第146話 戦争介入 24
ツヴァイさんからある程度離れ、〈
(良かった、上手くいった!)
彼女が僕に怯えているという状況を利用し、言葉巧みに僕のありもしない能力を信じ込ませることによって、シャーロットの妹の場所を聞くことが出来た。妹さんが生きているかどうかは正直賭けだった。生きていて欲しいという願望を込めた言葉だったが、どうやら本当に生かされているようだった。
彼女の心理状態が通常だったら、これほど上手くはいかなかっただろう。僕の言葉には確定的な情報は何一つ言っていないのだ。どうとでも取れるような曖昧な表現をしていただけだが、彼女は本当に自分の心を読み取られていると思い、自分の中で僕の曖昧な言葉を勝手に色付けしていき、真実を知られてしまっていると焦ったのだろう。
(最後に自分達は仕事だったと、あんなに必死にならなくても良かったのに・・・)
彼女達が関わっているからといって、直ぐに殺そうと思っているわけではない。どう考えても宰相からの依頼なわけで、仕事を遂行していただけといえばその通りだ。自分自身も冒険者として依頼を達成しようと頑張っていたので、その気持ちは分かる。とはいえ・・・
(仕事といっても、明確に敵対してきたら考えないといけないけど、さすがに僕と敵対しようとは考えていなさそうだったしな・・・)
僕の去り際の彼女の表情を思い出すと、その必死な顔からとても敵対しようなどと考えているとは思えなかった。
「さて、みんなに王都にある孤児院の場所を聞いて、妹さんを
リビングの扉を開けると、みんな心配そうな面持ちで僕のことを一斉に見つめてきた。シャーロットは既に顔を隠せるようなフード付きのコートを着込んでおり、いつでも出発できる準備が整っていた。
「どうですかダリア?情報は得られましたか?」
みんなの元へ歩み寄っていく僕に向かって、メグがその成果を聞いてきた。
「大丈夫!妹さんは生きているらしいよ。ただ、ご両親についてはちょっと厳しいかもしれない・・・」
ツヴァイさんから殺されたと聞いたわけではないが、あの話の内容を考えると既に殺されているだろうと考えた。
「・・・両親については、私も覚悟していましたから。でも、妹が生きているなら・・・助けたいです」
シャーロットは小さな声ながらも、力強く僕を見つめてそう言ってきた。そんな彼女の妹に対する強い愛情に、自分の父親を重ねてしまう。
(きっと父さんも、こんな感じだったのかな・・・)
「妹さんの居る場所だけど・・・フリージア、王都に孤児院はいくつある?」
「孤児院ですか?平民街と上級貴族街の、計2つです」
「い、妹は孤児院に居るのですか?」
「どうやらそのようだよ。ただ、どちらの孤児院かは分からない・・・」
僕はツヴァイさんから聞き出した『シャーロットの妹は孤児院に居る』という情報をみんなに共有した。
「それでも、今まで何も手掛かりが無かった状況から考えれば、場所を二ヶ所に絞れたんですから凄いです!」
シルヴィアがこの情報に手を叩きながら喜んだ。
「シャーロットはどちらだと思う?」
「・・・上級貴族街の方かと思いますが、噂では平民街の孤児院は宰相の息の掛かった商会が経営しているという話を聞いたことがあります」
「孤児院を宰相が裏で経営しているってこと?」
シャーロットの話に、そんなことしそうな印象が無かったので疑問に思ってしまった。
「ただの噂で、デタラメかも知れませんが、両親を魔獣に襲われたり、戦争で両親を亡くした身寄りのない子供の人身売買をしていると黒い噂があります」
「えっ?本当に!?」
それが本当なら許せないことだが、シャーロットが言うには噂の域を出ない話ということなので、確証のない話なのだろう。
「私も聞いたことはあります。確かに年に2人か3人は、孤児院を脱走して消えてしまう事があるらしいのですが、その後冒険者として普通に生活しているのが分かったりとかで、真相は分かっていないのです」
フリージアの話でも、本当かどうかは分からないが、宰相の息が掛かっているのならその孤児院に入れた方が色々と都合が良いのは間違いないだろう。
「とりあえず、平民街の孤児院から行ってみよう。違った場合はすぐに移動すれば良い。孤児院は何処にあるの?」
孤児院の場所を知らない僕は、フリージアの方を見つめて場所を確認した。
「平民街の教会はご存じですか?」
「知ってるよ」
「その裏手にある三階建ての大きな建物が孤児院です」
「えっ?あんな場所にあったんだ。よし、じゃあ直接孤児院の目の前に移動しよう。シャーロット!」
彼女を呼ぶと、おずおずと僕に近づいて来て、深々と頭を下げた。
「重ね重ねご迷惑を・・・よろしくお願いします」
「任せておいて!」
シャーロットを従えて平民街の孤児院に〈
暗いせいで正確な外観は分からないが、3階建ての孤児院は大きく立派で、平民街にある建物と比べると少し浮いているような印象だった。今までは大通りから教会が見えるだけで、裏手の孤児院の存在にまで気がつくことはなかった。こうして見ると、これだけ大きな建物に気づかなかったことに驚きだった。
「ダリア様、どこから探しましょう?」
孤児院を見ながらそんな感想を抱いていると、横からシャーロットが僕の裾を少し引っ張りながら聞いてきた。この孤児院には子供と思われる存在が200人ほどいるので、一部屋づつしらみ潰しに探すにしても相当時間を要してしまう。この孤児院は構造上、地下牢などの不審な部屋は無く、普通の孤児院だということは分かっている。だからこそ、場所を特定するのが困難なのだ。
「シャーロット、妹さんを単に攫ってしまうと宰相に不審がられる可能性が高いから、君と同じ方法でいくよ」
「対外的には死んだように見せかけるのですね?」
「宰相に生きているということが分かれば、安心して暮らせないでしょ?」
「ご配慮に感謝します」
僕の考えに、彼女はまた大きく頭を下げて感謝した。
「今から孤児院に居る全ての人を外に出すから、シャーロットは出てくる人達から妹さんを見つけてね」
「そ、そんなこと、どうやって?」
彼女の疑問に、僕は笑顔を返して地面を指差す。
「地震を起こすんだよ。注意してね。〈
第五位階土魔法を、威力を絞って発動する。あまり魔力を込めすぎると、建物事態が崩壊するどころか、地割れを起こし、王都そのものも甚大な被害が出てしまうので、威力の調節は慎重に行った。
『ゴゴゴゴゴゴ・・・』
「きゃっ!!」
結構な揺れに驚いてしまったのか、シャーロットが叫んでしまった。一応彼女に向かって人差し指を口に当てて、静かにという合図を送っておいたが、彼女の叫びを他に聞いた者は居ないだろう。何故なら、彼女とは比べものにならない程の大きな悲鳴が、孤児院全体から響き渡っているのだから。
『きゃー!!地震だー!』
『怖いよー!誰か助けてー!』
『えーん!えーん!!』
あまりの阿鼻叫喚ぶりに悪いことをしてしまったと、心の中で子供達に謝っておく。少しすると、孤児院の職員らしき声が聞こえてきた。
『皆さん落ち着いて!!訓練を思い出して、速やかに庭に出なさい!』
『走らず!落ち着いて!』
『そこっ!前の人を押さない!!』
少しすると正面玄関が開かれ、一斉に子供達が外に出てきた。小さい子は3歳くらいから、大きい子では僕と同じくらいの背丈の子供もいた。外に子供を先導した職員が、光魔法の〈
「どう?妹はいた?」
茂みにしゃがみこんで、出てくる子供達の様子をじっと窺っているシャーロットに声をかけた。
「・・・まだ出てきていないようです・・・」
彼女は出入り口から視線を外すこと無く僕の質問に返答した。
「建物にはまだ子供がいるようだから、良く見ててね」
「はい。ありがとうございます」
そうしてしばらく様子を探っていると、最後の方になって金髪の可愛らしい幼女が、職員に背中を押されながら出てきた。その風貌はなんとなくシャーロットに似ているので、もしやと思い彼女を見ると、ほとんど同時くらいに僕の裾を引っ張り、指を指しながら伝えてきた。
「あっ、あの子です!あの短い金髪の女の子です!」
「分かった。シャーロットはここに。今から連れてくるよ」
そう言い残し、第四位階光魔法〈
(友達がいないのかな?そういえば、他の子供と比べると一人だけ身なりが良いな・・・)
貴族の子供であることが、ここでは仲間に入り難い状況になってしまっているようだった。いじめられているというよりは、関り合いになりたくないと言う感じで、みんな遠目に見ているだけだった。
(ちょうど良い!今だ!)
〈
崩れ落ちてくる壁に周りの子供達はいち早く気づき声を上げた。
「キャー!危ない!!」
「壁がっ!!」
その声に妹さんは頭上を見上げるが、声を上げることも出来ずただ目を見開いて何も出来ずに立ちすくんでいた。
『ドゴーン!!!』
「・・・・・・」
「きゃー!下敷きになっちゃったー!!」
「し、死んじゃったの?」
壁が落ちた轟音の後、一瞬静寂になり、次いで悲鳴のように子供達が騒ぎだした。
「みなさん落ち着いて!壁の下には誰がいたのですか?」
職員の一人が壁が落ちてきた場所へ駆け寄り、近くにいた子供達に聞いていた。
「えっと・・・あの、新しく来た貴族の子!」
「金髪のあの子!」
「ま、まさか、アシュリーさん!?」
子供たちの返答に、蒼白な顔をしながら壁を押し上げようとするが、かなりの重量でびくともしていない。
「ヒッ!!」
すると、落ちてきた壁と地面の隙間から鮮血が滲み出てきた。その血を見た職員が驚きのあまりその場から飛び退いていた。
「ど、どうしましょう・・・宰相に何て報告したら・・・」
職員の言葉から、この孤児院が宰相の息の掛かっている施設だということは間違いないだろう。シャーロットの妹についても宰相から何か言われていたのかもしれない。
(不幸な事故だと思って諦めてください)
顔色の悪い職員さんに心の中で謝罪してその場を後にした。当然下敷きになっているのは、冒険者の時に収納していた他人の死体だ。さすがに、子供と大人という違いはあるが、これだけ大きな壁の下敷きになっていれば損壊が激しいだろうし、すぐにバレる事が無いように多少の細工はしてある。
〈
「ふえ~ん!!お姉さま!!会いだがっだの~!!!」
「遅くなってゴメンね・・・寂しかったよね・・・」
「お父様とお母様が~・・・」
「うんうん、辛かったよね・・・」
シャーロットは優しく妹の頭を撫でながら、必死にしがみついて泣く妹をあやしていた。壁が落ちた騒動で辺りは騒がしく、彼女達の声が聞こえることは無いと思うが、それでもこのままでは不味いのでシャーロットに一声掛ける。
「シャーロット、見つかると不味いからすぐに移動するよ?」
「はい、すみません。ありがとうございました」
「・・・お姉ちゃん誰なの?」
妹さんは警戒した表情で僕が誰なのかを聞いてくるが、しっかり女の子と間違えられている。
(はぁ、こんな子供にも間違えられるのか・・・)
盛大なため息を吐きながら、みんなの待つ屋敷へと〈
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