第4話 鍛錬 3
次の鍛錬は魔法。今の僕は魔法についても何もしてこなかったから、6属性は全て第一位階でもさらに低位の威力でしかない。昨日まで師匠から魔法についての知識も教えてもらっていたが、僕は魔法の才能はなにも持っていないのでどんなに鍛錬したところで第二位階が精々だ。なので、あまり鍛錬する意味が見出せていない。
「昨日までに教えた魔法についての知識は覚えているな?」
「はい」
「魔法は才能がなければ第二位階より上へは行けないと言われている。覚えているか?」
「もちろんです」
「実はな、それは正しくもあるし、間違ってもいる。もっと正確な表現をすると、魔法の才能がない者が第三位階以上に行くためには人間の寿命の内には間に合わないという事だ」
「・・・つまり長生きできれば才能の無い者でも第三位階に到達できるということですか?」
「第三位階どころか第五位階までも到達できる」
「・・・あの師匠、僕は人間であって、エルフのような長命種族でもないのでそれは無理ではないですか?」
人間の寿命はおおよそ70歳から80歳程度だ。それに対してエルフは500歳から1000歳ほどの寿命を持つと言われ、魔法技能も高く様々な英知を持つとされている。しかしその反面非常にプライドが高く、人間を見下す様な言動も多いため隣接するエルフの国であるフロストル公国とは今は戦争こそしていないが犬猿の間柄だと師匠が言っていた。
つまりエルフの様に長生きであれば才能がなくても魔法を極められるらしいが、現実的には人間である僕には無理な話だ。にもかかわらず何故師匠はこんな話をしたのだろう。
「・・・ダリアよ、お前は今まで鍛練していて何かおかしいことに気づかなんだのか?」
なんだか師匠が呆れた表情をしながら僕を見据えてきた。
「えっと・・・鍛練に精一杯でそんな事を考える暇がなかったです」
「はぁ、普通に考えて基礎とは言え一週間かそこらで武術や剣術が身に付くわけないだろう」
「えっ、そうなんですか!?」
11歳で師匠に拾われるまで家族と使用人以外接触したことがなかった僕は、庭の広場で護衛の誰かが剣を振っているところを見たことがあるくらいで、その技術を習得するのにどの程度の期間を要するのか知りようもなかった。
「まぁ良い機会だ、お前の才能についても少し教えてやろう」
そう言って師匠は僕の【速度】の才能について話し始めた。師匠はまず「【速度】とはなんの速度だ?」と聞いてきた。
僕はこの才能は動きが速くなるくらいと思っていて特に才能を使うことは無かった。前に師匠が才能についての勉学の時に言っていた意識しないと効果が現れない才能なので、そんな考えの僕は才能を使うことがほとんど無かった。
なので、その通りに伝えるとーーー
「そうだとは思っていたが・・・いいか、この世の中には【速度】に囚われているものは山のようにある。例えば武術や剣術を習得する速度、怪我が治癒する速度、学習速度・・・心の傷が癒える速度・・あらゆる物事が速度に囚われている」
「はぁ、・・・なるほど」
分かったような分かっていないような僕の返事に師匠はもっと詳しく教えてくれた。
「つまりだ、鍛錬の際に【速度】の才能を使うことで本来5年も10年も習得に掛かるものが、数日で習得することも可能だという事だ」
「っ!?でも師匠、僕は今まで才能を使って鍛錬はしていませんでした。師匠はさっき一週間かそこらで武術は身に付かないと言っていましたが、それはどういうことなんですか?」
「そんなものお前が才能を使っていないなら、答えは一つだろう」
「つまり師匠は僕と同じ才能なのですか?」
「
師匠は今はという部分に含みを持たせた言い方だったが、その時の僕はあまり気にせず、自分の才能についてどう扱っていくべきなのか考えていた。ここにきて師匠に色々な知識を仕込まれていたことが功を奏したのか、自分の才能の万能性に気付き始めていた。
「では師匠、魔法の鍛錬の前に僕の才能について指摘したという事は・・・」
「そうだ、魔法の階位を上げる事は武術や剣術を身に付けることとは次元が違う。前に教えた通り階位を上げる前に人間の寿命が来てしまう。そこでお前の【速度】の才能と私の才能を重ね掛けすることで時間を大幅に短縮する。本来私の才能だけでも十分だが、お前も自分の才能の有用性に気付いただろう。ちょうどいい機会だ訓練すると良い」
師匠が言うには才能も努力しなければ効果が低いままになってしまい、現状僕の【速度】の才能は精々習得速度を3倍にする程度だと言われた。これでは魔法を第二位階へ上げるのに20年はかかってしまうという事らしい。そこで師匠が才能の重ね掛けをすることで一気に短縮し数日で階位が上がる様に鍛錬するという事だった。ただ、高位位階の魔法が使えることと、使いこなせることはまるで違うと師匠は釘を刺し、ある魔法を見せてくれた。
「いいか、これから見せる魔法はお前の才能を持ってしてもそう易々と習得出来ぬだろう。使いこなすというのはこういう事だ」
そう言うと師匠の掌から灼熱の火の魔法が1m程の火柱となって吹き上がる。さらにその火柱の周りを風の魔法が覆い、赤い炎が青白く変化した。そして驚くべきことにその青白い炎は風に圧縮される様に剣の形となって火の揺らぎが無くなり安定して師匠の手に収まっている。
「し、師匠・・・これは何なんですか?」
開いた口が塞がらないとはこのことで、僕は目の前の出来事に頭が追い付いていなかった。火が・・・剣になってしまったのだ。
「聖剣グラン・・・第五位階の火と風の複合魔法を完璧に制御して剣の形に押し留めている。そして威力だがーーー」
そう言って師匠は手近な立ち木に向かって、無造作に上段に構えたその剣を振り下ろした。たったそれだけ、力を入れて振るったようにも見えない太刀筋は目の前の立ち木を跡形も残さず焼失させていた。そこには木が燃えたような匂いがたちこめるだけだった。
残身していた師匠が手に持つ剣を消して振り返ると真剣な顔をしながら僕に話し掛けてきた。
「これが魔法を極めるという事だ。これからお前にこういった力を授けるにあたって聞いておく事がある。ダリアよ、お前の復讐は殺す事か?見返す事か?」
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