第109話

 収容できるのは約四十人。そのため家族や親戚など合わせて二十名ずつになるようにした。既に案内状は送付済みで全員から参加の知らせを受けている。


 ただし、今朝になって亜実ちゃんから不幸が出来たからと自宅に電話があったとのこと。


 亜実ちゃんは先輩と海に出掛けた時に知り合った子だが、とにかく残念そうで時間に都合が付けば遅れていくとも言ってくれたそうだ。亜実ちゃんの友達でもある紗枝ちゃんは間に合わないと困るからと前日にはこちらに来てどこかのホテルに泊まるということだった。


 潤はネイビーのスーツ。そして私は黄色いワンピースと家族の顔合わせの時と同じ服装。打ち合わせなどもあるため早めにレストランに出向くと私達の姿を見てコックコートを纏った男性が店から出て来た。長めの髪を後ろで束ねている。


「この度は誠におめでとうございます」

「ありがとう。って、なんだか堅苦しいな」


 会話からして洒落たコックコートの男性が友達なのだろう。白いコックコートに黒い前掛けというスタイルなのだが、着こなしがお洒落に見える。


「こいつは内堀うちぼりって言って高校時代の友達」


「どうも、初めまして、ひな‥‥あ‥‥八神です」


 潤と内堀さんが私の挨拶に苦笑を浮かべる。しばらくはこんな挨拶をしてしまいそうだ。



 店内へ足を運ぶとテーブルなどがそれらしく整列されていて、奇麗な花が飾り付けられている。スタッフの女性が何人か顔を見せ挨拶をしてくれた。私達も腰を折った。


「そういや、貸し切りは半日だって話だっただろ?」何かを思い出したように潤が訊いた。


 店の前の入り口付近には、『本日貸し切り』と記された立札が置かれていた。


「俺も当初は午後から営業しようかと思ってたんだけどさ。特に予約も入ってないし、八神の席の後くらい余韻に浸ってのんびりするのも良いかなって」


 ふ~ん、という顔を見せ潤は店内に目を向ける。


「それで本音はまた違うんだろ?」


「いや~、さっきのも本音の一つではあるんだけどさ。実際のところテーブルを戻したり後片付けしたりで俺もスタッフも大変だろうから」


 爽やかに笑いながら内堀さんが潤の肩を叩く。


「いろいろご面倒お掛けしてすみません」堪らず私は頭を下げた。


「いえいえ、午前中だけだって売り上げは十分どころか十二分ですから。そんなことよりもうちの店を使ってくれるってことが嬉しいんですよ。今日は腕によりをかけたメニューを用意していますから期待してくださいね」


 その言葉に今度は潤が内堀さんの肩をポンと叩いた。


「夕方くらいにまた顔を出してもいいか?」


「もちろん!そう言うだろうと思って、とっておきのワインを用意してあるんだよ。その時は奥さんも是非!」



 奥さん‥‥‥。


 自分のことだと思うのに僅かの時間を要した。無理もない。まだ一週間なのだから。



 八神家の面々が顔を見せる。博之さん、多恵子さん。そして聡さんと由紀恵さん。それと合わせたように日向家も現れる。お父さんとお母さん。それから民宿を営む叔母さん夫婦だ。

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