第135話
「何してるんだ?」
ティッシュを挟み込んでからお尻の下の方にクッションを入れてると潤が不思議そうに尋ねて来た。
「職場の人から聞いたの。こうやって腰を浮かすようにしていると良いとかって」
「そうか‥‥‥」
御ふざけでやってるのではないと潤も感じているようだ。真剣な表情で私を見つめていた。
「も~っ!変なところじっと見ないで」
食い入るような視線に私は身体を捻った。
「あ‥‥ごめん。変なつもりじゃないんだけど‥‥」
バツが悪そうに言ってから潤はトランクスを穿き始める。
知らなければ確かにおかしな格好だ。でも例えそれがまゆつばであったとしても、出来そうなことなら試そうと思った。もちろん食生活にも気を遣った。たんぱく質を多めに摂ろうと大豆やマグロ、卵など積極的に料理に取り入れている。
「煙草も良くないって話よ。潤には直接言わないけど癌になるからってお父さんが私に」
「百害あってってやつか。でもうちの親父はあれだけ吸ってても俺や兄貴を作ったんだからな」
強い口調ではないものの煙草とは結びつけたくなかったのだろう。ベッドから這い出るとリビングに向かって行く。やがてライターの音がして煙草の匂いが私の鼻に届いた。
以前はよくベッドで吸っていた。少しは気を遣ってくれているのかもしれない。だから私としても強くは言えないし、あえて禁煙は勧めなかった。
三十歳という節目を迎えた朝は皮肉なものでお腹が重かった。よりによって誕生日じゃなくてもいいのにと思ったが、こればかりは致し方が無い。今年も残すところあと一ヶ月。コウノトリの飛来は来年に期待するとしよう。
初詣は結婚した『聖南神社』に毎年行っている。手を合わせて祈っていた互いの健康は、いつしか子供へと変わっている。潤もきっと祈ってくれているはず。それから年始の挨拶を兼ねて互いの実家に顔を出す。これも毎年の恒例行事だ。
「今年あたりは良い報告が聞けそうかな~」
赤ら顔で義父の博之さんが私達に目を向ける。多恵子さんも由紀恵さんも口には出さないだけでその目からは同じ言葉が伝わって来る。
「報告はすぐにでもしたいんだけどね」
グラスを傾けながら潤がそれとなく口にする。気持ちは私も一緒だ。
「俺も周りの連中と同様に爺さんに昇格したいんだよな」
「もう、見た目はとっくに昇格済みですけどね」
私達を労うように多恵子さんが博之さんをからかい笑いの花を咲かせる。
「お~!そういえばこの間、梨絵さんのお父さんと飲みに行って来たよ」
この話は私も既にお父さんから聞かされている。
「同級生っていうか歳も同じだから話も合うし、感じの良い人だよな」博之さんが楽しそうに話す。
「たまたま偶然なんでしょうけどね。同じ歳ってことで気兼ねなく飲めるんじゃないかしら。だからお酒も進むのか帰って来るともうべろべろで」多恵子さんは笑いながらも呆れ顔だ。
うちのお母さんも同じことを言っていたと私も苦笑を浮かべた。
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