第5話
「パチンコ‥‥‥。じゃ、お母さんが一緒なのかしら?」
辺りを見回すように訊くと男の子は首を振ったが、いつの頃からか女の子の心はここにあらずと言った感じで、その目線の先には二人の子供がアイスを食べている姿があった。
男の子もそれに気付いたようだ。女の子の顔の向きを変えるようにグイと頭を手で掴んで捻った。それでも女の子の顔はすぐに戻る。
ハハーンと私は察した。
「なんだか暑くておばあさんも冷たいものが食べたくなっちゃったな~。アイス買いに行こうか?」
公園の先の十字路の角にそれらしいお店が見える。きっとあの子たちもそこで買ったのだろう。古ぼけた印象を与える店も見ようによってはいかにも駄菓子屋って雰囲気がある。腰を上げかけた時だった。
「おかねない!」
私の顔をじっと見つめて男の子が言った。
「お金は大丈夫!面白い歌とクマちゃんを見せてくれたお礼におばあさんが御馳走してあげるから―――。ネ?」
優しくそう言って微笑みかけると二人の表情は明るく輝いた。「ヨイショ」という言葉を寸でのところで堪えて立ち上がると私は女の子に手を差しだした。その手をすぐに掴んでくれる。今にも壊れてしまいそうな小さな、そして柔らかい手だった。
女の子の手を引き男の子を促し、公園の中央を真っすぐすり抜けていく。あちこちから元気な声が耳に届いてくる。シーソーでは弾けんばかりの笑顔を見せる子供。クルクルと上手に鉄棒で回り続ける女の子。砂場では山を作ってトンネルを掘っている姿が見える。
それにしても‥‥。
と私は歩きながら周囲に目を巡らせる。家が近いにしても小さい子だけで遊ぶなんて少し考えられない。しかし、よくよく見るとこの公園内で大人は私だけだった。防犯がしっかりしているのか、治安が良いのかはともかくとして、今時こんな光景を見られるなんてと驚いたりもした。
お店から数人の子供が出て来た。間違いないと足を踏み入れた途端、目の前に広がる光景に思わず私は驚嘆して声をあげそうになった。一言でレトロ。まさかこんなお店がまだ残っているとは思いもしなかった。まさにそこは子供の時に見た夢の楽園。
それでつい自分が子供になってしまったかの錯覚に陥りそうになり、これを見られただけでも知らない町を歩いた甲斐があったと目を細めた。
『粉末ジュース』『こざくらもち』『ライスチョコレート』『チロルチョコ』『人参』
見ているだけでワクワクする。一面に広がるお菓子もそうだが、何より驚いたのが表示されている価格だ。有り得ないと思いつつも、利益度外視どころか当時の値段を今も頑なに守り通しているのではないかと、店の端にちょこんと座る華奢なお婆さんを眺めた。
掌の中にすっぽり消えてしまいそうな手の女の子が私をおばあさんと呼ぶのならば、このお店を切り盛りしている人もやっぱりお婆さんなんだろうか、是非とも訊いてみたいところだ。
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