第十三話 主人公、弓聖と再会する、そして、復讐する(開幕)
僕たち「アウトサイダーズ」が「弓聖」鷹尾たち一行を討伐するため、「鳥籠作戦」という名前の討伐作戦を開始してから八日目のこと。
鷹尾たち一行の犯罪計画を次々に尽くブチ壊し、連中の戦力の大半を奪い、さらに精神的苦痛や肉体的苦痛を伴うストレス地獄へと連中を追い込み、精神体力共に疲弊させ、壊滅寸前にまで追い詰めたのであった。
そして、今日、ついに「弓聖」鷹尾たち一行に止めを刺し、全員皆殺しにして地獄のどん底へと叩き落し、破滅させる復讐を成し遂げる日が、決着を着ける時がやって来たのであった。
午前9時30分。
僕たち「アウトサイダーズ」の面々は朝食を食べ終えると、ラトナ公国大使館内の僕の部屋へと集合し、最後の討伐作戦に向けたミーティングを始めた。
「今日が「鳥籠作戦」の最後の仕上げにかかる日だ。予定通り、今日、元「弓聖」たち一行を討伐する。連中全員、皆殺しにして地獄のどん底へと叩き落す。最新情報によれば、元「弓聖」たち一行は「ブラッディ・モンスター・ハウス」とか言う魔道具を使って、巨大な城塞を新たに築いたことが分かっている。プララルドたちが、命懸けのギャンブルだの、一度入ったら二度と出て来られなくなるだの、物騒なことを言っていた。敵が僕たちをおびき寄せ、罠に嵌めて僕たちを殺そうと、最後の悪足掻きをしてきたことが分かる。「ブラッディ・モンスター・ハウス」のせいか、東の監視塔の屋上に仕掛けた盗聴器以外が機能せず、鷹尾たちの会話をほとんどキャッチできなくなった。スロウ、「ブラッディ・モンスター・ハウス」に関する情報を知っていたら、情報提供を頼む。」
僕の問いに、スロウがため息をつきながら答えた。
「はぁ~。プララルドたちも元「弓聖」たちもホント、阿保だわぁ~。「ブラッディ・モンスター・ハウス」は、ミミックを改造した、半分生きた魔道具なんよ。っで、一度ハウスの中に入ると、自分の代わりにハウスに生贄として捧げる人間を誰か一人殺すまで、ハウスの中から一生出られなくなるっていう、超悪趣味な魔道具なんよ。昔、ゾイサイト聖教国に拷問好きな聖教皇がいて、ソイツが有名な魔導士に頼んで作らせたモンで、囚人たちに殺し合いをさせて、その様子を外から眺めて楽しむ、とか言うマジ、胸糞悪くなる魔道具っしょ。アレの中に入るとか、マジで頭狂ってるっしょ。つか、自滅も良いところっしょ。マジで阿保だわ~、アイツら。」
スロウの話を聞き、僕や他のパーティーメンバーたちは一瞬驚くとともに、気分が悪くなった。
「自分の身代わりにハウスの生贄となる人間を殺さないと出られない、ねぇ。囚人たちに殺し合いをさせて、その様子を見て楽しむために作られた魔道具か。「ブラッディ・モンスター・ハウス」自体も碌でもないが、ゾイサイト聖教国の連中も本当に救いようのない、碌でなしのクズばかりだな。鷹尾たちもプララルドたちも、殺し合いをしないと一生、外に出られず、ハウスに食われるかもしれないなんて、そんな自滅しかねない作戦をとるなんて、スロウの言うとおり、阿保だな、本当。最悪、仲間同士で殺し合うか、部下のヴァンパイアロードたちを元の人間に戻して殺すか、でどうにかなるかもしれないが。僕が「ブラッディ・モンスター・ハウス」に入らなければ、ただの骨折り損で終わるだけだ。ハウスから出られても、ハウスの外は封印が施された結界に覆われていて、結局、刑務所の外には出られない。スロウ、他に「ブラッディ・モンスター・ハウス」について知っていることはないか?」
「う~ん。確か中央に馬鹿でかい塔があって、その塔の中が確か、殺し合いを盛り上げるための特別なルールとか罠がいっぱいあって、激ヤバだったはずっしょ。塔の中についてはウチもよく覚えていないっしょ。ウチ、あのハウスのことマジ嫌いで、プララルドたちが玩具代わりに使って遊んで自慢していたのを横で聞いてただけだし。」
「そうか。ありがとう、スロウ。「ブラッディ・モンスター・ハウス」については現地に行って、一度外からじっくりと中を調べれば大丈夫だろう。向こうは罠を仕掛けたつもりらしいが、僕たちからすれば、最高の処刑ショーの舞台をわざわざ用意してくれたも同然だ。スタメンフルメンバーで入って、「ブラッディ・モンスター・ハウス」諸共、鷹尾たち全員を始末する。「ブラッディ・モンスター・ハウス」を逆に利用して、連中が破滅する様を見て楽しむとしよう。」
「全員で「ブラッディ・モンスター・ハウス」に乗り込んで、元「弓聖」たち一行を皆殺しにするねぇ~。普通なら自分から入るなんてマジあり得ないけど、ジョーちんたちが一緒なら、ハウスの仕掛けとか罠とか、そんなモン無視して強行突破でクリアとか、余裕でできるかもねぇ~。ウチもジョーちんたちに付いていってあげるっしょ。」
「ありがとう、スロウ。他のみんなはどうだい?」
僕の質問に、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴが笑顔で答える。
「無論、
「俺もお前と一緒に行くぜ、丈。化け物屋敷か、上等じゃねえか。化け物屋敷ごと元「弓聖」たちどもを木っ端微塵にぶっ潰してやるぜ、おい。」
「私も一緒に行く、丈君。害虫以下のクソ勇者どもは全員、バラバラに斬り刻んで、化け物屋敷の餌にする。化け物の餌になる以外に連中に価値は全く無い。行くのが楽しみ。」
「我も当然、同行するぞ、ジョー殿。人を食う化け物屋敷の中で戦うなど、早々できることではない。戦場の舞台としては面白い。我が剣技と新たな剣の力を試すにもちょうど良い。元「弓聖」どもめ、今度こそ我が剣にて全員、成敗してくれる。」
「もちろん、アタシも行くじゃん、ジョー。化け物屋敷に乗り込む、なんて超面白そうじゃねえか。アタシの槍で、化け物屋敷ごとクソ勇者どもを串刺しにして、地獄に落としてやるじゃんよ。アタシの「黒狼」も暴れたいって、うずうずしてるぜ。」
「妾は元より、婿殿が行くなら、どこへでも付いて行くつもりだ。「ブラッディ・モンスター・ハウス」など、闇の女神たる妾からしたら、つまらん小道具に過ぎん。元「弓聖」たちはハウス諸共、妾のブラックホールで一瞬で宇宙の塵に変えることも容易い。悪党どもの苦痛と恐怖と絶望で歪む顔が目に浮かんでくるぞ、フフフ。」
玉藻たちは、僕と一緒に「ブラッディ・モンスター・ハウス」へ乗り込み、元「弓聖」鷹尾たち一行を討伐する意思を表した。
「スタメン全員、ハウスに乗り込むのには問題なし。なら、後は現地に行って、外から偵察をした後、タイミングを揃えて一気に攻撃を仕掛けて敵を殲滅するとしよう。「ブラッディ・モンスター・ハウス」なんて小細工は通用しないことを、連中の計算通りに事が運ぶことなんて全く無いことを、きっちり教えてやる。マリアンヌ、メル、二人は大使館で待機だ。もし、大使館が襲撃を受けるようなことがあった時は、僕たちに構わず二人は逃げろ。認識阻害幻術をかけているから大丈夫だとは思うし、鷹尾たちに僕たちが遅れを取る可能性は限りなく低いが、万が一ということもある。ゾイサイト聖教国の、クソ聖教皇たちがやけを起こして二人を襲ってくる可能性も否定できない。二人とも十分に気を付けるように。」
「かしこまりました、ジョー様。元「弓聖」たち一行の討伐、よろしくお願いいたします。どうかご武運を。」
「メルも分かりましたなの。パパも、お姉ちゃんたちも、気を付けて行ってらっしゃい、なの。」
「ありがとう、マリアンヌ、メル。元「弓聖」たち一行は必ず討伐する。全員、返り討ちにして、地獄に叩き落してやるさ。期待して待っててくれ。それじゃあ、午前11時に大使館を出発する。討伐に向かうメンバーは全員、準備を整えた後、大使館1階のエントランスホールに集合だ。イヴ、改良を頼んでおいた如意棒をこの後、すぐに見せてくれ。では、一時解散。」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」、「了解、なの!」
こうして、僕たちは元「弓聖」鷹尾たち一行を討伐する最後の作戦のために、各自分かれて準備を始めた。
ミーティングを終えると、僕はイヴとともに、イヴの部屋へと向かった。
イヴの部屋に入ると、イヴがテーブルの上に置いてある如意棒を手に取り、如意棒を僕に渡しながら言った。
「婿殿、これが妾が新たに改良を施した如意棒だ。改良を加えたポイントは二つだ。一つ目は、より複雑な構造を持った武器やアイテムへの変形が可能になった点だ。例えば、チキュウ製の複雑な構造を持つ武器へと変形させたい場合は、婿殿の脳内のイメージや記憶を読み取り、如意棒へと事前にインストール済みのチキュウ製の武器の設計データから自動的に婿殿のイメージに合った設計データがセレクトされ、婿殿のイメージに最も近い武器へと変形する、という機能が追加されている。試しに何か、チキュウ製の武器へと変形させてみるがいい。」
「僕の脳内のイメージを読み取って、自動的に最適な地球製の武器へと変形する、か。なら、拳銃に変形できるか、テストしてみよう。」
僕はイヴに説明を受けると、両目を瞑り、拳銃のイメージを思い描きながら、右手に持つ如意棒へと、青白い霊能力のエネルギーを流し込んでいく。
右手に持つ如意棒が変形し、大型リボルバータイプの拳銃へと姿を変えていく。
ふたたび両目を開けると、僕の右手には、S&W M29という大型リボルバーにそっくりな、銃身からグリップまで全ての部品が真っ黒な、黒い拳銃が握られていた。
ハンマーを起こしたり、トリガーを引いたり、フロントサイトを覗いたりしながら、僕は言った。
「変形自体は完璧だ。本物のS&W M29を手にした気分だ。けど、この銃に込める弾丸がない。イヴ、弾丸を別に今から作成してもらう必要があると思うんだけど、弾丸をすでに作成済みだったりするのかな?」
「ブラックオリハルコン製の弾丸を作ることもできないことはない。だがしかし、婿殿なら自分のレイノウリョクを使って、レイノウリョクの弾丸を作ることもできるはずだ。レイノウリョクで爆弾を作れるのなら、弾丸の弾頭、火薬、薬莢、雷管といった構造をレイノウリョクでイメージして作ればいい。ブラックオリハルコン製の弾丸を作って一々装填するより、レイノウリョクで弾丸を即座に作り、装填できる方が婿殿には合っているはずだ。弾頭に様々な効果を付与して敵に撃ち込むこともでき、戦いの応用の幅も広がるはずだ。」
「なるほど。つまり、普通の拳銃としても使えるけど、霊能力のエネルギーを使った霊能力用拳銃として使った方がいいと。実際に撃てるか試すとしよう。どこか人がいなくて試し撃ちできる場所はないかな?」
「この前行ったゴミ処理場はどうだ、婿殿?人はほとんどおらんし、少しはゴミが溜まって、ゴミを的代わりに使えばよいのではないか?」
「良いアイディアだ。なら早速、ゴミ処理場へ行くとしよう。イヴ、ちょっとゴミ処理場まで転送を頼む。」
「了解だ、婿殿。」
イヴが右手の指をパチンと鳴らすと、僕とイヴは一瞬で、首都の近郊にあるゴミ処理場へと瞬間移動した。
「早速、またゴミが集まり出しているな。ちょうど良い。正面に見える小さなゴミ山に向けて撃ってみるとしよう。」
僕はそう言うと、黒い拳銃を右手だけで持ち、フロントサイトを正面に見える小さなゴミの山へと合わせ、狙いを定めた。
ゴミ山に狙いを定めたまま、霊能力のエネルギーを黒い拳銃へと流し込んでいく。
弾丸のイメージを頭に思い浮かべながら、シリンダーの中に、霊能力のエネルギーを注ぎ込み、慎重に調整し、霊能力のエネルギーで構成された弾丸を六発、生み出して装填した。
ハンマーを起こすと、僕は正面に見える小さなゴミ山に向けてトリガーを引いた。
バーン、という大きな音を立てながら、霊能力の弾丸が勢い良く発射され、真っ直ぐに50m前方の、正面の小さなゴミ山へと撃ち込まれた。
ゴミ山に弾丸が撃ち込まれた瞬間、ゴミ山に直径10㎝ほどの大穴が開き、弾丸が貫通した衝撃でゴミ山がたちまちバランスを崩して、崩れてしまった。
手に反動のショックをいまだに感じながら、予想以上の弾丸の威力に、僕は思わず驚いてしまった。
「本当に撃てたな!?自分の想像以上の威力だよ!大分、力を抑えて撃ったはずなのに、あんなに大きい穴が開くなんて!本物のS&W M29より凄い威力じゃないか、これ?見た目は普通の拳銃だけど、中身はレーザー光線銃って感じだ!反動も想像よりずっと小さい!改良を加えた如意棒の威力は本当に凄い!もう五発ほど撃ってみよう!」
僕は試し撃ちが予想以上に成功したことを喜びながら、他のゴミ山に向けても、黒い拳銃と霊能力の弾丸の試し撃ちを行った。
試し撃ちを終え、黒い拳銃へと変形した如意棒の細部を改めて細かく見ながら、僕はイヴへと言った。
「試し撃ちは成功だ、イヴ。霊能力の弾丸を作って撃てることも確認できた。威力やコントロールも問題ない。完璧な改良だよ。本当にありがとう、イヴ。」
「喜んでもらえて何よりだ、婿殿。もう一つの改良点についても説明しておく。如意棒に使われているトランスメタルの強度と魔力の伝導率をさらに強化し、共に通常のオリハルコンの200倍まで強化した。ベース金属のブラックオリハルコンや、従来のトランスメタルをはるかに上回る力を持たせることに成功した。チキュウ製の複雑で高度な武器を再現するために加えた改良だが、如意棒本来の性能をさらに底上げすることに成功した。現時点でアダマスにおいて世界トップの武器と言っても過言ではない。気に入ってもらえたかな、婿殿?」
「もちろんだよ、イヴ!強度と魔力の伝導率まで上げるとは、流石は闇の女神だよ!これで僕の復讐はまた一歩、大きく前進させることができる!本当に、本当にありがとう、イヴ!今日からは正式名称を「如意棒弐式」に改めるとしよう!よろしく、如意棒弐式!」
僕はイヴに感謝の言葉を述べながら、新しく生まれ変わった如意棒を見て喜んだ。
「婿殿に喜んでもらえて何よりだ。妾も頑張った甲斐があったものだ。しかし、婿殿がその銃の設計図を選ぶとは思わなかったぞ。婿殿が選んだその銃は確か、チキュウ製の武器の中でも旧い型式のモノのはずだ。何故、もっと高威力で最新の武器を選ばなかったのだ?」
イヴの問いに、僕は笑みを浮かべながら答える。
「イヴの言うことも一理あるよ。ただ、僕が武器にと選んだこのS&W M29という拳銃だけど、この拳銃は言わば、悪党へ復讐する武器の代名詞みたいなモノなんだ。ダーティーハリーって言う地球の映画、物語に出てくる警察官の主人公が悪党どもを撃ち殺して正義と復讐の鉄槌を下す、その時に使う拳銃なんだよ。異世界の悪党どもへ復讐を行う僕が使うのにピッタリな銃だと思ってね。それに、旧式でも最新式の拳銃に劣らない高威力に、安定した性能が持ち味だと、前に本で読んだこともある。これから殺す相手は、警察官の娘でありながら極悪犯罪者となった元「弓聖」の鷹尾だ。あの冷酷クソ女をこの本物のS&W M29そっくりの拳銃で撃ち殺して復讐する。悪くはないアイディアだろ?」
「ハハハ!なるほど!流石は婿殿だ!悪党へ復讐する武器の代名詞を、元「弓聖」への復讐に使うのに最適な銃を選んだわけか!復讐のために武器にまでこだわる、婿殿の飽くなき復讐心には妾はいつも感心させられるぞ!ならば、妾が改良を加えた如意棒より生み出したその銃で、思う存分復讐するがいい!期待しているぞ、婿殿!」
「了解だ、イヴ!あの冷酷クソ女どもは全員、僕の銃で撃ち殺して地獄のどん底へと叩き落してやるよ!それじゃあ、大使館へ戻るとしよう!もうすぐ11時だ!集合時間に遅れない内に帰るとしよう!」
僕たち二人は拳銃の試し撃ちを終えると、イヴの瞬間移動でゴミ捨て場より、首都のラトナ公国大使館へと戻った。
午前11時。
大使館のエントランスホールに、僕、イヴ、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、スロウの八人が集まった。
「全員、時間通りに集まったね。なら、早速、シーバム刑務所へと行くとしよう。イヴ、転送を頼む。」
「少し待て。婿殿、妾との約束を忘れたのか?妾と合体して元「弓聖」たち一行を討伐すると約束したではないか?新しく生まれ変わった如意棒の性能を存分に引き出すなら、妾との合体は不可欠だ。妾はとっくに準備はできているぞ。」
「約束ならちゃんと覚えているよ、イヴ。現地に着いてからでも遅くはないと思ってただけだよ。よし、なら、合体するとしよう。僕も準備はいつでもできている。最後までよろしく頼むよ、闇の女神様?」
「フフフ!任せよ、婿殿!刮目するがいい、皆の者!闇の女神たる妾と婿殿の、圧倒的かつ絶対的な合体した姿を!フハハハ!ついに、ついに待ちに待ったこの時がやって来たのだ!女神を超える究極の存在が誕生するこの時をだ!フハハハ!」
イヴが僕と合体できることに喜び、興奮を露わにした。
イヴの狂気じみた笑顔を浮かべて興奮する姿に、僕も他の皆も若干引いてしまった。
「だ、大丈夫なんでしょうか?
「俺もちょっと心配になってきたぜ。丈はともかく、イヴの方が興奮し過ぎて、そのまま合体してから暴走するようなことになるかもしれねえと、本気で思うぜ。本当に無理なら止めるんだぞ、丈。」
「私もちょっと不安。丈君との合体に、興奮するイヴが大きな負担をかけることになったら、暴走して大変なことになる。女神との合体はリスクがないとは言えない。絶対に無理はしちゃダメだよ、丈君。」
「先輩方に言われて、我も少々、不安になってきたぞ。合体した時のジョー殿の力は毎度、尋常ではない力だ。イヴ殿と合体して、その強大な力が暴走でもされたら、我らでは簡単に止めることはできない。無理に合体する必要はないのだぞ、ジョー殿。」
「アタシも姉御たちに言われて心配になってきたじゃんよ。イヴがこんなに興奮しまくった状態で合体して本当に大丈夫なのか?暴走してブラックホール食らわされるなんて、アタシもみんなも御免だぜ。今日は合体無しでも良いんじゃねえか、ジョー。」
「ウチもみんなと同じだっしょ。今のイヴ様はちょっと頭がぶっ飛んでいそうで、ヤバそうっしょ。ジョーちんとイヴ様が合体して暴走でもされたら、ウチにはどうしようもできないんよ。一度練習して成功したのが分かってから、他の勇者たちの討伐の時に合体しても良くない?無茶はマジで良くないっしょ、ジョーちん。」
玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、スロウが皆、不安げな表情を浮かべながら、僕にイヴとの合体は中止するよう提案してきた。
「ム、オホン!皆の者、心配は無用だ!妾はちょっと喜びのあまり、少し興奮していただけだ!今の妾は至極、冷静だ!闇の女神にして知恵の女神たる妾は、常に冷静沈着がモットーだ!少々、柄になく興奮しただけだ!婿殿との合体に問題は全くない!婿殿もそう、不安そうな顔をするでない!ほら、とっとと合体を始めるとしようぞ、婿殿!」
周りからの心配する声を聞いて、イヴが顔を赤らめながらも、いつもの冷静さを取り戻した。
「ええっと、イヴも落ち着いたようだし、合体しても大丈夫だよ、みんな。合体に大切なのは絆の力、だろ?僕とイヴの間にはちゃんと絆があるから、きっと合体は成功する。新しく生まれ変わった如意棒を、如意棒弐式の力を完璧に引き出すには、イヴとの合体が必要だ。如意棒弐式の新しい姿と力をみんなに見せてあげるよ。では、合体するとしよう、イヴ!」
「フフっ、了解だ、婿殿!」
僕は両手を合わせて、胸元で合掌した。
僕はイヴと合体するための呪文を唱える。
「契約に捧げし贄は我が命、我が命食らいし式を我が半身と為して、眼前の敵を討ち滅ぼす悪鬼羅刹を顕現せよ、イヴ降臨!」
呪文を唱え終えると同時に、僕とイヴの体が光り輝き、青白い大きな光に一緒に包まれた。
僕たち二人の体を包む光が、大使館のエントランスホール内を明るく照らし続ける。
やがて光がおさまると、イヴとの合体を終えた僕が姿を現した。
黒色をベースとした紫色のストライプの入った着物を纏い、両手には紫色のストライプが加わった黒いグローブ、両足には紫色のストライプが加わった黒いブーツを身に着けている。
髪と瞳の色も紫色に変わっている。
右手には、S&W M29にそっくりの黒い大型のリボルバータイプの拳銃を持っている。
「霊装闇神ノ型!」
僕の変化した姿を見て、その場にいた全員が驚いた。
「丈様とイヴさんの合体が成功された!な、何と、その手にお持ちの武器は銃ではありませんか!?如意棒が銃にまで変形できるようになったのですか?凄まじい技術の進歩です!」
「イヴとの合体に無事成功したようだな!しっかし、拳銃まで使えるようになるとは、俺も驚いたぜ!地球の武器まで使えるようになったなら、コイツはとんでもねえことになるぜ、おい!」
「合体が成功して良かった!丈君が無事なのが一番!そして、これがイヴと合体した姿!凄まじい力を感じる!銃を使えるようになったのにも驚いた!丈君の霊能力が加われば、とんでもない破壊力になること間違いなし!これは本当に凄い!」
「これがジョー殿とイヴ殿の合体した姿か!闇の女神の力も加わった上に、銃なる異世界の武器まで使えるのか!銃という武器の性能も非常に気になるところだ!」
「本当に闇の女神とまで合体しやがったぜ!それに銃か!異世界のヤバい武器まで使えるようになったとか、もう何でもアリじゃねえか?ホント、つくづく規格外だぜ、ウチの「黒の勇者」様はよ。さて、今日はアタシらに一体、何を見せてくれるのか、楽しみじゃんよ!銃とやらの凄さも見せてもらおうじゃん!」
「マジでジョーちんとイヴ様が合体したっしょ!女神とまで合体できるなんて、マジでジョーちん、パネえっしょ!ジョーちん、マジで人間のレベル超えてるんよ!つか、異世界のヤバい武器まで使えるのも、凄すぎるっしょ!ウチ、マジでジョーちんの仲間になって正解だったわ~!プララルドたち、マジでご愁傷様!」
玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、スロウが、僕とイヴの合体した姿を、驚きの表情を浮かべながら感想をそれぞれ、述べるのであった。
「御覧の通り、無事、合体成功だ、みんな。如意棒は如意棒弐式へと進化し、地球製の複雑な構造を持ったより高度な武器へと変形できるようになった。威力も強度も大幅に向上している。すでにこの銃、S&W M29の試し撃ちもしてきた。僕の力が加わることで、近距離、中距離、遠距離、あらゆる距離に応じた超破壊力のある射撃が可能になったんだ。まぁ、見ていてくれ。この銃も使って、最高の処刑ショーのフィナーレをみんなに披露してあげよう。では、敵地に向けて出発するよ、みんな!」
僕はみんなにそう言うと、霊能力を解放し、全身に、重力操作の能力と空間操作の能力の効果を持つ、紫色の霊能力のエネルギーを身に纏った。
「瞬間移動!」
僕が左手の指をパチンと鳴らすと、僕を含めたエントランスホールにいた全員が、一瞬で元「弓聖」たち一行のいる、シーバム刑務所跡地にして「ブラッディ・モンスター・ハウス」の前へと転送された。
目の前に広がる、イギリスのロンドン塔によく似た灰色の巨大な城塞を見て、僕たちは皆、驚いた。
まだ午前中にも関わらず、ブラッディ・モンスター・ハウスのある空間だけが夜のように暗いのも気になった。
「これがブラッディ・モンスター・ハウスか。想像以上の大きさだ。ミミックを改造した、血塗られた歴史を持つ巨大な化け物屋敷と言うだけのことはあるな。自分の身代わりとなる生贄の人間を殺してハウスに捧げないと出られない、殺し合いを外から見て楽しむために作られた糞以下の最低な魔道具だがな。鷹尾たちめ、こんな胸糞悪い化け物屋敷に僕たちをおびき寄せて罠に嵌めて殺せると思っているなら、とんだ計算違いだ。僕たち「アウトサイダーズ」から見れば、悪趣味なだけの茶地な子供だましのトラップだ。お前たちは自分から拷問部屋に入って、自分で自分の首を絞めている状況なんだろうけどな。鷹尾、お仲間の六人、それに「白光聖騎士団」のクソ雑魚聖騎士ども、犯罪ごっこ程度のお粗末で糞みたいな犯罪しかできない三流犯罪者のお前らに、本物の犯罪すら軽く捻り潰すほどの圧倒的な復讐を、計算外なんて言葉も生温い、苦痛と恐怖と絶望に満ち溢れた最凶最高の処刑ショーのフィナーレをたっぷりと味わわせてやる。覚悟するがいい。」
僕は元「弓聖」鷹尾たち一行の立てこもるブラッディ・モンスター・ハウスを睨みつけながら、鷹尾たち一行への復讐を露わにした。
「さて、千里眼でハウスの中を調べさせてもらうとしよう。ふむ、なるほど。正面入り口から見える三つの塔の上、北西にある塔の上、西側にある二つの塔の上に、弓を使う第六部隊の連中がいる。塀を越えた向こう側、敷地の南側に、魔法を使う第三部隊と槍を使う第五部隊が一緒にいる。敷地の東側に双剣を使う第二部隊と回復術を使う第四部隊が一緒にいる。正面入り口のゲートをくぐって行った先の長い通路に、ロングソードを使う第一部隊がいる。んっ!?隊長のアーロンの奴がいない。奴の姿が見えないな。いや、いたぞ。中央の馬鹿でかい塔の一階に一人でいるな。隊長の癖に部下をほっぽって別行動か?クソ勇者もどきの考えてることはよく分からん。ええっと、中央の塔に、二階より上に鷹尾たちがいる。一人一フロワーずつに分かれている。一番厄介な中央の塔で僕を迎え撃つつもりらしい。まぁ、無駄な悪足掻きに過ぎないけど。塔の屋上に黒いランタンが置いてある。なるほど。ランタンを置いた場所から半径500m以内の空間に降り注ぐ光を反射して、暗闇を作り出す魔道具か。光を反射する結界を展開する以外に効果はないようだ。元聖騎士の吸血鬼たちのための日除け対策か。おっと、いけない。第七部隊も探さないと。ああっ、いた、いた。ハンマー使いの第七部隊は、敷地内の西側の広い建物の中にいる。第七部隊は、他の部隊とは連携していないようだ。隊長が小心者だから、またこの前みたいにコソコソ隠れて、あわよくば不意打ち狙いというわけか。本当にクソ雑魚勇者もどきの、聖騎士団失格のクズどもだな。最後までまとまりがなくて、仲間思いの奴が一人もいない、最低最悪のチームだな。今の最高指揮官は平気で仲間も部下も見捨てる、あの鷹尾だしな。ブラッディ・モンスター・ハウスにも入れられ、聖騎士団の絆なんて、最早皆無に等しいんだろうな。敵の警備体制は分かった。ある程度準備はしてきたようだが、お前らにとって最高に相性の悪い組み合わせで攻撃して、一気に地獄へ落としてやるとしよう。クックック、命賭けのギャンブルだの、浮ついた言葉を言って反撃を考えているその腐った脳味噌を僕の銃で木っ端微塵に吹き飛ばしてやるよ。」
僕は千里眼でブラッディ・モンスター・ハウスの中を概ね調べ終えると、他の六人の仲間たちに向かって言った。
「みんな、僕の話を聞いてくれ。これより、「鳥籠作戦」の最後の討伐任務の内容について説明する。僕の指示に従って、各自敵を撃破してほしい。まず、第一部隊に向けて僕が奇襲攻撃をかける。それを合図に、みんなをブラッディ・モンスター・ハウスの中へと転送する。転送後、速やかに各自、目の前にいる敵を撃破してくれ。敵は一人残らず、皆殺しだ。やり方は各自に任せる。尚、「白光聖騎士団」の隊長たちは強化改造されたヴァンパイアロードだ。十分、注意してくれ。第三部隊と第五部隊の相手は、グレイと酒吞に任せる。大魔導士もどきはリッチーの能力を持っていて、魔法攻撃を多用してくるのと、痛みを感じない体質が武器だ。槍聖もどきは、グローツラングの能力を持っていて、目から発する遅効性の死の呪いと、全身から牙を生やして攻撃するのが武器だ。グレイ、酒吞、よろしく頼む。」
「OK、ジョー。酒吞の姉御とタッグを組んで敵をぶっ殺せか。アタシらに任せれば楽勝じゃんよ。なぁ、酒吞の姉御?」
「まぁな。けど、油断はすんなよ、グレイ。俺たち二人なら余裕かもしれねえが、相手は俺たちを殺して生き残るために血眼で飛びかかって来る狂犬みたいな吸血鬼どもだ。油断しているところを噛み付かれて足元をすくわれるようなことになったらいけねえ。丈、俺がしっかりグレイをリードするから心配は無用だ。俺たち二人に任せろ。」
「二人なら大丈夫さ。多分、敵は碌な連携も取れない連中だからさ。さて、第二部隊と第四部隊の相手は、エルザと鵺に任せる。剣聖もどきは、サラマンダーの能力を持っていて、口から吐く高熱の火炎に、六本の腕から繰り出す剣が武器だ。聖女もどきは、パズズの能力を持っていて、翼から熱風を起こす能力と、熱風と共に致死性のウイルスをばら撒く能力が武器だ。エルザ、鵺、二人で協力して敵を撃破してくれ。頼んだよ。」
「了解だ、ジョー殿。鵺殿と連携して確実に敵を仕留めてみせる。よろしく頼む、鵺殿。」
「こちらこそよろしく、エルザ。敵の能力は概ね理解した。聖騎士崩れの吸血鬼どもは私とエルザで一匹残らず、駆除する。私たちに任せてもらって大丈夫。」
「ありがとう、二人とも。次に第七部隊の相手だが、玉藻、君に任せる。槌聖もどきは、ゴーレムの能力を持っている。ゴーレム以上の怪力と、全身が硬い金属や鉱石で構成された頑強な皮膚による防御、それと、胸の中央の魔石、コアを破壊されない限り、何度でも再生できる能力、この三つが武器だ。脳を破壊しても倒せない点が通常のヴァンパイアロードとは大きな違いだ。ただ、魔石を破壊されたら、あっさり死ぬ。不利だと悟ればすぐに逃げ出すような奴だ。逃げられないよう注意して、確実に止めを刺してくれ。頼んだよ。」
「かしこまりました、丈様。敵の手の内が分かっていれば、暗殺は容易いものです。確実に敵を全員、始末いたします。お任せください。」
「ありがとう、玉藻。最強の暗殺者の君なら安心して任せられるよ。次に、第六部隊の相手はスロウ、君に任せる。弓聖もどきは、グリフォンの能力を持っている。グリフォン以上の飛行能力とスピードに、グリフォン並みに強化された超視力が武器だ。コイツは他の隊長たちよりは多少、冷静で頭が切れる。けど、ブラッディ・モンスター・ハウスの中にいるため、飛び回れる範囲には限界がある。それと、自分の能力や頭の良さを過大評価しているところがある。そこを計算外の敵であるスロウ、君に攻撃されれば一気に隙が生じる。各塔の上にいる弓使いは全員、撃破してくれ。敵の援護射撃要員の一掃は君に任せる。君のペースで、思う存分暴れて敵を殺してくれ。任務が終わったら、休んでもらってOKだ。期待しているぞ、スロウ。」
「OK、ジョーちん!スピード重視の敵の相手ならマジでウチにピッタリだっしょ!さっさと任務を終わらせて、ウチはのんびり見物でもしてるっしょ!怠惰の堕天使の本気を見せてやるっしょ!」
「心強い限りだ。堕天使から攻撃されるなんて、絶対に鷹尾たちは考えてもいないだろうからな。予想外の伏兵の登場に慌てる連中の姿が目に浮かんでくるよ。作戦開始予定時刻は、午前11時30分とする。第一部隊への奇襲が完了したら、みんなを各自担当の持ち場へと転送する。みんなが戦っている間に、僕は中央の塔にいる鷹尾たちを始末する。元「弓聖」たち一行はこの僕が全員、地獄に叩き落す。それじゃあ、処刑ショーのフィナーレの幕を開けるとしよう。」
僕は笑みを浮かべながらそう言うと、全身にさらに銀色の霊能力のエネルギーを重ねて纏うと、一気に空へと飛び上がった。
第一部隊がいる、正面入り口のゲートをくぐって行った先にある長い通路の上空へと向かって僕は一人、飛んで行った。
午前11時27分。
新隊長のフィンレー・ボールド・サンライト率いる「白光聖騎士団」第一部隊は、昨夜から「黒の勇者」こと主人公による攻撃に備え、寝ずに警備に当たっていた。
金色の短髪に四角い銀色のフレームの眼鏡をかけた、身長180cmほどの20代前半の、茶色いフード付きのローブを上から羽織り、白い鎧に白いロングソードを身に着けている、細身で長身の元聖騎士の男性が、少々イラついた表情を浮かべながら、不満を口にした。
「くそっ!?一体、いつになったら、「黒の勇者」は攻めて来るんだ?襲撃予告が届いてからとっくに半日は過ぎているぞ!せっかく隊長に昇格したのに、目障りだったアーロン前隊長がいなくなったと言うのに、これでは私の活躍する機会は来ないのではないか?本当に「黒の勇者」は私たちを攻めて来るつもりがあるのか?このままでは、無駄に時間と体力を消費して、ハウスに食われて自滅することになりかねんぞ?敵が私たちの自滅狙いなら、このままこうして警備をしているのは無意味ではないか?」
「フィンレー隊長、お気持ちは分かりますが、タカオ様は「黒の勇者」は必ずこのブラッディ・モンスター・ハウスへ乗り込んでくる、我々を直接殺害しようとしてくる、そう断言できると、仰っていました。敵がこちらのスタミナ切れを狙って攻撃してくることも予想されます。ですが、ここで第六部隊と連携して一気に敵を仕留めることができれば、我々第一部隊の評価は上がります。フィンレー隊長が「黒の勇者」を討ち取れば、隊長が総団長のポストを手に入れることもできる絶好の機会ではありませんか?」
「確かにそうだな、副隊長。ここで手柄を上げれば、この私、フィンレー・ボールド・サンライトが「白光聖騎士団」の総団長になるのも夢ではない。私は無策で敵に突っ込み、簡単に敵の罠に嵌まる、無能な前隊長とは違う。副官である私の忠告を度々無視し、無茶な正面突破ばかりの作戦を行うアーロンとは違う。この長い廊下は塀と塀に囲まれた一本道。前後から攻めてこられても隊列を組んで面を作り、一気に押し通すことができる。廊下の前後は、ブルックリン総団長率いる第六部隊がいる塔にも挟まれ、上空からの援護射撃もある。乱戦になったところで生まれた隙を遠近両方から確実に突ける戦法だ。敵に姿をわざと晒し、誘い込んで油断したところを確実に仕留める。この大胆ながら計算された私の戦法に間違いはない。」
「仰る通りです、フィンレー隊長。フィンレー隊長の作戦ならば、きっとあの憎き「黒の勇者」の首を討ち取ることができます。どこかの無能な前隊長が勝手にいなくなってくれて、本当に良かったです。」
「ハハハ!本当にそうだな!ヴァンパイアロードカスタムレイスとやらになっても大して前とは変わらず、隊長としてほとんど役立たずだったからな!本当にあの馬鹿がいなくなってくれて、私もお前もようやく、のびのびと仕事ができるな!」
第一部隊の新隊長フィンレーは、新副隊長と笑いながら話をするのであった。
フィンレーたちが呑気に話をしている廊下の上空、フィンレーたちの頭上30mの空中に、認識阻害幻術で姿を消し、フィンレーたち率いる第一部隊へ奇襲攻撃をかける用意をしている「黒の勇者」こと主人公が待機していることを知らずにだ。
午前11時30分。
「アーロンの奴は隊長をクビになったのか。だが、フィンレーとか言う新しい隊長も馬鹿だな。お前らの生半可な攻撃や作戦が僕に通用すると本気で思っているんだからな。お前らはここで僕に全員、あっさり始末され、地獄に落ちる運命なんだよ。調子に乗るな、元聖騎士のクソ吸血鬼ども。さてと、それでは、処刑ショーのフィナーレの開幕だ!」
僕は処刑ショーのフィナーレの開幕を宣言すると、全身に纏う紫色の霊能力のエネルギーをさらに解放した。
「浮闇沈闇!」
僕は、僕の半径10m以内の空間の重力を操作し、光を屈折させ、重力の方向をランダムに変え、重力のバリアーを僕の周囲に生み出した。
重力を屈折させた影響で、僕の体は半径10mの球状の闇に覆われたようになった。
僕は右手に持つ黒い拳銃を、中央の塔の屋上へと向けた。
屋上に隠すように設置してある、ブラッディ・モンスター・ハウスを闇へと変える黒いランタン型の魔道具が狙いだ。
千里眼で透視しながら、黒いランタン型魔道具に照準を定めた。
紫色の霊能力のエネルギーを右手に持つ黒い拳銃へと纏わせ、シリンダーに霊能力の弾丸を作って込める。
「お前たちに有利な条件で戦わせることを僕が許すはずないだろ?たっぷりと日光を食らえ、クソ吸血鬼ども!」
僕は拳銃のトリガーを引いた。
バーン、という大きな音を立て、拳銃から紫色の霊能力のエネルギーの弾丸が、中央の塔の屋上に設置してある黒いランタン型魔道具を、魔道具を隠す屋根の一部と共に木っ端微塵に吹き飛ばした。
直後、ブラッディ・モンスター・ハウスを包んでいた闇が一斉に消え、上空から地上にいる「白光聖騎士団」の元聖騎士のヴァンパイアロードたちに向かって、日光が降り注いだ。
「ぐわっ!?ま、眩しい!?」
「は、肌が焼ける!?」
「くそっ!?フードを被れ、全員!?」
真下に見える第一部隊のヴァンパイアロードたちが日光を浴びて混乱する隙を付いて、僕は認識阻害幻術を解除すると同時に、黒い球状の闇に覆われた姿を現し、闇の中から真下にいるヴァンパイアロードの頭部目がけて、黒い拳銃を連射した。
僕の霊能力の弾丸が次々にヴァンパイアロードたちの頭部へと命中し、頭に大穴を開け、脳味噌を吹き飛ばしていく。
「くそっ!?何だ、あの黒い球は!?全員、斬撃を放てー!?」
隊長のフィンレーが部下たちに指示し、光の斬撃を放って、僕の纏う黒い闇のバリアー目がけて攻撃するが、光の斬撃は重力操作の屈折効果により、全て弾かれ、あらぬ方向へと飛んで行く。
「くそっ!?斬撃が全て弾かれる!?もっと放てー!?黒い球を斬れ、お前ら!がっ!?」
フィンレーが必死になって光の斬撃を放って攻撃しながら部下に攻撃するが、僕の放つ弾丸が容赦なくフィンレーの頭を貫き、頭部を吹き飛ばした。
隊長のフィンレーが死んでさらに動揺する第一部隊の元聖騎士たちに対し、間髪入れず弾丸を連射し、元聖騎士のヴァンパイアロードたちの頭部を吹き飛ばす僕であった。
ブルックリン率いる第六部隊の連中が風の矢を放って援護射撃を行うが、風の矢も僕が纏う闇のバリアーの、重力の方向変化の影響を受けて全て弾かれ、あらぬ方向へと飛んでそのまま霧散していく。
「くっ!?私の強化した矢まで弾かれるだと!?「黒の勇者」、一体何をしている!?あの黒い球体は結界か!?全員、球体の中心を狙って撃て!集中攻撃で奴を仕留めるんだ!」
ブルックリンが空中を飛びながら指揮する中、僕はブルックリンに拳銃を向けた。
「一点集中で攻撃しても無駄だっての。お前らの相手をしているほど暇じゃないんだよ、クソ弓聖もどきども。」
僕はそう言うと、ブルックリンの左の翼に狙いを定め、弾丸を放った。
超高速で放たれた弾丸に焦りから対応が遅れ、左の翼を弾丸で撃ち抜かれ、翼を破壊され、東の塔の屋上へと墜落していくブルックリンであった。
「がぁー!?くそぉー!?」
ブルックリンの墜落する姿を見ながら、僕はハウスの外にいる仲間たちを一気に瞬間移動でハウスの中へと転送した。
「アウトサイダーズ」の仲間たちが突然、自分たちの目の前に現れたことで、ハウス内にいる第一部隊以外の各部隊の元聖騎士たちは皆、驚きの表情を浮かべ、激しく動揺している。
ブルックリン外五名の隊長たちはかなり慌てている様子だ。
「敵は僕一人じゃない。むしろ、僕より僕の仲間の方が強い。僕たち「アウトサイダーズ」を本気で怒らせたことを、たっぷりとその身で味わいながら地獄に落ちるがいい、元聖騎士のクソ雑魚吸血鬼ども。第一部隊は全滅した。最初の任務完了だ。それじゃあ、鷹尾たちのところに行くとしますか。約束通り、死神が迎えに来たぞ、悪党ども。」
僕は一度、闇のバリアーを解除すると、元「弓聖」鷹尾たち一行のいる中央の塔へと飛んで向かうのであった。
5分ほど時は遡り、午前11時30分。
ブラッディ・モンスター・ハウスの最上階に、鷹尾とプララルドの二人はいた。
二人のいる最上階の部屋の窓から突如、眩しい光が差し込んできた。
その直後、第一部隊のいるハウスの南東側の、正面ゲートから続く廊下から、第一部隊のヴァンパイアロードたちの悲鳴が、二人の下にも聞こえてきた。
異変を察知したプララルドが、鷹尾へと話しかけた。
『スズカ、ついに攻めて来たぜ、「黒の勇者」の奴が!くそっ!?ずっと攻めて来ねえと思って待っていたが、やっぱり「ネバーエンド・ナイト」を破壊してきやがった!野郎、日が高く昇るこの時を狙って攻めてきやがった!あの程度の小細工は通用しねえか!本当にムカつくクソ勇者だぜ!な、何だ、ありゃあ!?あの黒い球は何だ、一体!?』
「どうしたの、プララルド!?黒い球って、一体、何を言っているの?」
『視界を共有するから、一緒に透視して外を見てみろ、スズカ!』
プララルドに言われ、プララルドと視界を共有し、塔の壁を透視して外を見た鷹尾は、塔の外に広がる光景を見て、思わず驚いた。
「あの空に浮かぶ黒い球体は何なの!?第一部隊の攻撃が全て弾かれてしまっているわ!?それに、黒い球体から高速で何か攻撃が放たれている!「黒の勇者」が黒い攻撃魔法を使うという情報があったけど、それの応用かしら?第六部隊が援護射撃をしているけど、全く無傷だなんて、あの黒い球体は想像以上に厄介だわ!」
『あの黒い球は全ての攻撃の軌道を捻じ曲げる効果があるようだぜ!敵の攻撃のパワーもスピードも属性も関係なしに無効化していやがる!デタラメな防御力の結界だぜ、アレは!?くそがっ、本当に厄介な能力をいくつも持っていやがる!クソリリアめ、マジで準天使級の化け物を作って寄越してきやがった、くそっ!?』
「落ち着いて、プララルド。私たちを殺せない限り、宮古野君、「黒の勇者」も私たち同様、このハウスからは一生、出られない。彼は必ず、私たちを殺すためにこのデス・タワーへと乗り込んで来る。このデス・タワーに仕掛けられた罠を全て攻略しながら、私たち全員を相手に戦うのは、「黒の勇者」も相当、力を消耗するはずよ。無事、私たちの下にまで辿り着けたとしても、その時には彼はもう、大分弱っているはず。消耗した敵を相手なら、いくら規格外の戦闘能力を持っているとしても、私たちなら「黒の勇者」を倒すことは決して不可能ではない。そうでしょ、プララルド?」
『ふぅー。確かにその通りだぜ、スズカ。そのためにこのデス・タワーの最上階で陣取ることを決めたんだ。この命を賭けたギャンブルの主宰者は俺様だ。俺様の仕掛けたこのギャンブルのルールに沿って、「黒の勇者」の奴は戦わなくちゃいけねえ。準天使級だろうが、このデス・タワーに入れば、奴は必ず力を消耗する。弱った奴を洗脳して、その隙をついて一気に仕留めることもできなくはねえ。「黒の勇者」、お前が乗り込んできた度胸は認めてやるぜ。だが、ゲームマスターである俺様には絶対に勝てねえ。お前が俺様のギャンブルで勝ち続けることは100%ねえんだよ。ギャハハハ!』
「調子を取り戻してもらったようで何よりよ、主宰者さん。んっ、見て、プララルド!黒い球体が消えていくわ!球体の中から人が!えっ、ちょっと待って!?アレが宮古野君、「黒の勇者」?髪が紫色、服装も違う?言え、あの顔は確かに「黒の勇者」だわ!でも、あんな姿は情報には無かった!変身して強化する能力を持っている、ということ?それに、何故、銃を持っているの?この異世界に銃はないはずよ!?まさか、銃の製造にまで成功したと言うの?くっ!?第一部隊のヴァンパイアロードたちを全滅させた威力からして、あの銃が高性能なのは間違いない!大口径のリボルバータイプに見えたわ!でも、弾丸の連射速度や弾数は自動小銃並みの性能に見えた!拳銃まで持っているなんて、想定外だわ!彼に接近し過ぎれば、一瞬で返り討ちに遭う可能性も否定できない!スポンサーのラトナ公国が銃の開発に成功して、宮古野君に提供したとしか考えられないわ!」
『おい、スズカ、「黒の勇者」が持ってるあの銃とか言う武器、そんなにヤバい武器なのか?あんな武器は俺様も見たことがねえ。グリラルドの奴も持っていねえはずだ。もしかして、お前が元いた世界の武器なのか?あの武器の性能について知っていることを教えろ。』
「はっきりと見たわけじゃないけど、アレは拳銃と言って、私が元いた地球の武器よ。形からして、リボルバーと呼ばれるタイプなのは確実。しかも、大口径のタイプよ。通常は火薬と鉛なんかを使った弾丸を高速で発射し、一撃で敵を仕留めることができる武器よ。弓よりも射程は短いけど、その破壊力は桁違い。あのリボルバーなら、牛一頭を一撃で軽く、確実に弾丸で貫いて殺せる。普通なら五発から八発くらいしか連射ができない。けど、「黒の勇者」の持つ銃は、通常の性能とは違って、何十発も連射できた。弾丸のスピードと威力も、普通のモノとはまるで別物だった。恐らく、魔力を使って威力やスピードを強化しているのは間違いないわ。科学技術がこの異世界より進んでいる私たちの世界では、対人兵器としては比較的新しい方で、有名な武器よ。至近距離で撃たれたら、まず確実に死ぬわよ、私たちでもね。」
『な、何だと!?くそっ!?そんなヤバい武器を持っているだと!?何でそんな異世界のヤバい武器を奴が持っているんだ?元はただの根暗なガキだって話じゃなかったか?ラトナ公国とやらが銃を作って「黒の勇者」に渡したかもしれねえだと!?くそっ、ラトナ公国、あの国も想像以上に厄介だと分かったぜ!銃なんぞを大量に作られて攻撃されたら、絶対に後で面倒臭ええことになる!「黒の勇者」を殺して、ゾイサイト聖教国を手に入れたら、すぐにラトナ公国をぶっ潰すぞ、スズカ!面倒事の種は早く摘んでおくに越したことはねえぜ!道理で奴の攻撃からほとんど魔力を感じなかったはずだぜ!火薬を使った高性能の最新の武器を使ってきやがるとは、本当に一々、癪に障るクソガキだぜ!』
「銃の製造に関する知識を「黒の勇者」がラトナ公国に提供して、ラトナ公国が実用段階にまで開発に成功した、そして、開発した銃を「黒の勇者」に提供した、と考えられなくもないわ。私たちと戦うこの日に偶然、銃の開発が間に合って実戦投入してきた、とも考えられるわね。ラトナ公国の技術力は確かに侮れないわ、プララルド。銃の製造技術は欲しいけれど、こちらに牙を剥くための道具に使われるようなら、国ごと製造技術を葬るのも仕方ないわね。まぁ、「黒の勇者」を殺して、彼の銃を手に入れてこちらの武器として作るのも悪くはないと思うけれど。」
『なるほど!ソイツは良い考えだぜ、スズカ!「黒の勇者」を殺して銃の製造技術を手に入れるか!上手くいけば、量産した銃を兵隊どもに与えて他の国の人間ども、それに魔族どもを楽に殺せるようになる!カッカッカ、異世界のヤバい武器が俺様たちのモノになるかもしれねえ!面白くなってきたぜ!』
プララルドは鷹尾から、銃の製造技術を主人公より手に入れる話を聞き、面白そうに笑った。
だが、ふたたび、驚愕の事実に気が付き、プララルドはあまりの衝撃に思わず、声を上げてしまった。
『なっ!?どうゆうことだ、コイツは!?何で、何でスロウラルドの気配がしやがる!?お、おい、あの緑色の女は、第六部隊と戦っている女の方から、スロウラルドの気配がするぞ!?一体、どうゆうことだ!?ま、まさか、あ、あのグウタラ女、俺様たちを裏切りやがったのか!?クソ女神と「黒の勇者」に味方したってのか!?あのグウタラ女、クソ女神と「黒の勇者」に俺様たちを売りやがったな!?チキショーがっ!?「黒の勇者」がこれまで俺様たちの裏をかけた理由がやっと分かったぜ!スロウラルド、あのグウタラ女の裏切り者が、俺様たちの能力の秘密を「黒の勇者」に喋ったに違いねえ!?自分だけあのクソ女神に媚びを売って、俺様たちを売って助かろうとしたわけだな!?散々、クソ女神と勇者ども、それに人間どもに苦しめられたのを忘れたのか!?スロウラルド、もうテメエは仲間じゃねえ!俺様の部下でもねぇ!あの裏切り者は後で必ず殺す!絶対にな!』
「スロウラルドがあなたたちを裏切った!?「黒の勇者」に味方しているですって!?確か、時間を操る能力を持つ怠惰の堕天使だったわね?くっ!?まさか、堕天使の中に女神や勇者にまだ協力する者が残っていたなんて!?スロウラルドが「黒の勇者」とタッグを組んでここに攻めてきたら、私たちの勝率はさらに下がりかねない!時間を操られるのは厄介だわ!「黒の勇者」に買収されるのは完全に想定外だったわ!スロウラルドの回収を急ぐべきだった!こうも計算外の手を次々に使ってくるなんて!やっぱり、彼の危険性は侮れない!あの日、確実に処刑しておくべきだったわ!彼の死体の確認を怠ったのが、こんなミスを招くなんて!けど、こちらにはまだ、十分に戦える用意はある!私の立てた戦略なら、確実に「黒の勇者」もスロウラルドも仕留められる!最後に勝つのは私よ、「黒の勇者」!」
スロウがプララルドたちを見限り、「黒の勇者」こと主人公とともに、自分たちの討伐に協力している驚愕の事実を知り、怒りと闘志を露わにするプララルドと鷹尾であった。
午前11時35分。
僕は元「弓聖」鷹尾たち一行のいる、ブラッディ・モンスター・ハウスの中央にある、八階建ての灰色の巨大な塔の入り口前へと、空から降り立った。
千里眼で塔の中を、僕は改めて詳しく調べていく。
「なるほど。各階層ごとに、殺し合いに関する特別な追加ルールと罠があるわけか。どれも悪趣味なモノばかりだ。まぁ、僕からしたら全然大したことはない、小細工や玩具程度のトラップだけども。デス・タワーなんて糞みたいなネーミングが本当にムカついてくるな。人間同士の殺し合いを見て楽しむための魔道具なんて、ぶち壊すに限る。この化け物屋敷をぶち壊すのは最後だ。鷹尾たちを皆殺しにするのが先だ。最初の相手は、あのクソ勇者もどきの元聖騎士か。はぁー。本当にしつこくて面倒なクズ野郎だな。やっぱりあの時、手加減せずにさっさとその場で殺しておけばよかった。クズは生かしておいても悪党に成り下がるのが関の山だと、よく分かった。正確には、更生の余地なんて一切ない、どうしようもないクズなんだけれども。さて、それじゃあ、中に入ってとっとと処刑するとしよう。」
僕はため息をつきながら、デス・タワーの入り口の扉を開けると、デス・タワーの中へと入っていった。
デス・タワーの中だが、床から天井までの高さが100m、横100m、奥行き100mという空間が広がっていて、外観以上の広い空間が各階を構成している。明らかに、ダンジョンのように、既存の物理法則を超えている。
それと、各階に人体のパーツや人間の姿を模した、白くて奇妙で不気味なさまざまな彫刻がいくつも並んでいる。
床には赤いカーペットが敷かれ、両側の壁には窓があり、光が差し込んでくるが、どこか薄暗い感じだ。
奥に階段があり、螺旋階段のようになっていて、階段を上ると次の階へと続く大きな黒い両開きの扉がある。
さて、僕が今いる一階だが、周囲には、白い石でできた両手の無い裸の人間の彫刻がいくつも広い室内に建っている。
不気味な彫刻がいくつも建つ広い室内のちょうど中央に、階段への入り口に背を向けるような形で、全身に白いフルプレートアーマーを着た、腰に金色のロングソードを提げた20代前半の金髪の若い男が一人、赤色の瞳で僕の方を真っ直ぐに見つめながら立っていた。
「白光聖騎士団」の元聖騎士で、元第一部隊の隊長、アーロンであった。
「久しぶりだな、「黒の勇者」。直接顔を合わせるのは、これが二度目か。12日ぶりにまた、こうして会うことになるとはな。貴様が来るのをずっと待っていたぞ。」
「こっちはお前の顔なんて二度と見たくなかったんだが。一つ言わせてもらうが、お前、元は「白光聖騎士団」の総団長だろ?勇者の血を受け継ぐ、女神に仕える正義の使徒である聖騎士だったはずだろ?それが、女神に弓引くテロリストで極悪犯罪者の鷹尾たちと手を組んで、自分の守ってきた国を乗っ取る悪事の片棒を担ぐなんて、恥ずかしくはないのか?おまけに、人間を辞めて吸血鬼に成り下がるなんて、大した信仰心だな、おい?女神も、聖教皇も、今のお前の姿を見たら幻滅すること間違いなしだぞ?これ以上、生き恥を晒すことに一体、何の意味があるんだ、クソ雑魚勇者もどき?」
「黙れ!「黒の勇者」、貴様が僕たちから全てを奪い、処刑へと追い込んだことが原因だ!貴様によって磔にされ、処刑され、世界中から笑い者にされ、地位も名誉も誇りも家族も、僕たちは全てを失った!貴様への恨みが、僕たちをここまで突き動かしたんだ!そして、今の僕にあるのは、「黒の勇者」、貴様との決着を着けることのみだ!団長の地位も、第一部隊隊長の地位も捨てた!ただ、貴様を斬るための剣だけが僕には残された!僕の剣で貴様を必ず斬り、貴様に勝つ!覚悟は良いか、「黒の勇者」!」
アーロンは僕への恨みと闘志を露わにしながら、体を青白い幽体のように変化させ、腰に提げた聖剣のレプリカを抜刀する構えを取った。
「誰に偉そうに物を言っているんだ、クソ雑魚勇者もどき?吸血鬼になって少し強くなった程度で、僕に勝てると思っているなら、勘違いも甚だしい。逆恨みなんぞで復讐するお前と一緒にするな。僕の復讐への覚悟は、お前のちっぽけで身勝手な逆恨みとは天と地の差があるほど、別物だ。お前たち悪党は全員、地獄に叩き落とす。本物の復讐がどうゆうものか、お前に教えてやるよ、クソ雑魚勇者もどき。覚悟があるなら、さっさとかかってこい!」
「ならば、行くぞ、「黒の勇者」!聖光一閃!」
僕の挑発を受け、アーロンが腰のロングソードを素早く抜き、横一文字に光の斬撃を僕の方へと放った。
直後、部屋の両側の壁から、アーロンに向かって無数の矢が発射されたが、幽体となったアーロンの体を、矢はすり抜けていく。
一方、アーロンの放った光の斬撃が僕の体へと直撃した。
だがしかし、光の斬撃を受けても、僕の体は無傷であった。
僕は笑みを浮かべながら、剣を構えるアーロンに向けて言った。
「これがお前の復讐への覚悟か?全然、痛くも痒くもないぞ。レイスの能力を付与された、強化改造されたヴァンパイアロードの力ってのは、この程度のモノなのか?お前の魂胆は分かっている。この部屋には、手を使って戦ってはいけない、というルールがある。ルールを破れば、壁から無数の矢が違反者へと放たれる罠が仕掛けられている。レイスのように幽体になれるお前なら、手を使って攻撃しても、罠を上手くかわすことができる。最初から剣だけで戦い復讐する覚悟も強さもお前にはない。反論したいことがあれば、どうぞ、クソ雑魚勇者もどき?」
僕に図星を突かれたため、アーロンは僕を睨みつけながらも、悔し気な表情を浮かべて、僕に向かって言った。
「くっ!?強化された僕の斬撃を生身で防ぐとは、無傷で耐えるとは、貴様こそ化け物だ、「黒の勇者」!ヴァンパイアロードカスタムレイスの能力どころか、この部屋の罠まで調べてきたのは流石だ!だが、僕の本気はここからだ!どんな汚い手を使っても僕は貴様を倒す!貴様は必ず、この剣で斬る!」
「反論は無しか。大した覚悟も実力もなく、動機も不純な悪党のお前の復讐なんて、何をしようが無駄なんだよ。今からお前に、本物の復讐への覚悟と力を、ほんの少しだけ見せてやる。最期までよ~く見るがいい。浮闇沈闇!」
僕は全身から紫色の霊能力のエネルギーをさらに解放した。
僕の全身が紫色の霊能力のエネルギーをより一層強く纏うと同時に、僕の半径5m以内の空間の重力の方向が複雑に変化し、光を屈折させ、僕の体の周囲が黒い球状の闇へと覆われた。
闇のバリアーに全身を覆われながら、僕は一歩ずつ、ゆっくりとアーロンの方へと近づいていく。
「どうした、クソ雑魚勇者もどき?さっさと攻撃してこいよ。お前の復讐はもうお終いか?なら、一撃でお前を殺して、とっととこの茶番を終わらせるとするかな?」
「ほざけ!結界を作った程度でいい気になるな!僕の真の力を味わって死ぬがいい、「黒の勇者」!」
アーロンは僕の方を見ながらそう言うと、急に全身が透明になり、僕の前から姿を消した。
その直後、室内にあるたくさんの石の彫刻が一斉に浮き上がり、闇のバリアーで覆われた僕に向かって次々に飛んでくるのであった。
たくさんの石の彫刻が飛んできて、僕を押しつぶそうと襲い掛かってくるが、闇のバリアーによる重力の方向変化が、飛んで来る石の彫刻を全て弾き返し、彫刻はあらぬ方向へと飛んで行き、床や壁、天井にぶつかって砕け散っていく。
飛んで来る石の彫刻を闇のバリアーで防ぎながら、僕は千里眼で周囲を探る。
「透明化の能力を使って姿を消しながら、念動力を使って彫刻をぶつけて攻撃するか。悪くはないアイディアだ。けど、その程度の念動力じゃ、僕の闇のバリアーは突破できないぞ。魔法も物理も、あらゆる攻撃を僕の闇は防ぐ。さてと、フィニッシュと行こうか。」
僕は、透明化しながら僕の背後へと回り、剣を振りかざしながら僕の方へと接近してくるアーロンの存在を千里眼で捉えた。
アーロンの幽体の右胸にある、幽体の核である魔石を見つけると、右手に持つ黒い拳銃を素早く構え、アーロンの幽体の魔石目がけて一発の弾丸を放った。
弾丸を放つと同時に、両側の壁から無数の矢が僕に向かって放たれたが、矢は全て闇のバリアーで弾かれた。
そして、僕の放った霊能力の弾丸がアーロンの幽体の右胸にある魔石を撃ち抜き、粉々に破壊した。
「ガハっ!?」
僕に核である魔石を破壊され、透明化が解け、床に剣を持って倒れ込みながら、徐々に幽体となった肉体が消滅していくアーロンであった。
闇のバリアーを解除すると、僕は床に倒れ、徐々に消滅していくアーロンへと近づき、アーロンを見下ろしながら言った。
「これが本物の復讐への覚悟と力だ。逆恨み程度の理由で行う復讐なんて、犯罪以下の下劣な行為に過ぎない。お前の復讐は結局、無駄だったわけだ。これでようやくお別れだ、クソ雑魚勇者もどき。地獄で女神に、それと、ゾーイに必死に詫びるんだな。」
「ぼ、僕は、貴様に、復讐するんだ。く、「黒の勇者」、貴様も、ゾーイも、こ、殺してやる・・・」
僕への恨み言を最後まで呟きながら、アーロンは消滅していった。
アーロンが消滅した跡には、アーロンが使っていた聖剣のレプリカだけが床にポツンと残されていた。
「最期までしつこい奴だったな、本当。地獄に落ちても、お前はずっと僕を逆恨みしたまま、碌に反省もせず、罰を受け続けるんだろうな。全部自業自得だってことが分からないんだからな。毒親どもと一緒にゾーイを散々、苦しめた罪が、それ以外にも犯してきた罪が、お前を破滅へと追い詰めたんだ。僕はあくまで処刑人であり、お前と言う悪への復讐者に過ぎない。お前みたいな悪党が聖騎士を名乗ってきたゾイサイト聖教国は、やっぱり最悪だな。さてと、クソ雑魚勇者もどきは始末した。いよいよ、ここからが本番だな。次はお前だ、化け物女。」
僕はそう呟くと、アーロンのいた場所を立ち去り、一階を攻略して、二階へと続く階段へ歩いて向かう。
二階の部屋へと続く螺旋階段を上りながら、僕は次の復讐について考えるのであった。
二階の部屋の扉の前へと着くと、僕は千里眼で二階の部屋の中を調べた。
「なるほど。これまた、悪趣味な部屋だな。化け物女にはお似合いなのかもしれないが。とりあえず、入るとするか。」
僕は部屋の感想を呟きながら、二階の部屋の扉を開け、部屋の中に入った。
部屋の中に入ると、室内は一階とほぼ同じ内装で、違いと言えば、周囲には、白い石でできた、心臓部分をえぐり取られ、心臓部分にぽっかりと穴が開いた、裸の人間の彫刻がいくつも広い室内に建っている。
そして、二階の部屋の中央には、ディープグリーンの髪に、エメラルドグリーンのメッシュが入ったポニーテールの髪型をし、右目が黄色、左目が赤色のオッドアイの瞳を持ち、左手には梃子式の木製のクロスボウを持ったヴァンパイアロードの女が、僕を待ち構えていた。
鷹尾たち一行の仲間の一人、「弓術士」の都原である。
「よう、都原。久しぶりだな。と言っても、ちょくちょくお前の顔を僕は見ていたんだが。まさか、勇者どころか人間を辞めて、吸血鬼なんぞに成り下がるとはな。イメチェンにも程があるだろ。人の生き血を吸う醜い化け物になった気分はどうだ?姫城たちもだが、化け物になるのが女の勇者の中では流行なのか?はっきり言って、理解しがたいトレンドだな。僕は絶対にそんなトレンドを真似するのは断固御免だけど。」
僕は笑みを浮かべながら、都原へ向かって、皮肉と挑発の言葉を言った。
僕の言葉を聞いて、都原は途端に怒りを露わにした。
「うっさい!アンタのせいでヴァンパイアロードになるしかなかったんだし!キモい陰キャのくせに、宮古野の分際で調子に乗るな!アンタがいくら強かろうが、私が本気を出せば、アンタを殺すなんて楽勝なんだよ!「黒の勇者」だろうが何だろうが、アンタは私がここで殺す!死ね、宮古野!」
怒る都原が突然、蛇のような黄色い瞳を持つ右目から眩しい光を放った。
だが、全身に紫色の霊能力のエネルギーを身に纏う僕には、都原が放つ石化の呪いの光は無効化され、通用しない。
「なっ!?石化しない!?くそっ、本当にムカつく!」
「これがLv.199のエクステンデッド・ヴァンパイアロードの力か?全然、大したことないな。石化の呪い程度、僕に通用するわけないだろ?僕が死の呪いを無効化できることを知らないのか?敵の能力のリサーチぐらい、事前にやっておけよ。後、お前が何を考えているのか、当ててやる。この部屋には、敵に血を流させてはならない、というルールがある。ルールを破れば、違反者の足元の床から炎が吹き上がり、たちまち全身を燃やされる、という罠が仕掛けてある。だから、お前は石化の呪いを使って攻撃し、僕を石に変えて、僕に血を流させずに殺そうとした。そんなところだろう?ちなみに、お前は「氷結凍射」という氷の矢を生み出し、矢で射抜いた敵を凍らせることができるスキルを持っている。そのスキルを使えば、自分は罠に嵌まることなく、僕を倒すことができるとも考えている。違うか、化け物女?まぁ、何をしてこようが全部、無意味だけどな。」
僕は千里眼で得た情報から、都原の能力や戦略を次々に言い当ててみせた。
僕に図星を突かれ、都原はひどく動揺している。
「な、何で、私のスキルを知っているの!?どうして、この部屋の罠まで知って!?い、いつの間にそこまで調べたのよ?」
「それは企業秘密だ。敵を殺すためなら、どんな敵の情報もあらゆる手段を使って調べ上げ、確実に仕留める。お前だって少しは冒険者として活動していたんだから、モンスター討伐の経験で情報収集の大切さは知っているだろ?いや、そういえば、お前、一匹もモンスターを討伐したことないんだったか?ギリギリCランク程度の実力しかないのに、Aランク以上のモンスターの討伐依頼を、それもハズレ依頼ばっかり受けて全部、失敗してたんだっけか?ヴァンパイアロードになっても、情報収集はリーダーの鷹尾に全部、任せっきりだったんだろ?道理で初手に石化の呪いを僕に使ってくるミスをするわけだ。調子に乗ってるのはお前だ、化け物女!化け物になって余計に知能指数が下がって、頭が人間の血を吸うことしか考えられないお前に、本物の復讐の味をたっぷりとご馳走してやる!浮闇沈闇!」
僕は怒りを露わにすると、霊能力をさらに解放し、僕の半径5m以内の空間の重力の方向を変化させ、光を屈折させ、闇のバリアーを作った。
黒い球状の闇のバリアーに覆われると、僕は都原に向かって前進した。
「くそがっ!?私を化け物と呼んだことを後悔させてやる!氷結凍射!」
都原がクロスボウを構えると、クロスボウの先端に氷で形成された矢を作って、トリガーレバーを引いて、僕に向かって放った。
しかし、氷の矢は、僕の身に纏う闇のバリアーのせいで弾かれ、あらぬ方向へと飛んで、壁にぶつかって砕け散った。
「なっ!?だったら、撃ちまくるまでよ!」
都原がクロスボウに氷の矢を作り、後ろに後退しながら氷の矢を連射するが、氷の矢は全て闇のバリアーの重力の向きを変える効果で全て軌道を変えられ、弾かれてしまう。
焦る都原に、闇のバリアーの中から僕は話しかけた。
「ハハハ!無駄だ、化け物女!お前の氷の矢は僕には通用しない!僕にスキルを言い当てられた時点で対策されているとは考えないのか?本当に化け物並みに知能が下がってるようだな!言っておくが、直接僕に襲い掛かるのも無意味だ!お前が猛毒を仕込んだ爪や牙を武器に使ってくることも調査済みだ!僕の闇のバリアーは、魔法も物理も、ほぼあらゆる攻撃を弾き返すことができる!外での僕の戦闘の様子を窓から見ていなかったのか?弱点の日光が差してくるから、ヴァンパイアロードのお前は窓から覗きたくても覗けなかったか?あるいは、自分の能力とこの部屋の罠を過信して、碌に見て調べようとしなかったのか?どっちでも構わないが、お前の後ろには階段しかないぞ?上の階にいる連中の下まで逃げるつもりか?僕がこのままお前をみすみす逃がすと本気でそう思っているのか?他に反撃の手段が無いようなら、お前はこの場で始末する!ほら、僕の血を吸って殺してみせろよ、獣以下の化け物女!」
僕の挑発に、都原はさらに怒りまくる。
「くそがぁー!?コソコソ、バリアーに隠れてる腰抜けが調子に乗んな!?隠れずに出てこい、「黒の勇者」!」
僕は重力を操作し、重力による光の屈折を一部変更し、闇のバリアーの一部を取り払い、闇の中から首だけを、都原へと見せた。
「別に隠れているわけじゃあなくて、全面にバリアーを張った方が防御には効率が良いってだけなんだけど。全方位型の防御結界なんて、見慣れているはずだろうが?まぁ、良いや。ご要望通り、首だけだが、隠れずに出て来てやったぞ。反撃したいなら、一回だけチャンスをやるよ。血を吸いたいなら、吸ってみろよ?100%、無理だろうけど。」
「はっ!調子に乗るな!私の能力を舐めるな!」
都原はそう言うと、都原のポニーテールの髪型が崩れ、髪がさらに長く伸び、触手のようにうねうねと動き回りながら、僕の首へと巻き付いた。
「アハハハ!私は髪からも血が吸えるのよ!このまま首を絞めながら、全身の血を吸い取ってあげる!ざまぁみろ、宮古野!」
都原が高笑いしながら、触手のように伸ばし、僕の首へと巻き付けた自分の髪より、僕の血を吸い取って殺そうとしてくる。
そんな都原の顔を見ながら、僕は笑みを浮かべて、都原に言った。
「何を勝ち誇ったように笑っているんだ、化け物女?よく自分の髪を見てみろ。お前の髪が僕の血を一滴でも吸い取っているか?僕の首を絞めているはずなのに、僕がこうして息をして、お前に平気な顔で話しかけているのはおかしいと思わないのか?やっぱりお前の知能は化け物並み、いや、それ以下まで下がっているようだな。お前のパワーはこんなモノなのか、化け物女?」
「なっ!?どうして息ができんのよ!?血が一滴も吸えない!?な、何でよ?」
僕に髪の毛を使った攻撃まで通用しないと知り、都原は顔色が真っ青になった。
「単純なパワーの差、後、僕の全身に纏うエネルギーにも、ほぼ全ての攻撃を防ぐ効果が元々、備わっている。僕の容姿が変化して、さらにパワーアップしていることに今まで気付いていなかったようだな。元々のリサーチ不足に加え、敵を観察して分析する思考能力まで落ちている。それじゃあ、害獣駆除の時間だ。覚悟しろ、化け物女。」
僕は、正面にいる都原の体へと黒い拳銃の銃口を、闇のバリアーの中からそっと向けた。
黒い拳銃に紫色の霊能力のエネルギーを注ぎ込むと、トリガーに指を当てた。
「闇即不離!」
僕は都原に向けて、拳銃のトリガーを引いた。
バーン、という音を立て、拳銃から霊能力の弾丸が放たれ、都原の体の中央を弾丸が撃ち抜いた。
「カハっ!?」
都原が胸を抑えながら床へと崩れ落ちる中、僕は右側の壁に向かって、続けて二発目の弾丸を放って、壁に撃ち込んだ。
その直後、都原の体が急に浮き上がり、一気に右側への壁へと引き寄せられていく。
途中、室内に置いてある石の彫刻へと何体か激しくぶつかり、彫刻を砕きながら、都原の体は右側の壁へと強制的に引き寄せられ、そして、ピッタリと右側の壁にくっついてしまった。
全身を大の字の形に開きながら、ピッタリと右側の壁にくっついて離れず、苦悶の表情を浮かべ、必死にもがく都原へと、僕は闇のバリアーを解除しながら歩いて近づいていく。
「がっ!?か、体が離れない!?くそっ、壁にくっついて離れない!?くそっ、髪もくっついて離れない!?くそっ、くそっ!?」
「いくらもがいても無駄だ。お前の体と、お前がくっついている壁との間の引力を100倍まで引き上げた。お前の体はもう、その壁から一生、離れない。僕が能力を使って解除しない限りな。さて、お前はLv.199のエクステンデッド・ヴァンパイアロードという、超強化改造されたヴァンパイアロードらしいが、肉体の再生能力はどれくらい凄いんだ?お前はこの銃で頭を撃ち抜かれても再生できるのかどうか、非常に興味があるな。一発、弾丸をぶち込んで試してみるとしよう。さっさと復活して、僕の血を吸ってみせろよ、化け物女?」
僕は笑みを浮かべながら、都原の眉間に黒い拳銃の銃口をピッタリと突き付けた。
「ま、待って、宮古野!?アンタを馬鹿にしたのは謝るから!?処刑したのも謝るから!?私と手を組みましょう!?アンタと私が手を組めば、鷹尾も楽勝で殺せる!下長飯のオッサンも殺せる!二人でこのハウスを一緒に生きて出られるわよ!ねっ!?悪くはないでしょ!?」
必死に命乞いをし、取引を持ち掛ける都原に、僕は冷たい笑みを浮かべながら答えた。
「お前の手なんて借りなくても、鷹尾も、他の五人も余裕で殺せる。犯罪者の上に、人の生き血を啜って生きる化け物なんぞと手を組むつもりは一切ない。僕の悪党への復讐に例外はない。悪党は全員、復讐して殺す。弾丸がお前の血を吸うことしか考えることのできない腐った脳味噌を吹き飛ばさなきゃ、運よく生き残れるかもな。ゴキブリ並みのしぶとさとやらを見せてみろ、化け物女?」
僕はハンマーを起こし、トリガーに人差し指を当てた。
「ま、待って!?お願い!話を聞いて・・・」
命乞いする都原を無視して、僕はトリガーを引いた。
バーンという音を立て、銃口から勢いよく弾丸が発射され、都原の眉間を貫き、都原の頭に大穴を開けて、都原の頭を破壊した。
壁に磔にされたようにくっついて離れず、頭部に大穴が開いて、再生ができずに死んだ都原の死体を見ながら、僕は呟いた。
「再生能力は通常のヴァンパイアロードと大差ないな。完全に死んでいる。吸血鬼なんぞに成り下がって、大勢の人間の血を吸って殺した報いだ。他にもたくさん罪状があるが、僕を処刑した罪への報いもある。血の池地獄という言葉があるし、そんなに人間の血を吸いたいなら、地獄で好きなだけ血を吸えばいいさ。血を吸うのに夢中になって、血の池に落っこちてずっと溺れ続けることになるかもしれないが。地獄に落としてもらったことを感謝しろよ、化け物女。さて、ようやくターゲットの一人を殺せた。処刑ショーのフィナーレの序盤としては悪くはない。次は、クソビッチ、お前だ。」
僕は都原の死体の前を立ち去ると、二階を攻略して、三階へと続く階段へ歩いて向かう。
三階の部屋へと続く螺旋階段を上りながら、僕は次の復讐について考えるのであった。
三階の部屋の扉の前へと着くと、僕は千里眼で三階の部屋の中を調べた。
「ふむ。なるほどねぇ。これもまた悪趣味な部屋だ。そして、クソビッチ向けの部屋でもある。しっかし、あのクソビッチは何やってんだ?ストララルドの入れ知恵なんだろうが、あんな見え見えの罠にこの僕が本気で引っかかると思っているのか?これだから、クソビッチは嫌いなんだよ。」
僕は顔を顰め、不満を呟きながら、三階の部屋の中に入った。
部屋の中に入ると、室内は他の階とほぼ同じ内装で、違いと言えば、周囲には、白い石でできた、頭の上半分、額から上の部分が無い、裸の人間の彫刻がいくつも広い室内に建っている。
そして、三階の部屋の中央には、青色の髪に、エメラルドグリーンのメッシュが入った、ボリュームのある、ウェーブのかかった超ロングヘアーの髪型をし、エメラルドグリーンの瞳を持ち、腰にロングソードを提げた、上半身裸の女が、僕を待ち構えていた。
鷹尾たち一行の仲間の一人、「剣士」の妻ケ丘である。
「よぅ、妻ケ丘。久しぶりに顔を合わせたわけだが、お前、頭、大丈夫か?上半身裸になって、僕をずっと待っていたようだが、そんな見え透いたハニートラップに僕が引っかかるとか、本気で思っていないよな?二日前の夜はお楽しみみたいだったが、ついに男に飢えて見境がなくなったのか?色欲の堕天使に影響されて、本物のクソビッチになったようだな、お前?いくら何でも下品すぎる、本当に。」
僕の挑発に顔をヒクつかせながらも、妻ケ丘は前かがみになり、左手を腰に当て、胸を強調するセクシーポーズを取りながら、さらに全身を青色に発光させて話しかけてきた。
「ひ、久しぶりね、宮古野!アンタ、こっちに来てから随分、カッコよくなったじゃん!着物も超似合ってるし!「黒の勇者」のアンタとなら、つ、付き合ってあげてもいいかなぁ~!?あ、アンタになら、私の胸、好きなだけ揉ませてあげてもいいんだけど!?」
妻ケ丘の全身から薄っすらと青いガスが出て、青いガスが室内を充満していく。
僕はため息をつきながら、僕を誘惑して魅了しようと、必死にハニートラップを仕掛けてくる妻ケ丘へと向かって言った。
「はぁー。あのなぁー、妻ケ丘、お前が無理をしてハニートラップを仕掛けてきているのが丸わかりだぞ。僕がどんなにイメチェンしようが、僕がお前の好みのタイプじゃないのはちゃんと分かっている。お前の好みは、前田たちみたいな、単細胞のヤンキーだろ?僕みたいなぼっちでコミュ障の陰キャとは正反対の男が好きなはずだろ?お前の男の趣味が悪いってのは、クラス全員が知っていたぞ。お前、自分がクソビッチだって陰口を女子たちから叩かれていたのに気付いていなかったのか?僕の席は姫城たちのグループの傍だったけど、アイツらいつも、自分もクソビッチなのを棚に上げて、お前のことをクソビッチだの、ヒモ男を飼うのが趣味のダメ女だの、散々、お前のことを馬鹿にしていたぞ?異世界に来て、ますますクソビッチぶりに磨きがかかったのがよく分かった。それと、お前に一つ、朗報だ。お前の恋人の立野、ついでに元カレの前田たちもだが、全員、死んだぞ。五ヶ月、いや、四ヶ月前だったか。僕が全員、殺した。言っておくが、ラトナ公国の大公殿下から直々に処刑人の仕事を任されて、異世界の法に則って、犯罪者の連中を処刑したんだ。恨むなら、犯罪者になったあの単細胞の馬鹿どもを恨めよ。まぁ、僕が殺した動機は九割方、復讐だったけどな。待ち焦がれた恋人の死に目にも会えず、残念だったな、クソビッチ?」
僕は笑みを浮かべながら、妻ケ丘を挑発した。
恋人の立野が既に僕に殺されたと聞き、妻ケ丘はひどく動揺するとともに、僕に対して怒りを露わにした。
「う、嘘よ!?孝が、孝が死んだなんて!?デタラメを言うんじゃないわよ、陰キャ野郎!アンタ、マジで最低な男よ!アンタみたいなゲス男なんて、全然好みじゃないわよ!孝を殺したなんて、嘘をつくな、人間のクズ!」
『ちょ、ちょっと、レン、落ち着きなさいよ!せっかく立てた作戦が台無しになるじゃない!セクシーポーズを解いちゃダメよ!早く体勢を戻して!』
「うっさい、ストララルド!アンタの作戦なんて、どうでも良いわよ!アイツはやっぱり下衆野郎よ!あんな下衆野郎に媚びを売るとか、もう嫌だから!」
『お馬鹿!あなたの恋路を優先できる状況じゃないでしょ!大体、あなたの恋人があなたを置いて逃げ回っているクズ男なのは、最初から分かっていたことでしょ!目の前にいる男の方がよっぽど頼りになるのが分からないわけ?とにかく、「黒の勇者」を魅了することに集中しなさい!このまま、まともな恋もできないまま、本気で死ぬつもりなの?』
妻ケ丘と、妻ケ丘と融合する色欲の堕天使ストララルドが、僕をそっちのけで二人で言い争いを始めた。
僕は呆れた表情を浮かべながら、妻ケ丘とストララルドに向かって言った。
「醜いキャットファイトは止めろ、クソビッチども。お前ら、くだらない言い争いをしている場合か?「魅了幻夢」の能力が僕に効いていない状況にもっと危機感を持てよ。大体、男を見る目が全くない、恋愛偏差値ゼロのクソビッチなんかに、この僕が本気で魅了されるはず、ないだろ。妻ケ丘、立野が死んだのは事実だ。アイツはとっくの昔に僕が殺した。ダンジョン荒らしに、違法ドラッグの所持及び使用、強盗などの罪で、アイツはラトナ公国政府から指名手配された重犯罪者だ。だから、ラトナ公国の怒りを買って、処刑されることになったんだ。ストララルドの言う通り、立野は正真正銘のクズ男だ。立野や前田たちの死は公には公表されていない。勇者が犯罪者になったんだぞ?政治的圧力がかかって、秘密裏に処刑されたとは考えなかったのか?あんな単細胞で馬鹿で犯罪者の男と一緒になって幸せになる未来なんて、あるわけないだろうが!現実は恋愛小説みたいに甘くはないんだよ、クソビッチ!後、ストララルド、お前も妻ケ丘と大差ない馬鹿さ加減だぞ。本気でお前らを殺しに来ている復讐鬼の男に、ハニートラップなんぞ効果あるわけないだろが!性欲丸出しの馬鹿か、性犯罪者ぐらいにしか魅了の能力もハニートラップも使えないんだよ!恋愛音痴のクソビッチのお前じゃあ、作戦に穴があることに全く気付かなかったんだろうがな!お前らクソビッチは見ているだけで腹が立ってくる!本物の愛を知らないお前らに、本物の愛の力がどうゆうものか、その穢れた心と体に教えてやる!行くぞ!闇零磨滅!」
僕は激しい怒りを露わにすると、霊能力のエネルギーをさらに解放し、紫色の霊能力のエネルギーを全身に集中させ、身に纏った。
眩しく紫色に光り輝く霊能力のエネルギーを鎧のように身に纏いながら、僕は一歩ずつ妻ケ丘たちの方へ前進していく。
僕が進むにつれ、僕の周囲の空間や、僕の姿が捻じれて歪んだような光景が、妻ケ丘たちの前に現れた。
「くっ!?私はクソビッチなんかじゃあない!宮古野、アンタは私が殺す!男どもにレイプされかけた恨みはここで晴らす!孝の仇は私が討つ!」
妻ケ丘は僕への憎しみと怒りを露わにしながら、腰に提げている鞘からロングソードを抜いて構えると、僕に向かって剣を構えながら突進してきた。
妻ケ丘の両腕と剣が青く光り輝くと同時に、剣の刃がチェーンソーのように超高速で振動する刃へと変形する。
チェーンソーのように刃が変形した剣を持ったまま、僕の正面へと急接近し、僕を真っ二つに斬り裂こうと、妻ケ丘が僕に向かって縦方向に剣を大きく振り下ろした。
「死ねえー!超振動斬!」
妻ケ丘が振り下ろした、超高速で振動するチェーンソーのように変形した剣の刃に向けて、僕は左腕を斜め右上に突き出し、左拳を強く握りしめながらガードの構えを取り、妻ケ丘の剣を受け止めた。
僕のガードする左腕に、妻ケ丘の剣の刃が直撃した瞬間、剣の刃が一瞬で跡形もなく、消し飛んだ。
「なっ!?剣が消えた!?ど、どうして!?」
『早く後ろに下がりなさい、レン!ボゥーっとしちゃダメよ!』
「くっ!?」
ストララルドに警告され、慌てて後方へと、妻ケ丘は下がった。
後ろへと下がって逃げた妻ケ丘を見ながら、僕は立ち止まり、笑みを浮かべて言った。
「どうした、クソビッチ?僕のせいで囚人どもにレイプされかけた恨みを晴らすんじゃないのか?死んだ恋人の仇を討つんじゃないのか?残念だが、お前にもう、戦う武器は残されていない。お前とストララルドが何を考えていたのか、当ててやる。まず、この部屋には、この部屋の中では絶対に眠ってはいけない、というルールがある。もし、ルールを破れば、違反者は、床から飛び出る無数の槍に全身を貫かれて死ぬことになる、という罠が仕掛けられている。お前たちは僕を誘惑して、「魅了幻夢」の能力で眠らせ、僕を罠に嵌めて串刺しにして殺すつもりだった。大方、そんなところだろう?上手く能力がかからなくても、ほんの一瞬でも僕の意識を奪えれば、その隙を突いて「超振動斬」で斬り殺すつもりだったんだろ?お前たちの能力はすでに分析して対策済みだ。まぁ、クソビッチのお前らに僕が魅了されることなんて、100%あり得ないけどな。それと、今、僕が何をしたのか、教えてやる。妻ケ丘、お前の剣を空間ごと消し飛ばした。僕に触れるモノ全てを、僕は空間ごと全て削り取って、消去できる。今も常時、僕の周りの空間は削り取られていっているんだ。この力は、共に復讐の旅を続ける、とある女性との絆、本物の愛の力で得た力だ。お前たちがどんな攻撃をしてこようが、どんな防御をしてこようが、空間ごと全て消し去るわけだ。僕に体を触られたら、その時点でお前たちの肉体も魂も、空間ごと消去される。本物の愛の力を食らって地獄に落ちる覚悟はできたか、愛が分からないクソビッチども!」
僕は妻ケ丘たちの作戦を言い当てるとともに、激しい怒りを露わにした。
僕に自分たちの能力や作戦を言い当てられ、さらに僕が空間を消し去る能力を使えると知って、妻ケ丘とストララルドは動揺し始めた。
「く、空間を消去する力ですって!?そ、そんなの、どうやって防げばいいのよ!?何でよ、何で陰キャのアンタがそんな能力を使えんのよ!?アンタなんかを好きになる女がいるわけがない!?私の、私の愛が、アンタなんかに負けるわけがない!?くそっ、どうして私が下衆野郎に説教されなきゃいけないよ!?」
『空間を消去するなんて、そんな能力を使えるなんて神以外にできるわけが・・・、ま、まさか、女神と融合していると言うの!?嘘よ!?そんなこと、人間にできるわけが!?で、でも、か、神の力を感じる!?私としたことが今まで気付かなかったなんて!?レン、今すぐ逃げるわよ!この男は、「黒の勇者」はどこかの女神と融合しているわ!光の女神よりもっと高位の女神とよ!とにかく、死にたくなかったら逃げるのよ、良いわね!?』
「め、女神と融合してる!?そんな、そんなことってありかよ!?くそがぁー!?」
ストララルドに僕が女神と融合している驚愕の事実を聞かされ、逃げるように言われた妻ケ丘は、慌てて後方の、四階へと続く階段の入り口に向かって走って逃げ始めた。
僕は背中を向けて四階へと逃げようとする妻ケ丘に向かって、右手に持つ拳銃を向け、妻ケ丘の後頭部に照準を合わせる。
拳銃に紫色の霊能力のエネルギーを注ぎ込み、トリガーに指をかける。
「お前たちに逃げ道はない。本物の愛が生んだ復讐の力で地獄に落ちろ、クソビッチども。」
僕はそう呟くと、拳銃のトリガーを引いた。
バーン、という音を立てて、霊能力の弾丸が高速で発射され、妻ケ丘の後頭部へと直撃した。
弾丸が直撃した瞬間、妻ケ丘の頭部が空間ごと消し飛ばされ、消滅した。
階段の入り口の直前で、妻ケ丘の頭部が綺麗さっぱり消し飛んだ死体がバタリと倒れ込んだ。
妻ケ丘の死体の傍へと瞬間移動すると、僕はその場でかがみ、妻ケ丘の死体の首の左側にある、黒い山羊の顔のタトゥーに左手で触れながら言った。
「死んだフリなんて無駄だ、ストララルド。お前の魂がまだ、妻ケ丘の死体に宿っているのは分かっている。タトゥーの位置にお前たち堕天使の魂が宿っているのも知っている。僕に封印されて地獄にまた落ちる前に、何か言いたいことはあるか、クソビッチ?」
『勇者の癖に、本当にムカつく下衆野郎ね、あなた。あなたと融合している女神も相当、男の趣味が悪い女ね。とんだ下衆カップルを敵に回してしまったわ。とっとと別れちまえ、下衆カップル!』
「お生憎様。僕とイヴは永遠に別れられない契約なんだ。精々、地獄から僕たちのことをずっと僻んでいろ。じゃあな、クソビッチ。」
『い、イヴ!?ま、待って、あなたの恋人は・・・』
「霊魂封印!」
僕は霊能力のエネルギーをストララルドの魂へと注ぎ、ストララルドの魂を封印した。
僕の左手には、青白い色の、透明な野球ボールくらいの大きさの水晶玉のようになって封印されたストララルドの魂が握られていた。
「これで堕天使の一人の封印完了だ。余計な詮索ばかりをする女は男に嫌われるだけだぞ、クソビッチ堕天使?まぁ良い。妻ケ丘、お前に恋愛をする資格なんてない。お前に殺された大勢の人たちの中には、本物の愛で結ばれた恋人や家族がいた人たちもいたんだ。何の罪もない人間の命も、愛も奪ったお前に、誰かを愛する権利も誰かから愛される権利も全くない。愛は、人間を大事に思う心だ。自分以外の誰かを本気で守りたいという覚悟にも似た精神だ。自分を都合の良い使い捨ての道具のようにしか扱わない男ばかりに良い様に利用され続けて、お前自身も男を自分にとって都合の良い使い捨ての道具のように扱ってきた。愛が何かを分からない、恋愛音痴のクソビッチのお前が本物の愛を得る機会は永遠に巡ってこない運命だったんだよ、最初から。地獄でクズ男の元カレたちとずっと喧嘩しているのがお前にはお似合いだ、クソビッチ。さて、二人目のターゲットは始末した。次はクズ教師、お前だ。地球にいた頃に犯した罪も含めて、処刑してやるよ。」
僕は妻ケ丘の死体の前を立ち去ると、三階を攻略して、四階へと続く階段へ歩いて向かう。
四階の部屋へと続く螺旋階段を上りながら、僕は次の復讐について考えるのであった。
四階の部屋の扉の前へと着くと、僕は千里眼で四階の部屋の中を調べた。
「なるほど。これも本当に悪趣味な部屋だ。あのクズ教師にお似合いでもある。不意打ち狙いなのがバレバレだ、クズ教師ども。では、部屋に入るとするか。」
部屋に入る前に両目を閉じ、千里眼を発動したまま、僕は「浮闇沈闇」で闇のバリアーを作りながら、扉を開き、部屋の中に足を踏み入れた。
部屋に足を一歩踏み入れた瞬間、一発の矢が室内のとある場所から高速で発射され、矢が天井や壁、床を何度も反射をしながら軌道を変え、僕の足元の左側の床を反射して僕に向かってきたが、僕の半径5m以内の空間を覆う闇のバリアーに弾かれ、バリアーの重力の向きを変える効果により、軌道を変えられ左側の壁に激突して止まった。
僕は両目を閉じたまま、千里眼を使い、室内を透視しながら、黒い拳銃を室内の中央の一番右端に置かれている彫刻へと照準を合わせた。
闇のバリアーの中から、僕は拳銃より彫刻に向かって一発の弾丸を放った。
弾丸が直撃した瞬間、彫刻が木っ端微塵に吹き飛んだ。
「がっ!?」
砕け散った彫刻の破片の一部が、彫刻の後ろに隠れていた下長飯の体に直撃した。
僕は間髪入れず、魔道具で透明化して姿を消している下長飯の右肩に向かって二発目の弾丸を撃ち込んだ。
「アギャっ!?」
下長飯が右肩を左手で抑え込み、地面の下で痛みから転がり回っている。
改めて部屋の中に入ると、室内は他の階とほぼ同じ内装で、違いと言えば、周囲には、白い石でできた、両目の眼球がえぐり取られ、両目が無い、裸の人間の彫刻がいくつも広い室内に建っている。
そして、四階の部屋の中央の一番右端には、金髪に、エメラルドグリーンのメッシュが入った、仙人のようなロン毛の髪型をし、エメラルドグリーンの瞳を持ち、左手にロングボウを持ち背中に矢筒を背負った、小柄な50代前半の男が、僕を待ち構えていた。
鷹尾たち一行の仲間の一人、「弓術士」の下長飯である。
右肩の負傷の痛みからようやく立ち直り、すぐに近くの別の彫刻の後ろへと隠れた下長飯に向かって、僕は笑みを浮かべながら言った。
「よぅ、下長飯。久しぶりに元教え子が会いに来たって言うのに、顔を見せてくれないのはつれないなぁ。部屋に入った瞬間、不意打ちしてくるとは随分なご挨拶じゃないか?地球にいた頃、学校で僕に挨拶は大きな声で丁寧に元気よくしろと、耳にタコができるほどしつこく、パワハラ混じりに指導してきた癖に、自分は碌に挨拶もせず、隠れてコソコソ不意打ちしてくるとは、本当にクズ教師だな、お前。良いからとっとと姿を現して、僕と直接戦って、殺されて死ね。しょうがない、出てこないなら、いぶり出すとするか。」
僕は下長飯の隠れている彫刻に向かって銃を構える。
僕が下長飯に話をし、下長飯に向かって銃を構える間も、数発ほど矢が放たれ、矢が天井や床、壁などを何度も跳ね返って僕に向かって飛んで来るが、全て闇のバリアーに弾かれ、あらぬ方向へと飛んで天井や壁、床、彫刻などに激突して威力を失うのであった。
僕は霊能力をさらに解放し、右手に持つ拳銃に紫色の霊能力のエネルギーを注ぎ込む。
そして、彫刻の後ろに透明になって隠れる下長飯に照準を合わせると、拳銃のトリガーを引いた。
「闇零磨滅!」
僕は下長飯に向かって三発、霊能力の弾丸を放った。
バーン、バーン、バーンという音を立てながら、弾丸は高速で下長飯に向かって真っ直ぐに飛び、一発目の弾丸が彫刻を撃ち抜くと、空間ごと彫刻を消し飛ばした。
続いて、二発目、三発目の弾丸が下長飯の体へと直撃し、下長飯の腹部を撃ち抜いた。
「ギャアー!?い、痛いー!?」
下長飯の体は空間ごと消し飛ばされることはなかったが、弾丸で腹部を撃ち抜かれた激痛のあまり、下長飯は大声で悲鳴を上げ、ふたたび床の上を転げ回る。
僕はゆっくりと下長飯の方へと歩いて近づいていく。
「ハハハ!いくら隠れてもお前の位置は僕には全部、筒抜けなんだよ、クズ教師!最初の攻撃が通用しなかった時点で、矢を連射したところで僕にその攻撃が通用しないことくらい、気付けよ!数学教師の癖に、現実の物事を正確に捉えて分析、計算する能力がお前は著しく欠如している!自分より金と権力のある者の腰巾着をやる、その馬鹿の一つ覚えのクズで最低な生き方をしてきたお前じゃあ、自分一人で敵を倒す戦闘能力も覚悟も皆無なんだろうけど!もう一発、攻撃を食らいたくないなら、堂々と僕の前に出てこい、腰抜けで卑怯者のクズ教師!」
僕の挑発を受けて、下長飯は起き上がると、サッと今度は部屋の一番左端の彫刻の後ろへと急いで走って、隠れた。
僕は苛立ちの表情を露わにしながら、下長飯のいる部屋の一番左端の彫刻に向かって、拳銃でさらに弾丸を四発、発射した。
一発目の弾丸が彫刻を空間ごと削り取って消去した。
さらに、二発目、三発目、四発目の弾丸が、下長飯の体をふたたび撃ち抜いた。
「アギャアー!?」
下長飯が弾丸にふたたび腹部を撃ち抜かれた激痛で床を転げ回る。
あまりの痛みで思わず下長飯が涙を流しながら、両目を開いた。
「し、しまった!?」
『ば、馬鹿もん!?』
グリラルドの下長飯を叱る声が聞こえた瞬間、プシューという音を立てて天井から水色の催涙ガスが勢いよく発射され、部屋の中へと充満していく。
僕は重力を操作し、闇のバリアーで催涙ガスを弾き返し、無効化していく。
一方、催涙ガスを諸に食らって吸ってしまった下長飯は、両目を真っ赤に充血させ、目から涙を流し、両目を手で抑え、鼻から大量の鼻水を垂れ流し、さらにひどく咳き込み、床を転がり回る。
「目がー!?目が痛いー!?オエ、ゲホっ、ゲホっ!?ぐ、グリラルド、くじゅり、薬をくれぇー!?」
『能力の使用権限は貴様に渡しとるから、儂にはできん!さっさと自分で能力を発動して薬を飲め、この馬鹿もんがっ!?』
「ぐ、ぐぞぉー!?強奪金庫!?」
下長飯が右手を金色に光らせると、下長飯の右手の先に、空間にぽっかりと横穴が開き、穴の中から、緑色の液体が入った透明なガラス製の小瓶が勢いよく飛び出て来た。
回復薬らしき液体が入った小瓶が出て来て床に落ちた瞬間、僕はすかさず小瓶の落ちている床に向けて弾丸を放ち、弾丸が床に直撃すると、床と小瓶ごと空間を消去した。
回復薬の入った小瓶を僕に空間ごと消し飛ばされたため、回復薬を手に入れられず、下長飯はさらに焦り、悔しがる。
「か、回復薬が!?く、くそぉー!?」
「残念だったな、クズ教師。僕がお前に回復する暇なんて与えるわけないだろ?まぁ、回復薬ぐらい、まだたくさん持っているかもしれないが、すぐに全部、破壊してやる。おまけに、自分で仕掛けた罠に自分で嵌まって苦しむとは、本当に馬鹿でクズだな、お前。いい加減に姿を現して出て来いよ、腰抜けで卑怯で馬鹿で間抜けなクズ教師。」
「うるさい!?この不良生徒のクソガキがぁー!?お前みたいな出来損ないのクソガキが、この私を馬鹿にするなぁー!?」
『キンゾウ、大声を出すな!位置がバレるじゃろうが、馬鹿もん!?』
「最初からこっちはお前らの位置が分かっているんだよ、クズ教師、それと、強欲の堕天使グリラルド。お前たちの作戦は最初から分かっている。まず、この部屋には、目を使ってはいけない、というルールがある。厳密に言えば、目を開いて、目で直接、この部屋の中や敵を見てはいけない、というモノだ。ルールを破れば、天井より強力な催涙ガスが噴射され、違反者も敵も、部屋中にいる者全員が室内に充満した催涙ガスで苦しむことになる。そして、お前たち二人は考えた。下長飯が目を瞑り、代わりにグリラルド、融合しているお前が下長飯の目となって、下長飯を誘導し、僕を狙撃して仕留める作戦をだ。グリラルドは魂だけの状態で目が無くとも、透視能力を持っている。さらに下長飯、お前には「反発曲射」というスキルがある。敵を自動追尾する効果と、周囲にあるモノを反射しながら敵に直撃するまで飛び続ける効果を持った矢を放てる攻撃スキルだ。後は、グリラルドの誘導に従い、姿を消して隠れている下長飯が矢を放ち、僕を死角から不意打ちして仕留める、とこういう筋書きを描いていたわけだ。僕がこの部屋の罠に気付かず、催眠ガスを吸って動けなくなれば、不意打ちが成功する確率はさらに上がるしな。下長飯、お前自身は「カメレオン・ローブ」という姿を透明にする魔道具を身に着けていて、ローブのフードを被って催涙ガスを吸うのを防げる。おまけに、回復薬も持っている。不意打ち作戦の準備は万端、そう思っていただろ?残念だが、お前らの姑息な作戦なんぞ僕には一切、通用しない。僕は目を瞑っていても敵の位置を確実に把握することができる。ついでに、あらゆる攻撃を無効化できる闇のバリアーを全方位に展開できる。この部屋に仕掛けられている程度の催涙ガスなら、バリアー無しでも無効化できる能力も持っている。さて、お前ら二人はたくさん貴重でユニークな魔道具を持っているらしいが、お前らの持つ魔道具が僕に通用するか、一つ試してみるとしないか?命を賭けたギャンブルに参加しているんだろ、クズ教師?ギャンブルが大好きなお前なら、お前の持つ魔道具を全部ベットして勝負しなきゃ、全然面白くは感じないだろ?ええっ、クズ教師?」
僕は闇のバリアーの中から笑みを浮かべながら、下長飯とグリラルドに向かって言った。
僕に自分たちの作戦や能力、部屋の罠などを言い当てられ、下長飯とグリラルドはひどく動揺し始めた。
「ぐ、グリラルド、は、話が違うじゃないか!?私たちの作戦も魔道具も全部、宮古野の奴は、「黒の勇者」の奴は知っている!?私たちの位置だってとっくに奴にはバレているぞ!?ど、どうしたら良いんだ、一体!?ぐ、グリラルド、何か言ってくれ、なぁ!?」
『ええい、うるさいわい!?キンゾウ、貴様は黙っておれ!?おのれ、「黒の勇者」めぇ!?儂の立てた作戦だけでなく、儂の魔道具の能力まですでに調べておったとは!?流石はあの冷酷な女神が差し向けてきた刺客だけのことはある!こうなれば、儂のとっておきの魔道具で小僧、貴様を殺してくれる!?キンゾウ、強奪金庫の扉を開け!』
「た、頼むぞ、グリラルド!強奪金庫!」
下長飯が右手を金色に光らせると、下長飯の左手の先に、空間にぽっかりと横穴が開き、穴の中から、一本の金色の矢がゆっくりと出て来る。
金色の金属製の矢の先端には、紫色の水晶のような石でできた鏃が付いている。
穴から出て来る金色の矢を、下長飯は右手ですぐに掴み、穴の中から強引に引き抜くと、金色の矢をすぐに左手に持つロングボウへとつがえ、両目を瞑りながら真っ直ぐに構えた。
『キンゾウ、もう少し左斜めを向け!そこじゃ、そこで止まれ!ホッホッホ、待たせたのう、「黒の勇者」!貴様に儂が持つコレクションの矢の中でもとっておきの矢を特別に披露してやろう!その身でたっぷりと儂自慢の矢を食らうがいい、小僧!』
「なら、こっちも少し、本気を出すとしよう。闇零磨滅!」
僕は闇のバリアーを解除すると、「闇零磨滅」を発動し、全身に紫色の霊能力のエネルギーを纏った姿を、下長飯たちの前へと現した。
僕の体に纏う霊能力のエネルギーに触れる影響で、僕の周囲の空間が次々に消去され続けるため、僕の周囲の空間が捻じれ曲がったり、歪んだりといった歪な光景へと変化する。
「何時でも攻撃してもらって結構だ、クズ教師、それと、クズジジイ。まぁ、無駄だけどな。」
『その減らず口を黙らせてくれるわい!キンゾウ、そのまま真っ直ぐに矢を放て!矢に魔力を込めて、全力で放て!あの生意気な小僧を貴様の矢で射抜いてやるんじゃ!』
「了解だ、グリラルド!死ねぇー、クソガキ!」
グリラルドに指示され、下長飯がロングボウより金色の矢を放った。
金色の矢は真っ直ぐに、金色に光り輝きながら、僕の心臓部分目がけて飛んで来る。
金色の矢が僕の心臓部分へと直撃した。
だがしかし、矢は僕の全身に纏う紫色の霊能力のエネルギーに触れた途端、僕の心臓を射抜く前に、空間ごと消し飛ばされてしまった。
『な、なんじゃと!?矢が、矢が消えたじゃと!?何故じゃ、こんなことはあり得ん!?』
「ぐ、グリラルド、ま、まさか、失敗したのか!?矢が消えたとはどうゆうことなんだ!?私に状況を詳しく教えてくれ!?」
『ええい、矢が消えたモンは消えたんじゃから、他に言いようがないわい!?何故じゃ、何故矢が炸裂せずに消えた!?小僧、貴様一体、何をした!?』
焦るグリラルドと下長飯に、僕はため息をつきながら答える。
「はぁー。自分の手の内を簡単に敵に明かす奴がいるわけないだろ?相手が相当な馬鹿で間抜けでもない限りな。その質問をするということは、敵に、自分は馬鹿で間抜けで絶賛、追い詰められている大ピンチですって、言ってるのが分からないのか?グリラルド、お前、頭が相当、ボケているらしいな。相棒はそんなお前より頭が悪い、何の頼りにもならない、どうしようもない人間のクズだしな。「ゴールデン・ヒュドラ・ポイズンアロー」か。確かに強力な武器だな。SSランクモンスターのヒュドラの魔石を鏃へと加工し、その中に人間を一瞬で殺すヒュドラ10体分のヒュドラの猛毒が仕込まれている矢か。矢が相手に直撃した瞬間、鏃が破裂し、ヒュドラの毒液が大量に溢れ出て、相手をヒュドラの毒液まみれにして、一瞬で敵を毒殺する力がある。だけど、アレが炸裂したら、この部屋中が大量のヒュドラの毒液で満たされることになったぞ。急いでこの部屋を脱出すれば、僕を殺して何とかピンチを切り抜けられるとでも思ったか?だとしたら、詰めが甘いな。矢は跡形もなく消滅したんだよ。僕に触れるだけで、全てのモノが無へと帰るんだ。もうこれで打ち止めか?なら、大事な魔道具ごと地獄まで葬ってやるよ、強欲で卑劣で最低な下衆野郎のクズ教師ども!」
僕は激しい怒りを露わにした。
僕は霊能力のエネルギーをさらに解放し、紫色の霊能力のエネルギーを右手に持つ黒い拳銃へと注ぎ込んでいく。
そして、下長飯に向けて、右手に持つ黒い拳銃の銃口を向けた。
『キ、キンゾウ、何をしておる!?早く奴の武器を奪うんじゃ!?』
「くっ、強奪金庫!」
下長飯が僕に向かって右手を突き出し、右手を金色に光り輝かせながら、「強奪金庫」の能力を発動して、僕の持つ拳銃を奪おうとする。
しかし、能力が発動しているにも関わらず、下長飯は僕の拳銃を奪うことはできない。
「な、何っ!?くそっ、不発か!強奪金庫!」
「いくらやっても無駄だ、クズ教師。お前の能力は僕には通用しない。「強奪金庫」、敵の持つ武器や装備、持ち物を一つだけ、敵から自由に強制的に奪うことができる。ただし、その能力は、自分よりレベルの低い敵にしか通用しない。正確には、自分よりレベルの低い生物にだ。お前も、グリラルドも、生物としてのレベルが僕よりずっと低い、ということだ。さっきから僕に散々、やられているのにまだ、自分が僕に勝てると、僕を殺せると思っているのか?お前が僕に勝つためにベットできるモノと言えば、グリラルドの集めた骨董品でポンコツのゴミみたいな魔道具ぐらいしかないぞ?さっさとお前らのゴミコレクションを全部見せろ、クズ教師ども?じゃなきゃ、ここで止めを刺す!」
『わ、儂のコレクションをゴミじゃと!?お、おのれぇ、言わせておけば、どこまでもこの儂を馬鹿にしよってぇー!キンゾウ、強奪金庫の扉を開け!儂のコレクション全てを大放出じゃ!儂の自慢のコレクションの恐ろしさをたっぷりと教え込んでくれるわぁー!?』
「わ、分かった、グリラルド!行くぞ、宮古野!強奪金庫!」
下長飯が右手をさらに光り輝かせると、下長飯の背後の空間に巨大な穴が開いた。
その瞬間、僕は下長飯の背後にできた巨大な穴の中に照準を合わせると、巨大な穴の中目掛けて拳銃のトリガーを引いた。
「無間闇獄!」
バーンという音を立て、拳銃より霊能力の一発目の弾丸が放たれた。
弾丸は高速で発射され、下長飯の頭上より30cm上を通り過ぎ、下長飯の背後の空間に開いた巨大な穴の中へと吸い込まれ、そして、穴の中で炸裂した。
弾丸が炸裂した瞬間、一個の小さなブラックホールが生まれ、空間に開いた巨大な穴の中の奥にある、大量の武器や魔道具、金銀財宝が入っている亜空間の金庫より、金庫内にしまわれているグリラルドが収集してきた大量の武器や魔道具、金銀財宝、全てのコレクションを吸い込み、次々に消滅させていく。
『わ、儂のコレクションが、儂のコレクションが消えていくー!?止めろ、止めてくれー!?』
「金庫の中身が消えていくだと!?くそっ、何も出てこないぞ!?」
僕はニヤリと笑みを浮かべながら、下長飯とグリラルドに向けて言った。
「残念だったな、クズ教師ども。お前たちの自慢のゴミコレクションは、このままブラックホールに呑み込まれて全て宇宙の塵となって消滅する。早く能力を解除しないと、お前たち二人とも、ブラックホールに吞み込まれて、二人仲良く肉体も魂も消滅して、THE・ENDだ。もうじき金庫の中は空になる。そしたら、ブラックホールの向きを変えて、今度はお前たちをゴミとして吸い込んで消滅させるぞ?どうする、クズ教師ども?」
僕の言葉を聞いて、顔を青ざめさせた下長飯は慌てて能力を解除する。
「くそっ!?能力解除だ!」
『ば、馬鹿者!?能力を解除するな!?金庫の扉を閉めるな!?儂のコレクションが、儂のコレクションがまだあの中にあるんじゃぞ!?』
グリラルドの悲痛な叫びは届かず、「強奪金庫」の能力は下長飯によって解除され、亜空間の金庫の扉は閉められ、下長飯の背後にあった空間に開いた巨大な穴は消え去った。
そして、僕の生み出したブラックホールによって、亜空間の金庫内のグリラルドのコレクションは全て吸い尽くされ、消滅していった。
『儂の、儂のコレクションが、全て消えた・・・、き、キンゾウ、貴様、何故すぐに能力を解除した!?何故、儂の言葉を無視した!?能力を使えば、別に金庫の扉を作り、貴重なコレクションを避難させ、使うこともできたんじゃぞ!?こ、この間抜けがぁー!?』
「なっ!?そんなこと今、言われたって困るぞ!?それにブラックホールだぞ!?ブラックホールに一度、引きずりこまれたら私もお前も消滅していたかもしれないんだぞ!?無茶を言わないでくれ!?」
『無茶でも何でもないわい!?貴様があの小僧の言葉に、罠に引っかかったんじゃ、この間抜けのクズが!?儂のコレクションを全て失うことになった失敗の責任は取ってもらうぞ、キンゾウ!貴様のような間抜けでクズの面倒を見るのは、これで終わりじゃ!貴様との融合を強制解除する!さっさと「黒の勇者」に殺されるがいい、このクズが!』
「ま、待ってくれ、グリラルド!?失敗したのは謝る!もう一度、もう一度だけ私にチャンスをくれ!私を見捨てないでくれ!頼む、グリラルド!?」
下長飯の大失態に、融合するグリラルドが怒り狂い、下長飯との融合を強制解除すると言い、下長飯が慌ててグリラルドへと必死に謝る。
下長飯たちが喧嘩する中、僕は笑いながら二人に話しかけた。
「アハハハ!本当にどこまでも強欲で馬鹿で間抜けな最低のクズだな!クズ教師も間抜けだが、お前も相当、間抜けだぞ、グリラルド?お前に下長飯へ説教する資格なんてないぞ、まったく?僕の挑発に先に乗った間抜けはお前だ、グリラルド!流石の僕でも、お前が亜空間の金庫の中に一体いくつ、武器や魔道具を隠しているかは分からない!けど、お前が亜空間の金庫の中に、少々面倒なアイテムをまだ隠していることは分かっていた!僕にとっては大した脅威にもならない、何の価値もないゴミ以下の代物ばかりだが、一々、お前の山のようなゴミを鑑賞しているほど、僕も暇じゃないんでね!だから、お前が僕の挑発に乗って、亜空間の金庫の扉を一気に開放する時を待っていたんだ!後は、金庫の中にブラックホールを作って、お前の集めたゴミの山を一掃させて、作戦完了というわけだ!ゴミ掃除を手伝ってやったんだ、この僕に感謝しろよ、クズ堕天使?さて、下長飯、いや、クズ教師、お前はもう、グリラルドのコレクションを使うことも永久にできなくなった!お前にこの僕に対抗できる武器はもう一つも残っていないぞ?グリラルドに見捨てられたら、お前はLv.0の「犯罪者」に逆戻りだ!まぁ、グリラルドの奴を逃がすつもりも、この僕には一切ないんだが!楽しいギャンブルの時間はお終いだ、クズ教師!この僕がタダで地獄まで送ってやる!タダは大好きだろ、強欲なクズ教師ども!」
僕はハンマーを起こし、拳銃の照準を真っ直ぐに下長飯の体へと向け、トリガーに指を当てた。
「くそっ!?に、逃げるぞ、グリラルド!?上の階に一緒に逃げるしかない!早く誘導してくれ!」
『お、おのれぇ!?「黒の勇者」、貴様との勝負は一旦、預ける!キンゾウ、斜め左後方45°に向かって飛べ!急げ!』
グリラルドから指示され、下長飯は両目を瞑ったまま、背中から黒い堕天使の翼を生やすと、グリラルドの誘導通りに、五階の階段へと続く奥の入り口に向かって飛んで逃げようとする。
「勝手に勝負を降りるなんて、この僕が許すわけないだろう、クズ教師ども!」
僕は拳銃の銃口を、逃げる下長飯の背中へと向けると、六発の弾丸を放った。
二発の弾丸が下長飯の背中の翼を撃ち抜き、残り四発の弾丸が下長飯の背後を撃ち抜いた。
「ガハっ!?」
下長飯は口から血を吐き、背中の翼を撃ち抜かれたせいで墜落し、五階へ向かう階段へと続く奥の入り口の手前で、床に倒れた。
「はぁー、はぁー!?し、死にたくない!?は、早く、みんなのところへ!?」
下長飯が床を這いずりながら、入り口へと向かっていると、瞬間移動した僕が、下長飯の前に立ち塞がった。
そして、そのまましゃがみ込むと、足元で虫の息の下長飯の眉間へと黒い拳銃の銃口を突き付けた。
「ギャンブラーが勝手に敵の前からゲームを降りるのは、ルール違反であり、マナー違反だぞ、クズ教師。お前は僕とのギャンブルに負けたんだ。約束通り、お前の命を報酬にいただく。お前が懐に入れていた呪いの人形型魔道具、「サクリファイス・ドール」は7体全て、効果を使い切った。自分の負った致命傷を呪いをかけた者に肩代わりさせる呪いの藁人形とは、随分と姑息で胸糞悪いモンだな。手下のヴァンパイアロードたちにこっそり呪いをかけて自分の身代わりにでも使ってたんだろ?反吐が出るほどの外道以下のクズだな。さてと、能無しの悪魔憑き、と僕を呼んで処刑したお前が、最期は能無しの堕天使憑きとなって、地位も名誉も金も命も、全てを奪われ、地獄に落ちることになるとは、本当に最低最悪でゴミ以下のクズみたいな人生だったな、クズ教師。ただ、地獄に落ちれば、お前は闇金からの借金より永遠に解放される。地獄にはギャンブルなんてないから、ギャンブル狂いも治療できる。地獄で裁きを受けながら、地獄の悪魔たちに生活管理をしてもらうんだな、クズ教師。」
僕は笑みを浮かべながら、下長飯に処刑宣告をし、拳銃のハンマーを起こした。
「た、助けてくれ、み、宮古野!先生が、先生が悪かった!お、お前の部下にでも奴隷にでも、何でもなる!だ、だから、ゆ、許してくれぇー!」
最後に両目を開いて命乞いをする下長飯だが、僕は下長飯の命乞いを無視し、無言で拳銃のトリガーを引いた。
バーンという音を立て、銃口から一発の弾丸が放たれ、下長飯の眉間から頭部を撃ち抜き、下長飯の頭部に大穴を開けながら、下長飯の頭部を吹き飛ばした。
脳のあった部分が完全に吹き飛び、頭から血を流しながら、下長飯は床に倒れ込んで死んだ。
僕は下長飯の死体の首の左側にある、黒い狐の顔のタトゥーに左手で触れながら言った。
「死んだフリなんて無駄だぞ、グリラルド。お前の魂がまだ、下長飯の死体に宿っているのは分かっている。タトゥーの位置にお前たち堕天使の魂が宿っているのも知っている。僕に封印されて地獄にまた落ちる前に、何か言いたいことはあるか、クズジジイ?」
『儂の大事なコレクションをゴミ呼ばわりした挙句、全て奪ったこの恨みだけは絶対に忘れんぞ、勇者の小僧!いずれ必ず地獄から抜け出し、改めてコレクションを集め直し、次こそは儂の至高のコレクションで貴様の息の根を止めてくれるわい!ついでに、貴様の魂も財産も全て根こそぎ奪ってくれるわ!待っていろ、小僧!』
「お生憎様。僕の魂は、死んだら所有権がパートナーのイヴに渡り、イヴの物になる、そういう契約でね。お前が僕を殺すなんてまず無理だし、僕の魂も財産も全て、イヴが手に入れ、彼女が管理することになる。地獄を脱獄して、僕から何かを奪おうとしたら、お前は今度こそ地獄行きぐらいじゃあ済まなくなるぞ。地獄での老後だが、ゴミ集め以外の趣味を見つけることをお薦めする。じゃあな、クズジジイ。」
『ちょ、ちょっと待てい!?い、イヴと言ったな、小僧!?き、貴様、いや、あなた様はもしや、イヴ様と所縁の御方なのでは!?是非、儂の話を聞いて・・・』
「霊魂封印!」
僕は霊能力のエネルギーをグリラルドの魂へと注ぎ、グリラルドの魂を封印した。
僕の左手には、青白い色の、透明な野球ボールくらいの大きさの水晶玉のようになって封印されたグリラルドの魂が握られていた。
「これで堕天使の二人目の封印完了だ。ゴミのような骨董品集めに夢中になって、周りに迷惑ばかりかけるようなら、ただの老害だぞ、クズジジイ堕天使?元気があるなら、スポーツだとかボランティア活動だとか、他人に迷惑をかけず、自分や周りの人を本当に笑顔にする趣味を見つけて、老後を送る方がずっと良いと僕は思うぞ。幸せな老後生活を送れることがいかに大切なのか、よく分かったよ。下長飯、お前は最期まで卑劣で愚かで、救いようのない、クズのお手本のようなクズだったな。地球にいた頃から、金に汚くて、汚職はするわ、ギャンブル狂いだわ、借金をするわ、気に入らない生徒にパワハラ、セクハラ、モラハラをするわ、人間のクズだったが、異世界に来て、クズっぷりに磨きがかかって、人間のクズ以下の犯罪者になるとは、本当に最低だな。自分の欲を満たすためなら、生徒だろうが正義だろうがプライドだろうが、平気で捨てる、どんなに卑劣でおぞましい悪事にも簡単に手を染める、他人から命や尊厳、幸福を奪うことをも躊躇わない、正に強欲と言う名の邪悪の塊だ。お前は自分の欲望のためにこれまで大勢の人間を騙し、裏切り、傷つけ、大切なモノを奪い続けてきた。お前がこれまでに犯した悪事のツケを清算する時がやって来たんだ。借金の清算なんかよりもずっとキツくて、永遠に返済が終わることのない罪の精算を地獄でずっとし続けることになる。誰もお前の罪の精算を肩代わりする奴も、手伝ってくれる奴もいない。地獄の悪魔たちに溜まったツケを休む間もなく取り立てられる返済地獄の日々をたっぷりと味わうがいい。地獄に落ちたら悪事のツケを踏み倒すことだけは絶対にできないから、今度こそ逃げ出さずに最後まで真っ当に返済をすることができるし、良かったな、クズ教師。さて、三人目のターゲットは始末した。次は脳筋馬鹿、お前だ。悪女の手の平の上で良い様に動かされているだけの馬鹿でスケベなお頭をぶっ潰してやるよ。」
僕は下長飯の死体の前を立ち去ると、四階を攻略して、五階へと続く階段へ歩いて向かう。
五階の部屋へと続く螺旋階段を上りながら、僕は次の復讐について考えるのであった。
五階の部屋の扉の前へと着くと、僕は千里眼で五階の部屋の中を調べた。
「なるほど。これも悪趣味な部屋だな、本当に。そして、あの脳筋馬鹿にピッタリの部屋でもあるな。鷹尾に良いところを見せようと、ずっと一晩中、報われない無駄な努力をし続けてきたんだろうな、きっと。どうでもいいことだけど。さて、それじゃあ、部屋の中に入るとするか。」
僕はそんなことを呟きながら、扉を開け、五階の部屋の中に入った。
部屋の中に入ると、室内は他の階とほぼ同じ内装で、違いと言えば、周囲には、白い石でできた、鼻と口がない顔をした、裸の人間の彫刻がいくつも広い室内に建っている。
そして、五階の部屋の中央には、赤色の髪に、エメラルドグリーンのメッシュが入った、ツーブロックの短髪で、エメラルドグリーンの瞳を持ち、右手にロングボウを持った気性の荒そうな男が、僕を待ち構えていた。
鷹尾たち一行の仲間の一人、「弓術士」の下川である。
部屋の扉が閉まり、僕が部屋の中へと数歩進んで立ち止まったところで、下川が僕に向かって話しかけてきた。
「待ってたぜぇー、宮古野!陰キャの雑魚野郎のテメエがここまで来るとは思ってなかったぜ!おら、何時でもかかってこいよ、雑魚が!どうした、ビビってんのか、おい!?」
『コイツが「黒の勇者」か!ただの弱そうなガキじゃねえか!下の連中はこんなガキにやられたのかよ!情けねえ連中だぜ、全くよー!』
下川に続いて、下川と融合するラスラルドが僕を挑発してくる。
僕は下川たちの挑発を無視し、全身から霊能力をさらに解放し、紫色の霊能力のエネルギーを右手に持つ黒い拳銃へと注ぎ込んだ。
そして、黒い拳銃の銃口を自分の頭上の天井へと向けた。
「闇門開闔!」
僕はトリガーを引いて、霊能力の弾丸を天井に向かって一発撃った。
続けて、右側の壁に一発、左側の壁に一発、弾丸をそれぞれ撃った。
「おいおい、どこを狙って撃ってんだよ、ボケが!って、おい、じゅ、銃だと!?何で銃を持ってんだ、テメエ!?」
『何を焦ってるんだ、ユウスケ?あのガキの持ってる武器みたいなモンがどうしたよ?大した威力もなさそう、って、何だと!?』
下川とグリラルドが僕を馬鹿にしようとした瞬間、二人の目の前に目を疑うような光景が広がっていた。
僕が先ほど、銃弾を撃ち込んだ部屋の天井と左右の壁に、直径50mほどの丸い大きな穴がそれぞれ、ぽっかりと開いていたのだ。
正確には、天井と左右の壁に弾丸がぶつかる直前に炸裂し、天井と左右の壁からそれぞれ、10㎝ほど離れた場所に、シーバム刑務所跡地を覆う結界の外側の空間と、部屋の中を繋ぐ、空間同士を繋ぐ巨大なゲートが、部屋の中の空間に出現していた。
僕は大きく息を吸い込み、それから下川たちに向かって話しかけた。
僕が呼吸をした直後、部屋の天井から大量の紫色の毒ガスが噴射されたが、毒ガスは部屋の中に開いた三つの巨大なゲートからドンドン、結界の外側へと流れていき、部屋の中に毒ガスが充満することはない。
「よぅ、下川。久しぶりだなぁ。この程度の毒ガスを無効化するのに、こんなことをする必要は全く無いんだが、せっかくなら、お前と、ラスラルドの間抜け面をちょいと拝んでやりたいと思ってなぁ。派手に演出させてもらったよ。おいおい、何、そんなに驚いた顔をしているんだ?ぼくが銃を持っていることがそんなに驚くことか?それとも、僕の能力に理解が追いついていないのか?お前も相棒も二人とも、頭の悪い脳筋馬鹿だから仕方がないか。どうした、そんなに青い顔をして?ビビっているのか、お前ら?」
僕は笑みを浮かべながら、下川たちを挑発した。
「び、ビビってるわけねえだろうが、ゴラっ!?銃を持ってるぐらいで粋がってんじゃねえぞ、陰キャの雑魚がぁ!?」
『調子に乗るんじゃねえぞ、弱っちいガキが!俺を脳筋馬鹿だと言ったことを、今すぐ後悔させてやらぁー!ユウスケ、怒りを燃やせ!あの雑魚をぶっ飛ばせ!』
「言われなくても分かってらぁー!行くぜ、激高進化ー!うぉー!」
下川が全身を真っ赤に光り輝かせながら、ロングボウを左手に持ち替え、右拳を強く握りしめ、力を込める。
その直後、僕に向かって猛スピードでダッシュし、僕に向かって右拳で殴ろうと飛びかかってくる。
僕は素早く「浮闇沈闇」を発動し、重力を操作し、光を屈折させ、重力の方向を変化させ、自身の半径5m以内の空間を球状の闇で覆い、闇のバリアーを発生させた。
僕の闇のバリアーへ目がけて、下川が右拳を思いっきり振り下ろした。
「しゃらくせえ、オラァー!」
下川の右拳が闇のバリアーへと接触した瞬間、下川の右拳が闇のバリアーに弾かれ、重力の方向をランダムに変える効果で右拳を振り下ろした勢いのまま、僕の体の左側へと態勢を崩して、床に頭から突っ込んで転んだ。
「あ、痛っ!?く、くそがぁー!?な、何をしやがった、陰キャ野郎ー!?」
「アハハハ!本当に脳筋馬鹿だなぁー、お前!命のやり取りをしている敵にご丁寧に自分の手の内を明かす間抜けがいるわけないだろうが!これでも大分、手加減しているんだぞ!悔しかったら、自分で僕の能力の秘密を暴いてみせろよ!相棒に聞いても無駄だぞ?だって、お前以上に脳筋馬鹿で見ているだけの役立たずだもんなぁー!ハハハ!」
僕は笑いながら、下川とラスラルドをさらに挑発した。
「宮古野、テメエは絶対、ぶっ飛ばす!俺に火を付けたことを後悔させてやるぜ!俺の怒りの鉄拳を食らいやがれ!オラァー!」
『行け、ユウスケ!その生意気な雑魚をぶっ飛ばせー!』
下川がふたたび殴りかかってくるが、先ほどと同じように、闇のバリアーに弾かれ、拳の軌道を変えられ、明後日の方向へと体ごと床に突っ込んでいく。
それでもめげずに何度も拳で殴ったり、蹴りをお見舞いするが、その度に闇のバリアーに弾かれ、拳や蹴りの軌道を変えられ、明後日の方向へと勢いよく飛んで、床や壁、天井などに突っ込んで、鎧や服がボロボロになっていく。
「はぁー、はぁー、くそっ!?どうしてだ!?何で攻撃が当たらねえんだ!?何であの黒い結界は壊れねえ!?おい、ラスラルド、何かアドバイスとかねえのかよ!?」
『ユウスケ、怒りだ!もっと、もっと怒りを燃やせ!根性を見せろ!あの雑魚にビビったりするんじゃねえ!アイツへの怒りがお前をどんどん強くするんだぜ!奴の小賢しい結界をブチ破るまで、後一歩だ!気合入れろ、ユウスケ!』
「ビビッてなんかいねえよ!怒りも気合も十分だぜ!オラァー!行くぜ、宮古野ー!」
ラスラルドにアドバイスを受け、下川がまた右拳を振り下ろしながら僕に突っ込んでくるが、結局、闇のバリアーに弾かれ、重力の方向変化の効果によって、右拳から突っ込んだ勢いのまま、明後日の方向へと吹き飛び、壁へと激突するのであった。
何度も同じ攻撃を繰り返し、闇のバリアーに弾かれ、明後日の方向へと吹っ飛ばされ、天井や壁、床に激突することを繰り返し、ボロボロになっていく下川の姿を見て、呆れた表情を浮かべながら、僕は下川へと言った。
「はぁー。この程度がお前らの本気の怒りの力なのか?いい加減、肉弾戦じゃあ僕に勝てないことに気付けよ、脳筋馬鹿ども。お前らの攻撃が僕の闇のバリアーを破ることは不可能だ。お前らと僕とじゃあ、圧倒的な戦闘能力の差がある。それと、戦略という面でもだ。それをはっきりと教えてやる。まず、この部屋には、息をしてはならない、というルールがある。ルールを破れば、違反者も敵も、この部屋の中にいる者は、天井から噴き出す致死性の毒ガスを吸って、たちまち毒殺されることになる。だが、「激高進化」の能力を持つお前たちなら、この部屋のルールと罠に対応できる。何故なら、お前たちの持つ「激高進化」の能力は、怒れば怒るほど、パワーやスピード、回復能力などの身体能力が強化されていくからだ。そして、環境への適応能力や、一度受けた攻撃への耐性も進化し、身に着けることができる。お前たちは昨日からこの部屋に籠り、一晩かけて寝ずに無呼吸でも生きれるよう進化した。それと、わざと毒ガスの罠を発動させ、毒ガスへの耐性も身に着けた。後は、この部屋の罠を知らない僕を罠に嵌め、毒ガスで僕を殺し、自分たちは対策済みだから、楽して攻略することができる、そう考えていたんだろ?例え僕がすぐに死ななくても、毒ガスを吸って弱った僕を力づくで仕留めればいい、とでも考えていたんだろ?それと、僕を殺したのを手土産に、鷹尾の奴に男としてアピールでもするつもりだったか?愛の告白でもするつもりだったのか?そんな簡単にこの僕を本気で倒せると思っていたのなら、お前はただの脳筋馬鹿野郎だ。お前の怒りなんて、僕に自分の不甲斐なさを馬鹿にされたことへの逆恨みと、好きな女の前で恰好つけたい程度の動機から生まれた、僕のお前に対して抱く復讐の怒りと比べるのもおこがましい、カスみたいなものだ。大体、お前みたいな脳筋馬鹿で、告白する勇気もない、本性はヘタレで、自分の意見を持たない流されるだけのような男を、あの鷹尾が好きになるわけないだろ?お前は僕との戦いにも、自分の恋愛にも、最初っから負けてたんだよ。何か反論があればどうぞ、脳筋馬鹿?」
僕は、下川とラスラルドの能力や作戦などをすでに見破っている事実を明かした。
僕の言葉を聞いて、下川とラスラルドは二人とも動揺し始めた。
「み、宮古野、て、テメエ、いつの間に俺の能力やこの部屋の罠について調べやがった!?つか、何で俺が鷹尾さんのことを好きなことまで知ってんだよ!?下長飯のオッサンから聞き出したんだな!?くそがっ、あのクソ教師、マジで裏切ってたんだな、くそっ!?」
『こ、このガキ、見た目以上にデキやがる!?力も頭もキレが半端じゃねえ!?ムカつくほどにマジで強ええ!ユウスケ、お前のスキルを使え!お前の矢で奴を焼き殺せ!』
「くそっ!?行くぜ、爆炎射撃!」
ラスラルドにアドバイスをもらった下川が、ロングボウを構えると、両腕と弓を赤く光らせ、炎のエネルギーでできた矢を瞬時に作り出し、炎の矢を僕に向かって放った。
けれども、炎の矢も、僕の全身を覆う闇のバリアーによって弾かれ、軌道を変えられ、天井に開いた穴の方へと飛んで行って燃え尽きた。
「俺の炎の矢も効かねえだと!?まだだ、何発でもぶちかましてやるぜ!」
僕は笑みを浮かべながら、焦る下川に向かって言った。
「何をしても無駄だ、脳筋馬鹿。炎なら僕のバリアーを破れると思っているらしいが、僕の闇のバリアーはあらゆる物理攻撃、あらゆる魔法攻撃の直撃にも耐え、さらに軌道を変えて無力化することができる。それと、これは忠告だ。お前はもう、二発目の矢は撃てない。怪我をしたくなかったら、その弓は捨てるんだな。」
「はっ!この俺に脅しなんか効かねえ!今度はもっとデカい矢を一発、お見舞いしてやらぁ!死ねぇー、宮古野!」
下川がふたたび、魔力を込めて、先ほどより強力な炎の矢を生み出し、ロングボウへとつがえた。
だが、その直後、下川の左手に持っていたロングボウが砕け、弦が切れ、炎の矢がそのせいで暴発した。
炎の矢の暴発した際の高熱の火炎が、下川の体を襲い、下川の体を一瞬で火だるまにした。
「アチー!?アガァー!?」
全身火だるまになり、火傷を負った下川が、あまりの痛さに床を転げ回り、全身の火を消しながら、「激高進化」の能力を使って必死に肉体を再生しようとする。
火傷を負い、床を転がり回る下川を見て、僕は笑いながら言った。
「ハハハ!だから、言っただろ?二発目の矢は撃つな、ってな!さっき、お前が僕の闇のバリアーに無駄に何度も突撃をかまして跳ね返されて、何度も床や壁に激突した際に、お前の弓にも少しづつダメージが蓄積していたんだよ。自分の使う武器の状態ぐらい、ちゃんと把握しろよ。ご丁寧に忠告してやったのに、僕の忠告を無視するから、矢が暴発して自分で自分の炎に焼かれることになるんだよ。さて、弓がなきゃあ、お前の「爆炎射撃」のスキルも使えない。もう、お前に僕と戦う武器は残っていない。相棒も役立たずの脳筋馬鹿だ。本物の復讐の怒りの炎に焼かれて地獄に落ちる覚悟は決まったか、ヘタレの脳筋馬鹿ども?」
僕は闇のバリアーの中から、冷たい笑みを浮かべて、下川たちへの怒りと殺意を露わにした。
全身を焼いていた炎がようやく消え、火傷が少しづつ再生していく下川だが、床に膝を突き、息を切らし、全身にいまだ痛々しい火傷の傷跡を残しながら、動揺を隠せないでいる。
「はぁ、はぁ、くそっ!?何で、何でこの俺が宮古野なんかに押されなきゃいけねえんだ!?おい、ラスラルド、お前、俺の炎の矢なら効くとかデタラメを言いやがって!お前のアドバイスも能力もマジで役に立たねえじゃねえか!?何とか言えよ、おい!?」
『うるせえ!黙ってろ、ユウスケ!お前が自分の能力をまともに使いこなせねえ、自分の武器が壊れていることにも気付かねえ間抜けだからだろうが!?何でもかんでも俺に頼るんじゃねえぞ!くそっ、情けない相棒だぜ!?こんなことはあり得ねえ!?俺たちの能力も作戦も行動も、全部先読みされて対策されているだとっ!?「黒の勇者」がここまで強ええなんて聞いてねえぞ、くそっ!?このクソガキの能力は一体、何なんだ?なっ、こ、コイツはどうゆうことだ、一体!?このガキの体から、何かヤベえ力を感じる!コイツは、この力は、か、神の力だ!何故だ、どうしてこんな人間のガキから神の力を感じるんだ!?こ、コイツは、このガキは準天使なんかじゃねえ!?神に近い、もっとヤバい奴だ!ユウスケ、ここは一旦引くしかねえ!コイツは、「黒の勇者」は俺たちだけじゃあ倒せねえ!上にいる奴らと力を合わせねえと、マジで殺されるぜ!』
「は、はぁー!?み、宮古野が神だと!?冗談言ってる場合じゃねえぞ、ラスラルド!もっと真面目に考えろよ!」
『冗談なんか言ってるわけねえだろうが!俺は戦闘中にふざけるほど、馬鹿じゃねえよ!テメエと一緒にすんじゃねえ、ユウスケ!俺が言ってるのは全部、マジだ!とにかく、ここは一旦引いて、上に向かえ!コイツはマジで神クラスにヤベえ化け物だ!早く上に行くんだ、ボケが!』
「くそっ、マジかよ!?神クラスの化け物が相手とか、そんな話、聞いてねえよ!?何で宮古野の奴がそんなに強ええんだよ!?くそっ!?」
ラスラルドから上の階に逃げるよう言われ、慌てて六階へと続く階段がある部屋の奥の入り口に向かって、猛スピードで走って逃げる下川であった。
そんな逃げる下川の背中を見ながら、僕は呟いた。
「喧嘩を先に売っておいて、勝手に逃げるんじゃあない、ヘタレの脳筋馬鹿ども。」
僕は黒い拳銃の銃口を天井へと向けると、トリガーを引いた。
拳銃から霊能力の弾丸が一発放たれると、弾丸が天井に当たる直前に炸裂した。
次の瞬間、六階へと続く階段がある部屋の奥の入り口の手前まで進んでいた下川の体が、急に地面へと倒れ込み、そのまま動かなくなった。
僕は闇のバリアーを解除し、すぐさま、床に倒れている下川の傍へと瞬間移動した。
「く、くそがぁー!?か、体が動かねえ!?くそっ!?」
僕の足元で必死に起き上がろうと試みる下川に向かって、僕は笑みを浮かべながら言った。
「散々、僕を雑魚呼ばわりして先に喧嘩を売った挙句、勝てないと分かったら勝手に喧嘩を止めて逃げるなんて、卑怯じゃないか?いや、やっぱりただのヘタレだな。今のお前の姿を誰が見たって、鷹尾が見たって、そう思うぞ、なぁ、ヘタレの脳筋馬鹿。好きな女の前で格好つけたくて、自分を強い男だとアピールしたくて、気性の荒い男を演じるための見せかけの怒りなんぞ、僕の復讐にかける怒りと比べる価値もないカスだな。今、この部屋の重力を5倍に引き上げた。この程度の重力で動けなくなるなんて、お前、本当に弱いな。弱い犬ほどよく吠えると言うが、正にその通りだな。ほら、早くご自慢の能力で適応してみせろよ。早くこの部屋の重力に適応できないと、お前はずっと、床に這いつくばったままの負け犬だぞ?いや、陸に上がった雑魚と言う名の憐れな魚だな。よし、なら、この僕がお前に気合を一つ、入れてやるよ。」
僕はそう言うと、銃を左手に持ち替え、それから、右の拳を握りしめると、スローモーションでゆっくりと、下川のこめかみに向けて右拳を下ろしていく。
「ほ~ら、僕のパンチをお見舞いしてやるよ。どうした、こんな欠伸の出るような遅いパンチもよけられないのか?おい、さっさと適応して脱出してみせろよ、脳筋馬鹿?」
僕は笑いながら、必死に5倍となった部屋の重力の拘束から逃れようと足掻く下川に向かって、ゆっくりと右拳を下ろし、右拳が下川のこめかみにぶつかり、ゆっくりと下川の頭を押しつぶしていく。
「部屋の重力を6倍に引き上げた。それと、今、お前のこめかみに当てている僕の拳の重力を7倍に引き上げた。お前の頭以外の体には、6倍の重力、頭には7倍の重力がかかっているわけだ。頭を先に進化させるか、それとも体を先に進化させるか、お前の能力はどっちを優先するべきかで混乱して上手く機能していないらしいな。ほら、ゆっくりとお前の頭がミシミシと潰れていく音が聞こえてくるぞ?おい、何とか言えよ、脳筋馬鹿。」
「あ、あがっ!?い、痛い!?ゆ、許して、くれ!?」
下川がゆっくりと僕の右拳にかかる重力のパワーで頭が徐々に潰されていく痛みに耐えられず、両目から涙を流しながら、僕に命乞いを始めた。
「おいおい、少しは根性を見せろよ。僕をぶっ飛ばして、鷹尾に男として良いところを見せたいんじゃなかったのか?僕みたいな陰キャの雑魚は楽勝でぶっ飛ばせるほど、強いんだろ?お前の本気の怒りのパワーを感じさせてくれよ、なぁ?今、お前の頭に乗っている僕の拳にかかる重力を8倍、お前の頭以外の体の部分にかかる重力を7倍に引き上げた。せっかく適応し始めたのに、残念だったなぁ。しょうがない。僕からお前に鷹尾へ告白するための勇気と根性を身に着けるためのプレゼントをやろう。この部屋全体の、お前の全身にかかる重力を一気に20倍に引き上げる。勇気と根性でこれに耐えられれば、お前はヘタレから晴れて卒業だ。最も、適応できず、耐えられなければ、全身ペチャンコになって、最悪死ぬかもだけど。本物の復讐の、怒りの拳の重さを、その身にたっぷりと味わうがいい。それじゃあ、20倍の重力耐久チャレンジ、スタートだ、脳筋馬鹿。」
「や、止めでぐれぇー!?」
下川の悲痛な訴えを無視し、僕は部屋全体の重力を一気に20倍まで引き上げた。
その瞬間、下川の頭部に当てていた僕の右拳にかかる重力が20倍まで引き上がり、一気に下川の頭部を押しつぶして木っ端微塵に破壊した。
下川の頭部以外の肉体も、20倍に増大した部屋の重力に耐えられず、骨も肉も、肉体の全てがペチャンコに潰され、細かい肉片となって飛び散った。
下川の肉体は20倍の重力に耐えられず、肉片となって飛び散り、下川はそのまま死亡した。
僕は下川の肉体があった場所の血だまりへと目を向けると、左手に持っていた拳銃を右手にふたたび持ち、血だまりに銃口を向けながら言った。
「僕の目を欺けるなんて考えているなら、大間違いだぞ、脳筋馬鹿堕天使。お前が血だまりの中に魂を宿して潜んでいるのは分かっているんだ。下川の血と肉片が残っていれば、後でお前の能力で下川の肉体を再生して利用するつもりだろ?僕を舐めるな!無間闇獄!」
僕は血だまりに向かって弾丸を撃ち込んだ。
次の瞬間、血だまりのある床一面にミニブラックホールが現れ、下川の肉体だった血だまりや肉片を床ごと超重力で引きずり込み、ブラックホールの中へと飲み込み、次々に消滅させていく。
血だまりの端から慌てて、青白い人魂のような姿の、ラスラルドの魂が飛び出て、僕の前から逃走を図る。
『チクショー!おぼえていやがれ、クソガキがぁー!』
だが、逃走を図るラスラルドの魂の前へと僕は瞬間移動すると、左手でラスラルドの魂を掴んだ。
『な、何だと!?俺の魂を素手で掴みやがっただと!?くそっ、離しやがれ、くそっ、くそっ!?』
「往生際が悪いぞ、脳筋馬鹿堕天使。お前はこの僕との喧嘩に負けたんだよ。お前が下川のヘタレっぷりを直そうとせず、その癖、碌な作戦も立てずに、力任せに挑んで一緒に敗北する無様な姿を晒したのが事実であり、結果だ。自分から喧嘩を売っておいて逃げるのは、はっきり言ってダサいぞ。ああっ、僕に封印されて地獄にまた落ちる前に、何か言いたいことはあるか、脳筋馬鹿?」
『くそがっ!?テメエなんぞ、本当の俺の体さえあれば、何時でも楽勝でぶっ飛ばせるんだよ!?俺を脳筋馬鹿だの、ダサいだの言って馬鹿にしたことは絶対に忘れねえからなぁ!?俺はいつか必ず、本当の体を取り戻して、テメエをぶっ飛ばす、「黒の勇者」!俺の本気の拳でテメエのその生意気な面をぶっ飛ばして、二度とこの俺に舐めた口を利けねえようにしてやるぜ!逃げんじゃねえぞ、クソガキ!』
「お生憎様。僕は元勇者たちを全員討伐したら、イヴと一緒にさっさとアダマスから別の世界へと出て行けと、クソリリアと約束していてね。お前とアダマスでリベンジマッチできる機会は無いんじゃないかな。僕とどうしても再戦したいなら、相棒のイヴに相談してくれ。彼女と連絡を取って許可をもらってきたなら、また対戦してやってもいいが。僕をただぶん殴りたいからじゃあ、イヴが怒ってお前をブラックホールで消し飛ばすかもしれないから、まともな対戦理由ぐらいは考えてこいよ。僕もチンピラごときとの喧嘩なんて興味はないし。クソみたいな理由なら、殺す。じゃあな、脳筋馬鹿。」
『おい、お前、さっきからイヴと気安く呼んでるが、もしかして、闇の女神のイヴ様のことを言っているのか?イヴ様がお前の相棒だと!?クソガキ、お前は一体、何者なんだ?お前はクソ女神の勇者のはずじゃあ・・・』
「霊魂封印!」
僕は霊能力のエネルギーをラスラルドの魂へと注ぎ、ラスラルドの魂を封印した。
僕の左手には、青白い色の、透明な野球ボールくらいの大きさの水晶玉のようになって封印されたラスラルドの魂が握られていた。
「これで堕天使の三人目の封印完了だ。本当の体さえあれば、僕をぶん殴ることができるねぇ。僕とリベンジマッチしたいなら、体だけじゃあなく、頭の方も鍛えてくるんだな。後、根性もな。ただのチンピラや悪党のままで、ただ暴力を振るいたい、気に入らないから殴りたい程度の糞みたいな理由で挑んでくるようなら、僕は情け容赦なく、復讐すべき異世界の悪党の一人として、お前を本当に殺す。今日は封印程度で済ませてもらったことを感謝しろよ。ふぅ。下川、お前の怒りはヘタレな本当の自分を隠すための仮面に過ぎない。お前はただ、周りに流されるまま、鷹尾やラスラルドに言われるがまま、自分で碌に考えもせず、自分のつまらない見栄や欲のために怒り、怒りの矛先を何の罪もない人々に殺しや暴力として向けたんだ。お前のくだらない理由から生まれた邪悪な怒りのせいで、大勢の人間が傷ついた。怒りってのは、正義や愛、命、そういった大切なモノを悪党どもから守り戦うための心のエネルギーなんだ。神聖な心の炎だ。ヘタレな自分の本性を隠したいだの、気に入らない人間を傷つけたいだの、好きな女の前で良い恰好をしたいだの、そういう邪な理由で生まれる怒りなんかじゃあ、自分を守ることだってできはしない。正義と復讐のために生まれた本物の怒りの炎を心に燃やす僕に、お前のちっぽけな怒りでは火傷一つ負わせることもできない。正真正銘のヘタレのお前に、地獄の厳しい裁きをずっと耐え続ける根性なんてないだろうが、頑張って耐えろ、としか言えないな。罪人であるお前に対する地獄の悪魔や神たちの怒りは相当、凄まじいはずだから、地獄で本物の怒りの裁きを永遠に受け続けて恐怖する辛い日々を送るがいいさ、脳筋馬鹿。さて、四人目のターゲットは始末した。次はお前だ、目立ちたがり女。馬鹿のくせに無駄に前に出て、根拠もなく目立とうと威張り散らす自意識過剰な腐った脳味噌を吹っ飛ばしてやるよ。」
僕は下川の死体の前を立ち去ると、五階を攻略して、六階へと続く階段へ歩いて向かう。
六階の部屋へと続く螺旋階段を上りながら、僕は次の復讐について考えるのであった。
六階の部屋の扉の前へと着くと、僕は千里眼で六階の部屋の中を調べた。
「なるほど。これも悪趣味な部屋だな。うんざりしてくるな、本当に。そして、あの目立ちたがり女にピッタリの部屋でもあるな。何の根拠もないのに、堂々と腕を組んで自信ありげに仁王立ちして待ち構えていて、馬鹿丸出しだな。連続して馬鹿の相手をするのは地味に疲れるよ。それじゃあ、部屋の中に入るとするか。」
僕はそんなことを呟きながら、扉を開け、五階の部屋の中に入った。
部屋の中に入ると、僕は部屋の入り口の扉から十歩ほど歩いたところで立ち止まった。
室内は他の階とほぼ同じ内装で、違いと言えば、周囲には、白い石でできた、両足が無い、裸の人間の彫刻がいくつも広い室内に建っている。
そして、六階の部屋の中央には、オレンジ色の髪に、エメラルドグリーンのメッシュが入った、ツインテールの髪型で、エメラルドグリーンの瞳を持ち、左手にショートボウを持った小柄な女が、腕組みをしながら堂々とした様子で僕を待ち構えていた。
鷹尾たち一行の仲間の一人、「弓術士」の乙房である。
「よぅ、乙房。久しぶりだな。僕から一つ、お前にお祝いの言葉を贈らせてもらうよ。インフルエンサーデビュー、おめでとう。地球にいた頃から、インスタとかユーチューブとかに投稿して、有名なインフルエンサーになるんだとか言ってたもんな。僕はお前のインスタ、一度も見たことないけど。今やお前は異世界で最も有名な、歴史に残る犯罪者だもんな。元勇者でテロリストで連続殺人鬼だもんな。お前の人相書き付きの手配書が異世界中に貼ってあっていつでもどこでも見られる人気ぶりだ。闇ギルドから犯罪者としてウチの事務所に所属しませんか、なんてオファー殺到でお前も夢が叶ってさぞ、嬉しいんだろ?世界的な犯罪者のインフルエンサーが元クラスメイトだと知って、僕もいつも笑ってみんなに自慢しているよ。いやぁ、本当におめでとう、乙房。」
僕は笑顔で皮肉の言葉を述べると、乙房に向かってパチパチと拍手する。
僕の言葉と拍手を聞いて、たちまち乙房は激怒した。
「馬鹿にするんじゃないわよ、キモい陰キャ野郎!アンタのせいで、私もみんなも世界中から犯罪者として毎日、追われることになっていい迷惑よ!私たちから勇者の名前を奪って、自分が「黒の勇者」とか呼ばれて、本物の勇者だとか呼ばれてちょっと有名になったからって調子に乗るな、陰キャ!宮古野、アンタだけはマジで許さないから!アンタをぶっ殺したら、すぐに私が本物の勇者になって有名になってやるわよ!」
『落ち着け、ハナビ!敵の挑発に迂闊に乗るんじゃない!今は「黒の勇者」、奴を殺すことだけに集中しろ!』
「わ、分かってるわよ、エビー!宮古野、何時でもどっからでもかかってきなさい!この花火様がアンタを直々にぶっ殺してあげるわ!」
「そうか。なら、遠慮なくやらせてもらうぞ。」
僕はそう言うと、「浮闇沈闇」を発動し、重力を操作して、球状の闇のバリアーを自身の半径5m以内の空間へと作り、纏った。
僕が闇のバリアーを纏った直後、バリアーが何かに触れ、プツンプツンと、いくつものワイヤーか紐のようなモノが切断される音が聞こえてくる。
僕は間髪入れず、紫色の霊能力のエネルギーを右手に持つ拳銃へと流し込むと、自分の頭上の天井に向けて六発、弾丸を放った。
「「「「「「シャアー!?」」」」」」
僕の天井に向けて撃った弾丸が、天井に姿を消して潜んでいた不気味なモンスターたち六体の頭部へと撃ち込まれ、頭部を木っ端微塵に吹き飛ばした。
透明化の能力が解除され、僕の頭上の天井付近にいた不気味な六体のモンスターたちの死体が、天井から床へと落ちてきた。
天井から落ちてきたモンスターの姿は、上半身は人間の女性の姿をしているが、目が八つあり、口には蜘蛛そっくりの鋏角が二本、生えている。両手は、巨大な鋏の形をしている。下半身は巨大な黒い蜘蛛の姿をしていて、八本の足にはそれぞれ、長く鋭い爪が生えている。
「目立ちたがり屋の馬鹿女のくせに、少しは頭を使ってるみたいだな。まぁ、相棒のエビーラルドが全部、作戦を考えたんだろうが。エクステンデッド・アラクネか。下半身から鋼鉄に匹敵する強度を持った、おまけに致死性の猛毒を持った蜘蛛の糸を自由に張り巡らせるモンスターか。コイツの糸を張り巡らせて、ワイヤートラップで僕の体を切断して殺すつもりだったんだろ?後、1m前に進んでいたら、僕の首は床に落ちていたかもしれない、なんてことはないけど。僕の首はこの程度の糸じゃあ斬れないぞ、目立ちたがり女?」
僕は笑みを浮かべながら、乙房に向かって言った。
「な、何でエクステンデッド・アラクネのことを知ってんのよ!?くっ!?まだまだアラクネはたくさんいんのよ!行け、エクステンデッド・アラクネ!」
天井に潜んでいる24匹のエクステンデッド・アラクネが一斉に動き出し、下半身から大量の蜘蛛の糸を僕に向かって吹きかける。
しかし、闇のバリアーによる、重力の方向をランダムに変える効果のせいで、蜘蛛の糸は全て闇のバリアーによって弾かれ、明後日の方向へと向きを変えて飛んで行き、天井や床、壁、アラクネたち自身に絡みついて止まるのであった。
「糸が全部、跳ね返されるですって!?くそっ、だったら、直接仕掛けるまでよ!」
乙房がアラクネたちを操作し、僕に向かってアラクネたちに直接攻撃を仕掛けるよう、指示する。
上半身の両手の鋏で僕を真っ二つに斬り裂こうと、あるいは、口の鋭い鋏角で噛み付き、消化液を僕の体内に流し込んでドロドロに溶かして食い殺そうと、アラクネたちは一斉に僕へ襲い掛かってくる。
しかし、またしても闇のバリアーによって弾かれ、アラクネたちは天井や床、壁などに勢いよく全身から突っ込んでいき、その場でダウンするのであった。
僕はダウンしているアラクネたちの隙を見逃さず、銃を連射して、残りの24匹のアラクネたちの頭部へと弾丸を撃ち込み、頭を木っ端微塵に吹き飛ばして始末していく。
エクステンデッド・アラクネたちを全て始末すると、僕は乙房たちに向かって言った。
「エクステンデッド・アラクネの力も大したことはないなぁ。一匹一匹の強さはSランクで数も多いが、この程度のモンスターなら、1分もかけずに始末するのは余裕だ。さて、次は何を見せてくれるんだ、目立ちたがり女?」
「私の作ったエクステンデッド・アラクネが全滅!?くそっ、何なのよ、あの黒い球みたいなのは!?エビー、どうなの!?」
『ちっ。「黒の勇者」の奴はこちらの手の内をある程度、調べてきているようだ。奴の結界は物理攻撃をほとんど通さないようだ。こちらの攻撃の軌道を強制的に変えることができるらしい。だが、物理攻撃以外でなら勝機はある。ハナビ、集中砲火で一気に奴を仕留めろ!』
「了解よ、エビー!宮古野、私とエビーの本気を見せてあげるわ!食らえ、陰キャ野郎ー!」
乙房が右手を突き出し、右手がオレンジ色に光り輝くと、乙房の周辺に透明になって姿を消して潜んでいたたくさんの何かが、風を切りながら勢いよく僕へと向かって飛んで来るのが分かった。
姿を消して猛スピードで飛んで突っ込んで来るたくさんの何かが、僕の闇のバリアーに突っ込んで弾き返えされた瞬間、僕の闇のバリアーの周囲が一斉に爆発を起こした。
ドカーン、という音が何度も何度も鳴り響き続け、爆風と熱が天井や床、壁を焼き焦がし、吹き飛ばしていく。
「アハハハ!ざまぁみろ、陰キャ野郎!この花火様をキモイ陰キャのくせに舐めた罰よ、バ~カ!」
『流石にあの爆発に耐えることはできないはずだ。耐えられたとしても無傷ではすまない、って何っ!?』
「何驚いてんのよ、エビ~、って何ですって!?」
僕を殺したと勘違いし笑う乙房とエビーラルドの前には、いまだ威力が全く衰えていない、闇のバリアーと、闇のバリアーの中で無傷の僕がいた。
闇のバリアーの中から、僕は乙房の頭上を飛んでいるとあるモンスターたちの頭部目がけて、黒い拳銃の照準を合わせると、トリガーを引いて、モンスターたちの頭部を正確に撃ち抜き、撃墜した。
床に撃墜したモンスターの姿だが、一見白い朱鷺のような姿に、青銅色の嘴と羽を持つ、鳥型のモンスターが、透明化の能力が切れると同時に、死体を露わにした。
「エクステンデッド・スチュパリデスか。嘴と羽には鋼鉄以上の強度があり、猛スピードで飛行しながら敵をその鋭い嘴で刺し貫く能力がある。それと、体内に爆弾が仕掛けられていて、敵にぶつかって死んだ瞬間、あるいは目立ちたがり女、お前の合図で生体電気が流れ起爆するようになっている。差し詰め、鳥型爆弾と言ったところかな?透明化の能力まであるから、生きたステルス戦闘機とも言えなくもない。けど、やはり、全然大したことはないなぁ。言っておくが、僕の闇のバリアーには、物理攻撃も魔法攻撃も全て無効化できる能力がある。さっき程度の爆発なら、バリアー無しでも余裕で耐えられるが、爆発の際の埃を被るのは嫌だから、敢えてバリアーで防いだ。おい、何を口をポカンと開けて驚いているんだ?Sランクモンスター90羽の生きた爆弾の特攻なんかで、僕を倒せるわけないだろ?僕の戦闘能力をちゃんと調べていないのか、お前?お前のマッドサイエンティストの相棒もなのか?二人とも、ただの目立ちたがり屋の馬鹿女らしいな。っで、お前の頭の上にいる残りのスチュパリデス5羽はどう使う?他に大した能力なんて持っていないだろうけど?」
「エクステンデッド・スチュパリデスの爆発に耐えた!?爆弾の仕掛けまで知ってるですって!?つか、物理も魔法も防ぐなんて、チートじゃないのよ!?宮古野の癖に、マジ、ふっざけんな!」
『落ち着け、ハナビ!ちっ!あの忌々しい美の女神気取りのクソ女神め!デタラメな女神の加護をあの勇者に与えたらしい!ハナビ、ステュパリデスで奴を牽制しろ!その間に、一気に奴へ攻撃をたたみかけろ!良いな?』
「くっ!?了解よ、エビー!食らえ、宮古野!」
乙房が右手をさらに光り輝かせると、乙房の頭上にいる残りのステュパリデス5羽が一気に僕の闇のバリアーのはるか頭上を飛んで旋回し始めた。
そして、ステュパリデスたちが一斉に空から僕の頭上目がけて、糞を落としてきた。
だが、ステュパリデスたちの落としてきた糞は闇のバリアーによって弾かれ、軌道を変えられ、天井や壁、床へと勢いよく飛び散った。
闇のバリアーで弾き返されたステュパリデスの糞の一部が、軌道を変えて、乙房の顔や衣服にぶつかった。
「ブエっ!?く、臭っ!?ああっ、い、痛い!?」
ステュパリデスの糞を顔に食らった乙房を見て、僕は笑った。
「ハハハ!自分で撒いた糞を自分で食らうとか、本当に馬鹿で間抜けだなぁー。猛毒入りの糞なんぞ、この僕が食らうわけないだろ。糞まみれになった気分はどうだ、目立ちたがり屋の馬鹿女?いや、糞インフルエンサー?」
「う、うっさい!?死ね、クソ陰キャ野郎!」
怒り狂う乙房が右手をオレンジ色にさらに光り輝かせた瞬間、壁から一斉に無数の小さな黄色い光が放たれた。
しかし、光は全て、闇のバリアーの光を屈折させる重力のエネルギーのせいで全て反射され、光が闇のバリアーの中にいる僕の体に届くことは無い。
そして、反射された光の一部が、乙房の左足に当たり、乙房の左足を完全に石化させた。
「わ、私の足が石に!?くそっ、エビー、何とかしてよ!?」
焦る乙房が突然、左足を石化させられたせいでバランスを崩し、右足を一歩、踏み出した。
その瞬間、床から高圧電流が流れ、乙房はたちまち感電した。
「キャアー!?」
『は、ハナビ!?』
僕は直前に銀色の霊能力を解放し、床から浮いていたため、感電を免れた。
罠に嵌まり、全身黒焦げになるまで感電し、立ったまま気絶しかけている乙房に向かって、僕は笑いながら言った。
「アハハハ!本当に馬鹿だな!自分で自分の仕掛けた罠に引っかかるなんて、馬鹿を通り越して無様だな!救いようのない、馬鹿で滑稽で無様で醜い姿だよ、目立ちたがり女!さっさと起きないと、止めの一撃をお見舞いするぞ?」
『起きろ、ハナビ!早く起きるんだ!「黒の勇者」に殺されるぞ!早く起きるんだ、この馬鹿!』
「はっ!?だ、誰が馬鹿よ!?私は馬鹿じゃないわよ!?み、宮古野、あ、アンタだけは絶対に殺す!私を馬鹿にしたことは、絶対に許さないんだから、この陰キャ!」
「ようやくお目覚めか、目立ちたがり屋の馬鹿女。お前が馬鹿なのは事実だろうが。自分の無様で醜い今の姿をよく見てから物を言え、馬鹿女。さてと、面倒だから、邪魔者をまず、一気に片づけるとしよう。」
僕はそう言うと、頭上を飛んでいるスチュパリデスたちへ拳銃を向けると、5羽のスチュパリデスたちに弾丸を撃ち込み、全て撃ち落した。
それから、霊能力をさらに解放し、右手に持つ黒い拳銃に紫色の霊能力のエネルギーを込めると、両側の壁に向かって弾丸を一発ずつ撃ち込んだ。
「闇零磨滅!」
弾丸を両側の壁に撃ち込んだ直後、両側の壁が、両側の壁に無数にくっついていた小さな生き物と一緒に空間ごと消去され、綺麗さっぱり消し飛んだ。
「なっ!?壁が、壁が消えた!?何なのよ、これは!?」
『ば、馬鹿な!?デス・タワーの壁が消滅しただと!?ほとんどのエクステンデッド・バジリスク・リザードも消滅しただと!?一瞬で全てが消滅した!?こ、こんなことはあり得ない!?な、何だ、この勇者の能力は!?』
僕は闇のバリアーを解除すると、僕の左足に引っ付いていた、一見体長5㎝ほどの、頭に鶏冠が生えた、黄色い瞳を持つ、全身緑色の小さな蜥蜴らしき生き物を左手でつまみながら言った。
「エクステンデッド・バジリスク・リザードか。中々、よく出来た罠じゃないか。バジリスクの能力を持たせた小さな蜥蜴を使って攻撃するとは、ちょっとは考えたな。バジリスク以上の石化の呪いに、猛毒の牙、透明化の能力、そして、5㎝にも満たないこの小さな体、正に暗殺や奇襲にもってこいの生物兵器だ。こんな小さな体でSランクモンスター並みの能力がある。耐久力もかなりある。けど、僕にはこの程度のモンスターは通用しない。僕が死の呪いを無効化できることを、大抵の状態異常攻撃を無効化できることを知らなかったのか?二階の都原が僕に倒されている時点で、石化や毒が通用しないことくらい、すぐに気付くべきだろ?やっぱり、お前たち二人とも、ただの目立ちたがり屋の馬鹿女だな。」
僕は驚く乙房たちに向かって笑みを浮かべながらそう言うと、左手に持っているエクステンデッド・バジリスク・リザードを握り潰した。
「こ、こんなはずじゃあ!?え、エビー、他にアイツに対抗する手段は無いの!?」
『ちっ!?私の作ったモンスターたちがこんな短時間で全て全滅させられるなんて、予想外だ!コイツの、「黒の勇者」の戦闘能力を甘く見ていた!ハナビ、お前のスキルを使え!私の指示に従え!早く!』
「くそっ!?食らいなさい、宮古野!強酸命中!」
乙房が慌てて左手に持つショートボウを構えると、矢筒から取り出した矢の先端に、透明な液体を作って纏わせ、矢を僕に向けて放ってきた。
背中から黒い堕天使の翼を生やし、後方へと飛んで移動しながら、透明な液体が鏃に塗られた矢を何発も連射してくる。
僕は瞬時に「浮闇沈闇」を発動し、六階の部屋の中の重力を操作し、無重力状態へと変えた。
その瞬間、乙房の体が逆さまになって、コントロールを失い、宙へと舞った。
乙房の放った矢も、全て天井へと舞い上がり、天井にぶつかって砕け散って、天井を溶かしながら消滅した。
「な、何なのよ、これは!?う、上手く飛べない!?くそっ!?」
『無重力だと!?「黒の勇者」の奴は重力を自由にコントロールできる能力の持ち主なのか?そんなこと、神や天使クラスにしかできない芸当だ!?い、いや、奴の体から大きな力を感じる!こ、この力は、か、神の力!?神の力だと!?あり得ない!?人間が神の力を持つはずがない!?何だ、何だ、この勇者は!?』
無重力状態で天井に逆さで浮いている乙房の顔の前に、瞬間移動し、さらに天井から逆さに立った状態で、僕は乙房たちの前に現れた。
「人生初の無重力体験はどうだ、目立ちたがり屋の馬鹿女?ここが異世界でなければ、すぐにインスタにアップして、100万いいね、ぐらいはすぐに稼げたかもしれないなぁ。まぁ、世界的な犯罪者のインスタなんて、まともな人間なら絶対に見ようともしないはずだけど。おい、せっかくの無重力に関して何か気の利いたコメントはできないのかよ、糞インフルエンサー?」
「う、うっさい!今すぐこの場でぶっ殺してやる、クソ陰キャ野郎!」
「この至近距離で矢を撃てば、僕を殺せる、そう思っているなら無駄だぞ?「強酸命中」、矢の先端にあらゆる生物を溶かす強力な酸を作って纏わせ、矢で射抜いた相手を強力な酸で溶かす攻撃スキルか。掠っただけでも、傷口から酸の追加ダメージを与えることができ、敵の動きを鈍らせることもできる。でも、お前の力程度じゃあ、僕の体を射抜くことはできない。僕の能力や頑丈さをもう忘れたのか?それに、この至近距離で矢がぶつかって砕ければ、お前も酸の液体を浴びることになる。至近距離で使うようなスキルじゃないだろ、お前のスキルはさぁ。」
「なっ!?私のスキルのことをどうして知ってんのよ!?アンタ、ストーカーか何か!?マジでキモいんですけど!」
「お前みたいな犯罪者で目立ちたがり屋の馬鹿女のストーカーなんて、この僕がなるわけないだろ?お前みたいな醜い女をストーキングする趣味なんてない。敵と戦う前に、敵の戦闘能力や作戦を事前に調べて対策しておくくらい、常識だろ?指名手配犯であるお前ら元勇者の能力くらい、冒険者ギルドや各国政府に訊ねれば、すぐに入手できるのを知らないのか?有名になるってことは、自分のプライバシーを他人に知られるリスクがあることくらい、自称インフルエンサー志望ならそれぐらい常識として知っとけよ。どうする、目立ちたがり屋の馬鹿女?後、お前にできる攻撃手段と言えば、僕の体に直接触れて、「改造魔手」とやらで僕を他の生物に変えて殺す、くらいか?糞まみれのお前に触るのは嫌だけど、特別に左手だけ触らせてやる。どうした、あんなにさっきまで余裕をこいていたくせに、ビビってるのか、目立ちたがり女?」
僕は霊能力のエネルギーを全身に纏った状態のまま、左手のグローブを外すと、左手を乙房の方へと近づけた。
「ほらほら、僕の左手はここだぞ、目立ちたがり屋の馬鹿女?それとも、頭に血が上り過ぎて、僕の手が見えないのかなぁ~?」
「馬鹿にすんじゃないわよ、陰キャ野郎!お望み通り、触ってあげるわよ!」
『待て、ハナビ!』
エビーラルドの忠告を無視して、乙房が右手で僕の左手を掴んだ。
乙房の右手がオレンジ色に光り輝きながら、能力を発動した。
「キャハハハ!ざまぁみろ!蛙にでもなれ、クソ陰キャ野郎!」
僕の左手を掴みながら、勝利を確信し笑う乙房であったが、そんな乙房に向かって僕は冷たい笑みを浮かべながら言った。
「誰を蛙にするって?いつまで馬鹿笑いを続けるつもりだ、目立ちたがり屋の馬鹿女?」
「なっ!?蛙になってない!?か、「改造魔手」が効いていない!?直接触ってんのよ!?ど、どうして!?くそっ、離せ、このっ!?」
「そんなに離してほしいなら離してやるよ。闇零磨滅!」
僕は乙房の右手を掴んだまま、「闇零磨滅」の力を発動し、僕の左手に掴まれている乙房の右手を、空間ごと消去した。
手首から下の右手を消去され、乙房はあまりの激痛に泣き叫ぶ。
「がぁー!?手が、私の手がぁー!?」
「右手だけないんじゃあ、釣りあいが悪いなぁ。その左手もいらないな。」
僕は、拳銃の銃口を、乙房のショートボウを持つ左手に向け、「闇零摩滅」の効果を付与した霊能力の弾丸を一発、撃った。
弾丸が乙房の左手に撃ち込まれた瞬間、乙房のショートボウを持つ左手が、空間ごと消し飛んだ。
「アギャアー!?左手が、左手がないー!?い、痛い!?た、助けて、エビー!?」
『は、ハナビ!?早く翼を使ってここを脱出するんだ!このままでは殺されてしまう!急げ、急ぐんだ!』
「ハハハ!醜い自尊心の塊で馬鹿で間抜けなお前の攻撃が僕に通用するわけないだろうが!まんまと僕の挑発に乗って本当に馬鹿だな、目立ちたがり女!エビーラルド、お前も大して頭は良くなさそうだし、相棒としては間抜けだな!あまりの痛みで聞こえないかもしれないが、僕から一つ、ネタばらしをしてやるよ。まず、僕たちがいるこの部屋には、足を使ってはいけない、というルールがある。正確には、この部屋の中に入った後は、足を使って移動したり、足を使って敵と戦ってはいけない、というルールだ。ルールを破れば、床から高圧電流が流れ、違反者も敵も、この部屋にいる者は全員、感電して黒焦げになる、という罠が仕掛けられている。だから、お前たちはこの部屋の中央に立ったまま、ずっと動かずにいたんだ。何らかの手段で大量に生き物を集め、モンスターとして強化改造し、改造したモンスターを操り、自分たちは全く動くことなく僕を攻撃して、僕を殺す作戦を考えついた。接近戦が基本、不得手なお前たちにとって、この部屋は僕を倒すのにピッタリだと、そう思ってわざわざ色々と罠を仕掛けて待ち構えていたようだが、はっきり言って詰めが甘い。お前らの手の内なんて、こちらは最初から全てお見通しだ。両手が失くなっては、もう「改造魔手」の能力を使うこともできないな。お前たちが、他の生き物の命を弄んで作った、醜くて茶地な、中途半端な性能のモンスターなんぞ、いくら作ったところで、この僕の復讐の力の前では無意味だ。僕の復讐はいつだって命懸けなんだ。命の大切さを知っているからこそ、真剣に命と向き合い、自分の命を全て燃やして全力でお前たち悪党に復讐するために生まれた、命懸けの復讐の力だ。本物の命の力で復讐されて地獄に落ちる覚悟はできたか、自己顕示欲しか頭にない、醜い目立ちたがり屋の馬鹿女ども!」
僕は、乙房とエビーラルドの能力や作戦を見抜いている事実を明かすと同時に、乙房たちへの激しい怒りを露わにした。
僕から処刑宣告をされ、乙房とエビーラルドの表情は一気に恐怖へと染まった。
「え、エビー、早く何とかして!?くそっ、上手く飛べない!?体の向きが変えられない!?くそっ!?」
『何をもたついているんだ、ハナビ!?この馬鹿女が!?デタラメでもいいから、翼を思いっきり動かせ!殺されたいのか、この間抜け!?』
乙房とエビーラルドが口論をしている間に、僕は一気に重力を操作し、無重力状態を解除した。
その瞬間、一気に天井高くから乙房が床へと向かって落下した。
「キャアー!?くっ、このぉー!?」
天井から勢いよく落下する乙房が何とか、背中に生えた翼を必死に動かし、空中で何とかホバリング飛行をしながら制止した。
その瞬間、僕は乙房の頭上から約1mほどの空中へと瞬間移動し、逆さの状態のまま、空中へと浮かんで制止すると、乙房の頭へ拳銃を向けながら、乙房に声をかけた。
「こっちを向け、目立ちたがり屋の馬鹿女!」
「あんっ!?」
乙房が顔を上に向けた瞬間、僕は乙房の頭へと向けている拳銃のトリガーを引いた。
拳銃から霊能力の弾丸が一発、バーンという音を立てながら、高速で発射され、弾丸が乙房の眉間を真っ直ぐに撃ち抜いた。
「がぁっ!?」
弾丸に頭部を撃ち抜かれ、眉間を中心に直径10㎝ほどの大きさのぽっかりとした穴が、頭に開いたまま、乙房は悲鳴を上げ、床へと墜落していった。
乙房の死体は床に激突すると、顔面が潰れ、腕と足はあらぬ方向へと捻じ曲がり、ほぼ全身の骨が砕け、全身から大量の血を床に垂れ流すのであった。
僕は乙房の死体の傍へと瞬間移動すると、しゃがみ込み、乙房の死体の首の左側にある、黒い蛇の顔のタトゥーに左手で触れながら言った。
「今更死んだフリなんて無駄だぞ、エビーラルド。お前の魂がまだ、乙房の死体に宿っているのは分かっている。タトゥーの位置にお前たち堕天使の魂が宿っているのも知っている。僕に封印されて地獄にまた落ちる前に、何か言いたいことはあるか、目立ちたがり屋の馬鹿女?」
『ちっ!この私を醜いと、目立ちたがり屋の馬鹿女と蔑んだことへの恨みは絶対に忘れないぞ、「黒の勇者」!天才であるこの私が生み出したモンスターを醜い欠陥品呼ばわりした屈辱も忘れぬものか!お前がどうやって神の力を手に入れたかは分からない!だが、所詮、あのクソ女神の良い様に利用されているだけの、実験動物以下の勇者気取りの愚かなお前の方が私よりはるかに醜い!精々、あのクソ女神に勇者としてこき使われて無様に死ぬがいい!』
「ソイツはお生憎様。僕はあのクソ女神のリリアに利用されるつもりは全くない。勇者なんてクソくらえだと思っている。僕は別に勇者なんかじゃあない。あんな醜い犯罪者どもと一緒にするな。僕は僕の意志で元勇者たちに、それと異世界の悪党どもへ復讐しているだけだ。それに、僕にはイヴが付いている。イヴと一緒に醜い悪党どもへ復讐を続ける。ただ、それだけのことだ。じゃあな、目立ちたがり屋の馬鹿女。」
『ま、待ってくれ!?イヴと言ったな!若き天才女神と呼ばれる、あのイヴ様のことを言っているのか!?お前はあの御方の知り合いなのか?私をイヴ様と会わせて・・・』
「霊魂封印!」
僕は霊能力のエネルギーをエビーラルドの魂へと注ぎ、エビーラルドの魂を封印した。
僕の左手には、青白い色の、透明な野球ボールくらいの大きさの水晶玉のようになって封印されたエビーラルドの魂が握られていた。
「これで堕天使の四人目の封印完了だ。お前みたいな、頭のイカれた、マッドサイエンティストの目立ちたがり屋の馬鹿女堕天使を、僕の大事なイヴと会わせるわけないだろ。堕天使たちの中で一番頭が良いらしいが、科学や能力を悪用し、他者の命を平気で弄ぶ罪深きマッドサイエンティストなんかに、本物の天才科学者であるイヴが会いたいと思うわけがない。科学者としての道を踏み外した今のお前に、科学者を名乗る資格も、科学に携わる資格すらない。科学が他者の幸福を守るために生まれ、存在することの意味を地獄で思い出すところからやり直せ、自称天才の目立ちたがり女堕天使。乙房、お前はただ自分が目立ちたいために、他人に自慢したいがために、大勢の人間や生き物の命を弄び、傷つけ、そして、殺した。行き過ぎた自己顕示欲と言う名の無自覚の悪意の塊、それがお前だ。お前にとっては、お前が能力を使って改造した人間や生き物は、自分が目立つため、あるいは自己承認欲求を満たすための、服やアクセサリー、玩具程度の扱いだったんだろうな。お前のくだらない行き過ぎた自己顕示欲のために、何の罪もない大勢の命が奪われたことを、お前は全く分かっていない。命は何物にも代えられない、あらゆる宇宙で最も尊いモノの一つだ。お前はそんな命を、他者の大切な命を私利私欲のためにとことん踏みにじった。他人から評価されたいためなら、何をしてもいいわけじゃあない。自分が目立つために他人の命や尊厳を簡単に奪うなんて、絶対に許されないことだ。お前のやったことは、炎上商法か犯罪かの、唾棄すべきおぞましい悪事に他ならない。元々目立ちたがり屋でSNS中毒だったのが、異世界に来たせいで余計に悪化して、迷惑系インフルエンサーを通り越した犯罪者へと一気に成り下がることになるとは、虚しい限りだ。お前のインスタとか見たことないが、本当に良い内容だったら、みんながお前の投稿にいいね、をして、みんなが笑顔になるはずだ。お前のインスタの投稿が良いだとか、バズってるだとか、一度も聞いたことないけど。自分でも無自覚の内に迷惑系インフルエンサーだったんじゃないか、お前?今となっては確かめようがないか。SNSのいいね、なんてモノに振り回されて、最終的に地獄に落ちる人生になるというなら、SNSは案外、地獄へと通じる落とし穴なのかもしれないな。乙房、お前は今回、たくさんの命を弄んで殺した。地獄でお前に殺された連中が大勢、復讐するために待っているはずだから、たっぷりと復讐されるがいい。地獄でも超有名な悪党としてインフルエンサーデビューできるんだから、ファンも出来て、夢が叶って本当に良かったな、目立ちたがり屋の馬鹿女。さて、五人目のターゲットは始末した。次はお前だ、ゴミ女。ゴミ以下の犯罪者の癖に、一丁前にプライドだけは高い、自分のプライドを守ることに固執するプライド激高のゴミ女のお前に、残飯以下の最後の晩餐をフルコースで味わわせてやる。」
僕は乙房の死体の前を立ち去ると、六階を攻略して、七階へと続く階段へ歩いて向かう。
七階の部屋へと続く螺旋階段を上りながら、僕は次の復讐について考えるのであった。
七階の部屋の扉の前へと着くと、僕は千里眼で七階の部屋の中を調べた。
「なるほど。これも相当、悪趣味な部屋だな。そして、あのゴミ女にピッタリの部屋でもあるな。ここで僕を罠に嵌めて、後で料理して食べるつもりなのか?あのゴミ女なら、僕を食い殺そうとか気持ち悪いことを考えていそうだな。入る前から気分が悪くなってる。仕方ない。部屋の中に入るとするか。」
僕はそんなことを呟きながら、扉を開け、七階の部屋の中に入った。
部屋の中に入ると、僕は部屋の入り口の扉から何歩か歩いて立ち止まった。
室内は他の階とほぼ同じ内装で、違いと言えば、周囲には、白い石でできた、壊れた武器を手に持つ、裸の人間の彫刻がいくつも広い室内に建っている。
そして、七階の部屋の中央には、紫色の髪に、エメラルドグリーンのメッシュが入った、ベリーショートヘアーの髪型で、エメラルドグリーンの瞳を持ち、両手をダランと下げたやや細身で長身の女が、険しい表情を浮かべながら僕を待ち構えていた。
鷹尾たち一行の仲間の一人、「弓術士」の早水である。
「よぅ、早水。久しぶりだな。顔色が悪いがどうした?ああっ、そういえば二日前、お前、ゴミを食べたんだっけ?僕の仲間から、お前がゴミに生えた毒キノコごとゴミを食べたと聞いた時は、思わず吹き出して笑ったぞ。僕の仲間たちにも大ウケだったぞ、お前の渾身のギャグは。それとも、ゴミを食べなきゃいけないほど空腹だったのか?刑務所の不味い飯よりゴミの方がよっぽどご馳走らしいな、お前には。ゴミを食べた感想はいかが?」
僕は笑みを浮かべながら、早水を挑発した。
僕の挑発の言葉を聞き、額に青筋を浮かべ、僕を睨みつけながら、早水は怒りを露わにした。
「黙れ、この人でなしの陰キャ野郎!アンタには散々、世話になったわ!アンタのせいでゴミまみれにされるわ、ゴミを食わされることになるわ、みんなの前で恥をかかされるわ、本当に腹が立つ!アンタはこの私が殺す!ゴミを食べようが、ゲロを吐こうが、必ずこの手で息の根を止める!かかってきなさい、「黒の勇者」!」
『コイツが「黒の勇者」なんだな!アスカ、こんなゴミ勇者はとっととぶっ潰してゴミ箱に捨ててやるんだな!かかってこい、ゴミ勇者!』
早水と、早水と融合する暴食の堕天使グラトラルドが、僕を挑発する。
「犯罪者以下のゴミはお前たちだろ、ゴミ女ども。掃除されて地獄のゴミ箱にぶち込まれるのは、お前たちだ。ちゃちゃっと掃除するとしますか。」
僕は全身から一気に霊能力を解放し、紫色の霊能力のエネルギーを全身に身に纏った。
僕は笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩いてノーガードの体勢で、早水たちの方へと向かっていく。
「くっ!?舐めるな、「黒の勇者」!行くわよ、グラトラルド!吸収合体!」
『サポートは僕に任せて、アスカ!』
グラトラルドからの応援を受けながら、早水が「吸収合体」の能力を発動し、早水の肉体が急速に形を変え、変身していく。
早水の着ている鎧や衣服が破けるとともに、身長が5mほど大きくなり、全身が筋骨隆々に変形した。両腕両足は太い丸太のように筋肉が付いて盛り上がっている。
全身が白い金属質を感じさせる、光沢のある、白いドラゴンのような鱗に覆われている。
両手足には、白くて長い、鋭い鉤爪が5本、それぞれ生えている。
尻からは、白いドラゴンのような太く長い尾が一本生え、尾の先端は無数のスパイクが付いた鉄球のような形状をしている。
口には、びっしりと鋭い牙が生えている。
背中には、白く巨大な鷲のような二枚一対の翼が生えている。
瞳の色はエメラルドグリーンから血のような赤色に変化している。
白い不気味なモンスターの姿に変身した早水を見て、僕は立ち止まり、変身後の早水を千里眼で分析しながら、早水に話しかけた。
「さっき都原の奴にも訊ねたんだが、元女勇者たちの間では化け物になるのが流行なのか?そんな人間を辞めたような姿になって、モンスターみたいになって、お前には人間としてのプライドが無いのか、ゴミ女?いや、ゴミを平気で食べる時点でもう人間として終わっていたな。愚問だったな。」
「黙れ!アンタを倒すためなら、私は何だってする!モンスターの姿にだってなる!それに私は人間を辞めてはいない!これが私の能力なだけよ!私を舐めたことを今すぐ後悔させてやる!」
僕の挑発を聞いてさらに怒った早水が、変身した姿のまま超スピードで走り、僕の前へと現れた。
「死ねぇー、宮古野!」
早水が鋭い鉤爪の生えた巨大な右腕を勢いよく振り下ろした。
だが、早水の右腕による攻撃が僕の体へと迫った瞬間、僕の姿が一瞬で消えた。
早水の振り下ろした右手の鉤爪が床をえぐり取り、床を破壊するが、早水の攻撃した場所に僕の姿は全くない。
「なっ!?消えた!?くっ!?どこよ!?」
「後ろだ、鈍間のゴミ女!」
僕はすでに瞬間移動で早水の後方から10m離れた位置に笑みを浮かべながら立っていた。
「ちっ!?ちょこまかと!?」
早水はすぐに後ろを振り返ると、ふたたび右手を振り下ろして僕を攻撃した。
しかし、僕はすぐに早水の右斜め後方5mの位置へと瞬間移動して、早水の攻撃を難なくかわした。
「こっちだよ、ゴミ女。動体視力悪すぎだぞ、お前。」
「くそっ、舐めるな!」
早水が右斜め後方にいる僕に向かって、先端が無数のスパイクが付いた大きな鉄球のように変化した長い尾を振り回して攻撃してきた。
僕は早水の正面から10mほど離れた位置へと瞬間移動した。
僕が先ほど立っていた場所の床が、早水の攻撃のせいで穴が開いたのを見ながら、僕は言った。
「おっと危ない、なんちゃって。遅すぎだ、ゴミ女。」
「なっ!?また、かわされた!?くそがっ!?」
焦る早水が大きな口を開くと、口の中から火炎放射器の如く、勢いよく火炎を僕に向かって噴射した。
早水が火炎を吐いた瞬間、僕はすぐに早水の後方にある、部屋の入り口の傍まで瞬間移動した。
早水が火炎を吐きながら、体を360°回転させ、自身の周囲を火炎で燃やし尽くそうとするが、早水の吐く火炎のブレスの射程距離内には僕の姿はない。
火炎を吐き終わり、僕に背中を見せる早水に向かって、僕は大声で笑いながら言った。
「ハハハ!僕はここだ、ゴミ女!無駄に火炎を吐いて、お疲れ様!この僕がそんなちっぽけな火にやられるわけないだろうが!」
「くそっ!?ちょこまかと逃げやがって!?なら、これでも食らえ!」
怒る早水の両目が赤く光り輝き、眩しく赤い光が部屋中を一瞬、照らした。
だが、赤い光を全身に浴びても、霊能力のエネルギーを全身に纏っている僕は平然とした様子で立っている。
「なっ!?死の呪いが効いてない!?そんな馬鹿な!?」
「今のがお前の死の呪いか?その程度の呪い、僕に効くわけないだろ?僕が死の呪いを無効化できることも、死の呪いを操れることも知らないのか?お前、ちゃんと僕の戦闘能力を事前に調べていないだろ?どうせ、他の奴と同じでリーダーの鷹尾に情報収集を任せっきりなんだろ?体だけじゃなく、頭の中身も鈍間で間抜けだな、ゴミ女。」
「くっ!?まだよ!?私の本気の能力を見せてやる!」
焦りを露わにする早水は、背中に生えた白い巨大な翼を使って、猛スピードで飛び上がり、天井付近まで一気に飛んだ。
そして、白い巨大な翼から真下にいる僕に向かって無数の雷を放った。
早水の翼から放たれる無数の雷が、部屋中に無数の落雷となって何度も落ち、僕や部屋中のモノを黒焦げにしようと襲い掛かって来る。
「どうだ、「黒の勇者」!私の雷に焼かれて黒焦げになれ!キャハハハ!」
雷を放ちながら笑う早水であったが、すぐに後方から自分を呼ぶ不愉快な声が聞こえてきた。
「何を笑っているんだ、ゴミ女?誰を黒焦げにするだって?もう一度、言ってみろよ。」
早水が恐る恐る後ろを振り返ると、早水の後方10mの上空に、紫色の霊能力のエネルギーと、銀色の霊能力のエネルギーを身に纏い、瞬間移動して空中に浮かぶ僕の姿があった。
「なっ、何っ!?いつの間に私の背後へ!?空を飛んだ瞬間は見えなかった!?空を飛ぶスピードまで私より速いというの!?あ、アンタ、一体、女神からいくつ能力をもらっているのよ!?何で私より速く移動できんのよ!?」
「ご丁寧に自分の能力を敵に教える馬鹿がどこにいるんだ?単純にお前のスピードが僕より遅いってだけの話だ。能力の数の多さだけが勝敗を決めるわけじゃあない。数だけじゃあなく、質も重要だ。まぁ、ゴミを食べる超雑食のお前に、能力の質の価値なんて話しても無意味だろうが。それで、もう攻撃はお終いか?他に能力はないのか、ゴミ女?」
「くそがっ!?宮古野の癖に私を舐めるな!私の覚悟をお前に味わわせてやる!グラトラルド、用意は良いわね!」
『大丈夫だよ、アスカ!何時でも行けるよ!そのゴミ勇者をぶっ殺しちゃえ!』
「これで最後よ!死ねえー、宮古野!」
早水が全身を紫色に光り輝かせると同時に、早水の全身を覆う白い鱗の隙間から一斉に、青緑色のガスのようなモノが大量に噴出した。
僕は瞬時に霊能力のエネルギーをさらに解放し、「闇零磨滅」を発動させた。
紫色の霊能力のエネルギーに全身を覆われる僕の体の周囲の空間が次々に消滅していく影響で、僕の半径5m以内の空間が捻じ曲がったり、歪んだりするような光景が現れる。
早水の全身から噴出する青緑色のガスが部屋中に充満するが、僕は自身に迫ってくる青緑色のガスを空間ごと消去し、無効化していく。
やがて、早水の全身が紫色に光り輝くのが終わるのと同時に、早水の全身から流れ出るガスの噴出も収まった。
部屋の下部にはいまだ青緑色のガスが漂っているが、僕はガスを吸うことはなく、平然とした様子で空間を消去しながら、空中へと浮いている。
息を切らしながら、驚いた表情で僕を見つめる早水がいた。
「はぁー、はぁー。ど、どうして、どうして、カビを浴びても平気なのよ!?グラトラルド、アンタ、何か余計なことをしてないでしょうね!?」
『ぼ、僕は何も余計なことはしていないんだな、アスカ!カビには何も手を加えていないんだな!あのカビの効果は間違いないんだな!吸ったら呼吸困難を起こすし、浴びれば皮膚も細胞も壊死するはずなんだな!「黒の勇者」の奴をよく見てよ!あ、アイツ、カビが全く体についていないんだな!?カビを、カビを浴びていないんだな!?それにアイツの周りが歪んで見えるんだな!?カビを防がれちゃったんだな、きっと!?』
「はぁー!?なっ!?カビを浴びてないですって!?それに宮古野がボヤけて見える!?何なのよ、アレは!?」
『ぼ、僕にもよく分からないんだな!?光が、いや、空間が歪んでいるとしか・・・、ま、まさか、空間を操っているのか!?』
驚く早水とグラトラルドに、僕は笑みを浮かべながら言った。
「ゴミを食うイカれた鈍い頭の癖に、少しは考えたようだな、ゴミ野郎。相棒のゴミ女はいまだに気付いていないが。ご推察の通り、僕は空間を操る能力がある。少しネタバらしをすると、僕の体に触れる全てのモノを空間ごと消し去る能力がある。つまり、お前らがいくら殺人カビをバラまいても、僕の体に触れる前に、空間ごと消去されるわけだ。今もずっと、僕の周りの空間は消去され続けているんだ。僕がお前たちに触れようと近づいただけで、肉体も魂も空間ごと消去されることにもなるんだ。僕が手加減していることにいい加減気付けよ、ゴミ女ども。」
「く、空間を操る能力ですって!?空間ごと全てのモノを消去する能力なんて、そんな、そんなの、どうやっても防ぎようがないじゃない!?くっ、グラトラルド、アイツに、宮古野の能力に対応できる能力は他に無いの!?」
『空間を操る能力に対応できる能力なんて持ってないよ!?空間を操る能力を持っている奴なんて、神か天使クラスの奴なんだな!なっ!?そ、そんな、こ、コイツから神みたいな力を感じるんだな!?こ、この勇者は、「黒の勇者」は神クラスの能力の持ち主なんだな!?や、ヤバいんだな!?アスカ、すぐに逃げるんだな!?コイツは、コイツは絶対に戦っちゃいけない相手なんだな!?コイツは得体が知れない怪物なんだな!?』
「はぁー!?宮古野が、「黒の勇者」が神クラスの能力の持ち主!?そ、そんな、噓でしょ!?ふ、ふざけんな!?私がこんな奴に、宮古野相手に逃げるなんて冗談じゃない!宮古野なんかに、宮古野なんかにこの私が負けるわけないのよ!?」
『ア、アスカ、僕の話を聞くんだな!?早く逃げるんだな!?』
「うるさい!アンタは黙ってて、グラトラルド!私は絶対に逃げない!行くわよ、宮古野!」
グラトラルドの警告を無視し、プライドを傷つけられ、怒り狂う早水は、背中の翼から雷を生み出すと、全身を覆うように、雷のエネルギーでできた球状の結界を作り出した。
それから、左手をロングボウのように変形させると、高圧縮された水で形成された、水圧カッターのような水の矢を生み出し、僕に向かって連射した。
「食らえ!水圧貫穿!」
早水が連射する水の矢を僕はノーガードで、「闇零磨滅」を発動したまま受け止める。
僕の体に触れる直前に、早水の放つ水の矢は全て、僕の前面の空間ごと消去されてしまう。
「これがお前の覚悟の証、プライドを懸けた力なのか?はっきり言って、ゴミ以下の力だな。ゴミ女ども、お前たちが何を企んでいたのか、当ててやる。まず、この部屋には、武器を使ってはいけない、というルールがある。ルールを破れば、違反者も敵も、この部屋にいる者は、部屋中から噴射される冷凍ガスでたちまち全身を氷漬けにされる、という罠に嵌まり、凍死することになる。だが、「吸収合体」の能力を持つお前たちなら、この部屋に武器を持ち込むことはなく、体の一部を武器に変形させる能力で武器を生み出すことができる。スキルを使って僕を攻撃できる。体の一部を変形させて生み出した武器は本物の武器としてはカウントされない。寒さへの耐性に関する能力を持っているなら、冷凍ガスの罠も無効化できる。僕がお前たちを攻撃するために武器を使ったところを罠に嵌めて殺すつもりだったんだろ?「吸収合体」、食べたモノの能力や特徴を吸収して利用できる能力、中々ユニークだな。ただし、吸収できる対象はあくまで自分よりレベルの低い生物や物体に限る。それと、ストックできる能力は100個までという制限がある。100種類の能力を使い分け、同時併用もでき、戦闘能力を上げることができるが、僕を倒すほどの性能や威力はない。今、使っている能力はコモンドラゴン、オーガ、グリフォン、アンズー、サラマンダー、カトブレパス、セイクリッドオリハルコン、カビ、変身能力、毒への耐性、などを組み合わせたものだ。少なくとも10種類以上の強力な能力を組み合わせて変身し、使っているようだが、その変身、持って20分、いや、15分が限界だろ?身体への負担がかなり大きいはずだ。グラトラルドのサポートがあるからこそ使えるわけだが、戦い始めてからもうすぐで15分が経過しようとしている。そろそろ、タイムリミットなんじゃないか?グラトラルドが僕から逃げろと警告した本当の理由が分かっていないようだな、プライド激高のゴミ女?」
「だ、黙れ!?うっ!?」
『あ、アスカ!?』
僕に能力や作戦を見抜かれ、焦る早水が突然、攻撃を止め、苦しそうに胸を抑え出した。
そして、一気に変身能力が解除され、白い不気味なモンスターの姿から、元の人間ベースの姿へと戻ると同時に、胸を苦し気に抑えながら空中より落下した。
「ああっ!?」
『アスカ、落ちちゃダメだ!早く翼を出して!』
グラトラルドから指示され、苦し気な表情を浮かべて胸を抑え、悲鳴を上げながらも、背中から黒い堕天使の翼を生やし、必死に翼を動かし、何とか空を飛んで墜落を免れ、床に着地した早水であった。
「ぐぅー!?はぁー、はぁー!?ま、まだよ!?もう一度変身するわよ、グラトラルド!」
『これ以上は無理だよ、アスカ!アスカの体はもう変身に耐えられるほどの体力も魔力もほとんど残っていないよ!ここはスズカたちの下まで撤退するんだ!早く上の階まで逃げるんだな!』
「嫌よ!私は、私は絶対に逃げない!私は、宮古野を、「黒の勇者」を絶対に殺す!」
『あ、アスカ!?僕の話を聞いてよ!?そんな強がりを言える状況じゃないんだよ!?』
早水とグラトラルドが口論する中、僕は早水たちの後方、最上階へと続く階段の入り口付近へと瞬間移動すると、笑みを浮かべながら早水たちに向かって言った。
「僕の予想通り、もう限界らしいな、ゴミ女。お前に戦う力はもう残っていない。今更上に逃げようと思い直しても無駄だ。逃げ道はこの通り塞いだ。上の階に逃げるなんて、鷹尾たちに頼るなんてできないぞ。下に逃げても、デス・タワーの外は僕の仲間たちが包囲している。下の階へ逃げても僕はとことん追いかけて、お前を殺す。テロリストで連続殺人鬼で犯罪者の癖して、一丁前にまともな人間面して、何の罰も受けずに自分だけはのうのうと生き延びれると考えるお前の、ゴミ以下のプライドだけしか眼中にない、そのどす黒い腹の中を見ているだけで怒りがこみあげてくる。地獄に落ちる前に、正義と復讐の怒りがたっぷりと詰まった復讐のフルコースをお前に味わわせてやる!覚悟しろ、ゴミ女ども!」
僕は早水たちへの激しい怒りを露わにすると、霊能力をさらに解放し、紫色の霊能力のエネルギーを左手の指先に集中させた。
左手を早水たちの方へとゆっくりと向けると、左手の指をパチンと鳴らした。
「闇門開闔!」
次の瞬間、早水の腹部から突如として高熱のマグマが噴き出し、早水の体が燃え始めた。
早水の口や鼻からも赤いマグマが逆流して噴き出し、口や鼻、喉を内側からマグマが高熱で溶かしていく。
「ゲボぅー!?」
マグマに内側から全身を焼かれ、マグマを絶えず嘔吐し、床で悶え苦しみ転がり回る早水に、冷たい笑みを浮かべながら僕は言った。
「正義と復讐のフルコース料理のお味はどうだ、ゴミ女?もう「吸収合体」の能力を使える余力がない以上、マグマの熱に耐えることも、肉体を再生させることも、お前はできない。お前の体の中、正確には胃の中の空間と、地下深くのマグマが流れる空間を繋げた。お前が死ぬまで、胃の中から大量のマグマが溢れ出て、マグマに全身を焼かれてお前は死ぬことになる。ゴミなんかよりもよっぽど食べ甲斐のある激熱メニューだ。プライドの高いお前にとってはゴミよりもずっと美味しい贅沢な料理のはずだ。僕が腕によりをかけた、地獄へ落ちるまでの最後の晩餐をどうぞご賞味あれ、ゴミ女。」
「だ、だじゅげでぇー!?うがぁっ!?」
早水が悲鳴を上げながら、体の内側から溢れ出す大量のマグマの高熱で焼かれ、全身火だるまになりながら、ドロドロに溶かされていく。
『も、もう駄目だ!?ごめんよ、アスカ!』
マグマでドロドロに溶かされ、燃え尽きようとしている早水の体から、青白い霊魂のような姿のグラトラルドが飛び出し、早水を見捨てて逃亡を図る。
逃亡を図るグラトラルドの傍へと瞬間移動すると、僕は左手でグラトラルドの魂を掴んだ。
『くそっ!?離せ!離すんだな、このゴミ勇者!?くそっ、くそっ!?』
「人がせっかく心を込めて作った料理を最後まで食べずに残すなんて酷いなぁ、ゴミ堕天使。ゴミを平気で食べるくらいに馬鹿舌でゴミグルメなお前に、ゴミよりもマシな最後の晩餐をわざわざプレゼントしてやったのに、食事中に席を立つなんてマナー違反だぞ。シェフである僕に失礼だとは思わないのか?ゴミグルメだからマナーを知らなくてもおかしくはないが。さて、僕に封印されて地獄にまた落ちる前に、何か言いたいことはあるか、馬鹿舌のゴミ野郎?」
『僕はゴミ野郎じゃないんだな!僕にゴミなんかを食べさせた恨みは絶対に忘れないんだな!グルメな僕を馬鹿舌呼ばわりしたことをいつか必ず後悔させてやるんだな!地獄からいつか抜け出して、お前の口にゴミをたっぷりと詰め込んで、ゴミを食わせてやる!今に見ているんだな、ゴミ勇者!』
「お生憎様。僕はゴミを食べるほどに味覚がぶち壊れている味音痴で馬鹿舌のお前と違って、食べ物にはうるさい方だ。ゴミなんぞ絶対に口元どころか、鼻先にすら近づけたりはしない。僕の仲間には料理上手もいるし、グルメもいる。一人例外はいるけども。イヴは間違いなく本物のグルメだ。イヴの前で僕にゴミを料理として振る舞ったりしたら、たちまちお前はブラックホールに生ゴミとして捨てられることになるぞ。お前は今からでも馬鹿舌を治すことに専念しろ。後、テーブルマナーも勉強し直すんだな。イヴや僕の前で粗相をしないように。じゃあな、馬鹿舌のゴミ野郎。」
『ま、待つんだなぁ!?い、イヴ様とお前は知り合いなのか!?僕は神界では昔、名の知れた料理人だったんだな!イヴ様にどうか僕のことを紹介してほし・・・』
「霊魂封印!」
僕は霊能力のエネルギーをグラトラルドの魂へと注ぎ、グラトラルドの魂を封印した。
僕の左手には、青白い色の、透明な野球ボールくらいの大きさの水晶玉のようになって封印されたグラトラルドの魂が握られていた。
「これで堕天使の五人目の封印完了だ。昔は神界で名の知れた料理人だったらしいが、今のお前は飢えたらゴミだって平気で食べる、プライドのない味音痴の馬鹿舌のただのゴミ野郎だろうが。ゴミ臭いお前と一緒のテーブルで食事したいと、イヴが思うわけないだろ。僕も他の仲間たちも御免だ。まずはその狂った舌を治療するのと、テーブルマナーを勉強し直すのを終えることが先だ。お前がまともな味覚を取り戻して出直してきたなら、一緒に食事することぐらいは考えてやる、馬鹿舌のゴミ堕天使。ふぅー。早水、お前は僕と戦う覚悟を決めたと言ったが、お前の言う覚悟は本物の覚悟ではなく、自分のくだらないプライドを守るための隠れ蓑に過ぎない。プライドを持つことは決して悪いことじゃあない。だが、自分の優越感を満たしたいがために、他人をただ見下したいがためだけにどんな悪事にも手を染めるようなプライドなんて、ゴミ以下の悪意にしか過ぎない。正義や命、愛、優しさ、人として大切なモノを守り通そうというひたむきな熱意、気品すらも感じさせる高潔な熱く揺るぎない精神こそがプライドだと、僕は思う。私利私欲のため、自分が優越感に浸るために目障りだと思う人間を大勢傷つけ、殺したお前は、欲にまみれた品性の欠片もない、ゴミどころか人間の命さえも貪り食う邪悪な人の皮を被った怪物も同然だ。他人の全てを食らい尽くすことでしか自分の存在を守れないというおぞましい性を背負った悲しい生き物だよ。地獄に落ちた以上、悪しき罪人であるお前に優越感だとか全能感だとかに浸る暇なんて二度と来ない。地獄に落ちた他の罪人たちと同様に最低最悪のゴミ以下の存在として扱われ、ずっと罰を受け続けることになる。けど、その代わり、お前より最低最悪の人間は周りには一人もいないはずだから、優越感に飢えることはもうない。プライドを持つこと自体、お前は許されないんだからな。それに、もう死んでお腹は空かないから、肉体的な飢えからも解放されるわけだ。飢えてゴミを食う必要も無いんだ。ずっと飢えずに済むわけだから、地獄に落としてもらったことを感謝しろよ、ゴミ女。さて、六人目のターゲットは始末した。最後はお前だ、冷酷クソ女。お仲間は、いや、手駒は全員、始末した。お前の犯罪計画はこの僕が尽くぶち壊してやった。お前の計算通りに事が運ぶことは全くない。三流犯罪者以下の犯罪オタク風情が調子に乗った報いだ。下劣な悪党として地獄に落ちる、それがお前の犯罪ごっこの結末だ。」
僕は早水の死体の前を立ち去ると、七階を攻略して、最上階である八階へと続く階段へ歩いて向かう。
八階の部屋へと続く螺旋階段を上りながら、僕は最後の復讐について考えるのであった。
僕の元「弓聖」鷹尾たち一行への復讐は無事に幕を開けた。
六人の元勇者たちに無事復讐し、処刑ショーのフィナーレは筒がなく進行している。
最後の一人、元「弓聖」鷹尾を殺して地獄へと叩き落す復讐を遂げ、処刑ショーのフィナーレの幕を下ろすべく、僕は一歩一歩、ゆっくりと最上階への階段を上っていく。
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