第64話 フロストル公国 10
会議室からまた別の部屋へと移り、カインさんから公国の地図や話にあった魔具を借り受ける。その魔具は書物のような大きさと形で、カインさんの話ではこの魔具は10キロ圏内にいる内包魔力量が多い魔獣を光点で示してくれるらしい。その魔具を色々と設定すると、超級種であるドラゴン種のみが表示されるようになるらしく10km圏内に入れば、これを使ってバハムートを捜索できるだろうと教えてくれた。今の僕の空間認識ではせいぜい500mの範囲しか認識できないので捜索の手間が省けそうだ。
(なるほど、もし戦争においては設定を変えて人間でも表示される様にすれば、相手の動きが丸分かりになりそうな魔具だ)
そんな秘匿技術の魔具を貸してくれるのだから、僕の事を信頼してくれたのだろうか。それとも、それほどまでにバハムートは強大で、どんな手段を用いても撃退する対象なのかもしれない。
「魔具の使い方は以上ですが、何か不明な点はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「では、必要な装備があれば、なんなりと言って下さい。武器・防具・移動手段・食料・ポーションなんでも結構ですよ」
そう言われて何が必要か少し考える。
(武器は・・・使い慣れてる自分の剣があるし、防具・・・今まで必要だったことが無いから逆に邪魔になりそうだ。移動手段・・・フライトスーツがあるし、なんなら自分で走ったほうが早いな。食料・・・それほど時間をかけるつもりもないし、収納の中に魔獣の肉は大量にある。ポーション・・・仮にケガしても自分の光魔法で治せるな)
一通り必要なものがないか考えてみたが、特に無かったのでそのまま伝えた。
「特にないです」
「え?遠慮されなくてもいいのですよ?」
「いえ、本当に。明日の早朝にはフライトスーツでレイクウッドを出ますし、夕方までには終わらせます」
「・・・は?いえいえ、こちらに近付きつつあるとは言ってもまだ300kmは離れているんですよ?フライトスーツの全力でも5、6時間はかかりますよ!」
「大丈夫です!こう見えて僕の【才能】は移動にも最適ですから」
「は、はぁ・・・」
僕が何を言っているのか理解できないと言った表情でカインさんは返事を返した。あとは明日に備えて身体を休めるだけだが、ティアにこの事を伝えておくべきだと思い、後で彼女の部屋に行こうと考えた。
「では、カインさん、僕の方はこれで大丈夫ですので会議に戻って大丈夫ですよ」
「わ、分かりました。ダリア殿、2年前に助けていただいた恩義があり、今またこの国の危機に手を貸していただけることに感謝申し上げる!本当にありがとう!」
そう言いながらカインさんは深く頭を下げてくれた。
「顔を上げてください。僕がやりたいと思っただけですので」
「・・・つまりダリア殿はマーガレット殿下と、その・・・そういう関係を望んでいると?」
「??そうですね、これからも仲良くしていきたいと思っていますよ」
「そうですか・・・分かりました」
神妙な顔をしながら理解したと納得気な表情をカインさんは見せると部屋を退出した。一体何に納得したのかは分からないが、とにかくこれで明日の準備は整った。
「というわけで、明日の早朝に僕はここを発つから、ティアも気を付けて王国へ戻ってね」
ティアの部屋を訪れて、先程の会議で決めたことを伝えた。
「意味が分からない!死んじゃうんだよ!」
「大丈夫だって!絶対に死なないよ!」
「そんなわけないじゃん!相手はあのバハムートなんだよ!せっかくこれから・・・ダリアとはもっと仲良くなれると思ったのに!」
普段のティアらしからぬ、ストレートな感情をぶつけてくる彼女に僕は戸惑ってしまった。
「ティア様、落ち着いて下さい」
ティアの側仕えが彼女の肩に手を置きながらなだめた。
「・・・はぁ。ん、ゴメン」
ティアは大きく息を吐いてから、謝罪の言葉を口にした。
「いや、僕こそそんなに心配かけるなんて思わなくて、ゴメンね。でも本当に大丈夫だし、無理だと思ったら直ぐに逃げるから」
「ん、絶対!約束!」
そう言うと、手の平を上にして僕の方へ突き出してきた。
「?ティア、これは?」
「ん、約束を守るという誓い。手を重ねて守る約束を言うことで、絶対にその約束を守らないといけない」
ティアの言う誓いとは、ちゃんと言葉にすることで相手を安心させるための儀式みたいなものだろう。そう考え、彼女と手を重ね、誓いの言葉を口にする。
「僕ダリアは無事にティアの元に帰って来ることを約束します!」
「//////・・・ん、約束!」
しんみりとした雰囲気になってしまったけど話が良い方向に纏まったことに安堵した。
翌日早朝。
レイクウッド外壁前には王国へ帰るティアと、マーガレット様やカイン達が僕の見送りに集まってくれた。
「ダリア殿、お気をつけて。今回の事は女王陛下に代わり私、第一王女であるマーガレット・フロストルが最大の感謝を示します。無事に私の元まで帰ってきて下さい」
「ん、ダリア。無事に私の所に帰ってきて」
(あれっ?マーガレット様とティアってあんな雰囲気だったっけ?)
何故か一夜にして二人の間にギスギスしたものを感じる。仲はそんなに悪くないと思っていたのだが、2人の間に何かあったのだろうか?
「ありがとう!心配しなくてもちゃんと帰ってくるから大丈夫だよ!2人とも安心してね!」
とりあえず本能的に笑顔で2人に対し返事をした。なんの根拠も無いけど、雰囲気が悪い時には笑顔で乗り切ればなんとかなる。そう信じての笑顔だったけど、効果はあったのか少しだけ場の雰囲気は良くなった。そんな中カインさんが空気を変えてくれた。
「う゛、うん!ではダリア殿、ご武運を!」
「はい!では行ってきます!」
そう言ってフライトスーツに風魔法を込めて首都レイクウッドを出立し、バハムートがいるという南へと向かった。
レイクウッドから遠ざかり、もう僕の姿を視認できなくなっただろうと考え、飛行を止めて地面へ降り立った。ここからは走って南へ向かう。今の僕の【速度】なら1分程で200kmを移動できる。ただ、風魔法の〈
空間認識を併用し、障害物にも瞬時に反応出来るようにしながらあっという間にカインさん達がバハムートと遭遇したと思われる地点周辺へと到着した。そこは何もない平原だった。
「よし、この辺から借りた魔具を使うか」
魔具のスイッチを押すと淡く光り出した。それを見ると周囲10kmに光点は無いようだ。
「さすがに何処かに移動してるか・・・」
借りた魔具を壊すわけにもいかないので、僕にとっては速度を落として、のの字を描くように範囲を広げながら移動して捜索していく。
そして、30分程かけてようやく見つけたのだが・・・
「あそこはこの地図だと・・・『リバーバベル』だろうな」
そこには1つの都市があった。が、外壁は一部分がボロボロに崩れており、何人もの人が地面に横たわっている。一目見ただけでは死んでいるのか、倒れているだけなのかは分からない。
『グルルルル!!』
そして、都市の内部ではバハムートと思われる巨大なドラゴンが暴れていた。その後方に土魔法で作ったのであろう巨大な防御壁があり、そこからこの都市のエルフ達が身を隠しながら魔法を放って抵抗している。しかし、ドラゴンには全く効いていないようで、その腕を振り下ろすと鋭い爪が地面もろとも防御壁を
(何か恨みや怒りがあって徹底的に攻撃しているというよりは、遊んでるようだな)
一思いにこの都市を殲滅しようと思えばバハムートは簡単にできるだろう。だが、ちまちまとした攻撃を繰り返し、少しずつこの都市を攻略して楽しんでいるような印象を覚える。
(バハムートにそんな知能があるのかは分からないけど、このまま黙って見ている訳にもいかないよね!)
一瞬の観察の後〈身体強化〉を最大に施し、瞬時にバハムートを回り込んでその胴体に蹴り技〈
「「「だ、誰だっ!?」」」
ぼろぼろになっているエルフ達が一斉にバハムートを蹴り飛ばした僕に視線を
「援護します!後は僕がやりますので、皆さんは倒れている方たちの救護を!」
「に、人間!!?」
「なぜここに人間が!?」
彼らには色々と疑問があるだろうが、既にバハムートは態勢を整えているので質問に答えているような余裕は無い。
『グルルル・・・ゴガァアアア!!』
怒りに燃えているような眼で睨み付けてくるバハムートは頭を低く構え、口を大きく開けた。
(やばっ、ブレスが来る!)
収納から銀翼の
次の瞬間、周囲を多い尽くす光と轟音が辺りを覆った。そして、僕の魔法で作った壁に激突音が響き、程なくして収まり、辺りは静寂に包まれた。
(水のクッションがあっても更に衝撃が来たってことは魔法ではなかった?それにしてはこの壁が破壊されない程の衝撃しかない?)
もし突破されたら瞬時に、二重三重と重ねて壁を作るつもりだったのだが、僕の予想外にブレスの威力が弱かったようだ。ブレスの追撃がないので壁の上に飛び乗り、バハムートを確認すると威嚇するような眼で僕を見ていた。壁の高さとバハムートの目線が一緒だったので思いっきり目が合ってしまった。警戒しながら周囲を確認すると、僕か立つ壁に銀翼の羽々斬が魔法を吸収したのか形状が眼前のバハムートを思わせるような形に変化した状態で突き刺さっていた。
(魔法を吸収したってことはブレスは魔法でもあるが、それ以外でもあるのか・・・もう一度ブレスを撃たせて観察したいところだけど、それだと周りに被害が出ちゃうな・・・)
ブレスを防がれたからなのか、バハムートは直ぐに僕を襲ってくるような行動を起こさず警戒しているようだ。
「ここだと周りが気になるから都市から退場して貰うよ!」
最大限に圧縮強化した第五位階風魔法〈
「せぇぇぇぇい!!」
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