第110話
昨夜は我が家に泊まって一杯飲んだとお母さんから式の二週間前に越したコーポへ電話があった。『エレガンス』という名で間取りは2DK。築三年とあって部屋も外観も奇麗で新婚生活に相応しいと引っ越しを手伝いに来たお父さんやお母さんも喜んでいた。
開始時間は十時と伝えてある。九時半には何台もの車が到着し、十台ほど止められる駐車場はすぐにいっぱいになった。これも想定内のことで外にいるスタッフが近くの駐車場を案内してくれている。私達は入り口付近に立って来賓を迎えた。
お店の前の駐車場に最後に滑り込んだのは可愛らしい赤い車だった。それとなく目で追っているとライトブルーのワンピースを纏った女性がこちらに向かって来る。思わず私は店の外に出て手を振った。
「紗枝ちゃ~ん!」
紗枝ちゃんもすぐに気付いて駆け寄って来る。十年ぶりくらいの再会だろうか。すっかり大人の雰囲気に変わっている。
「梨絵ちゃん!おめでとう!」
二人のやり取りに潤も加わる。
「今日はお忙しいところありがとうございます」
「いえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます」
丁寧に紗枝ちゃんは頭を下げる。
「あの車で来たの?」
「そう。でも今日はビジネスホテルからだから十五分くらいかな。昨日は六時間くらい掛かったけど」
何気ない一言に潤が目を丸くする。
「六時間ですか!?」
場所を訊いてさらに目を大きくし深々と頭を下げた。
「運転好きなんですよ。ほら、前にも一度来たことがあるし」
それを聞いて私は写真のことを思い出した。四人並んで写した写真で遠路遥々届けに来てくれたのだと先輩が話していた。
「そういえば、亜実ちゃんから今朝電話があった」事の次第を紗枝ちゃんに伝える。
「うん。私も聞いてる。都合が付けば遅れてなんて言ってたけど、あそこからじゃ間に合わないよね」
紗枝ちゃんも私も残念だと表情を曇らせた。
「一応、お店の人には遅れて来るかもしれないからって話はしてあるんだけど」
それから右側の一番奥のテーブルだと伝え、紗枝ちゃんは席に向かった。
「紗枝ちゃんってもうお母さんなの」
後姿を見つめながら私は潤に囁いた。潤もその背中を見つめる。紗枝ちゃんとは何度か電話で話したことがある。結婚したことや子供が生まれたことも聞いていて、何かと忙しそうだ。だから尚のこと、こうして来てくれたことが嬉しくて仕方がなかった。
職場の佐々木さんや美咲も顔を見せた。店長の
「そろそろ御準備の方を――」
声を掛けてくれたのは本日の司会を担当する男性で名前は
会社の同僚でもあり学生時代は放送部にいたらしいと潤が聞かせてくれた。とにかく恰幅が良い。その辺の会社の部長さんよりも貫禄がある感じだ。さりげなく潤に訊いたら体重は百キロあるんだとか。
ズボンの片方に私が入れそうだと思った。
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