第159話
もう少し―――。
もう少しで花を手向けた橋が見える。出来ればその橋を通過したい。そして先輩を強く抱きしめる。両足に纏わりつく裾をものともせずに、私はただただ走り続けた。
「ヒッ!ヒッ!ヒッ!‥‥‥」
口から情けない声が出る。苦しい‥‥‥息が続かない。
頑張れ!私は自分にげきを飛ばす。懸命に走って緩やかなカーブを抜けた時、小さい橋を目で捉えた。あれだ!と心の中で叫ぶ。
しかし、瞳に映ったのは橋だけではなかった。腰辺りまでしかない低い欄干の上に人が立っている。
先輩だ!
「ダメダメダメ‥‥‥」
悲痛な顔で何度も呟く。そして声を掛けるなら今しかないと、立ち止まった私は大きく息を吸い込みこれ以上ない声を張り上げた。
「せんぱ~い!行かないで~っ!」
叫んでる途中で無情にも先輩の身体は傾いていた。唖然としたまま私はその光景をただ見ているだけ。見惚れていたのかもしれない。不意にこんな言葉が出た。
「奇麗!」
真横に広げた両手には光り輝く翼があって、煌めく光を周囲に飛び散らせるように尾を引いている。そのちりばめられた鮮やかな光を私は両目一杯に映し込み続けた。
そこには悲しさや衝撃という文字は存在しなかった。
「先輩‥‥‥これを見せるためにここに呼んだの?」
先輩の姿が消え去った時、口からポツリと声が漏れた。その時点でもまだキラキラした余韻とも思える光が橋の周辺に瞬いていて、私はそれをじっと目で捉え続けていた。呼吸をすることさえ、その時の私は忘れていたはず。
だが、徐々に異変も感じた。きらびやかな光が消えるどころか照度を増し暗闇だった世界を明るく変えていく。
これ以上はとても見ていられない。眩しさを超えた閃光に私は顔を覆うようにして目を瞑った。
やがて何か聞こえ始めた。ざわざわとした雑踏。それまで一切なかったざわめきを耳にして恐る恐る目を開く。
すると驚いたことに景色が一転していた。街に変わっている。それもすべて見覚えのある風景だ。
キツネにつままれたような状態で視線を運ぶ。周辺には何人もの人が居て皆が道路の方を見つめている。近くに居た女性は嗚咽を漏らして泣いていた。
(何が‥‥‥起こってるの?)
俄かに緊張を感じながらも、ここからでは何も見えないと私は身体を伸ばしたり縮めたりしながら移動していく。ふとその時、人の切れ間から何かが見えた。
(あれって‥‥‥)
ひしゃげた形からでもなぜかすぐに箱であることが分かった。ただ、中身が路上に散らばっているのを見て思考が一時的に停止したようだ。その状態のまま私はじっとその奇麗な包装紙を見つめている。
「救急車はまだかっ!」
突然、聞こえた大きな声にハッと私は我に返る。そして、緊張を伴ったままさらにその先へと歩き出す。
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