第7話

 アイスが半分くらいになった時だった。私の瞳に一人の女性が映った。公園沿いの道を歩きながらキョロキョロと園内を伺っている。きっと自分の子供を探しているに違いない。


 目で女性を追っていると、遥か先の顔がこちらを向いて止まった。それから子供の名を呼ぶように一声出した。なんと言ったのかまではよく聞き取れなかった。どうやらこの子たちのお母さんらしい。


 少ししてアイスを食べていることに気付いたらしく、お母さんと思われる女性の足取りが早くなった。この慌てぶりを見て怒られるのではと不安が過った。それでも私は近付きつつあるお母さんに立ち上がって軽く会釈をした。



「二人ともそのアイスどうしたの?」


 それがお母さんの第一声だった。私に軽く頭を下げた後で二人の方に視線を向ける。その表情をまじまじと見た時、女の子ではなく私がアイスを落とすかと思った。


 恐らく私の口は半開きだったはず。それほど衝撃的だった。


 お母さん‥‥‥。


 若いけど間違いない。だって何十回って会っているのだから。正しくは私のではなく先輩のお母さん。晴美はるみさんだ。ということは隣に居るのは‥‥‥。


 

 せ‥‥‥先輩!?


 心の中で呟いた途端、驚きの中に懐かしさと切なさが入り混じった。横目でもう一度顔を見る。先輩に間違いない。



 その人を先輩と呼ぶようになったのは中学校に入ってからだった。同じ地区だったので小学校も同じ。比較的家も近かったことから時々遊んだりもした。交流が始まったのは確か小学校五年生くらいだっただろうか。その頃は、ちゃんを付けてお互い名前で呼んでいた。


 先輩が中学に進学すると大人びた制服に距離を感じてギクシャクした時もあったけれど、私が中学生になり先輩と同じテニス部に入ると一気に関係は復活。お互い中学生で同じ部活ということで以前よりも親密になった。帰宅後、二人で練習したことも数えきれない


 ただ、先輩はレギュラーになれず、私もボール拾いに声出しだけと、次第にテニスへの熱も冷めて揃って退部。それからはずっと共に帰宅部だった。先輩が高校に入り、私も別の学校ながら高校生になり、先輩が社会に出て、ずっと付き合いは続くはずだと思っていたのに、残酷にもその築き上げた友情は突然断ち切られてしまった。



 自殺という結末で‥‥‥。


―――「おばあちゃんにもらった」


 女の子の声に私を一瞥してから晴美さんは子供たちに慌てて顔を向けた。私も我に返って女の子の横顔を見る。似ていると思ったのはただの気のせいじゃなかったわけだ。


「おばあちゃんなんて言ったら失礼でしょ。まだお若いわよ」


 それから今度は腰を折るようにして私に顔を向けた。


「公園に行くなんて言ってたので見に来たんですが、二人してアイスを食べてるからびっくりしちゃって。奥様すみません、すぐお金を取りに行って来ますから―――」


 申し訳なさそうな晴美さんに私は慌てて手を横に振った。

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