第121話
外に出て五分もしないうちにツアーのマイクロが到着した。バスの中には既に十組以上のカップルが座っていて、大半がその雰囲気から新婚旅行に違いないと思った。
その後、数組のカップルを乗せ、まず向かったのは定番の『恋人岬』である。
ホテルのテラスからも眺めることが出来るので到着には然程時間も掛からなかった。ガイドさんは高齢の女性で日本語はペラペラ。おまけに話し上手なので聞いているだけでも表情が緩んでくる。潤と何度も顔を見合わせて笑った。
『恋人岬』は恋人たちの聖地と言われるだけあって、カップルが集うとより絵になる感じがする。私もその一員なんだと思うと幸せな気分で一杯になった。岬からの眺めはまさに絶景。特に展望台からは何時間でも見ていられそうなほどで、美しい景色やそれを背景に何枚か写真を撮る。その時、近くのカップルから声を掛けられた。
「すみません。シャッターお願いしてもいいですか?」
何でもないとばかりに潤が手を差しだす。手渡されたカメラを構えるとカップルはこれ以上ないというほど身体を密着させた。それだけでも新婚なのが伺える。見ていて照れ臭くもあり微笑ましくも映る。
「じゃ~、せっかくだからもう一枚」
撮影する潤もなんだか楽しそうだ。撮り終えたあとは相手の方も気を遣ってくれたのだろう。潤のカメラで私達を撮ってくれた。ただ、私達の場合はやや身体が離れていた。気恥ずかしさという距離かもしれない。
「新婚旅行ですか?」
「ええ」
恐らくこれは定番とも言える会話なのだろう。少しの間、私達はそのカップルと談笑した。普段当たり前に使っている言葉なのにこの地だと新鮮に聞こえるから面白い。
『恋人岬』のすぐ近くには売店があってココナッツジュースが飲めるというので潤と飲むことにした。味は人によって感じ方も違うと佐々木さんからも聞いていたため、一つを二人で分けた。ストローは新婚旅行だから一本。
片言の日本語を話す男性がヤシの実の上部を少しカットした中にストローを差して手渡してくれる。表面がザラザラしてちょっと変な感触。
「どう?美味いか?」
口に含んだのを見て潤が思わず尋ねて来た。
「ちょっとだけ甘い感じがするけど‥‥‥」
その後、なんて言っていいのかわからなくなり早々に潤に手渡す。一口飲んだ顔は私と一緒で言葉にならないという感じが伝わって来る。
「ま‥‥‥不味くはないけどな」潤が苦笑を浮かべ、
「お肌に良いって‥‥。誰かから聞いたような」と私に差し出す。
「も~っ!嘘ばっかり言って!」
仕方なくストローを咥えてみたが、ゴクゴクとは飲めず潤にまた返した。ある程度は潤も飲んでくれたようだ。しかし、飲み切るほどではなかった。
「これも良い思い出ってことで」
潤の言葉に私はニッコリと微笑んだ。
その後は首都のアガナ市を回って『スペイン広場』や『アフガン砦』などを見て回る。観光とは言いながら次から次の移動で動き回るため、ホテルに戻った時には潤も私もぐったりしていた。
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