第134話

 翌朝はトーストにサラダ、そして目玉焼きが二つ。これがお決まりのメニューだ。私も働いているので潤もあれこれと文句は言わない。その代わり夜はちゃんとご飯にお味噌汁と和食中心で振舞ってあげる。


 結婚したての頃は味噌汁も濃いだの薄いだのと、潤が笑って私の腕前に一言加えたが、何も言わなくなったところをみると味も安定したのかもしれない。


 あるいは‥‥‥妥協でもしたのかも。



 四年目に入っても食事の際は会話を楽しんでいる。仕事のことや今日あったこと。それこそ他愛も無いことだが、私にとっては潤とゆっくり触れ合える大切なひと時でもある。


 いつかここにもう一人加わったなら、きっとゆっくりどころの話じゃなくなるのだろう。ご飯を口にしながら、そんな光景を思い描いたりすることが増えた気がする。


 潤に似た男の子。それとも私に似た女の子。今はどちらでも構わない。両方の家よりもまずは先に潤の目を大きく見開かせたい。どう切り出そうかなどと考えるだけでワクワクしてくる。


 しかし、生理が夢のワンシーンを打ち砕いてしまう。当たり前に見て来たものが今は恨めしくも感じ、またダメだったのかと私は便座に腰を下ろして項垂れた。三十歳までには一人くらい産みたかったけど‥‥‥。


 あと三ヶ月で誕生日。目標達成は難しいかもしれない。



 翌日、職場でお客さんのプランニングを考えていた時だった。


「あら、八神さん。今日はなんだか冴えないみたいだけど何かあったの?」


 普段と何も変わらぬ素振りをしているつもりだったのに、雰囲気で伝わったのか佐々木さんが私の肩を叩いた。


「いえ‥‥‥特には‥‥‥」


 口調だけでも佐々木さんには見抜かれるような気もしたので、周囲に目を向けてから苦笑を浮かべて呟く。近くには美咲が居るだけだ。


「また、今月もお客さんが来ちゃって―――」


 何かと頼れる佐々木さんには子作りについての話はそれとなく伝えてある。だからその一言からでも心境を察してくれた。


「そうだったの。がっかりするのはわかるけど、まだチャンスはいくらでもあるから気長に考えた方が良いわよ。ストレスも良くないって話だから。でも可笑しなものよね。来て気を落とす人もいればホッとする人もいるんだから」


 佐々木さんはさりげなく美咲の方に視線を向ける。美咲も話が聞こえていたのだろう。照れ臭そうに舌を出した。


「二週間も遅れてたから心配していたんですよ。まだ両親に彼も紹介してなかったから」


 私もそれを聞いて思わず笑みが漏れた。ただ、今の私だったら心配どころか期待で胸を膨らませていたに違いない。


「も~っ、出来ちゃった婚じゃご両親がびっくりするからちゃんとしなさいよ」


 佐々木さんの問いかけに再び美咲が舌を出して笑う。


「そうそう。八神さん。人から聞いた話なんだけどね―――」


 潤と再び肌を重ね合った時、私は早速とばかりに試してみることにした。

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