【中間選考突破!!】異世界が嫌いな俺が異世界をブチ壊す ~ジョブもスキルもありませんが、最強の妖怪たちが憑いているので全く問題ありません~
第十話 主人公、SS級冒険者になる、それから、悪党の残党共を成敗する
第十話 主人公、SS級冒険者になる、それから、悪党の残党共を成敗する
僕たち「アウトサイダーズ」が強化トレーニングとバカンスのため、サーファイ連邦国を訪れてから約4週間が過ぎようとしていた頃。
強化トレーニング開始からちょうど28日目となるその日、僕はメルたちのコーチ役兼護衛役を他のパーティーメンバーたちに任せ、メルとマリアンヌの二人には模擬戦形式のトレーニングメニューなどを行うよう指示して、一人、とあるモンスターの討伐依頼を処理するため、サーファイ連邦国の南南西の海域にある、とある島へと向かった。
霊能力のエネルギーを使ってフラワーコーラル島から空を飛んで高速移動して15分ほどで、目的地であるウォーターシュリンプ島へと到着した。
ウォーターシュリンプ島は人口約5,000人ほどのやや小さな島である。
僕は依頼書の地図を頼りに、ウォーターシュリンプ島の北側の森の中にある、コバル湖と呼ばれる湖を目指して、さらに空を飛んで進んでいく。
依頼書によると、約二ヶ月前、ヒュドラという超大型モンスターが突如、ウォーターシュリンプ島の北側の海域に現れ、ウォーターシュリンプ島に北側から上陸。島の北側の森の中にあるコバル湖を住処として、そのまま湖に住み着いてしまった、とのことである。ヒュドラは湖に近づく人間や他の動物、他のモンスターを容赦なく、見境無しに襲いかかる、とのこと。ヒュドラの上陸を防ぐためにヒュドラと交戦した海軍兵士、冒険者たち、湖周辺に避暑に来ていた観光客、湖周辺の地域に住む島民たちに多数の死傷者が出る被害を及ぼしているそうだ。ヒュドラによって船や建物がいくつも破壊される甚大な被害も出ているとも、依頼書には書かれている。現在、ウォーターシュリンプ島周辺の海域は通行を原則禁止され、ヒュドラが住み着いたコバル湖一帯への立ち入りも関係者以外、立ち入り禁止の措置がとられている。そのため、漁業や海運業、観光業など、島の各産業が軒並みダメージを受けているそうだ。
ヒュドラが湖に住み着いた影響で、ヒュドラが体内から吐く毒によって湖の水が汚染され、湖周辺の森の草木が枯れる、湖周辺の空気も微量の毒に汚染されるなど、湖周辺の環境もダメージを被る被害が出ているため、湖周辺の浄化作業も必要、とのこと。
この依頼もサーファイ連邦国海軍が引き受け、改めて討伐作戦を練って、軍の総力を挙げてヒュドラを討伐する予定だったが、一月前、元「槌聖」たち一行の襲撃により海軍が壊滅してしまったため、討伐はふたたび見送られ、現在にまで至る、とのことである。
討伐する数は全部で1匹。依頼のランクはSSランクで、討伐報酬は2,000万リリアと、相場の約5分の1以下の金額。依頼主は、ウォーターシュリンプ島の島の漁業組合、海運業者組合、観光事業者組合などの各種事業者の連名で依頼書に記載されている。
この依頼も、高ランクで報酬が相場以下、冒険者たちから基本避けられがちの依頼、通称ハズレ依頼と呼ばれる案件の一つに該当する。
ヒュドラとは、体長40m~50mほどの、全身が
だが、最も恐ろしいのは、驚異的な再生能力を有している点である。九本の首を含む全身の細胞に、強力な再生能力を有していて、体を傷つけられても、首を斬られても、急速な速さで回復、損傷した体の部位をほぼ完全に再生することができるのだ。場合によっては、首を斬り落とした際にできた傷口からもう一本、新たな首が追加で生えてくる、といったケースがあったことも報告されている。特に中央の首の再生能力が最も強力で、中央の首を木っ端微塵に、完全に消滅させない限り、復活して生命活動を再開する、非常に厄介極まりない再生能力の持ち主なのである。対処方法は、全ての首を斬り落として、傷口を高熱の炎で素早く焼いて再生能力を奪うこと、あるいは、ヒュドラの肉体まるごと完全に塵も残さず焼き払い消滅させること、この二つ以外に基本、討伐方法はない、と聞いている。ヒュドラの性格は凶暴で攻撃的、肉食で人間だけでなく、下級モンスターの肉も好んで食べる、とのこと。
異世界召喚物の物語やファンタジー系のゲームなどに頻繁に登場することで有名なモンスターとして知られている。ギリシャ神話に登場し、水蛇座のモデルにもなった、九本の首を持つ巨大な水蛇の姿をした不死の怪物として描かれている。
話を戻すと、僕は依頼書の地図を頼りに空を飛んで島の上空を移動すると、島の北側の深い森と山々の間に挟まれた、0.5㎢ほどの面積の湖が、目の前に見えてきた。
湖の水は毒々しい紫色に染まっていて、湖のすぐ傍に生えている木や草、花は枯れていて、湖周辺の森や山々と比べた時、湖だけが異様な様相に見えて、周りの景色から浮いている。
間違いなく、ヒュドラが垂れ流す毒液によって汚染されたコバル湖であることが、僕にはすぐに分かった。
僕はすぐに毒と幻術の効果を持つ金色の霊能力を解放し、「認識阻害幻術」を発動して全身に纏って、完全に姿を消した。
午前11時過ぎ。
ヒュドラから認識されないよう完全に姿を消した僕は、湖から約600mほど離れた、湖より西側の小高い森の中の、木々と茂みの間へと空から降り立った。
ジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出して右手に持つと、如意棒に霊能力のエネルギーを流し込み、如意棒を、SV-98によく似た姿の、ボルトアクション方式の、黒い対人用スナイパーライフルへと変形させた。
全長1m27㎝、重さ約6㎏、有効射程距離約1,000m、7.62×54㎜R弾を最大10発装填、発射できる、ロシアの最新の対人用スナイパーライフル、それがSV-98である。
僕がこの銃をヒュドラ討伐用に選んだのは、スナイパーライフルでの実戦での狙撃テストも目的ではあるが、性能面を重視したことも大きな要因の一つである。
銃本体に初めから付属しているキャリングハンドル、収納式バイポット、フロントサイト、リアサイト、銃口のマズルカバー、使いやすい箱型マガジンなど、スナイパーライフルに求められる機能がいくつも銃本体に装備されている。
ボルトアクション方式のため素早い連射はできないが、威力、精度、射程距離、重量、機能、汎用性など、非常にバランスが取れていて、ロシアの銃器開発のノウハウ、スナイパーライフルに対する知見が組み込まれていて、僕個人としては、このSV-98が最も対人用スナイパーライフルとして高性能であると判断した。
スコープの製作をイヴに依頼しようかとも考えたが、「霊視」による視力の強化ができるため、銃に照準器も付いているため、敢えてスコープの製作は見送った。
代わりに、7.62×54㎜R弾にそっくりのブラックオリハルコン製の実弾を20発、予備のマガジンを一つ、イヴに頼んで作ってもらった。
実弾を使った狙撃にも慣れておく必要がある、そう考えたからである。
僕はSV-98そっくりの黒いスナイパーライフルを両手で持ち、銃の先端に収納してあるバイポッドを展開すると、地面に伏せて、木々と茂みの間に身を隠しながら、約600m先にある、ヒュドラが水中に身を潜めているコバル湖へと、銃口を向ける。
森の中に身を隠し、認識阻害幻術で完全に姿も気配も消して、伏せ撃ちの構えを取りながら、僕はヒュドラの潜むコバル湖を、リアサイトとフロントサイトを通してジッと見つめる。
湖にヒュドラの姿はなく、水中に潜んでいる様子だ。
「やや向かい風あり。と言っても、微風だ。けど、抵抗を受けて弾道が逸れる可能性はある。できれば、こちらの作戦通りに仕留めたいところだが、無理な時は殲滅するのみだ。さてと、それじゃあ、討伐開始だ。」
僕は「霊視」で強化した視力でサイトを覗きながら、重力操作能力と空間操作能力の効果を持つ紫色の霊能力を解放し、両手から紫色の霊能力のエネルギーを、黒いスナイパーライフルに注ぎ込み、10発の弾丸に「重力操作」の効果を付与していく。
セーフティーを解除し、ボルトレバーをコッキングして弾丸を一発装填する。
弾丸を一発装填すると、僕は湖の中央の水面目掛けて、スナイパーライフルのトリガーを右の人差し指で引いて、弾丸を撃った。
バーンという、僕にしか聞こえない音を立てて、黒いスナイパーライフルより一発の大きな弾丸が真っ直ぐに、湖の中央付近の水面に着弾した。
僕はすかさず、ボルトレバーをコッキングして、次弾を装填して、ライフルのトリガーを引いた。
湖の中央だけでなく、湖の前後左右にも銃弾を一発ずつ、撃ち込む。
「重力操作」の効果を付与した弾丸が湖の中に入る度に、湖の水が少しづつ、ゆっくりと、重力を減らされ、空中へと浮かび上がっていく。
10発の弾丸全てを撃ち終え、毒に汚染された湖の水が、湖の真上、水面より70mほど上空の位置で制止して浮かんでいる。
湖の水が干上がったことで、湖の中に身を潜めていたヒュドラの全身が露わになり、僕の前にヒュドラが現れた。
湖の水が干上がり、湖の水が空中に浮かんでいる異常な光景を見て、ヒュドラは自身が何者かに攻撃されていると気付き、18個もある黄色い蛇の瞳を必死に動かしながら、九本の首から無作為に、四方八方に大量の毒液を放って撒き散らし、外敵を排除しようと試みる。
だが、僕はヒュドラの吐く大量の毒液の射程圏外、ヒュドラのいる湖より600m離れた森の中に、姿を完全に消して潜んでいるため、毒液によるダメージを受けることは全く無い。
僕はマガジンを交換して、新たに10発の実弾を黒いスナイパーライフルに込めた。
僕はふたたび、サイトを覗きながら、ライフルの照準を、毒液を吐いて暴れ回るヒュドラの中央の首に合わせる。
ボルトレバーをコッキングして、弾丸を一発装填する。
死の呪いの効果を持つ黒い霊能力のエネルギーをゆっくりと解放し、両手から徐々にスナイパーライフルに黒い霊能力のエネルギーを注ぎ込み、弾丸に「死の呪い」の効果を付与していく。
ヒュドラの中央の首の根元付近に狙いを定め、標的が見つからず困惑し、動きが鈍くなったヒュドラの隙を見逃さず、僕はライフルのトリガーをすかさず引いた。
バーン、という一発の、僕にしか聞こえない銃声が聞こえ、スナイパーライフルの銃口より、黒い霊能力のエネルギーを纏った弾丸が真っ直ぐに、ヒュドラの中央の首目掛けて発射された。
弾丸はヒュドラの中央の首の根元の下寄り、首の根元と地面の間、ギリギリの位置で、ヒュドラの体へと着弾した。
弾丸が中央の首の根元に撃ち込まれ、ヒュドラの中央の首が千切れて吹き飛ぶと同時に、首の根元の傷口に、弾丸が深く食い込んだ。
「「「「「「「「キシャーーー!?」」」」」」」」
死の呪いの効果を付与した弾丸を撃ち込まれたことで、首の根元の傷口から全身を死の呪いで汚染され、全身の細胞を呪い殺され、残る八本の首の頭部から悲鳴を上げながら、ヒュドラは自慢の再生能力を使うこともできず、全身を呪い殺され、体がやや黒く染まりながら、その場で絶命した。
ヒュドラが僕の放った弾丸の死の呪い効果を受けて死亡したのを見た僕は、銀色の霊能力を発動して空を飛び、姿は消したまま、ヒュドラの死体のすぐ傍へと着陸した。
「千里眼」の能力も使いながら、僕はヒュドラが完全に死の呪いで呪い殺され、生命活動を停止したことを確認した。
「ヒュドラの死亡を確認。大きさは45mといったところか?結構大きい方じゃないかな?首一本千切れただけで、その他に死体に損傷は無し。これなら、素材としても剥製としても高くで売れるに違いない。5,000、いや、4,000万リリアぐらいで買い取ってもらえるかも。とにかく、大収穫だ。実弾はやっぱり、霊能力の弾丸よりも風とかの影響を受けやすいな。狙いと若干、逸れてしまうな。弾の消費量も大きいし、威力も低い。でも、霊能力の効果を付与できるし、霊能力で破壊力やスピード、コントールをある程度ブーストできることも分かった。実弾の狙撃テストはとりあえず、クリアってことで良いだろう。さて、後は湖の水の浄化だが、これもついでにやっておくとしよう。」
僕はふたたび、黒いスナイパーライフルを両手に持って構えると、湖の真上の空中に浮かんでいる湖の水の塊に向かって、死の呪いの効果を付与した弾丸を一発、撃ち込んだ。
死の呪いの持つもう一つの効果、あらゆる状態異常攻撃を無効化できる効果で、ヒュドラの毒液によって汚染された湖の水の毒を打ち消すことが可能である。
僕はヒュドラの死体を腰のアイテムポーチに吸い込んで回収すると、湖の水が浄化されるのをしばらく待ち続けた。
湖の水からヒュドラの毒液が除去され、元の透明な、やや青く透き透った水に戻ったことを確認すると、湖の水に施した重力操作を解除して、浄化した水を湖へと戻した。
湖周辺の土や枯れた草木にはまだ、ヒュドラの毒が残っているかもしれないが、それらの後処理は現地の人たちに任せることにした。
「これでひとまず、ヒュドラの討伐依頼は完了だな。後はギルドに戻って報告すれば、無事依頼達成だ。大きな案件が片付いて何よりだ。」
僕はヒュドラの討伐を終えると、紫色の霊能力を右手に纏い、右手の人差し指をパチンと鳴らした。
「瞬間移動能力」を発動して、僕はウォーターシュリンプ島から一気に、冒険者ギルド本部のあるサーファイ島の首都へと、一瞬で移動する。
首都の大通りを歩き、いつものようにサーファイ連邦国冒険者ギルド本部へと向かった僕は、入り口の扉を開いて、一人、依頼達成の報告のため、ギルドの受付カウンターに赴く。
受付カウンターには、最近顔見知りになった、青いロングストレートヘアーと紺色の制服姿が特徴的な、20代前半の受付嬢、ハンナ・イエローシーホースさんがいて、笑顔で僕を出迎えてくれた。
「こんにちは、ジョーさん!いつもご苦労様です!今日はお一人ですか?」
「こんにちは、ハンナさん。今日は僕一人です。仲間たちはみんな用事があって、別行動です。モンスターの討伐依頼で達成した案件があるので報告に来ました。手続きをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「かしこまりました。今回はどの依頼を達成されたんですか?」
僕はアイテムポーチのポケットから依頼書を取り出し、ハンナさんに見せる。
「ええっと、これです、ウォーターシュリンプ島のコバル湖に住み着いたヒュドラ1匹の討伐依頼です。今さっき、ヒュドラを討伐してきました。もちろん、死体も回収してきました。後で死体の買取もお願いします。」
「えっ!?ひゅ、ヒュドラ、ですか?今さっき討伐してきたって?も、もしかして、ジョーさんお一人で、ですか?」
「ええっ、その通りです。トレーニングの成果を試すにはちょうど持ってこいの相手だと思ってですね。一応、討伐したついでに湖の水も浄化してきました。周辺の毒に汚染された草木や土壌の除去までは手が回りませんでしたが、湖の水はもう大丈夫です。後、ヒュドラの死体は、首を一本破損していますが、それ以外の部位は綺麗に残っています。保存状態としては悪くない方かなと思いますので、できる限り高く買い取っていただけると助かります。」
「ちょ、ちょっと待ってください!色々と情報が多過ぎて頭が追いついていかないと言いますか!?スゥー、はぁー!つ、つまり、ジョーさんお一人で、ソロで、SSランクモンスターのヒュドラを討伐されたと!?死体もほぼ無傷で持ち帰って来られた、そういうことですか!?」
「ええっ、そういうことです。もしかして、僕が本当にヒュドラを討伐してきたのか、疑ってます?死体ならちゃんとこのアイテムポーチに入ってますよ。何なら、一緒にギルドの解体所で死体を確認されますか?あ~、でも、ヒュドラの死体って結構大きいんですよね。解体所に入り切るかな?目測ですけど、45mくらいの大きさはあるものでして。」
「そ、そういうことを聞いているんじゃなくて、ソロで、一人で、SSランクモンスターのヒュドラを討伐すること自体が、あり得ないことなんですよ!歴代最強と呼ばれた勇者パーティーの勇者様たちでも、ソロではなく、パーティーで挑んでヒュドラを討伐したんです!ジョーさんは確かに「黒の勇者」と呼ばれる方ですけど、勇者がたった一人で、ソロでSSランクモンスターを討伐するなんて、私が知る限りでは、恐らく歴史上初の快挙ですよ!本当に凄いことなんですよ、ジョーさん!ヒュドラをソロで討伐したことがギルドに認められれば、SSランクへの昇格も間違いなしです!本当に凄いことなんですよ!」
「そうなんですか?それは知らなかったなぁ~。まぁ、SSランクへの昇格とかソロ討伐とか、そんなことは後回しでもいいので、とにかく依頼達成の手続きを進めてもらえますか?2,000万リリアの報酬は僕の個人口座に振り込みをお願いします。後、ヒュドラは無事討伐したことを依頼主の方々にすぐにでも報告してもらえますか?きっと安心されるでしょうし。」
「そ、そんなことって!?いえ、そうでしたね。それがいつもの、ジョーさんの普通でしたよね。素手でシーサーペント2匹を倒す人ですもんね。分かりました。ヒュドラの討伐依頼の処理、改めてお疲れ様でした、ジョーさん。確認のため、ヒュドラの死体をこの後すぐに私にも見せてください。解体所に入りきらないようでしたら、ギルドの裏手の訓練場に運んでもらいます。ヒュドラの死体が確認でき次第、即時依頼達成であると処理いたします。報酬は後日、指定いただいた銀行口座にお振込みいたします。全く、ここ毎日本当に、ジョーさんには驚かされっぱなしですよ。いつも平然とした顔でサラッと、ハズレ依頼を終わらせてきました、って言うんですから。毎回報告を受ける私はドキドキですよ、もう。」
「アハハハ!?す、すみません。僕は仕事をこなすこと以外は基本、無頓着なモノでして。僕なりに周りには気を遣っているつもりなんですけど。その辺はまだまだ新人なんで、どうか許してください。」
「ヒュドラをソロで倒せる人を新人、と呼んでいいものなのか?はぁ~。とにかく、ヒュドラの死体を見せてください。ヒュドラの死体を見れる機会なんて、一生に一度、あるかないかですからね。」
「了解です。それじゃあ、解体所まで一緒に行きましょう、ハンナさん。」
僕は討伐したヒュドラの死体を見せるため、受付嬢のハンナさんと一緒に、ギルドの解体所コーナーへと向かおうとする。
「ちょっと待ったー!ハンナだけズルーい!ジョー君、ヒュドラをソロ討伐したんだって?ねぇ~、私にもヒュドラの死体を見せてよー!良いでしょう、ねぇ~?」
ハンナさんが受付カウンターの外へと出てきたタイミングで、僕たちの近くにいた、青いショートボブの髪を、後ろを白い髪留めで結んでミドルポニーテールヘアーにした、褐色の肌に、パッチリとした青い瞳、紺色の制服を着た、少し背は低めの、元気活発で明るい、10代後半の受付嬢が、僕とハンナさんに話しかけてきた。
彼女の名は、チェルシー・オリーブタートル。ギルドの受付嬢で、僕より二個上の19歳で、僕はチェルシーさんといつも呼んでいる。
「こんにちは、チェルシーさん。僕は別に構いませんけど、お仕事の方は、受付の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫!どうせもうすぐお昼だし、今日も朝から全然空いてるし!ジョー君たちがハズレ依頼とか、高ランクの依頼をバンバン処理してくれるおかげで、最近は私らも、他の冒険者も割かし暇だからさ!私がいなくても受付はちゃんと回るから大丈夫!」
「こらこら~、チェルシー、あなたは今日、お昼の受付担当だから、残っていなくちゃダメよ~。シフトは決まっているんだから、ちゃんと守りなさい。ジョーさん、お疲れ様です。ヒュドラをソロで討伐されたそうですね。話が聞こえてきましたよ。本当におめでとうございます。良かったら、私にもヒュドラの死体を見せてもらえますか?私はこの後、お昼休みなので。チェルシー、あなたは自分の仕事があるんだから、カウンターに大人しく座っていなさい。ヒュドラの死体を見たかったら、休憩時間に見に行きなさい。分かったわね?」
チェルシーさんに向かってそう言うのは、オレンジ色の長い髪をルーズサイドテールの髪型にしていて、褐色の肌、オレンジ色の瞳の細長の目付き、顔に茶色いフレームの四角いレンズの眼鏡をかけた、おっとりとした雰囲気があって、大人な雰囲気もある、20代前半の受付嬢であった。
彼女の名は、ミラ・アンデシン。ギルドの受付嬢で、僕より四個上の23歳で、僕はミラさんといつも呼んでいる。
ハンナさんより一つ年上で、ハンナさんやチェルシーさんと違い、隣国のズパート帝国出身である。
ハンナさん、チェルシーさん、ミラさんの三人は仲が良いそうで、一番年上のミラさんがお姉さん的な感じで、三人のまとめ役って言う感じだ。
「そうですよ、チェルシー。あなたは昼の受付担当なんですから、カウンターを離れちゃダメですよ。」
「ええー!?ちょっとくらいならいいでしょー!?私以外にも受付いるしさぁ~?お客さんそんなに来ないし、周りも朝からお酒飲んで暇潰してる冒険者ばっかじゃ~ん!ちょっと抜けて見るくらい、いいでしょ~?ねぇ~、そんなに堅いこと言わないでさぁ~?」
「はぁ~。しょうがないわね~。なら、10分だけよ。ヒュドラの死体をちょっと見たら、すぐにカウンターに戻って受付の仕事をすること。見たらすぐに仕事に戻るのよ。サボるのはダ~メ。分かったわね、チェルシー?」
「マジ!?ありがと、ミラ~!」
「もう、ミラは本当にチェルシーに甘いんですから。チェルシーはまだまだ新人なんですから、甘やかしちゃダメですよ。チェルシー、ヒュドラの死体を見たらすぐに仕事へ戻るんですよ?他のみんなに怒られても知りませんからね、私もミラも。」
「はいはい、分かってますってば~!んじゃあ、早くヒュドラの死体を見せてもらおうよ!ヒュドラの生の死体を見れるなんて、超興奮する~!私、このギルドで受付やっててマジ良かったー!」
「ハハハ!?三人とも見に来られるんですね。まぁ、首が一本千切れちゃってますけど、良かったら好きなだけ見て行ってください。死体だけど、迫力はかなりあると思いますよ。」
僕はハンナさん、チェルシーさん、ミラさんの受付嬢三人組を連れて、討伐したヒュドラの死体を見せるため、彼女たちとともにギルドの解体所コーナーへと向かおうとする。
「ああっ、ハンナたちだけズル~い!アタシらもヒュドラの死体見たいんだからー!」
「そうよ!チェルシー、アンタ昼の当番なのにアタシらより先にヒュドラの死体を見るなんてズルいわよ!」
「ハンナたちばっかり、ジョーさんの受付を担当してるんだから、ちょっとは私たちにも遠慮して譲りなさいよ!私たちも一緒に見に行くからね!」
カウンターにいた他の受付嬢の人たちが、僕たちの話を聞いていたらしく、自分たちも僕の討伐したヒュドラの死体を一緒に見に行きたい、と抗議し始めた。
「ヒュドラの死体はすぐに消えてなくなるわけじゃないんだから、みんなちょっと落ち着きなさい。しょうがないわね~。ハンナはともかく、せめて受付に一人は残しておかなきゃいけないわ。お昼の受付担当の人たちでジャンケンして、残る人を決めなさいな。お昼休憩の人たちは一緒にヒュドラの死体を見に行く。これなら、文句はないでしょ、みんな?」
「ちぇっ!結局、ジャンケンしなきゃなんないの~?なら、私、絶対に勝つから!」
「はぁ~。私もジョーさんもまだ仕事中なんですから、早く決めてくださいよ、皆さん。昼食だって食べたいんですから。」
ミラさんの提案に従い、チェルシーさんを含むお昼の受付担当の受付嬢たちが、誰が受付カウンターに残るかを決めるため、その場でジャンケン対決を仲良く始めた。
ギルドの受付嬢たちの和気あいあい、ほのぼのとした姿を見て、ほっこりとした気分になる僕であった。
死体になっても、ヒュドラの、SSランクモンスターとしての貴重さ、迫力、威厳といった人を惹きつける魅力は変わらないようだ。
だが、ギルド内の和やかな雰囲気は、突如一変することになった。
「おいおい。ギルドの受付嬢が勝手に受付の仕事を休んでいいのかよ~?ええっ?ヒュドラの死体なんぞ見るより、俺たち冒険者の相手をするのがおめぇらの仕事だろ、ああん?ヒック。」
突然、僕たちの後方から、酒を飲んで少々、酔っ払っている様子の、冒険者風の男が、僕と受付嬢たちに声をかけてきた。
男は、身長185㎝ほどで、ガタイがよく、青い髪に剃り込みの入った坊主頭にしている。ギョロっとした青い瞳に褐色の肌、低い鼻という顔立ちをしている。茶色いレザーアーマーを着込んでいて、腰のベルトには鞘に納まったロングソードを一本提げている。年齢は20代後半から30代前半くらいに見える。
男は酔っぱらっている上に、少々機嫌が悪そうで、僕や受付嬢たちに悪態をついてくる。
「バッカス、また昼前から酒飲んでるし。ホント、嫌な奴。」
チェルシーさんがボソッと、小声で呟いた。
「ヒック。おぅ、ハンナ、ヒュドラの死体なんぞ見るより、俺と一緒に飲もうぜ?お前に似合うサファイアのネックレスがあるぜ?結構な値打ちもんだぜ。お前、前にサファイアのアクセサリーが欲しいって言ってたろ?俺がプレゼントしてやるよ。勇者様のお相手は他の奴にでも任せて、俺と一緒に昼飯でも食いながら話そうぜ、なぁ?ヒック。」
バッカスと言う酔っ払い男は、ニヤニヤと笑いながらそう言って、僕の隣にいるハンナさんの方へと、ゆっくりと歩いて近づいてくる。
「結構です、バッカスさん。私は今、仕事中です。ジョーさんの依頼達成の手続きの処理で忙しいんです。他に用がないのでしたら、パーティーのお仲間と好きなお酒を飲んでいてください。ジョーさん、すぐに解体所まで一緒に来てください。」
「ちょっと待てよ?そんなツレねえことを言うなよ、なぁ~?そこにいる勇者様の相手でいつも忙しいおめぇを労ってやりてぇだけなんだぜ、俺は?それによぉ~、どうせ勇者様は勇者の仕事とやらで、このギルドを出て行っちまうんだぜ?ならよぉ~、そこにいる勇者様より、このギルドの専属冒険者になった俺と仲良くしてた方が、後々のことを考えると良いとは思わねえか?なぁ~、ハンナ?おい、おめぇらもそう思うだろ?」
「バッカスの言う通りだぜ。世界中飛び回ってお忙しい勇者様より、専属冒険者の俺たちの方にもっと気ぃ遣うべきだよなぁ~?」
「勇者様も大事だけどよ~、俺たち専属冒険者のことも大事にしてほしいよなぁ~。ギルドの受付嬢が依怙贔屓みてえなことするのは、良くねえよなぁ~?」
「いつでも即戦力になる専属冒険者の俺たちより、すぐにいなくなっちまう勇者様の方が大事って、どうかと思うぜ?ギルマスに注意されても知らねえぞ、俺たちはよ?」
バッカスと、バッカスの仲間と思われる冒険者の男たちが、ハンナさんたち受付嬢に対して、酔っ払いながら、大声で、ギルド中に響くように、文句を口々に言う。
バッカスたちから大声で嫌味を言われ、ギルドの受付嬢たちは皆、嫌そうな表情を浮かべている。
「はっ!?何よ!ジョー君たちが、「アウトサイダーズ」が来てくれたおかげで、ハズレ依頼が片付いて、私らもみんなも大助かりだっての!アンタら、専属冒険者の癖に、ハズレ依頼は全然受けなかったじゃん!最近はギルドで朝から晩まで酒を飲んで、一日中働かずにギルドでくだ巻いてるだけでしょ!ここは酒場じゃないっての!アンタらに絡まれて私ら全員、迷惑してんの!用が無いなら、とっとと自分の家に帰れ、この役たたず!」
「ああん!誰が役立たずだぁー!?チェルシー、メスガキは黙ってろ!専属冒険者の俺たちに喧嘩を売ったらどうなるか分かってんだろうなぁー?」
「チェルシー、言い過ぎよ!バッカスさん、チェルシーが失礼なことを言ったのは謝ります!ですが、私もチェルシーも、他の受付嬢の皆さんも依怙贔屓などはしていません!苦情があるのでしたら、後で受け付けます!私も皆さんも仕事があるので失礼させてもらいます!ジョーさん、皆さん、解体所に行きますよ!」
「おい、待てよ、ハンナ!?俺の話はまだ終わっていねえぞ!おい、待て!」
バッカスがしつこくハンナさんにつきまとい、ハンナさんの左腕を掴んで、無理やり引き留めようとする。
「は、離してください!?」
僕は我慢ならず、全身から霊能力を解放し、ハンナさんの左腕を掴むバッカスの左腕を掴んで、強引に引き剥がし、それから右足で蹴りを入れて、バッカスを床に突き飛ばした。
「痛ってー!?な、何しやがる!?」
「何しやがる、だと?酔っ払いに絡まれて嫌がる女性を、性質の悪い酔っぱらい男から守っただけだ!ハンナさんには僕の討伐依頼の手続きという大事な仕事があるんだ!ヒュドラの死体を彼女に確認してもらわなきゃあいけない!お前みたいな酔っ払いのクズに構っている暇はないんだよ、僕もハンナさんも、他の受付嬢さんたちもな!酒臭い上にうるさくて邪魔だ!お仲間を連れてとっとと自分の家に帰れ、酔っ払いのクズ野郎!」
「テメエー、勇者だからって調子に乗ってんじゃねえぞ、クソガキ!テメエが来たせいで俺も、俺の仲間も、報酬の良い仕事を全部取られて迷惑してんだよ!勇者は勇者の仕事をしてりゃあいいだよ、クソがっ!」
「ハズレ依頼も、高報酬の依頼も、別に僕と「アウトサイダーズ」だけで独占なんてしていない。僕たちがこのギルドへ来た時、高報酬だが、一月以上も放置された案件もかなりあった。誰が先に依頼を受けて処理するかは基本、自由だ。それに、このギルドの専属冒険者を名乗っている癖に、ハズレ依頼を一つも受けていないなんて、おかしな話だ。要は実力不足か、自分たちでギルドからの指名オファーを断っているか、そういうことになる。自分たちの非を、勝手に僕たち「アウトサイダーズ」に押し付けるのは、言いがかりをつけるのは止めてもらおうか?ハンナさん、受付嬢の皆さん、こんな酔っ払いのクズどもは放っておいて、一緒にヒュドラの死体を見に行きましょう。」
僕はそう言うと、床で尻餅をついているバッカスを尻目に、ハンナさんたち受付嬢のみんなを連れて、ギルドの解体所へと歩いて向かおうとする。
僕に注意され、バッカスと、バッカスの仲間たちは皆、背中を向けて受付嬢たちとともにその場を去ろうとする僕を一斉に睨みつけてくる。
「く、クソガキがぁー!?」
怒るバッカスが腰のロングソードの柄を掴もうとした瞬間、突如、僕の全身が一瞬、瑠璃色に強く光り輝いた。
そして、僕の背中から一瞬の内に、瑠璃色に光り輝き、刀身は鏡のようにピカピカと光を反射する、柄は銀色のロングソードが何本も現れ、瑠璃色に輝くエネルギーを剣全体に纏ったロングソードがバッカスたちの方へと目にも止まらぬ速さで宙を飛び、バッカスと、バッカスの仲間たちの体を刺し貫いた。
「がっ!?」
「ぐへっ!?」
「げっ!?」
「ごべっ!?」
「がはっ!?」
バッカスたちは、瑠璃色に輝くロングソードに体を刺し貫かれ、ロングソードが突き刺さった勢いで床に倒され、ロングソードが床ごとバッカスたちの体を貫き、バッカスたち全員を床に固定して、そのまま拘束された。
「がぁー!?ち、力が、は、入らねえ!?か、体が、う、動かねえ!?な、何だ、こりゃあ!?」
バッカスとバッカスの仲間たちが、自分たちの体に突き刺さった瑠璃色に光り輝くロングソードを抜こうと、必死に、息を切らしながら手を伸ばし、ロングソードに触れようとするが、ロングソードには実体がないため、バッカスたちはロングソードに触ることすらできないでいる。
ギルド中が騒然となる中、僕は、ロングソードで床ごと串刺しにされて拘束されているバッカスの傍へとゆっくりと近づいていく。
僕はジャケットの左の胸ポケットから如意棒を取り出すと、右手に持った如意棒に霊能力のエネルギーを流し込み、S&W M29にそっくりの黒い大型リボルバーへと、如意棒を変形させた。
右手に黒い拳銃を持ちながら、僕は床に転がって拘束されているバッカスに向けて言った。
「おい、この酔っ払いのクズ、いや、悪党。お前、今、僕に悪意を、殺意を向けたな?お前の体を貫いてるその剣は、「剣の女神」ブレンダ様が僕に与えてくれた女神の加護だ。「
「じ、自動神罰執行装置、だと!?く、「黒の勇者」がそんな加護を持ってるなんて聞いてねえぞ、くそっ!?」
僕から「神荼護剣」についての説明を聞いて、急に顔を青ざめさせ、動揺するバッカスたちに、僕は冷たい眼差しを向けながら、再度訊ねる。
「さっさと質問に答えろ、酔っ払いのフリをした小悪党が。バッカス・ゼブラシャーク。年齢29歳。ジョブ「剣士」Lv.68、スキル「熱水剣斬」Lv.68。剣先に超高温の熱湯を高圧縮して水圧カッターのような水の刃を生み出し、熱湯の斬撃を放つ剣士系の攻撃スキルか。蒸気を作りだして目くらましもできるとは便利だな。実力は一応、B級冒険者上位。不意打ちで斬撃を放てば僕を殺せるとでも思っていたようだが、お前程度に殺されるほど僕は柔じゃないぞ、ええっ、バッカス・ゼブラシャークさん?お仲間の名前の名字に全員シャークと付いていることから、シャーク族のおっさんの仲良しグループだと分かる。さて、僕を狙った本当の動機だが・・・」
「な、何で、俺の本名を知っていやがる?俺のジョブとスキルの性能まで知っているだと?ま、まさか、鑑定スキル持ちなのかよ?」
「へぇー。お前たち全員、面白いモノを持っているじゃないか、小悪党ども?」
僕は冷たい笑みを浮かべながら、バッカスの腰に巻いてあるアイテムポーチへと手を伸ばし、バッカスのアイテムポーチの中から、とある品物を数点、取り出した。
僕がバッカスのアイテムポーチから取り出した品物は、銀板写真であった。
銀板写真には、若い女性のヌード姿が写されていて、それが10枚ほどあった。
元「槍聖」たち一行がサーファイ連邦国を海賊団とともに占拠した際、闇ギルドと提携して作り、売り捌いていた、女性の奴隷をモデルに使った違法ポルノのエロ写真である。
「バッカス、この酔っ払いの性犯罪者、お前、このエロ写真をいつ、どこで、誰から買った?僕を殺すように、お前にエロ写真を売った売人から頼まれでもしていたのか?売人ってのは、案外、シャーク族の知り合いだったりしてなぁ?後、お前の持っているエロ写真のモデルの女性たちだが、ストレートヘアーの若い女性ばかりで、どことなくハンナさんによく似ているなぁ?エロ写真の女性をハンナさんに見立てて、コソコソと気色悪い妄想でもしていたのか?お前のお仲間たちも全員、かなりの数のエロ写真を購入しているようだな?ほら、とっとと白状しろ、酔っ払いの性犯罪者野郎?」
「うぐっ!?」
「き、気持ち悪い!?うっ、吐き気が?」
「は、ハンナ、大丈夫?バッカス、お仲間の男ども、アンタたちマジ最低!二度と私らに話しかけんな、この変態!」
「専属冒険者が聞いて呆れるわね。バッカスさん、お仲間の皆さん、あなたたちは全員、後で警備隊に突き出しますからね。専属冒険者が逮捕されるなんて、とんだ大不祥事よ。ウチは新装開店したばかりだってのに。すぐに上にも報告しなくちゃだわ。」
「サイテー。」
「キモッ。」
「変態。」
「女の敵。」
「クズ。」
バッカスたちが違法なエロ写真を購入し、所持していたと知り、ハンナさん外ギルドの受付嬢たち、ギルドの女性職員たちは、怒りと軽蔑の眼差しをバッカスたちへと向ける。
「白状する気はないか?なら、言いたくなくても言わせてやろうか?」
僕はそう言うと、全身から青白い霊能力のエネルギーを解放し、右手に持つ黒い拳銃のシリンダーに瞬時に霊能力の弾丸を作って装填した。
そして、拳銃の銃口をバッカスの右手に向けると、トリガーを引いた。
バーン、という一発の銃声が鳴り響いた直後、拳銃から発射された霊能力の弾丸がバッカスの右手に撃ち込まれると同時に、バッカスの右手を粉々に吹き飛ばした。
「ギャアーーー!?」
右手を完全に粉々に吹き飛ばされたバッカスは、右手の失くなった右手首の先から大量の血を流し、あまりの激痛のために目からは涙を流し、大きな悲鳴を上げながら、床に拘束された状態で止血もできず、悶え苦しむ。
バッカスが僕に右手を粉々に吹き飛ばされたのを見て、バッカスの仲間たちはさらに青ざめた表情で、僕とバッカスの方を見て震えている。
「気安くハンナさんに触れようとした、お前の汚い右手は吹っ飛ばした。次はどこを吹き飛ばされたい、酔っ払いの性犯罪者?左手か、足か、それとも、ひと思いに頭か?左手まで失くなったら、冒険者は廃業だな。日常生活だって不便になるぞ。この場でお前をさっさと殺すことだってできるんだ。別にお前じゃなくて、お前のお仲間に聞けばいいことだしな。おい、これがラストチャンスだ。正直に全て白状しろ。お前にエロ写真を売って、僕を殺すよう依頼してきた売人は誰だ?ソイツは今、どこで何をしている?さっさと答えろ、酔っ払いの性犯罪者?」
「言う!?言うから殺さないでくれ!?お、俺たちにエロ写真をくれたのは、ぎ、ギルドマスターだよ!チクショー!イルスクの旦那に、お前とお前の仲間が何をしているか、監視して報告するように頼まれたんだよ!え、エロ写真は報酬のついでだって、あの人からもらっただけだ!お前を殺せとは言われちゃいねぇー!だ、だから、殺さないでくれ、た、頼む!?」
「ギルドマスターがお前たちにエロ写真を渡した、だと?ギルドマスターがエロ写真の売人をやっているだ!?おい、今言ったことは本当かぁ?嘘だったら、全員殺すぞ?」
「う、嘘じゃねえよ!?俺たちにエロ写真をくれたのはイルスク・ギルドマスターだ!本当だ!信じてくれ!?」
「バッカスの言ってることは全部、本当だ!ギルマスが俺たちにエロ写真を仕事の報酬にくれたんだよ!嘘じゃねえよ!」
バッカスと、バッカスの仲間たちは、ギルドマスターから僕の動向を監視する仕事を依頼され、その報酬の一部にエロ写真をもらったと、皆口々に白状し始めた。
「そ、そんな!?イルスク・ギルドマスターがエロ写真を売っていたなんて!?」
「噓でしょ!?マジでギルマスがエロ写真を売ってるわけ!?マジ信じらんない!?」
「イルスク・ギルドマスターが、このギルドの最高経営責任者がエロ写真の売人の一人ですって!?それが本当なら、このギルドの経営存続にも関わる大不祥事よ!まさか、他にもギルドマスターからエロ写真を買った男性冒険者がいるんじゃ?そう言えば、これだけの騒ぎになってるのに、ギルドマスターが全然一階に顔を出してこないなんて、おかしいわ?」
ハンナさん、チェルシーさん、ミラさん、他の受付嬢たち、ギルド一階にいる他のギルド職員たち、他の冒険者たち、ギルドへ依頼に来たお客さんたち、周りにいる人たち全員が、イルスク・ギルドマスターがバッカスたちにエロ写真を渡した張本人であるというショッキングな事実に驚愕している。
ギルド内が困惑に包まれる中、突如、ギルドの一階を瑠璃色の眩い光が覆い尽くした直後、僕の目の前に、ピカピカの銀色のフリューテッドアーマーに身を包み、背中には白い四枚の翼を生やし、銀色の二本の剣を装備した、長い銀髪の一人の女性が姿を現した。
アダマスの担当女神の一人、「剣の女神」ブレンダである。
周囲の人々がブレンダの突然の出現にさらに騒然とする中、ブレンダは僕の目の前に現れるなり、僕に落ち着いた表情ながらも、やや早口で僕に訊ねてきた。
「到着が遅くなってすみません、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。特に怪我などはしていないとは分かっていましたが、念のため、確認します。どこも怪我はしていませんか?体に異常はありませんか?」
「こんにちは、ブレンダ。見ての通り、僕は怪我ひとつありません。いつも通りピンピンしています。今、僕を襲おうとした、この酔っ払いの悪党どもを取り調べていたところです。床に転がっている男たちは全員、違法ポルノのエロ写真を購入、所持している性犯罪者です。それと、イルスクという名前の、この冒険者ギルドのギルドマスターが、エロ写真の密売に関わっていると、この悪党どもは言っています。ところで、ブレンダ、どうしてここへ来たんですか?もしかして、僕を心配してですか?」
「当然です。私はあなたの担当女神です。同じ異世界の正義と秩序を守るために働いている、私にとって唯一の同胞です。私があなたに与えた加護が発動したのを察知したので、応援のために急いで駆け付けました。加護が発動したということは、勇者であるあなたを害そうと考える、邪悪な魂を持った存在があなたに近づき、あなたに危害を加えようとした、ということになります。大事な同胞で勇者のあなたに邪悪な存在が危害を加えようとしているのを黙って見ているわけにはいきません。「剣の女神」として、勇者であるあなたと共にこの異世界に蔓延る邪悪な存在、悪を滅することが私の使命なのです。とにかく、無事なようで何よりです、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。次このようなことが起きた時は、もっと早く、すぐに応援に駆け付けますから。」
「心配してもらってありがとうございます。でも、僕はこんな変態の小悪党どもに安々殺されるほど柔じゃあありませんよ。一応、不死身並みの回復能力を持っていますし、ブレンダ、あなたからもらった「神荼護剣」の加護もあります。「神荼護剣」のおかげで早速、助けてもらっていますよ。僕の心配はそれくらいにしてもらって、今から悪党退治を手伝ってもらえますか、ブレンダ?床に転がっている酔っ払いの性犯罪者どもに大量のエロ写真を配って、僕を監視するよう仕事の依頼をした、エロ写真の密売人かもしれないクソギルドマスターを今すぐ捕縛しなければいけません。」
「分かりました。私も協力します、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。このサーファイ連邦国が世界中でいまだに流通している、違法ポルノであるエロ写真の密売の大元であることは知っています。密売ルートを摘発、一掃できるチャンスかもしれません。ジョー・ミヤコノ・ラトナ、三階の中央の部屋の窓から男が一人、外に出ようとしています。恐らく、あなたの言う、密売人の疑いがあるギルドマスターとやらでしょう。すぐに追いかけましょう。」
「了解です、ブレンダ!逃がすかよ、クソギルドマスター!」
僕は「霊視」で、ギルドの三階の中央の部屋を透視するなり、全身から紫色の霊能力のエネルギーを解放して身に纏うと、「瞬間移動能力」を発動して、ギルドマスターがいる三階の中央の部屋へと瞬時に移動する。
ブレンダも僕の後に続いて、「瞬間移動能力」を使って三階の中央の部屋へと瞬時に移動する。
三階の中央の部屋へと瞬間移動するなり、僕は三階の窓から身を乗り出して逃亡を図ろうとしている男の背中に、右手に持つ黒い拳銃の銃口を向けながら男に向かって言った。
「おっと、そこまでだ、イルスク・ソーシャークさん、いや、変態のクソギルドマスター!両手を上げてこっちを向け!今更逃げようとしても無駄だ!お前はもう完全に包囲されている!断るなら、この場でお前をぶち殺す!」
「大人しく観念しなさい、愚かな罪人よ!私の名は「剣の女神」ブレンダ!この世界に正義と秩序をもたらす監視者にして女神です!あなたが違法なエロ写真を隠し持っていることも、冒険者たちにエロ写真を売っていたことも、ジョー・ミヤコノ・ラトナを監視するよう裏で依頼していたことも、全て分かっています!この私から逃げることは不可能です!大人しく投降しなさい!」
僕とブレンダから投降を呼びかけられた男は、ゆっくりと僕たちの方に振り向くと見せかけて、着ている白い短パンのポケットから素早い動きで、刃が10㎝ほどのフォールディングナイフを取り出して、ナイフを瞬時に展開して僕とブレンダの喉元目掛けて投擲してきた。
だがしかし、僕の持つ「神荼護剣」が発動し、僕とブレンダ目掛けて飛んできた二本のナイフを、僕の体から飛び出てきた瑠璃色のエネルギーを纏う二本のロングソードが防ぐとともに、僕の体から続けて飛び出た三本目のロングソードが、男の胴体へと突き刺さり、男から体力と魔力を奪い、その場で拘束する。
男は身長170㎝ほどで、細身の体格に褐色の肌、やや切れ長の青い瞳、青い短髪の、40代前半の中年男性である。
グレーの生地に黒い花柄のアロハシャツ、白い短パンを履き、足にはグレーのサンダルを履いている。
さらに、腰には小さな茶色い革製のアイテムポーチと、茶色い革製の鞘が一体となった茶色い革製のベルトを、短パンの上から巻いている。鞘には、全長30㎝ほどのダガーナイフ一本が収まっている。
男は「神荼護剣」の剣が胴体に刺さって拘束されているため、体を思うように動かせず、その場でうずくまりながら、僕とブレンダの方を忌々し気に睨みつけてくる。
「く、くそがー!?バッカス、あの間抜けが余計なことをしなければ!?わ、私を逮捕すればどうなるか分かっているのか?再建したばかりのこのギルドはいずれ経営破綻するぞ!?そうなれば、一月前のように、ギルドも国も再び大混乱に陥ることになるのだぞ?たかがエロ写真如きで騒ぎ立てやがって!?「黒の勇者」、たかが300万リリアの罰金程度の、軽犯罪の検挙のためにお前はサーファイ連邦国の再建を邪魔すると言うつもりか?」
「黙れ、変態のクソギルドマスター!お前みたいなエロ写真の密売人をやるような変態の悪党がギルドマスターをやってるんじゃあ、どの道このギルドの再建は失敗するに決まっている!違法ポルノの密売が横行する冒険者ギルドなんて、汚職や腐敗、犯罪がギルド中に蔓延していずれ経営破綻するのは目に見えている!バッカスたちが良い例だ!犯罪者が経営に携わって成功する企業なんて存在しない!それと、僕だけでなく、女神のブレンダまでナイフで殺そうとしてきたな?勇者と女神への殺人未遂なんて言語道断だ!変態のクソギルドマスター、お前は殺人未遂の罪でも逮捕する!いや、どうせなら女神直々にこの場でお前に神罰を下してもらうとしようか?「剣の女神」ブレンダ直々に地獄へ送ってもらえるなんて、良かったなぁー、クソギルドマスター?女神を殺そうとしたんだ、即地獄行き決定ですよね、ブレンダ?」
「ええっ、まぁ、女神であるこの私に危害を加えようとした時点で、イルスク・ソーシャーク、あなたの地獄行きは既に決定づけられました。この私の剣であなたの命を刈り取り、あなたの魂をすぐに地獄へ送ることが可能です。地獄の神々と悪魔たちも今頃、あなたの魂の到着を用意して待っていることでしょう。エロ写真の密売ルートに関する情報を提供するなら、地獄への送還時期を遅らせることも検討しなくはないのですが、どうしますか?」
「こんな変態のクソギルドマスターなんて即地獄に落としてしまいましょうよ、ブレンダ?女神と勇者を殺そうとする上、堂々と悪びれもせず悪態をついてくる、どうしようもない悪党ですよ?今すぐ死んで地獄に落ちてもへっちゃらだとか、悪魔にお仕置きをされても怖くないとか思ってる頭のおかしい奴ですよ?素直に情報を僕らに寄越すわけないじゃないですか?そうだような、変態のクソギルドマスター?ブレンダ、僕がもう処刑しますよ。じゃあな、クソギルドマスター。地獄を楽しめ。」
「ま、待ってくれー!?話します、全部話します!エロ写真の密売ルートについて知っていることは全部、話します!本物の女神様だとは思わなかったんです!本当に、本当に調子に乗ってすみませんでしたー!どうか、どうか、即地獄行きだけはご勘弁ください!?勇者様にも失礼なことを言ってしまい、本当にすみませんでした!何卒、何卒、命ばかりはお助けを!?」
「本当に僕たちに情報を提供するんだな?ちょっとでも嘘を付いたら即、地獄に落とすからな?分かったな、クソギルドマスター?」
「は、はい!」
イルスクが僕とブレンダの脅し文句に急に怯えだし、命乞いと共に、エロ写真の密売ルートに関する情報について僕たちに話すと言い出した。
「こう言ってますが、ブレンダ、一応コイツの話を聞いてみますか?尋問は僕に任せてください。よろしいですか?」
「ええっ、構いません。あなたにお任せします、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。あなたのやり方とやらを私にも見せてください。」
「了解です。ええっと、名前はイルスク・ソーシャーク。年齢は42歳。男性。ジョブ「軽戦士」Lv.76、スキル「短剣速攻」Lv.76。短剣やナイフなどを超高速で操れる能力か。ダガーでの素早い斬撃や連撃、ナイフの投擲など、短剣類を使ったスピード重視の多彩な物理攻撃が可能。ギルドマスターとあって、一応A級冒険者相当の力を持っているようだな。中身は最悪だが。腰のアイテムポーチに財布と通帳、それからエロ写真を入れているな。机の中にも結構な量のエロ写真が入っている。机の引き出しを開けた痕がある。なるほど。とりあえず、自分のお気に入りのエロ写真だけは持ち出して逃げようとしたわけか。逃げるのが一歩遅れたのはそのせいか?お気に入りのエロ写真のモデルは、鞭を持って、仮面を顔に着けて、際どいボンテージ姿をして、SMプレイの女王様みたいなコスプレをした20代から30代ぐらいの若い女性ばっかり・・・、これはまた、何と言うか、マニアックな趣味と言うか?変態のドМって、どこの世界にも、異世界にもいるんだな。死んだ元勇者の志比田の顔を急に思い出したよ。しかし、モデルのレベルにマニアックなコスプレと言い、少なくともお前の持っているエロ写真はどれもAランククラスとか呼ばれる、裏で高値で取引される写真ばかりだな?変態のクソギルドマスター、このエロ写真はいつ、どこで、誰から買った、あるいはもらったんだ?損じゃそこらにいる小物からは手に入れられる代物じゃあないな。闇ギルドの大物クラスが扱っているモノだ、これらは?お前のバックにいる奴の名前と、ソイツの居場所を今すぐ正直に吐け?分かったな?」
「わ、私の能力だけでなく、持ち物の中身まであ、当てただと!?高レベルの鑑定スキルまで持っているとは!?くっ!?ど、どうか、私がSMプレイのエロ写真を買っていたことは秘密にしてもらえないでしょうか?お、お願いします!?」
「さてね、それはお前の態度次第だ。良いから、お前にエロ写真を売ってバックで操っている奴の名前と、ソイツの居場所について教えろ?お前、まだ自分の立場が分かっていないようだな?こっちはお前を即地獄に落として、悪魔たちに拷問させて無理やり吐かせることもできるんだぞ?やっぱり馬鹿と変態はいっぺん死んでみないと治らないらしいなぁ?」
「ま、待ってくれ!?た、確かに、あなた様の言う通り、や、闇ギルドの連中から、エロ写真をもらいました!闇ギルドの連中から、自分たちへの逮捕協力や討伐協力の依頼が出ているから、そういった依頼を引き受ける冒険者がいたら、その冒険者を監視して情報を寄越すようにと取引を持ち掛けられて、金と一緒に受け取りました!闇ギルドの連中とはいつも、サーファイ島の南側の港町で直接会って、連絡を取るようにしていました!闇ギルドの連中は今、サーファイ島の南側のエリアを拠点に活動している、そんなことを言っていました!闇ギルドの正確な本拠地までは私も知りません!闇ギルドの構成員の名前も知りません!ほ、本当です!?」
「お前のバックにいるのは闇ギルドの連中なんだな。闇ギルドの連中に金とエロ写真を見返りに買収に応じ、連中に不都合な冒険者の情報を売り渡していたか。闇ギルドの連中はサーファイ島の南側で今は主に活動していると。だが、闇ギルドの正確な本拠地の場所も、お前と取引している闇ギルドの構成員の名前も知らない、ねぇ?ブレンダ、このクソギルドマスターが言っていることは全部、真実でしょうか?」
「いえ、全部が真実ではないようです、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。私たちに前半、話した内容は真実のようです。ですが、闇ギルドの構成員の名前を知らないと言った瞬間、イルスク・ソーシャークの魂が、心が激しく揺れ動き、陰りが見られました。私の眼は、あらゆる存在の真偽の有無を見抜くことができます。イルスク・ソーシャークは、噓をついています。彼は闇ギルドの構成員の名前を知っています、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。」
「そうですか。ありがとうございます、ブレンダ。おい、変態のクソギルドマスター、この期に及んでまだ僕たちの前ですっとぼけようとは、お前、随分と舐めた真似をしてくれるじゃあないか?本当に今すぐ地獄に落ちたいらしいな、ええっ?」
「ま、ま、待ってくれ!?もし、私が連中の名前を教えたと知れたら、闇ギルドの連中に、私も、私の家族も一生、この先命を付け狙われることになるんだ!ど、どうか、それだけは勘べ・・・」
イルスクが僕たちに嘘をついたと知り、懇願するイルスクを無視して、僕は右手に持つ黒い拳銃の銃口をイルスクの左手にサッと向け、トリガーを引いた。
バーン、という銃声が鳴り響くと同時に、拳銃から放たれた霊能力の弾丸がイルスクの左手を撃ち抜き、イルスクの左手を跡形もなく吹き飛ばした。
「アギャアーーー!?」
左手を跡形もなく吹き飛ばされ、床の上に転がりながら大声で悲鳴を上げて泣き叫ぶイルスクの眉間に、黒い拳銃の銃口を突きつけながら、僕はイルスクに向かって言った。
「これが正真正銘、ラストチャンスだ、変態のクソギルドマスター。素直に、お前にエロ写真を売った闇ギルドの構成員の名前を教えろ。断るなら、お前の頭を木っ端微塵に吹き飛ばす。エロ写真なんてもらって闇ギルドの手先になったお前の自業自得だ。お前が正直に質問に答えるなら、この場での地獄行きは一旦、見逃す。闇ギルドの連中全員を僕が殺してやってもいい。だが、答えないと言うなら、この場で殺す。女神への殺害未遂の罪でお前の地獄行きはすでに決定しているんだ。僕にこの場で殺されずとも、お前は後で闇ギルドに殺されて結局、地獄に落ちることになるんだ。楽に地獄に落ちたいか、苦しんで地獄に落ちたいか、5秒以内に決めろ。カウントダウン、5、4、3、2、1、ぜ・・・」
「言う!言います!ビービリ、ビービリ・キラーホエール、です!その男からエロ写真をもらいました!その男が闇ギルドの、今のギルドマスターです!だ、だから、た、助けてくれ!?」
「最初から素直に白状していれば、大事な左手を失わずに済んだんだよ、馬鹿が。ビービリ・キラーホエール、だな。その男がお前にエロ写真を売って取引をもちかけた、闇ギルドのギルドマスターなんだな?ブレンダ、念のため確認ですが、この馬鹿で変態のクソギルドマスターが今言ったことは真実でしょうか?」
「ええっ、彼は今度は嘘をついてはいません。彼の言っている言葉は真実です。」
「ブレンダ、ビービリ・キラーホエール、と言う名前の男が実在するのか、本当にいるならその男がどこにいるのか、あなたの女神の能力で調べることは可能でしょうか?」
「少し待ってください・・・、なるほど、確かにビービリ・キラーホエールと言う名前の男性は存在するようです。大まかな現在地も分かります。供述通り、その名前の男性が、サーファイ島の南側に現在いるのが分かります。実際に近づけば、その男のより正確な現在地を突き止めることも可能です。」
「そうですか。流石は「剣の女神」様、頼りになります。ちょっと待ってください。おい、変態のクソギルドマスター、もう一つ僕の質問に答えろ。お前の通帳を見るが、お前の口座に、一月前から頻繁に「ブラックフィッシュ総合商会」と言う名前で、約三日おきに300万リリアずつ金が振り込まれている。この通帳に記載されている「ブラックフィッシュ総合商会」とか言う名前の企業が、闇ギルドの連中の表向きの名前、少なくとも闇ギルドと関係のある企業なんじゃないのか?ええっ、どうなんだ?」
僕はイルスクのアイテムポーチに入っていたイルスクの通帳を取り出し、通帳に記載されている内容を読み上げながら、イルスクに詰問する。
「は、はい、その通りです!闇ギルドの連中からの報酬はいつも、そこにある「ブラックフィッシュ総合商会」の名前で私の口座に振り込まれることになっていました!詮索はしないようにと言われていたので、実際に「ブラックフィッシュ総合商会」のオフィスを直接訪ねたことはありませんが、約束通りに報酬がそこから振り込まれていたので、闇ギルドの連中と関係があるのは間違いないかと思います!」
「「ブラックフィッシュ総合商会」、調べる価値はありそうだな。闇ギルドのギルドマスターの本名がビービリ・キラーホエールであるかどうか、偽名あるいは別人の名前を借りて使っている可能性もあるが、調べてみなきゃ確かめようがない。とりあえず、お前への尋問はこれくらいにしといてやる。警備隊には突き出すが、お前をこの場で殺すのは一時、見送る。だが、次また悪事を働いたその時は、今度こそ確実にお前を問答無用で即、処刑する。分かったな、変態のクソギルドマスター?」
「はいーーー!もう二度と、二度と悪事は働きません!絶対にエロ写真にも手を出しません!ですので、どうか、どうか、お許しを!?」
「こう言ってますが、あなたはどうしますか、ブレンダ?」
「彼は嘘をついてはいません。本心から懺悔しています。罪を償う意思がある以上、これ以上私から彼に罰を与える必要はありません。」
ブレンダはそう言うと、右手をイルスクの方に向けた。
ブレンダの右手が瑠璃色に光り輝くと同時に、イルスクの左手首からの出血が収まり、それから失ったはずの左手がふたたび再生した。
「イルスク・ソーシャーク、あなたが死後、その魂が地獄に落ちることは確定しています。しかし、己の犯した罪と過ちを認め、今後贖罪のために残りの人生を生きるのであれば、地獄での刑罰は減刑される可能性は大いにあります。あなたに私から一度だけ、贖罪の機会を与えます。己の犯した罪と向き合い、贖罪と他者の幸福のために生きて罪を償いなさい。ふたたび己の心が迷った時は、あなたの左手を見て今日のことを思い出してみなさい。分かりましたね、イルスク・ソーシャーク?」
「は、はいー!あ、ありがとうございます、ブレンダ様!これからは贖罪のために生きることを誓います!本当に、本当にありがとうございます!」
イルスクはブレンダに涙を流しながら、感謝し、贖罪の言葉を述べるのであった。
イルスク・ソーシャークへの尋問を終えた後、ブレンダは一階で右手を失う重傷を負ったバッカスを治療し、バッカスとバッカスたちにもイルスク同様に、残りの人生を贖罪のために生きるよう言い聞かせた。
バッカスたちが大泣きして、お祈りのポーズをしながら、ブレンダに感謝の言葉と懺悔を述べたのであった。
サーファイ連邦国警備隊の騎士たちがギルド本部に到着し、騎士たちがイルスクやバッカス、バッカスの仲間たちに手錠をかけた瞬間、イルスクたちの体を刺し貫いて床に拘束していた「神荼護剣」の剣は忽然と消えた。
イルスクたちは警備隊の騎士たちによって逮捕され、警備隊本部に連行されていく。
逮捕され、冒険者ギルド本部を出て行くイルスク、バッカス、バッカスの仲間たちを、ブレンダやハンナさん外ギルドの受付嬢たち、他の冒険者、他のギルド職員たちと見送りながら、僕は傍にいるブレンダへ言った。
「あの性犯罪者どもをわざわざ治療してやる必要は無かったと思いますが?あの連中が全員、本当に改心して更生する保証はないわけですし、悪党には身をもって厳しい罰を与えてきつく教えてやらなきゃいけないと、僕は思います、ブレンダ。ちょっと優しすぎやしませんか?」
「あなたが私の対応に不満を抱いていることは分かります、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。彼らの犯した罪は決して軽くはありません。しかし、彼らは最後には自らの罪を告白しました。彼らの告白がもたらしてくれた情報が、さらなる悪の根絶につながる可能性があると分かり、私なりに恩赦を与えました。彼らが私との誓いを破り、再び罪を犯すのであれば、その時はこの私が直接、神罰を下し、彼らを地獄に送ります。これが「剣の女神」である私のやり方です。悪人を憎み、復讐する「黒の勇者」であるあなたから見れば、私のやり方は甘いと思われるのでしょうが、何卒ご理解ください。」
「僕はあくまで一人の人間の冒険者で、「剣の女神」であるあなたの部下です。ですが、あなたのやり方が間違っている、本当にそう思った時はそう言いますし、僕は僕の正しいと思う正義を、悪党への復讐を貫くだけです。今回はあなたの力を貸していただいたので、あの連中のことはほんのちょっとだけ大目に見ましょう。話は変わりますが、ブレンダ、これから一緒に闇ギルドの連中を捕まえに行きませんか?連中がイルスクたちの逮捕を知って逃げられる前に全員、僕たちで捕まえましょう。後、連中の持っているエロ写真を全て木っ端微塵に、跡形もなく地上から消し去りましょう。エロ写真を使って金儲けをする悪党どもを根絶やしにしようと、ずっと思っていたんです。協力をお願いしてもよろしいですか?」
「ええっ、もちろんです。ジョー・ミヤコノ・ラトナ、あなたが尋問で聞き出してくれた情報を無駄にするわけにはいきません。すぐに闇ギルドの、エロ写真の密売グループの捕縛に二人で向かいましょう。私に付いてきてください。ビービリ・キラーホエールの居場所へは一緒に瞬間移動すれば、すぐに着きます。」
「よろしくお願いします、ブレンダ。エロ写真を売って私腹を肥やす性犯罪者の悪党どもを一緒に地獄へ叩き落してやりましょう。クックック。」
「極力、殺害は控えてくださいね。あくまで身柄の拘束、捕縛が目的であることを忘れないでください、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。過激すぎる処罰も問題ですので。」
ブレンダに苦笑されながら、注意される僕であった。
「ジョーさん、ブレンダ様、闇ギルドの討伐をよろしくお願いします。ジョーさん、頑張ってください。」
「ジョー君、エロ写真は見つけたら全部、処分しちゃって!バッカスの手みたいに粉々にぶっ飛ばしてきちゃって!」
「ジョーさん、ブレンダ様、私たちも陰ながら応援しています。お二人なら闇ギルドの討伐は間違いなしです。冒険者ギルド内のエロ写真密売に関する追加調査は私たちギルドの女性陣に任せてください。ジョーさん、いつも通りに、派手にぶちかましてきてちょうだい。」
ハンナさん、チェルシーさん、ミラさん、周りにいるギルドの女性たちが、僕とブレンダに熱い声援を送ってくれる。
「了解しました!では、闇ギルドの討伐依頼を遂行するため、ただちに行ってきます!行きましょう、ブレンダ!」
「了解です!行きますよ、ジョー・ミヤコノ・ラトナ!」
ブレンダの全身が瑠璃色に一瞬、光り輝くとともに、僕とブレンダの二人の姿は冒険者ギルドより消え、僕とブレンダの二人は、ブレンダの「瞬間移動能力」で一緒に、エロ写真の密売人にしてサーファイ連邦国闇ギルドのギルドマスターと思われる男、ビービリ・キラーホエールのいる、サーファイ島の南側の港町へと向かうのであった。
時と場所は変わり、時刻は午後12時30分、サーファイ島の南側にある大きな港町のとある片隅にて。
サーファイ島の南側にある大きな港町の片隅、人気の少ない通りの一角に、三階建ての、横長に大きなコンクリート造の、灰色の壁のやや大きなビルがある。
ビルの一階の入り口上部には、「ブラックフィッシュ総合商会」と書かれた小さな看板が掲げられている。
サーファイ連邦国冒険者ギルド本部のギルドマスターこと、イルスク・ソーシャークが「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈と、「剣の女神」ブレンダによって、違法ポルノのエロ写真の購入、所持、闇ギルドとの癒着、などの罪を暴かれ、捕縛され、警備隊の騎士たちによって逮捕される事件発生の、10分ほど前のこと。
「ブラックフィッシュ総合商会」のビルの三階の中央にある「社長室」と表札が出ている部屋に、三人の男たちがテーブルを囲んで軽食を取りながら、話をしていた。
黒い生地に白い花柄模様のアロハシャツ、赤い短パンを着ていて、腰には黒い革製のベルトを巻き、鞘に納まっている全長70㎝ほどのヴァイキングソードを提げている、身長170㎝ほどの小太りでやや腹が出ていて、スキンヘッドに、青くて丸みのある目付きという特徴の、40代ぐらいの中年男性が、他の二人の男に話しかける。
「ガメツィー販売部長、君に任せているポルノ部門の売り上げは実に好調だ。君を我が社のポルノグッズ販売部門の部長に迎え入れて本当に良かった。しかし、例の商品のストックは大丈夫だろうね?あの商品のストックには限りがあるし、現状、我が社独自の生産ラインがあるわけではない。あの商品にはまだまだ我が社の今後の成長には必要不可欠だ。販売ルートの拡大も含めた販売戦略の進捗状況を聞かせてほしい。追加の予算が必要なら後で財務部門には社長であるこの私から話をつけて追加の予算をすぐに回させよう。」
スキンヘッドの男、ビービリ・キラーホエールが、茶色の癖っ毛のある髪に、口元に茶色のちょび髭を生やした、黒い生地に黄色の花柄模様のアロハシャツ、黄色い短パンを着ている、商人風の雰囲気、顔立ちの、40代前半の中年男性に向かって訊ねる。
「ありがとうございます、ビービリ社長。例の商品のストックはまだまだ十分余裕があります。SSランクからSランクの商品の在庫は約2,000点ございます。Aランク以下の商品の在庫も約2万点弱あります。新たな販売ルートの開拓も順調に進んでいます。アメジス合衆国、インゴット王国に加え、ペトウッド共和国、ズパート帝国を新たな販売ルートに加えることに成功しました。国外の有力者、地元の名士と呼ばれる方々を一部、ご新規のお客様として引き入れることにも成功しました。現状問題があるとすれば、Aランク以下の商品、特にDランク以下の商品の補充です。ストックの管理を厳重に行っているとは言え、低価格帯の商品はバイヤーなどによるまとめ買いなども多く、どうしてもストックの消費量が上のランクの商品よりも減りが多くなってしまいがちです。ですが、新たなストックの確保策はすでに、ここにいるイミテー研究開発主任によって、新商品の開発も併せて順次、進んでいます。イミテー、社長に例の、お前が作った新商品の試作品のサンプルをお見せしろ。」
ちょび髭の男、ガメツィー・ライアーが、隣に座る、茶色の中分けの長髪に、茶色の短いあご髭を生やした、黒い生地にオレンジ色の花柄模様のアロハシャツ、オレンジ色の短パンを着ている、顔に金色のフレームの四角いレンズの眼鏡をかけた、細身でインテリ風の、40代前半の中年男性に向かって言った。
「ビービリ社長、こちらが私が研究、開発しております、例のポルノグッズの新商品の試作品と、試作品の生産装置になります。どうぞ、よく御覧ください。」
あご髭を生やした男、イミテー・ライアーが、足下に置いてある、厳重に施錠が施されている、金属製の黒いボックス状の大きなケースから、カロタイプカメラによく似た木製の旧式カメラと、二枚の紙でできた、縦が82.5mm、横が117mmのサイズの、白黒写真を取り出した。
イミテーが取り出した白黒写真には、ややぼやけているが、尻を突き出しながら後ろを振り返る、セクシーポーズを取った20代の若くて美しい女性モデルのヌード姿が写されている。
「おおっ、こ、これは、正しくエロ写真ではないですか!?実に素晴らしい大きくて張りのある丸いお尻だ!む、オホン!イミテー研究開発主任、この新商品だが、実に素晴らしい出来栄えだ!金属の板ではなく、紙を使っているようだね。ややモデルの体がぼやけて見えるが、これなら間違いなく、Eランク、いえ、Dランクでも通用するはずだ。この手頃なサイズ感も実にいい。」
「ありがとうございます、ビービリ社長。弟のワイヒーから一度、ダゲレオタイプカメラを見せてもらった時の記憶を頼りに、ガメツィー販売部長から提案されたアイディアも参考に、より手頃に楽しめる高品質のエロ写真を作れないか、私なりに研究を進め、この紙製のエロ写真と、新しい撮影用カメラの開発に成功しました。従来のエロ写真と比べ、解像度は落ちてしまいますが、写真撮影用に開発した特殊な紙に写すことで、エロ写真の再現にほぼ成功しました。従来のモノは大きく、銀板を使用するため、製造コストがかかりますが、私が新たに開発したカメラならば紙を材料とするため、従来のモノよりも製造コストを安く下げることが可能です。撮影時間もこれまでは一枚を撮影するのに最低、約20分ほどの時間を要していましたが、私が新たに開発したこのカメラならば、撮影時間を約1分弱に短縮することも可能です。さらに、オリジナルの写真に特殊な処理を施すことで、全く同じエロ写真の複製を作ることも可能です。ただ、複製品はオリジナルよりもさらに解像度が、品質が下がってしまう欠点もあります。しかし、さらに改良を加えていけば、いずれは従来のエロ写真と同じ解像度の、あるいはそれ以上の、高クオリティの紙製のエロ写真をいくらでも大量生産することも決して不可能ではありません。持ち運びも、収納も、小さな紙ですので、これまでより比較的楽になります。材料は紙ですので、その場で燃やすなり、細かく破り捨てるなりして、いざという時はすぐに証拠隠滅もできるのもポイントです。いかがでしょうか、社長?」
「実に素晴らしい!これは正に傑作だ!ポルノ業界、いや、世界に一大革命を起こすほどの商品だ!この新しい紙製のエロ写真ならば、絶対に大ヒット間違いなしだ!あなたの開発したカメラも、我が社の表向きの事業で売れば、世界中の国、企業、人々が一斉に買おうと殺到するはずだ!我が「ブラックフィッシュ総合商会」が表も裏も、両方のビジネスの世界で一躍トップに躍り出る日も夢ではない!イミテー研究開発主任、ガメツィー販売部長、二人ともありがとう!流石はあのワイヒー・ライアー氏の実の兄弟だ!お二人を探して我が社にスカウトすることができて、本当に良かった!」
「ありがとうございます、ビービリ社長。」
「新商品の試作品にこんなにも喜んでいただけて、私も研究開発を担当した身として嬉しい限りです。」
「早速、この新商品の実用化と販売に向けて、お二人にはさらに力を入れて取り組んでいただきたい。予算は申請してもらえればすぐにでも、希望する金額の予算を回すよう、手配しておく。グフフフ、この新しいエロ写真を販売できれば、我が社の再建も、さらなる成長もほぼ間違いなしだ。ガメツィー君、イミテー君、今晩、三人で一緒にお祝いに飲みに行かないかね?とっておきの高級ワインをお二人にご馳走しようじゃないか?」
「ありがとうございます、社長。では、お言葉に甘えて、ご馳走になりましょう。」
「では、私もご一緒させていただきます。久しぶりに研究室を出て飲みに行きたいと思っていたものでして。」
「ハハハ!ご希望があったら、ワイン以外のモノも好きなだけ頼んでくれたまえ!今日は男三人で楽しく飲み明かそうじゃないか?可愛い女の子たちも呼んで、盛大に遊ぶのも良いねぇ!」
ビービリ、ガメツィー、イミテーの三人は、社長室でテーブルを囲みながら、エロ写真の販売ビジネスのさらなる成功が近づいていると思い、大いに笑って喜ぶ。
だが、ビービリたちが社長室で大笑いをしていると、突然、テーブルの上に置いてあった二枚のエロ写真と、カロタイプカメラが一瞬で、瞬きもしない内に、三人の目の前から消えた。
「なっ!?エロ写真が、カメラが消えた!?ど、どこに行った!?」
「テーブルの下にはありません、ビービリ社長!?」
「ま、まさか、盗まれたのでは!?」
「馬鹿な!?もう一度よく探すんだ!」
ビービリたちが消えたエロ写真とカメラを見つけるため、テーブルの下や、机の下、床の上などを必死に探し回っていると、執務室の扉をノックもせずに開けて、部下の一人が勢い良く室内に飛び込んできて、慌てた様子でビービリたちに向かって大声で言った。
「た、大変です、社長!?ぼ、冒険者ギルドの、イルスク・ギルドマスターが警備隊の連中に逮捕されました!エロ写真の購入と不法所持で、しょっ引かれていったそうです!知り合いの冒険者から今、ウチにタレコミが入りました!しかも、「黒の勇者」と「剣の女神」がこっちに向かっているそうです!連中に社長と、ウチの会社のことまで全部、バレちまったそうです!急いで逃げる準備をしてください!」
「な、何だとっ!?くっ!?イルスクめぇ、私や私の会社のことを簡単にゲロったに違いない!?使えない間抜けが!?ちっ、このアジトは今すぐ放棄だ!証拠は全部処分してから逃げるよう、下の連中に伝えろ、良いな?」
「分かりました!ギャっ!?」
焦るビービリたちが、逃亡の準備を部下に指示していると、突然、部下の左肩に大穴が開いて、左肩から大量の血を流しながら床に倒れた。
「「「なっ!?」」」
驚くビービリ、ガメツィー、イミテーたちの目の前に、突然、社長室の入り口のドアの正面から、黒い服を身に纏い、右手には黒いS&W M29にそっくりの大型リボルバーを持ち、左手には二枚のエロ写真とカロタイプカメラを持った、黒髪の少年が、煙が晴れるように、徐々に透明化を解いて、姿を現した。
「お前らの変態ビジネスはそこまでだ、変態の悪党ども。証拠の品は全て頂戴した。無駄な抵抗は止めて、とっとと両手を上げて跪いて降伏しろ。さもなきゃ、全員、地獄に落とす。分かったか、間抜けの変態の悪党ども?」
「認識阻害幻術」を解いて、黒い拳銃の銃口を向けながら、僕、宮古野 丈は、ビービリたちに投降を促す。
「き、貴様は、ま、まさか、く、「黒の勇者」!?一体、いつ、どうやって、この部屋の中に入った!?貴様はまだ、首都にいるはずじゃ?」
「社長、そんなことを聞いている場合じゃありません!は、早く逃げなければ!?」
「な、何とかしてください、社長!?わ、私も兄も荒事には不向きなんですよ!?」
「侵入者だぁー!私の部屋に侵入者がいるぞー!全員、出てこーい!」
「無駄だ、変態の闇ギルドマスター。お前の部下はいくら呼んでもこないぞ。全員、床の上で気絶してお寝んねしている。さて、三人とも両手を上げて跪いて降伏しろ。ここが、「ブラックフィッシュ総合商会」がサーファイ連邦国の闇ギルドのアジトだってことは、とっくにバレてるんだ。もうじき、警備隊の連中がお前たちを逮捕しに乗り込んでくる。逃げ道もこの通り塞いだ。これ以上、無駄な抵抗を続けるなら三人とも殺す。僕はな、こう見えて意外に気が短いんだ。ほら、とっとと降伏しろ、間抜けの悪党ども?」
「お、おのれぇー!?貴様こそ動くな、「黒の勇者」!?動けば、奴隷の女たちにかけている呪いを発動して、全員殺すぞ!手に持っている武器を捨てろ、生意気なクソガキ!」
怒るビービリが僕を脅迫し、腰に提げているヴァイキングソードを鞘から抜いて右手に持ち、剣先を僕の方に突き付けながらゆっくりと僕のいる入り口に向かって一歩を踏み出した瞬間、僕の体が一瞬、瑠璃色に光り輝き、「神荼護剣」の加護が発動した。
僕の体から瑠璃色のエネルギーを全体に纏った、刃の部分が鏡のように反射して煌めく、三本の銀色のロングソードが、目にも止まらぬ速さで飛び出て、ビービリ、ガメツィー、イミテーの三人の胴体をそれぞれ、真っ直ぐ刺し貫いた。
僕の体から放たれた「神荼護剣」のロングソードに体を貫かれたビービリ、ガメツィー、イミテーの三人は、剣で体ごと床に刺し貫かれ、床の上に倒れ、全ての力を奪われ、その場で拘束される。
「す、スクラッグー!?な、何っ!?の、呪いが、は、発動しない!?ま、魔力が流れない!?ち、チクショー!?」
「う、動けない!?く、くそっ、な、何だ、この魔法は!?」
「ち、力が抜けるー!?体が、体が言うことを聞かない!?」
「神荼護剣」の力で拘束されながら無駄な抵抗を続けるビービリたちに、冷ややかな眼差しを向けながら、僕は言った。
「無駄な抵抗は止めろと忠告したのに、この僕を脅して殺意を向けた上に逃げようとするだなんて、本当に救いようのない馬鹿で間抜けで変態の悪党どもだ。変態の闇ギルドマスター、お前もイルスクの奴と大差ない間抜けだな。大体、一度はお前の元上司たちと、お前の所属していた組織の本部をぶっ潰したのは、この僕だ。お前みたいな、沖水たちの作ったくだらないエロ写真のストックとやらで成り上がろうだとか、闇ギルドを再建するだとか考える程度のことしかできない小悪党が、僕の前で堂々と悪事を続けられるなんて考えること自体、おこがましいんだよ。ビービリ・キラーホエール。年齢44歳。男性。ジョブ「剣士」Lv.75、スキル「氷結斬」Lv.75。冷気を剣先に生み出して、剣で斬った対象を凍らせる、近接特化型の攻撃系スキルか。闇ギルドの新しいマスターを名乗るだけの実力はあるか。まぁ、お前のような変態の悪党の剣なんぞ素手で簡単に砕けるけども。ついでに言っておくが、お前も、残りの二人も、逃げようとしても無駄だ。お前たちの体を貫いている剣は、お前たちのあらゆる能力を一時的に無効化し、拘束することができる、「剣の女神」の力を宿した剣だ。言わば、剣の形をした神罰の一種だ。お前たちが真に裁きを受けるまで、その剣は絶対に抜けない。残念だったな、変態の悪党ども。」
「わ、私の正体だけでなく、能力まで見抜かれていただと!?こ、この剣が、神罰だと!?」
「た、助けてくれぇー!?わ、私は、私はただ、社長に命令されてエロ写真を売っていただけなんですー!?い、命だけはお助けをー!?こ、殺すなら、社長とイミテーの二人にしてください!コイツら二人、新しいエロ写真を作って売ろうとしていました!」
「が、ガメツィー、このクズ兄貴が!?「黒の勇者」様、一番悪い悪党は、社長のビービリと、ガメツィー、この二人です!わ、私はこの二人に命令されて、新しいエロ写真を作るよう指示されたから作っただけなんです!エロ写真自体にも興味なんて全くありません!殺すなら、この二人ですよ、勇者様!?」
「ガメツィー、イミテー、貴様ら二人ともこの私を裏切るつもりか!?貴様ら二人だって、エロ写真を売った金で散々良い思いをしていただろうが!?貴様らもエロ写真を熱心にコレクターしている癖に、ふざけるな!」
ビービリ、ガメツィー、イミテーの三人が僕の前で、醜い言い争い、罪の擦り付け合いを始めた。
「うるさい。黙れ、変態の悪党ども。残りの二人、お前らも変態の闇ギルドマスターと同罪だ。女神の剣に貫かれた、ということは、お前たち二人も、僕に対して殺意や悪意を抱いた、だから、神罰を食らった、ということになる。お前たち二人も、「剣の女神」や勇者である僕が神罰を下して地獄に落とすべき、邪悪な魂を持った、悪意ある存在、ということだ。お前たち三人が、エロ写真の密売グループの主犯格だと言うことは分かっている。お前たちの話を盗聴して、お前たちの悪事は全部、聞かせてもらった。物的証拠もこの通り、押さえた。このビルを捜索して、ついでに部下どもも尋問すれば、お前たちの実刑は免れない。ええっと、ガメツィー・ライアー。年齢43歳。Lv.71の「商人」か。イミテー・ライアー。年齢42歳。Lv.78の「鑑定士」か。んっ!?ガメツィー、イミテー、どっかで聞き覚えのある名前だな?どこかで聞いた覚えがある?何時だったかな?」
「うぐっ!?」
「ぎくっ!?」
「そうか!思い出したぞ!ガメツィー・ライアー、インゴット王国冒険者ギルド本部の元ギルドマスターで、ギルドの金を持ち逃げした罪や収賄罪で指名手配中の指名手配犯の名前だ!イミテー・ライアー、インゴット王国国立博物館の元館長で、国立博物館に所蔵されていたコレクションを贋作とすり替え、ブラックマーケットで国宝級のコレクションを大量に裏で売り捌いていた、窃盗罪で指名手配中の指名手配犯の名前だ!新聞で記事を読んで、マリアンヌから話も聞いている!なるほど、弟のワイヒーも変態の極悪人だったが、その兄二人も弟に劣らない、変態の極悪人、現役の犯罪者か!弟の作ったエロ写真であくどい金儲けを企むは、違法ポルノを喜んで集める変態の性犯罪者とは、お前たち兄弟全員、最低のクズだな!なら、弟のいる地獄にさっさと送ってやるとするか、変態のクズ兄貴ども!死んだ弟に今すぐ会わせてやる!慈悲深い僕に感謝しろよ?」
僕は冷たい笑みを浮かべながら、ガメツィーとイミテーの二人を見下ろし、二人に向けて右手に持つ黒い拳銃の銃口を向ける。
「くそがぁー!?「黒の勇者」、貴様さえ現れなければ、貴様が余計なことをしなければ、私は本部のギルドマスターでいられたんだ!全冒険者ギルドのトップに君臨できていたんだ!貴様のせいで私がどれだけ恥をかかされ、惨めな思いを味わわされたことか!ブロン、あのお節介焼きが、貴様をS級冒険者に認定しなければ、くそっ!?」
「「黒の勇者」、貴様さえ、貴様さえ現れなければ、私はインゴット王国の国立博物館館長の職にいられたんだ!お前が「レイスの涙」と「フェニックスの涙」が聖女たちに盗まれたことを暴きさえしなければ、私は指名手配されることはなかったんだ!裏の商売だって上手く行っていたんだ!巨万の富を得て、美術品を眺めながら悠々自適の隠居生活だって送れていたんだ!この目障りでうっとおしいクソガキ勇者が、本当に忌々しい!」
「全部、お前たち二人の自業自得だろうが。僕が関わろうが、関わるまいが、お前たちの悪事はいずれ露見していた。異世界だろうが、どこだろうが、悪が栄えることはないんだよ、変態の悪党ども。お前たち二人のせいで大勢の人間が苦しみ、傷つき、命を落とした。死んだ弟同様、今度は何の罪も無い奴隷の女性たちの体と心を傷つけ、金儲けにまで利用した。いざとなれば、証拠隠滅のために殺すつもりだった。ガメツィー・ライアー、イミテー・ライアー、そして、ビービリ・キラーホエール。お前たち三人を警備隊に引き渡す必要は皆無だ。お前たち三人とも、即刻地獄に落とすべき悪党だ。お前たちは決して自分の犯した罪を反省はしない。生きて罪を償うことも絶対にしない。死んで地獄に落ちる以外、裁きようのない、救う価値はゼロの、変態の極悪人だ。そうですよねぇ、「剣の女神」ブレンダ様?」
僕が軽く後方左側を向くと、「認識阻害幻術」が解除され、「剣の女神」ことブレンダが、僕とビービリたちの前に突然、姿を現した。
「剣の女神」ことブレンダの登場に、ビービリ、ガメツィー、イミテーの三人は、急に顔色が顔面蒼白になり、慌てふためき始めた。
「つ、「剣の女神」様!?ほ、本物、だと!?」
「つ、「剣の女神」、ブレンダ様!?い、何時からそこにいらっしゃたのですか!?」
「ヒィー!?お、お許しを、「剣の女神」様ー!?今言った言葉は本心ではございません!?何卒、何卒、どうか、私をお許しください!?」
急に命乞いを始めるビービリたちに、深い憐みの表情を浮かべながら、ブレンダは言った。
「ジョー・ミヤコノ・ラトナと、あなた方三人の一連のやり取りは全て見ていました。ビービリ・キラーホエール、ガメツィー・ライアー、イミテー・ライアー、残念ですが、あなたたち三人に贖罪の機会を与えることはできません。あなたたち三人の魂はすでに、地獄行きが確定しています。あなたたちの犯した罪の重さ、犯した罪の数、既に、アダマスの法律を加味しても、間違いなく重罪に問われます。そして、あなたたちの魂は邪悪に染まり、穢れ切っています。己の犯した罪を反省し、悔い改め、贖罪のために生きる意思が全く無いことが分かります。ジョー・ミヤコノ・ラトナとのやり取り、質問への答えで、それが嘘ではないことは分かっています。最早、命を持って償う以外に、魂を地獄に落とす神罰を与える以外に、女神である私にも選択肢はありません。非常に残念です、罪深き人間たちよ。」
「お、お待ちください、「剣の女神」様!?どうか、どうかこのビービリに今一度チャンスを・・・」
「「剣の女神」様、どうか、どうか、私の命をお救いください!?私の金を、全財産を、寄付いたします!どうか、どうか、このガメツィーに神の御慈悲を・・・」
「ブレンダ様、何卒、何卒、命だけはお助けを!?二度と悪事は働きません!この場で誓います!どうか、この私、イミテー・ライアーをお助けくだ・・・」
「黙れ!女神が相手なら、自分たちの罪を認めるのか?女神なら命乞いのフリをすれば、慈悲をもらえてどうにかなる、とでも思ったか?僕がお前たちを本気で殺せるわけがない、たかがエロ写真の密売だから軽い罪に問われて、罰金刑だけで済むと思っていたか?お前たちは本気で「剣の女神」を、そして、この僕を怒らせた。お前たちは散々、正義を、人の命を、人の心を侮辱し続けてきた。お前たちのような罪を罪とも思わない、懺悔も贖罪も一切しない、救いようのない変態の極悪人は、正義と復讐の鉄槌を下して地獄に落とす、その一択だ。ブレンダ、コイツらの処刑は僕に任せてください。さてと、変態の極悪人ども、ようやく本当の神罰執行のお時間だ。二度とエロ写真なんて作って見れないよう、地獄に送ってやる。どうしても女の裸が見たいなら、女の悪魔にでも頼め。確実にブチ切れられて、魂をバラバラに引き裂かれることになるのは間違い無しだがな。じゃあな、変態の極悪人ども。」
「「「ヒィーーー!?」」」
僕は冷たい笑みを浮かべながら、右手に持つ黒い拳銃のトリガーを引き、霊能力の弾丸を三発、撃った。
霊能力の弾丸が一発ずつ、ビービリ、ガメツィー、イミテーの三人の頭部へとそれぞれ命中し、弾丸が撃ち込まれた瞬間、ビービリたちの頭部は木端微塵に吹き飛んだ。
僕とブレンダの足元には、ビービリたち三人の頭部が無い死体が横たわり、死体からは大量の血が床に流れ出て、床を赤く染めている。
ビービリたちに、正義と復讐の鉄槌を下し、三人を殺し終えた僕は、ブレンダに話しかける。
「ふぅ~。お疲れ様です、ブレンダ。また、変態の闇ギルドマスターたちにも恩赦を与えると言うかと思っていましたよ。でも、コイツらのように、本当に救いようのない悪党がアダマスにいるのも事実です。僕やあなたが思っている以上に、ですよ。僕が異世界の悪党に復讐する優しい復讐の鬼になる、そう心に誓った理由がこれで少しは分かっていただけたかと。ああっ、無理に理解しろとは言いませんよ。僕は自分の考えを他人に押し付けるのは嫌いなんで。」
「お疲れ様です、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。彼らは既に、神の慈悲を与えるには、許容範囲を大きく逸脱していました。私は常に中立、公平公正をモットーとし、正義と秩序をもたらす女神として、このアダマスに降り立ちました。彼らの犯した罪はあまりに重く、魂は邪悪に染まり切っていました。全ての要素を考慮しても、彼らは地獄に落とす神罰を下す以外に救済措置はありませんでした。この場で私が私の剣にて神罰を下すか、あなたや現地の人間がいずれ処刑するか、ということになります。今回のあなたによる彼らへの神罰執行、処刑は許可しても問題ない、そう判断しました。しかし、あのような邪悪な魂を持った人間がいることは、アダマスの担当女神である以上、非常に残念です。「剣の女神」である私の力不足を痛感する思いです。」
「別にあなたのせいではありませんよ、ブレンダ。人間は誰しも、大なり小なり、心に暗い部分を、悪と言う感情を持っているモノです。ただ、だからと言って、罪を犯すこと、悪意ある行動をとること、悪そのものが許されていいわけじゃあありません。これは僕個人の意見ですが、アダマスの人間たちがいまだに悪事を止めないのは、クソ女神のリリアが、人間たちの悪事をこれまで散々見逃して、邪悪な教えを広めて、自分の悪事にも利用して、とことん悪人を甘やかす世界を作ってきたことが、そもそもの原因だと僕は思います。だから、もっと厳しく悪党どもを取り締まるべきだと僕は思います。正義の存在を舐め切っている悪党どもに、これからもめげずにガツンと一発、キツい神罰を与えてやれば、正義の怒りと復讐の恐ろしさを連中の邪悪な心にたっぷりと刻みつけてやればいいんですよ。飴ばっかり舐めて、鞭を知らないこの異世界の人間には、鞭をたっぷりと食らわせるのがちょうどバランスが取れて良いんじゃないかなと。」
「参考意見として頭の中に留めておきます、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。アダマスの人間たちの堕落、腐敗が私の想像以上だったことは事実です。「光の女神」リリア様、彼女の女神の仕事に対する考え方、姿勢、これまでの仕事ぶりを見るに、彼女も原因の一つであると、彼女を傍で監視していて、私もそう思うことがあります。神罰の与え方について、私なりにもう少し考える必要があると思いました。あまり苛烈な罰は下さずに済ませたいのですが、そうは言っていられない状況なのかもしれません。悩ましい限りです。」
「あまり思いつめるのは良くないですよ。善人は救って、悪党は問答無用でぶち殺す、これぐらいで割り切ってみるのはどうです?僕はこのスタンスでやってますが、大体上手く行ってますよ。アダマスで悪党を退治して正義を貫くには、これがベストだと僕は思っています。一度試しにやってみてください。悩みなんて一発で消し飛びますから。」
「それは遠慮しておきます。女神たる者、極端にバランスを欠く行為は、公平公正さを妨げる行為は許されません。女神の私に平然と、悪党は問答無用でぶち殺せ、なんて物騒な提案を堂々とするあなたが、何の嘘偽りもなく、本心から、純粋無垢な魂を持ちながら、私の担当する勇者であるなんて、信じられないことですよ、まったく。本人を見たら、他の神々もきっと、あなたが神界中で評判の「黒の勇者」、正義感溢れる勇者だとは、まず思わないし、目を丸くして疑うでしょうね。」
「別に僕は勇者じゃなくて、異世界の悪党に復讐するただの、優しい復讐の鬼、ですから気にしませんけどね。それはさておき、まだ後片付けが済んでいませんよ、ブレンダ。この建物内に保管してあるエロ写真は一枚残らず、破壊しましょう。ここにあるカメラと写真に、エロ写真の密売に関する帳簿などの資料と、その辺に転がっている闇ギルドの部下たちがあれば、立件することはできます。警備隊の騎士たちに証拠の品を引き渡しますが、恐らくエロ写真のコレクションはこのビル以外にも保管場所があると思われます。外にいる闇ギルドの関係者たちに持ち逃げされる前に、保管場所へ先回りして、残りのエロ写真も全て木っ端微塵に破壊しましょう。闇ギルドに捕らえられている奴隷たちを救出する必要だってあります。ついでに、闇ギルドの関係者、エロ写真の密売に関わる連中も全員、捕まえましょう。今日中に、エロ写真に関わる全てをぶっ潰してやりましょう、ブレンダ。善は急げ、ですよ?」
「そう言うだろうと思っていましたよ。あなたの言う通りです、ジョー・ミヤコノ・ラトナ。エロ写真密売の中心地であるこのサーファイ連邦国から、違法ポルノのエロ写真を一掃しない限り、エロ写真の根絶は不可能と言えます。では、引き続き、捜査と逮捕に協力をお願いします、「黒の勇者」。」
「ええっ、こちらこそ、よろしくお願いします、「剣の女神」様。」
僕とブレンダは笑い合い、エロ写真密売グループをサーファイ連邦国から完全に根絶するため、ふたたび一緒に捜査を開始した。
僕とブレンダの二人は、闇ギルドの本部に残されていたエロ写真の密売に関する帳簿や販売顧客リスト、捕縛した闇ギルドの部下たちの証言などを頼りに、エロ写真のストックが隠されている闇ギルドの倉庫、闇ギルドからエロ写真を買った客たち、エロ写真の密売に関わった闇ギルドの関係者たちの下へと奇襲をかけ、一気にエロ写真の密売グループを摘発、闇ギルドが所有するエロ写真のストックを一枚も残さず、木っ端微塵に全て破壊した。ブラックマーケットのある地域で別の建物に監禁され、捕らえられていた、新しいエロ写真作成のモデルにも使われていた、奴隷の女性たちを全員、救出し、保護した。奴隷売買に関わっていた売人たちもその場で捕縛した。
闇ギルドの密売グループには、元「槍聖」沖水たち一行のかつての部下であった海賊団の残党も多数いて、死んだビービリ・キラーホエール率いる新しいサーファイ連邦国闇ギルド本部の構成員や、エロ写真の密売などを手伝う密売人、協力者などになって携わっていたことが判明した。
また、エロ写真を買った顧客たちの中には、サーファイ連邦国新政府を率いる十部族出身の貴族に上級官僚、役人、騎士、冒険者、他国の貴族、官僚、名士たちがいることが分かり、世界各国はふたたび、新たにエロ写真を買った顧客たちの逮捕に急いで乗り出し、大勢の逮捕者が出る事態になった。
「剣の女神」ブレンダと「黒の勇者」がサーファイ連邦国の闇ギルドの残党、及びダーク・ジャスティス・カイザー海賊団の残党を一日の内に殲滅、エロ写真の密売に関わった者たちの摘発に力を入れている、というニュースがたちまち世界各国に広まったことで、世界中に裏社会経由で出回っていたエロ写真が、大量に道端やゴミ捨て場に捨てられる、というちょっとした騒ぎも後に起こった。
ブレンダと共に、闇ギルド率いるエロ写真の密売グループを摘発、壊滅させ、サーファイ連邦国の闇ギルドが保管していたエロ写真のストックを全て木っ端微塵に破壊した日の翌日。
午後1時。
僕は昨日に引き続き、ふたたびサーファイ連邦国冒険者ギルド本部を訪ねた。
ギルドの受付カウンターにいる受付嬢のハンナさんを見つけると、僕はカウンターに向かい、ハンナさんに声をかけた。
「こんにちは、ハンナさん。今日は仕事はお休みされているかと思っていました。無理はしないでくださいね?」
「こんにちは、ジョーさん!私なら全然、元気ですから!バッカスさんには前からしつこく言い寄られていて困っていたんです!でも、昨日、ジョーさんがバッカスさんを追い払ってくれて、バッカスさんたちの逮捕も手伝ってくれたおかげで、胸のつかえが全部、取れました!むしろ、これからは安心して働けます!私を守ってくれて、本当にありがとうございました!」
「それなら良かったです。ギルドマスターが逮捕されたりしてお忙しいところ申し訳ありませんが、手続き中だったヒュドラの討伐依頼の達成確認をお願いしてもよろしいでしょうか?それと、闇ギルドの残党の討伐依頼、海賊団の残党の討伐依頼、この二件の依頼達成の手続きも併せてお願いします。ブレンダの協力もあって、エロ写真の密売に関わっていた連中は捕縛して、この国にあったエロ写真も全て破壊しました。警備隊から既に報告が来ているかもしれませんが、念のため、お伝えしておこうと思いまして。ああっ、ヒュドラの死体は一応、冷凍処理も施して保存してありますので、すぐにお見せしてお引き渡しすることもできます。お任せしてもよろしいですか?」
「かしこまりました。全部、私にお任せください。早速、解体所の方へ一緒に来てください。」
「分かりました。」
「ちょっと待ったぁー!こんにちは、ジョー君!昨日はマジ、お疲れ様!私もヒュドラの死体を見に行くから!ハンナ、私が半分、仕事手伝ってあげる、だから、良いでしょ?元々、見せてもらう約束だったしね~!」
「チェルシー、仕事を手伝うのは勝手だけど、ハンナやジョーさんに迷惑をかけたりしちゃダメよ~?ギルドマスターたちが逮捕されたり、エロ写真を他の冒険者たちも買っていたことが分かったりして、私も他のみんなも朝から忙しいんですからね。こんにちは、ジョーさん。昨日は本当にありがとうございました。ハンナ、私も仕事を手伝うわ。手が空いてる内に終わらせないと、クレーム処理やら受付やらがドンドン溜まるばっかりだもの。」
「ありがとうございます、チェルシー、ミラ。今は人手不足ですから、助かります。」
「ホントだよ。あの変態オヤジどもが逮捕されたせいで朝からクレームの嵐だし。依頼を放り出して、勝手にギルドを出て行くクソ野郎とかいるし、本当にマジでムカつく。」
「本当よねぇ~。まさか、エロ写真を買っていた男の冒険者が、ウチで活動している男性冒険者の4割近くもいるなんて、私も他のみんなもビックリよ。逮捕されたくないから急いで出て行ったんでしょうけど、せめて依頼を終わらせるなり、他の人に引き継ぐなりしてから出て行ってほしかったわね。大体、私たちの目の前で、ギルドの中で隠れて、エロ写真の受け渡しや貸し出しまでしていたなんて、こんな酷い有り様じゃあギルドの再建は最初っから失敗してたってことよね。私たちがもっと冒険者たちに目を光らせていなかったのも原因かもしれないけど。はぁ~。本当に困っちゃう。」
ハンナさん、チェルシーさん、ミラさん、ギルドの受付嬢三人は、僕の前で悩みや怒り、不満などを吐露するのであった。
「ええっと、皆さん、元気を出してください。エロ写真の密売グループは僕とブレンダの二人で壊滅させましたし。SSランクのヒュドラの、ほとんど傷の無い死体だってありますよ。アレでも見て、元気を出してください。アレをこのギルドがマニアに上手く売れば、きっとこのギルドも儲かりますし。素材としても売れば超一級品ですしね。だから、元気を出してください、皆さん。」
「そうですね。せっかくジョーさんが頑張って討伐してくれたヒュドラの死体もありますし、エロ写真の密売グループも一掃してくれて、むしろこのギルドにとっては良いこと尽くしですから。じゃあ、ジョーさん、ヒュドラの死体を見せてください。どんな風にヒュドラを討伐したのかも是非、聞かせてください。」
「ええっ、もちろんです、ハンナさん。」
僕とハンナさん、チェルシーさん、ミラさんの三人は一緒に、僕の討伐したヒュドラの死体を見に行くため、ギルドの受付カウンターを離れ、ギルドの解体所コーナーへと向かった。
ギルドの解体所へ到着すると、僕は腰のアイテムポーチから氷漬けにしたヒュドラの死体を取り出し、解体所の中へと置いた。
体長45mの、首が九本もある巨大なヒュドラの、氷漬けにされた死体が、解体所コーナーの半分を占領する。
中央の首だけが一本、根元から千切れ飛んで胴体から離れているが、それ以外はほとんど無傷である。
ヒュドラの死体を見て、ハンナさん、チェルシーさん、ミラさんは一瞬、目を丸めて驚き、言葉を失った。
ヒュドラの死体がギルドの解体所コーナーに置いてあると聞きつけ、ギルド内にいた他のギルド職員たち、冒険者たちも、皆同じように、目を丸めて驚くとともに、初めて見るヒュドラの、ほぼ原形を留めている死体を興味深そうに観察しながら、感想を呟いている。
「正しく、SSランクモンスターのヒュドラです!しかも、ほとんど無傷で、首が八本も付いている状態なんて、本当にこれは凄いです!凄すぎですよ、ジョーさん!?」
「これがSSランクモンスター、伝説級のモンスターかぁ~。このヒュドラの死体、まるで生きてるみたい。生き返ったりしないよね?マジ大丈夫?」
「SSランクモンスターの死体を見たのは私も初めてよ。首がほとんど残ったヒュドラの死体なんて、こんな珍しいモノを見れる機会なんて、人生で一回あるかないかのことよ、ハンナ、チェルシー。これを買い取れるほどの予算がウチにあるかどうか?でも、これほど貴重な死体をみすみす逃したりしたら却って大損よ。きっと事務方で揉めるでしょうけど、これは要確保よ。」
「ジョーさん、しばらくこのヒュドラの死体はウチで預からせてください。すぐに買い取り査定を行ってもらうように担当に頼んできます。死体の代金は一括払いでなくて、分割払いでも構わないでしょうか?一括払いは今のウチのギルドには厳しくてですね。なるべく高く買い取ってもらうよう、私もみんなも上に頼みますので。」
「分割払いで構いません。代金は適正な金額をキチンと支払っていただけるなら、僕は満足です。買い取りを拒否されるかもしれない、とも思っていたので、むしろ大助かりです。ヒュドラの死体は見せましたし、ヒュドラの討伐依頼は無事、達成と言うことで間違いないですよね?」
「もちろんです!ヒュドラの討伐依頼の達成を確かに確認しました!依頼達成済みということで手続きを進めておきます!討伐報酬の2,000万リリアは後日、ご指定の口座に確実に全額、お振込みしますのでご安心ください!討伐お疲れ様でした、ジョーさん!」
「こちらこそ、ありがとうございます。では、後のことはお任せします。これでようやく、「アウトサイダーズ」がこちらで受けた依頼は全て完了したはずです。僕も「アウトサイダーズ」もそろそろここを離れるつもりです。約一ヶ月、お世話になりました。ハンナさん、チェルシーさん、ミラさん、色々とありがとうございました。エロ写真の件でゴタゴタしてしばらくお忙しいと思いますが、ギルドの再建、頑張ってください。陰ながら応援しています。では、僕はこれで失礼します。本当にありがとうございました。」
僕はハンナさんたちにそう言うと、頭を下げ、別れの挨拶をして、その場を立ち去ろうとする。
「ま、待ってください!?まだ、手続きは全て終わっていません!ジョーさんにお渡ししたり、お話ししたりしなきゃいけないことがあるんです!いきなりお別れなんて、急過ぎます!もう少しお待ちいただけますか、ジョーさん?」
「そうだよ、ジョー君!いきなり出て行くなんて、酷いよ~!私らだって、色々準備して待ってたんだからね!」
「ジョーさん、少しお時間をいただけますか?私たちから色々とお渡しなければいけないものがありまして。お手間はとらせませんから。すぐに用意しますので、ギルドの一階の待合スペースでしばらくお待ちいただけますか?」
「は、はぁ~?別にこの後、特に用はありませんが、一応、4時にパーティーメンバーと一旦、外で合流する予定はありますので、それまでにお手続きを済ませていただけると助かります。」
「分かりました!チェルシー、ミラ、急いで準備を手伝って!他のみんなにも急いで声をかけてください!」
「OK!任せて!」
「了解よ!今日一番、忙しくなるわよ~!」
ハンナさんたちに引き留められた僕は、帰るのを止めて、もうしばらく冒険者ギルド一階の待合スペースで待機することになった。
ハンナさんたちや他の受付嬢たち、他のギルドの女性職員たち、それに他の女性冒険者たちが、待合スペースにいる僕をチラチラ見ながら慌てて仕事をしたり、何やら準備をしていたりしているが、僕は特に詮索はせず、待合スペースで本を読みながら、一人黙々と時間を潰すのであった。
午後3時。
僕がギルドの待合スペースで本を読みながら待っていると、ハンナさんが受付カウンターを出て、僕の方へと小走りで駆け寄ってきて、僕に声をかけてきた。
「お待たせしました、ジョーさん!準備の方が整いました!皆さん、お待ちです!私の後に付いてきてください!」
「えっ、ああっ、ええっと、皆さんがお待ちって、どういう意味でしょうか?手続きがあるから残ってくれ、という話じゃ・・・」
「良いから付いてきてください!ほら、早く早く!」
僕はハンナさんに手を取られ、強引に引っ張られ、ギルド一階の食堂コーナーまで連れて行かれる。
「あの、一体、何が始まるんでしょうか?何か僕の仕事に不備でもありましたか?それとも、別件で緊急の依頼があるとかですか?」
「良いから黙って付いてきてください!後、私が良いと言うまで、目をつぶっていてください!良いですね、ジョーさん?」
「は、はい!?」
僕はハンナさんに強い口調で言われ、目をつぶると、目をつぶりながらハンナさんに連れられ、食堂の方へと歩いていく。
「さぁ、着きました!目を開けてください、ジョーさん!」
僕はハンナさんの言う通り、ゆっくりと目を開ける。
僕が目を開けた瞬間、パン、パン、と鳴るクラッカーの音がいくつも聞こえてきた。
目の前の食堂内は、飾り付けがしてあって、テーブルには飲み物や食べ物がたくさん並んでいる。
さらに、三段の、たくさんの苺が乗せられた大きなショートケーキまで用意されていて、ケーキの一番上にはチョコレートクリームで、「ジョーさん、SSランク昇格、おめでとう!」とのメッセージまで付いている。
そして、食堂内はハンナさんたちギルドの受付嬢、ギルドの女性職員たち、女性冒険者たちが大勢、集まっていて、僕の周りを取り囲んでいる。
「せーの!」
「「「「「「「ジョー君(さん)、SSランク昇格、おめでとうーーー!」」」」」」」
チェルシーさんの掛け声を合図に、周りにいるギルドの女性陣が一斉に、僕の方を見ながら、笑顔でお祝いの言葉を、大声で贈ってくれる。
突然のことに僕は驚き、その場で思わず固まってしまった。
驚く僕に、ハンナさんが、僕のギルドカードと花束を両手に持ちながら、僕に笑顔で話しかけてきた。
「ジョーさん、SSランク昇格おめでとうございます!はい、お預かりしていたギルドカードです!ヒュドラの討伐依頼達成やこれまでの実績により、ジョーさんを今日から正式に、SS級冒険者に認定する、との通達が、世界各国の全ギルド本部の承諾を得て、先ほど出ました!本当は副ギルドマスターがお渡しするところなんですが、副ギルドマスターは海外出張中で不在のため、代わりに私が代役でお渡しすることになりました!ジョーさんは今日から正式に、現時点で世界にたった一人、世界最高位のSS級冒険者になります!歴代最強の勇者に並びました!本当におめでとうございます、ジョーさん!」
ハンナさんが、ギルドカードと花束を渡しながら、僕にお祝いの言葉を贈ってくれる。
僕のギルドカードは更新され、以下の内容が記載されている。
ネーム:ジョー・ミヤコノ・ラトナ
パーティーネーム:アウトサイダーズ
ランク:SS
ジョブ:なし
スキル:なし
SSランク、と書かれた自分のギルドカードを見て驚くと同時に、これまでの自分や「アウトサイダーズ」の冒険者活動が、仕事がみんなに評価され、みんなの役に立っている、そんな喜びに似た思いが、温かい何かが、僕の心を満たしていくのを感じる僕であった。
「ありがとうございます。僕なんかがSS級冒険者ですか。僕よりも僕の仲間の方がずっと強いし、ずっとすごいのに。本当にありがとうございます、皆さん。帰ったら、仲間たちにも必ず伝えます。僕一人の力ではきっともらえなかったはずです。お祝いの席や、花束まで用意してくださって、皆さん、本当に、本当に、ありがとうございます。」
「ジョーさん、SSランク昇格、おめでとうございます!ハズレ依頼の処理もありがとうございました!それと、エロ写真の密売グループの摘発、本当にありがとうございました!この場にいるギルドの女性のみんながあなたと、「アウトサイダーズ」の皆さんに、特にジョーさんに感謝しています!本当にありがとうございました!」
「ジョー君、SSランク昇格、おめでとう!SSだよ、SS!世界最強最高ってことでしょ?ウチらの代でSS級冒険者が出るって、マジ凄くない?ってか、逆に昇格遅かったんじゃない、くらいでしょ?ジョー君の実績考えたらさ?」
「チェルシー、余計な詮索は今はよしなさい。どうせ、ギルド幹部でエロ写真の件で捕まった連中が、ジョーさんへの腹いせに昇格の邪魔でもしていたんでしょうけど。ジョーさん、SSランクへの昇格、おめでとうございます。SS級冒険者になった方をこの目で見ることができて、おまけに一緒に仕事をすることができたなんて、冒険者ギルドの職員の仕事をやっている者にとっては、とても光栄なことです。これからもSS級冒険者として、勇者様として頑張ってくださいね。サーファイ連邦国にまた来られる時は、何時でも当ギルドをご利用ください。皆さん、大歓迎でお迎えしますので。」
「本当にありがとうございます、皆さん!こんなにたくさんの人にサプライズでお祝いをしてもらったり、プレゼントをもらったりしたのは、僕、生まれて初めてです!ちょっとまだ慣れないと言うか、信じられないと言うか、でも、すごく、すごく嬉しいです!本当にありがとうございます!」
僕の言葉を聞いて、ハンナさん外周りにいるギルドの女性たち全員がおかしそうにクスクスと笑う。
「ほら、早く座って、一緒にお祝いのケーキを食べましょう、ジョーさん。今日の主役は間違いなくジョーさんなんです。送別会も兼ねているんですから、早くパーティーを進めましょう。」
「そう、そう!ハンナなんて、今日も朝からずーっとジョーさんが来るのを待ってたしね!サプライズの企画の言い出しっぺもハンナだしね~!」
「ちぇ、チェルシー、余計なことは言わないでくださいよ、もう!私はジョーさんの担当受付嬢なんですからそれくらい当然ですから!」
「フフっ。別に受付嬢に担当なんて本当はないけど。だけど、ハンナの言う通り、サプライズパーティーの準備を急いで進めておいた方が良いってのは本当だったわね~。まさか、昨日の今日でもう、このギルドを出て行くなんて言い出すんですもんね、ジョーさんは。恩人に何も御礼もできずに去られてしまうところだったもの。本当にみんな、一瞬焦ったわ。」
「恩人だなんて、僕は冒険者としての自分の仕事を全うしただけですよ。ちゃんと依頼の達成報酬ももらっていますし。こんなに色々と皆さんに気を遣っていただけて、かえって申し訳ないくらいです。あの~、ところで、ちょっと気になるんですけど、会場にいる男性が僕一人なのは、どうしてでしょうか?男性の方々も今日、何人かは出勤していましたよね?まさか、男性陣からは別にこの後、サプライズがあったりするんですか?」
僕の何気ない質問に、周りにいるギルドの女性たちは皆、苦笑し、言葉を濁す。
「男性の方々には参加をご遠慮いただきました。エロ写真に関係している人たちにこのパーティーに参加してほしくはありませんので。」
「ジョー君、もうちょっと空気を読もうよ。ここにいる女の子みんな、ジョー君がエロ写真を持ってる変態どもをこのギルドから、サーファイ連邦国から追い出してくれたから、集まってくれたんだよ。ヒーローのジョー君はともかく、変態かもしれない男どもにパーティーに参加する資格はないの。だから、男子の参加者はジョー君だけ、分かった?」
「エロ写真の密売に関わっているような不届き者を、このようなめでたいお祝いの席に招く必要なんてあり得ません。今残っているギルドの男性陣にもエロ写真に関わっている疑惑はありますものね~。本当はジョーさんにもうしばらくの間ここに残ってもらえると女性陣はみんな、安心して働けるんですけど。本当に残念です。」
「は、ハハハ!?ええっと、エロ写真はほとんど破壊して、密売グループも摘発しましたし、これ以上エロ写真絡みで大した事件は起きないはずですから、安心してください、皆さん。エロ写真をいまだに持ってる変態野郎がまた大勢現れるようなことがあった時は、ラトナ公国大使館に連絡してください。僕と「アウトサイダーズ」、それと、「剣の女神」ブレンダ様でソイツら全員、即刻皆殺しにして地獄に叩き落としますので。エロ写真を持っている人間は魂が地獄行き確定だと、ブレンダがそう言っていたことをちゃんと周知すれば大丈夫ですよ。女神公認勇者で、ブレンダ直属の部下である僕が保証します、皆さん。」
「それは心強いですね。流石は「剣の女神」ブレンダ様です。私もみんなも、初めて実物の女神様をこの目で見た時は凄く驚きました。女神様が直接、心配して助けに来られる、女神様と直接、普通に話ができるジョーさんも十分、凄いんですけども。」
「ああっ、ブレンダとは時折会って、一緒に話をしたり、仕事をしたりもしているので。いつもあんな感じですよ、僕もブレンダも。まだ一ヶ月くらいの付き合いですけど、良い仕事仲間で上司で女神様ですね、ブレンダは。まぁ、そういうことなので、エロ写真の件は心配しないでください。」
僕は笑いながら、ハンナさんや他のギルドの女性たちに向かって答えた。
それから、約1時間30分ほど、ハンナさん外ギルドの女性たちと一緒に、僕のSSランク昇格を祝うサプライズパーティーを楽しんだ後、僕はハンナさんたちに改めて御礼とお別れの挨拶を言って、サーファイ連邦国冒険者ギルド本部を後にした。
「黒の勇者」こと主人公、宮古野 丈がサーファイ連邦国冒険者ギルド本部を後にしてからしばらくの後、チェルシーがハンナに訊ねた。
「あ~あ、もう行っちゃったね~、ジョー君。何か寂しくなるなぁ~。ハンナは特に、だもんね~。ジョー君に告んなくてよかったの?マジでこれがお別れかもよ?」
「な、何をいきなり言うんですか、チェルシー!?私がジョーさんに、こ、告白するわけないでしょう!私とジョーさんはあくまで担当受付嬢と担当冒険者、それだけです、まったく!」
「あら、なら、今度ジョーさんがまたウチへ仕事に来た時は、私がジョーさんの担当になってもいいわよね、ハンナ?私がジョーさんの受付を全部担当しても文句は言わないわよね~?」
「そ、それはダメです!いえ、その、ミラだけで全部担当するのはダメです!そもそも、私がジョーさんの担当受付嬢をやりますから、結構です!フン!」
チェルシーとミラにからかわれ、顔を少し赤くしながら、そう答えるハンナなのであった。
一方、僕はメルたちがトレーニングしているサーファイ島の東の海岸に「瞬間移動能力」で移動すると、予定より30分ほど遅れてメルたちと合流し、トレーニングの進捗状況などについて話をした。
フラワーコーラル島のコーラル・リゾートホテルへと戻り、他のパーティーメンバーたちとも合流すると、僕は自分がSS級冒険者に合格したことをパーティーメンバーたちに報告した。
僕がSSランクへと昇格したと聞いて、玉藻、酒吞、鵺、エルザ、グレイ、イヴ、メル、マリアンヌ、スロウ(&ゾーイ)は、笑顔で喜んでお祝いの言葉をくれた。
ただ、その後、僕がサーファイ連邦国の冒険者ギルド本部の食堂で、ハンナさん外ギルドの女性たちからサプライズパーティーを急遽開いてもらい、一緒にパーティーを楽しんだり、花束のプレゼントなどをもらったりしたことを話すと、メル以外のメンバーの機嫌が少し悪くなり、皆、顔を顰めた。
SS級冒険者への昇格の話より、後半はハンナさんたちに開いてもらったサプライズパーティーに関する話への質問がパーティーメンバーたちから飛んできて、パーティーで何をしたかなど、パーティーで誰とどんな話をしたかなど、詰問され、半ばお説教される形になってしまった。
僕は何故、ハンナさんたちにサプライズパーティーを開いてもらい、パーティーに参加したことを厳しい口調でみんなから問いただされることになったのか、よく分からなかった。
僕一人だけでSS級冒険者になれたわけじゃないし、やはり、「アウトサイダーズ」のメンバーもサプライズパーティーに呼ぶのが筋ではないか、呼ばなかったことはみんなに失礼ではなかったか、と思い、ちょっぴり最後は悲しい気分になった。
こうして、僕と「アウトサイダーズ」の、サーファイ連邦国における約一ヶ月間における強化トレーニングとバカンスの日々は無事、終わりを迎えた。
僕も仲間たちも、皆、己の腕を磨き、さらなる強さを手に入れた。
僕は自身の戦闘能力をさらに向上させ、SS級冒険者に昇格した。
エロ写真の密売に関わっていたサーファイ連邦国に巣食う悪党どもを捕え、あるいは地獄に叩き落し、全員この手で成敗した。
トレーニングも強化も、バカンスも、悪党退治も、ほとんどばっちしである。
僕を虐げる異世界の悪、勇者たち、インゴット王国の王族たち、光の女神リリア、僕と敵対する異世界の者たちよ。
ようやく、お前たちに正義と復讐の鉄槌を下し、地獄に叩き落すための準備が整った。
お前たち異世界の悪党全員に復讐するための新たな力を、僕と僕の仲間たちは身に着けた。
お前たちが異世界のどこに逃げようが、どんなに強くなろうが、どんなに卑劣な手段を使ってこようが、僕は地獄の果てまで追いかけ、必ずお前たちに追いつき、新たに手に入れた力で、お前たち全員に正義と復讐の鉄槌を下し、地獄に叩き落す。
お前たち異世界の悪党は、優しい復讐鬼である僕が絶対に一人も逃がさない。
僕の異世界の悪党どもへの復讐の新たな旅が、これからまた始まる。
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