第175話 ヨルムンガンド討伐 13
個人の血を媒体にした召喚術あるいは、技術について何か心当たりがないか、会議室にいる皆に聞いたのだが、残念ながら一様に首を
「私も己の力を高めるために、古い文献等をよく読んでいたが、血を使うというのは聞いたことがないな・・・」
ジャンヌさんが申し訳なさそうにそう返答してくれた。
「すまんが、俺もだ。そんな技術聞いたこともないし、わざわざ身体を傷付けなくても、召喚出来るから、廃れたんじゃないか?」
アレックスさんもそう口にした。僕もその可能性は考えたが、そうすると何故ヨルムンガンドはその方法を使ったのかという疑問が残る。
「ダリア殿の報告を聞けば、ヨルムンガンドは魔法の祖、何か思惑があっての事かもしれませんね?」
僕の疑問と同じことを考えたのか、女王がヨルムンガンドの行動についての疑問を呈した。
「しかし、ヨルムンガンドの戦いを楽しむという性格を考えると、単なる思い付きの行動ということもあり得るのではないか?」
国王の言葉に、ヨルムンガンドの言動を思い出すと、その考えも一理あるなと思った。
「関係ないかもしれませんが・・・」
そんな中、今まで何かに考えを馳せるようにして黙っていた皇帝が、そう前置きして話に入ってきた。
「我が帝国の前身であった国の古い伝記に、『一生に一度、生涯の終わりに発現できる力があった』という言葉が記されているものがあるんだが・・・」
「一生に一度ですか?」
そんな事聞いたことが無かったので、少し興味を持って聞いてみた。
「そうだ。その力でもって戦況を覆したなどの逸話もあったらしい」
「・・・らしい?」
皇帝の伝聞形式な話し方に、訝しげに国王が皇帝を見つめた。
「残念ながら、過去の大戦の際に殆どの書物は焼失していて、残った書物の意味が読み取れる部分の内容しか分かっていない。なので、その技術については使い方も効果も分かっていない」
「しかし、一生に一度しか使えないとなりますと、ヨルムンガンドの使用した力とは関係ないのではないですか?」
女王が皇帝の言葉について、辻褄が合わないのではないかと指摘するが・・・
「相手は世界を三度も滅ぼすような存在だ。人の物差しで測るのは危険というものだ」
尤もな皇帝の意見に、誰もが反論の余地を失ってしまう。皇帝の言う技術について思案する。
(一生に一度・・・生涯の終わり・・・戦況を覆せるだけの力・・・)
話を鵜呑みにするなら、とてつもない力を得ることが出来るが、その対価は相当なものなのだろうと推測できる。皇帝の言う通り、もしかするとヨルムンガンドは、人と違ってその対価を平気で払える存在なのかもしれない。
「少しでも新しい情報が知れたのはありがたいです。ただ、決定的な対抗策を準備するのにはまだまだ情報が必要ですから、何か分かれば教えてください」
他に目新しい情報は無かったので、これで報告を終わらせ自分も情報収集の為に動こうと考えた。
「約束しよう。それで申し訳ないが、私を連れて帝国へ移動してはくれないか?」
皇帝が僕の申し出について協力を約束してくれた。ただ、既に帝国を離れて3日も経過している為、〈
「では、私もお願いできますか?」
女王も同様に公国へ戻る必要があり、〈
「すみません、予定外に国を3日も空けさせてしまう結果になってしまいまして・・・」
元々女王も皇帝も、僕の能力で移動していたため、早急な帰国手段が無かったらしい。一応、自国との連絡は可能ということと、ヨルムンガンドやドラゴンに各国の都市が包囲されたことで、その対策を各国がどうやって連携をとっていくべきかという議論もあったために、王国に留まっていたようだ。
まさか、会談中にヨルムンガンドがその場に出現し、迎撃に向かった僕が返り討ちに合い、3日間も昏倒する状況に陥ってしまうとは夢にも思わなかった。その事で迷惑を掛けてしまったことは間違いないので、早急に国へ送って行くため、準備出来ているかの確認をした。
「ダリア殿が謝る必要はない。そもそも王国へ一緒に連れていってくれるように頼んだのは私だ。それに公国から貸与されている通信魔具のお陰で、大きな混乱にはなっていない確認はとれている」
「私も同じです。こちらからお願いして同行していますので、それについて予定外の事が起こっても思うことはないですよ」
2人共気にしていないという様に言ってくれているが、一国の首脳が緊急時に国を離れているのは残された国民にとっては一大事だろう。
「すぐ送りますが、準備は大丈夫ですか?」
「私は問題ありません。この場で議論すべきことは既に尽くしましたからね。あとは、実際に我が国で行動するのみです」
僕の確認に真っ先に女王が返答した。
「私も構わないが、一つダリア殿に頼みがあるのだ」
「頼み・・・ですか?」
この切迫した状況だ、帝国としてもすべき事や必要なことは山ほどあるだろう。僕の協力が必要ということは結構な用件かもしれない。そう思って聞いたのだが・・・
「いやなに、ジャンヌ大佐を君と同行させて欲しいだけだ。彼女なら剣術や武術にも精通しているし、帝国のそういった文献にも
「ですが、ジャンヌさんは帝国の最高戦力、いわば国民にとって対ドラゴンの希望ではないのですか?」
彼女が国を離れているということが、ドラゴンから包囲されている住民に不安を与えてしまうのではないかと心配した。
「なに、心配はいらない。元々帝国の国民は武力を重要視する考え方をする国民性だ。ヨルムンガンドでなければ、そう簡単に折れてもらっては困るし、ドラゴン襲撃の前日に返してくれればそれで良い」
「ダリア、私からも頼む!今は世界の危機だ。自分の知見が少しでも世界を救う役に立つというのなら、是非協力させてくれないか?」
彼女は真摯な眼差しで僕を見つめる。こんな状況にも関わらず、【剣聖】である彼女は直接的な武力では力になれないと分かっているようだったが、何か世界を救うための力になりたいと感じているのだろう。そう思わせるだけの気迫が、彼女の言葉にはあった。
(確かにジャンヌさんの知識は役に立つかもしれないな。特に今回の情報収集は、武という面に重きを置くものだし、帝国がそれで問題ないなら協力してもらう方が効率的だろう)
何より彼女は【天才】の才能も持っているので、様々な書物からの情報の取捨選択や、情報の断片から考えられる可能性も導き出すことができるかもしれない。そう考え、2人の申し出を受けることにした。
「分かりました。ジャンヌさん、よろしくお願いします」
「ああ、任せておけ!」
そうして話が決まり、移動しようとしたところで今まで黙っていた国王が口を開いた。
「ダリア殿、王国としても協力は惜しまないが、僅か4日で新しい情報が出てくるというのも考え難い。そこで、国立図書館の禁書庫を貴殿に解放しよう」
「へ、陛下!!?」
国王の言葉に、その決定を諌めるようにリーガースさんが国王に詰め寄ろうとしたが、それを制して言葉を続けた。
「世界が滅びれば、秘密にしていても仕方ないことだ。紛失されては困るが、気にせず閲覧出来るように取り計らおう。よいな、宰相!?」
「・・・畏まりました。すぐに手配致します」
国王の有無を言わせぬ物言いに圧倒され、リーガースさんは恭しくその指示に従った。
「では、後で直接伺いますのでよろしくお願いします」
「うむ、頼んだぞ」
国王は尊大な態度だったが、何故か信頼されているような物言いに聞こえた。
(王国とは色々あったけど、為政者だけあってそこはきちんと割り切って行動しているということか?)
国の危機には、感情を排して行動しなければならないだろう。貴族だから、王族だからと傲慢に振る舞っていない今の言動は評価できるが、危機に瀕しなければ考えが変えられないというのはどうかと思ってしまう。それこそ、最初から今のような言動だったなら、国に内乱など起こることはなかっただろう。
(今さらそんな事考えてもしょうがないか・・・とにかく今は、ヨルムンガンドを何とかする方法の情報だ!)
そうして皇帝を帝国まで送り届けた後、ジャンヌさんを共にして、女王と公国へ向かうのだった。
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