第199話 絆 6

「「「ダリア様!!!」」」


 弛緩した雰囲気の漂う会議室で、5人は声を揃えて僕の名前を呼んだ。彼女達が同時に声を発したのは偶然のようで、5人とも顔を見合わせて驚いている。それは声を聞いたこちら側も同じで、女王や皇帝は何を言う気なのかと焦ったような表情をしている。


彼女達は目を丸くしてお互いを見つめ合っていたが、まるで同じことを言わんとしている事を理解したように笑顔が溢れ、こちらに力強い眼差しを向けてきた。そして、意を決した表情のマーガレットが最初に口を開いた。


「陛下。いえ、お母様!私、マーガレット・フロストルはダリア様と共に今後行動します!」


「っ!!?」


「・・・は?メグ・・・あなた何を言って?」


突然の言葉に驚いた僕だったが、それ以上に驚いたのは公国の女王だったようだ。女王は信じられないものを見るように、マーガレットを呆然と見やりながら呟く。更に、そこに割って入るようにジャンヌさんも宣言する。


「皇帝陛下。いえ、ロウタス叔父様。私、ジャンヌ・アンスリウムも今後、ダリア様とご一緒します!」


「・・・なっ!?ま、待て!お前は我が帝国の武の面において、象徴的な存在なのだぞ!そんなこと許せるわけがーーー」


「もう決めたのです!」


ジャンヌさんは皇帝に有無を言わせぬ迫力で言葉を遮った。その口調はもはや決定事項で、決して覆せることはないと言う、不退転の決意が感じられた。そして、その決意はこの場にいる他の3人も同じだった。


「私、フリージア・レナードも同じ思いです。彼に今回の事の責任を負わせるような処遇には納得できませんし、人々を救った彼を孤独に追いやるなど神が許すはずがありません!」


「ん、私ティア・ロキシードも同じ。彼とは一緒にいるべき。そう決めた!」


「ま、待ちなさい!浅慮はいかんぞ!それに、ダリア殿とて会ったばかりの君達が一緒にこられても迷惑だろう?」


国王が焦ったような口調でフリージアとティアの行動を止めにかかる。確かフリージアは王国を追放されているということだったし、何をそんなに焦っているのか疑問だった。


(・・・もしかして彼女が僕に取り入って、この力を王国へ向けるかもしれないとか考えてるのかな?それとも、彼女は王国の聖女と呼ばれていたことだし、何か利用価値が有ったのか?)


真偽のほどは分からないが、国王も想定外な事のために焦っているようだ。もしかしたら、僕を孤立させること、そのものが目的だったのかもしれないが、今はそんなことより彼女達の言葉の方が大事だと思い直す。そんな僕に、シルヴィアが問いかけてきた。


「ダリア様は私達があなたと一緒に行動を共にしたいと願っては・・・ご迷惑ですか?」


 潤んだ瞳を向けて、僕の返答を固唾を飲んで待つシルヴィアを少し見つめ、隣に並び立っている僕と行動を共にしたいと言ってくれた彼女達へも視線を向けた。みんな一様に決意の籠った瞳をしていると同時に、それはどこか既視感を感じさせる表情だった。


(この瞳・・・表情・・・どこかで見た記憶が・・・それにこの気持ち・・・まだ2回しか会ったことの無い彼女達なのに、なんで・・・)


彼女達の言葉を聞いて、なんでこんなにも僕の事を想ってくれるのか。なんでこんなにも僕の心は喜びに満ちているのか。困惑するばかりだったが、真摯な彼女達の想いに、僕も真っ直ぐに向き合いたかった。


「ありがとうみんな。みんなの想いは嬉しいし、迷惑だなんてとんでもないよ!・・・でも、僕と行動するということは、自分の生まれ育った国や友人とも離れることになるんだよ?」


僕は彼女達の言葉で歓喜に震える心を懸命に隠して、そう告げた。大陸を離れるということは、今の生活を捨てることに他ならない。それは彼女達にとって辛い選択になってしまうだろう。だからこその問い掛けだったのだが、彼女達は頬を膨らませながら声を上げた。


「そんなことは分かっています!私達は生半可な覚悟でこの言葉を口にしたのではありません!」


「心を決めていなければ、この場所でこんな発言なんてしませんよ?」


「ん、あなたと共にいることが当然だと、私はそう考えている」


「私も帝国の【剣聖】という前に、一人の女として君と共に生きたいと感じた!これは理屈では無いのだ!」


「私は・・・私達は、あなたと添い遂げたいと想っています!どうかこの想いを受け取ってくれませんか?」



彼女達はそれぞれの想いを口にし、真っ赤になりながら僕の目をじっと見つめてきた。彼女達の言葉を受け取り、その想いを反芻して、ようやく気づいた。


(っ!?これってもしかして・・・いや、でも・・・勘違いじゃない・・・よね?)


彼女達から寄せられた好意に気づくと、急に顔が熱くなってきてしまった。周りにいる人達に気づかれるんじゃないかという心臓の高鳴りを必死に押さえながら、心を決めて自分の想いを彼女達に伝える。


「僕は他の人から見れば、人外の力を持った化け物に見えるかもしれない。もしかしたらそれは僕を・・・君達も苦しめることになっていくかもしれない。でも、もしそれでも良いと言うなら、僕は君達と一緒に生きていきたい!だって僕はマーガレット、フリージア、ティア、ジャンヌさん、シルヴィアの事が・・・大好きなんだから!!」


最後の言葉を口にした時、自然と涙が頬を伝っていった。自分でもこんなに素直に異性に対して好きだという感情を持てたことに驚く。しかも5人同時にだなんて、僕は節操が無いのかもしれないが、本当に彼女達の事が大好きでたまらないのだ。理屈ではない、魂がそう叫んでいるように彼女達への想いが溢れてくる。


そんな僕に、彼女達も涙を見せながら笑顔で返事をしてくれた。彼女達のその表情をどう言葉で言い現せばいいのだろう。頬を朱に染めながら、今まで見たこともないような彼女達の笑顔は、とてもとても美しく輝いていた。


「「「はいっ!私も大好きです!!!」」」



 そしてしばらくの間僕達は見つめ合い、お互いの想いを確認すると、ゆっくりと歩み寄ってきた彼女達に抱き締められた。どこか懐かしさを覚えるその抱擁感に、僕の涙は止まらなかった。

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