第130話 戦争介入 8
海から戻って夕食を食べた後も彼女達の勢いは止まらなかった。フリージアの持ってきていたトランクには例の服が大量に入っていたようで、こそっと離れようとしたのだが、あえなく捕まり、リビングルームで僕のファッションショーをする羽目になってしまった。今回の衣装はやけにフリルがふんだんにあしらわれていて、もはや言い逃れのしようの無いほどの女の子の服装だと思った。
みんなは僕の服装を見て「きゃー!!」とか、「凄い!!」とか、「可愛い!!」と口々に
最後の方には、いったいどれだけの衣装があるのかとゲンナリするほどの着替えに気疲れしてしまった。
途中何度も「僕がこれを着なくても良いんじゃないの?」と、みんなにも着ることを勧めたのだが、「これはダリア君だから良いんです!」とか、「ダメです!ダリアに限ります!」と真剣な目をしながら猛反対されてしまった。どうやらフリージアの趣味がみんなに伝染してしまったようだった。
女性陣は一通りファッションショーを見て満足したのか、2時間も過ぎる頃にようやくお開きとなった。メイドさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら一息付くと、メグが真剣な表情で話し始めた。
「さて皆さん、今日は思いっきり遊んで気分をリフレッシュしましたが、私達のこれからの目的について確認しておきましょう」
「現状3か国による戦争になりつつあります。それを円満に阻止するということですね?」
フリージアがメグの言葉に、すかさず自分達のすべき行動を言ってきた。
「ですが、本当にそんなことが可能なのですか?それぞれの国の戦争をするだけの理由を取り除くというのは並大抵の事ではありませんわ!」
シャーロットは僕らの行動における問題点を指摘してきた。確かに他国へ戦争を仕掛けるのは、それ相応の理由や事情があったはずだ。その根本的な元凶を解決しなければ意味がないだろう。
「そこで情報がものを言います。我が公国はこう見えても情報収集において他国よりも頭一つ抜きん出ているんですよ?」
「そうなんだ?どうやっているの?」
そこまで公国の内情は知らなかったので、素直にメグに聞いてみた。
「さすがに詳しく話すことは出来ませんが、簡単に言うなら情報伝達手段がとても優れているということです」
さすがに公国の重要機密なのだろう。確かに他国で情報を入手したとしても、それを持ち帰る時間が相当掛かってしまっていては情報の価値が段々と下がっていってしまう。下手をすればせっかく得た情報も、手元に届く頃にはまったく役に立たないものに変化している可能性もある。王国で一般的なのは、伝令のための早馬を走らせるか、飛行する魔獣と契約した闇魔法師が情報を運ばせるのが一般的だ。ただ、それでも相応の時間は掛かってしまう。
「では、既にフロストル公国は、他国の戦争に至った動機まで把握しているということですか?」
「完全に、というわけではありませんが・・・」
そう前置きして、メグはテーブルに置いてあった魔具のボタンを押すと、セバスさんが直ぐにリビングに入ってきた。
「お呼びでございますか、殿下?」
「例の件、どこまで分かっていますか?」
「中間報告という格好になりますが、こちらを・・・」
セバスさんは懐から書類を取り出してメグに渡していた。
「ご苦労様。引き続きよろしくお願いしますね」
「畏まりました」
恭しく頭を下げたセバスさんは、リビングを退出した。
「マーガレット殿下、そちらは?」
フリージアが手渡されていた書類に視線を向けながら、メグに確認する。
「各国の戦争理由の調査書です。得られた情報を繋ぎ合わせて、そこから導き出された推察もありますが、ある程度の参考にはなると思います」
メグはいつの間にそんな指示を出していたのだろう。さすが一国の王女だけあって行動が素早い。感心しながらメグを見つめていると、不意に目が合い、ニコッと微笑み掛けられた。その様子に、不意に海での彼女達の姿を思い出してしまい、気恥ずかしくなって目を反らしてしまった。
(あれ?なんだろう?メグを直視しているのが恥ずかしくなった・・・。何か顔が熱いな・・・)
自身の変化に戸惑いながらも、今は各国の戦争の理由について確認しなければと、頭を振って意識を切り替え、その調査書の内容をメグに聞く。
「それで、各国の戦争の理由はどんな事なの?」
「・・・え、えぇと、まず帝国についてですがーーー
メグから調査書の内容を聞くと、帝国は元来その国土の大半が鉱山や砂漠が多く、住むのに適した場所は少ないらしい。ただその為、鉱山物資は豊富で、武器などの品質は大陸随一と言われている。また、少ない土地に効率的に住居などの建物を建築する技術が発展しており、大きな建物に多数の家庭が住めるような建物が多くあるらしい。
しかしその反面、食料自給率が低く他国からの食料品の輸入に頼らなければ生活が危ぶまれるほどの状況なのだという。帝国の最大の食料輸入国は王国だが、近年食料を輸入する際の関税が引き上げられたこと、更に帝国から輸出している鉱山資源を安く買い叩かれるような状況に陥ってしまっているらしい。これは、食料という生きて行く上で欠かすことの出来ない物資を王国に握られているという見方ができるというのだ。
ーーーということで、帝国は王国の対応に不満を募らせていた結果、今回の宣戦布告に至ったのではないか、とのことです」
「やはり、戦争を起こすのはそれに足る理由があるのですね・・・。食料の事となると、一朝一夕で解決できる問題では無いでしょう・・・」
フリージアの言うことはもっともで、帝国の戦争を止めるには食料を何とかしなければならないし、王国に正当な価格で鉱山資源を購入するように約束させなければならない。では、王国側がもっと安価に食料を提供したり、鉱山資源の購入が出来ないのは何故かということなのだが・・・。
「では、続けて王国についてなのですがーーー
王国の内情については、近年スタンビートによる作物への多大な被害があり、例年に比べると食物の収穫量が3割ほど減っているのだという。元々王国は肥沃な大地が広がり、動物が多く生息する森林や草原等が多いので、食料自給率は極めて高いのだが、そういった場所には高位の魔獣が生息しやすく、その対応に経費が掛かってしまうらしい。また、王国は武器や魔具の製作といった技術力が他国と比べると2段階は落ちてしまうらしく、国力の増強を図るために他国の技術は喉から手が出るほど欲しいらしい。
つまり近年の帝国への食量の関税引き上げは、スタンビートによる被害のため。鉱山資源の安価での購入の強要は、魔獣を討伐するための装備の強化の為という面もあるのだろう。
ーーーということで、王国としては他国を侵略してでも技術を吸収して、自国を強化し、被害が出ている魔獣の討伐に力を注ぎたいということでしょう」
「確かに、魔獣の脅威が少なくなれば、その予算を他に回して王国を発展させたいという考えでしたわ。元々王国は、技術力の低さを嘆いていましたし・・・」
シャーロットは王派閥の内情にも詳しいのだろう、メグの調査書の推察を肯定していた。
(そう言えば、シャーロットは教会派閥のスパイとして、王派閥に潜り込んでいたんだっけ?詳しいわけだ。両親は大丈夫なのかな?)
ふと疑問が浮かんだが、今はそんなことを聞く雰囲気ではなかったので、後で聞くこととして、最後の公国について耳を傾ける。
「では最後に公国なのですがーーー
公国は500年前に起きた『
更に、エルフは5人に1人程の確率でエルフ特有の病に掛かるらしいのだが、その治療にはエリクサーが必要らしい。その為、材料となるオーガの上位種の魔石が必要なのだが、その輸入国であった王国との協定が上手くいっておらず、その生息地である公国の国境付近の『魔の森』を領土としたい思惑も、今回の宣戦布告にはあったのではないかということだ。
ーーーということです。それに先に私が王国で捕まり、その・・・拷問されたということも今回の戦争が強行される一因だったかもしれません・・・」
そう言うとメグは、申し訳なさそうに下を向いてしまった。
「それはメグのせいじゃないよ!拷問なんて許せないことだし、メグがその事で責任を感じることなんて無いよ!」
「そうです!王国には王国の考えがあったかもしれませんが、だからといってそんな非道なことをして良いという理由にはなりません!
フリージアも憤慨やるせなしといった口調で王国の対応に
「ダリア、フリージアさん・・・ありがとうございます」
メグが顔を上げ感謝を伝えると、少ししんみりとした雰囲気になってしまった。そんな状況にシルヴィアは、場を明るくしようと声を掛ける。
「わ、私達にはダリア君がいるから大丈夫です!どんな問題が起こっても、どんな窮地に陥っても、ダリア君がいれば安心です!」
信頼してくれているのは嬉しいのだが、そこまで過剰に期待されてしまうと困ってしまう。特に今回の戦争の介入については、各国に様々な問題があるのでそれを全て根こそぎ解決するにはどうしたら良いかの考えは今のところ僕の頭の中には無い。
「シルヴィアさん、そんな言い方では全てダリア様におんぶに抱っこということになってしまいますわ。私達も自分の出来ることを考えて行動すべきですわ!」
シルヴィアの僕任せな発言をシャーロットが
「ご、ごめんなさい。そんなつもりでは無かったんですが・・・」
「いいよ、ちょっと雰囲気が暗くなったから、気を使ったんでしょ?気にしてないから大丈夫だよ」
「あ、ありがとう、ダリア君」
「私もちょっと言葉が強かったようですわ。ごめんなさいねシルヴィアさん」
「いいえ、シャーロットさんの言うことはもっともですから。私達も出来ることは行動すべきですもんね!」
2人が和解したところで、メグが本題に戻る。
「では、問題点を纏めましょう。帝国は、食料問題と鉱山資源の売却価格。王国は、魔獣対策と技術力。公国は、500年前の歴史と魔石の入手経路の確立といったところでしょうか?」
メグが各国の問題点を分かりやすく列挙してくれた。今は何処から手を付けて良いかもわからない状況だが、みんなで考えを出し合えば、きっと良い考えが浮かぶはずだ。しかしーーー
「というか、そんなに公国の内情を僕達に話しちゃってもいいの?」
素朴な疑問だが、王女であるメグがそんなにペラペラと自国の事について話すことは大丈夫なのだろうか。
「問題ありません。公国とて全ての民が戦争に賛同しているわけではありません。話し合いで解決できるならそうすべきと考える者もいます」
つまりは、今回の情報収集に協力してくれているのは、そういった人達なのだろう。
「皆さん、情報も重要ですが、問題を解決するの知識も重要です。そこでマーガレット殿下、公国の図書館で書物を閲覧することは出来ませんか?」
フリージアは少し考え方を変えて、メグに対して知識を集めるため、図書館に行きたいと言ってきた。
「そうですね、皆さんを公国の民に目撃されると少々面倒ですので、こちらに書物を持ってきましょう。ダリア、お願いできますか?」
「もちろん!僕なら移動は一瞬だしね」
「どのような書物が必要かはメモに書いておいてください。私とダリアでその書物を取ってきます」
「分かりました。マーガレット殿下、ダリア君お願いします」
「では、明日から動くことにしましょう。今日はもう遅くなってしまったので、ゆっくり休んで、英気を養っておいてくださいね!」
メグが立ち上がりながらそう言うと、みんなも自分の部屋へと移動し始めた。僕は明日の事を考えて、試しに空間認識で公国の図書館周辺を確認しようと認識を広げた。
(・・・あれ?これは・・・)
広範囲にまで広げた空間認識に、ある友人が公国へ近づいている事が認識できた。
(何でティアが公国に?)
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