第87話 学園トーナメント 16

 学園長室に着くと、そこには聞いていた通りメグと彼女の護衛、先生達や王国の騎士と思われる人物が数名おり、人数が多いためか扉は開け放たれていた。入り口を見張ってる護衛と騎士の背後からは何かを話し合う声が聞こえていた。


「ダリア!無事でしたか!」


僕の姿を認めたメグが、安堵の表情を浮かべながら僕の胸に飛び込むようにかけ寄って来た。


「僕は何ともないよ。それより、今から学園を少し離れるから、学園長に伝えておこうと思って」


「学園を?何かあったのですか?」


「うん。それも含めて話をしようと思っているんだけど、急がしそうだよね?」


 学園長は騎士や先生達と何やら議論している。何故かその中には王子も一緒になっていた。とはいえ、こちらも時間は無いので用件だけ伝えられればと、柏手かしわでを打って部屋中の注目を僕に向けさせた。


「な、何事だ!?」


「敵か?」


 騎士達は柏手を打った僕の姿を見てそんな事を言い出したが、時間が惜しいので相手にせず学園長に歩み寄る。


「ダ、ダリア君!どうしたというのです?ご覧の通り今は忙しくて、後にできませんか?」


「いえ、学園長、直ぐに終わりますので」


僕を見て驚く学園長達にそう前置きして、自分の用件だけを矢継ぎ早に伝える。


「実は改革派閥の先陣部隊とやらに友人のシルヴィアがさらわれました。その目的は不明ですが、これから助けに向かいますので学園を少し離れる報告に来ました」


「えっ!!?シルヴィアさんが!?」


僕の言葉に驚きの声を上げたのはメグだけだった。他の面々はシルヴィアが誰なのか良く分からないといった表情をしていた。


「そのシルヴィアというのは誰なのだ?」


そんな疑問を王子はストレートに聞いてきた。そんな彼と騎士達を見ると、ふと、ある疑問が浮かんだ。


(そういえば冷静になってみると、王子にも複数の護衛はいるはず。なぜあの襲撃の時に駆けつけてこなかったんだろう?)


どうでもいい疑問だが、ふと頭に浮かんできた。ただ、今はその疑問は振り払っておく。


「Bクラスの友人です。彼女は平民なので、目的は不明です」


「シルヴィア・・・家名は何と言う?」


答えている暇も惜しいのだが、何かを真剣に考えているような王子にシルヴィアの家名を告げる。


「たしか、シルヴィア・ルイーズです」


「・・・シルヴィア・ルイーズ・・・」


彼女の家名を聞いた王子が、その言葉を口に転がすように呟く。その様子に室内のみんなの視線が集まっている。


「っ!?そうだ、確かルイーズは父上の話にあった女の一人だったはず!」


「殿下、その話はここでは・・・」


王子の言葉を制するように一人の騎士が王子を止めようとしている。


「うるさい!俺に命令するな!この者には借りがあるし、引き込みたいと思っているからな、ここで恩を売っておくだけだ」


いっそ清々しいまでに、自分の考えを吐露とろしてくれる王子を見ていると、護衛の苦労が察せられる。


(あれだけ僕の事を憎んでいたようだったけど、急に態度が変わると気持ち悪いな。貴族ってこんなものなのか?)


 殺したいと思っている相手でも、使えると分かれば掌を返して対応してくる王子は、見ていると滑稽で笑えてくる。僕の力を見て態度を改めたんだとしたら、少し溜飲が下がる思いだ。


(ん?もしかしてこれが見返すってことなのか?)


 僕の目的の復讐をなそうとする時、今もって決めていないのは、殺すことで復讐とするのか、見返すことで復讐とするのかだ。王子は未だ経験していなかった、見返すということを僕に体験させてくれたようだった。


「いいか、ルイーズという者はかつて父上が遊んだ女の一人で、はらませたとも聞いている」


「何ですって!!シルヴィアさんが!?」


「ま、まさか・・・」


「・・・?孕ませるってどういうことです?」


室内のみんなはざわざわとしているが、言葉の意味が分からなかった僕はその言葉の意味を聞いた。


「・・・つまり、子供を作ったってことだ!」


「・・・えっ!?ということは、シルヴィアは王女様?」


「違う!父上は幾ばくかの金銭を握らせて、認知もしておらぬ。身分としては平民だ」


しかし、そう聞いてもシルヴィアを攫った目的は分からない。


「殿下、それでは革命派閥の目的は・・・」


「あぁ、血筋だろうな。まったく、自由だ解放だと叫んでおったくせに・・・」


どうやら、学園長も王子も奴らの目的の見当がついているようだ。


「つまりはどういうことですか?」


「・・・王族の血筋の中に稀に【経営】の才能をもって生まれる者がいる」


王子は苦虫を噛み潰したような表情で、奴らの目的を推察し出した。


「知っているだろうが、【経営】の才能は【統治者】の上位才能へと至る。もちろん条件はあるだろうが、その才能を持つ者こそ王としての器だと言われる。つまり、奴らは王族の血筋を引くその女に子供を生ませて【経営】の才能持ちの子供を作ること。そして、その者を王とし、この国を動かす気だ」


「なんですかそれは!それではシルヴィアさんはまるで・・・」


 王子の話を聞いて憤慨するメグだが、その言葉の先は言いたくないようで口をつぐんだ。その言葉の先を想像するなら、子供を生む為だけの道具のようだと感じた。


「では、シルヴィアは殺される事はないと考えていいですか?」


「・・・殺されはしないだろうが、その者が反抗的な態度を取れないように、意思を殺すことはあるやも知れん」


「意思を?」


「つまり、薬か何かで廃人のようにするということだ」


(なんだそれは!なぜそんな事をされなければならないんだ!)


 とにかく、早く救出しなければシルヴィアが危ない。そんな中にフリージア様が疲れたような表情で顔を出した。


「学園長、生徒のみなさんの怪我は治療し終わりました。あれ?ダリア君、どうしましたか?」


最悪の事も考えて、フリージア様に事の次第と、薬で廃人にされてしまった場合の治癒方法を聞いた。


「そんな!シルヴィアさんが・・・。薬での影響ですか・・・残念ながら精神を魔法では治療出来ません。もしその様な状況になってしまった場合は、エリクサーが必要でしょう」


それなら、僕が住んでいた森で材料が揃うから、最悪でも何とか出来そうだ。


「エリクサーなら、なんとかなりそうですね」


「・・・ダリア君。あなたの力があれば材料は大丈夫でしょうが、問題はその製作が【錬金師】の才能がないと出来ないことです」


「製作できる人物はこの国にいないのですか?」


「居ないことはないのですが、既に貴族からの依頼で予約が埋まっていると思います。平民の為に動いてくれるかは・・・」


たしか【錬金師】は上級才能だ。そう考えれは、希少な才能の人物が暇しているわけないのだろう。僕が困っていると、メグが助け船を出してくれた。


「では、もしシルヴィアさんがそんな状況になったら、我が公国で作りましょう」


「・・・いいの?メグ?」


「もちろん!彼女は友人ですから」


「ありがとう!もしもの時にはお願いするね!」


それを確認して、直ぐに動き出そうとしたのだが、メグが呼び止めた。


「待ってダリア!シルヴィアさんの連れ去られた先に心当たりは?」


「情報がありそうな所に行って聞いてみるよ。最悪無くても、しらみ潰しに探すよ」


その時は、時間は掛かるかもしれないが、僕の【才能】と空間認識の併用で王国中を探し回るしかない。


「わ、私も力になれるかも知れません!連れていってくれませんか?」


「えっ!?」


メグの申し出に驚いたのは、友人とは言え王女である彼女がそんな危険な事を言ってきたからだ。ただ、相手は武力行使も辞さないので、メグを危険に晒してしまう。


「殿下、お考え直しを!あまり此度の事に関わるのは、他国への内政干渉となってしまいます!」


 メグの護衛の一人が、その行動の問題点を指摘したことで、メグは何も言えなくなってしまったようだ。確かに今回の事は、シルヴィアが攫われたとは言え内乱だ。それに他国の王女であるメグがあまり首を突っ込んでしまうのは良くないのだろう。


「ありがとうメグ。でも大丈夫!ちゃんとシルヴィアを連れ戻してくるよ!」


「・・・ダリア、気を付けて!」


「待て!もし、改革派閥の首領を見つけたら、出来れば生け捕りが望ましい。無理な場合は仕方ないが、褒美は言い値で払うぞ!」


学園長室を出ようとする僕に王子が投げ掛ける。


「シルヴィアのついでにもし見つけたら、掃除しておきます」


そう言い残し、制服から私服に着替えると、僕は学園を後にした。




 【速度】の才能を最大限使い、数秒後には『風の調』に到着した。


「ダリア様、お待ちしておりました。どうぞこちらです」


店員のお姉さんが出迎えてくれて、いつもの部屋に通された。ツヴァイさんの事を聞くと、彼女は今は横になって休んでいるらしい。



「この度は部下の不始末、並びに救助頂きありがとうございます」


ローガンさんは開口一番頭を下げながら謝罪の言葉を口にした。


「それはもう何度も聞きましたので、大丈夫です。よれより・・・」


「ええ、シルヴィアさんの件ですね。攫った理由は分かりませんが、どうやらフリューゲン辺境伯領方面へ向かったらしいです」


「っ!?なぜそんな方へ?」


「先日のフリューゲン領の報告は覚えておりますか?」


「はい」


確か、領主の館に没落貴族が出入りしているという話だったはずだが、まさか・・・


「これはまだ推測ですが、もしかするとフリューゲン領の領主は改革派閥と協力関係にあるのかもしれません」


その言葉を聞いて、もしそれが本当なら僕は自分の親を許さないだろう。友人であるシルヴィアを非道な目的で誘拐したのだ、その報いは死でもって償わせてやる。


(元々復讐する予定に、理由が1つ増えただけだ。少し早いけど、目的を成し遂げる時が来たかな・・・)


 復讐とは殺すことか、見返すことかの答えをまだ出していなかったが、もし親が革命派閥と関わりがあれば、下手をすると反乱の幇助ほうじょで処刑されるかもしれない。こうなってしまえば、僕の復讐を果たすために、他人に殺される位なら僕が殺すと決めた。


「分かりました。情報ありがとうございます」


「それから、国から革命派閥へ対する討伐命令が出ます。騎士団が中心ですが、冒険者協会へも国からの依頼という形で、金ランク以上を対象に全国の反乱を鎮圧せよと」


「そんなに動きが早いんですか?」


国のやることなので、もっと色々と議論してからかと思ったが、反乱から数時間も経たない内にそんな命令を出すとは思わなかった。


「遅いよりは早い方が良いでしょう。それに今回は反乱ですからね・・・」


「なるほど、分かりました。今回は幾らですか?」


「お代は結構です。今回はこちらの落ち度でもありますので。どうかお気を付けて」


「ありがとうございます。ではこれで!」


ローガンさんにお礼を言って部屋を出ると、そこにはお姉さんが立ったまま話が終わるのを待っていたようだ。


「ダリア様、妹の事はありがとうございます。本当であれば、サポートとして同行したいのですが、おそらく足手まといになりますので、私は妹と共にあなたの武運をここで祈っております!」


「ありがとうございます。ツヴァイさんには今回の事は気にしないでと伝えてください。では、行ってきます!」


今回のことであまりにも謝罪を受けるので、ツヴァイさんが気に病むかもしれないと思ってそう伝えた。


「温かいお言葉に感謝します!行ってらっしゃいませ!」


深く頭を下げるお姉さんが見送る中、シルヴィアの捜索へと向かった。

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