第二話 【処刑サイド:光の女神リリア】光の女神リリア、後輩女神にダメだしされる、そして、適性試験を受ける

 「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈とその仲間たちが、元「弓聖」鷹尾たち一行を討伐してから二日後のこと。

 光の女神リリアが、主人公たちによる告発により、神王ビギンによって、異世界アダマスを担当する女神の職を一時解任され、更迭処分を食らったその日のこと。

 自身が更迭処分を食らい、さらに神王ビギンを始め、神界に住む他の神々たちから軽蔑され、笑い者にされる屈辱を味わわされ、光の女神リリアは、自身の姉で、告発の中心人物とリリア本人が勝手に思い込んでいる、闇の女神ことイヴに対する、激しい憎悪と怒りで、酷く苛立っていた。

 おまけに、神王ビギンより、自分に女神としての適性があるか否かを試す試験を行うと言われ、試験に不合格となれば、女神としての資格と能力を剥奪され、地獄に落とされる罰を与えると言われ、そのことで余計神経質になっていた。

 後任である「剣の女神」ブレンダが自身の神殿にやってくると、急いで仕事の引継ぎ作業を行い、ブレンダをさっさと神殿から帰らせると、リリアは一人、いつも自分がいる謁見の間のような部屋に入り、椅子に座って、今後のことについて両目を瞑り、深刻そうな表情を浮かべながら、考え込んでいた。

 「とりあえず適当に仕事の引継ぎを無事、終わらせましたが、これからが問題です。イヴ、あの憎たらしい高慢ちきな女のせいで、この私が更迭されることになるとは、実に不愉快です、まったく!何故、この私が女神の職を追われ、挙句、適性試験など受けるハメにならねばならないのです!元はと言えば、カテリーナ、あの行き遅れの出来損ないの「巫女」のせいです!あの愚か者が、この私の神聖な神託を改竄し、邪な企みを実行しようとしたことが原因です!あの愚か者に最大級の神罰を与えてやらねば!」

 リリアはそう言うと、両目を瞑りながら、千里眼を発動し、異世界アダマスの様子を観察する。

 そして、カテリーナのいる、ゾイサイト聖教国の首都の様子を観察し始めた。

 リリアがゾイサイト聖教国の首都を観ると、カテリーナのいる、リリア聖教会本部がかつて入っていた巨大な宮殿が、何故か空中に浮かんだり沈んだりを繰り返す、奇妙な光景が広がっていた。

 首都内では、国民と、他国から来たリリア聖教の信者たちが、ゾイサイト聖教国新政府のある、宮殿の向かい側の大聖堂の入り口前で、新政府首脳陣や聖騎士団、貴族、リリア聖教会本部関係者に対する激しい抗議活動を行っていた。

 また、信者たちが必死になって、リリアや「黒の勇者」こと主人公に対して、許しを請う旨の懺悔を行い、「黒の勇者」を探し回っていた。

 ゾイサイト聖教国は今まさに、混乱の渦の真っただ中にあることは、誰の目にも明らかであった。

 混迷するゾイサイト聖教国の姿を見て、リリアは驚くとともに、呆れてしまった。

 「わずか数日の間に、ゾイサイト聖教国がこんなにも落ちぶれてしまうとは、何と情けない。この私のお膝元を自称していながら、こうもあっさりと国が崩壊の危機に瀕するとは。散々、女神であるこの私の名前を使って好き勝手した報いです。例えこの私を崇拝しているからと言って、愚かな信者たちがどうなろうが、私の知ったことではありません。ゾイサイト聖教国も、愚かな信者の人間たちも、最早私の管理する世界には無用の長物です。」

 リリアは、現在のゾイサイト聖教国や信者たちの姿を見ながら、冷ややかな態度でそう呟いた。

 「それはさておき、カテリーナ、あの愚か者に神罰を下すことの方が重要です。宮殿があのように浮き沈みしているのは恐らく、重力操作の能力の影響でしょう。イヴ、あの女がやったことでしょう。フン、まぁ、あの愚か者たちへの見せしめとしては悪くはありません。憎たらしい高慢ちきな女ではありますが、少しばかりセンスは認めましょう。」

 リリアはそう言いながら、千里眼を使って宮殿の中を覗くと、空中に力なく浮かぶ、一人の人間の女性を発見した。

 宮殿の謁見の間の天井付近にまで浮かび、空中を漂うその女性は、薄汚れたボロボロの白い法衣を身に纏い、顔はやつれて、ひどく憔悴している。

 顔の化粧がとれ、目尻や頬に若干、皺が見える。

 空中に漂う女性の名は、カテリーナ・イーディス・ゾイサイト。

 光の女神リリアの「巫女」であり、かつてはゾイサイト聖教国国家元首にして、リリア聖教会のトップである聖教皇を務めていた人物である。

 しかし、先日、「黒の勇者」こと主人公によって、自身が「巫女」の立場を悪用して、自身の私利私欲のために、光の女神リリアから授かった神託を故意に改竄し、神託や元「弓聖」たち一行の討伐、勇者である主人公を利用しようと悪事を働いてたことが暴かれ、聖教皇の地位を失脚、さらに異世界の悪党として主人公から復讐と言う名の制裁を食らい、現在に至るのであった。

 ボロボロになって空中に浮かんで漂うカテリーナに対し、青い瞳の両目を開き、冷たい眼差しを向けながら、リリアはカテリーナに話しかけた。

 『カテリーナ・イーディス・ゾイサイト、生きているなら返事をしなさい、愚か者。』

 崇拝するリリアからの呼びかけに、三日間飲まず食わずで空中を漂っていたカテリーナは、ハッと意識を取り戻すと、リリアからの呼びかけに答えた。

 「り、リリア様!?リリア様なのですね!?どうか、どうか、この私をお助けください!?全ては誤解なのです、リリア様!?」

 『何が誤解ですか、この行き遅れの出来損ないの「巫女」が!この私が何も知らないとでも思っているのですか?この恥知らずの、大馬鹿者!この私からの神託を勝手に改竄した上、「黒の勇者」を手に入れるために元勇者たちの討伐を妨害するような行いをするとは、何と愚かなことをしてくれたのです?おかげで、この私は他の神々の前で大恥をかかされたのですよ!大体、「黒の勇者」は、女神であるこの私の伴侶候補であるにも関わらず、四十手前の行き遅れの、出来損ないの「巫女」風情が軽々しく手を出そうなど、おこがましいにも程があります!「巫女」でありながら、この私の信頼を蔑ろにし、さらにこの私の顔に泥を塗り、虚仮にした始末、どうなるか分かっているでしょうね?』

 「ど、どうか、お許しください、リリア様!決してリリア様を蔑ろにしたわけではございません!全ては、全てリリア様のためなのです!我がゾイサイト聖教国が「黒の勇者」様を専属勇者としてお抱えすることが、リリア様の願いを叶えるための最善の手段だと考えたのです!決して私利私欲のためではございません、リリア様!」

 『黙りなさい、この大ぼら吹きの愚か者めが!女神であるこの私にそのような浅はかな嘘は通じません!カテリーナ、あなたが私利私欲のために神託を改竄する大罪を犯したことは全て承知しています!女神であるこの私からの問いに最後まで嘘をつき、己の罪を認めんとするその傲慢で恥知らずで無礼極まりない態度、許しておくわけにはいきません!カテリーナ、あなたから「巫女」の資格と能力を全て剥奪します!今後、ゾイサイト家の血筋から、「巫女」の力を持った者が永久に生まれてこないよう処理します!女神であるこの私を欺き、裏切った罪、たっぷりと償させてあげましょう!では、永久にさようなら、出来損ないの「巫女」よ!』

 「リリア様、どうかお許しを!リリア様ー!?」

 カテリーナの命乞いを冷酷に無視すると、リリアはカテリーナの持つ「巫女」のジョブとスキルを永久に使用不能にし、それから、カテリーナとの交信を切った。

 「フン。女神であるこの私を侮辱し、怒らせることがどれほど罪深いことか、地獄に落ちるまでの間、たっぷりとその身で味わうがいい。まぁ、既に聖教皇の地位を失ったあの女に利用価値など微塵もありませんし、他の信者たちも、かつての部下たちも誰一人として助けに来ない辺り、所詮は「巫女」以外に何の価値もない、ただの愚かな行き遅れ女だった、ということです。全く、最近は「巫女」も、人間たちも大分質が落ちてきたように思えて仕方ありません。知的生命体として、質が低下している傾向にあることは間違いないようです。少々、甘やかしすぎたようです。近い内に、この私自ら、人間たちにテコ入れを行うとしましょう。人間たちをさらにグレードアップさせる用意は進んでいます。ですが、今は先に試験を突破することが優先です。はぁ、人間たちの愚かさにはいつも困らせられるばかりで大変です。」

 「何が大変なのですか、光の女神リリア様?」

 「何がって、もちろん人間たちに決まって・・・、って、ぶ、ブレンダ!?あ、あなたが何故ここに!?帰ったのではなかったのですか?いえ、そもそも、どうやって、私の許可なく私の神殿に入れたのです?」

 突然、帰ったはずの「剣の女神」ことブレンダに後ろから声をかけられ、リリアは驚いた。

 ブレンダは少々、呆れたといったような表情を浮かべながら、リリアの問いに答えた。

 「私が神王様よりあなたのお目付け役も担当するよう仰せつかっていることをお忘れですか?確かに一度神殿を出ましたが、引継ぎの際に聞き忘れていたことがあったことを思い出し、急遽ここまで引き返してきたのです。神殿の前に結界や罠がいくつか仕掛けてありましたが、あの程度のセキュリティーでしたら、私の剣ならあなたに気付かれることもなく、容易く破壊できます。まぁ、既にいくつか先に破壊されていた後でしたが。そんなことよりもリリア様、先ほど異世界アダマスの人間と交信し、さらに神罰を与えていたようですが、勝手な行動は困ります。この私や、神王ビギン様の許可なく、異世界アダマスに干渉することは禁止すると言う、神王ビギン様からの厳命をもうお忘れですか?リリア様、あなたは現在、アダマス担当女神の職を一時解任され、更迭処分を受けている身です。あなたの先ほどの行動は全て命令違反です。先ほどのような勝手な異世界への干渉は止めてください。それと、先ほどの命令違反については神王様に報告させていただきます。お目付け役であるこの私の監視の目があることを忘れないでください。」

 「ぶ、ブレンダ、待ってください!?あなたや神王様の許可を得ずに異世界に干渉したことは謝ります!ですが、一時解任されたとは言え、私の管理していた世界で、私の直近の部下とも言える人間が問題を起こしたのです!担当女神として、元責任者として、私自身でけじめを着ける必要があると考えたのです!どうか、そのことを分かってください!」

 「あなたの心情は理解できないわけではありません、リリア様。しかし、命令違反は事実です。今は私が、アダマスの人間を監督する立場にあります。神罰を与える人間がいるのでしたら、私が代わって神罰を与えます。女神が私情を優先して動くことはあってはなりません。リリア様、あなたの先ほどの行動、現地人との一連のやり取りを見るに、失礼ながら、あなたの私情が過分に入っているようにお見受けしました。先ほどのような行動は今後控えるべきかと、僭越ながら、ご忠告させていただきます。後、神殿前の、あの物々しい結界や罠は取り外してください。一々、解除するのは手間ですし、お目付け役の仕事の邪魔になります。ご理解いただけましたね、光の女神リリア様?」

 「くっ!?わ、分かりました、ブレンダ!」

 後輩女神で、自身の後任でお目付け役であるブレンダから淡々とダメだしされ、そのことに悔しさと恥ずかしさを覚え、顔を俯かせながら若干悔し気な表情を浮かべて答えるリリアだった。

 その後、ブレンダからの仕事の引継ぎに関する質問に再度答え、ブレンダがふたたび自身の神殿を立ち去ったのを確認すると、リリアは自室に籠り、ベッドの上に寝転がり、一息つくのであった。

 「フゥ~、やっと帰りましたか。全く、大事な仕事の引継ぎとは言え、何時間もしつこく質問攻めをしてきて、細かすぎるにも程があります。あんな堅物で真面目過ぎる女神は早々、見たことありませんよ。話をしているだけで息が詰まりそうになります。あんな堅物が私の代役で、後々同僚になるかと思うと気が滅入りそうです。イヴよりもブレンダ、彼女の方が厄介に思えてきました。おまけに、この私のお目付け役として付いて回って来るとは、実に不愉快です。ですが、天使からの成り上がり者とは言え、彼女は神王様お抱えの、勅命を受けた存在です。迂闊に手出しすれば、私の首は即座に飛ぶことになりかねません。とにかく、あの子煩いお目付け役に目を付けられないよう、注意せねば。くっ、一刻も早く試験に合格して、ブレンダから解放されるよう頑張りましょう。」

 自分とは正反対の、超が付く真面目な性格の持ち主である「剣の女神」ブレンダの監視の目から一刻も早く逃れたいと思うリリアであった。

 だが、リリアの想像以上にブレンダの監視の目は厳しかった。

 そして、超の付く真面目の、仕事中毒とも言える勤務態度であった。

 ブレンダと仕事の引継ぎについて話した日の翌日。

 リリアが自室のベッドの上で、ぐうスカ、いびきをかきながら気持ちよく寝ていると、突然体を揺さぶられ、耳元で声をかけられた。

 「起きてください、光の女神リリア様!もう昼前ですよ!早く起きてください!」

 「フガっ!?ぶ、ブレンダ!?な、何故、私の寝室にいるのです!?勝手によそ様の寝室に入るなど、プライバシーの侵害です!いくらお目付け役だからと言って、やり過ぎですよ、これは!?」

 「はぁ~。リリア様、私はあなたのお目付け役であり、女神としてのあなたの勤務態度や生活態度を監視又は指導するよう、神王様から直々に命じられております。今日は私が新たな女神の一人として、異世界アダマスに降臨すると先刻、伝えていたはずです。人間たちに、あなたが更迭されたことや、私があなたの後任の女神を務めることなど、重大発表をする日でもあります。その他にも、いくつか重要な仕事があります。現地へと赴く前に、一度最終確認をするため、こちらへ立ち寄ると昨日、お伝えしていたはずです。約束の時間を過ぎても応答がないため、仕方なくあなたの寝室にお邪魔させていただきました。大事な仕事の打ち合わせに遅刻どころか、寝坊するとは、これは大問題です。あなたの寝坊の件については後で神王様に報告させていただきます。ですが、寝坊せざるを得ない理由があったのであれば、一応聞きましょう。」

 「す、すみません、ブレンダ!大事な適性試験前とあって、試験に備えて対策をしていたら、つい夜更かしをしてしまい、うっかり寝坊してしまいました!決して、仕事のことを忘れていたわけではありません!信じてください、ブレンダ!?」

 「女神の座がかかった大事な適性試験が控えていることは、その大変さは理解しています。最高神である神王ビギン様自ら試験官を務めることなど、早々ないことだとも伺っております。けれども、仕事と試験は全く別の話です。適性試験はあくまでリリア様、あなた個人の、プライバシーな事情に過ぎません。私も出来れば試験合格を願ってはいますが、更迭中と言えども、あなたはまだ現役の女神です。更迭中の身でも最低限、女神としてやっていただくお仕事があります。仕事と私生活の両立は職業人にとって必要不可欠なことです。試験対策は大事ですが、寝坊をして仕事に支障をきたすようでは困ります。せめて、目覚まし時計くらいはセットするようにしてください。よろしいですね、リリア様?」

 「ほ、本当にすみません、ブレンダ!今後このようなことはないよう、私も注意を払いますので!」

 「よろしく頼みます、光の女神リリア様。では、急いで着替えを済ませてきてください。あなたの着替えが終わったら、すぐに仕事の打ち合わせを始めさせていただきます。」

 ブレンダから寝坊の件について注意されたリリアは、赤面し、恥ずかしさを必死に堪えながらも、急いでベッドから出ると、普段着に着替えた。

 それから、ブレンダと一緒に、仕事の打ち合わせを行うのであった。

 仕事の打ち合わせを終え、ブレンダが自身の神殿を出て行った後、リリアはふたたび自室に戻るなり、近くにあった椅子を蹴飛ばし、八つ当たりするのであった。

 「ああっ、もう、鬱陶しい!少し寝坊したくらいで、ガミガミとこの私に説教をしてきて、本当に目障りです!後輩の分際で、仕事のことだけでなく、私生活にまで口出ししてくるとは、実に不愉快です!一々、神王様の名前を出してきてマウントを取ってくるあの態度が癪に障ります!こっちは大事な試験も控えている身なのです!仕事にばかり時間を割いている余裕はないんですよ!大体、仕事の引継ぎはキチンと終えているはずです!ちゃんとマニュアルだって作って渡しました!それなのに、たかが一時期この私の代役をするだけのことだと言うのに、あそこまでしつこく仕事にこだわるとは、どうかしていますよ、ブレンダは!?あれですか、ワーカーホリックとか言う奴ですか?私生活を荒らされて、こっちはいい迷惑ですよ!?早く、早くあの子煩いお目付け役を何とかしないと、私の身が持ちません!」

 お目付け役であるブレンダの厳しい監視の目に、不満を吐露するリリアであった。

 その後の三日間も、ブレンダによるリリアへの監視と指導は続いた。

 リリアが神王ビギンからの言いつけを破り、自宅謹慎中にも関わらず、こっそりと自身の神殿を抜け出して外に遊びに行こうとしたところを、運悪くブレンダに見つかり、ブレンダからお説教を食らった。

 先日、神王ビギンや他の神々たちの前で自分を侮辱し、現在は地獄で真面目に服役中の、プララルドたち堕天使へ復讐するため、知り合いの悪魔を、夜中にこっそりと自身の神殿に呼び出して買収し、堕天使たちへ行う嫌がらせについて相談しているところを、これまた秘かに監視していたブレンダに見つかり、キツいお説教を食らうことになった。

 ブレンダによる厳しい監視とお説教に嫌気が差し、ストレス解消のため、寝る前に酒を飲んでいたら、それがやけ酒となり、翌日もブレンダが自分に会いに来る予定があるにも関わらず、泥酔し、二日酔いで動けなくなってしまった。そのため、ブレンダとまともに話すどころか、ブレンダに介抱されることになり、ブレンダからは呆れられてしまった。

 ブレンダがリリアのお目付け役となって、リリアの監視を始めてからまだ五日足らずの間だが、ブレンダの前で散々、醜態を晒し、ダメだしを食らうリリアなのであった。

 ブレンダがリリアのお目付け役となってから五日目のこと。

 ようやく、リリアが待ちに待った、適性試験が行われることとなった。

 お目付け役のブレンダに案内され、共に神王ビギンのいる神殿へとやって来たリリアは、神王ビギンのいる謁見の間まで案内された。

 謁見の間に入ると、数人のリリアたちより高位の神々に、護衛を務める最高位の天使たちがズラっと、並んで立っていた。

 そして、謁見の間にある巨大な玉座の上に、70代前半くらいの、一人の老人が座って待っていた。

 身長5m超えの巨体に、白いくせ毛の、ゴワゴワとした長髪に、サンタクロースのように長く白い髭を口元に生やしている。

 瞳の色は、澄んだ緑色をしている。

 キトンのような白いローブを身に纏い、表情は一見穏やかで、やや無機質にも見えるが、目には力があり、全体的に荘厳な雰囲気を漂わせている。

 古代ギリシャの賢者を連想させる、その老人の名はビギン。

 「始まりの神」、「神の中の神」、とも呼ばれ、また、神王様とも呼ばれる、神界の神々の頂点に君臨する、神界の統治者にして大賢者である。

 全ての神々、天使、悪魔が、神王であるビギンの前にひれ伏すほどの絶対的な存在、真に全知全能の神たる存在なのである。

 ビギンの座る玉座の前でリリアたちは皆、かしづいた。

 「面を上げよ。」

 「神王ビギン様、ご命令通り、「剣の女神」ブレンダ、「光の女神」リリアをお連れいたしました。」

 「うむ。ご苦労である、ブレンダ。「光の女神」リリアよ、事前に通達しているように、本日より、お前の女神としての適性の有無を確かめる適性試験を行う。試験に無事、合格すれば、適性アリとみなし、お前の女神としての資格と能力は残す。だが、不合格となった場合は、適正ナシとみなし、女神としての資格と能力は剥奪、さらに地獄に落とし罰を与える。覚悟はできているだろうな、リリアよ?」

 「もちろんでございます、神王様!どんな試験内容であろうと必ず合格して御覧に入れます!私の準備は万全です!」

 「ほぅ。だが、ブレンダからのここ五日間の報告を聞くに、この私からの命令を破り、勝手に異世界へ干渉、現地人に神罰まで与えたそうだな。さらに、仕事に寝坊して大遅刻をするわ、悪魔を買収して、地獄で服役中の堕天使たちに嫌がらせを行おうとするわ、泥酔して仕事が出来ず、ブレンダに介抱されるわ、リリアよ、お前の一体どこが準備万端なのだ?私からの命令を尽く無視し、醜態を晒しているだけのようにしか見えん。正直に言えば、このまま試験など行わず、即刻地獄に落とすべき、と言うのが我々上層部の意見だ。リリアよ、何か私やブレンダ、皆に対して言うべきことがあるのではないか?」

 ビギンからの厳しい言葉に、リリアはその場で縮こまり、土下座をしながら皆の前で謝った。

 「本当に、本当に申し訳ございませんでした!軽率な行動をとってしまったことについては深く、深く反省しております!何卒、適性試験の実施をお願いいたします、神王様!」

 「はぁ~。ブレンダからの報告を聞き、それが事実だと分かり、私や上層部の者たちがどれだけ頭を抱えたか分かるか?今後二度と、同じような過ちを犯すことは許さん。もし、試験期間中にも命令違反があった場合は、試験は即刻中止し、不合格とみなす。それと、最高点ラインで合格すれば、ふたたび異世界アダマス担当の女神の仕事に戻す予定だったが、当初の予定とは一部変更し、合格しても派遣、担当する異世界は、別の世界とする。リリア、合格後もお前には、複数の先輩方が担当管理する異世界で、改めて女神としての修行を積むよう命じる。これは神王でこの私、そして、神界上層部の意思であり、決定事項である。異論は許さん。分かったな?」

 「合格してもアダマス担当には復帰できないのですか!?神王様、神界上層部の皆様、どうかご再考をお願いいたします!異世界アダマスはこの私が管理、育成してきた世界です!アダマスのことを最も熟知している神は私以外にはおりません!どうか、どうか再度ご検討をお願いします!」

 「くどい!異世界アダマスが腐敗し、現在崩壊の危機に陥っている原因を作った張本人であるお前の言葉など、全く信用に足らん!たった数日、現場を離れ、監視をつけただけで、女神とは思えぬ失態の数々!試験に合格しても、お前をアダマス担当に戻すことはない!そんなにアダマスを大事に思うならば、適性試験で最高得点以上の、この私や他の試験官たちをあっと言わせるほどの成果を出してみよ!それが可能ならば、アダマス担当女神への復帰について再考してやらんこともない!だが、お前にそれができるか、リリア?」

 「も、もちろんでございます、神王様!アダマス担当女神に復帰するためならば、必ず試験官の皆様方にご納得いただけるほどの成果を上げて御覧に入れます!」

 「その言葉、確かに聞いたぞ。お前の本気の実力とやらを見せてもらうとしよう。では早速、試験についての説明に入る。セクト、ベスティア、ティーズ、以上三名の女神をここへ呼んで来るように。」

 ビギンの命令を受け、数人の天使たちが別室で待機しているセクト外二名の女神たちを呼びに行った。

 三分後、天使たちに案内され、セクト、ベスティア、ティーズの三名の女神が謁見の間へとやって来た。

 セクトたちがビギンの前にやって来るなり、ビギンはセクトたちに声をかけた。

 「面を上げよ。「虫の女神」セクト、「獣の女神」ベスティア、「遊戯の女神」ティーズ、よくぞ来てくれた。三人とも多忙の中、すまないが、お前たち三名には、そこに控える「光の女神」リリアの適性試験に協力してもらいたい。三名とも、それで良いな?」

 「「虫の女神」セクト、神王様のご依頼とあれば、喜んでお引き受けいたします。」

 「「獣の女神」ベスティア、右に同じです。」

 「ニッシッシ~。「遊戯の女神」ティーズ、右に同じで~す。」

 「良くぞ言ってくれた、セクト、ベスティア、ティーズ。リリアよ、今回のお前の適性試験にはお前とは同期で旧い付き合いだと言う彼女たち三名に協力してもらうことになった。彼女たちには試験会場の提供と、試験官を担当してもらうよう事前に頼んである。言っておくが、試験が顔見知りだからと言って、この前のように買収などの不正な行為に及べば、その瞬間に不合格、即地獄行きだ。くれぐれも愚かなことは考えぬように。それでは、具体的な試験の内容について説明する。今回の適性試験のお題は、異世界の問題解決、だ。リリアよ、お前には、そこにいるセクト、ベスティア、ティーズの三名がそれぞれ管理する異世界が抱える問題の解決に協力してもらう。具体的には、リリア、お前がアダマスで育て上げた人間たちの中から、問題解決に適していると思われる人材を、各異世界に派遣してもらい、派遣した人間たちに問題を解決してもらう。試験の実施期間は派遣した日から一年間とする。一年以内に、各異世界の問題を解決させるのだ。派遣する人間の数に上限は設けないが、追加の派遣は不許可だ。尚、現地ではお前が事前に与えた加護を使えるよう特別な処置を施すことも許可する。セクトたちからの加護をもらい、使用できるようにすることも許可する。ただし、派遣する人材に「黒の勇者」やその仲間、それと、魔族を選ぶことは許可しない。お前は彼らを、特に魔族を虐げてきた以上、彼らを利用することは一切許可しない。リリアよ、今度はお前が異世界に自分の育てた人間を派遣する側を体験してみよ。旧友とも言える者たちの管理する異世界のためならば、より本気で試験に臨めるはずだ。試験官はセクトたち、そして、採点官はこの私外六名の神界上層部の高官たちが務める。試験の点数は300点を満点とし、合格ラインは150点とする。点数配分については、一つの異世界につき100点とする。成果の内容だけでなく、人間たちの行動も採点基準となることを忘れないように。以上が適性試験の説明である。リリアよ、この後すぐ、セクトたち試験官に、各異世界が抱える問題の内容を聞くように。それと、今日から三日以内に派遣する人材を選び、各異世界に派遣するのだ。派遣する際は事前に試験官たちの許可を得てから現地に送るように。リリア、お前と、お前の育てたアダマスの人間たちが知的生命体としてどれほどのモノか、今一度見定めるとする。心して試験に取り組むように。では、これにて解散。」

 「お、お待ちください!適性試験の受験者は私です!何故、アダマスの人間たちが私の試験に参加する必要があるのです?女神としての研究成果を出せと仰られるのであれば、すぐにでも最新の研究成果をご報告できます!各異世界の問題の解決も、女神である私一人で十分対応可能です!アダマスの人間たちは私たち神々が理想とする知的生命体のレベルには届いておらず、不完全な部分があります!わざわざ、アダマスの人間たちを派遣する必要性を感じません!」

 「異論は認めん。これは神界上層部の決定だ。試験の内容が覆ることはない。適性試験の受験者はお前だが、今回の試験の目的は、リリア、お前の女神としての在り方を見ることにある。だからこそ、お前がこれまで育て上げたアダマスの人間たちも、お前の一部とみなして参加させるのだ。これ以上の質問は一切、受けつけん。試験がすでに始まっていることを忘れるでない、リリア。」

 神王ビギンはそう言うと、他の神々たちと一緒に、謁見の間を去って行く。

 ビギンが立ち去った後、困惑するリリアにセクト、ベスティア、ティーズの三人が話しかけてきた。

 「全く、神王様の御慈悲に感謝しなさいよ、リリア。普通ならとっくに、邪神認定されて試験も受けられずに地獄へ落とされるところよ。おまけに、知り合いの私たちの世界のことなら多少は知っているだろうから試験もやりやすいだろう、と思っての配慮よ、きっと。」

 「セクトの言う通りだぜ。リリア、分かってるとは思うが、アタシらは今回、試験官だ。知り合いだからと言って手加減はしねえぞ。適当なお前と違って、アタシらが大事に育て上げた異世界だ。この前のように性犯罪者を選んで送り込んでくるような馬鹿な真似をしてきたら、今度こそブチ殺すぞ。その辺、よ~く分かってるだろうな、ああん?」

 「ニッシッシ~。ティーズは別にぃ~、リリアが地獄に落ちても全然気にしないけど~。言っとくけど~、ティーズの担当する異世界はマジで激ヤバだから。リリアの世界の弱っちい人間たちじゃ、マジですぐに人生ゲームオーバーになっちゃうかも。そうなったら~、リリア、今度こそホントに終わっちゃうね~(笑)ニッシッシッシッシ(笑)」

 「セクト、ベスティア、ティーズ、あなたたちが試験官を担当するのにも驚きましたが、余計なお節介は不要です。多少、想定とは違っていましたが、内容さえ分かっていれば、どうと言うこともありません。この私が育て上げた最高の人間たちを、あなたたちの世界に派遣しましょう。そして、あなた方の世界の抱える問題とやらをたちまち解決させてみせます。時間がありません。三人とも、すぐに私の神殿へ来てください。皆さんの世界の問題や、人材を派遣するタイミングについて話し合うとしましょう。付いて来てください。」

 リリアはそう言うと、セクトたちを引き連れ、自分の自宅である神殿へと一緒に戻り、彼女たちと試験のことについて話をした。

 まず一番手に、セクトが、自分の管理する異世界が抱える問題について話した。

 「私の管理する異世界モースは、常に食糧問題を抱えているのが大きな悩みよ。私が保護する知的生命体は「昆虫型人類」と呼ばれるタイプで、他の知的生命体に比べて繁殖力が強い。そのために毎年人口は増加する一方で、食糧の供給が需要を超えるか超えないか、いつもギリギリのラインで、餓死者が出ないよう、食糧の供給に常に目を見張る必要があるの。食糧問題を解決するためにこれまでに色々と対策を打ってきたけど、今一番欲しいのは、食糧の大量生産に繋がる最新の農業関連技術ってところよ。農業関連の優秀な人材、特に優秀な技術者を派遣してほしいのだけれど、あなたの管理するアダマスにそういった人材はいるのかしら?あまり期待はしていないけど。」

 「食糧不足を解決可能な農業関連の優秀な技術者ですね?それなら、特に問題はありませんよ、セクト。私の管理するアダマスには、農業関連のスペシャリストが大勢います。農業大国と呼ばれる国もあります。すぐに優秀な人材を派遣してあげましょう。他に、何か注意事項はありますか?」

 「そうねぇ?まぁ、ごく当たり前のことではあるんだけど、差別用語の使用は絶対にダメよ。私が保護する「昆虫型人類」、通称バグノイドなんだけど、彼らは皆、とても外見を気にする性質なの。バグノイドと一括りに呼んでいるけど、彼らは種族だけで100万種以上存在するの。言い換えると、100万通りの異なる姿を持っている。彼らは多様性と美にこだわっていて、特に外見で差別されることを嫌っている。外見のことで誹謗中傷をする者は皆、終身刑、最悪、死刑に処すことを法律で自ら定めている。絶対に外見のことで彼らを馬鹿にするような発言だけはさせないように。一応、私からも注意喚起は念入りにするから大丈夫だとは思うけど。」

 「なるほど。外見のことで現地人を差別するような発言や行動は絶対にしてはいけない、よく分かりました。私からも派遣する人間たちにはよく言い聞かせておきます。」

 リリアはセクトからの説明事項をノートにメモするのであった。

 二番手に、ベスティアが、自分の管理する異世界が抱える問題について話した。

 「次はアタシだ。アタシの管理する異世界グルージャだが、今一番の悩みは、みんなが刺激に飢えている、ってことだ。アタシが保護する知的生命体は「動物型人類」。アニマン、って普段は呼ばれている。リリア、お前のところで言う、獣人って呼ばれる奴らに似てはいる。けど、数も種類も段違いだ。おまけに、全員、血気盛んで、勝負好きだ。武術、学問、芸術、遊び、何でも勝負をしたがる連中だ。いつも何かしらの大会を開いて、優勝だとか創造性だとか個性だとか、そういったモノを手に入れたり、表したりすることを生きがいにしている。競争こそが己も他者も成長できる最良の機会である、って言うアタシからの教えを信じて、常に自己研鑽に励んでいる。だが、ここ最近、大会の優勝者や入賞者が固定化してマンネリ化の傾向にある。そのせいで、各ジャンルの進歩が伸び悩んで、人間も社会も停滞しちまっている。そこでだ。武術、学問、芸術、色んなジャンルの優秀な異世界人を送ってもらって、新しい刺激を現地人たちに与えてやってほしいわけだ。異世界の武術だとかテクノロジーだとかエンタメだとか、そういう目新しくて面白いモノを提供してくれる人材を送ってほしいわけだが、できるか、リリア?」

 「ふぅむ。現地人たちに新しい刺激をもたらしてくれる各ジャンルの優秀な人材を派遣してほしい、ですか?出来なくはありませんが、少々中身がフワっとしていると言いますか、ややアバウトな感じがします。ですが、私の管理するアダマスの素晴らしい文化やテクノロジーを伝えることは可能です。私の派遣する人間たちが、刺激不足で悩む現地人たちを満足させることはお約束しましょう。ベスティア、何か他に注意事項などはありますか?」

 「注意事項ねぇ?別に大したことじゃあねえが、アタシの世界の人間たちはとにかく全員、根が真面目で正直だ。大会に勝つため、入賞するため、目標達成のため、常に努力を欠かさない奴らばっかりだ。だからな、何の努力もしてない、実績もないのに他人を馬鹿にしたり、見下したりする、そういう根性の捻じ曲がったクズは心底嫌われるんだよ。アニマンたちは全員、参加する大会に常に全力投球、命懸けだ。大会の報酬が、国の覇権に関わるモノもあったりする。大会で不正をした奴は問答無用で厳罰に処される決まりだ。卑怯で根性なしのクズじゃあ生きていけない世界だ。どっかの誰かさんや、犯罪者になるような元勇者みたいな異世界人なんかは、即地獄行きになるぜ。」

 「フン。一言余計ですよ、ベスティア。私の派遣する人間たちは全員、品行方正にして優秀な人材です。選りすぐりの人材を派遣して差し上げますのでどうぞ、ご心配なく。ええっと、真面目な努力家型の性格かつ品行方正な人間であること、大会での不正は厳罰に処されるので絶対にダメ、と。」

 リリアはベスティアからの説明事項をノートにメモするのであった。

 最後に、ティーズが、自分の管理する異世界が抱える問題について話した。

 「ニッシッシ。リリアにティーズの世界のお悩みが解決できるかな~?辞退するなら、減点50点からのスタートで済ませてもいいって、神王様たちは言ってるけど、どうする~?意地を張るのはかえって損するだけだよ、リリア~?(笑)」

 「誰が辞退などしますか!?この私に解決できない問題はありません!不戦敗や減点スタートなど、そんな恥辱を受け入れるような情けない女神ではありませんよ、この私は!良いからさっさと、あなたの管理する異世界が抱える問題とやらについて話してください、ティーズ!」

 「ふ~ん。三つも掛け持ちはキツいかな~、って思って気を利かせてあげたんだけど、リリアがやるって言うなら、話してあげる。でもでも~、不合格になっても、恨みっこなしだからね~。全部リリアの自己責任なんで、そこんトコロよろしく。んっじゃあ、ティーズの管理する異世界ニグマだけど、一番のお悩みは、やっぱダンジョンの攻略率が下がってることかな~。ティーズの保護する知的生命体は「ヒューマノイド型」、リリアの世界で言う「人間」に一番近いかな~。「シーカー」って呼ばれていて、外見も多分、そんなに変わんないかな。でね、ティーズの世界は、ティーズの作ったダンジョンを攻略することで人間たちが文明を発展させてきた世界なの。100以上の国があって~、ニグマ全体にティーズの作ったダンジョンが10万個以上あって~、人間たちはダンジョンを攻略した時の報酬である、ティーズ特製の特別なアイテムをもらって、それを使って発展してるわけ。高難易度のダンジョンをクリアすればするほど、特別なアイテムをもらえて、人も国も世界も発展していく。各国は常に冒険者たちを派遣して、どれだけ他の国よりも先にダンジョンを攻略できるのか競い合ってるわけ。でも~、ここ最近、ダンジョンを攻略できる人間が減っちゃったんだよね~。ティーズがちょっと前にダンジョンのアップデートをしたら、攻略に失敗するようになっちゃって、ティーズ的に見てて全然面白くないんだよね~。シーカーたちも頑張ってはいるんだけど、後一歩のところで攻略できないんだよね~。特に最高難易度の、Lv.∞クラスのダンジョンはここ三年の間、攻略者ゼロ。ティーズが用意した報酬の神アイテムも全くの出番なし。それでね、それでね、リリアには~、ティーズの作ったダンジョンを攻略できるめっちゃ強いプレイヤーになれる人間を派遣してほしいんだけど、ホントにできんの~?」

 「なるほど。あなたらしい悩みですね、ティーズ。私の管理するアダマスには、戦闘に特化した加護を与えた人間が多くいます。モンスターとの戦闘経験豊富な「冒険者」と呼ばれる職業に就く人間も大勢います。私の世界ではダンジョン攻略をする人間はほとんどいませんが、戦闘経験や戦闘能力に覚えのある人間ならば、あなたの世界のダンジョンを攻略することも可能なはずです。腕利きの冒険者たちをあなたの世界に派遣してあげましょう。他に注意事項はありませんか?あなたの作るダンジョンとなると、相当危険なのではないかと?大体、Lv. ∞クラスのダンジョンとは、字面からして、ふざけているようにしか聞こえないのですが?」

 「ニッシッシ。Lv. ∞クラスはLv. ∞クラスだよ~。ダンジョンって言うのは、攻略が難しければ難しいほど、攻略する人間のやる気も出るものでしょ~。だから、攻略した時に得られる報酬も喜びもレベチなんじゃん。報酬で得たアイテムで人間も世界も向上するし、簡単に手に入らないからこそ、人間たちは必死に足掻いて努力する。ダンジョンは言わば、知的生命体を進化させるための飴と鞭。後、ティーズが作った最高のゲーム。注意事項だけど、要はダンジョンを攻略できるプレイヤーとしての才能があるかどうか。リリアの世界の人間はダンジョン未経験がほとんどらしいし、まずは現地の人間と一緒に低レベルのダンジョンをクリアできるようになるところからスタートだね。間違っても、未経験のまま、いきなりダンジョン攻略とかできないから。ティーズのダンジョンは低レベルでもマジで難しいから。戦闘能力だけじゃなくて、経験とか、謎解きのできる頭の良さも必要だから。そこんトコロ分からないまま挑戦すると、マジで死ぬよ?」

 「未経験のまま、ダンジョン攻略は絶対に無理。戦闘能力と頭の良さの両方が必須。ふぅ。これは確かに、特に人選に力を入れる必要がありますね。高ランクの戦闘職の人間たちの中でも選りすぐりの人材を派遣すれば、まず大丈夫でしょう。」

 「ニッシッシ。リリアの世界の人間がティーズの作ったダンジョンにどこまで通用するのか、見物だなぁ~。即全滅ENDとか言うマジつまんない展開だけは止めてよね~。ああっ、後、女神のポルノ作って売り捌こうとする頭のおかしい変態とか送んないでよね。」

 「誰がそんな変態を送ったりするものですか!?不吉なことばかり言うのは止めてください、ティーズ!嫌がらせを受けたと神王様に訴えますよ!?」

 「いや、実際に女神のポルノを作って売るような変態を勇者に選んだ前科があるからだろ、リリア?言っとくが、アタシの世界に、グルージャに、そんな変態の異世界人を送ってきた時は、今度こそアタシの鉄拳でお前をスクラップにするからな。変態共々、スクラップにして地獄に落とすぞ。分かってるだろうなぁ、リリア?」

 「リリア、もし、私の世界に、モースに、性犯罪者になるような異世界人を送ってきた時は、流石の私も今回ばかりは容赦しないわよ。問答無用で私の毒をお見舞いしてあげる。私の毒を食らったら、いくら女神のあなたでも無事では済まないことくらい、分かっているわよね?上級悪魔御用達で、地獄の拷問にも使われるこの私特製の毒の恐ろしさは、よく知っているはずよ?」

 「わ、分かっていますよ、ベスティア、セクト!二人も試験前に人をからかうのは止めてください!前回のようなミスは二度としません!今回は私自ら、特に人選に気を配り、選りすぐりの人材を皆さんの世界に派遣して差し上げます!皆さんの世界の問題を完璧に解決し、試験に合格してみせます!要らぬ心配や、人をからかうような発言は止めてください!まったく、こんなことになるなら、チキュウから異世界人を呼んでくるのではありませんでした!そもそも、チキュウの神々に相談などしたからこんなことに・・・」

 セクトたちから忠告され、自分が女神の資格を賭けた適性試験を受けるハメになったのはチキュウの神々のせいだと、ブツブツと不満を漏らすリリアであった。

 セクトたちとの話を終えると、リリアは早々にセクトたちを自身の神殿から帰らせるのであった。

 リリアの神殿からの帰りの道すがら、セクトたちは話をした。

 「どう思う、二人とも?やっぱりあの調子じゃあ、絶対に落ちるわよね、あの子?」

 「だろうな。今のアイツを見る限り、全然試験の本質を分かっているようには見えねえな。大体、神王様からの言いつけを破るとか、アイツ、馬鹿だろ?アタシにはアイツが全然、反省しているようには見えなかったぜ?」

 「リリアって無駄にプライド高いよね~。そんなんだから、自分の世界も碌に管理できなくて大失敗したことが分かんないんだもんね~。ティーズは99.9%、リリアが不合格になるって予想しま~す!ねぇ、何なら、三人でちょっと賭けてみる?」

 「嫌よ。結果がほとんど分かっている勝負に賭けるなんて、無意味でしょ。そんなことよりも、リリアが私たちの世界に異世界人を派遣してきた時に問題が起きた際の対応策を考えておく方がずっと大事よ。」

 「だな。今のリリアの頭もセンスも、ほとんど狂ってるからな。アイツの世界の元勇者みたいにアタシらの世界で、好き勝手暴走でもされたら大変だぜ。賭け事なんて、悠長なことは言ってらんねえぞ、ティーズ?下手したら、お前の世界だって滅茶苦茶にされるかもしれねえぞ?」

 「あ~あ。だから、この仕事引き受けたくなかったんだよねぇ~。神王様から直に頼まれたから断りたくても断れなかったんだよねぇ~。ちぇっ。リリアが面倒に思ってティーズの世界だけは辞退してくれないかな~、と思って、ワンチャン振ったのに、リリアったら意地張ってさ~。あ~、マジで仕事増やしてほしくない~。今からでも試験辞退してくんないかな~、リリア~?」

 セクトたちはリリアが適性試験に不合格になる可能性が高い、などという話をしながら、帰っていくのであった。

 セクトたちがリリアの神殿から去った後、リリアは、今回の試験課題である、三つの異世界が抱える問題を解決するために派遣する人材を選定すべく、千里眼を使いながら、異世界アダマスの人間たちを見て、物色していた。

 「解決すべき問題は三つ。一年以内に問題を解決、あるいは成果を出すことが合格条件。どの異世界もそれぞれ特色があり、一筋縄には行きません。くっ。女神であるこの私自ら手出しはできず、私の育てた人間を代理人として受験させよとは、中々に厄介です。何としても、人間たちには問題を解決してもらわねなければ、最悪、本当に女神をクビにされることになりかねません。絶対に、絶対に良き人材を派遣しなければ。」

 リリアは、青い瞳を血眼にしながら、千里眼を使って、異世界へ派遣する人材を探し回る。

 「犯罪歴のある人間は絶対にダメです。特に、あの出来損ないの「槍聖」が作った、エロ写真を買った愚か者たちはアウトです。今もこの私がモデルのポルノが流通しているなど、実に不愉快です。闇ギルドの連中全員に今すぐこの手で直接神罰を下せないとは・・・いえ、今はそんなことよりも人材選びが優先です。モースの食糧問題には、やはりペトウッド共和国の獣人たちが適任でしょう。農業に関する知識、技術、能力に優れている彼らならば、きっと食糧問題の解決に貢献してくれるはずです。ついでに、サーファイ連邦国の人間たちも派遣しましょう。漁業なら彼らの方が専門ですし。次に、グルージャの、社会の停滞ですが、各ジャンルで新しい刺激をもたらす人材を欲しているとのことですが、これについても当てはあります。武術部門は各国の優れた冒険者や武人を、学問は各分野の有名な研究者を、芸術部門は音楽や絵画などの有名アーティストを、それぞれ選んで派遣するとしましょう。ズパート帝国には優秀な宝石職人がいますし、彼らの繊細で美しい、アダマス特有のアクセサリーはきっと、異世界の芸術に革新をもたらすはずです。最後に、ニグマの、ダンジョン攻略率の低下ですが、これがシンプルに一番難しい課題です。何せ、あのティーズの作ったダンジョンを攻略できる人間となると、武芸者としては世界トップレベル、その中でもさらに選りすぐった人材である必要があります。力も、頭も、どちらも優秀でなければいけません。Sランク冒険者の中からここは選ぶとしましょう。」

 リリアは千里眼を使い、アダマスの人間たちの中から、三つの異世界に派遣する人材の候補を選び、リストアップした。

 リリアがリストアップ作業を終えた頃、彼女のお目付け役である「剣の女神」ブレンダが、リリアの下へとやって来て、声をかけた。

 「お疲れ様です、リリア様。本日から適性試験が開始されたと、神王様たちより先ほど知らされました。試験の内容についても聞かされております。異世界に派遣する人材の選定作業の進捗はいかがですか?」

 「お疲れ様です、ブレンダ。今、やっと候補者のリストアップ作業を終えたところです。これから、候補者たちに異世界への派遣について打診したいと思っていたところです。」

 「そうですか。試験に関してであればアダマスへの干渉はある程度許可する、と神王様より伺っております。今日から三日以内に派遣せよ、ということらしいですが、三日もあるならば十分でしょう。ただ、無理強いだけは止めてくださいね。アダマスの人間たちも今、色々と忙しい時期ですから。」

 「分かっていますよ、ブレンダ。この私が人間に無理強いなどするわけがありません。それに、現地への派遣には試験官たちの許可も必要です。何も問題はありません。」

 「分かっていらっしゃるようならば、私から特にお話しすることはありません、リリア様。試験合格に向け、頑張ってください。それと、今日のアダマスに関する報告ですが、アダマスの犯罪組織をいくつか、この私の手で殲滅いたしました。犯罪者の人間はこの私自ら、あなたに代わって全員、その場で神罰を下しました。アダマスの治安改善に向け、これからも職務を遂行する所存です。報告は以上です、リリア様。」

 「そ、そうですか!?相変わらず、職務熱心ですね!?アダマスから犯罪が一つでも多く消えることは喜ばしい限りです!ですが、あまり女神が、それも直接出向いて頻繁に犯罪者を取り締まると言うのは、人間たちの自立を妨げることにもなりかねません。警告やアドバイスなどで対応するのでも十分だと、私は思いますが?」

 「ふむ。確かにあなたの意見も一理あります。しかし、アダマスは、特にアメジス合衆国とインゴット王国、この二つの国ではいまだに犯罪が横行しています。女神である私自ら犯罪の取り締まりに当たっていても、犯罪を続ける輩がいるのです。他の四つの国でも、程度の差はあれ、犯罪者がいます。犯罪の撲滅こそが、アダマスの人間たちの、知的生命体としての意識改善に繋がり、急務であると私は考えます。そうですね。現地の人間たちと協力体制を築いて、人間自ら、より厳しく犯罪の取り締まりを行うように指導していくこともしましょう。貴重なご意見をありがとうございます、リリア様。私は引き続き職務がありますので、これにて失礼させていただきます。では、また明日。」

 ブレンダはリリアにそう言うと、踵を返し、神殿から去って行った。

 「ふぅ~。相変わらずの堅物っぷりです。話をしているだけで息が詰まりそうです。大体、女神自ら、毎日のように犯罪者の人間相手に捕り物をするなど、聞いたことがありません。過干渉も良いところですよ。女神による恐怖支配と思われて、この私の女神としてのイメージにまで傷が付きそうで、あまり歓迎はできません。知的生命体から悪意を完全に取り払うことは不可能なことです。アダマスの人間たちが知的生命体として他より質が低いのは理解していますが、ほんの少し手を加えれば、修正は可能です。逐一女神が見守り、手助けをするなど、そんなやり方は、時代錯誤も良いところです。これだから、非効率的な脳筋は嫌いなのですよ。」

 リリアは顔を顰めながら、ブレンダに対する悪口を一人、小声で呟くのであった。

 ブレンダとの話を終えた後、リリアは早速、リストアップしたアダマスの人間たちを自身の神殿へと、空間転移の神術で呼び出し、異世界への派遣に参加してもらうよう、声掛けを行った。

 突如、見知らぬ神殿の中へと、神界のリリアの神殿内へと召喚され、召喚されたアダマスの人間たちは皆、激しく困惑している。

 困惑している人間たちに向かって、神殿の謁見の間の玉座に座っているリリアは、玉座の椅子から立ち上がるなり、召喚した人間たちに向かって、笑みを浮かべながら話しかけた。

 「落ち着きなさい、アダマスの人間たち、愛しい我が子たちよ。私は「光の女神」リリア。あなたたち人類に加護を与えた女神、母なる存在です。ここは神界にある私の神殿です。本来ならば、あなたたち人類が立ち入ることは禁じられている神々の領域です。あなたたちを今日、この神聖な私の神殿へと召喚したのは、あなたたちに異世界を救う「勇者」としての使命を授けるためです。あなたたち100名には、これから三つの異世界へと渡っていただき、それぞれの異世界を救っていただきたいのです。あなたたちは、女神であるこの私自ら、異世界を救う「勇者」になり得ると見込んだ逸材ばかりです。尚、異世界への派遣は強制ではありません。元の世界に帰りたいのであれば、すぐにお帰します。ですが、異世界を救う「勇者」になっていただけるのであれば、私も、他の神々も、あなたたちに最大限の加護を与えます。何よりも、異世界を救う、神に選ばれし「勇者」としての栄誉が手に入るのです。さぁ、私と共に、「勇者」として異世界の危機を救いませんか?」

 笑みを浮かべながら、アダマスの人間たちを勧誘するリリアであった。

 だがしかし、リリアの予想を裏切り、召喚したアダマスの人間たち全員が、リリアの勧誘を断るのでった。

 「も、申し訳ありません、リリア様。私たちを「勇者」に選んでいただけたことは大変光栄で、身に余ることなのですが、実は、私は今、世界樹「ユグドラシル」の治療という大事な仕事がございます。リリア様も知っての通り、その~、例の、元「大魔導士」たちによって傷ついた世界樹を、植物学者として治療を行っている真っ最中でして。お力になれず、申し訳ありません。」

 「す、すみません、リリア様。俺も、今は異世界に行く余裕がないんです。例の、「聖女」たち一行がズパート帝国で暴れ回ったせいで、今、帝国は冒険者が不足しているんですよ。陸路の輸送隊を護衛できる冒険者の数はギリギリの状況なんですよ。俺みたいなベテランは常に駆り出されているし。それに、故郷には妻と子供もいるし、家族を置いて異世界に行くなんて、俺にはできないです。本当にすみません。」

 「本当に申し訳ございません、リリア様。私もこの度のお誘いは辞退させていただきます。前聖教皇が神託を改竄するスキャンダルを起こし、新政府発足後も、新政権やリリア聖教会、貴族、そして、聖騎士団への非難はいまだ収束せず、ゾイサイト聖教国は非常に不安定な情勢なのです。例の、元「弓聖」たち一行によるテロ事件の被害の影響も大きいのです。組織を再建したばかりの聖騎士団で今、新任の副団長を務める私が抜ければ、現場は混乱します。ただでさえ、現場は人手不足なのです。聖騎士志望の若者も減りつつある危機的状況なのです。崇拝するリリア様に「勇者」候補に選んでいただいたことは、誠に恐悦至極なのですが、現状におきまして、私が今、別の世界へと行くことは、現場を離れることはできません。どうか、お許しください。」

 次々にリストアップした候補者たちに、異世界への派遣を断られ、リリアは思わず、絶句し、その場で口をポカンと開けて、立ち尽くすばかりであった。

 それから、リリアが何度も説明をし、しつこく勧誘を行い、最後には自ら頭を下げて懇願したが、100名の候補者たちは皆、頑なに首を横に振り、申し訳ないという表情を浮かべながら、リリアからの異世界への派遣の打診を丁重に断るのであった。

 リリアは仕方なく、候補者の人間たちを元いたアダマスへと帰した。

 リストアップした候補者の人間たち全員に、急ごしらえとは言え、自身が文句なしと呼べる逸材の人間たち全員に、異世界への派遣、試験への協力を断られ、リリアは候補者たちを帰した後、青い瞳の両目を真っ赤に血走らせ、近くにあった椅子を蹴飛ばし、激しい怒りを爆発させた。

 「くそがぁーーー!?はぁー、はぁー!?たかが人間の分際で、女神であるこの私からの頼みを断るとは、何と無礼な!?誰が女神の加護を与えてやったと、これまで面倒を見てきたか分かっているのか、下等生物どもが!?私の加護無しでは碌に繫栄もできない、矮小な下等生物風情が、調子に乗るな!ちっ!使えない役立たずの下等生物です!あのチキュウ人の、出来損ないの元勇者どもが、死んでもこの私に迷惑をかけるとは、堕天使たちよりも腹ただしい連中です!あの愚か者どもの影響がこの私の試験にまで害を及ぼすとは!?いつか地獄に赴いて、あの元勇者どもには、この私自ら罰を与えてやりましょう!連中の魂を責めに責め抜いて、綺麗さっぱり消滅させてあげましょう!くっ!?しかし、そんなことよりも、候補者全員に断られるとは予想外の緊急事態です!リストアップした100人以上の逸材など、早々いるわけが!?少しでも瑕疵のある人間を派遣して不合格になるわけにはいきません!このままでは、試験すら受けられない可能性があります!マズい、これはマズい!?」

 リリアは怒りの形相から一転して、焦りの表情を浮かべ始めた。

 「もう一度最初からリストアップをやり直さねば!?しかし、また、さっきのように断られる可能性もあります!何か、何か断られない理由が必要です!?ですが、下手に脅迫や買収などをして、それが明るみになれば、今度こそ神王様の怒りを買って地獄に落とされることになりかねません!不正にはならず、相手に絶対に断られない理由が必要です!理由、理由、理由・・・」

 リリアは頭を抱えながら、必死に考えを巡らせる。

 しばらくして、ハッと、リリアは何かを思いついた、という表情を浮かべながら、大声で呟いた。

 「そうです!贖罪です!例の、エロ写真、確かにアレを買った人間は犯罪者です!ですが、中には、あのエロ写真を買っただけの、軽犯罪だけで処罰された者がほとんどだったはずです!この私のエロ写真を買った不愉快な存在ではありますが、ほんの魔が差しただけで、元は優秀な能力を持った人間も大勢、いたはずです!エロ写真を買ったがために職を追われ、家族も友人も恋人も、故郷も、何もかも失った人間がいます!エロ写真を買ったせいで職にあぶれ、生活に困っている人間が多いと聞いています!エロ写真を買った者の中から、優秀な能力を持ちながらも衣食住に困っている人間に、贖罪の機会と、やり直すための新天地を与える、そう言ってやればよいのです。私の熱心な信者ならば、罪悪感からこの私の頼みを断れないはずです。女神本人を前に、女神を侮辱した自分が、女神より許しをもらえるチャンスを与えられる。この手ならば、絶対に断られることはないでしょう。皆、全力で、命懸けで異世界で働くこと間違いなしです。問題は、セクトたちが彼らの受け入れを断ってくる可能性です。ですが、エロ写真を買った以外に犯罪歴がなく、贖罪と更生のために神に救いを求める人間たちと言う触れ書きなら、セクトたちも断りづらいでしょう。犯罪者の更生のためと言う触れ書きでアピールすれば、神王様たちの心象も悪くはないはずです。フフっ、やはり、私こそ真の女神、運命はこの私に味方するのです。」

 リリアは天井を見上げ、笑みを浮かべながら、打開策を見つけたと喜ぶのであった。

 その打開策が自身の破滅へと繋がる一手となることも知らずに、だ。

 リリアは新たにエロ写真を購入した人間たちも候補に入れ、異世界へと派遣する人材のリストアップを再び行った。

 翌日のこと。異世界への人材派遣の猶予まで残り二日。

 リリアは絞りに絞り抜いて、300人の人間を新たな候補者として選んだ。

 新たにリストアップしたアダマスの人間たちを自身の神殿へと、空間転移の神術で呼び出し、異世界への派遣に参加してもらうよう、声掛けを行った。

 突如、見知らぬ神殿の中へと、神界のリリアの神殿内へと召喚され、召喚されたアダマスの人間たちは前回同様、皆、激しく困惑している。

 困惑している人間たちに向かって、神殿の謁見の間の玉座に座っているリリアは、玉座の椅子から立ち上がるなり、召喚した人間たちに向かって、前回とは違い、冷静な表情で、やや冷めたような口調や目付きで話しかけた。

 「落ち着きなさい、罪深き人間たち、愚かな我が子たちよ。私は「光の女神」リリア、あなたたちに女神の加護を与えた女神、母なる存在です。ここは神界にある私の神殿です。本来ならば、人間が立ち入ることは許されない神の領域です。罪深き人間たちよ、何故、あなたたちがここへ呼び出されたか、その理由が分かりますか?」

 リリアからの問いに、召喚された人間たちは皆、一瞬で青い表情になり、その場で許しを請うようにひざまづいた。

 「申し訳ございませんでした、リリア様!あなた様のエロ写真を買ったことは謝ります!心から反省しております!どうか、どうか命だけはお助けを!?」

 召喚された人間たちが口々にリリアに対して、必死に許しを請う中、リリアはゆっくりと口を開いた。

 「顔を上げなさい。あなたたちは皆、女神であるこの私のエロ写真を買うという大罪を犯しました。本来ならば、即刻神罰を下すか、地獄に落とすところです。ですが、あなたたちに一度だけ、贖罪の機会を与えましょう。あなたたちも知っての通り、今、人類は神々によって存続に値する知的生命体か否か、議論されています。担当女神であったこの私にも、あなたたち人類を導く上で不手際があったと認識しております。故に、女神と人類が一丸となって人類存続のために励む必要があります。アダマスの人類を存続させるためには、他の神々にあなたたち人間の誠意を見せることが必要不可欠でもあります。そこで、私は敢えて、かつて罪を犯したあなたたち300名を、異世界の危機を救う「勇者」として選びました。あなたたちがエロ写真を買ったがために、職も家も家族も失くし、路頭に迷っていることは承知しています。けれど、あなたたちの罪状は、違法なエロ写真を買った罪のみ。本来は、各分野の第一線で活躍していた人材でした。このまま、捨て置くには惜しいと、私は考えました。あなたたちに、女神であるこの私から改めて、贖罪の機会を、そして、人生をやり直す機会を与えましょう。ただし、チャンスは今回の一度切りです。失敗すれば、今度こそあなたたちは完全に破滅することになります。「勇者」として異世界に渡り、異世界を救い、贖罪を果たすか、それとも、このままアダマスへと戻り、一生を罪人として過ごし、惨めに朽ち果てるか、好きな方を選びなさい。異世界への派遣は強制ではありません。ですが、このまま、贖罪も出来ず、新天地にてやり直すことも出来ず、同じアダマスの同胞たち、かつての家族や恋人、友人たちが滅びていくのを黙って見ている、そんな選択を望むようなら、最早、人類を存続させる価値はない、神々はそう考えざるを得ないでしょうが。」

 リリアの言葉に、召喚された人間たちはしばらく考え込んでいたが、決意を固めたかのような表情を浮かべながら、リリアに向かって返事をした。

 「リリア様、どうか、この私に贖罪の機会をお与えください!私にできることなら、何でもいたします!」

 「リリア様、どうか、どうか、俺にチャンスをください!やり直せるってんなら、どこへだって行きます!」

 「リリア様、どうか、この僕にも汚名返上の機会をください!勇者でも、どんな危険な任務でもやり遂げてみせます!どうか、お願いします!」

 前回と打って変わって、召喚された人間たちは皆口々に、異世界への派遣を了承した。

 自身の思い描いたシナリオ通りに事が運び、リリアは薄っすらと笑みを浮かべるのであった。

 「分かりました。全員、「勇者」として異世界へ派遣する人材に推薦しましょう。あなたたちにはこれから、それぞれ三つの異世界へと渡っていただき、各異世界の問題を解決する手助けをしていただきます。ただし、一年以内に問題を解決する、あるいは何らかの成果を出してもらう必要があります。それと、私はあくまで推薦人の立場です。あなたたちの犯した罪は軽犯罪とは言え、あなたたちは元犯罪者の立場です。あなたたちには異世界を救う「勇者」としての適性と、確かな更生の意思があることから、今回、特別に目をかけました。現地へ派遣する前に、現地を担当する他の女神たちに、あなたたちを派遣して良いかどうか、お伺いを立てる必要があります。この後、他の女神たちと面通しを行いますが、決して粗相の無いようにお願いします。もし、彼女たちの不興を買えば、今回のお話は無かったことに、下手をすれば、その場で地獄に落とされることにもなりかねません。最大級の敬意を持って、礼を尽くすように。分かりましたね?」

 リリアからの説明を聞き、召喚された人間たちは皆、恐怖で内心縮こまりながらも、異世界で人生をやり直す機会を必ず手に入れるのだという強い思いから、黙って首を縦に振るのであった。

 その日の午後、リリアは早速、自身の神殿にセクト、ベスティア、ティーズの三人の女神を呼び出し、各異世界へ派遣する人間たちとの顔合わせを行わせた。

 「セクト、ベスティア、ティーズ、来ていただいてありがとうございます。あなたたちの管理する異世界へと派遣する人材の候補者がようやく揃いました。候補者は全部で300人います。彼らを紹介する前に、一つ説明しておかなければいけないことがあります。」

 「説明とは何かしら?何か彼らに問題でも?ほとんど男性ばかりに見えるけど?」

 不審がるセクトたちの問いに、リリアは落ち着いた表情を浮かべながら、セクトたちに向かって言った。

 「ええっ。確かに、少々問題はあります。しかし、神王様には事前に事情を説明して、了承はいただいています。もちろん、試験官であるあなた方三人の許可をもらうように、とのお達しです。実は、彼らは皆、例のエロ写真を買った罪で逮捕された人間たちなのです。」

 「はぁー!?ふざけんてんじゃねえぞ、リリア!?女神のエロ写真を買った性犯罪者どもだと!?テメエ、マジで完全に頭狂ってるみてえだな!冗談じゃねえぜ!却下だ、却下!誰が変態のクズどもをアタシの大事なグルージャに入れさせるかよ!リリア、今すぐテメエもソイツらもまとめてスクラップにしてやろうか、ああん!?」

 「リリア~、マジで頭イカれちゃってるね~。女神のポルノを喜んで買うようなクズ人間を、ティーズの世界に入れさせるわけないでしょ~?犯罪者は絶対お断りって、ティーズたち前に言ったよね~?耳までおかしいんじゃないの、リリア~?」

 「二人の言う通りよ。生きた性犯罪者の異世界人を好き好んで自分の管理する世界に受け入れる神なんているわけないでしょ。私の美しいモースに、穢れた変態の性犯罪者たちを入れるなんて、絶対にお断りよ。特に、あなたの世界の犯罪者なんて、入れただけで即、トラブルを起こすこと確定じゃない。今すぐ選定をやり直して、リリア。」

 リリアから、派遣する人間の候補者たちが全員、エロ写真を買った元犯罪者だと聞かされ、ベスティア、ティーズ、セクトの三人は猛反対する。

 「三人とも、私の話を最後までよく聞いてください。本来なら、何の犯罪歴もない、より優秀な人間を選びます。しかし、三人もご承知の通り、私の管理するアダマスは現在、元勇者たちが引き起こしたトラブルの後処理で、深刻な人手不足なのです。もちろん、トラブルの原因が、あの愚かなチキュウ人たちを勇者に選んだ私にも原因があることは、よく分かっています。私の不手際やアダマスの事情を押し付けることになることも分かっています。本当にすみません。けれども、ここにいるアダマスの人間たちですが、犯罪歴はたった一つだけ。違法なエロ写真を買った罪だけです。これは私の方で徹底的に身辺チェックを行いました。彼らは既に、法による裁きを受け、さらに仕事や家、家族などを失う社会的制裁も受けています。彼らは確かに元犯罪者ですが、元々は各分野の第一線で活躍していた人間です。また、確固たる更生の意思があります。更生の意思があることは、神王様たちにも先ほど、確認していただきました。彼らは皆、贖罪のため、新天地にて本気で人生をやり直すため、更生を願う者たちばかりです。異世界の危機を助ける力になりたい、そう思う人間ばかりです。セクト、ベスティア、ティーズ、あなた方が受け入れを拒否されると言うなら、素直に従います。ですが、私の後ろにいる彼らは皆、本気で、心から贖罪の機会を望み、私たち女神に救いを求める、行き場を失った憐れな人間たちなのです。どうか、今は力無きこの私の代わりに、慈悲深き女神として彼らに救済の機会を与えてください。お願いします。この通りです。」

 リリアは必死な表情を浮かべながら、頭を深々と下げて、セクトたちに頼み込むのであった。

 リリアが頭を下げると同時に、リリアの後ろにいる人間たちも神妙な面持ちで、皆、黙って深々と頭を下げて、セクトたちに頼み込むのであった。

 自分たちに頭を下げて必死に頼み込むリリアと人間たちの姿を見て、セクト、ベスティア、ティーズの三人は悩んだ。

 「困ったわねぇ。担当外とは言え、本気で女神に救済を求める人間たちを、見て見ぬふりをして放置するのは、後で胸にしこりが残りそうで、それはそれで嫌なのよねぇ。けど、神王様が事前にチェックされたからと言っても、100%トラブルを起こさない保証は無いし。そうねぇ。私の方でも事前に細かいチェックを行わせてもらって、合格した人間なら受け入れても良いわ。けど、私のチェックは厳しいわよ。良いわね?」

 「おいおい、本気かよ、セクト?そりゃあ、本当に更生する可能性がある奴なら、受け入れることもできなくはねえ。だけど、リリアが適当に管理していた世界で、散々甘やかされて育てられてきた奴らだぜ、コイツらは?善悪の判断基準とか、モラルとか、その辺怪しくねえか?異世界には異世界の価値観、基準がある。そこんトコロを上手く合わせられない中途半端な奴を、しかも前科持ちを入れたりしたら、アタシらの世界を荒らされて損するだけだぜ?どうしても受け入れてほしいってんなら、何か担保になるモノをもらわねえと、割に合わないぜ?」

 「ベスティアの言う通りじゃな~い?ティーズの世界は、世間知らずの間抜けなお馬鹿さんじゃあ、絶対に生き残れっこないんだよ~。実力に頭、覚悟がない生半可な人間は~、ティーズの作ったダンジョンに入ったが最後、マジで人生ゲームオーバー。即THE・END。超ハードモードで人生やり直しをすることになるけど~、ホントに大丈夫~?リリアの世界の人間たちじゃあ、それも自分に加護を与えた女神の看板に平気で泥を塗る、女神のポルノを買うような超ド級のお馬鹿さんじゃあ、マジ無理ゲーで超絶つまんないエンディングしか見れない気がして、気乗りしないな~。リリアの世界の人間を送ったせいで、ティーズの世界のプレイヤーたちのクオリティーが下がるのは嫌だなぁ~。全員脱落、ダンジョン未攻略で終わる可能性大だし~、やっぱ~、リスクヘッジになるモノもらわなきゃ、受け入れは無理だよね~?」

 セクト、ベスティア、ティーズたちはそれぞれ、リリアが選んだアダマスの人間たちを受け入れるに当たって、追加の条件をそれぞれ提示してきた。

 リリアは内心、歯を食いしばるような悔しさを胸に抱きながらも、必死に頼み込むような表情を崩さず、セクトたちに訊ねた。

 「三人の仰ることはごもっともです。事前の身辺チェックに必要な資料は全てお渡しします。皆さんで個別に対象の方々への面接を行っていただいても結構です。皆さんが不適格と判断される方には、アダマスにお帰りいただくとします。ただ、派遣までの猶予期間は後二日もありませんので、早めにチェックをお願いします。また候補者を選び直すとなった場合、少しでも多くの時間が必要ですので。それで、現在の候補者たちの中から人材を派遣するとなった際は、最低限の担保が欲しいと言うことですが、具体的にはどういったモノをお望みでしょうか?」

 「私は特に担保とか求めていないけど、万が一、取り返しのつかないトラブルが起こった時は、ちゃんとその分の損害は補填してもらうわよ。現地のバグノイドたちが望むモノをいただくとするわ。キチンと契約書にサインももらうわよ。良いわね?」

 「アタシはそうだなぁ~、迷惑料としていただくなら、鉱物資源がいいな。アタシの世界はモノ作りが盛んだ。資源はいくらあっても困らねえ。お前の異世界にしかない、役に立つ珍しい鉱物があれば、それをこっちが希望する分、いただくとするぜ。」

 「ティーズはねぇ~、やっぱ、モンスターが良いなぁ~。リリアの世界のモンスターがどれぐらいの強さかは知らないけど~、異世界産のモンスターには興味あるんだよねぇ~。今度新しく作る予定のダンジョンに入れて使ってみたいなぁ~。とにかく、強いモンスターを沢山ちょうだ~い。アダマス風ダンジョンって感じで売りこもっかなぁ~(笑)。」

 「な、なるほど!?三人らしい要望ですね!分かりました!担保となりそうなモノはこの後、すぐに探しておきます!トラブルが起こらないよう、私も最善を尽くしますが、念のため、用意しておきましょう!」

 どうにかセクトたちの説得に成功したリリアはその後、セクトたちに改めて、異世界へ派遣する人材の候補者たちを紹介した。

 それから、約一日をかけて、セクトたちによる候補者たちへの面接や身辺チェックなど、派遣のための適性審査が行われた。

 適性審査の結果、最終的には300名の候補者の内、100名の人間が何とか審査に通った。

 候補者の内、3分の2が落選するという結果に、リリアは驚き、思わずセクトたちに理由を訊ねた。

 「セクト、ベスティア、ティーズ、な、何故、200名もの候補者が落選したのです!?い、いえ、私も当初は100人ほどの選りすぐりの人材を派遣する予定でしたが、今回選んだ候補者たちの多くは、経歴に若干傷があるとは言え、能力面はほとんど問題ないはずです!更生の意思ありと、神王様からも事前にお墨付きをいただいた者たちです!理由を教えてください!?」

 セクト、ベスティア、ティーズの三人は、しょうがないな、というような表情を浮かべながら、リリアの質問に答えた。

 「確かに、あなたの言う通り、こちらの問題解決に必要な能力を持っていそうな人間よ。更生の意思があるのも確かよ。」

 「な、なら、どうして・・・」

 「最後まで話を聞いてちょうだい。確かに、最低限の条件は揃ってる。でも、実際に本人と面接を行い、さらに追加の身辺チェックも行った結果、派遣する人材として不適格と判断したのよ。理由はいくつかあるけど、落選した人間の多くは、多額の慰謝料や借金の返済を抱えていることが分かったわ。借金の返済も終えずに、別の世界へと渡って、そのまま踏み倒すなんてダメに決まってるでしょ。金銭問題を抱えている人間はアウトよ。あなた、債権者や被害者たちのことまでちゃんと考えていないでしょ?」

 「金銭トラブルだけじゃねえよ。よ~く調べて、ついでに尋問したら、過去にDVやいじめ、ストーカー事件なんぞを起こしていたことが分かった。逮捕されなかったらと言って、公式な犯罪記録には載っていないとは言え、人格には大いに問題アリだ。確かに更生の意思はあるが、アタシらが訊ねるまでそのことを隠していやがった。犯罪者予備軍、いや、再犯は確実だ。だから、落とした。十分な制裁も受けないまま、異世界にとんずらしてやり直したいなんて、アタシは許さねえぜ。」

 「落ちた人間は全員、問題ガ~イ!ハッキリ言って、資格無~し!ちょ~っと、脅かし半分にティーズのダンジョンの話をしたら、急にビビり出して行きたくないとか言い出すんだよね~。アダマスの人間がほとんどダンジョン未経験なのは知ってたけど、低レベルのダンジョンから始めても良いって言うのに、やっぱり死にたくないとか、自分には無理ですとか言って~、辞退していっちゃったよ~。マジで根性無さすぎ~。つか、異世界のこと舐め過ぎ。更生したいとは思ってるけど、命懸けるほどマジじゃないって感じ~。リリア~、ティーズの世界のこととか、ダンジョンのこととか、ちゃんと話してなかったでしょ~?後、リリアの紹介した冒険者だけど~、他人の手柄を横取りしただとか、こっそりドラッグを使ってパワーアップしようとしたとか、そういうプレイヤーには絶対向いてない卑怯なクズもいたんで、ソイツらは全員、速攻で落としたから。正直、合格にした人間もギリセーフって感じ~。」

 「なっ!?」

 「リリア、選ぶならもっと慎重に人を選んでくれない?確かに三日しかリストアップの期間はなかったけど、もう少し人間性だとか、周囲からの評判だとか、客観的に調べて派遣する人材を選定してちょうだい。あなたも女神の一人なら、その人間の魂の本質を見れるはずよね?ちゃんと魂まで鑑定したの?ブレンダに頼めば、経歴詐称くらいすぐに見抜けたと思うんだけど?」

 「リリア、お前、全然人を見る目ねぇな。マジで目ん玉、腐ってんじゃねえかと疑うぜ。もう少し人間の内面って奴をよく見ろ。まさか、本当に人間の魂の色が分からねえわけじゃねえよな?」

 「リリア~、やっぱり女神のお仕事向いてないんじゃな~い?先に神王様にチェックしてもらったらしいけど~、リリアの選んだ人間たちってほとんど同レベルでクオリティー低いから、とりあえずOK出したんじゃないかな~、神王様は?更生の意思あり、でも中身は大差ないレベルのクズばっか。神王様もきっと内心呆れてただろうね~。まぁ、ティーズたちが最終チェックしなきゃ派遣できないって分かってたから、特に何も言われなかったんじゃな~い?リリア~、今のままだと、マジで試験は不合格になっちゃうかもだよ~。どうする~?今からでもチェンジする?もうあんまし時間ないけど。ニッシッシ(笑)。」

 「とにかく、現状、現在のメンツで派遣を許可できる人間は、今回審査に通った100名だけよ。これでも、最大限譲歩したのよ。担保無しだったら、全員、不合格にしていたところよ。正直、あの100名の人間を私たちの管理する異世界に派遣するのには、私も、ベスティアも、ティーズも不安を感じているの。他にもっと良い人材がいるなら、すぐにでもチェンジしてほしいのが本音。だけど、あなたの管理するアダマスは今、深刻な人手不足らしいし、これから新しい候補者を探すのには時間がもうほとんどない。後で、今回選ばれた候補者たちには、私たち試験官から試験の内容や注意事項について説明するから。リリア、あなたのことだから、どうせ今回の適性試験について、候補者たちにキチンと説明していないに決まってるわ。あなたは落選した人間たちを元居た世界に帰してあげてちょうだい。候補者たちのことは私たちが引き継ぐから。」

 セクトたちはそう言うと、候補者の人間100名を連れて、リリアの神殿を出ていくのであった。

 セクトたちが自身の神殿を出て行った後、リリアは激しい怒りと悔しさを滲ませながら、落選した200名の人間たちを、神殿の謁見の間に集めた。

 玉座から激しい怒りの眼差しを、落選した人間たちに向けながら、リリアは彼らに怒りをぶつけるのであった。

 「この大噓つきの愚か者どもが!?女神であるこの私に、本気で更生したい、などと口では言いながら、経歴を詐称したり、不祥事を隠していたり、勝手に辞退を申し出たり、この私の信頼を平気で裏切るような真似をしてくれましたね!?お前たちのような女神を裏切る愚か者には、もう用はありません!お前たち全員から女神の加護を剥奪する罰を与えます!現世でさらなる生き地獄を味わうがいい、この不届き者ども!」

 「ど、どうか、お許しを、リリア様!?加護の剥奪だけはどうか、どうかご勘弁を!?」

 激怒するリリアを見て恐怖し、必死に許しを請う落選者たちだったが、リリアはその場で落選者たちの女神の加護を使用不能にすると、空間転移の術でそのまま、彼らをアダマスへと強制送還した。

 落選者たちをアダマスへ強制送還した後、リリアは玉座の椅子で頬杖を突きながら、眉間にしわを寄せ、激しい苛立ちと怒りを吐露した。

 「ちっ!?どいつもこいつも、本当に使えない役立たずばかりです!この私からの最後の慈悲をいとも容易く無下にするとは、本当に愚かな人間のクズどもです!大体、セクトたちもセクトたちで、チェックが厳しすぎますよ!人間は皆、どこかに魂の穢れを持つ生き物なのですよ!加えて、元から前科者だと分かっているのですから、他より魂が多少穢れていて目立つのは当然ではありませんか?派遣の許可が欲しければ担保を別に用意しろなど、試験官の立場を良いことにこちらの足元を見てきて、本当に不愉快です!」

 リリアは不満を吐露すると、コップに入った水を一杯飲んだ。

 「ふぅー。まぁ、とにかく、異世界へ派遣する人材は揃いました。少々質に問題はありますが、試験課題の解決に十分役立つ能力の持ち主たちです。あの100名が上手く、現地で活躍してくれれば、私は適性試験に無事合格、更迭処分も解かれます。ただ、やはりアダマスの人間たちの質が下がっているのを、今回改めて確認しました。適性試験が終わり次第、例の「人類グレードアッププロジェクト」を本格的に進めるとしましょう。万が一、万が一ですが、試験に不合格となった場合の対策も進めておくとしましょう。全く、あのチキュウ人の元勇者たちが暴走しなければ、アダマスの人間たちがもっと賢ければ、後、イヴ、あの目障りな女が邪魔してこなければ、こんな不愉快な気分は送っていないはずです。真の女神であるこの私が悩みを抱えるなど、本当に不愉快です。」

 リリアはそう独り言を述べると、玉座から立ち上がり、謁見の間を出て、自身の神殿内にある、誰にも秘密の研究室の中へと入り、ゴソゴソと何かしらの作業を進めるのであった。

 翌日の朝。適性試験開始から三日目のこと。

 神王ビギンのいる巨大な神殿の中にある大広間に、今回の適性試験の関係者一同が集まり、顔を合わせていた。

 リリア、異世界へ派遣される100名の人間たち、セクト、ベスティア、ティーズ、神王ビギン、神界上層部の高位の神々、護衛の天使たち、といった面々が、広間にいた。

 神王ビギンが、大広間に集まった全員に向かって、大声で話しかけた。

 「皆の者、これより、「光の女神」リリアに対する、女神の適性の有無を判断する、適性試験を本格的に実施する。今、ここに集いしアダマス出身の100名の人間たちを、これより三つの異世界へと派遣し、女神リリアに代わって、各異世界が抱える問題を解決してもらう。選ばれしアダマスの人間たちよ、お前たちにはこれより異世界へと渡ってもらい、各異世界の問題を解決するために尽力してもらうことになる。猶予は今日より一年以内だ。一年以内に、各異世界の問題を解決、あるいはそれに貢献する何らかの成果を示すのだ。試験官は、そこにいる「虫の女神」セクト、「獣の女神」ベスティア、「遊戯の女神」ティーズの三名が務め、試験中は彼女たちが、現地でお前たちを監督、指導する。尚、試験中に不適切な行動や不正、犯罪、トラブルの発生があった場合、減点対象とみなし、問題を起こした者は即刻、処罰する。試験の採点及び合否の最終判定は、この私、神王ビギンと、採点官を務める六名の神々が担当する。今回の適性試験に合格すれば、「光の女神」リリアに、女神の適性アリと判断し、点数等に応じて今後の処遇を決定する。もし、不合格の場合は、女神の適性ナシと判断し、女神の資格と能力をその場で剥奪、地獄へと落とし罰を与える。それと、試験に参加する人間たちよ、今回の適性試験は、アダマスの人間及び獣人が、今後我々神が保護し、存続を支えるに値する知的生命体か否かを見定める目的も含まれている。お前たちの一挙手一投足が、アダマスの人間たちの評価を左右するのだ。そのことを決して忘れるのではないぞ。今回の適性試験では、派遣する人間たちに「光の女神」リリアが与えた加護に加え、現地の女神たちの加護も与え、二つの女神の加護を使用することを特別に許可する。だが、二つの女神の加護を持つからと言って、決して過信しないように。セクト管轄の異世界モースに30人、ベスティア管轄の異世界グルージャに30人、ティーズ管轄の異世界ニグマに40人、それぞれ派遣し、試験を執り行うものとする。以上で適性試験の説明を終えるが、「光の女神リリア」、参加者の人間たち、その他の者たちよ、何か質問したいことがあれば、遠慮なくこの場で訊ねるがいい。質問が無ければ、これよりすぐに、人間たちを各異世界へと派遣する。」

 神王ビギンが、適性試験についての説明を終えた。

 異世界へと派遣される100名の人間たちは皆、緊張した表情を浮かべている。

 リリアも緊張した表情を浮かべながら、ビギンや人間たちの様子をうかがっている。

 「特に質問は無いようだな。ならば、これより参加者たちを各異世界へと転送する。参加者の人間たちよ、転送先の異世界では、既に現地人たちがお前たちを受け入れるための準備をして待っている。現地人たちへの礼節を忘れないように。現地到着後は現地人たちがガイドを務める故、よく彼らの話を聞くように。では、これより異世界へと派遣する。」

 「皆さん、頑張ってください!あなたたちには、私たち女神の加護が付いています!最後まで諦めてはいけません!皆さんが異世界を救ってくれることを信じていますから!」

 リリアが参加者の人間たちにエールを送った後、神王ビギンの緑色の瞳が、一瞬緑色に光り輝いた直後、神殿の広間にいた人間たちは一瞬で姿を消し、各自が担当する異世界へと転送されるのであった。

 参加者の人間たちが全員、各異世界へと派遣される姿を見送り、ホッと一息つくリリアだった。

 そんなリリアに対し、神王ビギンが落ち着いた表情を浮かべながら、声をかけた。

 「「光の女神」リリアよ、期限内に参加者を見つけ、異世界へと派遣でき、ホッとしているようだが、試験はまだ始まったばかりだ。今回、お前が用意した人間たちだが、決して優れているとは言えん。人間の優劣は能力ばかりで決まるのではない。そして、それは我々、神にも言えることだ。お前が、そして、お前の育て上げた人間たちが、一体、何を求め、何を目標とし、何のために生を全うするのか、見定めさせてもらう。決して気を抜くではない。それと、私が今、お前に言った言葉の意味を自分でもよく考えてみるがいい。分かったな、リリアよ?」

 「はい。もちろんでございます、神王様。今回の適性試験も必ず、合格して御覧に入れます。どうか、私と、選ばれし人間たちを信じてください。」

 「信じるに値するモノを持っていれば、このような試験など行う必要はないのだ。私がお前を信じるか否かは、お前がソレに気付いていることが重要なのだ。では、皆の者、これにて一時解散とする。試験官と採点官の諸君、試験への協力、引き続きよろしく頼む。リリアよ、試験期間中にまた問題を起こせば、その時は即刻試験は中止、不合格とみなし、処罰する。あまりブレンダに手間をかけさせるな。良いな?」

 「は、はい。気を付けます。」

 ビギンがリリアを注意する姿を見て、周りにいる他の神々や天使たちはクスクスと笑い、リリアはその場で恥ずかしさのあまり、赤面して立ち尽くすのであった。

 ビギンが去った後、赤面するリリアに、セクト、ベスティア、ティーズの三人が話しかけてきた。

 「良かったわね。ギリギリ試験を受験できて。ただ、あの人間たちにも不安要素はあるから、私もあなたも気が抜けないわね。」

 「本当なら、女神のエロ写真を買うような変態なんて受け入れたりはしねえんだぞ。アタシらの懐の大きさに感謝しろよ。後、試験期間中にまたトラブルなんぞ起こすなよ?せっかく、お前のために時間を割いて試験官をやるアタシらの努力が、全部パーになるからなぁ。マジで気を付けろよ?」

 「ニッシッシ~。リリア~、またトラブル起こして試験取り止めになったら、マジでゲームオーバー確定だね~。女神が地獄に落ちるBAD ENDなんて、早々見れないからね~。ティーズとしては~、出来れば送った人間たちがどこまでやれるか最後まで見たいから~、ホント、余計なことだけはしないでよね~。ニッシッシッシ(笑)。」

 「フン。三人とも、余計なお節介ですよ。私は小さい子供ではありませんから。トラブルを起こして試験中止で不合格、そんな間抜けな過ちを犯すはずがないでしょう。私は必ず試験に合格してみせます。私の選んだアダマスの人間たちが必ず、あなたたちの世界の問題を見事、解決するはずです。心配は無用です。では、私は用があるので、先に失礼させていただきます。参加者たちのこと、よろしくお願いしますよ。」

 リリアはそう言い残すと、セクトたちの前から足早に立ち去るのであった。

 100名の人間たちを異世界へと派遣する手続きが終わった後、リリアは真っ直ぐに自身の住まいである神殿へと帰った。

 謁見の間の玉座に座ると、リリアは一人呟いた。

 「ふぅ~。何とか、人間たちを異世界へと派遣することができました。これでひとまず、安心です。確実に最高と呼べる人材でないのが若干気にはかかりますが、ギリギリ及第点ではありますし、現地での確かなサポートも保障されていますし、大丈夫なはず、です。大丈夫なはず、なんですが、やはり、万が一の可能性もあります。あの100名の内、誰かがトラブルを起こしたら、あのチキュウ人の元勇者たちのような暴走でも起こしたら、一発で不合格になりかねません。直接、この手でアドバイスできないと言うのは、実にもどかしい気分です。派遣した人間たちの自主性、自己判断能力も採点基準にするとは、面倒臭いルールですよ、まったく。まぁ、この私が不合格になることなど、100%あり得ないことですけど。一応、万が一の時のための保険も用意してはいますが、多分大丈夫でしょう。真の女神、それはこの私、「光の女神」リリアなのですから。」

 リリアは玉座に座って、ニヤリと笑みを浮かべながら、そう呟くのだった。

 ついに、「光の女神」リリアの、女神の資格と能力を剥奪するべきか否かを決める適性試験が開始された。

 リリアは、不安はあれど、自身が今回の適性試験に合格し、見事アダマス担当の女神に復帰することを頭の中で思い描いていた。

 だがしかし、リリアの考えとは裏腹に、彼女の女神への復帰実現は遠のくことになってしまう。

 リリア自身がこれまで女神でありながら、アダマスの人間たちを、邪悪で歪んだ思想の下、適当に管理し、導いてきたことのツケは、決して安くはなかった。

 そして、リリアが女神の資格剥奪寸前の状況にまで追い込まれたのが、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈による、自身への止まることのない正義と復讐の鉄槌の連打によるものであることを、リリアは全く理解していない。

 「光の女神」リリアの破滅への道のりは、さらにまた一歩前進する。
















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