第四話 【魔王サイド:マヘタイト王国女王】魔王、光の女神更迭を知り喜ぶ、そして、ついに自ら動き始める

 「剣の女神」ブレンダが、「光の女神」リリアに代わる新たな女神として異世界アダマスに降臨した事実を発表した日のこと。

 インゴット王国から南東方向に海を挟んで遠く離れ、他の人間の治める各国とも海を挟んで距離を置いた、大陸ほどの大きさのある、人間社会とは隔絶された、大きな国があった。

 アメジス合衆国と呼ばれる人間の国家と海を挟んで対岸に位置する、その大国の名前は、マヘタイト王国。

 人間、獣人とは異なる第三の人類、知的生命体である、魔族と呼ばれる種族が治め、生活する国である。

 マヘタイト王国、人間たちからは通称、魔国と呼ばれる大国の首都の中央に、魔王の居城、魔王城があった。

 スロバキアのボイニツェ城にそっくりな外見で、真っ黒な壁が特徴的な、ファンタジー感が漂う、巨大な黒い城の姿をしている。

 午後四時。

 魔王城の会議室に、一人の若い女性が、高級スーツに身を包んだ大勢の魔族たちに囲まれながら、緊張した表情を浮かべて、円卓の中央の椅子に座っていた。

 身長165cmほどで、漆黒の肌に、銀色の瞳、ピンク色の強いピンクホワイトの髪を、前髪をパツンと切り揃えた、姫様カットの髪型の持ち主である。頭には、左右から山羊に似た、二本の角が生えている。

 Bカップほどの胸に、スレンダーな体形で、薄いピンク色のイヴニングドレスを身に纏い、足には、薄いピンク色のピンヒールの靴を履いている。

 美しい澄んだ銀色の瞳に、二重瞼のパチンとした目で、美少女モデルのように整った顔立ちをしている。

 上品で華やかさもある一方、どこかはかなげな印象もある、10代後半の魔族の美少女である。

 彼女の名前は、ローズ・モキャ・マーブル。17歳の女性で、若きマヘタイト王国の女王にして、現在の魔王である。

 ローズの周りに座る魔族たちは、マヘタイト王国政府の各大臣外国の重鎮たちである。

 執事服を着た、60代前半くらいに見える、口元に白いちょび髭を生やした、魔族の老紳士、ローズ専属の執事にして秘書官を務めるセバスチャンが、ローズの左隣の席に座りながら、会議の音頭をとる。

 「これより、緊急会議を開きます!議題は、「剣の女神」の降臨及び人間との和平交渉実現についてです!皆さん、まず、こちらの記録映像をご覧ください!」

 セバスチャンがそう言うと、円卓の中央に置かれている水晶玉のような形の魔道具が突如光り輝き、水晶玉から立体映像が映し出された。

 映像は、「剣の女神」ブレンダが降臨した際に、全世界の空に映し出されたブレンダの姿と、彼女からのメッセージを記録したモノである。

 『異世界アダマスに住まう全ての知的生命体の皆さん。初めまして。私は「剣の女神」ブレンダと申します。突然のことで驚かれた方も多いでしょうが、この私の姿は世界各地にいる皆さんに見てもらっているはずです。アダマスの皆さんにお伝えすべきことがあるため、私はこの異世界に降臨しました。最後まで私の話を聞いてください。まず、私が降臨した理由ですが、それは、この私がアダマスを管理する新たな女神として選ばれたからです。今日からこの私、「剣の女神」ブレンダが、光の女神リリア、闇の女神イヴに次ぐ、三人目の女神として、アダマスの管理を担当することになりました。理由は、この世界、アダマスが混沌と崩壊の危機にあるからです。特に、人間と獣人と呼ばれる種族の皆さんに深く関わりがあることです。光の女神リリア、彼女はあなた方を誤った進化の方向に教え導きました。その結果、人間と獣人は堕落し、魔族と呼ばれる何の罪もない知的生命体を差別、迫害してきました。そして、光の女神リリアに過失があったとは言え、あなた方は歴史の改竄という大罪まで犯しました。私たち神界の神々は、人間と獣人、人類と呼ばれる種族を、野蛮で凶悪で、他の知的生命体の存続を脅かす、危険な存在であるとの疑いを持つに至りました。人類がいずれ、何の罪もない知的生命体を無差別に殺戮しようとする侵略者、全宇宙の脅威になるとの懸念が浮上しました。このまま、あなた方人類を光の女神リリアに任せ、放置するわけにはいきません。そこで、神々を代表して、この私が新たに担当女神としてアダマスの管理に加わり、アダマス、そして、アダマスの全知的生命体を正しい進化の方向に導くお手伝いをすることとなりました。尚、光の女神リリアは自らの過ちを認め、しばらくの間、アダマスの管理から外れることになりました。光の女神リリアがふたたびアダマスの担当女神として戻る時期は不明です。人間、獣人の皆さんの保護、育成は、この私が新たに引き継ぐことになりました。ですが、私は決して人類に肩入れするつもりはありません。魔族にも、闇の女神イヴにもです。私は中立、公平公正の立場から、アダマスと、アダマスの知的生命体の管理に携わります。全ての人類に告げます。直ちに、魔族と闇の女神イヴへの不当な差別、迫害、侵略行為を止めなさい。もし、従わないと言うのであれば、その時は、あなた方人類に神罰が下されることになります。宇宙の秩序を乱す悪しき存在は、この私が正義の名の下に処断します。これは全ての神々からの警告です。この私の剣の一振りで、人類の存続を決めることもできるのです。アダマスに住む全知的生命体が、正義と平和を愛する知的生命体として進化することを、私たち神々は望んでいます。それと、「黒の勇者」は私たち神々が認める正式な勇者であり、正当な理由なく彼に危害を加えることは許しません。アダマスで活動する勇者たちの管理は、この私が主に担当することとなりました。勇者は神の代行者であり、世界の秩序を守る存在です。「黒の勇者」を除き、これまでの勇者は残虐な殺戮者、あるいは犯罪者でした。これからはこの私が中心となり、勇者の派遣や育成、管理を徹底的に行います。勇者は決して、人類だけの守護者でも、無秩序な殺戮者でもありません。私が話したことを肝に銘じて、行動するように。以上が、私からアダマスに住む知的生命体の皆さんにお伝えしたいことです。皆さんが私たち神々の期待を裏切らないことを心より願っています。』

 「剣の女神」ブレンダによるメッセージを記録した立体映像を映すのを止めると、セバスチャンが会議室にいる面々に向かって、ふたたび話し始めた。

 「以上が、「剣の女神」ブレンダ降臨の記録映像になります。記録映像のメッセージより、「剣の女神」ブレンダと名乗る存在が新たな女神として降臨したこと、「剣の女神」ブレンダが「光の女神」リリアに代わり、人類を管理すること、「剣の女神」ブレンダを含む神を名乗る存在が、我々魔族の保護と、人類に対して魔族との停戦、和平実現を訴えたこと、以上の事実が確認されます。尚、先ほどのメッセージが、世界各地にて同様に、各地の上空に映し出され、人間側諸国でも見られたことは、世界各地に派遣しているエージェントたちより報告がありました。会議にお集まりの皆さんに、今回の「剣の女神」ブレンダからのメッセージについてご意見を聞かせていただいた上で、人間たちとの和平交渉など、今後の対応について決めたいと、ローズ女王陛下はお考えです。よろしいでしょうか、女王陛下?」

 「ええっ、その通りです、セバス。会議にご列席の皆さんの意見を聞かせてください。」

 ローズが、会議に集まった面々に意見を訊ねた。

 「「剣の女神」ブレンダが降臨したこと、「剣の女神」なる存在が我々魔族に対して友好的なメッセージを送ってきたことは、映像から分かります。しかし、あのメッセージの内容をすぐに信用するのは控えるべきと、私は考えます、陛下。」

 「軍務大臣、理由を聞かせてください。」

 「はい、陛下。「剣の女神」ブレンダの発言や態度には、一見、我々魔族へ対する敵意や偏見は感じさせません。これまでの「光の女神」リリアと人間たちの行いを非難し、人間たちを自ら監視し、厳しく罰すると言っております。ですが、メッセージの後半において、「剣の女神」は、自らが中立の立場であるとも表明しました。人間にも魔族にも肩入れをせず、我々魔族も自らの監視下に置く、そう発言しました。もし、我々魔族が「剣の女神」ブレンダの不興を買うようなことをすれば、「剣の女神」は我々魔族に対しても容赦なく神罰を下す、とも考えられます。「剣の女神」の発言には過激な部分が見受けられ、下手をすれば、「光の女神」リリア以上の脅威、最悪の場合、アダマスの全知的生命体を脅かす脅威になる可能性もあると、思われます。また、本当に我々魔族の保護を「剣の女神」が考えているのか、確固たる証拠がいまだ無い状況です。故に、「剣の女神」ブレンダからのメッセージを信用することは控え、ここは一時静観するのが妥当かと申し上げます。」

 「なるほど。軍務大臣、あなたの意見はよく分かりました。確かに、「剣の女神」ブレンダ、かの存在の言葉を、その真偽を量り得る確固たる証拠が無い現状、一時静観が方針としては妥当でしょう。他に意見のある方、あるいは異議のある方があれば、どうぞ。」

 「はい。「剣の女神」ブレンダの発言が仮に真実の場合、「光の女神」リリアは他の神々によって更迭され、アダマスから現在、去ったということになります。「光の女神」リリアがいずれアダマスにふたたび戻ってくる前に、あの忌まわしき女神の影響力が下がっている、今、この時をみすみす逃すのはいかがなものかと、私は考えます。一時静観の方針には私も賛成ですが、人間側に対してこちらから何かしらアクションを起こし、反応を見るのはどうでしょうか?」

 「外務大臣、ご意見をありがとうございます。人間側に対して何かしらアクションを起こし、反応を見たい、とのことですが、具体的にはどういったアクションをお考えでしょうか?以前、こちらから人間側に対して親書を送り、和平交渉の申し入れを行いましたが、今回もまた親書を送って反応をうかがう、ということでしょうか?」

 「親書を送ることもよろしいでしょう。ですが、親書を送るのは、もう少し先がよろしいかと。人間側の情勢を正確に把握した後、和平交渉のための親書を送るのが適切だと思われます。人間側、特にインゴット王国とゾイサイト聖教国、この二つの国が我々魔族との和平交渉に応じる可能性は低いでしょう。「光の女神」リリアの影響力がいまだ色濃く残るあの二つの国は、例え「剣の女神」ブレンダからのメッセージを受け取っても、魔族と敵対する考えを変えるとは思えません。しかし、我々魔族側と人間側の和平交渉を円滑に進めるためには、今から下準備となるアクションを起こすことも重要です。今まで、我々魔族には、人間側との和平交渉を結ぶために必要なパイプ役、人間側でこちらとの交渉をサポートする人材がおりませんでした。けれど、今、パイプ役となり得る人間の候補が現れました。そう、「黒の勇者」と呼ばれる人間です。「黒の勇者」なる人物は、「剣の女神」を含む神々が正式に勇者として認め、神々の使者となった人間です。「光の女神」リリアとも関係はありますが、「剣の女神」ブレンダの言葉通りなら、かの人物もまた、中立の立場にあり、我々魔族を正当な理由もなく害することは許されていない、ということになります。「黒の勇者」なる人間の下に、我々の使者を派遣し、「黒の勇者」の人間性や本心を確かめた上で、かの人物に、我々魔族側と人間側の交渉のパイプ役となってもらうのはいかがでしょうか?「黒の勇者」がパイプ役となり、かの人物を窓口に、徐々に人間側の各国との和平交渉を進めることを、一つの外交政策としてこの場でご提案させていただきます。」

 外務大臣の、「黒の勇者」を和平交渉のパイプ役の候補として利用する、という大胆な提案に、会議室にいた面々はどよめくのであった。

 「外務大臣、「光の女神リリア」の影響力が下がったと思われるこの時期に、何らかのアクションを起こすべきだと言う、あなたの意見は分かる。しかし、「黒の勇者」なる人間を、我々と人間側の和平交渉のパイプ役に使うというのは、些かリスクがあるのではないかね?「黒の勇者」なる人間が、暴走する元勇者たちの脅威から世界を救っている、というのは、私も知っている。だが、それはあくまで人間側の問題を解決しているだけで、我々魔族側に対するメリットは特になかった。世界樹の一件を除いてだが。「黒の勇者」は元々、「光の女神」リリアが、我々魔族を滅ぼす尖兵として異世界より召喚した人間だ。「光の女神」リリアが後に、正式に勇者と認め、かの女神の勇者として活動していた人物だ。付け加えると、かの人物はまだ17歳の少年だと言うではないか?神々が認めているとは言え、政治に関しては全くの素人の子供だ。和平交渉のパイプ役を任せるには、不安要素が多いと、私は思うがね?」

 「財務大臣、あなたのご指摘は分かります。ですが、他にパイプ役となれる人間がおりますでしょうか?私が「黒の勇者」を候補に挙げたのは、かの人物が最も神々の意向を受け行動していると思われるからです。「黒の勇者」本人の意思、我々魔族に対する認識という問題はありますが、神々から勇者として認められるほどの人材ならば、かの人物が人間を代表し、その行動如何が、人間側の意思、人間の存続を決定する重要なファクターになり得ることを意味することになります。もし、「黒の勇者」が正当な理由もなく我々に敵対行動を取り、その行動を神々が容認する場合は、人間側との和平交渉は中止、「剣の女神」を含む神々は我々魔族の敵である、という答えが出ます。経験不足の面は、我々がサポートすればいい話です。他に、パイプ役としてふさわしい人間がいるのであれば、その人物に依頼することも考えるべきでしょうが、我々魔族に協力をしてくれる人間が、かの人物以外におりますでしょうか?」

 「外務大臣、あなたの言いたいことは分かる。しかし、しかしだ、神々がお墨付きを与えた人物だからと、我々魔族側にとって有益な流れが生まれつつあるかもしれないからと言って、今すぐこの場で、和平交渉のパイプ役候補を決める必要はないだろう。「黒の勇者」を我々の交渉のパイプ役に選ぶかについては、もっと議論を深めてからでも良いのではないかね?それに、勇者の肩書きや神々の後ろ盾だけで納得する人間たちではない。人間たちと和平交渉を実現するとなった場合、人間たちの中にはきっと、我々魔族に交渉の見返りを要求する輩も少なからず出てくる可能性は否定できない。忌まわしい「光の女神」の戯言に踊らされ、3,000年以上もの間、我々魔族を迫害し、我々を滅ぼそうとこれまでに幾度も侵略戦争を仕掛けてきた種族だ。光の女神の加護を失いたくないからと、我が身可愛さ故に、本心では戦争の無意味さを悟りながら、我々魔族を滅ぼして生き延びようとしてきた浅ましさを持つ連中だ。我らが崇拝する「闇の女神」イヴ様の慈愛と平和の精神を汚し、我々魔族との信頼関係や共に築いた繁栄をあっさりと無に帰し、裏切った。人間たちの浅ましさ、愚かさは歴史が既に証明している。私は別に、人間との和平交渉に反対しているわけではないのだ、諸君。けれども、人間たちの中には、過去の過ちを、何の罪もない我々魔族の同胞たちの命を奪った罪を謝罪もせず、和平の見返りにと図々しく不当な対価を要求してくる、そういう者たちもいるはずだ。人間たちから迫害され、世界から孤立しながらも、我々魔族は何とか今日まで繁栄を守り続けてきた。長い年月をかけて築き上げた我がマヘタイト王国の繁栄を、人間たちに踏み荒らされることはあってはならない。人間たちが和平交渉と言いながら、不平等な条約を結ばせ、我々魔族から資源やテクノロジーを奪い、その果てにふたたび侵略戦争を仕掛けてこないとも言えない。本当に人間たちが我々との真の和平交渉を実現する意思があるのか、恒久和平を実現できる確かな証拠を人間側が提示できるのか、こういった確証が得られない限り、和平交渉に動くべきではない、と私は考える。女王陛下、会議にお集りの諸君、私からの意見は以上です。」

 財務大臣の言葉を聞いて、会議室にいる面々はそれぞれ、思い悩むのであった。

 会議室が静寂に包まれる中、女王であるローズが口を開いた。

 「皆さんの意見は分かりました。現状、すぐに人間たちとの和平交渉に動くことは難しい、ということがこの場にいる全員の共通認識だと理解します。人間たちに、私たち魔族と本気で、対等な立場で和平交渉に臨む用意があるのか、判断材料に欠けるのは確かです。しかし、「光の女神」の人間社会への影響力が下がりつつあるこの機会を、ただ何もせず、見過ごすわけにもまいりません。人間たちとの和平を実現し、争いを終結させることこそが、私たち魔族の長年の悲願です。争いの歴史に終止符を打たなければ、私たち魔族に、真の平和、真の繁栄は訪れません。まずは、人間たちとの和平交渉が実現可能か否か、判断材料を集めることから始めるとしましょう。各人間国家の動向や情勢を見極めてからでも遅くはありません。私たち魔族と人間たちとの交渉の窓口、パイプ役となり得る人間がいるのかいないのか、慎重に探して検討した上で、適切な人物にパイプ役を依頼し、協力をお願いするとしましょう。皆さん、それでよろしいですね?」

 ローズの提案に、会議室に集まった各大臣たちは皆、顔を見合わせ、それから、「異議なし!」と、全会一致で可決した。

 「今日の「剣の女神」ブレンダからのメッセージを受け取り、人間社会もかなりの影響を受けたはずです。セバス、各人間国家の動向に関する情報収集を引き続きお願いします。大きな動きがあれば、随時私たちに報告をお願いします。」

 「かしこまりました、陛下。」

 ローズはセバスに指示をすると、それから悪戯っぽい笑みを浮かべながら、セバスを含む会議室にいるその他の面々に向かって、次のように言った。

 「それと、交渉のパイプ役候補の調査ですが、私自らも調査に参加します。「黒の勇者」には私から接触を試み、パイプ役となっていただけるか、お話ししてみます。よろしいですね、皆さん?」

 ローズの衝撃の発言に、セバス外各大臣たちは驚き、すぐさま猛反対した。

 「冗談はお止めください、陛下!陛下の身に万が一のことがあれば、王国は一大事です!魔王自ら勇者に会いに行くなど、危険です!亡き御先代様から陛下の身を任された私たちの立つ瀬がありません!絶対に、絶対に勇者との接触は許可できません!」

 「セバス秘書官の言う通りです、女王陛下!「黒の勇者」をパイプ役候補に推薦したのはこの私ですが、陛下自ら「黒の勇者」との交渉に赴かれる必要はございません!交渉でしたら、私か私の部下が担当いたします!陛下は王城にてお待ちください!」

 「陛下、いくら何でも冗談にも程があります!人間たちの野蛮さ、浅ましさは陛下の想像以上なのです!陛下は戦争を体験しておられない故、そのことが分からないのでしょうが、人間たちは迂闊に近づけば情け容赦なく、それこそ狂った獣のように我々に牙を剥いてくるのです!魔族だと分かれば、それも魔王だと知られれば、すぐに陛下のお命を奪おうと襲ってくる危険性大です!特に勇者など、代表例も代表例です!「黒の勇者」だからと、神々が公認の使者だからと言っても、今、陛下が直接お会いになるなど、許可するわけにはいきません!「黒の勇者」のことは、我々に全てお任せください、陛下!?」

 セバス外大臣たちが猛反対、猛抗議するが、ローズはその反対を一蹴した。

 「私は本気です、皆さん。ようやく人間たちとの和平交渉実現の可能性が出てきたのに、魔族の代表たる、魔王であるこの私が、直接現場に一度も出ず、和平交渉を行おうなど、それこそ怠惰ではありませんか?種族の繁栄と平和がかかっているからこそ、本気で正面から人間たちと向き合わなければならないと、私は思うのです。ちゃんと護衛は付けます。それに、これは私の勘と言いますか、「黒の勇者」、彼は恐らく、私たちの味方になってくれるはずです。「黒の勇者」はこれまでの勇者たちとは違う、そう、女神の意思ではなく、自らの意思、「闇の女神」イヴ様の教えにも通ずる揺るぎなき正義の心を持っている、そう感じるのです。とにかく、私は「黒の勇者」に会いに行きます。魔王としての公務もちゃんとこなしますから、どうかご心配なく。これは魔王命令であり、決定事項です。これにて、会議は終了とします。フフっ、皆さん、これからきっと面白いことが起こりますよ、フフフっ(笑)。」

 セバスたちが何度も詰め寄って撤回を試みるが、ローズの意思は固く、ローズが「黒の勇者」こと、主人公、宮古野 丈に直接会いに行き、パイプ役就任について交渉する、という決定が覆ることはなかった。

 「魔王」ローズ・モキャ・マーブルと、「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈の出会いの時は、すぐ傍まで近づきつつあった。

 この二人が如何にして出会うのか、この二人の出会いがこの先、異世界アダマスの未来に何をもたらすのか、それは誰にも分からない。












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