第124話
四日目は自由行動である。
朝食を済ませるとホテル前に止まったタクシーに乗り込み行き先を告げる。働き盛りといった運転手は片言の日本語で対応してくれる。海外のタクシーも初めてだったので二人ともどことなく緊張していた。とはいえそれがまた心地良くも感じられる。
目指す店には数分で着いた。
免税店の老舗の『DUTY FREE SHOPPERS』である。
まずは店内を散策するように歩く。見ているだけでも新鮮だ。土産物を求めに来た日本人が多く見られる。やはり誰もが立ち寄る定番の店なのだろう。
誰に何を買うのかは大方決めてある。支払いはすべてトラベラーズチェック。サラサラっと潤がペンを走らせる。
―――「せっかくだから横文字でサインしようかな。外国人みたいにさ」
これは日本を発つ前に潤が言ってた台詞だ。ただ、横文字に慣れている外国の人はマネしやすいということからトラブルもある。これは仕事でもお客様に提案することだと言ってサインは日本語にするよう話した。漢字の良さを再認識する瞬間でもある。
高いのか安いのかよりも早く済ませたいと店内を縦横無尽に移動し、手際よく買い物を進めていく。手荷物になるのでここで買ったものは持ち帰らない。送り先を書き、その度にメモの名前にレ点を付けていく。披露パーティーに訪れてくれた人は大人数ではないが、それなりの人数はいる。そのため慣れない店での買い物はある程度の時間を要した。
免税店を出てからはタクシーには乗らずにガイドブックを見ながら歩くことにした。知らない街を歩くのもこれはこれで楽しい。どのくらい歩いただろうか。そろそろ昼飯にしないかと潤が訊いて来た。
「どうせなら日本人があまり行かないような店に行ってみないか?」
自由行動の四日目は昼食が無い。買い物を終えてお腹も空いて来たので私達は通りから入ったところにある店の扉を開けた。
二十人くらいでいっぱいになる店に日本人は見たところ私達だけだった。適当な場所に腰を下ろすと二十代くらいの若そうなウエイトレスがメニューを持ってやってきた。メニューには一切日本語が書かれていない。潤がウエイトレスに尋ねた。
「ドゥ・ユー・スピーク・ジャパニーズ?」
「ノー!」
即答というよりも声を出す前に女性の顔がノーと言っていた。外国人は話に聞く通り表情が豊かだ。話せないのなら仕方がないとウエイトレスには少し待つよう伝えて、メニューの写真と文字をあれこれと眺める。難しい顔をしていても潤は楽しそうにも見えた。それからウエイトレスを呼びメニューに指を差す。一応、注文は伝わったようだ。
「いきなりノーだからな。外国に来たって感じがしたよ」
食事を終えて再び歩き出した途端、潤は先ほどの出来事を振り返って笑った。
「というか、俺の英語が通じたんで良かったよ」
これもいい旅の思い出になるだろうと私は目を細めた。
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