第127話 戦争介入 5
『コンコン!・・・コンコン!』
(・・・ん?何だ?)
扉がノックされる音で、惰眠を貪っていた身体は次第に覚醒した。窓から差し込んでいた陽の光は既に無く、辺りは夜の
『コンコン!』
返答をしなかったので、再度扉をノックされてしまったようだ。
「はいは~い!今出ますよ!」
扉を開けると、そこには執事のサジルさんが居た。
「お休みのところ申し訳ありませんダリア殿。夕食の準備が整いましたので、いかがでしょうか?」
「ありがとうございます。いただきます」
僕はまだ覚醒しきっていない頭で、目を擦りながら夕食を食べる為に廊下に出ようとした。すると、慌ててサジルさんが僕を呼び止めた。
「あっ!ダリア殿!その、引き締まった良い肉体とは思いますが、お着替えを済まされてからの方がよろしいかと・・・」
そう言われ自分の服装を見てみると、上半身は裸だった。
(・・・あっ!寝る時に服にシワが付かないようにと脱いだんだった)
「すみません、すぐ着替えてきますね」
部屋に戻り服を着ようとしたところで手が止まる。廊下で待機しているサジルさんに扉を開けて、顔だけ出しながら確認する。
「ところで、夕食ってパーティーとかじゃありませんよね?」
「ええ、ダリア殿のご友人とマーガレット殿下だけの夕食でございます」
「良かった。ありがとうございます」
女王も居る席だったらきちんと正装していく必要があっただろうが、僕達だけと聞いて普通の服に着替えることにした。
サジルさんに案内された部屋では、既にみんな円卓のテーブルに腰かけていた。
「遅かったですけど、大丈夫ですか?」
声を掛けてきたのはフリージアだ。その表情は僕の体調を心配しているようだった。
「大丈夫。ちょっと寝てたから、寝ぼけてたんだよ」
さすがに上半身裸で廊下に出てしまっていた何て事は言えないので、一応遅れた原因を伝えた。
「やっぱり、いくらダリア君でも疲れてるよね。私達の為に色々頑張ってくれたんだから・・・ありがとうダリア君!」
シルヴィアも僕の体調を心配して気遣ってくれた。
「今日は我が国自慢の料理を用意してもらいましたので、一杯食べて鋭気を養ってください」
メグも心配そうに僕を見つめながら話しかけてきた。
「みんなありがとう。【才能】を使えば疲れなんて一瞬なんだけど、たまには【才能】を使わずに休んでみようと思っただけだから」
僕がそう言いながら空いている席に着くと、直ぐに料理が運ばれてきた。コース料理のようで、目の前には良い香りを放つスープが置かれた。グラスにはほんのり
「それでは皆さんの新たな生活に幸運があらんことを!乾杯っ!」
「「「乾杯っ!!」」」
メグの
「ん!美味しい!なんだろう、食べたことのない味だ!」
「ありがとうございます。こちらはこの湖で捕れた魚を出汁に使っております。細かな材料や調味料は料理長の秘伝ですので、私も存じ上げませんが味は保証いたします。存分に味わってください」
料理を運んでくれたメイドさんが、このスープの説明をしてくれた。ただ、秘密のレシピなのか、残念ながら分かったのは出汁が何かと言うことだけだった。それからどんどん料理が運ばれてきた。前菜に魚料理、口直しがあって、メインの肉料理だ。
コースなので、最初に運ばれてくる順番が違ったと思ったのだが、メイドさん曰く、最初のスープの味に舌をなれさせることで、次の前菜をより美味しく感じさせる為なのだということだった。料理の道は奥が深すぎてよく分からないが、どれも絶品だったので、その後は考えるより味わおうと考えた。
メインの肉料理は特に絶品で、肉にかかった緑のソースが濃厚で美味しかった。聞けば、魚の肝を使ったソースなのだという。味からは全く想像できないソースの正体に驚いてしまった。
食事も一通り済み、最後のデザートと紅茶が運ばれて来てから、メグはみんなを見渡して話し始めた。
「少しお母様と話をしてきました。ダリア、フリージアさん、シャーロットさん、シルヴィアさんについては公国への亡命者ではありますが、客人待遇となるかと思います」
「それは、公国の国民としては扱わず、王国の国民として招くということですか?」
シャーロットがメグの言葉の真意を確認するように聞いた。
「そうなりますね。正直なところで言えば、ダリアの力をどう扱えば良いかお母様は分からない、といったところです」
「・・・確かに、自国民とすれば今回の王国との戦争に駆り出すべきという声が上がるでしょう。しかしそれで勝利を納めても意味がないですわね。逆に駆り出さずに敗北をした場合は・・・だからこその処置というわけですか」
すべて分かったという風にシャーロットは自らの考えを口にした。僕を利用するもしないも色々と問題があるということだ。では、迷惑を掛けないように他の国へ行った方が良いかと言えばそうでもないだろう。この様な話は何処に行っても付いて回ってきてしまうのだから。
「不安定な身分に皆を置くのは心苦しいのですが、ご理解してください」
「マーガレット殿下が謝る必要はありません。元より私達は国を追われた身です。このように食事も生きる場所も与えてくださったことに感謝こそすれ、文句を言う道理などございません」
フリージアがメグの言葉に、気にしていないと笑顔で伝えた。そんな中、僕は気になっていたことをみんなに聞いてみた。
「シルヴィアやフリージア、シャーロットは結果的にこうやって僕が公国に連れてきてしまったようなものだけど、良かったのかな?」
「良かったのか、と言うのは?」
僕の言葉に若干厳しめな視線をフリージアが放ってきた。
「もしかしたら他に当てがあったりとかしなかったのかなって・・・。僕の行動にみんなを巻き込んだんじゃないかと思って・・・」
気にしていたことを思いきって聞いてみた。すると、みんなは頬を膨らませるような表情で反論してきた。
「ダリア君!私はあなたに命を救われています。そして私はある覚悟を持ってあなたと共に行動しようと決めたのです!その決意を疑うようなことは言わないでください!」
「私もです!ダリア様に救われ、こうして今美味しい食事さえ食べられております。ダリア様の側に居ることが私の望みです!」
「わ、私もだよ!王国を出て、こうしてダリア君の側に居るのは私の意思!巻き込まれたんじゃない、自分で飛び込んだんだよ!」
フリージア、シャーロット、シルヴィアが口々に自分達の想いを僕に伝えてくれた。シャーロットだけは何だか目を見開いてきて怖かったが、みんなの想いを聞くことが出来て良かった。
「ありがとうみんな!これから戦争があろうと、どんなことがあろうと、みんなの事は絶対に守るから!」
そう言うと、先程までの頬が膨れていた表情から、一変して笑顔になってくれた。
「ふふふ、ダリアの情熱的な言葉に胸を打たれているところ悪いですけど、これからの事です」
何故だろう、笑っているのにメグの顔は笑顔に見えない。自分だけ仲間外れにされたように感じてしまったのだろうか。
「公国はそう言った事情があって、あまりこの首都の住人にダリアを見られるのはよろしくありません。そこで、ここから少し離れた場所に、王族専用の保養地があります。そこで静養しながら今後の方針について考えましょう」
「マーガレット殿下、一つ聞いてもよろしいですか?」
「何でしょうか?フリージアさん?」
「公国は王国との戦争の落とし所を、何処に考えているのですか?」
「・・・私も全て知っている訳ではありませんが・・・」
そう前置きして、メグは500年前に起こった『神人』との争いからなる、公国と王国の出来事について語ってくれた。話を聞いていて、師匠が何を思って『神人』になったのか、何があって多くの国々を滅ぼすような行動をとったのかは分からない。しかし、師匠の行動の結果が、公国と王国の争いの火種になってしまったことは間違いなかった。
「そうですか。500年前にそんな事が・・・王国ではこの話はまったく知られていません。王族の者であればもしかしたら知っている者も居るかもしれませんが、王国にとっての後ろめたい話を語り継いでいるかは疑問ですね」
「公国とて、人間にとって500年という時の流れはあまりに長い年月だということも、当時の為政者など誰一人居ないということも理解しています。それでもやはり、公国が目に見える形で王国に勝利するか、争いの結果王国が疲弊していることを実感するような事がなければ、500年前を知る公国の民の溜飲は下がらないのでしょう」
「それが今まで続いていた、王国と公国の争いの根底にあるものだったのですね」
「争う理由はそれだけではないでしょうが、それが全ての始まりなのです」
メグは含みを持ったような言い方だったが、それ以上のことは話す気はないようだった。
「どうすれば戦争をしないですむのでしょうか?」
フリージアが真剣な眼差しでメグに問いかけた。
「難しいですね。公国としては王国が当時の事を謝罪して賠償等をすれば溜飲が下がるでしょうが、当の王国がそんなことをするとは思えません。王国も我が国の技術力を欲していますから、この戦争は願ったり叶ったりでしょう」
難しい話だ。両国とも戦争をするだけの理由があるということなのだろう。公国は500年前の王国の仕打ちの報復。王国は自国には無い、公国の進んだ技術を取り込んで更なる発展を遂げたいというところか。では、帝国にはどんな理由があるのだろう。
「私としてはどこの国であっても争いをして欲しくないところなのですが、その根底にある問題を解決しないことには、戦争は無くならないのでしょうね・・・」
フリージアは意味ありげな視線を僕に向けてくる。そんな目をされても、僕に各国の思惑の根底にある問題を解決出来るような力なんて無いと思うのだが。若干師匠のしでかしていることなので、お世話になった師匠の不始末を僕が綺麗にしたいとも思うが、そんな簡単に戦争の原因を解決出来るだけの力が自分にあるとは思えない。そんなことを思っていたのに・・・。
「ダリア様なら何とか出来るのではないですか?」
「わ、私もダリア君ならなんとでもしてしまいそう・・・」
シャーロットとシルヴィアは、信頼しきったような表情で僕を見つめてきた。
「そりゃ、出来るものなら戦争なんて止めたいとは思うけど、僕にそんな各国の問題を解決するような力なんて無いよ?」
「ダリア、あなたは自分の能力と影響力を過小評価し過ぎです!ダリアにその想いがあるのなら、私は全力であなたの力になります!」
「私も同じ思いですよ、ダリア君!」
「私もです、ダリア様!」
「わ、私も皆みたいに何か出来る力は無いかもしれないけど、ダリア君の為に出来ることはなんでもしたい!」
みんなにそんな期待に満ちた目をされると、出来ないとは言い難い。自分としてものんびり暮らせないし、みんなも気掛かりだろう。それに、師匠の事もある。
「みんなの期待に沿えるか分からないけど、僕も戦争は嫌だと思っている。でも、どうすれば良いかは分からないよ?」
「大丈夫!私達に任せて下さい!一緒に平和な世界を目指しましょう!」
フリージアは輝く笑顔を僕に向けてきた。
(さっきの意味ありげな視線はこういうことだったのか・・・)
王国で聖女と言われる彼女は争いを好まず、子供ながらに万人が平和に幸せに暮らせる事に尽力していた。だからこそ、今回の戦争についても心を痛めていたのだろう。自分の力ではどうしようもないと思っていたのかもしれないが、僕の力を目の当たりにして自分達で戦争を止めようという考えになったのかもしれない。
「では、まず必要なのは情報収集ですわね」
「それなら、公国で収集している情報を私が提供しましょう」
「よろしいのですか?マーガレット殿下!?」
「任せて下さい!私達で平和を掴みましょう!」
いつのまにかドンドンと話は進んでいく。まるで最初からこんな話の流れになると決まっていたかのように。その話の内容を聞いていると、まるで僕達は平和を実現する為の神の使徒のようだった。
(まぁ、かつての『神人』のように、人々から恐れられる存在になるよりも、戦争を止めた救いの使徒になる方が良いか・・・)
話し合うみんなの顔を見ながら思ったのは、もしかしてみんなは僕の居場所を作るためにそうしようと考えたのかもしれないと感じた。
(・・・みんな、ありがとう!)
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