第132話
楽しい時間は瞬く間に過ぎていく。
私の記憶も同様で早送り再生のように時は流れ、暑い夏が寒い冬へと変わり、また暑い夏が来る。三年などという時間は振り返れば一瞬に近い。
この頃になると実家を訪れるのは月に一回程度になった。もちろん、両親がコーポに来たり、たまには皆で揃って外食に出掛けたりもしているので、顔を合わせる回数は驚くほどは減ってはいない。
二人でランチを食べてスーパーに買い物に行くのは新婚当初から私の好きなコース。カートを押しながら一緒に歩く。そんなことを夢見ていた時もあったから尚のことだ。
「何か食べたいものとかある?」
「いや、特には‥‥‥。つまみでも何か」
鮮魚売り場を廻っている時に潤があれこれと眺めている。
「何が良いの?タコ?イカ?」
「タコとかイカって安いものばっかりじゃないか。どうせなら中トロとか言って欲しいな~」潤が苦笑を浮かべる。
「今度お給料が出たらね」と言って私はカートを押していく。仕方ないとばかりに潤はタコのぶつ切りのパックを持って後を追って来た。
当然のことながらスーパーは家族連れも多く特に小さい子供などはよく目にする。力を振り絞ってカートを押す姿などは見ているだけで自然と表情が緩んでしまう。潤もそんな光景に目を細めている。きっと同じことを想像しているに違いない。
新婚と言うのはいつまでのことを指すのだろうか。
三ヶ月、それとも一年。中には何十年と連れ添っていても新婚のようだと言う人もいる。人によって様々なのかもしれないが、三年を過ぎる頃になると、それまでなかった話題が両家族からチラホラと出始める。自然の流れでもあるので私も覚悟はしていた。
子供についてだ。
「梨絵ちゃん。二人だけの生活も楽しくて良いんでしょうけど、梨絵ちゃんも今年で二十八になるからそろそろ一人くらいどうかなって。ほら、お父さんがそろそろ孫の顔みたいってこのところ飲むとそんな話をよく口にするのよ」
作り笑いを浮かべお母さんがそれとなく探りを入れて来る。
「私だってそろそろって考えてるわよ」やれやれと言った表情で私も応える。
「そう!それなら良いんだけど。潤さんにスタミナのあるものでも作ってあげなさいよ」
「も~っ!それじゃまるで精進料理ばっかり食べさせてるみたいじゃない」
お母さんと顔を見合わせて笑う。多少の圧は感じるものの、会話はまだ弾んでいるので三年目くらいはまだ良い。
潤の実家でもそれは同様。
「梨絵ちゃん。そろそろ良いお知らせとか無いの?」
キッチンに立った時、義姉の由紀恵さんが私の耳元でそっと囁く。多恵子さんは二階で洗濯物を取り込んでいる。
「良いお知らせですか?」
疑問そうに訊き返すと、「赤ちゃん」と言って由紀恵さんが私の目をじっと見る。
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