第46話 学園生活 12
最初の実地訓練から5日経ち、休息日となった。実地訓練から戻ってからは各人に訓練中の感想や反省点を述べさせていたが、その中で最も多かったのが体力や精神力といったものだ。精神力については場数を踏んで慣れるのが一番手っ取り早いのだが、ほとんどの生徒が午前中だけでかなりへばってしまっていたので、まずは体力の向上をするという事でこの5日間は学園の演習場にて走り込みなどを行っていた。おそらく学園の方針として生活していく力を付けさせるにも、自分自身で考えさせて工夫させることを軸にした教育なのだろう。まずは実地にて今の自分に何が足りないのか、どうすればいいのかという事を考えさせることで問題点を認識させる。それを解決させるために創意工夫を促すのは成長には不可欠だ。
あの信号弾の件についてはエヴァ先生からは詳細はまだ調査をしているが、もしかしたら何者かの意思が働いているのではないかという事だった。それも僕を標的にしている可能性が高いという事で、マシューやシルヴィア達は巻き込まれてしまった可能性が高いということらしい。先のSクラスでサポートをしたときに上級貴族からの反感を買っていることで、そういった者からの嫌がらせではないかと言われてしまった。嫌がらせで関係ない者まで怪我をさせるのはどうかと思うのだが、先生曰く上級貴族は平民の事など金を納める為だけに居る道具のような認識でしがないので、なにもおかしくは無いという事らしい。
ある程度は僕の予想の
「あ、あの、どうかしましたか?ダリア君?」
「あぁゴメン。ちょっとあの実地訓練の事を考えていたんだ」
「あの時は本当にありがとう!今日は何でも食べたい物言ってね!」
今日の休息日はシルヴィアと一緒に平民街で食事をする約束をしていた。あの訓練で窮地を救ったことのお礼がしたいと言ってお昼ご飯をご馳走したいとのことだった。最初は固辞したのだが、あのキラービーの素材で少しお金が入ったので大丈夫と胸を張って言われたのでその勢いに負けてしまったのだ。ただ、彼女はクラスの友人から聞いたとは言っても王都の事についてはそれほど詳しくないと思うので僕の方で安くて美味しいお店を案内した方が良いと思っていた。
「じゃあ『黄金の皿』ってお店があるからそこにしようか?」
「は、はい!」
「「「いらっしゃい!!」」」
黄金の皿の店内に入ると威勢のいい声が出迎えてくれた。時刻はまだ昼前だったので、店内はまだそれほど賑わってはいないようだった。2人掛けのテーブル席に案内されると、馴染みのおばちゃんが話し掛けてきた。
「おや、ダリアじゃないか、久しぶりだね!」
「こんにちは、おばちゃん!シルヴィア、この人はここの料理人のおばちゃんで、冒険者の時から美味しくて安いこの食堂に通っているんだよ」
「は、初めまして!シルヴィア・ルイーズです!ダリア君とは同じクラスでとてもお世話になっています!」
素早く席を立って深々とおばちゃんにお辞儀をするシルヴィア。
「ははは、そうかしこまらなくて良いよ!ダリアには食材の関係で色々付き合いがあったからね。そのお礼に何度か料理も教えたことがあるし、弟子みたいなもんだね!それにしても、学園に行って1月見ないと思ったらこんな可愛い彼女が出来たのかい?」
そんなおばちゃんの言葉にシルヴィアは顔を真っ赤にして俯きながら椅子に座った。
「おばちゃん、この子はクラスメイトで彼女じゃないよ」
僕がそう訂正すると、シルヴィアはショックを受けた様に悲しげな表情をしてしまった。
(ん?僕のことを恋人と誤解されるのは嫌だと思って訂正したのに何でこんな反応なんだ?)
「ふぅ~、シルヴィアちゃんだっけ?大変だろうけど頑張んな!」
そんな言葉を残しながら、おばちゃんはシルヴィアの肩をポンと叩いて厨房へと去って行った。
「じゃ、じゃあ何食べようか?」
変な雰囲気になってしまった場を和ませるために話題を変え、何の料理を選ぶかシルヴィアに話し掛けた。その時には先程の悲しげな表情も元に戻っており、笑顔でメニューを見たのだった。
結局僕とシルヴィアは日替わりを頼むことにした。今日の日替わりは、ホロホロ鳥の蒸し料理をメインとしたサラダとスープ、パンのセットだ。料理を待つ間にシルヴィアが前回の訓練のお礼を言ってきた。
「改めてダリア君、あの時は助かりました!今日は私がお金を出すからいっぱい食べてね!」
「ありがとう。でも、もう何回もお礼は言ってもらったし、そう気にしなくても良いよ。僕もクラス全体の護衛のような感じだったし」
「・・・護衛じゃなかったら私のこと助けてくれなかったの?」
先程の悲し気な表情をしながら僕の目を上目遣いに覗いてきた。
「そんなことないよ!シルヴィアは僕の大切な友人だし、何かあれば助けるに決まっているよ!」
「そ、そうだよね。友人・・・だもんね」
取り繕う様に表情を変えるシルヴィアに若干の違和感がある。それは彼女の服装の事もあって、ますます僕を悩ませるものだった。
「ところで、今日の服は一段と可愛いね!いつもは制服しか見ないからこうやって私服を着ているシルヴィアを見ると、とても新鮮だね」
そう、彼女の今日の服装は大胆に胸元が開いた白のシャツに薄いオレンジ色のカーディガンをはおい、膝丈ほどの白いフリルのスカートを履いている。色使いは落ち着いているのだが、いつも胸元を隠す様にローブを着ている彼女からすれば、こんな服装で出かけているのは変だなと思っていた。そう思って、師匠から叩き込まれた女性の扱い方に従って、まずはその服装を褒めてみることにした。すると彼女は真っ赤な顔になってモジモジしだしてしまった。
「あ、ありがとう。そ、その、お友達から男の子はこういう服装が好きだって聞いたから。ダリア君もこういう服装が好きなの?」
「そうだね。とても可憐でずっと見ていたいと思うけど・・・」
「・・・けど?」
「出来れば僕以外の人の目にはその姿を映して欲しくないな」
「////////////////」
人って言うのはこんなに顔が赤くなってしまうのかと思うほどに彼女は耳まで真っ赤にして頭から湯気が出ているのではと思うほどだった。正直全て師匠の受け売りで、女性から服装について聞かれたらこう答えるべしという言葉に従っただけなのだが、どうしてこんな反応をしているのかは今のところ僕には理解できなかった。
「そ、そうだよね。ダリア君にしか見せたくないし気を付けないとね」
彼女がカーディガンのボタンを閉めながら、その存在を主張していた胸元を隠す様にしていると、赤髪ショートカットの元気な店員さんが注文した料理を運んできてくれた。
「お待たせ!こちら日替わりです!ごゆっくりどうぞ!」
一瞬シルヴィアに向けてウィンクをしたようだったが何の意味があったのかは僕には分からないが、シルヴィアは理解したのかまた顔を赤らめていた。
「じゃあ食べようか」
「うん!」
メインのホロホロ鳥は、蒸したことで余分な脂が程よく落ちており、そこに掛かったレモンをベースにしたマスタードソースが絶妙に蒸し鶏の味を引き立てていてとても美味しかった。シルヴィアも気に入ったのか『美味しいですね』と何度も言いながら食べていた。
食事も一段落すると、彼女は将来について聞いてきた。
「あ、あのダリア君は将来はどうするか決めてないの?」
「ん?将来か・・・。そうだね、実際まだ何も決めていないって言うのが本当のところだね」
「仕官することは考えていないの?」
僕が上級貴族からの仕官の誘いがあったということは有名なので、仕官を希望している皆にとってみたら何故その話を受けないのか不思議でしょうがないのだろう。
「ん~、何だか仕官するって自由が無くなりそうだからなぁ・・・」
「で、でもいつ死ぬかも分からないような冒険者より安心じゃないかな?」
「それはそうかもしてないけど・・・僕は自分が死ぬって言うイメージは今のところ持てないな。それに目的を果たすまで死ぬつもりもないし」
「も、目的?」
「そ!皆何かしらの目的はあるでしょ?仕官するだったり、お金を稼ぐだったり。僕にもそういう目的があるってだけだよ」
「その目的に仕官することは邪魔になっちゃうの?」
「まぁ、場合によってはそうなるかもしれないから、出来れば今は断りたいんだよね。でも目的が達成出来たら安泰な生活も良いと思っているから・・・それまで待っててくれるならありがたいね」
僕が言っていることは非常に虫のいい話だと分かっているので、なかなか仕官への誘いについては返事の仕方に困ってしまっていて、曖昧な返答になっているのだった。
「・・・そうなんだ。目的が何か分からないけど、私は安泰な将来を目指した方が良いと思うよ。・・・出来ればそれで私を貰ってくれれば・・・」
だんだん声が小さくなっていき最後の方は聞き取れなかったが、彼女が僕を心配しているという事は分かった。
「そうだね。ただ、本格的な勧誘は来年からだって言うし、もう少し色々と考えてみるよ」
そんな感じでシルヴィアと談笑していると、お昼になって混雑してきたのか、段々と騒がしくなってきた。そんな中入り口からお店に入って来たある人物が絶叫を上げながら僕達のテーブルに走って来た。
「あ~!!!ダリア君がいる!!もうっ!1月以上冒険者協会に来ないんだもん、お姉さん寂しかったよ~!」
そう言いながら僕に抱き着いて来たのは、冒険者協会で受付をしているエリーさんだった。そんな様子を見ているシルヴィアは青い顔をしながらぎこちない動きで聞いてきた。
「ダ、ダリア君・・コ、コの人ハ・・・?」
何故か言葉使いが片言になっているシルヴィアにエリーさんを紹介しようとしたのだが、僕が何か言うよりも早くエリーさんが話し始めた。
「あら~、ダリア君の学園のお友達かしら?初めまして、私は冒険者協会の受付をしているエリーよ。ダリア君とはすっごく良くしてて、いつも非番日には2人で食事に行っていたのよ!ねぇ~!?」
所々の言葉にアクセントが置かれた話し方をしている。僕からエリーさんの表情は見えないのだが、声は優しい感じなのに何だか怒っているような印象を抱かせる感じだった。なんとなくだか面倒ごとになる予感に囚われていると、エリーさんと一緒にお店に入って来た女性・・・たしか、同僚の受付の人がエリーさんの頭を盛大にひっ
「あんた子供相手に何やってるの!ほら行くわよ!・・・ゴメンね~邪魔しちゃって!この人の事は気にしないでね!じゃねダリア君と彼女さん」
そう言うと同僚の人はモゴモゴ叫ぼうとしているエリーさんの口を封じながら引きずって行った。
「な、何か騒がしちゃってゴメンね。あの人は冒険者協会の受付の人で、初めて登録をしたときにお世話になったんだよ。それに王都に来て間もない時に、色々と案内してもらった人なんだ」
「ソ、そウなンだ・・・ズ、随分仲がイインだネ?」
先程からずっとシルヴィアの話し方がぎこちなくなっているのだが、どうしたというのだろう。
「そうだね、実のお姉さんみたいに良くしてもらっているよ」
「・・・お姉さん?そう、お姉さんね!そうだよね、そうだよね」
ころころ変わるシルヴィアの表情に若干の恐怖を感じてしまった。師匠からは女性の扱い方や言葉の掛け方を教わったが、相手がどんなことを考えてその言葉を言ったのかとかは学んでいないので、こんな状況になって初めてそういったことまで学んでおけば良かったと思った。
(なんだろう・・・女の人って良く分からない・・・)
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