砂漠の中を進んでいた。
時刻は午前11時。
太陽が空に上り、猛暑がマリアンヌ姫たちを襲ってきた。
馬車の荷台の中には、冷暖房の機能を持つ魔道具が備え付けられられているが、それでも額からじんわりと汗が出て来る。
帝都まで残り2週間、約半分ほどの距離にまで進むことができた。
ここまで一度もモンスターの襲撃もなかったため、マリアンヌ姫外乗客たちも、御者もホッと安心していた。
だが、先日のズパート帝国のクーデターと、「聖女」たちによるダンジョン攻略の影響で、現在、ズパート帝国の冒険者ギルド本部に所属する冒険者たちの数は約5割まで減っていた。
普段、国内でモンスターの駆除に対応する冒険者たちの減少が、モンスターの活発化という事態を招いていた。
砂漠地帯の陸路の運行を守るため、冒険者ギルドより冒険者たちが派遣され、定期的に砂漠でキャンプを行い、砂漠地帯を通る人々の安全を守るため、モンスターたちを駆除していた。
帝都の騎士団からもモンスター駆除の人員が派遣されてくることもあるが、先日のクーデターで、主人公率いる「アウトサイダーズ」によって帝城ごと騎士団は壊滅した。
帝国北部の国境と、帝国南部の郊外を守る騎士団以外、国の騎士たちはいない状況であった。
クーデター等の影響で、モンスターの駆除業務を担当するズパート帝国の人員は減っていた。
そんな中、マリアンヌ姫たちの乗る馬車を、あるモンスターの大群が襲撃した。
Cランクモンスター、ワームの大群であった。
ワームとは、体長10mほどの大きさで、全身が血のような赤い色をした、頭部に牙の生えた巨大な口を持つ、ゴカイやミミズに似たモンスターである。
性格は非常に獰猛で肉食、砂漠の中に潜んで音を頼りに獲物に近づき、獲物を丸呑み、あるいは牙で噛み付いて地中に引きずり込んで捕食する、凶悪なモンスターである。
異世界召喚物の物語やファンタジーゲーム、SF映画作品などによく登場するモンスターとして有名である。UMAとしても扱われている。
そして、マリアンヌ姫たちの前には30匹近いワームが砂の中から巨体を持ち上げて出てきた。
マリアンヌ姫外乗客たちが悲鳴を上げる中、御者が声を上げないように言った。
「皆さん、声を出さないで!アイツらは音に反応して襲ってくるんです!決して音を立てないで!」
御者の指示に従い、マリアンヌ姫外乗客たちは声を抑えた。
御者が小さな声でマリアンヌ姫たちに言った。
「皆さん、正面に崩れた建物が見えます。ここから真っ直ぐ歩いて300mくらいです。護衛の冒険者のお二人とあそこまで、音を立てずに歩いて移動してください。馬は囮として逃がします。私も後から合流して救援を呼びます。どうか、頑張ってください。」
御者の指示に従い、マリアンヌ姫たちは、声を立てず、足音を立てず、一歩一歩300m先に見える瓦礫の山へと向かう。
マリアンヌ姫たちが向かう瓦礫の山の正体は、先日、主人公が崩壊させた「土の迷宮」であった。
ワームの大群の横を、音を立てず、慎重に瓦礫の山へ歩いて向かっていく。
ほんの僅かな音が命取りであった。
御者はギリギリまで馬車にワームたちを引き付けると、一気に馬車に繋がれていた2頭の馬を解き放ち、ワームたちの囮として逃がした。
それから、マリアンヌ姫たちの後ろに続くように、音を立てずに瓦礫の山へと歩いて向かった。
30分後、何とか瓦礫の山へと無事、辿り着いたマリアンヌ姫たちは、瓦礫の山をよじ登り、ワームの大群が移動するのを待った。
御者が通信連絡用の水晶玉で冒険者ギルド本部に救援依頼を出し、救援もいずれ来ることになった。
だが、一時間経っても、二時間たっても、ワームたちの大群は中々移動を始めない。
瓦礫の山でワームたちを見ていたマリアンヌ姫たちは緊張で包まれた。
マリアンヌ姫の傍にいた、グレーの短髪の、40代前半ぐらいの、日に焼けた男性である御者が小声で呟いた。
「おかしい。なぜ、ワームたちは移動しないんだ?それに、さっきよりも数が増えている。なぜだ?何がワームたちを引き寄せるんだ?それに、この辺りには「土の迷宮」があるのに、どうして見えないんだ?」
御者が首を傾げていると、急にマリアンヌ姫が自分の手を見て、驚き、思わず大声を上げてしまった。
「キャアアアーーー!?血、たくさんの血が!?」
驚いた御者が見ると、マリアンヌ姫の手には血がたっぷりと付いていた。
よく見ると、瓦礫の山の隙間から、所々血が流れ出ている。
他の乗客たちも血に驚いて声を上げた。
「皆さん、声を抑えて!ワームたちに聞こえないよう声は出さないで!」
だが時すでに遅く、ワームたちはマリアンヌ姫外乗客たちの声を聞きつけ、真っ直ぐに続々と、マリアンヌ姫たちのいる瓦礫の山を取り囲んだ。
マリアンヌ姫たちは急いで瓦礫の山の最上部へと移動した。
計50匹ものワームが、マリアンヌ姫たちのいる瓦礫の山を包囲した。
Sランクに匹敵するワームの大群が、大きな口を開いてマリアンヌ姫たちを捕食する機会をうかがっていた。
御者はここでようやく気が付いた。
「そうか!僕としたことが迂闊だった!ワームたちはこの瓦礫の山に染み込む大量の血の匂いに反応していたんだ!連中にも多少、嗅覚はある!この瓦礫の山から血の匂いはするが、音を出して動く生物はいない!血の匂いに釣られて集まってきた連中の前に、生きた人間の僕たちが偶然、出会ってしまったわけか!くっ、連中はようやく獲物を見つけたわけか!この瓦礫の山が原因だったとは!ワームたちは僕たちが力尽きて瓦礫の山から転がり落ちてくるのを、口を開けて待つつもりだ!おまけに数は増えて50匹、脱出はほぼ絶望的だ!くそっ、冒険者ギルドに増援を頼まないと!」
御者がふたたび、冒険者ギルドに事態を伝え、救援と、救援の増援を依頼した。
しかし、冒険者ギルドからは現在深刻な人手不足で、対応できる人員の派遣にはもうしばらく時間がかかるとの回答であった。
時刻は午後二時。
日差しを遮るモノは何もなく、マリアンヌ姫たちの体に、40℃を超える猛暑が襲いかかった。
アイテムポーチの水も残り少なく、暑さのせいで意識が朦朧としてくる。
瓦礫の山の周りでは、大口を開けたワームの大群が、自分たちを捕食しようと砂の中から待ち構えている。
冒険者ギルドからの救援は未だに来ない。
マリアンヌ姫たちは正に絶体絶命の状況に追い込まれていた。
「光の女神リリア様、どうか私たちをお救いください。この窮地を乗り越える力を私たちにお与えください。」
しかし、「巫女」であるマリアンヌ姫の祈りが、光の女神リリアに届くことはなかった。
光の女神リリアにとって、マリアンヌ姫は所詮、都合の良い道具の一つに過ぎない。
時たま自分の管理する異世界アダマスを千里眼で覗き、ちょっと口出しをして、適当な管理しか行わない堕落した女神リリアに、愛玩動物や道具程度にしか思っていない人間の祈りが、悲痛な叫びが届くわけなかった。
マリアンヌ姫はこのまま「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈に会えぬまま、ワームの大群の餌食になって死ぬことになるのだろうか?
物語はここからさらに複雑なモノへと変わっていくこととなる。
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